噛ませ犬のクラフトワーク 作:刺身798円
みなさま、御指摘有難うございます。
前回の話はそこを少し編集していますが、内容に変更は有りませんのでお気になさらないでください。
『……ここは。』
見覚えのある景色だ。寄せては返す波の音が心地よい。
ここは確かカプリ島の波止場だ。以前サーレーが死にかけた時も、ここにいたはずだ。ということは……。
『……そうか、俺は死んだのか……。』
サーレーは天を仰いだ。空は晴れて澄み渡っており、遠くに鳥の影が見える。
心が変に穏やかだ。
自分が今なぜここに居るのか、サーレーはそれを自然と受け入れた。
サーレーはジョルノの命じた任務で死に瀕し、ジョルノに任された職に殉じた。
それがボスとの契約だ。サーレーは職責を全うした。少しはまともな人間になれたのだろうか?
『……それにしても、死んだ暗殺チームの人間はここに来る決まりでもあるのかな?』
サーレーは笑った。
死にたくはないが、それでも誰しもに終わりはやって来る。
現実に、危機にスーパーマンが唐突に現れて助けてくれるなんてことはない。
現実は非情で、サーレーは彼が出来る範囲でやれるだけの事はやったという自負がある。
『それでも、ズッケェロくらいは悲しんでくれるかもしれねえな。』
もしかしたら先に死んだムーロロも来ているかもしれない。
サーレーが波止場を見回して辺りを探そうとして、後ろから声をかけられた。
『またここに来たのか、サーレー。……まさか用済みのはずの俺にまた出番が来るとはな……。』
『アンタは……。』
サーレーに声をかけたのは、かつて暗殺チームに所属していて、以前にもここでサーレーたちが出会ったことのあるリゾット・ネエロという名の男だった。
『久し振りだな、チンピラの殺し屋よ。』
『アンタはまだこんなところに居たのか?』
『……ああ。楽しませてもらったよ。社会には愛が必要、か。』
リゾットは眩しそうに目を細めて空を見上げた。口元は微かに弧を描いている。
カプリ島の天候は、快晴だ。
『楽しませてもらった?』
『ああ。死者が化けて出るのは、この世に未練があるからだ。』
『未練?』
『俺たち前任の暗殺チームは善悪の判断が弱く、倫理も道徳も持ち合わせていないロクでもない連中の集まりだ。俺たちは生きている間に間違いを犯し、真っ当な居場所が存在しなかった。それでも、だ。』
『それでも?』
『それでも誰にも顧みられる事なくゴミのように死ぬくらいだったら、何かの役に立ってなんらかの意味を持って死にたかった。俺たちも、ずっと生きている意味を探していたんだ。俺たちだって幸せな人生を送りたかったし、イタリアという国自体は嫌いではなかった。俺はあのジョルノという男に使われたお前が……実に羨ましい。』
『……。』
『ま、終わった事はどうにもならんがな。……それではさらばだ、我が後輩よ。俺たちのこの世への未練もなくなった。アリーヴェデルチ!』
それだけ告げると、リゾットは背を向けて島に着けてあるボートへと向かっていった。そこには彼の仲間たちが待っている。
『ま、待て!』
『何だ?』
呼び止めるサーレーに、リゾットはゆっくりと振り返った。
『アンタは俺の死神ではないのか!俺を連れていくんじゃあないのか!』
『俺はただの罪人だよ。社会の合意を得られない暗殺チームは、ただの罪人だ。神なんていう高尚な物ではない。死神はお前だ。』
『しかし俺は死んだ!俺は……。』
『お前が言ったんだよ。愛には愛で返すべきだ、と。……スーパーマンは、いるんだよ。お前がスーパーマンだ。』
リゾットは、穏やかな表情で笑っていた。
『……?』
『慈愛には、友愛を。俺が思うに、多分本来の予定より大幅に多くの魂を取り込んでしまった弊害なんだろうな。特に、大量虐殺の黒幕がエンリコ・プッチだと知る魂を取り込んだのが致命的だったんだろう。』
『致命的?』
『アメリカで愚かな男の妄想に取り殺された千人を超える罪人の魂は、彼らを不当に死に至らしめたエンリコ・プッチを憎み、彼らの死後の安寧を祈ったお前たちに感謝した。不当に殺された罪人たちの魂は、お前の力になることを願ったんだよ。』
『……。』
『祈りは、いつか誰かに届く。祈りは目の前の問題の解決の役には立たずとも、社会を築けばお前の願いを理解し、助けになりたいと思う者がいつか現れるのかもしれない。緑色の赤ん坊は
『……一体何を?』
『目が覚めればわかるさ。』
それだけ告げると、用は終わったとばかりにリゾットは船へと乗り込んだ。
『おい、アンタなんか喋らなくていいのか?アンタの後輩だろう?』
ベィビィ・フェイスのメローネが問いかける。
『そうだぜェ。アンタが手塩にかけて育て上げた人材なんだろ?』
リトル・フィートのホルマジオも聞いた。
『そいつにはそいつの考えだってあるんだろう。第一俺は、そいつがボスに俺たちの情報を流したことを許してねえぜ。』
ザ・グレイトフル・デッドのプロシュートが仲間を諌めた。
