噛ませ犬のクラフトワーク   作:刺身798円

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番外編 チンピラ、間違えて社交界に連れていかれる

「……ぜひ君たちに、帯同してほしい。」

 

面倒な事になった。

ジョルノはパリッとした燕尾服を着て、ボンヤリと心の中で愚痴った。

 

いきなりジョルノの心情だけを書き綴っても、何のことだかサッパリわからない。

わかるように、事のあらましを語ろう。

 

ジョルノ・ジョバァーナ、イタリア裏社会の組織、パッショーネのボス。

年齢は、不詳ということにしておこうか。

 

この日ジョルノは、図書館で天敵であるところのシーラ・Eに捕まった。

 

『ジョルノ様ッッッ!!!今日こそは、お覚悟をしていただきますッッッ!!!パッショーネの未来を、一体どのように考えておられるのですかッッッ!!!はっきりとお答えいただきたいッッッ!!!』

 

どうもこうもない。

パッショーネの未来は、素晴らしいものであるべきだ。そんなもの、言うまでもないだろう?

 

『でしたらッッッ!!!来週末のカタルーニャで行われる裏社会の社交界に出席していただきますッッッ!!!』

 

シーラ・Eの思惑は、理解できる。ジョルノは頷いた。

シーラ・Eは、ジョルノが嫡子をつくることを望んでいる。

 

……だが、今時世襲制などナンセンスだ。

僕の死後は、ジャンルッカ・ペリーコロのような能力と人徳を備えた人物に組織を引き継がせれば良いじゃないか。

 

『……お気付きになられないのですかッッッ!!!組織の忠誠の高い人間は、ジョルノ様に遠慮をしての未婚なのですッッッ!!!上が詰まってしまえば、いつまで経っても後が続けませんッッッ!!!パッショーネの未来を、本当にお考えなのですかッッッ!!!』

 

……これには参った。

知ってはいたが、放っておけば周りは諦めて勝手に結婚するだろう。そう考えていた。

しかし真っ向から言われてしまえば、なかなかに否定しづらい。

 

女性に興味がないわけではない。

しかし、ジョルノがディアボロからパッショーネを引き継いだ時に組織内部は問題が山積みで、それの解決に多大な若い時間を費やしてしまった。始まりは若者の義憤による行動だったが、今となっては少し違う。

 

住めば都。今となっては組織運営が非常に意義深い。

ジョルノが長年苦楽を共にしたパッショーネに愛着が湧いたとしても、何ら不思議はないだろう。問題は、解決したらそれでお終いではない。一つ問題を解決すれば、それを発端に新たな問題が浮上するのが社会の常だ。例えばパッショーネが麻薬を禁じ手にしたことで、財政面の問題が浮上したように。転倒しないように自転車を漕ぎ続けて、前へ前へと進んでいくようなものだ。進む先は、イタリアのより良い未来。

 

漕ぎ続けているうちに出会った人間は、自転車が転倒しないように支えてくれる貴重な人材になったりする。そして自転車が倒れてしまえば、漕ぎ手や時代が替わる。時間はいくらあっても足りない。

というわけで、あまりそちらの方に意識を割く時間がない。

 

しかしシーラ・Eは、その程度では怯まない!

正論は、暴力だ。忠言は、耳に痛い。シーラ・Eは、単騎でジョルノ城本丸に勇猛果敢に攻め入ってきた。

ジョルノの戦いは、これからだ!

 

『結婚しろとは言いません!しかしせめて御出席はなさってください!!!いいですね!』

 

スペイン、カタルーニャ州、バルセロナ県。

フットボールチームが有名なこの県で、週末に裏社会主催の社交界が開かれる。社交界には、地位のある人物が訪れる。

 

面倒だ。

どうにかしてうやむやにできないものだろうか?ジョルノは、思考の海に沈んだ。

 

『護衛、ですか?』

 

普段は親衛隊であるシーラ・Eが、ジョルノの護衛として社交界に付き添うことになる。

しかし。

 

『よりにもよって……よりにもよってなぜあの二人なのですか?他にも人材は山ほどいます!あの二人を社交界に連れて行ったところで、粗相をしでかすだけに決まっています!』

 

だからいい。だからこそ、あの二人なのだ。

彼らならばきっと、台無しにしてくれる。ジョルノを、救ってくれる。

救世主(メシア)は、いた。無理難題を解決してくれるスーパーマンは、この世に存在したのだ。

 

『……わかりました。その代わり絶対に御出席いただきます!』

 

シーラ・Eは、気が気でなかった。何しろ同行者がチンピラ二人組である。

ジョルノは、ほくそ笑んだ。

 

チンピラへのパッショーネ特級極秘任務、社交界を台無しにしろ!

