噛ませ犬のクラフトワーク 作:刺身798円
茜色に染まる空に、旗が掲げられる。屍は山を築き、赤い川が地に満ちる。
それは、パッショーネの落日。終末の鐘が鳴らされる。疲労と艱難辛苦の先に、革命は果たされた。
「サーレー、僕たちを置いて君は逃げろッッッ!」
「ジョジョ、あなたを置いてはいけない!」
絶望が、世界を覆う。闇から出でし軍勢が、蝗のごとく大地を蹂躙していく。
しかし最後に残された希望を守り抜くために、チンピラは戦う。
「なんだ!お前らは!なぜパッショーネに敵対する!」
「……言うだけ無駄だ。俺たちは最後まで……死ぬまで奴らと戦うしかねえ。」
サーレーの横には、傷付き崩折れた空条承太郎がいた。
しかしその眼光は未だ鋭く、戦意を失わない。
「ふん、まさかこの俺があんな奴らごときに遅れをとることになろうとは。」
逆隣には、金髪の美丈夫がいた。
男はジョルノと同等の威圧を放ち、戦いに疲弊してなおも尊大に言い放った。
「ディオ……。」
「フン。空条承太郎、不愉快極まりないが、今回だけは貴様と共に戦うことを認めてやる。」
「ウイッヒヒヒ。」
不気味な笑い声と共に、小柄でパンチパーマの男が彼らの前で笑った。小物臭のする、頬に傷がある小柄なチンピラ。
歴戦の戦士である彼らは、たった一人のその男にかなわずに虫の息なのである。
「キサマ、何者だ!俺たちを襲撃する目的は一体なんなんだ!」
サーレーが叫んだ。
「俺の名前……そうか、俺の名前が知りたいか。」
男は楽しそうに、ニヤニヤと笑った。
三白眼がギョロリと動き、団子鼻がフゴフゴと鳴らされた。
「いいだろう、教えてやろう。俺の名前は……小林玉美。かませ犬四天王の一人だ。」
「かませ犬四天王……だと?」
小林玉美。
ジョジョを通して読んだ方であれば、きっと知っていらっしゃるだろう。
ジョジョ四部に敵キャラとして登場し、スタンドを使って広瀬康一を精神的に追い詰めるも、スタンドに覚醒した康一にあっさりと敗北した典型的なかませ犬である。広瀬康一専用のスタンドのチュートリアルのような存在。敗北した後は、ちゃっかり主人公勢の腰巾着としての立ち位置を確保した。多分違法な金融業を営んでいると思われる。
小林玉美は、サーレーを睨んで告げた。
「ああ。俺たちは我らが主人、かませ犬王様の忠実なしもべだ。かませ犬が強者を屠る……実に胸熱な展開じゃあねえか?」
小林玉美と名乗る男は、ポケットに手を突っ込んだまま邪悪な表情を浮かべた。
「クソッッッ!!!」
サーレーは空条承太郎すら圧倒した、目の前の男をひどく警戒した。
「うん?お前にはどうやらかませ犬の素質がありそうだな。」
小林玉美は唐突に怪訝な表情を浮かべると、品定めをするように顎に手を置いてサーレーをまじまじと眺めた。
「なんだと!」
「お前は、こっち側の人間だ。そっちにいるべきではない。俺たちのもとに来い。今ならばまだ、寝返ることを許してやろう。……我らがかませ犬王様は、同胞には寛大なお方だ。」
小林玉美は、不敵に笑った。
「断る!俺はジョジョの部下だ!断じてお前たちには加担しない!」
「ふん、時勢が読めないとは蒙昧な男だ。」
小林玉美は、つまらなそうに鼻を鳴らした。
「お前たちは、一体何が目的だ!」
「……いいだろう、教えてやろう。我らの目的は……世界への復讐。俺たちを雑魚だのかませ犬だのと嘲笑った者たちに、目にものを見せてやることだ!そのための橋頭堡として、まずはイタリア共和国を乗っ取ってこの地にかませ犬共和国を建国するのだ。」
