噛ませ犬のクラフトワーク   作:刺身798円

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前書き

前回の話のルビを少し変更してます。
内容に変更はございませんので、お気になさらずとも大丈夫です。

それとエピタフの能力について。
この能力は当初アリで書いていたのですが、作者のお粗末な頭では書けば書くほどにタイムパラドックスと混乱を引き起こすことが判明致しました。

例えばズッケェロの攻撃を未来を見て避けれるんじゃないかというご指摘をいただきましたが、そもそもズッケェロがずっと潜伏していたら展開が動かなくなりますし、もともとキング・クリムゾンは攻撃の瞬間には姿を現さざるを得ません。
ジョルノから能力を聞かされたズッケェロがキング・クリムゾンの攻撃の瞬間を狙っていたら、エピタフにはキング・クリムゾンが攻撃した瞬間ズッケェロに刺される映像が映るわけですが、エピタフにそんな映像が映ったら当然キング・クリムゾンは攻撃する瞬間時間を跳ばして、跳ばしたらもうその時点でエピタフの映像と矛盾して、、、。でも攻撃する瞬間に時間を跳ばすということは、持続に難のあるキング・クリムゾンは、、、。まあ書けば書くほど字数が増えて、解説が細かくなって、作者が混乱するわけです。

というわけでエピタフは予知を元に行動した予知能力なので、適当にノリで書かないとどこかで詰みます。
解釈についてもこれは違うだろうとおっしゃる方がいらっしゃるでしょうし、、、。
ゆえにまあ、本文にて。どうか許してください。


二人の帝王

「あなたには、あなたしかできない戦いがあるの。それは決してこの戦場で戦うことに重要性で劣らない、何よりも大切な戦いが。」

 

道化の声が周囲に響き、シーラ・Eは自身に起こった出来事を理解出来ないでいた。

 

なんだ、ここは?何がどうなっているのだ?私は何をされたのだ?

シーラ・Eは混乱し、困惑し、何か暖かなものの上に乗せられていることを感じ取った。

 

「社会とは、築き上げる行為。あなたのボスは、誰からも尊敬され愛される組織を築き上げた。それはイタリアに深く根付き、そこにはあなたのボスにとって大切な人たちや、あなたのボスの理念を理解して受け継ごうとする人たちがたくさんいる。」

 

世界の色は反転し、鮮やかさを失い、暗紫色に包まれた。かと思えば、唐突に鮮やかな毒々しい黄色へと変色する。さらに気付けば、不自然なライトグリーンへと変色している。そして突如色彩はボヤけ、視界にノイズが入った。しかし次の瞬間には周囲は白く塗られている。

……一体何が起こっている?

 

シーラ・Eの意識は歪み、揺蕩い、彼女は今何者かの掌の上で転がされている。

上方に目をやれば、そこには巨大な道化師が不可思議な笑みをたたえている。シーラ・Eはその掌の上に乗せられていた。

メロディオは現れては消え、何も無い空間を歩き、唐突にその数を増やし、万華鏡のようにシーラ・Eの眼前にさまざまな方向にさまざまな向きで幾重にも連なって映し出されている。

 

シーラ・Eにわかることは、ここは彼女の理解の及ばない世界であるということだけであった。

ひたすらに、それが恐ろしい。自身の存在が、ひどく心許ない。

 

「インテリジェント・デザインって知ってる?」

 

メロディオがシーラ・Eに問いかけた。

シーラ・Eの意識に映る今現在の彼女は巨大な道化の肩に座り、足を組んで手を顎の下に回している。

 

「……知性ある何者かが生命を設計したとされる学説。」

「そうね。ザックリと説明すればその通りだわ。」

 

シーラ・Eの視界に映るメロディオは静かに道化を見上げた。

 

「……それが何なのかしら?」

「私の道化(スタンド)はこの世界の法則を司る。まるで人間(三次元)平面(二次元)に絵を描いて、そこのルールを定めるように。」

 

シーラ・Eは脳内で彼女の言葉を反芻し、その意味を咀嚼して寒気を催した。

メロディオはシーラ・Eに振り向いた。

 

「私のスタンドの恐ろしさが理解できたかしら?私の逆さ天秤は、理を逆さにするのではなく、人間の価値観そのものを根底からひっくり返す。世界とは、人間には理解出来ないスタンドという意味合いよ……例えば時間軸も、高位次元に当てはまる。空条承太郎と戦った敵も、その多くは何をされたか理解できないうちに敗北しているはずよ。そこは人間の理解の及ばない何者かが住まう場所なの。学問では高位次元の存在が定義されているみたいだけれど、それはあくまでも学問であって人間に知覚できるものでは無い。」