それが、発端だった。

 

◼️◼️◼️

 

黒いコートにボルサリーノ帽、季節を無視してマフラーを羽織った、伝説のチンピラ二人組。

 

「ジョジョ……一体俺たちにどのような任務でしょうか?」

「……君たちは、暑くないのかい?」

 

ネアポリスの図書館で、ジョルノは呆れた。色々と、間違えている。

炎天下とは言わないが、少なくともコートやマフラーを着用する季節ではない。

ジョルノの格好は、白いシャツの上に燕尾服を羽織っている。

 

「今回の任務は、シーラ・Eに正装してこいと言われましたので。……暗殺チームの正装です。どのような事件で、一体誰を殺るんですか?」

 

ジョルノの前に立って、サーレーが敬礼をした。

サーレーの眼光が鋭く光り、威圧を纏って静かに言葉が発せられた。

 

「誰も殺らないよ。スーツを着てこいという意味合いだったのだが……。」

「スーツを、持ってません!」

 

持ってません、じゃねーよ。ジョルノは頭痛がした。

これはもしかして、もしかしなくとも、選択を誤ったかもしれない。

 

冠婚葬祭であれば、非常識であっても縁故の深い人間を呼ばないという選択肢は有り得ない。

しかし今回は、社交界だ。社交界に非常識な人間を連れ出せば、ジョルノの品格が疑われることになる。

……まあ非常識だからこそ、連れて行こうと考えたのだが。

 

「アンタたち、なんて格好してんの!今回は社交界よ!馬鹿なの?……そう言えば馬鹿だったわね。こっちに来なさい!」

 

シーラ・Eが近寄って、サーレーとズッケェロの手を引いた。

シーラ・Eは脚部にスリットの入った青いドレスを着て、かかとの高い赤いヒールを履いている。艶やかで、とても美しかった。

 

「お、おう。これは暗殺チームの……。」

「暗殺チームの正装もクソもないわ!アンタたちの格好は、ジョルノ様の評価に繋がるのッッッ!!!普段どんな格好してようが、何をしようが、あまりうるさく言わないけれど、今回は私のいうことに従いなさいッッッ!!!」

 

サーレーとズッケェロは、シーラ・Eの剣幕に押されて図書館の別室に連れていかれた。

……なんかダメな子を叱るお母さんみたいだ。ジョルノはなんとなく微笑ましい気持ちになったが、その直後にはたと思い至る。

 

……これは僕もお母さんに叱られているダメな子側ではないのか?

ジョルノは酷く、落ち込んだ。

 

「馬子にも衣装ね。アンタたちの正装とやらは、仕事の時だけにとどめておきなさい。」

 

シーラ・Eのコーディネートにより、チンピラたちは黒いネクタイに黒いジャケットを羽織ったセミ・フォーマルな格好へと変身した。

彼らはジョルノの護衛であり、パーティの主役ではない。しかし社交界に出席するのなら相応の格好が必要だ。サーレーとズッケェロは正装に身を包み、珍しくしっかりとした人間に見える。

 

「アンタたちにそれはあげるから、くれぐれも今後ジョルノ様に恥をかかさないでね!」

「「お、おう。」」

 

ジョルノ・ジョバァーナは、考える。

豚に真珠だ。彼らに高価なスーツを渡したところで、生活に困窮すれば質屋行きが関の山だ。

……まあしかし、彼らに面倒をかけると考えればこれくらいは必要経費として、目を瞑ろうか。

 

「さあ、参りましょう。」

 

黒いリムジンに乗って、4人はネアポリスの空港に向かった。

 

◼️◼️◼️

 