『プロシュート、やめておけ。争いとは生者の特権だ。死者が争っても滑稽なだけだろう。』
『……確かにそうかも知んねえな。リゾット、アンタはいいリーダーだよ。アンタにゃ敵わねえ。アンタは賢明な男だ。』
メタリカのリゾット・ネエロがプロシュートに笑いながら声をかけ、プロシュートが応答した。
『アイツ……ズルイ!ズルすぎる!!!』
マン・イン・ザ・ミラーのイルーゾォが羨んだ。
『だからお前は、諦めろと言ってるだろう。』
ホワイト・アルバムのギアッチョが呆れた。
ソルベとジェラートは相変わらず我関せずでイチャつき、ビーチ・ボーイのペッシは先輩方のために軽食を作っている。
『……俺が教えられる事は全てアイツらに伝えてある。アイツらならもう大丈夫だ。』
オール・アロング・ウォッチタワーのカンノーロ・ムーロロが、ニヒルに笑った。
帽子を目深に被り、足を組み、とても優しい表情をしていた。
船は大海に棹差して、ゆっくりと進んでいく。ムーロロも残念だが、ジョルノと出会う前は不当に人を死に至らしめる罪人だった。
罪人たちの向かう先は、良くても地獄しかない。或いはサーレーたちの言うように天国や地獄など一切存在せずに、これは死に瀕したサーレーが垣間見たただの夢だったのかもしれない。それは永遠に、誰にもわからない。その先は一方通行で進めば誰も帰ってこれず、終わりにはいつだって寂しさが伴うものだ。
たとえそれでも。
生きている間に何者にもなれず、何も築けずに犬死しても。
地獄の業火に身を焼かれても、どうしようもない極寒に身を竦ませたとしても。
たとえ行き着く先が、虚無であったとしても。
それでも……。
『漆黒の闇の中にも、人の幸福は存在する。暗闇の中でも、人は強く生きていける。お前は、俺たちにそれを証明してくれた。
彼らにも、一切の救いが無いわけではない。
◼️◼️◼️
「……君たちは、一体何を拾ってきたんだい?」
「……すんません。俺にもわからねえっす。」
ジョルノは、困惑した。ズッケェロも、困惑した。ミスタも、困惑している。
一体何が起こったのか?
腹部に風穴が開いて死に瀕したサーレーを救うべく、ジョルノは急いでサーレーに近寄った。しかし怨念のスタンドを使用したサーレーは精神力が枯渇しており、生命を操るゴールド・エクスペリエンスはサーレーに触れた瞬間そのことを理解した。傷だけ直しても、そもそもの生命の元が存在しないのであれば生きる見込みは薄い。
それでも傷を回復させるべきかジョルノが僅かに迷っている間に、何処からともなく緑色の赤ん坊が現れた。
そして……そのままサーレーの穴が空いた腹部と合体した!
合体って何だ!君たちは一体何を拾ってきたんだ!僕たちにどうしろと言うんだ!?
ジョルノとミスタは激しく心の中で突っ込んだ。ズッケェロも何が起こったのやらわからずに困っている。
「う……。」
「目を覚ますぜ。」
ミスタがつぶやいた。
「……どうします?アイツただでさえ金が無くてモテねえって言ってたのに、アレじゃあ……。」
「……そんなん知らねえよ。どうしようもねえだろう。」
ズッケェロとミスタがやりとりしている間に、サーレーは目を覚ました。
「……金でなんとか誤魔化せないかな……。」
ジョルノがボソッとつぶやいた。
「……ボス……俺は一体……。」
「……サーレー、今回の騒乱において、君は多大な貢献を果たしてくれた。その功績に免じて、褒賞金を贈ろうじゃあないか!」
ジョルノが変に高いテンションでサーレーに告げた。なぜかサーレーではなく横を見ている。
「……俺はなんで生きて……?」
「よかったじゃねえか、サーレー。これでお前も貧乏神卒業だ!」
ミスタがサーレーの肩を抱いた。ミスタの視線も明後日の方を見ていた。
「副長……いえ、そんなことより……。」
「相棒、やったぜ!これで俺たちも金持ちだ!」
ズッケェロも片手を上げて達成感を体で表している。しかしそのズッケェロの視線はやはりサーレーには向かっていない。
「ズッケェロ……?」
どうにもみんなの様子がおかしい。
戦いに勝って死んだはずの俺は生きていた。だが誰も俺と目を合わせようとせず、話が不自然だ。なんて言うか、白々しい。と言うよりも、サーレーはそんな事より優先するべき事を思い出した。
「サーレー、君たちには感謝している。さっそく慰労を執り行なおう。」
「いえ……ボス。向こうで俺の仲間が一人死にかけています。どうかそいつを救ってもらえませんか?」
「そうか……ならば急ごう。」
彼らはアナスイの元へと向かっていった。
◼️◼️◼️
「なんでアンタは緑色なのッッッ!!!なんて言うか、とっても気持ちが悪いわッッッ!!!」
シーラ・Eが、激しく罵った。
やっぱりこうなるか……アナスイの治療を終えたジョルノは天を仰いだ。
シーラ・Eのその言葉に、サーレーは後ろを振り向いた。
ボス……当然緑色ではない。ミスタ副長……緑色ではない。ズッケェロ……やっぱり緑色ではない。
……と言う事は?
