噛ませ犬のクラフトワーク   作:刺身798円

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決戦

「なんでテメーは来ちまったんだッッッ!!!預けた赤ん坊を、一体どうするつもりだッッッ!!!」

「……それに関しては、すでにトリッシュ姉様にホテルの部屋の鍵を同梱して事情を説明した手紙を郵送してあるわ。栄養も与えてあるし、私が帰らなくても手紙が届けば姉様が対応してくれるはずよ。」

 

サーレーが声を張り上げ、シーラ・Eが思い詰めた顔で言葉を返した。

 

「シーラ・E、帰るんだ。」

 

ジョルノがシーラ・Eに告げた。時刻は今現在午前十一時、ここは彼らが一時的な本拠として移動したローマのホテルの一室。

ジョルノの命で念のためにすでに周辺住民の避難は済ませてある。あと三十分もすれば彼らが戦いに出立する予定の時刻だった。

 

「嫌ですッッッ!!!私も、戦いますッッッ!!!」

「シーラ・E、聞き分けろ。」

 

ミスタもジョルノの意見に頷いた。

 

「お役に立てなくても、弾除けくらいにはなれます!!!どうか、どうか私がついて行くことをお許しくださいッッッ!!!」

「……なんのために?シーラ・E、君はなんのために僕たちについてくるんだい?」

「ジョルノ様に受けた恩を返すためですッッッ!!!」

「やはりシーラ・E、君はわかっていない。恩が無ければ戦えないのなら、君は来るべきではないんだ。」

「私にとってッッッ!!!私にとって姉様は全てだったッッッ!!!」

 

シーラ・Eは、悲痛な叫びを上げた。

ジョルノはその様子を優しげな眼差しで見ていた。

 

「だからだよ、シィラ。君はその愛を全て姉に捧げ、他の存在が君の大切なものの序列に入ることはない。君が僕に向ける感情は姉の復讐の恩義で、君がトリッシュに向ける感情は姉の憧憬だ。君がそれをほんの一部でもイタリアの社会に向けていれば、僕はきっと君を全面的に信頼できる部下として戦場に連れて行っていただろうね。」

「姉様を忘れろと!!!」

「そうは言っていない。まあ結局は、君が成長しきるには時間が足りなかったってことなんだろうね。」

 

シィラ・カペッツートには理解できない。

結局は彼女の世界の中心は亡き姉が占めていて、他の何かが彼女の中に入る余地がない。それは真面目で真っ当な感性をした彼女に、復讐殺人を決断させるほどに強い感情だった。

 

何もかもを犠牲にしてでも目的を達成しようとする強靭な漆黒の殺意。ここから先の戦場で必要なものはそれであり、それを持たないものを連れて行っても無駄に命を落とすだけである。ジョルノはそう判断している。まあ言ってしまえば、シーラ・Eは覚悟が全然足りていない。

 

ジョルノ・ジョバァーナは、すでに覚悟を済ませている。ディアボロを生かしておいても、おそらくはイタリアにろくな未来が訪れない。むしろパッショーネが以前よりも権勢を増した今の方が、その被害が拡大する可能性は高い。

暴君は、暗黒の歴史の象徴だ。ディアボロを生かせば、ヨーロッパ社会に暗黒が再来する可能性が存在するのである。

 

ジョルノが暗殺チームと新たな二人の配下に出した指示は、今回の戦闘における至上目的はディアボロの抹殺であり、そのために必要であればジョルノやミスタが命を落とすことも厭わないで戦えという過酷なものであった。ジョルノの黄金の精神はすでに、トリッシュ・ウナやパンナコッタ・フーゴを筆頭に部下たちに受け継がれている。

サーレーとズッケェロは迷い、悩みながらも結果としてその指示に首を縦に振った。ウェザーとアナスイにもすでに言い含めてある。

 

シィラ・カペッツートが少しでもイタリアに愛情があるのなら、その指示に首を縦に振っただろう。シィラ・カペッツートに、その決断は不可能だ。シィラが漆黒の殺意を発揮できるのは、姉の命に対してだけだった。シィラはイタリアやパッショーネのために、漆黒の殺意を発揮することはない。シィラは戦場のギリギリの局面で、たとえジョルノを殺すことになったとしても敵を殺害しようという凶悪な意志を持てない。

