噛ませ犬のクラフトワーク   作:刺身798円

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漆黒の殺意

コロッセオの中心では、天変地異が起こっていた。

 

「ヌウウウウゥゥゥン!!!」

「クッ!!!ウオオオオオオオオッッッ!!!」

 

そこに仮に一般人が存在したとしたのならば、顔を真っ青にして大慌てで逃げ出すしかないだろう。

風は荒れ狂い、気温は異常なまでに低下し、晴天にも関わらず周囲は薄暗く、静電気があちこちで火花を散らした。

その中央では、二人の男が拳を交えている。

 

「貴様、なぜ戦う?なぜイタリアに害を為そうとする!」

「……必要だからだよ。俺が目的を達成するためには、それが必要だからだ。むしろ俺がお前に言いたい。お前は戦場から離れたほうがいい。」

 

ウェザーが問い、フランシスが応答した。

 

「それはできん!俺は戦う!戦って平穏を勝ち取り、未来を指し示してくれたサーレーたちに恩を返すのだッッッ!!!」

「……それならば戦うしかない。俺も自分の至上目的のために戦っている。お前も自分の至上目的のために戦っている。その目的は互いに矛盾し、勝った方しか願いは叶わない!」

 

ウェザー・リポートとフランシス・ローウェンはそれぞれ己の強力なスタンドを具現し、重厚な存在感を伴ってコロッセオの中心地で拳をかわしていた。

拳が交わるたびに周囲には風が吹き荒れ、稲妻が奔り、ローマに雷鳴を轟かす。コロッセオの中心は爆心地と化していた。

 

「貴様の願いとはなんだ?それはイタリアを害さねば、叶わないものなのか!」

「……人間の大切なものには序列が付けられている。残念ながら、他人の家よりも自分の家が大切だ。」

 

フランシスは不動の意思でウェザー・リポートの前に立ち塞がり、ウェザーは相手を打ち破ろうとスタンドに力を込めた。ウェザーは静かに、己の中に漆黒の殺意を受け入れた。

周囲に竜巻が発生し、天空からは蛙が降ってくる。それはコロッセオの地面に飛び散って、周囲に毒液を撒き散らした。

 

「ヤドクガエル、その体液は強力な毒をもち、皮膚から侵入して人間を容易く殺害する。お前の目的がわからない以上抵抗はあるが、退かないと言うのならば、殺意を以って全力で応酬させてもらう。」

「どわわわっっっ!!!おい、ウェザー!!!」

 

近くで戦うアナスイが叫んだ。

フランシスはニヤリと笑うと、上空に雲が噴出して、滞留した。

降り注ぐ蛙の群れは、極寒の雲を通過して氷漬けになって落下した。体液が固まってしまえば、それは周囲に飛び散ることはなくなる。

フランシスの冷徹な眼差しに、ウェザーは敵の意志の強固さを理解した。

 

「俺の能力とお前の能力は、互いに意味をなさない。そうなればあとは、どちらのスタンドのエネルギーが上かという話になる。」

 

フランシスのハイアー・クラウドは右腕を上げてウェザーに殴りかかり、ウェザーはウェザー・リポートの左腕で軌道をずらして防御した。

 

「うおおおおおおッッッ!!!」

「あああああッッッ!!!」

 

フランシスとウェザーは、コロッセオの中心で吼え猛った。

 

「俺も、いるぜ?」

 

ホル・ホースがスタンドのエンペラーを発動した。フランシスの背後にいるホル・ホースは拳銃を構え、銃弾を二発ウェザーに向けて発砲した。

 

「やらせるわけねえだろうが。」

 

地面の中からアナスイのダイバー・ダウンが現れ、ホル・ホースの銃弾を拳の甲で弾き返した。

 

「なら、これでどうだ?」

 

ホル・ホースは標的を変更し、アナスイ目掛けて拳銃を向けた。

 

「オイオイ、いいのか?お前のスタンドは、近距離戦は不得手だろうが。」

 

アナスイは銃口を向けられても平然として、ダイバー・ダウンはホル・ホース目掛けて一直線に地中を潜行して行く。

たとえ銃弾を受けても即死さえ防げれば、ダイバー・ダウンは近接戦の苦手なホル・ホースを瞬時に仕留めることが可能である。ホル・ホースは即座に頭の中でその損得を勘定し、慌ててフランシスの背後へと逃げ隠れた。