「俺かッッッ!!!」
「アンタしかいないじゃないッッッ!!!」
ジョルノとミスタとズッケェロは、頭を抱えた。これまで内密にしておいたのに、伏兵にバラされてしまった。……まあいずれバレるのは当たり前なのだが。
サーレーは建物に据え付けてある鏡に近寄った。そこに映る顔はまつげがいやに増え、顔中の変なところから毛が生え……なんか全体的に緑色だった。
「なんじゃこりゃああああああッッッ!!!」
「相棒よぉ、落ち着いて聞いてくれよ。俺たちがフロリダで拾った赤ん坊が、なんか知らないけどお前と合体したんだよ。お前が腹に風穴をあけられた後、赤ん坊がやって来て傷を埋めたんだよ。んでそのあとなんか見る見る顔から緑色の毛が生えてよぉー。」
……赤ん坊か。あの赤ん坊は出生が不明で、得体の知れない存在だった。
残念だがきっとそういうものだったのだと諦めるしかないのだろう。それよりも。
「合体ってなんだああああぁぁぁッッッ!!!」
ジョルノとミスタも深く頷いた。
◼️◼️◼️
ジョルノがアナスイの治療はしたものの、彼は血液を失っていた時間が長すぎた。
ジョルノ曰く、なんらかの後遺症が残る可能性が高いらしい。
彼を病院に送り届け、ローマの街角の道端に関わった残りの人物が集まった。
「さて、戦後処理か。」
ミスタがつぶやいた。
彼らの前にはフランシス・ローウェンとジェリーナ・メロディオが無言でジョルノの裁定を待っていた。
二人はジョルノとミスタが姿を現したことを確認して、大人しく投降した。
「さて、君たちは何か申し開きはあるかい?」
ジョルノがフランシスに問いかけた。
「……俺は個人で行動しただけだ。組織とは一切関係ない。」
「私も同じです。」
それだけ告げると、二人はそれ以上は何もないとばかりに沈黙した。
「ジョルノ様!待ってください!その女を処分するのはどうか……。」
シーラ・Eが声を上げた。
「俺からもどうか……。どうにかならないだろうか?」
「ボス……俺も同じ気持ちです。」
ウェザーとサーレーもそこに追随した。
「……君たちは何を言ってるんだい?」
「……ハア?」
ジョルノが何を言っているかわからないとばかりに首を傾げ、その反応を受けて全員が困惑した。
「僕は戦いで起きたローマの街並みの金銭的な被害のことを言ってるんだよ。コロッセオは歴史ある由緒正しい建造物だ。彼らを生かして返すのは当然だ。彼らを生かして返せば、他の国の裏組織に対して恩が売れてパッショーネは立場的に優位に立てるじゃあないか。そうすれば被害を受けた町の弁済交渉もパッショーネの圧倒的優位に進むし、ヨーロッパの未来におけるパッショーネの立場も明るくなるだろう?」
ジョルノは太陽のように明るく笑った。
「……それでよろしいのですか?」
「いいも悪いも、ここで起こったことは全てが暗闘だ。ここにいる人間が口を噤めば、誰も知るものはいない。あの男は、パッショーネの恥部でもある。不都合な真実は闇に葬ろう。歴史とはそうやって作られる。我を通して争乱を招くような人間に社会の長は務まらないさ。サーレーとズッケェロは、ウッカリ口を滑らせそうな気がするけどもね。」
「「うっっ!!!」」
ジョルノのその言葉に、メロディオとフランシスはジョルノの前に跪いた。
「偉大なるパッショーネのボス、ジョジョよ。我々の組織は祖国の平和を至上目的においています。私たちスペインは、平和を司るヨーロッパ裏社会の盟主としてあなたを全面的に支持いたします。」
「同じく、フランスもあなたを支持いたします。」
必要が認められれば、自身のボスでさえも処刑する権限を持つ処刑人の宣言は重い。
ジョルノは、正式にスペインとフランスに支持された。
「やめてくれよ。そんなことよりも敵の残党を片付けに行こうか。」
「敵の配下の残党の数、潜伏場所、わかっている限りの情報はこちらの紙にしたためてあります。」
メロディオが前に出て、ジョルノに一枚の紙を差し出した。
「私にはまだやるべき事が残されています。お暇をいただくことをお許しいただけますか?」
「?ああ。」
メロディオはそれだけ告げると、その場から姿をくらました。
◼️◼️◼️
夕闇がローマの街並みを覆い、空は茜色に染まっていた。
「はあ……はあ……ボス……。」
ローマの裏路地を一人の男が這い蹲っていた。そこが彼の終着駅。