「なんだと!」
「かませ犬たちによるかませ犬たちの楽園……かませ犬共和国。いい響きじゃあねえか。うひひ、かませ犬王様最高だぜぇ。……お前たちには、その礎としてこの地の肥やしになってもらおうか。」
小林玉美は、サーレーを指差した。
かませ犬共和国……なんだか全くわからないが、サーレーの大切な祖国イタリアに勝手にそんなわけのわからないものを建国されてはかなわない。
王政にも関わらず共和国?頭が悪すぎる。
是非とも共和制度の何たるかを勉強して出直してきて欲しい。
どうせ四天王とやらも、五人目以降が出てくるのだろう。ベタだ。わかりやすいったらない。
それにしても、なんとも言い難い語感だ。住民全員、とても弱そうな印象を受ける。
そんな場所に一体、どれだけの需要があるというのか?ニッチにもほどがある。
サーレーは小林玉美と名乗る男を睨んだ。
「お前たちの野望は危険だ!お前たちの野望は、俺が挫く!貴様は、俺が……相手だッッッ!!!」
「サーレー、危険だ!!!」
ジョルノがサーレーに向かって叫んだ。
「チッ、先走りやがって!」
「……今回だけは力を貸してやろう。」
承太郎とディオが、サーレーにスタンドパワーを与えた。
三つの漆黒の殺意が重なり、世界は融け合って混ざった。回転し歪曲し、宇宙は弾けて再構成される。
『冥界ッッッ!!!』
「にゃにいッッッ!!!」
小林玉美は断頭台に身柄を確保され、重量と存在感のある刃が風を切って落とされた。
刑は執行され、小林玉美の頭は胴体から泣き別れた。
「……やるな。だが俺は、かませ犬四天王の中でも最弱の存在。俺を倒したところでまだ俺の上に残り三人のかませ犬四天王と、かませ犬親衛隊と、かませ犬暗殺チームと、かませ犬王様が残っている。お前たちの抵抗は、しょせんは無駄な悪あがきに過ぎん。」
小林玉美の首が地面を転がり、不気味に笑い最期に捨て台詞を吐いて喋らなくなった。
「そんなにいっぱい……クソ!俺は奴らに勝てるのか!」
その捨て台詞に、サーレーの精神を絶望が覆った。
小林玉美一人相手でもこんなにも苦戦したのに、まだそれ以上の奴らがわんさかいる。俺は奴らに勝てるのか?
「……サーレー。ひとまずは僕たちの勝利を祝おう。僕たちは疲弊している。休息が必要だ。」
「ジョジョ……。」
サーレーはジョルノを支えて、ジョルノは立ち上がった。
「しかし……敵の全貌も目的も見えない。どこから現れた勢力なのかもわからない……。かませ犬共和国……僕たちのイタリアにそんなわけのわからないものを建国させるわけにはいかない!サーレー、是非君の力を貸してほしい。」
「ジョジョ。俺はあなたの忠実な手下です。」
「ふん。」
「やれやれだぜ。」
得体の知れない軍勢を前に、四人の戦士たちは立ち上がった。
戦いはまだ、始まったばかり。祖国を守るために、戦え!チンピラよ!
◼️◼️◼️
夜が明けた。意味不明な夢は覚めた。
……俺の脳内は、一体どうなっているのだろう?もしかして脳みそが腐っていないだろうか?
まじめに一回病院で見てもらったほうがいいのではなかろうか?
でも病院代がない……。
サーレーは布団から体を起こして、頭をひねって唸った。
夢は人間の潜在意識だという説もあるが、それが事実ならば俺は一体何を考えて生きているのだろうか?