 

「ま、俺っちのスタンドは、他人と組むことで真価を発揮するタイプだからな。今回は見逃してやるぜ。」

「ああそうかそうか、ありがとう。とか言うわけねえだろうが、ボケッッッ!!!」

 

ホル・ホースはフランシスの背後から銃弾を発砲し、アナスイがウェザーの背後に陣取って近中距離から放たれる銃弾を弾いた。

その周囲では、逆巻く風が荒ぶっている。

 

「これでどうだッッッ!!!」

「馬鹿が。丸わかりなんだよッッッ!!!」

 

ホル・ホースはウェザー目掛けて発砲し、銃弾の軌道は途中で不自然に捻じ曲がってアナスイを襲った。アナスイは敵の攻撃を見切って、ダイバー・ダウンは偽りの軌道に惑わされずに容易く銃弾をはじき落とした。

 

「にゃにいッッッ!!!」

「お前、バカか?銃弾がスタンドなら、軌道が変わる可能性くらい想定して当然だろうが!」

 

アナスイのダイバー・ダウンは、ウェザーの戦闘に加勢しようとした。ホル・ホースはアナスイ目掛けて銃弾を連射し、ダイバー・ダウンはその全てを弾き落とした。

 

「どうやらテメエは、裸単騎では大したことは出来ねえようだな。」

 

アナスイがフランシスの背後に隠れるホル・ホースを追いかけようとして、ホル・ホースは慌ててウェザー目掛けて発砲した。アナスイは銃弾からウェザーをフォローする必要があり、その場に止まることを余儀なくされた。

 

「チッ、小者のクセに、案外ウゼエな。」

「ナンバーワンよりもナンバーツー、それが俺の哲学なのよん。」

 

ホル・ホースは頭の回転が速く、アナスイも持久戦を余儀なくされていた。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

「貴様ッッッ!!!赤ん坊をどこへやったッッッ!!!言え!!!言えば楽に殺してやるッッッ!!!」

「……死んでも言わねえよ。お前は永遠に叶わない目的を追い求めて、現世を彷徨う憐れな亡霊になることになる。」

 

エンリコ・プッチは激昂し、サーレーはプッチを鼻で笑って挑発した。

ローマの狭い裏路地で、二人の殺意は火花を散らしている。クラフト・ワーク、メイド・イン・ヘブン共々、周囲を高速で動き回っていた。

 

「貴様なんぞにはわからん、崇高な目的のためだッッッ!!!貴様は天をッッッ、神をッッッ、侮辱しているッッッ!!!私は、神の御使だッッ!!!」

「お前、本当に救いようのないバカだな。自分の文言を冷静に見返してみろよ。それ、テロリストの口上だぜ?」

 

サーレーはローマの狭い裏路地で、走りながらゴミ箱を蹴っ飛ばした。

エンリコ・プッチのメイド・イン・ヘブンはどんどん加速している。

メイド・イン・ヘブンが両の拳で走るクラフト・ワークを襲撃し、サーレーはそれをコマ送りでなんとか見切ってダメージの大きい軌道のものをはたき落した。クラフト・ワークは拳が触れた際に固定を使用するも、矢の力によって大幅にスタンドエネルギーを増したメイド・イン・ヘブンはクラフト・ワークの固定を容易く引き剥がして、至近距離から去って行く。

 

ーー厄介な奴だ。どこまで速くなるのか見当もつかねえ。さっさと仕留めてしまわないとさらに速くなるんだろうが、スタンドがエネルギー負けして固定もできない、、、。

 

サーレーは走りながら、思考を続けた。

つくづくサーレーはグイード・ミスタ副長には頭が上がらない。ミスタがサーレーの尻を蹴っ飛ばさなければ、サーレーはメイド・イン・ヘブンになすすべなく呆気なく敗北していただろう。

死が常に隣にあるという緊張感と、幾度もの生死をかけた戦いを乗り越えた経験は、サーレーに切羽詰まった戦場でなおも笑いながら冷静に突破口を探す豪胆さを与えていた。サーレーは固定しながら壁を走り、メイド・イン・ヘブンは周囲を縦横無尽に走りながらサーレーにその苛烈な激情を向けた。

 