その男は先ほどまで戦い、敗れた末に己のボスを助けるために必死で地を這っていた。
怨念で動くスタンド能力の効果は強力で、スタンドは発動せず体もほとんど動かない。
それでもドッピオはローマの裏路地を血に塗れた四肢で僅かずつ這い進み、何とか己のボスを生還させようと必死になっていた。
「ボス……何とか逃げ切りますので……どうか……どうか……再起を……。」
メロディオはそれを後ろから静かに見下ろしていた。
終戦を予感した彼女は、配下に指示を出して密かにゴミ収集車を手配していたのである。
ゴミはゴミ箱へ。臭うゴミはこの世から消滅させてやろう。そのための処刑人だ。
天秤の世界に巻き込んで確実にその存在をこの世から跡形もなく消してやろうと思っていたが……。
処刑人は心ある人間でなければならない。
先ほどまではドス黒い漆黒の殺意のみが彼女の胸中に渦巻いていたのだが、不愉快な対象にたった一人寄り添う従者に今の彼女は哀れみの感情を抱いていた。
「……気が変わったわ。あなたの死の運命は変わらない。それでも、跡形もなく消滅させるのはやめておいてあげる。人間として死なせてあげるわ。」
メロディオはそっと天秤に向けて呟いた。
「人がルールを守るのではない。ルールが人を守るのだ。だけどここでは限定的に、ルールは私のためにある。戦場を無様に逃亡した無能な指揮官は、部下の怒りを買って背後から射殺されて死亡する。」
メロディオの手にした黒光りする銃口が火を吹いた。ローマの裏路地に銃声が幾度も幾度も鳴り響いた。
いくつもの風穴が空き、銃声が響く度に裏路地に赤が飛び散った。
「
イタリアの夕焼け空がとても綺麗だ。
それが、ヴィネガー・ドッピオが最後に見た光景だった。
◼️◼️◼️
ホル・ホースは迷っていた。
戦闘の最中に彼のスタンドの拳銃は破損し、急遽戦場から逃走し代わりの銃火器を仕入れる必要に迫られた。
急いで戻っては来たものの、なかなかスタンドに合う銃が見つからずに手間取ってしまった。もうすでに決着はついてしまっている可能性が高い。あのディアボロという男が一旦敵前逃亡したホル・ホースを評価するとも思えない。しかしもしもまだ戦ってるようだったら、決定的な活躍をして評価をひっくり返す事ができるかもしれない。
裏社会のナンバー2という立場に未練タラタラなホル・ホースは、ローマの裏路地でタバコを咥え、どうしたものか迷ってウロついていた。もうすでにあたりは薄暗くなりつつある。
「よお、ホル・ホース。こんなところで奇遇だな。」
ローマの道に伸びた自分の影をなんとなく眺めるホル・ホースに、突然背後から声がかけられた。
その声はどこかで聞き覚えがあり、本能がホル・ホースに脇目も振らずに全力で逃げろと囁いていた。
だがどこで聞いたか思い出せず、ホル・ホースはついついそちらの方を振り向いてしまった。
ホル・ホースは固まった。
戦場では、予期せぬことが往々にして起こる。安全圏にいるはずのホル・ホースに、予想外の方角からいきなり流れ弾が跳んで来た。
「じょッッッ……。」
「父さん、知り合い?」
「ああ。昔馴染みだ。ロクでもねえ奴の部下だった男だが、逃げ足だけはいやに速くてなかなか捕捉することが難しい男だ。」
スター・プラチナが光速でホル・ホースの首をつかんだ。
「承太郎ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッッッッッ!!!!!!!」
「どうせコイツは相変わらずコソコソと裏でしょうもねえことをやってるんだろう。イタリアの陰謀に関わっている可能性が高い。連れて行くか。」
父親の空条承太郎のディスクをアメリカで取り返した徐倫は、父親を復活させて友人であるサーレーたちを助けるためについ先ほどローマに到着した。エルメェス・コステロとフー・ファイターズは、グリーン・ドルフィン・ストリート重警備刑務所で起こったことに対するアメリカ裏社会の査問会に出席している。徐倫も帰国したら査問会が待ち受けている。今回はスピードワゴン財団の口利きで、アメリカ裏社会に特例で時間を作ってもらっていた。
「あのチンピラにゃあ散々な借りを作っちまった。もうパッショーネには頭が上がんねえな。」
ホル・ホースは拳銃を握り、スター・プラチナは目敏く銃身を握り潰した。