「……。」

「私のスタンドは、もしかしたら生命の進化を方向付けた大いなる何者かの存在の証明なのかもしれない。もしもそんな存在がいるのだとしたら、きっとそれは社会を築き上げる生命の営みを優しく見守っているわ。」

 

シーラ・Eは、そこで決定的に理解した。

彼女が現況を理解できないのも当然だったのである。何故ならばそこは、本来ならば人間には理解も知覚も出来ない何者かが住まう場所だったのだから。生命の進化を方向付けた大いなる何者か、人がそれを何と呼ぶかなど言うまでも無い。今のシーラ・Eはまさしく、釈迦の掌の上で転がされる孫悟空も同然だった。

 

彼女が今現在存在しているのは道化がその存在を許しているからであり、彼女は道化にそっぽを向かれてしまえば瞬く間に次元の狭間に呑み込まれるだけの存在でしかない。道化が気まぐれで手のひらを閉じれば、シーラ・Eはこの世に痕跡を残さずに消滅してしまうだろう。

死ぬのではない。シーラ・Eは存在しなかったものとして、世界に決定付けられる。

 

天秤の世界には時間軸も空間軸も存在しない。

それゆえに天秤の世界に一旦巻き込まれてしまえば、いかなる強者であろうとその存在は無に等しい。たとえ空条承太郎だろうと、ディオ・ブランドーだろうと。

 

「……。」

 

意識が歪み、視界は明滅し、声はどこから響くのかわからない。

目の前にメロディオはいるが、それは虚像でしかないとシーラ・Eは直感した。

ここは世界に展開された道化の体内であり、ちょっと道化の気が変われば彼女は瞬く間に消化されてしまう。

 

「あなたが姿を現してくれたことは非常に幸運だったわ。だからこうやって密談が出来る。幸運というよりは、あのボスが今までに組織で築いてきた人徳と言った方がいいかしら?目先の強さしか理解しないあの男には、きっと永遠にわからないでしょうね。社会を築けば、見えないところが有利に動いていく。さて、フランシス君が動かした戦局は一体どうなっていくのかしら?まあそれはいいわ。」

「……何が言いたいの?」

「あなたの本当の戦場は、ここじゃあない。あなたの戦場は、あのジョルノというボスが敵に敗北した時に初めて現れる。あなたのやるべき事は、あのふざけた男に従順に従うふりをして時間を稼いで被害を最小限化すること。それがあなたがあなたのボスのために出来る一番の恩返し。そうすれば、あの不愉快な男は遠からず私がこの世から抹殺してやる。」

 

メロディオの瞳に漆黒の殺意が宿り、それが向けられたわけでもないのにシーラ・Eは根源的な死の恐怖を感じた。

 

「それだけ強大なスタンドを持っているのなら、アンタがアイツを倒せばいいじゃない!!!」

 

シーラ・Eが叫んだ。

 

「それが出来ないからこうやって密談しているのよ。……この世に無敵のスタンドなんて存在しない。何もかもを解決する都合のいい力なんて存在しない。私のスタンドは発動すれば強力無比だけれども、効果半径が広いわけではないし、発動までにタイムラグが存在する。近距離パワータイプのスタンドが私の弱点なのよ。あの男は他人を信用せず、私をひどく警戒している。少しでも疑われれば、暗殺は失敗に終わる可能性が高い。あの男が欲に目が眩んで姿を現した今がチャンスなのよ。私の道化は外の世界じゃあまるで戦闘力を持たない。すでに何人もの私の部下があいつの情報を得るために命を落としている。でもまだ、情報が足りて無い。だから確実に暗殺が可能な隙が出来るまで、私の時間を稼ぐ手駒が必要なの。」

「……。」

 

シーラ・Eは黙って考え込んだ。

 

「それはあの男が手駒に加えようとしているあなたにしか出来ないことなのよ。あなたには才能があり、あなたは飛躍する可能性を秘めている。でもあなたのボスはあなたを完全には信頼していない。それはあなたの時間が姉が死んだ時に止まってしまっているから。あなたが亡くなった姉に注いだ愛のほんの一部でもそれをイタリアに向けたのならば、その時はあなたはあなたのボスに全面的に信頼できる部下として扱われるし、おそらくは劇的に成長を遂げることとなる。」