 

「さて、行くぞ。」

 

ミスタが号令をかけた。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

「久し振りね、フーゴ。」

「トリッシュ!パッショーネに一体何が起きているんだ?」

 

フーゴはトリッシュに連絡を取り、ミラノの街の一角で待ち合わせをしていた。

パッショーネ各支部は襲撃され、状況の確認をしようにもジョルノの携帯に電話が通じないのである。

他の幹部連にもほとんど連絡が入っておらず、情報は錯綜していた。唯一ジョルノから連絡のあった腹心の一人、ジャンルカ・ペリーコロはジョルノの命に従い黙して語らない。

 

「……私にもわからない。ジョルノからの連絡は?」

「僕には何もきていない。」

「私にもきていないわ。ならやはり、私たちは今まで通り支部の防衛に徹するべきだわ。ジョルノから連絡が来ないということは、私たちはジョルノの戦いに関わるべきではないと、ジョルノがそう判断したってことよ。」

 

パッショーネの各支部は襲撃され、今現在はそれを退けて小康状態に入ったところだった。

フーゴとトリッシュは、ミラノに在住していたためにパッショーネミラノ支部の防衛にまわっていた。

幸いにもパッショーネ側に死人は出ていないが、病院送りにされた人間はそれなりの数に上っている。ドナテロ・ヴェルサスもその中の一人だった。敵は物の数ではない弱兵がその大半を占めていたが、ごく稀に異常とも言えるほどに強力なスタンド使いが混じっていたのである。

ミラノ支部を襲撃した強力なスタンド使いは自在に雲を操り、フーゴのパープルヘイズウィルスは雲内を流れる電流によってそのことごとくが死滅して、効果を発揮できなかった。その男が生み出した雲に覆われた人間は、その全員が感電や凍傷で戦闘不能にされていた。

 

「……君は不安ではないのか?イタリアに、パッショーネに何らかの異変が起こっているッッッ!!!」

「不安よ。でもわけもわからない状態で闇雲に行動を起こしても、事態が好転するとは思えない。」

「……君はボスを信頼していると?」

「信頼ではないわ。覚悟よ。」

 

トリッシュはフーゴに向けて妖艶に微笑んだ。

 

「覚悟?」

「私はジョルノが戦ってくれなかったら、すでにあの時にあの男に殺されて死んでいた。私はジョルノの判断に従うし、いざとなったらジョルノの決断と心中しても構わないわ。」

「……結局は、ボスは社会におけるさまざまな問題をうまく対処できる能力があるから、イタリア裏社会の偉大なるボスとして君臨している。僕たちは彼を信じて目の前の問題に対処するほかはないってことか。」

「そういうこと。わかったのなら、久し振りに一緒にお茶でも飲みましょう。」

 

二人は、ミラノのカフェで待ち合わせていた。

トリッシュはテーブル席の椅子を引いて、腰掛けた。

 

「……君は大物だな。」

「待つと決めた以上、慌てたって事態は好転しないわ。まあ、ジョルノと一緒に戦えないのは悔しいけどね。」

 

トリッシュは優雅に椅子に腰掛けてコーヒーを飲んだ。

 

 

 

 

◼️◼️◼️

 

ディアボロのネアポリス図書館襲撃の当初の目的は、ジョルノとミスタの命を奪うことであった。

ディアボロは、暗殺チームを警戒している。

 

ディアボロは、ミスを犯した。簡単なミスだ。

ディアボロは、図書館でジョルノを守護する人間の頭数を数えてしまったのだ。

ミスタ、サーレー、ズッケェロ、、、そして自身の使えそうな配下の人数を数える。

そこでディアボロには、欲が出た。

 

ディアボロの最初の計画は、ミスタを消してパッショーネの戦力をもう少し削いでからジョルノに決闘を申し込むつもりであった。

しかし、ディアボロに予定外のことが起きる。

 

ミスタを消せず、配下のスタンド使いはムーロロに暗殺された。カンノーロ・ムーロロはディアボロが考えていたよりもずっと有能だった。

ディアボロは予定を変更し、脅迫して引き込んだ部下に予定よりも早く図書館襲撃を命令した。ディアボロの警戒する暗殺チームがいつイタリアに帰還するかわからない。ここが勝負所だと。