サーレーはしばし、真面目に自分の人生について考えた。……何も思い浮かばない。
サーレーは自分の人生の空虚さに肩を落としたが、おそらくは五分後には綺麗さっぱり忘れているだろう。
何でもかんでも夢オチにしてしまえばいいというものではない。天丼は、二回まで。
サーレーはコーヒーを沸かして、目覚めつつある頭脳でゆっくりと今日の予定を思い出した。
ーーああそうだ。今日は午前から午後にかけて工事現場で働き、そのあとはスポーツバーで給仕の仕事をするんだったか。
サーレーはつい先日カジノで全財産をスってしまい(といってもそう大した額でもないのだが。)、スポーツバーで給仕の仕事をするかわりに食事を賄ってもらうことになっていた。サーレーが知らないうちに、いつのまにかスポーツバーはパッショーネの所有物件になっており、サーレーは改めてパッショーネの力をまざまざと見せつけられることになったといえる。
ーーま、パッショーネがヤバイってことは前々からわかりきったことだしな。俺には難しいことはさっぱりわからねえし、俺があんまり考えても仕方ねえか。
布団から起き出して、歯を磨いた。服を着替えて、いつもの髪型をセットした。
超絶、イカしてる。……おい誰だ、今俺の髪型をイカれてるって言った奴!
寝汗をかいたシャツを洗濯機に放り込んだところで、サーレーの携帯電話に着信があった。
発信元はパッショーネの情報部。確か今はカンノーロ・ムーロロに代わって、ベルナトという男がリーダーをしているはずだ。
サーレーがつい先日会った、眼鏡をかけた神経質そうな男だ。
「はい、サーレーです。」
『おはようございます。パッショーネ情報部のベルナトです。少々お時間をよろしいですか?』
サーレーは時計を見た。まだ朝だ。
工事現場の仕事はまだ先だ。少し時間に余裕がある。
「はい、構いません。」
『情報部にて話し合った結果、先日パッショーネに加入したドゥエ・ステラ所属のアルバロ・モッタさんは、しばらく暗殺チームの預かりにした方がいいという結論に落ち着きました。』
「はあ?」
意味がわからない。なぜ情報部の人間を暗殺チームの預かりにする必要が?
『突然こんな話をしても、ご承服しかねるでしょう。モッタさんに理由を告げて、本人にそちらで説明してもらおうと考えています。』
「はあ……。」
やっぱりよくわからない。
『とりあえずモッタさんにはそちらへと向かってもらいます。それでは。』
「あっっ!!!」
ツー、ツーと音が鳴り、電話が切れた。どうしようか?
サーレーは少し考えるも、相手はパッショーネの頭脳とも言える情報部だ。チンピラが下手に頭を使って余計なことをするよりも、静観してしばらくは成り行きを見守ってみようという保守寄りの結論に落ち着いた。
「さってと。」
サーレーは冷蔵庫を開けて、パンを取り出した。
口に放り込んで咀嚼すると、上着を羽織って靴を履いて外に出た。
ーー今日もいい天気だ。ちとアチいが、まあいいか。
太陽が眩しく、今日のイタリアの空は快晴だ。
サーレーは足取り軽く、工事現場へと向かった。
◼️◼️◼️
「ブヒャヒャヒャ、コイツ、今日の夜はスポーツバーで給仕の仕事をするんだぜ。似合わねえ。」
ズッケェロがサーレーを指差して笑った。ウェザーが少し困った顔をしている。
パッショーネはミラノに劇場を新築する予定であり、彼らはそこの工事現場員として駆り出されていた。
「……うるせえな。なんか文句あっかよ?」
「いや文句はねぇけどよぉー、ホル・ホースに聞いたぜ?お前ジョジョに仕事をもらって、給金をそのままカジノで全部スっちまったんだろ?アホだねえ。」
「クソ……。」
不快だが、自業自得としか言えない。ズッケェロには多少借金もしており、頭が上がらない。
サーレーは仏頂面をした。
ホル・ホースの野郎何でもかんでもバラしやがって!