「……。」

「社会的に地位の高い人間とは社会に対する責任も大きくなるし、築き上げたものに対して愛着を持つのは当然のことよ。あなたの真の戦場は、あなたのボスが負けた場合にあなたのボスが築き上げた大切なものをなりふり構わずに守り続けることなの。」

「ジョルノ様はッッッ!!!」

 

シーラ・Eは叫んだ。

彼女はジョルノが敗北することなど考えたくもなかった。

 

「理想だけで生きていければ、それが一番だけどね。あなたのボスがあの男に勝てば確かにそれが一番。でも人生は、必ずしもそうなるとは限らない。歴史がそれを証明している。……忘れないで。人が社会を信じられるのは、どこかの誰かが汚い部分を請け負ってくれているからなの。理想に酔いしれることが出来るのは、表社会に生きる人間だけの特権なのよ。」

「……ッッッ!!!」

 

メロディオは、優しく笑った。

 

「戦いとは、力任せに敵を倒せばいいという単純なものでは無い。あなたのボスが負ける可能性は高い。そうなれば現実的に、あの不愉快な男にスペインは蹂躙されることになる。秘密裏に被害を減らすように働きかけるストッパーがいなければ、あの男はやりたいようにやり出すことになる。理想とは忘れてはいけない大切なものなのだけれど、それでも理想は現実には勝てないの。有事に対する備えはいつだって必要なのよ。理想に酔って正しさを盲信しているうちは、あなたはいつまで経っても子供のまま。」

 

道化の正体は、スペインの社会を裏側から優しく見守る慈母だった。

慈母であるがゆえに、我が子(スペイン)が危険に晒された時はその全ての人間性を捨て去る漆黒の殺意を持ち合わせているのである。

 

「……。」

「知恵を使って被害を減らすこともまた戦いよ。あなたは私の手駒になりなさい。そうすれば私も出来る限りの事はするわ。」

「?」

 

メロディオはシーラ・Eにそこまで告げると、何故かシーラ・Eに近寄って突然彼女の臀部を撫でた。

立て続けに彼女の服に手を入れ、彼女の耳たぶの裏を舐めた。

 

「オイ、何をする!なぜ私の尻を撫でる!!!」

 

メロディオはとても楽しそうに笑っていた。

シーラ・Eはその笑顔に、猛烈に嫌な予感を覚えた。

 

「あなたがまずやるべき事は、愛を知る事。私が愛とは何かを教示してあげるわ。ウフフフフ、やっぱり若い娘は肌に張りがあっていいわねえ。」

「おい、待て!やめろ!何故服に手を入れる!どこを触っている!」

 

それだけ告げると、メロディオの手は次々とシーラ・Eの服の下を弄った。

 

オイ、ヤメロ!そこを触るな!どこを舐めているッッッ!!!お前は虚像では無かったのかッッッ!!!

……助けてッッッ!ジョルノ様ッッッ!!コイツ、変態だッッッ!!!

 

「た、助けてジョルノ様ァァァーーーーッッッ!!!」

 

神秘の世界にシーラ・Eの悲鳴がこだました。

 

道化に行き交ってはいけない。道化に行き交ってしまえば泣いて許しを乞う羽目になる。

道化は常人には理解できない存在、変態だった。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

細剣が舞い、銃弾が発砲される。時間差を置いて荊が襲いかかって来た。

ディアボロは細剣を躱し、迫り来る銃弾を時間を跳ばして避け、体を搦めとる荊をキング・クリムゾンで弾き返した。

 

ーーマリオ……ズッケェロッッッ!!!

 

ディアボロは戦局を俯瞰して、歯噛みした。全てはあの忌々しい、マリオ・ズッケェロとかいうチンピラのせいである。

ズッケェロさえ居なければ、この戦局においてとっくの昔にディアボロは勝利を収めていたはずだった。

ズッケェロの細剣は一刺しでディアボロを行動不能にし、ズッケェロのシャボンはディアボロの能力の発動を阻害する。

 

ジョルノとミスタはディアボロがズッケェロを警戒しているのを見てとり、前列に二人が陣取って後列からズッケェロが刺すという戦い方を徹底していた。これがディアボロにとっては非常に厄介だった。