「返せッッッ!!!返せッッッ!!!返せッッッ!!!天国への標を、未来の希望をッッッ!!!世界を変える力を、返せッッッ!!!」

「バカな奴だ。冷静になってよく考えてみろよ?そんな危険な存在を、俺たちがいつまでも生かしておくわけがないだろう?」

 

サーレーは平然と嘘を吐いて首を搔き切る仕草をして挑発し、サーレーのその行動にメイド・イン・ヘブンはさらに激情を重ねた。

エンリコ・プッチの顔は真っ赤になり唾を飛ばし、プッチの怒りと絶望は荒ぶる殺意へと変わりサーレーへと向けられた。

 

「貴様!!!貴様!!!貴様ッッッ!!!殺す!!!殺す!!!殺すッッッ!!!絶対に、貴様だけは殺すッッッ!!!百回磔にして、なますに刻んで、臓腑をカラスの餌にしてくれるッッッ!!!」

「セリフが安っぽいぜ?いい大人が駄々こねんなよ。ママっ子(マンモーニ)の神父様。」

 

ーー挑発はしてみるものの、相手が疲労する気配はない。その速度は際限なく上昇し、そろそろ撃ち漏らした攻撃もダメージが蓄積しつつある。

 

サーレーは裏路地を掛けながら、固定する能力で建物の屋上に駆け上がった。そこで周囲を見渡した。

とりあえず走っている間に考えは纏まった。仕留め切れるかはわからないが、今のままではジリ貧だ。

 

ーーさて、と。痛そうだが、まあやってみるしかねえか。

 

サーレーのその視線は、近場の超高層建築物に向いていた。

 

 

◼️◼️◼️

 

「ちょっとアンタ、どこまで行くのッッッ!!!もうコロッセオからは遠くに来たでしょう!!!」

 

シーラ・Eが十メートルほど先を歩くメロディオに声をかけた。背後からは雷鳴が鳴り響き、シーラ・Eはジョルノたちがいたコロッセオが気が気でない。

 

若い。声などかけずに後ろから問答無用で奇襲してしまえばいいものを。

メロディオは苦笑した。

 

「何か問題があるのかしら?」

 

メロディオは振り返ってシーラ・Eに問いかけた。

 

「あるに決まってるじゃない!いつまで歩き回っているの!!!」

「あなたは私を足止めしているのよ?それがなんの問題なの?」

 

シーラ・Eは言葉に詰まった。

 

「私はジョルノ様の加勢に、、、。」

「あら。あなたはあなたが私に勝つ確率の方が、あなたのボスが敵に勝つ確率よりも高いと考えてるの?」

「何を言ってッッッ!!!」

「そうじゃない。理論的に考えてみて?あなたがボスの加勢をするには、まずあなたが私に勝たないといけない。私が勝てば、私は自分の味方の加勢に行くことになるわよ?」

「……。」

「あなたがあなたのボスを信じているのなら、私を足止めするのが最良よ?あなたのボスが強いのなら、あなたの加勢がなくても勝利するはずだわ。でもここで戦ってしまえば、私たちのうち勝った方が戦場に加勢に行くことになる。戦場に紛れが起こる。勝てたはずのあなたのボスは、あなたのせいで命を落とすことになるのかもしれない。」

 

道化は笑い、少女を言葉巧みに手玉に取る。

 

道化(それ)を相手にしてはいけない。怒りに触れてもいけない。スペイン裏社会の有名な都市伝説だ。

スペインの裏社会には、悪鬼とも神とも恐れられるスタンド使いが存在する。それの逆鱗に触れたら殺意によって跡形も無く消滅させられるし、言葉を交わせば巧みに相手の都合のいいように誘導させられる。

道化と話してはいけない。それの怒りを買ってもいけない。道化に行き交ってしまったら、命があれば儲けもの。ひたすらに赦しを乞うほかにない。それが最善策。

 

スペインの裏社会では、その話は禁忌(タブー)だった。

逆さ天秤は世界を操り、笑う道化は人間の理解の範疇を逸脱した存在だと。

 

「勝てばッッッ!!!」

「相手の情報がない。その能力も一切不明。もしかしたらすでになんらかのスタンド能力に陥れられているかもしれない。そんな相手に勝てばいいなんて、普通はギャンブルでもそんな割に合わないことはやらないわ。あなたは今、本当にローマにいるのかしら。」

 