「そういえば、情報部から連絡があったぞ。」
ウェザーが口を挟んだ。
「ああ、俺も連絡があったぜ。なんで情報部の人間を暗殺チームに寄越すんだ?」
ズッケェロも頷いた。
「ああ、寄越される人員は、俺が見知った人間だ。なんで寄越されるのかは俺にもわからんが……まあ俺たちが考えても仕方ねえだろう。理由は、本人が来てから聞きゃあいい。」
「まあそうだな。」
「お前ら、喋ってねえで仕事しろ!」
工事現場の親方が、声を張り上げた。
「あいよー。」
サーレーは返事をして、ズッケェロとウェザーも自分の仕事に戻った。
◼️◼️◼️
「らっしゃせー。」
「おいおい、俺たちは客だぜ?もっと愛想よくしろよな。」
サーレーは適当に挨拶をして、ズッケェロがそれに苦情を言った。
ズッケェロの背後には、ウェザーとモッタとホル・ホースが後をついてきている。
「お前エプロン似合わねえな。プフッ!」
モッタがサーレーを見るなり吹き出して、ウェザーは気まずそうな表情をしている。
「接客されるなら、お前みたいなむさい男よりもかわい子ちゃんがよかったぜ。」
「お前ら、さっさと店に入れ!」
サーレーはホル・ホースの言葉にイラつき、彼らを店に入れた後に荒く扉を閉めた。
「おい、客にはもう少し丁寧に接しろ!」
「……すみません。」
スポーツバーのマスターがサーレーに怒鳴り、サーレーはしぶしぶとマスターに謝罪した。
「謝るのは俺にじゃねえだろうが!ったく、仕事するってのに不満そうな顔をしやがって。」
「ああいいすよ。マスター。知った仲なんで。」
マスターの怒りを、ズッケェロがとりなした。
「ここで話しても大丈夫なのか?」
「ああ、気にすんな。パッショーネが二時間ほど貸し切ってくれたって。マスターも言い含めてあるらしい。」
ウェザーが少し心配そうにズッケェロに問いかけ、ズッケェロは明るく笑って返答した。
彼らは基本秘匿される暗殺チームだ。
内々での話があることも多く、サーレーを除く彼らは、アホの子サーレーよりもチームの秘匿事項に敏感だった。
「オラよ。水だ。」
サーレーが横柄に彼らに水を出した。
水滴が、テーブルに飛び散った。
「もっと丁寧にしろよ。」
「うるせーな。お前ら注文はどうすんだ。」
ホル・ホースの言葉に噛み付き、サーレーは注文を聞いた。
「俺カプチーノ。」
「俺は紅茶がいいな。」
「カプチーノとホットケーキ。」
「テキーラ。」
「マスター、カプチーノ二つと紅茶とホットケーキ。」
サーレーが厨房に注文を飛ばした。
「おい、俺の注文をスルーすんなよ。」
「お前は水で十分だ。そもそもこれから内密な話をしようというのに、度数の高い酒なんか頼むんじゃねえ。せめて話が終わってからにしろ。」
「悪かったよ。カプチーノ。」
「……マスター、カプチーノ一つ追加で。」
サーレーは酒を頼んだホル・ホースの注文をスルーし、ホル・ホースは慌ててカプチーノを注文した。
サーレーはしぶしぶホル・ホースの注文を受け付けた。
「じゃあまずは自己紹介からか。」
ズッケェロがモッタに話を振った。
「ああ。パッショーネの情報部に所属する新人の、アルバロ・モッタだ。よろしくお願いします。」
「知っての通り、マリオ・ズッケェロだ。よろしく。」
ズッケェロは店に来る前にモッタを預かっており、先に自己紹介を済ませていた。
「ウェザー・リポートだ。よろしく頼む。」
「俺っちはホル・ホース。よろしくねん。」
「サーレーだ。」
サーレーはカプチーノを三つと紅茶とホットケーキをトレーに乗せて、テーブルへと運んだ。
「お前はソルトだろうが。」
「……サーレーだ。よろしく頼む。」
モッタはサーレーを恨みがましい目で睨んだ。
「……お前はまだレンタカーの料金とハンバーガー代を俺に払ってないだろ。さっさと金返せ。」
モッタがサーレーを白い目で見た。
サーレーは、視線を逸らした。
「マジかよ、相棒……スマン。金は俺が立て替えておく。」