仮にジョルノかミスタを仕留めることが可能であったとしても、攻撃した瞬間にディアボロが刺されてしまっては元も子もない。ズッケェロは自身の護衛のために、自身の周囲に集中的に能力発動阻害のシャボンを浮かせている。キング・クリムゾンは時間を跳ばすことが出来ても、攻撃の瞬間は姿を現さざるを得ない。下手に攻撃に能力を使い過ぎれば、持続に難を抱えるディアボロのキング・クリムゾンは防御のための能力発動が疎かになる。

ディアボロは、非常に不愉快な思いをしていた。

 

「無駄ァァァッッッ!!!」

 

ジョルノ・ジョバァーナのゴールド・エクスペリエンスが拳を握ってディアボロに攻撃を仕掛けた。

ジョルノの背後でマリオ・ズッケェロが動き、ディアボロはそちらを警戒して目を取られてしまう。シャボンが地面を密やかに浮遊し、ディアボロはシャボンから距離を取りジョルノの拳を時間を跳ばして躱した。直後側面からミスタが発砲し、ディアボロの側頭部に風穴が空いた。

 

「……お前は、誰だ?」

「……。」

 

ジョルノがディアボロに問いかけ、ディアボロは炎を背景に不敵な笑みで返した。

ジョルノの傍にミスタが寄り添った。

 

「ナルホドな。カラクリが見えて来たぜ、ジョルノ。俺の今の銃弾は確実に奴に当たっていた。」

「ええ。それにポルナレフさんから聞かされた話。奴は二重人格だッッッ!つまり……スタンド使いは二人いるッッッ!!!」

 

ディアボロがここにいる経緯と、矢の変遷をそろそろ明かす必要があるだろう。

 

そもそもの発端。若い頃にディアボロがエジプトで発掘した矢は六本。

一本はディアボロが組織幹部のポルポに渡し、残りの五本はエジプトのディオ・ブランドーに売り払ってパッショーネ設立の資金となった。

五本の矢はディオからエンヤ婆に渡り、一本は吉良吉廣へ、一本は虹村形兆へ、一本はポルナレフが回収し、一本はプッチへと譲渡された。

ここに一本、行方が分からない矢が存在する。

 

こう考えれば辻褄が合うのではなかろうか?

ディアボロは用心深い男である。手元から一度は全ての矢を手放したが、後になってよくよく考えてみれば矢という有用性の高いものを全て己の手元から放すのは愚行だと考え直した。いずれ何かに使えるかもしれないと、そう考えたのである。

一度は全ての矢を手放したものの、惜しくなってエンヤ婆から秘密裏に一本だけ買い戻して自分だけしか知らない場所に密かに隠しておいたのである。

 

そして、二人のスタンド使い。

ポルナレフのレクイエムで起きた現象で、ポルナレフと亀の精神は入れ替わった。精神が入れ替わる直前、ポルナレフはディアボロのキング・クリムゾンの攻撃によって死ぬ寸前だった。しかし、死ぬ寸前だったポルナレフの体に入っていたはずの亀の精神はなぜか亀に戻って来ている。それがジョルノの見落としだったのである。

戻ってきた亀の精神と同様に、死にかけていたブチャラティの体に入っていたヴィネガー・ドッピオの精神がディアボロの体に戻って来ていたとしても何ら不思議は無い。レクイエムに動作や意思の力を無にされたのはディアボロであって、ヴィネガー・ドッピオではない。

 

そしてレクイエムに攻撃されて幾度も死を体験したはずのディアボロ。しかし実際に幾度もの死を体験したのはディアボロではなくヴィネガー・ドッピオであり、ディアボロは繰り返される死から逃がれ続けた。ドッピオは主人に対する忠誠で幾度もの死を乗り越え、やがて終わりない死の体験の果てにディアボロが矢を隠していた場所の近くへと偶然たどり着いた。

 

ディアボロは狂喜する。

レクイエムの呪縛を解くにはレクイエムしかないと、ディアボロはそう考えた。ディアボロは喜び勇んで矢を己へと突き立てた。しかし、矢は己の試練から逃げ続けたディアボロにレクイエムの力を与えることはなかった。ディアボロのキング・クリムゾンは完成されており伸び代が無く、肉体年齢的にもスタンド使いとしてとっくに下り坂だった。何しろディアボロの最盛期であるジョルノたちとの戦いから、今現在およそ十年の月日が経っているのである。

矢は代わりに、ヴィネガー・ドッピオに力を与えた。ドッピオは死を幾度も乗り越え、主人を苦境から救いたい一心で戦い続けた。矢はドッピオの願いに呼応したのである。

 