道化の右手に天秤が現れ、彼女はそれをシーラ・Eに確認させた。メロディオは神秘的に笑い、シーラ・Eは相手が底の見えない存在だということを少しずつ理解し始めている。

ローマの人気のない通りで、二人は十メートルほど離れて向かい合っていた。

 

「信頼もない。愛情もない。そこにあるのは強迫観念だけ。、、、ねえ、シーラ・E。いいえ、シィラ・カペッツート。あなたは何のために戦っているの?」

「なぜ私の名前をッッッ!!!」

「馬鹿ねえ。戦う相手のことくらい、前もって調べておいてしかるべきじゃない。あなたの能力も、すでにバレているわよ。」

 

メロディオがシーラ・Eの名前を知っている理由は簡単だ。

以前にディアボロの暗殺を目的としていたメロディオが、前もってパッショーネの親衛隊の人員を調べていたことがあったからである。能力を知っているというのは、ハッタリだった。

しかしシーラ・Eはそれを知らない。道化は老獪に、子供に駆け引きを強いて手玉に取る。

 

「あなたじゃあ私に勝てないわ。」

 

道化は理を司る。

道化の宣告は、この世の法則だった。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

ディアボロはコロッセオの外周で、注意深くジョルノとミスタを観察していた。

その顔に余裕はなく、その沈黙は重苦しい。

 

ディアボロはここに来て、彼が誰を最も警戒すべきかを図り違えていたことに気が付いた。

 

マリオ・ズッケェロが戦場にいない。

ディアボロは、図書館でズッケェロがジャックにその能力を使用したところを確認していた。

マリオ・ズッケェロのスタンドは、細剣で貫くことにより相手を無力化していた。

死ではない。無力化である。

 

ディアボロは己の能力に絶対の自信を持ち、どんな致命の攻撃であっても自身には効果がないことを確信している。

しかし、無力化の能力はどうだろうか?喰らった瞬間に、果たして能力を発動できるのだろうか?

 

致命の攻撃であれば、死ぬまでにタイムラグが存在する。それがどれほど短くとも、ディアボロにはどうにでもできる自信がある。時間操作系のスタンドは、操作できる時間が存在する限り恐ろしく強力だ。

しかし無力化となると話は別だ。喰らった瞬間にスタンドを使用不可能にされてしまうのだとしたら、いかにディアボロと言えども敗北してしまう可能性が存在する。操作できる時間が存在しないかもしれない。わからないのだ。

わからない以上、どうしても警戒せざるを得ないのである。

 

ソフト・マシーンは他者との補完性が高く、混沌とした戦場でその真価を発揮する。

その存在を隠蔽することで、戦場で敵に不利な駆け引きを強いるのである。

 

ほぼ間違いなくボスであるジョルノの警護のためにこの近くに潜伏しているだろうが、他の戦場にいないとは絶対には言い切れない。

リーダーのサーレーに付き添っているかもしれないし、もっと勝利しやすい戦局から順繰りにフォローをしているかも知れない。

時間と共に戦況が不利になる可能性があるにも関わらず、ディアボロはズッケェロのその能力の致命的さから迂闊に動けないのだ。下手をしたらジョルノの命を奪った瞬間、どこからともなくブッスリという可能性まで存在する。

 

それは、サーレーとズッケェロをただのチンピラと捨て置いたディアボロと、二人の価値をハッキリと認識したジョルノの器の差でもあり、ディアボロは今現在それを嫌というほどに理解させられていた。

 

ソフト・マシーンは恐ろしいほどに有用性が高い。そして、より重大な局面でこそその戦術的価値は天井知らずに跳ね上がる。天敵である探知タイプに致命的に弱いのは事実だが、裏を返せばその弱点さえなくなれば奇襲を得手とするソフト・マシーンは恐ろしく有用なのである。

 

それは仲間内に信頼があるジョルノたちだからこそ、取り得た戦術である。手札を最初から馬鹿正直に全て開示する必要はない。ディアボロは他者を一切信頼しないゆえに、手札を全て開示した。見えないところに隠した他者を、独善的なディアボロは性格的に信用ができないのである。本来であれば、ホル・ホースも伏せていた方が有効に切れる札のはずだった。

 

宝刀は、抜かぬが華である。抜かないからこそ相手を威圧し、相手の行動を極端に制限する。

他者と社会を育む事で弱点を克服したマリオ・ズッケェロは、まごう事無くジョルノのパッショーネの一振りの秘伝の宝刀だった。

以前のパッショーネはそれを知らず、マリオ・ズッケェロ本人もそれを理解していなかった。今は違う。

ジョルノ・ジョバァーナに傅き彼を頂きにおいた時、ズッケェロもサーレー同様にパッショーネの猟犬として覚醒していたのである。

 