ズッケェロもサーレーを白い目で見て、懐から財布を取り出した。
「……小銭をいつまでもネチネチ言うなよ。」
「お前がキチンと金を払ってくれれば、俺がわざわざこんなことを言う必要もなかっただろ。自分を棚に上げて、人に責任をなすりつけんな。」
ウェザーは彼らの話に我関せずで、優雅に紅茶を飲んでいる。
「んで、肝心の話だ。お前は何で暗殺チームの配属になったんだ?」
「ああ、それな。」
ズッケェロが話の本筋をモッタに振って、モッタは筋道立てて話を始めた。
「そうだな。順を追って話そう。まず基本的なことなんだが、情報部には大まかに分けて二つの部署があるんだ。」
「二つ?」
ズッケェロは首を傾げた。
「ああ。情報収集部門と、情報操作部門。まあ言葉でどういうことかわかるだろ?情報収集部門は間諜、いわゆるスパイ活動だ。危険なことを考える奴はいないか、水面下で陰謀が蠢いていないか探ることが役割だ。情報操作部門は、対外的に流す情報の吟味と操作、およびに組織内部に通達する情報の取捨選択だ。メディアと権力を使ってある程度情報を操作する。いくら大衆に知る権利があるってったって、限度がある。わかりやすい例をあげれば、例えば軍事機密のような危険な情報なんかは世間に出回らないように操作してるだろ。そういうのが海外に漏れたら、国難が訪れる危険性が出てくる。そうしないと社会が回らねえんだよ。」
「……なるほど。」
ウェザーが納得して頷いた。
パッショーネは情報部に支えられることで、イタリアで強大な組織として君臨している。
例えばパッショーネの諸外国での立場について、パッショーネの外交部門がそれを理解していないことには話にならない。しかしそれを組織内部全体の共有情報にしてしまえば、麻薬の扱いに関してボスであるジョルノに対して不信感を抱くものが出てくることになり、それは争いの火種となりうる。
結果として必然的に、それは情報部と外交部門、ならびにジョルノ腹心の配下の共有の秘匿事項となる。情報部はパッショーネとジョルノの生命線であり、因果を含めて懐に飲み込む以外の選択肢を取り得ないのである。
「で、俺が任されようとしてんのは情報収集部門なんだが……ベルナト、情報部現リーダーが言うには、情報収集部門は今現在人材が足りていないらしい。ベルナトも他の人員も、情報操作を得手としているって話だ。亡くなった前リーダー、カンノーロ・ムーロロって人が情報収集のプロフェッショナルだったらしいんだが、その人の代わりに俺の見本となれる人材がいないって話なんだ。」
パッショーネの情報部には情報収集が可能な人材もいるが、スタンドを使用したプロフェッショナルと呼べるほどのクオリティを持つ人材は今現在いない。それは、カンノーロ・ムーロロの独壇場だった。
マリオ・ズッケェロも情報収集に高い適性を持つが、群体で射程も広いカンノーロ・ムーロロには足元にも及ばない。
そのムーロロを欠いた現在、モッタを育成するノウハウを持つスタンド使いがパッショーネにはいないと言うのが実情だった。
「そんで情報収集の話だが、俺が情報を収集するべき対象は、もっぱら暗殺チームの暗対になる可能性が高いってことで、俺の身の回りの護衛も兼ねて暗殺チームに配属されたんだよ。それと、情報部と暗殺チームの繋ぎの役割も期待されてるらしい。」
「うーむ。」
ホル・ホースがカプチーノの香りを嗅いで唸った。
「で、パッショーネで俺のスタンドをいろいろと精査してみたが、俺とカンノーロ・ムーロロって人も全く違う使い方になりそうだって話だった。」
「全く違う?」
ズッケェロがモッタに問いかけ、続きをうながした。