社交界は、基本男女のカップルで参加する。

ジョルノとシーラ・Eの、男女ペアだ。チンピラーズはジョルノの護衛なので、数に数えない。

ジョルノの参加するような社交界は格式高いものであって、人脈発掘の交友の場だ。

 

……本来ならば。

 

しかしジョルノが出席する社交界に限定して言えば、シーラ・Eの思惑が働いていた。

本来格式の高いはずの場は、シーラ・Eの思惑によってジョルノのための合コンの場となっていた。

相手方には十分な根回しが行われている。

 

社交界という名目は綺麗事だが、綺麗事は重要だ。

カリスマ性を持つ裏社会のボスが結婚相手を探して合コンしているなどと周囲に知れたら、体裁が悪い。

 

シーラ・Eに非はない。

ジョルノはヨーロッパ裏社会の重鎮であり、社会に貢献しているジョルノがいつまでも未婚なのはよろしくない。

それは、シーラ・Eだけがそう考えているわけではなく、ペリーコロやパッショーネ幹部連らの総意でもあった。

 

社会の一員として生まれ、社会に根付き家庭を築いて、社会と家庭を愛することが一人の人間の生の意味だ。

それが、彼らの価値観であった。

 

「うめーな、これ。」

「いいなそれ。ちょっとこれと交換してくれよ。」

「アンタたち、あまりみっともなくガッつくのは止しなさい。」

「んなこと言ってもよぉー、ボス専属機の高級食材なんて普段の俺たちには無縁だからよぉー。」

 

ズッケェロは、不満をたれた。

パッショーネ所持のプライベートジェットに乗って、彼らは空にいる。

ズッケェロが口の周りにソースを付けながら機内食のフィレ肉を食べて、サーレーはナッツをポリポリと齧っている。

彼らは正装のまま平然と互いの食事を交換し、ワインを煽り、マナーのよろしくない彼らが高価なスーツにソースを垂らさないかとシーラ・Eをヤキモキとさせていた。さすがに今更ジョルノ専用のプライベートジェットに驚くなんていうことはなかった。

 

『まもなく、スペイン、カタルーニャ州、バルセロナへと到着いたします。』

 

機内アナウンスが流れ、機体はじょじょに降下した。

サーレーは機内の窓から外を眺めた。雲が後ろに流れ、眼下には壮麗なカタルーニャの街並みがあった。

 

カタルーニャ州は、スペインでマドリードの次に巨大な都市だ。

観光の名所は有名なサグラダ・ファミリアやグエル公園、王の広場など。建築家のガウディが世界的に有名だ。

 

確かピカソ美術館もあったはずだ。見たかった。のんびりと観光を楽しめればよかったのだが。絵画鑑賞はジョルノの趣味の一つだ。

ジョルノは心の中で、愚痴った。

 

『降下に伴い機体が揺れますので、ご注意下さい。』

「いいわね!アンタたち、自分の役割を覚えてるか言ってみなさい!」

 

シーラ・Eが機内アナウンスを無視してサーレーに詰め寄り、サーレーは狼狽して返答した。

 

「お、おう。確かスペインのホテルの最上階で行われる社交界で……。」

 

サーレーは必死に、シーラ・Eの言葉を思い返した。

 

「そう、それで?」

「ボスの護衛をする。」

「……それで?」

 

シーラ・Eの目付きが、厳しくなった。

 

「……俺たちは。」

「どう振る舞うの?」

「普通の出席者としてメシを……。」

「違うッッッ!!!アンタたちはジョルノ様の護衛として、敵がいないか、怪しい奴が近付かないか目を光らせるのッッッ!!!呑気に食事をするなッッッ!!!」

 

……シーラ・Eが怖い。

そりゃ裏社会のボスだもの。敵だっているさ。

しかしそうまで神経質にならなくても、ジョルノはかなりの実力者だ。

 

「何をするか、復唱しなさい!!!」

「敵が来ないように食事をしながら……。」

「だから、食事をするなッッッ!!!」

『バルセロナ・エル・プラット国際空港へと到着致しました。』

 

機内アナウンスが、彼らに到着を告げた。

 

◼️◼️◼️

 

バルセロナといったら、カンプ・ノウだ。

異論は、認めない。

 