ディアボロは周囲を見渡した。

高低の段差、壁の裏、コロッセオは古い建物だから亀裂もある。マリオ・ズッケェロはそのどこに潜んでいてもおかしくない。

ソフト・マシーンはディアボロにとって、最も警戒すべき対象だった。

 

「ディアボロッッッ!!!」

 

グイード・ミスタは殺意を発露させ、ディアボロに向けて拳銃を発砲した。

しかし銃弾は、時間を飛ばしてディアボロを通過していく。

 

「ゴールド・エクスペリエンス、宇宙の大樹(アルベロ・コスミコ)!!!」

 

ジョルノの手中のテントウムシのブローチはその姿を見る見る間に大樹に変え、幾重にも重なったその枝はディアボロに襲いかかった。

ディアボロはそれをその場を少しだけ身を引いて躱した。大樹の幹はディアボロに向かって追撃する。

ディアボロは後ろに跳びのき、ミスタが追撃とばかりに発砲した。

 

「セックス・ピストルズ、技法・黄金螺旋回転(ロタツゥイオーネ・ア・スピラレ・ドラタ)ッッッ!!!」

【イエエエエーーッッッ!!!】

 

ミスタの技法・黄金螺旋回転は、ミスタがパッショーネの暗殺チームとして戦い続ける中で、身につけた技法である。

暗殺チームとしてミスタが処刑した人間の中には、銃弾を弾き返すスタンド使いも数多く存在した。ミスタはそういった手合いに対抗するために銃弾の威力を上げる方法を模索し続け、ある時戦いの中で銃弾が劇的にその威力を向上させる回転が存在する事を発見した。

セックス・ピストルズは銃弾に螺旋回転を加え、それは敵に絡み付き喰らい尽くす致死の一撃と化す。ミスタの経験則による不完全な回転だが、その威力は装甲の硬いクラフト・ワークの防御すら容易く突き破る。その回転は、黄金長方形の無限の螺旋を模倣していた。

 

ディアボロはミスタの銃弾をスタンドの拳で弾き返そうとした。しかしそれはディアボロの拳に絡み付き、体を登り、頭部に向かっていく。それは、ディアボロの頭部を撃ち抜いた。

 

【イエエエエーーイイイッッッ!ヤッタゼ!!!】

 

ピストルズがハイタッチを交わすが、ミスタの表情は優れない。

 

「黙れッッッ!!!馬鹿どもッッッ!!!やってねえッッッ!!!」

 

ミスタにはディアボロの頭部に銃弾が着弾したように見えたが、平然とした表情で周囲を注意深く伺っている。

時間を跳ばした可能性は高い。

 

ディアボロはジョルノやミスタにはさほど意識を割かず、周囲を警戒している。やはりマリオ・ズッケェロはその姿を見せない。

まずはその所在を炙りださないと、ディアボロの勝利は危うい。

 

ーー図書館で、消しておくべきだったか……。

 

ネアポリスの図書館では、ディアボロが相対したのは疲弊したジョルノ、ミスタ、手負いのサーレーに姿を見せたズッケェロの四人だった。

ほぼ勝てるとは考えていたが、パッショーネへの執着心と用心によりディアボロは彼らへの手出しを控えていた。仮にあの局面で誰かを殺害しようとしたら、四人はおそらく一丸となって形振り構わずに抵抗する。当然パッショーネは手に入らない。

 

しかし今になってズッケェロの真価を突き付けられ、ディアボロは己の選択の愚かさを痛感させられていた。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

「ヌオオオオオオッッッ!!!」

「ウアアアアアアアアアアアッッッ!!!」

「どわあああああッッッ!!!」

「待てやコラァ!!!」

 

コロッセオの中心でウェザーとフランシスのスタンドは真っ向から衝突し、周囲に暴風が吹き荒れた。

ホル・ホースは荒ぶる風にもんどり打って転び、アナスイは体勢を崩したホル・ホースを仕留めようと迫った。

ホル・ホースは迫り来るアナスイに銃口を向けて発砲した。

 