「ああ。俺と前任者の共通点は、スタンドが群体だってことだけだ。話によると、前任者は反則的なほどに強力な諜報員だったらしい。前任者のスタンドは50体を超える群体で、射程もイタリア国内全域、戦闘力もかなりのもの。対して俺は、7体で射程が2キロほど、そして雑魚だ。俺が優っているところは、スタンドの精密操作性、自立思考能力の高さによる現地での柔軟性、そしてスタンドの付随能力であるスタンドの大きさの変化とスタンド同士の任意の入れ替えだ。」
「……。」
モッタは7体の微妙に見た目の異なる小人たちを具現した。
ウェザーは紅茶を飲みながら、黙って頷いた。
「それらを総合して、戦力の低い俺は戦力の高い暗殺チームと一体で行動したほうがいいって結論が出たらしい。どうにも前任者が有能すぎたってことだ。戦力を持ち、知能が高く、高い諜報能力をもっていたために単騎で自在に情報収集が可能だったらしいが、俺にはそれは厳しいだろうって話だった。」
「なるほどねえ。」
ズッケェロが腕を組んで頷いた。
「お前は仲間はいいのか?」
サーレーが注文を取りながら、モッタに問いかけた。
モッタは渋い顔をした。
「……結局話し合った末に、ドゥエ・ステラは解散したよ。今はみんなパッショーネで、個人で適性の高い部門に所属している。どうにもジョジョは、俺たった一人の引き抜きのために大金を費やしたらしい。下請け云々はただの口実だったみたいだ。仲間が助かるんなら、まあそれも仕方ないさ。」
「そうか。」
サーレーは申し訳なさそうな顔をした。
「まあガキじゃねえし気にすんな。人生山あり谷ありだ。仲間とバラバラになっても、もう二度と会えないわけじゃねえ。……みんなが幸せになってくれるなら、それでいい。」
金髪のそばかすヅラの青年は、肩の荷が降りたような、晴れやかな表情をした。
「……暗殺チームに所属することに反対はされなかったのか?」
サーレーが空いたコップを下げながら、続けてモッタに問いかけた。
「まあ反対はされたが、俺ももともと泥棒だし裏の人間だしな。生きてるうちは危険は避けられねえよ。……それにパッショーネには逆らえん。オヤジは俺を心配していたが、いつまでも守られるガキのままってのも情けねえ。俺がパッショーネの役に立つことが仲間のためになるんだったら、それでもいいさ。」
モッタは、微妙な表情をした。
「ま、ってわけで今日から俺も暗殺チームの一員だ。よろしくお願いする。ただし全く戦えねえから、是非とも守ってくれ。」
「最後の一文が締まらねえなあ。」
暗殺チームは、そのまま懇親会へと移行した。
やがて一般客も混じり、スポーツバーの時間は緩やかに過ぎていった。
「おい、サーレー!テメエまた客からの注文間違えやがったな!」
「すみませんッッッ!!!」
サーレーが叱られるのを眺めながら、彼らは酒を注文した。
◼️◼️◼️
冷たい密室に、声が響いた。
「煉獄山の頂上からの景色は、一体どのようなものだろうか?進化の終着駅には何がある?時間の最果てには?死後の世界は?魂は存在するのか?……いくら思考しても、興味は尽きない。」
サーレーたちの戦いには、明かされていない一つの謎が残されている。
カンノーロ・ムーロロが処分した、回転木馬のスタンド使いのことである。彼は結局、何者だったのだろうか?
「イアン、ただ今帰ったぞ。」
「理屈で言えば、生命の進化の最終地点は神ということになる。それは形而上のものではなく、生きることの最終到達点という意味合いだ。誰しもに認められるわけではないが、それでも思考を突き詰めるとそういう結論を出さざるを得ない。しかし形而上の神と形而下の神、人がそのどちらを信仰するかは明白だ。」
「またいつもの病気か。」
研究室に、二人の男がいた。
一人は白衣を着て黒髪、研究者風の見た目をした年齢不詳のイアン・ベルモットという名の男。椅子に座ってブツブツ独り言を呟いている。
もう一人は回転木馬のスタンド使いの本体、見た目三十代前半の茶髪で軽薄な印象を与える男オリバー・トレイル。
回転木馬のスタンドの本体は、死亡したはずではなかったのか?なぜここにいるのだろうか?