スペインは現在の世界のフットボールでもイングランドと並んで最高峰であり、青と臙脂のバルセロナのクラブチームは世界的に有名だ。カンプ・ノウは世界的に有名なフットボールクラブチームのホームグラウンドだ。

是非とも試合の観戦をしたかった。サーレーは、意気消沈した。

 

今回はジョルノの護衛であり、自由行動時間が存在しない。

まあとは言ってもカンプ・ノウの観戦チケットは人気があり、飛び入りで手に入るとも思えない。

 

「任務が終われば、君たちは少しくらい観光してきていいよ。」

「ボス、大好きですッッッ!!!」

「ジョルノ様……甘すぎです……ハア。まあ少しだけよ。アンタたちはパッショーネの人員なんだから、恥ずかしい真似はしないでね。相手の裏組織に迷惑かけたなんてなったら、恥ずかしくて仕方ないわ。」

「相棒よぉー、カンプ・ノウのチケットは超人気だから、取れるかわからねえぜぇ。ダフ屋もたけぇしなぁ。」

「地元の相手組織に依頼すれば、チケットはたぶん取れるんじゃないかな。」

 

ジョルノがズッケェロに指摘した。ジョルノの甘さに、シーラ・Eはため息をついた。

バルセロナの中央にある格式ある高層ホテルで、社交界は開催される。

会場へと向かう黒いリムジンの中で、シーラ・Eはジョルノに段取りの確認をとった。

 

「まずは私をエスコートをしての会場へのご入場。そしてご挨拶です。その次に地元の有力者たちとの御歓談。政治家たちとの対談。そして、主催者であるアルディエンテへのお礼のご挨拶。提供される食事は、スペインの名物地中海料理。」

 

シーラ・Eは、有能だ。

ジョルノは秘書として、シーラ・Eを重宝している。任せておけば、間違いはない。

 

「二泊三日。明日はカタルーニャの有力企業との食事会が予定されております。会の開催予定時刻は、午前12時。」

 

うわの空のジョルノの耳を、シーラ・Eの言葉が右から左へと抜けていった。

夕闇に包まれたバルセロナの街を、黒いリムジンが滑らかに駆け抜けていく。

 

「……そしてアンタたちの役割は?」

 

シーラ・Eがいきなり話を振ってきた。

唐突に流れ弾が、ズッケェロを襲った。

 

「ボスの護衛だろ。一般人を威圧しすぎないように裏方に徹し、なおかつボスから目を離さないように怪しい奴が近付かないか、武器を持ち込んでいる人間がいないか、不審な奴がいないか、周囲への警戒を怠らない。何か起これば、身を張ってボスとパーティーの客を護衛する。」

 

シーラ・Eは、頷いた。

 

「サーレーよりもアンタの方が有能ね。暗殺チームのリーダーは、アンタがやるべきなんじゃないの?」

 

甚だ、遺憾だ。

最近は自分よりダメな奴だと思っていたズッケェロが、サーレーを置いていってしまった感覚を感じる。下の人間の人望もサーレーよりズッケェロの方が、厚い。

 

金もない、人望もない、モテない、三重苦。

サーレーは、めちゃくちゃ落ち込んだ。

 

「ま、まあそう落ち込むなよ。俺はすごく頼りにしてるぜぇ。」

 

落ち込んだサーレーを、ズッケェロは必死に慰めた。

 

「さて、予定をもう一回確認しましょう。社交界の開催場所は、バルセロナ・ヒストリア・ホテルの25階。ジョルノ様は私をエスコートしてのご入場。最初に挨拶を行い、次に地元の有力者たちとの食事をしながらの御歓談。そしてスペインカタルーニャ州の政治家、官僚との今後の両国家間の関係の対談。そして、主催者であるアルディエンテへのお礼のご挨拶。」

 

シーラ・Eが、神経質に予定の確認を行っている。

カタルーニャの煌びやかなホテルの前に、リムジンは到着した。

 

◼️◼️◼️

 

社交界とは古くからヨーロッパにある、王族、貴族、名士の社交の場である。

政治や国家運営における重要な意味合いを持ち、高度な駆け引きが要求される。

その出席者は政治や財界などに強い影響力を持ち、社会の未来が決定される場でもある。

 