ディアボロはあの時、予定外の事態にパッショーネを諦めてジョルノの抹殺を決意していたのである。

 

図書館に予定を早めて攻め込んだディアボロが見たものは、図書館にたった三人しかいないジョルノ・ジョバァーナの部下たちであった。ジョルノは王としてイタリア社会に愛情を注ぎ、イタリア社会が害されることを嫌ったのである。そのための寡兵と戦力分散、避難誘導だった。

 

それは、王としてのディアボロとジョルノの決定的な差であった。

ジョルノは王として極力民が虐げられることを嫌い、ディアボロは王として民を犠牲にしてでも己が繁栄を望む。ジョルノにとって社会とは築き上げ慈しむものであり、ディアボロにとって社会とは己が繁栄の踏み台であった。

 

ディアボロのパッショーネ各地同時襲撃はパッショーネの戦力を各地に分散させるためであり、本来ならば速やかにネアポリスのジョルノを始末するためであった。ディアボロはたとえ敵の分散が成功したとしても、王であるジョルノの元にはそれなりの数の兵隊が存在すると、そう考えていたためのジャック・ショーンへの図書館襲撃命令だった。しかしジョルノは己が身の保身よりも、社会の犠牲を減らすことを望んだ。

 

それを見て欲の出たディアボロは、決闘に持ち込んでも確実に勝利可能だと、そう判断してしまった。敵方の最大の脅威であったレクイエムも、図書館で矢を見つけ出して破壊することができている。

ジョルノは見知らぬ他人を犠牲にした勝利を望まない、甘っちょろい王であると。ジョルノの精神の根本は、パッショーネの入団試練で見知らぬ老人の命を侮辱したポルポに憤り、トリッシュを助けたいと願ったあの時から大きく変わっていないのである。

 

他の局面は、時間稼ぎでも敗北でも構わない。ジョルノとミスタさえ打倒すれば、ディアボロの勝利だ。ディアボロにはその絶対の自信がある。

そしてジョルノがイタリアを守るべく行動していることを理解して、イタリアを質にとっての決闘を強行した。

 

ディアボロはパッショーネに未練があり、交渉を上手く運ぶために総力戦の体を取った。

ここはディアボロの交渉の弱みだった。ジョルノを追い詰めすぎたら、せっかくイタリアを守ろうとして犠牲を減らそうと行動しているジョルノがやけくそになって、本当にパッショーネの総力で抵抗しかねないと、ディアボロはそう判断したのである。そうなってしまえば、もうどうやってもパッショーネはディアボロの手に戻って来なくなる。総力戦の体をとれば、社会を害されることを嫌うジョルノは自分から信頼できる寡兵のみで戦いの場に赴くだろうと。

イタリアを守ろうとするジョルノにとっても、パッショーネを欲したディアボロにとっても、小規模での暗闘が都合が良かったための落とし所だった。ディアボロも、なるべくならば無傷の価値の高いパッショーネを欲している。

 

ディアボロは、戦場では想定外のことが起こるのは当たり前だということを理解していない。

ディアボロがこれまで行ってきたことはそのほとんどが一方的な処刑であり、真っ当な戦闘はリゾット・ネエロとの戦いとブチャラティチームとの死闘くらいだった。

リゾットとの戦いを思い起こせば、ディアボロにも戦場の理不尽さを理解できたはずなのであるが。暗殺チームは結局その全ての戦いがブチャラティ・チームの成長に貢献し、リゾットの行動はディアボロの致命的な敗因の一つとなった。

 

全てはディアボロの我が身可愛さによる過保護の澱と言えるのかもしれない。実はディアボロは虐殺経験は数多くても、拮抗した戦闘経験自体は少ないのである。ディアボロはレクイエムで幾度もの仮の死を経験しても、その性根は全く変わっていない。馬鹿は死んでも治らなかった。

 

それも当然と言えるのかもしれない。死を幾度も体験したのは、実はディアボロではなく別の人物だったのだから。

 