ドッピオが主人の苦境を打破するために得た能力は、吉良吉影のバイツァ・ダストに少し似た能力。過去に攻撃を受けた時間を消し飛ばすという能力だった。キング・クリムゾンはもともと時間操作系のスタンドである。ドッピオはこの能力を用い、過去のレクイエムに攻撃された時間を消し跳ばして主人であるディアボロを救ったのである。

しかしこの能力の発現により、墓碑銘(エピタフ)の能力は使用不可となる。スタンドは原則、一人一体。もともとキング・クリムゾンの墓碑銘(エピタフ)は、ヴィネガー・ドッピオのスタンドの領域を使って発現した能力だった。

矢がプッチに貸し渡されたのは、ディアボロの能力がレクイエムでなかったから出来た芸当だった。

 

未来に向かって時間を消し跳ばすキング・クリムゾンと、過去に攻撃を受けた時間を消し跳ばすキング・クリムゾン。

表のディアボロと裏のヴィネガー・ドッピオ。

永遠の絶頂を望むディアボロはスタンド使いとして衰え始め、代わりに台頭したのはこれから絶頂期を迎えるヴィネガー・ドッピオ。

ディアボロは献身を続けたヴィネガー・ドッピオを自身の腹心として認め、対話することを望んだ。そして対話を続けることにより互いの理解が深まり、二人の帝王は自在に入れ替わることが可能となった。

 

この能力の発現により、ディアボロはキング・クリムゾンの最大の弱点であった持続時間の克服をすることが可能となる。

表のディアボロがスタンドを使用して出来た隙を、裏と入れ替わりヴィネガー・ドッピオが補う。ドッピオがスタンドを使用して出来た隙を、ディアボロが補う。表と裏は頻繁に入れ替わり、互いに弱点を補い合う。

表と裏の二人の帝王が操るキング・クリムゾン。キング・クリムゾン・二つの(ドゥエディ)

 

それが今のキング・クリムゾンの秘密だった。もしもディアボロが全幅の信頼を置く存在がいるのだとしたら、それはヴィネガー・ドッピオ以外に有り得ないのである。

 

ディアボロの計画の筋書きは、真実を知る者を消してジョルノにドッピオの正当性を保証させた後に、ドッピオを帝王にしてパッショーネを牛耳る目論見だった。ヴィネガー・ドッピオはかつての親衛隊員としてパッショーネに知れており、適当な美談でもでっち上げればいい。例えば死んだふりをしてパッショーネの長期極秘任務に携わっていたとか、そのあたりは真実を知る者が居なくなれば案外どうにでもなる。手駒にシーラ・Eを加えれば、美談の信憑性は増すだろう。

 

そしてディアボロが暗殺チームを警戒し始めたその最大の理由は、かつてドッピオの戦闘教練とパッショーネの戦力偵察を兼ねてサーレーと回転木馬前で戦った経験があるからである。

 

復活したディアボロは拠点をオランダに置いた。そしてイタリアに侵入して、ドッピオにチンケなオランダからの麻薬売人に変装させて送られてくるパッショーネの戦力を探った。現在のパッショーネの情報を得て攻略するためである。サーレーはズッケェロが入院している間にヤクの売人に警告を行いに向かい、ディアボロは回転木馬を展開させてドッピオの戦力の向上とパッショーネからの刺客の戦力を探った。

 

その際にディアボロが判断したことは、死を乗り越えたサーレーはディアボロが当初予想していたよりもずっと強かったということだった。スタンドに目覚めたばかりのヴィネガー・ドッピオが、キング・クリムゾンという強力なスタンドを操りながら危うく敗北しかけるほどに。ディアボロは慌ててドッピオと入れ替わり、回転木馬の本体に能力を解除する指示を出した。以来ディアボロは、サーレーを警戒することになる。ディアボロのパッショーネ奪還計画は、そもそもその時に歯車が狂い始めていたのである。

 

そして、マリオ・ズッケェロのソフト・マシーンとの戦いの相性。

ドッピオのキング・クリムゾンは敵の攻撃を受けた後の後出しの半自動の能力であるために、ズッケェロの攻撃を受けた後に発動するはずである。

 

しかし、ディアボロにはその保証がないのである。ズッケェロの剣は刺した瞬間敵を無力化する。無力化された後にドッピオのスタンドが果たして本当に発動するのだろうか?実際に食らってみないことには確かなことは言えないが、発動しない可能性も高い。戦場において不確定要素とは恐ろしいものだ。当然ディアボロは今まで人間をペラペラにするスタンド使いなんかと戦ったことはない。試しにくらってもしも能力が発動しなければ、すなわち敗北である。