徐倫のストーン・フリーが、ホル・ホースを後ろ手に縛り上げた。
「せめてこのくらいの手土産はなけりゃあ、恥ずかしくて顔合わせもできやしねえ。やれやれだぜ。俺も年老いたもんだ。まさかチンピラ軍団風情に気後れするとはな。」
「父さん、いい加減自分の年を考えなよ。」
「娘にまで窘められるとは……いよいよ俺も焼きが回ったな。」
時間を操るスタンド使いも年には勝てない。皮肉なものだ。
承太郎はとうに最盛期を過ぎている。
時間は誰にも支配できない。支配していると錯覚しただけだ。
神のごときスタンド使いはいても、それは決して神ではない。だから人は社会を育み、協力するのだ。
空条承太郎はそれを知っている。
空条承太郎は笑った。徐倫も向き合って笑った。ホル・ホースはしょんぼりしていた。
父娘は夕焼けの中歩いて目的地へと向かっていった。
◼️◼️◼️
月日が経った。
イタリアには、都市伝説があった。
社会の裏側に潜み、ひっそりと人々の営みを守る殺し屋の噂だ。彼らは強靭で、柔軟で、人々と繋がりその力を行使する。
噂によると、彼らは季節に関係なくコートを着てボルサリーノ帽を被り、マフラーを巻いているらしい。
暗殺チームが動いたというその噂だけで、悪人は裸足で逃げ出すそうだ。まあ実際は暗殺チームはパッショーネの宝刀だから、余程のことが無いと本業では動かさないのだが。(有事の際のために、訓練は怠っていないという報告は上がっている。)
そんな格好をした奴らをそう言えばどこかで見た覚えがある。というかすぐそこにいる。
ジョルノは笑った。
それはともかく、今日はめでたい日だ。
今日は……結婚式だ!
ジョルノは上座で静かに笑った。
「それにしてもよぉー、ジョルノ。お前もいい加減結婚するべきなんじゃあねーのか?シーラ・Eも煩いだろう?」
「ミスタ、あなたに言われたくない。」
「まっ、そーか。でも俺はモテねーんだよ。あそこにいるアホなチンピラたちとおんなじで。暗殺チームってモテない決まりでもあるんじゃねーか?もしかしたらモテない呪いとかかかってるんじゃあねーのか?」
ミスタが目をやる先には、結婚式にもかかわらず妙な格好で出席する二人組がいた。
彼らは季節に関係なくコートを羽織り、帽子を被り、マフラーを巻いている。
でもジョルノが彼らに何か言うつもりはない。あの格好は暗殺チームの正装で、彼らなりの亡きカンノーロ・ムーロロに対する敬意と友情の現れなのだ。結婚式の主催者にも変な格好をした二人組のチンピラが混ざることを伝えてあり、了解してもらっている。
「よお、ジョルノ・ジョバァーナ。お前はまだあのチンピラを手放すつもりはねーのか?」
新婦の父親だ。上座のジョルノの隣の席に腰掛けた。横には妻を連れている。
スピードワゴン財団の賓客だ。
「すみません。彼らは非売品なんです。本気で欲しかったら、承太郎さんがパッショーネに来てくれるくらいしてもらわないと、パッショーネの割に合わないんですよ。」
「……ちっ、しょうがねえか。」
「承太郎ももうあんなに大きな娘がいる年か。感慨深いなあ。」
「フッ。」
ジョルノの前に置かれた亀の中に住むポルナレフがしきりに頷き、空条承太郎は笑った。
あの後、彼の娘の徐倫はアメリカの裏社会にしか居場所がなかった。彼女の戦いは意味のあるものだったが、彼女たちは世間的には脱獄者だ。社会の裏側しか彼女たちの受け皿がなかったのである。
承太郎は娘を社会の表に引き戻そうとしたが、彼女はエルメェス・コステロやフー・ファイターズという友人を捨てて表に戻る気はなかった。喧嘩もしたが、結局最終的には承太郎が折れざるを得なかった。
『社会の裏側には裏側の幸せがある。』
そう言って綺麗に笑う娘に、承太郎は何も言えなかった。徐倫は、アメリカの裏社会を上手に生き抜くしなやかな強さを持っていたのだ。
今日は、パッショーネ外交部門のナルシソ・アナスイと空条徐倫の結婚式だ。
アナスイは戦いの後半身不随になり、車椅子での生活を余儀なくされた。ジョルノが手当てした時はすでに時間がたっており、神経をうまく繋ぐことが出来なかったのだ。
それでも徐倫との幸せを求めて組織で必死に努力する彼の姿がイタリアに認められ、アメリカ裏社会との外交部門への移籍が赦された。間違いを犯しても、忌み嫌われても、犯した罪は消えなくとも、それでも何かを築き上げるために必死になる人の姿は、往々にして人の心を動かすものだ。