ウェザー・リポートとナルシソ・アナスイの存在は、当然ディアボロの想定外だ。

そして強迫観念に追い詰められたシーラ・Eが結局は戦場に姿を現してしまったことも、ディアボロにとっては大きな想定外だった。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

太陽がローマの天頂に登る頃、ジョルノ、ミスタ、サーレー、ウェザー、アナスイはコロッセオに姿を現した。

周辺の住民はジョルノの指示ですでに避難が済んでおり、日中にも関わらずあたりには異様なまでに静謐が漂っていた。

 

「始めろ、フランシス。」

「……。」

 

彼らがコロッセオの中心にたどり着くと同時に、周囲は分厚い雲に覆われていく。

円形の外周に立つディアボロの傍に侍る、フランシス・ローウェンの水色で波打ったスタンドの体表から雲が勢いよく噴出していった。

 

「やれ。」

「あいよ、ボス。」

 

ディアボロに寄り添うもう一人の男、その男はテンガロンハットを被り、煙草を咥え、カウボーイのような格好をしていた。

その男の名はホル・ホース。かつてディオ・ブランドーに仕えたナンバーワンよりもナンバーツーを信条とする男だった。

ホル・ホースは拳銃を構え、雲に巻かれて視界を失っていく一人の男の額に照準を合わせた。直後に周囲に乾いた炸裂音が鳴り響く。

 

「まずは一人始末っと。ボス、約束通りちゃんと俺を重用してくださいよ。」

「……お前が俺専用の暗殺チームとしてしっかりと仕事をこなしたのならば、それを評価しよう。」

 

ホル・ホースのスタンドは、銃弾のスタンドである。

そのスタンドは承太郎たちと戦った以前よりも口径が大きくなり、威力が増していた。

 

「ウェザー・リポート、ストロング・ウィンド!!!」

「な……!!!」

 

雲の中から男の声が辺りに響き、突風がコロッセオを覆った雲を吹き飛ばした。

ホル・ホースは始末したはずの男が頭から血を流しながらも平然と佇んでいることに、愕然とした。銃弾を頭部にくらったにしては、明らかに傷が浅い。

挙句にホル・ホースのスタンドである銃弾は宙に固定されて浮かんでおり、ホル・ホースはスタンドを固定されてしまっていて解除できない。

 

「いってえな、クソが。」

「ギニャアアアアアアッッッッッ!!!」

 

サーレーはクラフト・ワークで宙に浮かんだ銃弾を握りつぶし、スタンドを潰された痛みを感じてホル・ホースは悲鳴を上げて吐血した。

しかしホル・ホースのスタンドの銃弾は群体の一種であり、一発潰されたくらいでは戦闘には支障を来さない。

 

「やれ、フランシス。」

「……ハイアー・クラウド。力の具現、積乱雲。」

 

フランシスと呼ばれた赤毛の男のスタンドが、コロッセオに積乱雲を作り出した。コロッセオに激しい上昇気流が発生し、サーレーたちは突風に視界を手で防護した。

それは高圧電流を内包し、静電気が周囲で火花を散らした。逆巻く乱気流がコロッセオに吹き荒れ、積乱雲の発生とともにコロッセオは照度を失い影を落として行く。

 

落雷(クー・デ・フード)。」

「ウェザー・リポート、蜃気楼(ミラージュ)。」

 

雲は縦に高く伸びていき、それは凄まじい音とともに発光してコロッセオに小規模の雷を落とした。

雷は風を巻き起こしたウェザー・リポート目掛けて落ちていき、落雷が直撃したと思った瞬間ウェザーの姿は蜃気楼となって掻き消えた。

そして再び強風が横薙ぎに吹き付けて、コロッセオに立ち上った積乱雲を吹き飛ばしていった。周囲は明るさを取り戻した。

 

「……どうやら俺の相手はお前のようだな。」

 

ウェザーのその言葉に、フランシスは口端を吊り上げて返した。

 

「そんじゃあ、俺はアンタの手助けをしようかね。」

「それならばオレがウェザーのフォローに回ろう。」

 

ウェザーとフランシスが対峙し、ホル・ホースとアナスイがそこに付随した。

コロッセオの中央で、大規模に天候を操るスタンド使いたちが戦いを開始した。

 