銃弾はアナスイに向けて進み、ダイバー・ダウンはそれを右腕で弾き返す。ホル・ホースは立て続けに銃弾を連射し、炸裂音が連続で鳴り響く。その軌道は歪み、奇妙な軌跡を描いて互いに衝突した。銃弾は不規則に不条理に軌跡を描き、空間を生き物のように駆けてアナスイを八方から襲った。

 

「エンペラー、致死の部屋ッッッ!!!」

「うおおおおおおッッッ!!!」

 

今まで戦場のミソッカスだったホル・ホースの唐突な豹変とその殺意に、アナスイは慌ててダイバー・ダウンで防御に徹し周囲の弾丸を撃ち墜とした。撃ち漏らした二つの弾丸がアナスイの右足に風穴を開けた。

ホル・ホースは嵩にかかって銃弾を連射した。コロッセオには雷鳴が轟き、周囲には雨が降り出していた。

 

「クソがッッッ!!!」

「若い、若いねぇー。相手の演技が見抜けないようじゃ、早死にするぜ?」

 

ダイバー・ダウンは周囲を跳ねる銃弾を撃ち墜とし、ホル・ホースの殺しの間合いから急いで退避した。退避するアナスイの頬を銃弾がかすめていった。

 

「うーん……惜しいッッッ!!!」

「テメエッッッ!!!」

「拳銃の弱点が近接の間合いだってことは、自分で重々承知しているよん。ならばそれを重点的に克服している可能性を、あんたは想定して然るべきだったな。」

 

ホル・ホースは笑いながら口元のタバコをお茶目に動かし、アナスイはその仕草に苛立った。

雨に濡れたタバコを、ホル・ホースは吐き捨てた。

 

「さて、準備運動も終わったことだし、そろそろ真面目に行かせてもらいますかね。」

 

ディアボロ専属の暗殺者は、殺意を剥き出しにした。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

「ウオオオオオオオオアアアアアアアアアアアッッッ!!!」

「……。」

 

サーレーは駆け、メイド・イン・ヘブンは周囲を走りながら緩急をつけてサーレーを襲撃した。

メイド・イン・ヘブンの速度はさらに上昇し、コマ送りでもその映像がボヤけ始めている。

サーレーはメイド・イン・ヘブンが襲いかかってくるタイミングだけを何とか見極め、防御に徹しながら走り続けていた。プッチはサーレーの挑発に逆上し、攻撃が単調になっていたためにクラフト・ワークでなんとか防御が可能となっていた。

 

「赤ん坊は……天国はッッッ!!!」

「……。」

 

今のエンリコ・プッチはただの憐れな怨念だ。その目は視線が定まらず、口元からは涎を垂れ流している。

プッチはサーレーの赤ん坊を処分したという言葉を信じこみ、思考を放棄して怒りと絶望に任せて目の前の(サーレー)を襲撃している。

 

ーー愚かな男だ。天国などという世迷言を信じ込み、それを見失った今精神が絶望に侵食されて眼前の破滅だけを望んでいる。

 

サーレーは迫り来るメイド・イン・ヘブンに対応しながら、ローマの市中を走り続ける。

 

ーージョジョが姿を現したとき、パッショーネのヨーロッパ圏内での周辺組織の評価は底辺だった。力はあっても他人の庭に麻薬を無節操にばら撒く、最低の組織だと。ジョジョはそこから組織を真っ当に運営ししぶとく交渉し、周辺のその評価を覆した。何かを築き上げる時、築き上げたものが手違いで倒壊してしまうかもしれない。誰かの悪意によって破壊されてしまうかもしれない。しかし、ボスであればそれでも力強く再び築き上げることを望むだろう。……この憐れな男は崩れたものに腐心して他の事に一切目をやらない。俺はボスのように何かを築くことはできなくても、ボスの築き上げた誰からも愛される偉大なる(グランデ)、パッショーネを守る事は出来るッッッ!!!この神父は、ただの破綻した弱者だ。ジョジョの部下の俺がこの程度の敵に負ける事は、有り得ないだろう?