歴史的に言えば爵位や勲章を持つ人間の集まりであり、ジョルノが裏社会の帝王であるとは言えこの場が厳密に社交界と呼べるかは若干の疑問が残る。まあさておき。

 

「初めまして。ジョルノ様とおっしゃられるのですね。私は、マリア・ペレス・ペレイロと申します。」

 

社交界での人間関係が結果的に恋に結びつくことはあるかもしれないが、このように意図的に出会いを演出する場ではない。

特にシーラ・Eが根回しをすると、社交界が途端に合コンかお見合いの場と化してしまう。

歴史もへったくれもあったもんじゃあない。

 

ジョルノは目の前に座った金髪の若い女性を見た。髪が長く、高身でモデルのような体型をしており、胸元の開いた装飾が豪華な赤いドレスを着ている。

地元の有名な政治家の一人娘らしい。で?

 

「ご趣味とかは、何かお持ちですか?」

「うーんそうだね、趣味じゃあないけど、耳の穴の中に耳が入るよ。」

「へ、へぇ……。」

 

ジョルノの珍回答に、女性の顔が引きつった。

チンピラコンビはどこいったのか?僕の救世主は、どこに?

ジョルノは周囲を、見渡した。彼らは会場の入り口で、会場の警備と話をしていた。

 

どうやら二人は、社交界を台無しにするという任務を放棄したようだ。

ジョルノはうわの空で、まるで女性の話を聞いていない。

 

「お休みの日とかは何をなさってるんですか?」

「休日はないよ。パッショーネは、ブラックなんだ。」

「はい?」

 

主催者の顔を潰してしまうわけにはいかない。

社会にはあらゆるルールや制約があり、立場が上に行けばそれはより多く付き纏う。

非常に面倒だが、さまざまな思惑に付き合わざるを得ない。

 

チンピラが羨ましいな。ジョルノは笑った。

 

「とても素敵な笑顔をなさるのですね。」

「ん?」

 

どうやら思考が顔に出てしまったようだ。反省。

周囲の人物は思い思いに交友を深めている。なぜ僕だけこんな特別席に通されたのか?普通の席でいいのに。

言うまでもなく、シーラ・Eの仕込みだ。余計なことをしてくれる。何が政治家、官僚との国家間の関係の対談だ。

段取りを確認した当人が、本来の段取りを完全無視だ。

 

「明日のご予定とか、聞いていらっしゃいますか?」

「ご予定?」

 

そういえばシーラ・Eが、明日は会食を行うだとかなんだとか。

 

「なんの話?」

「明日は私たちで食事会を行うとか……そのあとは……。」

 

女性は、顔を赤らめた。

聞いていない……ジョルノは、シーラ・Eを恨んだ。

 

◼️◼️◼️

 

「おじさん、久しぶり!シィラちゃんも!」

「誰がおじさんか!」

 

黒いスーツを着た麗人が、社交界会場の入り口にいた。

肩までの茶髪に銀のイヤリング、細身の女性だ。

麗人は楽しそうに手をワキワキと動かし、それを見たシーラ・Eはササっと素早くサーレーの背後に隠れた。

 

「どうしたんだ?」

「なんでも。」

 

サーレーがシーラ・Eの行動に首を傾げ、シーラ・Eは仏頂面で答えた。

 

「そうか。そういえばお前んところの組織の主催だったな。」

 

サーレーは会場を見渡した。ジョルノはサーレーの視線の先で、椅子に座って綺麗な女性と話をしている。

邪魔をするのは野暮だろう。裏方に徹するのが、吉だ。シーラ・Eにもそう指示されている。

 

「うん。だから私はここの護衛で来てるの。」

 

会場の警備総責任者は、ジェリーナ・メロディオ。

パーティの主催者はスペイン裏社会の組織アルディエンテであり、アルディエンテの暗殺チームであるメロディオが部下を仕込んで会場の護衛警備を行なっていた。

組織によって暗殺チームの扱いは異なり、有能なメロディオはアルディエンテの懐刀として扱われている。

 

「家も近いしねー。ここからフィゲラスの自宅まで車で一時間くらいだよ。」

「ふーん。」

「なんでお前は男性服なんだ?」

 