余談だがあの戦いの後アナスイはやたら信心深い性格となって、ミラノ司教座の敬虔な信徒になっていた。
パッショーネとアメリカの裏社会との関係も述べておくべきだろう。
組織のチンピラコンビを送り込まれたアメリカからは、なぜかパッショーネに対してアメリカ裏社会から正式に(裏から正式にとは表現がおかしい気もするが)感謝状を贈られた。曰く、多数の悼ましい犠牲を出したが、それでも刑務所に潜伏していた前代未聞の危険なテロリストを四人も(一人はスポーツ・マックス。なぜか彼もテロリスト認定された。)討ち取って、陰謀を水際で防いだ英雄扱いされているらしい。アメリカの国難を防いだと。
……何があったのか知らないが、少し大袈裟すぎやしないだろうか?あの神父は、そんなに危険人物だったのだろうか?
まさか本当に人類の根絶を目的としていたわけでもあるまいし。
と言うわけで、チンピラを二人育てて海外に送り込んでみたら、なぜか英雄になって帰ってきた。何を言っているかわからないと思うが、僕にも何を言っているのかよくわからない。以下略。
まあそんなわけでアメリカ裏社会はパッショーネに非常に好意的で、パッショーネ側に非常に有利な条件で同盟を結ぶことができた。刑務所から勝手に出所したアナスイとウェザーに関しても、特例で黙認してくれるそうだ。
そこまでの功績を立てられてしまっては、ジョルノとしてもよほどの褒賞を贈らざるを得ない。
その場で将来的なパッショーネの幹部昇格を確約したが、なんと断られてしまった。
『俺たちはただのチンピラです。俺たちよりもよっぽどその席に相応しい人材は、パッショーネにたくさんいる。そんなことよりも俺たちに何らかの褒賞をいただけるのなら、偉大なる先達カンノーロ・ムーロロの葬式の喪主を、暗殺チームが引き受けることをお許し頂きたい。』
『特権とは、貢献に裏付けられたものだ。いいだろう。君たち暗殺チームには、イタリアという国家に対する貢献による特権として、特別に裏社会の帝王に逆らう権利を与えようか。』
亡くなった三人はジョルノにとって大切な部下だったが、彼らに喪主を務めることを特別に許可した。
亡くなったパッショーネの三名の合同葬儀の喪主を暗殺チームが務め、帰らない者たちの実感が湧いてきたものだ。(余談だが、ついでに密やかにディアボロの葬儀も執り行った。また化けて出られても困る。)
「ジョルノ、あなたもいい加減結婚したら?」
「……その話題は勘弁してほしい。」
トリッシュ・ウナだ。
彼女は承太郎とは逆のジョルノの隣の席に座った。ミスタとジョルノの間だ。
「ジョジョ、お久し振りです。」
「ああ、フーゴ。君も立派になったね。」
パンナコッタ・フーゴだ。
キッチリとしたスーツを立派に着こなし、品格が感じられる佇まいだ。とても社会の裏側と繋がっているようには見えない。
フーゴはジョルノに挨拶をしたのちに、式の末席に加わった。
「すげえな、あれが噂の……。」
「パッショーネの暗殺チーム……グリーン・ドルフィン・ストリートで陰謀と戦った英雄……。徐倫さんの師匠……。」
アメリカ側からの出席者が感嘆している。
暗殺チームにはアメリカの裏社会からも馬鹿げた金額と好待遇での引き抜きの話が来たが、彼らはそれも断った。
彼ら曰く、イタリアが好き、らしい。
その英雄とやらは普段は組織の下っ端と一緒に仕事をしたり、週末はフットボール場でビールを片手に顔を真っ赤にして(緑色と混ざって正直、ちょっと気持ち悪い)自分の贔屓するチームを応援するただのチンピラだ。彼らは社会の裏側で、日々の細やかな幸せを楽しんでいる。彼らは未だに時折イタリア社会で常識の足りない珍妙な事件を起こしているが(サーレーは見た目が緑色であまりにも怪しいせいで、しょっちゅう警察に職質されている。もう署の警官と顔なじみになってしまったらしい。)、それは特別に組織で庇ってあげよう。これも彼らが社会に貢献していることへの特権の一つだ。
そしてその英雄とやらは、最近は弟子にめっきり勝てなくなったとひどく嘆いていた。
しょうがない。
彼らの弟子の空条徐倫はすでにアメリカ最強のスタンド使いと呼ばれ、恐ろしいことに父親の承太郎さんさえも親子喧嘩でまるで勝てなくなってしまったらしいのだ。そんな相手に勝てるわけがない。