「……帰ったか。どうなった?」
「ディアボロとかいう男の血液と細胞は手に入れた。他には土産は一切ナシだ。」
「おいおい。お前がここを離れてた期間を考えたら、もう少し他にも何か持ち帰れただろう?遊んでいたのか?」
回転木馬のスタンドの本体、オリバーの衣服にはいたるところに血痕がこびりついている。
その出血量は、常人であればあからさまに致命のはずだった。
「無理を言うな。近くにローウェンがいやがった。あのバケモノの前で下手なことすりゃあ、あっという間に感づかれる。全ておじゃんだ。」
「ローウェン……ローウェン!ローウェン、ローウェン、ローウェン、ローウェン!!!フランシス・ローウェン!!!殺す!絶対に殺してやる!!!」
「ローウェン……フランシス・ローウェンか。まあアイツは確かに相手にしたくないな。」
ガラスを、ドンドンと叩く音がする。
研究室はガラスで仕切られた部屋が隣にあり、スピーカーから彼らの会話が流されていた。そこにはパーカーを着て目深にフードを被った男がいて、ローウェンという名に反応してガラスをしきりに叩いていた。フードから覗く目は充血し、そこには狂気が宿っている。
「潮時だと思ったんで、死んだフリをして逃げてきたよ。」
「どうだ、俺が言った通り役に立っただろう?」
「まあな。確かに助かった。でもよぉー、これ副作用があるんだろう?」
オリバーは着ている服を脱ぎ捨てた。
オリバーはイアンの手術室で若干改造を施されており、カンノーロ・ムーロロの襲撃で致命傷を負ったにも関わらず生き延び、死んだことにして密かにここに戻ってきていた。
「……それは諦めろ。仕方ないだろう。ところであのディアボロとかいう男は、目的を達成できそうだったか?」
「ああ、ありゃあ無理だな。客観性がまるでない。それに常に自分が一番でないと気が済まないんだろう。非常に幼稚な男だ。自分の今までの行為を省みれば、もう少し辛抱強く潜伏するべきだと普通だったら気付くはずなのにな。キレた死神どもが何が何でも殺そうって纏わり付いてやがるのに、まるで気付いていない。ま、ローウェンに捕まった時点で、どう転んでも最終的な結果はお察しだな。」
「そうか。」
「だがスタンド自体はかなり強力だぜ。何しろあのカンノーロ・ムーロロをあっさりと葬りやがった。あんたも
オリバーは液体窒素で氷漬けにして、密閉した容器に保存したディアボロの皮膚の細胞と血液をイアンに手渡した。
「脳細胞は持ってこれなかったのか?」
「無理を言うな。先が短いくせに無駄に用心深い性格で、それを取ってくるのだってかなーり苦労したんだぜ。粘ってみたが、死体も結局メロディオが回収していくしよぉ。もっと俺を労ってくれよ。俺、超頑張ったんだぞ!」
オリバーは若者のように屈託無く笑い、イアンはそれを無視した。
「……まあ仕方なし、か。」
回転木馬の男、オリバー・トレイルの真の目的は、強力なスタンド使いの細胞とディアボロが入手した矢の一部を秘密裏にイアンの元へ持ち帰ることだった。そのために、パッショーネ襲撃のために部下を集めるディアボロの元に密かに潜り込んでいた。結局ディアボロは最期まで、ドッピオ以外に従者はいなかったのだ。
そしてフランシス・ローウェンがモンテ・ビアンコで潰した組織のクローン研究成果は、いくつかの組織を経由してイアン・ベルモットの手元へとたどり着いていた。
イアンはディアボロの細胞を研究室の薄明かりに掲げて眺めた。
気分が高揚した彼は唐突に、言葉を発した。