「……貴様ッッッ、見つけた……見つけたぞッッッ!!!(ディオ)から授かった赤ん坊を、返せッッッ!!!」

 

コロッセオの外周に立つディアボロの前には、さらに二つの人影があった。

その二人ともに、サーレーには見覚えがあった。

 

一人はスペインのジェリーナ・メロディオ。もう一人はアメリカのエンリコ・プッチ。ウェザーとアナスイがパッショーネの援軍に来たのと同様に、プッチはディアボロの援軍として戦場に姿を現していた。

メロディオは興味なさそうに明後日の方向を向いて、エンリコ・プッチは忿怒の形相でサーレーを睨んでいる。

サーレーの瞳に、静かに漆黒の殺意が灯された。

 

「久しぶり、というほどでもないか、外道神父。自分から首を差し出しに来たか。殊勝なことだ。」

「貴様ッッッ!!!赤ん坊をどこへやったッッッ!!!天国への標は、貴様のような奴が容易く触れていいものではないッッッ!!!」

 

プッチの表情は目が飛び出さんばかりに見開かれ、血管が顔中に浮き出て顔が真っ赤になっていた。その目は、赤ん坊を奪ったサーレーに尋常ではない執着を示していた。

 

神は人の心の中にのみ住む。

サーレーはエンリコ・プッチに、厳かに己の中の死神の決定を告げた。

 

「……お前は赦されざる者だ。犯した罪状は大量殺人。自身の利己的な欲求のために、刑務所の大勢の人間を殺害した。その罪で、俺が処刑を執行する。」

「天国にたどり着くための、囚人程度の犠牲がなんだというのだッッッ!!!」

 

静かな黒い殺意と忿怒の燃え盛る激情は、二人の間で火花を散らした。

サーレーはプッチのその言葉に問答は意味を成さないと判断し、相手を処刑対象だと確信して滑らかに地を駆けた。

それに反応してプッチは異様な形相で、懐から一本の矢を取り出した。サーレーはそれを見て、相手の思惑を計りかねて立ち止まった。

 

「サーレーッッッ!!!気を付けろッッッ!!!レクイエムだッッッ!!!矢を刺せば、スタンドは進化するッッッ!!!」

 

プッチが懐から矢を取り出したことを確認したジョルノは、自身の経験からサーレーに助言を与えた。

プッチは矢を自身のホワイト・スネイクに突き刺し、矢はホワイト・スネイクと一体化する。ホワイト・スネイクは光り輝き、馬に乗った騎士の姿のようなスタンドへと変貌を遂げた。

それは世界ではなく自身を際限なく加速させる、劣化版のメイド・イン・ヘブンであった。

 

「私の計画をめちゃくちゃにしてくれた貴様は、この私が自らの手で縊り殺してやる!!!」

 

プッチのその言葉とともに、激情のメイド・イン・ヘブンはプッチを乗せてコロッセオの外周を走り出し、加速を開始した。

サーレーは敵スタンドのその加速の早さに即座に判断を下し、コロッセオを離れてローマの市中に向かった。

固まっていたら、纏めて攻撃を喰らってしまう。その敵意がサーレーに向いている以上、サーレーは敵を引き付けるために人間の避難が済んだローマ市中にプッチを誘導するのが上策だと判断したのである。

 

そしてそれは、ちょうどディアボロの妥協点でもあった。ディアボロにとってサーレーは警戒すべき対象であり、サーレーがプッチ一人にかかずらってくれるのであればディアボロにとっても都合がいい。プッチはディアボロが急遽味方に引き込んだ人間であり、たまたま利害が一致していただけの人間であった。そのためにディアボロはプッチをまるで信用していなかった。

というよりも、ディアボロはたった一人を除いて誰も信用していない。戦いが終われば、ディアボロはプッチを始末する心算だった。

暗黙に敵味方の合意がなされ、コロッセオから離れた場所にサーレーとそれを追うエンリコ・プッチは向かった。

 

ディアボロは傍のメロディオに告げた。

 

「さて、それではお前の出番だ。ジョルノ・ジョバァーナに付き添うあの目障りな人間を始末しろ。」

 

ディアボロはグイード・ミスタを指差した。

ミスタは拳銃を構え、メロディオは心中でため息をついた。メロディオの手中に道化の天秤が現れた。

 