ズッケェロが頷き、サーレーが疑問を呈した。

 

「私のドレス姿が見たいの?いやん。おじさんったらスケべだねぇ。」

「スケべなのは否定しないが、お前はあまり好みのタイプではない。」

「ちょっとそれは、失礼が過ぎないかね。」

 

サーレーは素で返答して、メロディオはサーレーを睨んだ。

メロディオの視線がシーラ・Eを求めてさまよい、シーラ・Eはメロディオの視線から隠れようとしている。

 

「その女、左足が義足よ。」

「ありゃ、気付かれてたか。」

 

シーラ・Eが指摘した。

メロディオはスーツの裾をちょっとだけ捲り、左足の鉄製の部分を見せた。メロディオの左足には酷い傷痕があり、くるぶしから下が肌色に塗装した鉄で出来ていた。

 

「まじか……。」

「右目も実は義眼だよ。ぱっと見じゃ、わからないでしょ。最近のはよく出来てるんだ。義眼が、動くんだよ。でもよーく見ると、相手は違和感を感じる。思考の隙を作るのに重宝してるよ。結構高かったけど。ドレス姿だと、恥ずかしながらお見苦しいものをお見せすることになるのだ。足を露出する服が着れないんだよー。」

 

メロディオは明るく笑った。

 

「……すまないな。」

 

女性に言いにくいことを喋らせるのは、紳士失格だ。

 

「そんな悪いことを聞いたみたいに落ち込むなよー。まだ新人の頃にちょっとヘマっちゃってさー。」

「……聞いても構わんのなら、詳細を是非聞かせてくれ。」

 

相手は他の組織とは言え、暗殺チームの先達だ。

先達には敬意を払う。その言葉には、生き残るための叡智が隠されている可能性が高い。

予想しない収穫に、サーレーは真剣になって教えを乞うた。

 

「大したことは聞かせられないよ。」

「構わん。」

 

ズッケェロもサーレーの意図を汲み取り、メロディオの言葉に耳を傾けている。

 

「当時のリーダーが作戦をミスったんだよー。まあ今となってはもう10年以上も前のことだけどね。それで敵と正面からの銃撃戦になって、手榴弾で吹っ飛ばされた。これで済んだのは幸運だったよ。」

「……。」

「そんな真剣に聞かれると恥ずかしいんだけど。まあ私はそれまで暗殺チームをナメてたからねー。才能だけじゃ、どうにもなんないと思い知らされたよ。マジで死に目にあって、本気で死にたくないって思って、必死に訓練して今に至る。それが全て。組織の雑用係に回されるって案もあったけど、自分から却下したの。片目だと距離感が掴めなくて、苦労したよー。それ以上は何もないよ。」

「他には?」

「他……うーん、ああそうだ。フランシス君だ。」

「フランシス君?」

「うん。アルディエンテは同盟組織のラ・レヴォリュシオンに救援要請を送っていて、あの変態フランシス君が部下を連れて助けに来てくれたんだ。マドリード武装戦役って、裏社会じゃ有名な事件だよ。ヨーロッパに非認可の武器商人連合を作ろうって奴らがいてさ。まあ非認可だけに、買い付けの客層はわかるよね。それでそいつらが本格的にスペインに根付く前に警告して、衝突して、正面からの全面戦争。敵は武器商人連合だから、とにかく火薬量が豊富でねえ。スタンド使いも結構いたし、まあ表社会を巻き込んだ惨状だよ。被害を減らしてもみ消すのに苦労したよ。たった一ヶ月のことだったけど、本当にアレはひどかった。」

「変態フランシス君?」

 

メロディオの言葉の端を、サーレーは捉えた。

変態はどちらかというとこの女のことではないのか?