 

それが致命の一撃であれば、どれだけ短くとも死ぬまでに時間が存在する。たとえ頭部に銃弾を喰らおうが、攻撃を食らった後に過去の時間を消し跳ばす猶予が存在する。しかしズッケェロの刺突は、刺した瞬間に相手を無力化するのである。時間を消しとばす猶予があるか疑わしいのだ。

 

そのためにディアボロはズッケェロを最大限に警戒し、立場が上のはずのジョルノとミスタは切り札であるズッケェロを守りながら戦っているのである。

 

「はじめまして。ジョルノ・ジョバァーナ。偉大なるディアボロ(ボス)に逆らう愚か者よ。」

 

彼は笑った。

その肉体は先程までジョルノたちが戦っていたディアボロのものである。

現在の彼の姿は、ジョルノたちが十年前に戦ったディアボロの姿と酷似していた。

ガスステーションは今なお燃え盛り続け、ジョルノとミスタとズッケェロは暑さで汗を流しながら緊張している。

 

「お前がッッッ!!!」

「ああ。俺はイタリアの偉大なる帝王、ディアボロの唯一にして無二の相棒、ヴィネガー・ドッピオだ。」

 

ドッピオは尊大に笑い、ミスタはドッピオ目掛けて銃弾を発砲した。

 

「食い破れッッッ!!!(ウーノ)ッッッ、(ドゥーエ)ッッッ、(トレ)ッッッ!!!」

 

三発の銃弾はドッピオの顔面を突き破り、直後にドッピオは攻撃を受けた時間を消し跳ばした。

ドッピオの顔面に三つの風穴が空き、直後に復元されていった。

 

「おいおい、下っ端は教育がなっていないな。まだ俺が喋っているだろう?偉大なる帝王の友人の言葉を遮るべきではないな。」

「……コイツッッッ!!!」

 

ドッピオは笑った。

 

「さて、貴様らが俺の主人から奪い取ったものを返してもらおうか?」

 

ヴィネガー・ドッピオと、ドッピオの操るキング・クリムゾンが地を駆けた。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

「キ……サ…マッ……!!!」

「……しぶとい奴だ。」

 

プッチとサーレーは、地面の上でおよそ三十メートルの距離をとって睨み合っていた。

九十メートルもの上空から防御できずに地上に叩き付けられたプッチは、身体中から血を流していくつもの骨が折れていた。

矢で進化したメイド・イン・ヘブンは耐久も大幅に上昇しており、墜落により多大なダメージを受けてはいるものの死亡には至らなかった。

一方のサーレーも、プッチを落下の緩衝材にしてクラフト・ワークの全能力を防御に回しても、やはり多大なダメージを受けて身体中から血を流している。

 

二人はローマの高空から落下し、落下の衝撃で距離をとって路地に転がった。やがてダメージの軽いサーレーが先に立ち上がり、続いてプッチが立ち上がった。二人は身体中から血を垂れ流し、しかしそれを気にもとめずに眼前の敵に集中した。

 

プッチの激情は静かに鎮火し、代わりに漆黒の殺意がプッチの目に灯された。

眼前の敵が、激情に駆られて冷静さを失えば、進化したスタンドであっても敗北してしまう難敵であることをプッチは理解したのである。

 

プッチはサーレーを指差して宣言した。

 

「……貴様は何があっても許さない。天国への道程を邪魔し、あまつさえディオから授かった申し子を処分した。……先のことは先で考えよう。今だ。今、私は貴様を殺す。」

「その言葉はそのままお前に返そう。処刑するのは、俺だ。」

 

メイド・イン・ヘブンの加速は停止しており、サーレーは痛む身体に鞭を撃ってプッチに走って詰め寄った。

プッチは迫り来るサーレーから退避して、周囲を走って再び加速を開始した。

 

「今度は、確実に殺す。確実に加速して、その速度が最高点に到達した瞬間に貴様のその首を跳ね飛ばしてやろう。」

 

プッチの目に宿る漆黒の殺意は、プッチの身体中から流れ落ちる血液と相まってローマの街並みに赤黒く残照を引いた。

メイド・イン・ヘブンはローマの市中を駆け、サーレーはクラフト・ワークを使用して横広い建物の屋上へと駆け登った。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

「貴様が、ムーロロを殺したのかッッッ!!!」

 