道化師は、その本性を露わにしようとしていた。

天秤は世界の理を司り、神秘を内包して緩やかに揺れた。

 

「待ちなさいッッッ!!私も……私も、戦うッッッ!!!!」

 

その時コロッセオに女性の声が響き、その場に残った全員が声がした方向に目をやった。

それは、迷いながらもジョルノたちに生命の危機が迫っていることを理解して、何かの役に立たなければならないという強迫観念と共に戦場に馳せ参じたシーラ・Eだった。

 

「シーラ・E……あのバカが……。」

「シーラ・E……。」

 

ミスタがシーラ・Eが命令を無視してコロッセオに参戦しにきたことに対して、手を額に当てて天を仰いだ。

 

「まだ敵には援軍がいたようね。私は彼女を始末してくるわ。」

「……待て。奴は殺すな。生かして俺の前に連れて来い。」

 

ディアボロは、メロディオに小声で指示を出した。

ディアボロのその言葉にメロディオはディアボロの表情を一瞬だけ観察し、メロディオの視線を受けたディアボロは自身が決定的な間違いを犯している錯覚に囚われた。

しかしそれはディアボロにとってほんの一瞬の違和感であり、すぐに霧消した。

 

「了解。じゃあそこのあなた、あっちに行きましょう。」

「なんのために移動する必要が……!!!」

「……馬鹿ねえ。まだ若いあなたの無惨な死体を見たのなら、あなたのボスは子供を死なせてしまったことにショックを受けるわ。そうすればあなたは、あなたのボスの足を引っ張ったことになる。A級戦犯ものよ?あなたのボスのために、あなたは私を別の場所で足止めするのが得策よ。」

 

シーラ・Eはメロディオのその言葉に、相手の思惑を計りかねた。

 

「アンタはその男の配下なんでしょう!それならば、アンタはジョルノ様に不利に働くような行動を取ろうとしている!!!」

「……違うわ。これは彼らの己の誇りと因縁をかけた、誰にも邪魔できない神聖なる決闘なのよ。彼らの邪魔をしないように、部外者の私たちはほかの場所で戦うべきだわ。」

 

メロディオは、真っ赤な嘘をついている。

この場にいる人間は皆形振り構わずに己の目的を達成しようと目論んでおり、誰一人として個人の誇りなどという安っぽい自己満足に浸るものはいない。そう言うメロディオも形振り構わずに自身の目的を達成しようとしている。

 

シーラ・Eにも少し考えればわかるはずだった。この戦いにはイタリアの裏社会、ひいてはヨーロッパ全土の未来の趨勢がかかっている。

そのような大事において、社会の未来よりも個人の誇りや矜持が優先されることなど到底有り得ないのである。

 

メロディオの言葉は、それもやはりこの場にいる全員の暗黙の合意であった。

シーラ・Eを戦場から遠ざけろ。ジョルノ・ジョバァーナとグイード・ミスタは、以前ディアボロが交わしたシーラ・Eの命を保証するという口約束を信じるほかはなかった。

そしてそれは、メロディオにとっては天啓にも等しかった。シーラ・Eの存在は、彼女にとっては戦場に舞い降りた神の御使にも等しかったのである。

 

「さあ、行きましょう。私たちは私たちで、大切なもののために己の誇りをかけた戦いをしましょう。」

「ミスタ様ッッッ!!!」

「行け、シーラ・E。そいつを抑えてくれたならば、敵の頭数が減って俺たちも助かる。」

 

シーラ・Eは迷いつつも、コロッセオを離れ行くメロディオの後を追った。

老獪なメロディオにとって、シーラ・Eを偽りの言葉で手玉にとるのは容易かった。

 

ディアボロにとってのメロディオは、掴み所のない不気味な女だった。しかしここにおいてシーラ・Eを生かして確保しておく意味は大きい。ディアボロのパッショーネのボスとしての正当性を証明できる人間がいなくては、ジョルノたちを倒しても次はパッショーネ内部のジョルノに忠実な部下たちとの終わりなき戦いが待っている。そうなれば、ディアボロが策を練ってまで手に入れようとしたものはゴミと化す。

 