 

「うん。変態スペックのフランシス君。暗殺チーム所属二年目で、強いと有名なラ・レヴォリュシオンの暗殺チームリーダーに抜擢された大変態。ラ・レヴォリュシオンのボスも、もうフランシス君に頭が上がらないみたい。凄いことにラ・レヴォリュシオンでは、頭脳よりも手足の方が価値が高くなっちゃったんだ。悪いこと言わないから、おじさんもフランシス君とは仲良くしといたほうがいいよ。あの雲がとにかく強力でねえ。雲はあっという間にマドリードの裏路地を覆って、視界を奪って混乱させて同士討ちさせて、感電させて、凍らせて、制圧して、やりたい放題。フランシス君自身の機動力もあって、変態という以外に言いようがない動きだった。意識が朦朧としてたけど、その時思ったよ。ああ、神様はいるんだ、って。」

 

余談だがフランスはテロ対策として表社会の軍事の増強に力を入れており、それに連動して裏社会の暗殺チームの個の実力も非常に高くなった。テロ対策で諜報活動に重きを置いた国家よりも、精強な兵士たちが仕上がった。スタンド使いの数でこそ圧倒的にパッショーネに劣るが、兵の個々のクオリティではパッショーネを凌ぐ。

 

「むっ。」

「それだけじゃないよ。任期が終わってもいつまでも暗殺チームに居残り続けている。もう変態としか言えないよ。」

「任期?」

 

そう言えばそのことは、考えたことがなかった。

ミスタ副長は、イタリアに貢献して後進を育てるまでと言っていたが……。

 

「うん。フランシス君はもともと、そこまでの罪を犯していない。傷害罪くらい。境遇にも同情できるし、部下を立派に育ててる。本来の任期はとっくに終わってるって本人に聞いたよ。私の任期は後5年くらいだね。私はフランシス君よりしでかしてて、任期が長いから。」

「しでかした?何を?」

 

そう言えば裏社会の暗殺チームは、罪人の禊の場だと聞いている。

このメロディオという女も、何か罪を犯したのだろう。

 

「スペインの上院議員の議場に、お手製の爆弾を投げ込んだの。」

「テロリストじゃねーか!!!」

 

とんでもないことをさらっと言いやがった。

やらかしたことが酷すぎる。

 

「まあ若かったしねー。愚連隊みたいなののリーダーをやってたんだよー。なんでも思い通りになると思い込んでいる、社会をナメきったガキだったんだ。今が大人だと言うつもりもないけどね。ムカつく議員がいて、私たちのチームを潰す法案を通しやがってさ。んなことするくらいなら、ヨーロッパに蔓延する麻薬をどうにかしろって爆破予告を出して、そんでキレた裏組織のアルディエンテの暗殺チーム前リーダーに半殺しにされて、今こんな感じ。その前リーダーも、マドリード武装戦役で死んだよ。自分で予想できないほどに悲しかったし、怖いリーダーがあっさり死んだのも予想外だった。人って簡単に死ぬんだなって。リーダーを死なせたことが、とても悔しかった。せめてその死が、意味のあるものであってほしかった。……私もいつか死ぬのなら、人生に意味があって欲しいと願ってしまった。」

 

メロディオの寂しげな横顔は、綺麗だった。

彼女は未成年の頃にパッショーネの麻薬被害で友人を失い、どうしようもない遣る瀬無さから罪を犯して裏社会の暗殺チームに配属された。メロディオはアルディエンテに所属して、パッショーネの麻薬の対応の困難さと取り巻く状況の厄介さを理解した。

 

裏社会の暗殺チームは生死がかかるだけに、完全実力主義である。と言うよりも、実力のない者は死んでいく。

アルディエンテはマドリードでの戦いの後、若いメロディオを半壊した暗殺チームの新たなリーダーだと認めた。

 

マドリードの乱戦で決定的に意識が変わったメロディオは、独自の戦い方を編み出して裏社会でメキメキと頭角を顕した。交渉と搦め手と下準備で言えば、メロディオに敵うものはいない。メロディオは人の機微を細かく読み、自在に戦略を変更し、途轍もなく用心深い。

前線に立つよりも作戦立案、知略と人を上手く扱うことこそがその真価だった。メロディオにとってはサーレーとの友好も、いつか決定的に役に立つかもしれない財産だ。

 

「5年後には引退するのか?」

「……未来のことは、誰にもわからないよ。そもそもまず、生きている保証がない。引退して結婚してるかもしれないし、もしかしたら部下可愛さにフランシス君みたいに居残ってるかもしれない。ひょっとしたらシィラちゃんが、私を養ってくれているかもしれない。」