それでも徐倫は変わらずチンピラコンビを尊敬しているらしい。チンピラのおかげで今がある、と。
「お久しぶりです。」
「ああ、久しいな。元気そうで何よりだな。」
ドナテロ・ヴェルサスだ。暗殺チームに挨拶している。サーレーが返答した。
彼は今現在パッショーネのミラノ支部防衛チームに所属している。襲撃の際の戦いが支部防衛チームのリーダーの目に留まって、暗殺チームから引き抜かれた。
何やらミラノ支部防衛チームのリーダーが、ドナテロの『天国は日々の中にある。』という啖呵が気に入ったらしい。
「……たまにはアメリカにも遊びに来いよ。」
「すまねぇな。まあ亡くなった奴らの墓参りにも行かなきゃあなぁ。」
ズッケェロが片手を上げて返答した。
確か相手の女性はミュッチャー・ミューラーという名の女性だったか。二人の女性を引き連れている。彼女たちはグリーン・ドルフィン・ストリート平和祈念公園で管理人を務めているらしい。
そのことも書いておこうか。悲惨な末路を遂げたグリーン・ドルフィン・ストリート刑務所は、スピードワゴン財団が敷地を買い取って平和祈念公園へと改装した。そこには千を超える無数の墓碑が立ち並び、今ではミュッチャー・ミューラーとグェスとミラションという女性たちが管理人を務めているらしい。
「おめでとう。」
「ああ、ありがとう。全てはお前のおかげだ。お前のおかげで今日の俺がある。」
シーラ・Eがアナスイに祝いを告げ、アナスイはそれに対して礼を言った。
シーラ・Eのこともついでに少しだけ話しておこう。
シーラ・Eはあの後なぜか自分から暗殺チーム移籍を志願し、周囲から全力で引き止められていた。
どこに親衛隊から暗殺チームに移籍を志願する馬鹿がいるんだと思えば、シーラ・Eだった。
……暗殺チームは訳ありの人間の罪の禊の場だ。身綺麗な人間が自分から志願する場所ではない。
どうやらシーラ・Eはジョルノが考えていたよりもずっとアホだったみたいだ。本人はそこに移籍すれば成長できると思っていたようだが、そこの人員は有事になれば途端に損耗率が跳ね上がるために、行かずに済むのならそれに越したことはない。というよりもそもそも親衛隊には親衛隊の役割がある。シーラ・Eが居なくなったら、一体誰が溜まっているパッショーネの書類業務を片付けると言うのか?
「……おめでとう。」
「ああ、ありがとう。」
ウェザー・リポートがナルシソ・アナスイに祝いの言葉をかけた。ウェザーとアナスイは握手を交わした。
ウェザーは一時期精神的に危うい時期もあったが、友人たちの支えによって彼はそれを乗り越えた。
「お姉ちゃん、結婚おめでとう。」
「ありがとう、エンポリオ。」
エンポリオ少年だ。徐倫は少年に抱きついた。
彼の名前は空条エンポリオ。詳しくどういった人物なのかは知らないけれど、空条徐倫の弟らしい。きっと承太郎さんの息子ということなのだろう。
【徐倫、結婚おめでとう。私もあんたみたいな幸せな人生を送りたいわ。】
「エフ・エフ、ありがとう。」
……喋るUMAだ。
パッショーネが亀と変な格好をしたチンピラコンビが結婚式に混ざることを先方に伝えたら、向こうからは喋るUMAが結婚式に混じるという珍妙な返答が返ってきた。あの妙な生命体もどうやらチンピラコンビの友人らしい。
……世の中は広い。ジョルノは感嘆した。
「徐倫、あたしにも男を紹介しろよな。」
「エルメェス。あんたはいい女なんだから自分でなんとかできるでしょう。」
「でもよぉー、なかなか出会いがなくてよぉ。」
エルメェス・コステロが徐倫に笑って声をかけた。
新婦の友人で、ジョルノとは初対面だ。
「アナスイ、おめでとう。」
「徐倫、おめでとう。」
「サンキュー。」
「グラッツェ。」
参列者たちは思い思いに祝辞を述べて、彼らはそれににこやかに返答した。
「ジョジョ、それでは挨拶をお願いします。」
「ああ。」
ジョジョという愛称には、ジョルノの祈りが込められている。
それはブチャラティから受け継いだ優しい祈り。
それはジョルノの想像でしか無い。
しかしパッショーネに救われたブチャラティであれば、きっとパッショーネに間違いを犯した人間を救済して欲しいと願うのではなかろうか?