その点シーラ・Eは操りやすい。誰かに依存しきっている人間とは、自分で考えないので操作が楽なのである。ジョルノに指示を出させてシーラ・Eをうまく言い包めさせれば、それはおそらく可能だろう。真面目で真っ当な感性を持ち親衛隊というボス御付きの地位を持つシーラ・Eの発言は、組織内部でそこそこの発言力を持つ。

図書館でのジョルノとの交渉のトリッシュを生かすというのは、交渉を上手く運ぶためのディアボロの嘘だったが、シーラ・Eを生かすというのは真実だった。

 

そのために、ディアボロはメロディオにシーラ・Eを生かして確保する指示を出した。メロディオは何を考えているのかわからない不気味な人間だったが、ディアボロにはほかに有効な手駒がなかった。

 

メロディオは、ディアボロがスペインの裏社会を揺さぶってみたら出てきた人材だった。スペインの切り札であるのならば、きっとそれなりの使い手だろう。シーラ・Eを生きて抑えることができる見込みも高い。シーラ・Eは戦闘に限定すれば、そこそこ強いのだから。

ディアボロは、そういう風に計算している。

 

「さて、戦局は分かたれた。俺たちも決着を付けようか。ジョルノ・ジョバァーナ、グイード・ミスタ。」

「お前を確実に殺さなかったのは僕の落ち度だ。今度こそ、完全に戻ってこれないように終わらせるッッッ!!!」

「ヤられたムーロロの落とし前もつけなきゃあな。」

 

ミスタが拳銃を構え、コロッセオに撃鉄が上がる音が響いた。

四つの戦局で、四通りの戦いが始まった。

 

 

◼️◼️◼️

 

名前

ディアボロ

スタンド名

キング・クリムゾン

概要

未来に向けて時間を飛ばす……だけだろうか?

 

名前

エンリコ・プッチ

スタンド名

メイド・イン・ヘブン(劣化版)

概要

緑色の赤ん坊ではなく、矢の力で進化した劣化版のメイド・イン・ヘブン。時が一巡した世界に対するエンリコ・プッチの妄執が、スタンドにその形を取らせた。その能力は自身を加速させるが、出力不足により光速の壁は超えられず、その速度は光速に向かって漸近線を描く。CーMOONを経由していないために世界を加速させることは不可能。瞬発力に関してはスター・プラチナに劣るが、持続力に関してはスター・プラチナを上回るため、その能力の凶悪さは最強のスター・プラチナにも引けを取らない。

矢の出所はほぼ間違いなくディアボロだと思われるのだが……?

 

名前

ホル・ホース

スタンド

エンペラー

概要

かつてディオに仕えた、ナンバーワンよりもナンバーツーを信条とする男。ディアボロの実力に感服し、その右腕となるべく配下に降った。以前よりも拳銃の口径が少しだけ大きくなったらしい。

 

名前

フランシス・ローウェン

スタンド

ハイアー・クラウド

概要

パッショーネミラノ支部を襲撃した、自在に雲を生成し操るスタンド使い。外見は赤毛にスマートな出で立ち。その能力の使い幅はウェザーに劣るが、雲を使う能力に限定すればその力はウェザーを上回る。フランスの処刑人であるため、暗殺に特化している。襲撃されたパッショーネに死人が出ていないのは、彼が無意味な殺人を嫌ったためである。

 

名前

ジェリーナ・メロディオ

スタンド

バイオレーティブ・ジェスター

概要

ディアボロがスペインを脅迫して炙り出した人材。先に彼女たちを手駒にしたのは、アルディエンテもラ・レボリュシオンもパッショーネに比べたら小規模であり、パッショーネに比べて圧倒的に武力で劣るからである。スペインの処刑人であるためにそこそこ戦闘が出来るだろうとディアボロは判断した。パッショーネトリノ支部を襲撃した。その能力の真実は?

他者と関わらないためにディアボロは知らない。ディアボロは彼女をフランシスと同等の存在だと判断している。……しかし彼女は、ヨーロッパ全土の裏社会で最も怖れられている。

 

名前

緑色の赤ん坊

概要

シーラ・Eに預けたはずだったが、シーラ・Eが結局戦場に駆けつけて来てしまったためにローマの高級ホテルの一室でお留守番中?

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