「それだけはないわ。」

 

シーラ・Eはメロディオの言葉に、舌を出して否定した。メロディオはシーラ・Eに投げキッスを投げて、シーラ・Eはそれを必死に横っ跳びにかわした。

 

「お前ら、いい加減にしろ!」

「えー、いいじゃん。」

「サーレー、その女、何とかしなさい!」

 

シーラ・Eを追いかけてメロディオがサーレーの周囲をチョロチョロ駆け回り、非常に鬱陶しい。

やがてメロディオは立ち止まった。

 

「まあ私はその戦いで体の一部を失って死にかけたけど、やらかした罪が重たくて、まだしばらくは暗殺チームの人員だよ。フランシス君は暗殺チームが大好きな変態だから、多分死ぬか戦えなくなる年齢までいるんじゃないかな。」

「そうか……。」

「うん。つまらない話でゴメンね。」

「いや、ためになったよ。ありがとう。」

「どういたしまして。」

「……握手を、してくれないか?」

「いいよん。」

 

サーレーとメロディオは、握手した。

サーレーは自分より暗殺チームとして長い経験を持つ先達の手を、知りたかった。

メロディオの手は、華奢でひんやりと冷たい小さな手だった。

メロディオは手を振って、笑顔でその場を立ち去った。

 

任期が終わる……考えたこともなかった。任期が終われば、その頃はサーレーは何をしているのだろうか?

まだ生きているだろうか?

 

「ジョルノ様がいらっしゃったわ。行くわよ。」

 

シーラ・Eが声をかけた。

社交界はお開きになり、4人は用意されたホテルの個室へと向かった。

 

◼️◼️◼️

 

「社交界は楽しかったかい?」

 

ジョルノがワインを飲みながら、笑ってサーレーに問いかけた。

ここはホテルに設置されたラウンジだ。そこで4人は集まって、ソファに座って就寝前に軽く酒を嗜んでいた。

 

「ええ。ためになる話が聞けました。」

 

ジョルノは頷いた。いいことだ。

社交界できっと、彼らは若者らしく社会の未来のことを真剣に議論したのだろう。

残念ながら、ジョルノの予想は完全に的を外れていた。

 

サーレーとズッケェロはあの後二人で、真剣に話し合った。

強い人間にも新人の頃や死にかけた経験があり、ジョルノという生命力を操るボスがいる自分たちが、いかに恵まれた境遇にいるか。

サーレーもズッケェロも死ぬような目にあったことがあるし、判断を誤れば死んでいた局面があった。様々なことを痛感させられて、非常に勉強になった。学ぶことは、暗殺チームが生き残るための大きな財産である。

 

「それは良かった。ところでシーラ・E、なんでか知らないけど僕は明日デートすることになってるんだけど?聞かされていないんだが?」

 

ジョルノはシーラ・Eを睨み、シーラ・Eは逃げ出した。

 

「まったくしょうがないな。」

 

ジョルノはため息をついた。

 

「いいんですか?」

 

ズッケェロが問いかけた。

 

「いいも悪いも、仕方がないさ。各々に立場があり、地位には責任が伴う。地位に伴う責任を果たさずに好き勝手に振る舞う権力者は暴君であり、それはすなわちディアボロと同類だということに成り下がってしまう。強権に頼りきる人間は、周囲の信頼を得られない。そうなればきっといつか、僕はディアボロと同じ末路を辿ることになる。……僕は時折、君たちが羨ましいと思うときがあるよ。」

「奇遇ですね。俺たちもボスが羨ましい。」

 

サーレーがジョルノに笑いかけた。

 

「何もかもが思い通りには行かないさ。明日も仕事だから、今日はもう寝ようか。」

 

ジョルノも笑みで返した。

彼らは社交界を台無しにするという今回の任務に失敗したが、それはもう仕方がない。ここは本来僕がなんとかする場面だ。

ジョルノは笑って、席を立った。

 

「あっ、あいつ(メロディオ)に、カンプ・ノウのチケットの融通を頼めば良かったんじゃねーか?」

「あっ!!!」

 

サーレーとズッケェロが、悲鳴を上げた。




前の話で、マドリードの暗闘→マドリードの乱戦に変更しています。
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