「宇宙が膨張を続ければ、その先には一体何が待ち受けているのか!太陽が終焉を迎える時、人類は生存方法を見つけ出すことができているのか!十年後の世界はどうなっている?一万年後は?百億年後は?さあ、遊ぼう!我らはそのために生きている。興味の赴くままに玩具を弄り倒し、世界を好きな色に塗り潰そう。それが地獄の釜が蓋をあける行為ならば、汗を流すようにヨーロッパの肥沃な大地を腐った血で朱く染めよう!我らを悪魔と呼ぶのなら、それもいい。それは悪魔が人間の進化した先だという証明だ。楽しいことや興味を優先して、滑稽な喜劇とともに一緒に互いを指差して笑い明かそうじゃないか。ボロ靴を履いて、ガラスの山で夜を越えて踊り狂おう!世界の終わりが見れるのならば、それにこの世のすべての命を捧げても惜しくはない。能無しのイナゴの群勢よ、迷える子羊たちよ、春を愛する頭に蛆の湧いた同胞たちよ、私が先導するから是非とも全員仲良く荒れ狂う真冬のローヌ川に飛び込もう!世界を愛している!神様を愛している!こんな面白いおもちゃを私にプレゼントしてくださって、どうもありがとう!お礼に指を一本ずつ切り落として、鼻をそぎ落として、ケツの穴から全部ねじ込んでやるよ!」
イアンは高揚して、彼の前面のガラスを力任せに蹴り飛ばした。それは割れずに振動した。
気の向くままに適当に言葉を並べるイアンに、オリバーは相変わらずといった様子で首を傾げた。
「普段通りだな。お前のことが全く理解ができねえぜ。いつもどっから電波を受信してるんだ?俺に遊んでいたのかって問い詰めたのは一体なんだったんだ?」
「心配するな。俺にもお前が全く理解できん。お前の小児性愛という奇怪な性癖は、どうにかならんのか?」
「どうにもならんよ。俺も、よくわかった。俺たちは分かり合えない。でも、子供って可愛くないか?え、可愛くない?」
「さっぱり理解できん!!!人間なんざ、しょせんはそんなものだ!だがだからこそ、興味は尽きない!」
イアンは恍惚の表情を浮かべ、オリバーは呆れた表情をした。
彼らの組織の名称は、リンドレンデッド。イアンをリーダーとしてヨーロッパを彷徨う悪鬼の二人組。
たった二人なのになぜ組織なのか?それはイアンが組織を乗っ取り、前任者たちを全員意のままに動く奴隷に改造したからである。
彼らはいつも、自身の欲求を何よりも優先する。災厄を好む者たち。
陰謀とは、いつも水面下で蠢く。
◼️◼️◼️
名称
イアン・ベルモット
スタンド
概要
執刀医のスタンド使い。人間を自在に改造できる。どこまでできるのか、どのようなことができるのかは、現時点では秘密のベールに包まれている。ディアボロと通じていたオリバー・トレイルから、スタンド使いに矢を刺せばさらなる進化を遂げるという情報を入手した。
名称
オリバー・トレイル
スタンド
概要
回転木馬のスタンド使い。ディアボロに付き従い、パッショーネを散々苦しめた。ペドフィリア。カンノーロ・ムーロロに殺害されたはずなのだが?
名称
フードの男
スタンド
???
概要
研究室の、ガラス張りの部屋に隔離された男。フランシス・ローウェンに異常なほどの執着を見せる。
というわけで、新たな展開を考えて書き出すためにここで終了として本作は更新を停止いたします。
続きは新しく立てて書く予定ですが、予定は未定です。
書きだめが出来上がる時期が不明な上に、完結させる見込みは現時点では全くございません。申し訳ないですがどうかご了承ください。R指定も若干上がる可能性があります。
それでも構わないという方は、どうかそちらもよろしくお願いいたします。
これまで応援してくださった方々に、この場で厚く御礼申し上げます。ありがとうございました。