それはパッショーネに関わる人間が、社会に生きる一個の存在として成長していってほしい。親しみ易い愛称から組織とボスに愛着を沸かせて、社会を愛していってほしいという理想だ。
ようやくその愛称がパッショーネにも浸透してきた。とても喜ばしいことだ。
ジョルノは笑った。
式は恙無く進行していく。
生命と豊穣を司るスタンド使いは、日々の幸せに感謝した。
◼️◼️◼️
サーレー
概要
刑務所で殺された罪人たちの魂は、彼らの死後の安寧を願ったサーレーの力になることを望み、死に瀕したサーレーと融合することでその命を救った。緑色の赤ん坊のスタンド、グリーン・グリーン・グラス・オブ・ホームの能力は空間と距離を支配するものであり、この能力でサーレーのそばに現れた。その前のセッコとの戦いでも融合しようと試みていたが、緑色の赤ん坊はディオの骨を持たないサーレーと融合できなかった。その際にサーレーの頬の傷を直した時に、緑色の赤ん坊はスタンドパワーをサーレーに送り込んでいた。それがのちのオルクス発動のエネルギーとなった。オルクスの能力は、クラフト・ワークとグリーン・グリーン・グラス・オブ・ホームの混ざった、空間と距離を固定して支配する能力である。
緑色。
マリオ・ズッケェロ
概要
パッショーネの暗殺チームの副リーダーで、下の人間にはサーレーよりも人望が厚い。サーレーはそのことに密かに嫉妬している。猫はまだ元気で、やはりスタンドを使いそうな気配は無い。
ウェザー・リポート
概要
暗殺チーム所属。あらゆる面で秀でた能力を持つ。いつも冷静で頼りになる。
ナルシソ・アナスイ
概要
暗殺チーム上がりの外交部門責任者。主にアメリカ方面の外交を担当している。
ホル・ホース
概要
暗殺チームのうだつの上がらない下っ端。アナスイの結婚式の準備を担当したのは彼なのだが、残念ながら裏方に徹している。
ドナテロ・ヴェルサス
概要
ミラノ支部防衛チームに移籍した。暗殺チームとの仲は良好。
ミュッチャー・ミューラー、グェス、ミラション
概要
グリーン・ドルフィン・ストリート平和祈念公園の管理人職についた。パッショーネ暗殺チームの友人。
空条エンポリオ
概要
空条徐倫の弟。徐倫は溺愛している。
処刑執行人(裏社会)
概要
平和を至上目的とする暗殺チームの中でも、特に実力が高い極一部の人間に与えられる名誉ある役職。実力と判断力が高いほどに一般人の守護や部下の損耗率の低下も顕著になる上に、個人で刑の執行を認められているため、この地位を与えられた人間は命を扱う職として多大な尊敬を集めている。
ジャックはすでに引退し、カンノーロ・ムーロロは亡くなり、サーレー、メロディオ、フランシスのたった三人しかヨーロッパに現存しない。ミスタも能力で言えば申し分ないが、他の役職を担当している。数が稀少なためにパッショーネが盟主となった今現在は、ヨーロッパ圏内の裏社会全域で同盟を組んで、持ち回りでヨーロッパの守護を請け負っている。
補足事項
『……天国に至るためには、必要なのは私のスタンドである。必要なのは、スタンドを一度捨て去る勇気である。必要なのは、信頼できる友である。必要なのは、極罪を犯した魂である。必要なのは、言葉である。最後に必要なのは、場所である。
表があれば、そこには必ず裏が存在する。物事には、須らく対になる力が存在する。
天国の裏側にあるのは、地獄では無い。正義の敵が別の正義であるように、天国の裏側に存在するのは別の価値観に基づいた天国だ。
オーバーヘブンの裏側には、アナザーヘブンが存在する。
君が人の法より
君が
君がどちらを望もうと、私は君の幸福を心から願っている。』
『とある吸血鬼の手記より、一部抜粋』
かませ犬のクラフトワーク、、、本編完結
読んでくださった方、感想くださった方、評価くださった方、誤字を御指摘くださった方、素晴らしい物書きでいらっしゃる原作者の荒木飛呂彦先生、上遠野浩平先生、そして書かせてくださったハーメルン様にこの場で厚くお礼申し上げます。グラッツェ!!!
なんとなく書き始めたものが、思ったより長くなってしまいました。
ここから先は、アイデアがあればのオマケ更新になるので、拙作はここで終了とお考え下さい。