 

サーレーは不敵に笑い、その自信はクラフト・ワークに力を与えた。

サーレーの漆黒の殺意は静かに、敵を喰い破る瞬間を待っている。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

「何がいい?コーヒーで構わないかしら?」

 

シーラ・Eは困惑している。

目の前の女の意図が掴めず、どう行動したものか判別がつかないでいた。

 

戦場に姿を現した茶髪の女は、避難が済んで誰もいないカフェに侵入して水場を漁っていた。

女は棚の奥からコーヒー豆を取り出すと、コーヒーメーカーにセットした。

 

先ほどまで、シーラ・Eにとって目の前の女は底の知れない不気味な存在だった。しかし今の彼女は、どこにでもいる近所のお姉さんといった様相を醸している。

 

「一体アンタ、何をやっているッッッ!!!」

「見ての通りだけど?」

 

意味がわからないといった風のメロディオの反応に、シーラ・Eの混乱は加速する。

 

「何のためにッッッ!!!私たちは戦っているんじゃあなかったのかッッッ!!!」

「戦っているじゃない。あなたは必死に、私の足止めをしているわ。」

 

なんなんだ、コイツはッッッ!!!なにをしているんだッッッ!!!

なんで戦場にこんな呑気に茶を啜る人間がいるんだッッッ!!!

 

「一体、なぜ飲み物なんか!!!」

「だから、さっき合意したじゃない。あなたの役割は、私の足止めだって。」

「合意していないッッッ!!!」

 

危なく合意しそうになったけど……。

 

「まあ落ち着いて、テーブルにでも座って待っていなさいな。」

「ふざけるなッッッ!!!」

 

シーラ・Eは激昂して、ブードゥー・チャイルドでコーヒーメーカーを叩き割った。周囲には黒い液体が飛び散った。

 

「ああー、せっかく淹れたのに。」

「戦えッッッ!!!戦意がないというならば、押し通らせてもらうッッッ!!!」

 

シーラ・Eがメロディオに宣言し、シーラ・Eは緊張を漂わせた。

 

「もー、何が不満なの?」

「お前のその態度だッッッ!!!戦いの場で、一体何がしたいんだッッッ!!!」

「だから何回も言ってるじゃない。足止めだって。どうせ時間を潰すのなら、戦いなぞ無粋な事はせずに、お茶でも飲んで楽しくおしゃべりしましょう。」

「どこの世界にそんな戦いがあるというのだッッッ!!!」

 

シーラ・Eはすでに相手のペースに巻き込まれている。

今のメロディオはぱっと見一般人にしか見えなく、問答無用で襲いかかるのには抵抗がある。

メロディオは時折底知れない雰囲気を醸しており、その実力も未知数である。

シーラ・Eの心の中で罪悪感の枷と恐怖が綯交ぜになり、自分から攻め込むことに抵抗を覚えていた。

 

「別にいいじゃない。戦っても、どうせあなたにとってロクなことにならないわよ。」

「ふざけんなッッッ!!!」

 

シーラ・Eは恐怖を跳ね除け、相手に襲いかかった。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

ディアボロはジョルノとミスタの攻撃をさばきながら、思考をしていた。

自身の札を確認し、のちに敵の札と照らし合わせる。

 

ーー俺が持つ札は二枚。まともに戦えば、ジョルノ・ジョバァーナとグイード・ミスタには問題なく勝利可能。しかしそこにマリオ・ズッケェロが加われば、途端に雲行きが怪しくなる。奴が剣で攻撃してきても、時間を飛ばせば攻撃の回避自体は可能。しかし、事はそう単純ではない。

 

「うおおおおおおおおっっっっ!!」

 

グイード・ミスタが連続で発砲し、ディアボロは時間を飛ばしてそれを避けた。

立て続けにジョルノ・ジョバァーナが獅子を創り出し、それは獰猛にディアボロに襲いかかった。ディアボロはキング・クリムゾンで獅子を殴り飛ばし、それは元のテントウムシのブローチへと姿を戻していく。

 

ーーさて、どうやって居場所を炙り出すか……。

 

策は二つ。

一つはコロッセオを炎上させて、火攻めで炙り出す。

もう一つは、そもそもの戦いの場所を変える。

 

コロッセオを燃やすのは困難だ。天候を操るスタンド使いのせいで、雨も降っている。

必然的に、場所の移動が選択肢の最有力候補に上がった。

ディアボロは笑いながら二人に背を向けた。

 

「待て!キサマ、どこに行く!!!」

「死ぬ覚悟があるのなら、付いて来い。」

 

ミスタが声を張り上げ、ディアボロが応答した。

ディアボロはジョルノとミスタに背を向けて逃走し、二人はその後を追った。

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