ミスタが銃弾を連射し、ズッケェロがミスタに影のごとく付き添った。ミスタの背後からジョルノがディアボロに向かって詰め寄り、ズッケェロは音を立てずに密やかにジョルノの背後に移動する。

 

「誰が殺したかなど、今更関係ないだろう?肝心なのは、誰が生き残るかだ!!!」

「ああ、その通りだ。生き残るのは僕たちで、死ぬのはお前だッッッ!!!」

 

ドッピオは詰め寄るジョルノの背後に付き従うズッケェロを確認して、ゴールド・エクスペリエンスの拳をはたき落として距離をとった。ドッピオがミスタの方へと向かう進路上には、密かにシャボンが浮かんでいた。

 

ドッピオの裏側のディアボロはそれを確認して、ズッケェロの能力の厄介さを再確認した。

ドッピオがミスタの方に向かえばシャボンを踏む事になり、意識の混濁した瞬間に敵は総攻撃を放っていただろう。意識が混濁する僅かな時間ディアボロは未来に向かって時間を跳ばせず、ミスタの放つ銃弾を食らった後にドッピオの能力で回避する必要が出てくる。そうなれば次はジョルノの拘束する荊とズッケェロの相手を行動不能にする細剣がディアボロを波状で襲う事になり、逃さないように挟み込んで時間差で攻撃されれば未来に時間を跳ばす能力は片方を回避できてももう片方は回避しきれない。最後にズッケェロの細剣で攻撃されてしまえば、それはドッピオの能力では回避できない可能性が高くおそらくは詰みになる。

 

「厄介な男だ。マリオ・ズッケェロッッッ!!!貴様はボスにさえ従えば、いい暮らしをさせてやるものをッッッ!!!」

「ハハーン?俺は以前のパッショーネでは、ロクな仕事ももらえないうだつの上がらない下っ端だよ?そういうことはもっと早く言ってくれないと、信頼性ゼロだよ?今更そんなことを言われても、信じられるとでも思うか?」

 

ズッケェロは細剣の切っ先をドッピオに向けてクルクル回し、挑発した。

 

「キサマッッッ!!!」

「落ち着け、ドッピオ。戦いは冷静さを欠くべきではない。」

「はっ!!!」

 

ドッピオとディアボロは再び入れ替わった。

 

「……ままならないものだ。俺が育て上げたパッショーネは奪われ、至高だと考えた能力はたった一人のチンピラに否定される。」

 

ディアボロは自嘲して笑った。

 

「……残念だがディアボロ、姿を現してムーロロを殺害したお前を、僕は許すことが出来ない。」

「……フン。そんなこと言われなくとも理解している。結局のところ俺と貴様たちは、どうあっても殺し合う間柄だったということなのかもしれんな。」

「運命なんて、存在しねえ。俺たちが殺し合うことになったのは、互いが互いに許せねえからだろう。俺たちは娘を殺そうとしたお前を許せねえし、お前は組織を奪った俺たちが許せない。違うか?」

「……そうかもな。」

 

ミスタは銃を構え、ジョルノも戦いの姿勢をとった。背後にはズッケェロが付き従い、彼らはガスステーションで決着の時を覚悟した。

 

「……お前のパッショーネにはいいところもたくさんあったのにな。お前のパッショーネに救われた人間もたくさんいる。死んだナランチャやアバッキオ、ブチャラティももともとは表社会に居場所がなくて、お前のパッショーネに救われた人間だった。……ペリーコロさんは死に際に、お前のパッショーネに感謝していたよ。」

「……理想を忘れし帝王の末路か。……皮肉なものだな。」

 

ジョルノとディアボロは向かい合い、静かに笑った。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

結局、ディアボロの最大の間違いは他人を信用せずに孤独に物事を進めたことに尽きるのだろう。

ディアボロは敵を警戒するあまりに誰も寄せ付けず、味方を作ることを怠った。

 

ジョルノの言う通り、もともとディアボロのパッショーネはイタリア社会に必要と見做されて勢力を伸ばしたのである。

ディアボロのパッショーネは道を踏み外した若者を拾い、ペリーコロのような人間を救ってきた。

しかし他人を信用しないがゆえに個人で物事を進め、客観的な意見を取り入れることはなかった。

 

客観的な意見が無いからディアボロは姿を見せない用心深い性格であるにも関わらず、敵意を呼び寄せる社会に害をばらまく行為をしてしまっていたのである。そしてそれは周囲の社会の反感を買い、ポルナレフやジョルノといった敵を呼び寄せた。客観的な意見が無いから暗殺チームが扱いの悪さに不満を抱えていることを、実際に謀反が起こるまで気付けなかった。

 

幅を認められないから、他人を尊重出来ないから、他者との社会を築けないから、ディアボロは個人でいくら強かろうとも以前敗北したのである。

理想を忘れた帝王に矢が力を与えたのは、孤独な帝王にたった一人寄り添う付き人を矢が不憫に感じたからなのかもしれない。

 

 

 

◼️◼️◼️

 

サーレーは周囲の視界を遮るもののない開けた屋上に立った。

恐らくここはショッピングモールか何かの建物の屋上だろう。

 

サーレーは目を閉じて静かに集中し、己の手札を数えた。

 

一枚、ラニャテーラ。クラフト・ワークの体からエネルギーが発され、周囲の地面に蜘蛛の巣が張り巡らされた。

二枚、コマ送り。目を開けたクラフト・ワークの眼前の景色は細やかに固定され、敵が近付いてくるタイミングを見据えた。

三枚、クラフト・ワークは周囲の屋上の床を砕き、宙に瓦礫片を固定した。ほとんど効果が無いだろうが、ほんの僅かな敵の行動の阻害くらいにはなるかもしれない。

 

そして……四枚。四枚目に関しては、使えるかどうかわからない。と言うよりも、使える自信が無い。

しかし周囲を駆けるメイド・イン・ヘブンは最大限までの加速を決定付けており、四枚目の札が使えなければ敗北しかない。

 

プッチはビルの高層から突き落とされて思わぬ痛手を負ったことにより、クラフト・ワークの能力を今度こそ油断なく警戒しており、次に攻撃をするときはメイド・イン・ヘブンの全能力をかけた一撃となるだろう。

サーレーにとっては幸運なことに、プッチは落下の衝撃で脚部の骨を何本も骨折しており、メイド・イン・ヘブンの最高速は大幅に減速されていた。ゆえにコマ送りで敵襲撃のタイミングを見切ることが可能だった。

 

「必ず殺すッッッ!!!恐怖しろ!懺悔しろ!神の御名において貴様に告げよう!貴様は、地獄行きだッッッ!!!」

 

プッチの声が遠い。

しかし、どうでもいい。プッチが何を言ってるかも、どれほど加速しようとも、それは戦いの結果に直結しない。そんなものはサーレーが注意を割くべきものではない。足が震えるのも寒気がするのも、頭が痛いのもどうでもいい。

 

サーレーは屋上からイタリアの街並みを見渡した。

最後の札が使えるかどうかは、それにかかっている。それがこの戦局での勝敗の鍵を握っている。

 

サーレーは迫り来るメイド・イン・ヘブンを前に、静かに笑った。

 

◼️◼️◼️

 

名前

ジェリーナ・メロディオ

スタンド

バイオレーティブ・ジェスター・エル・モンド

概要

道化の真の姿であり、周囲に道化の住み処を展開する。その世界では空間も時間も一切存在せず、その世界は人間に理解できるものではない。

 

天秤の能力はその世界に生きる他者の理解が必要なため、理の変更を効果半径内に存在する他者に聞かせることが能力の発動条件となる。そのために宣告が必要なために施行に時間がかかり、問答無用で襲われたら即敗北となる近距離パワータイプのスタンドが彼女の弱点となる。もちろん彼女はそれの対策もしているが、ディアボロのキング・クリムゾンの身体スペックは非常に高いために、現状は無理な行動に出れずに隙を伺っている。

 

名前

ディアボロ

スタンド

キング・クリムゾン・(タボロ)

概要

未来に向かって時を消しとばすディアボロのキング・クリムゾン。以前ジョルノたちと戦った時がディアボロの最盛期。それより年月が経った現在、本体のディアボロがスタンド使いとして衰え始めており、永遠の絶頂を望むディアボロは全幅の信頼をおくヴィネガー・ドッピオの成長に希望を見出した。

 

名前

ヴィネガー・ドッピオ

スタンド

キング・クリムゾン・(インディエトロ)

概要

過去の時間を消しとばす、エピタフが変質したキング・クリムゾン。この能力でレクイエムに攻撃を受けた時間を消しとばした。バイツァ・ダストと少しだけ似た能力だが、能力を三つ持っている吉良吉影よりも能力発動条件が圧倒的に緩い。致命の攻撃を食らった時は、自動で発動する。

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