噛ませ犬のクラフトワーク   作:刺身798円

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久し振りの投稿になります。
リアルでイタリアが災禍に見舞われていたために、ある程度書きあがってましたが投稿をしばらく見送っていました。
前置きとして、これは新章のスタートですが、新章は以前に比べてグロテスクな表現がかなり増えています。
苦手な方にはお勧めできません。それでも構わない方のみ、よろしければお付き合いお願いします。


煉獄変
奇跡の夜


黒・・・本作オリジナルのスタンド使い。オランダ人の父親と中国人の母親を持つハーフ。イタリアにてサーレーと敵対するも、危険を感じてヨーロッパから逃走する。黒という通り名は、本人による汚い仕事でも請け負うという自虐が由来。

 

セッコ・・・ジョジョ5部のキャラクター。かつてはチョコラータの相棒であったが、どこをどう間違えたのかヨーロッパの何でも屋である黒に拾われて相棒を勤めている。

 

チョコラータ・・・ジョジョ5部のキャラクター。元医者で、患者に非人道的行為を繰り返していたところをパッショーネに庇われて拾われる。5部主人公のジョルノと敵対し、激闘の末に死亡した。

 

イアン・ベルモット・・・本作の、敵側の主人公。スタンドはクレイジー・プレー・ルーム。部屋のスタンドで、様々な特性を持つ可能性のスタンド。

 

オリバー・トレイル・・・本作の敵の腹心の部下。難病の息子を闇医者だったイアンに手術してもらった過去を持つ。以前にディアボロの部下として潜入しており、ディアボロの細胞や血液をイアンに提出した。スタンドはラウンド・ラウンド・アンド・ラウンド・アラウンド。

 

煉獄・・・カトリックの教義で、天国と地獄の狭間にある罪を炎で清めるための場所。死んだばかりの死者が天国へ向かう道中に寄る場所である。イアン・ベルモットは、生から煉獄を通って天国へと向かうのならば、その逆方向の通行も可能であるとそう考えている。イアン・ベルモットの妄想の世界では、罪を清めて天国に行った魂は、罪を背負って再び現世へと戻ってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◼️◼️◼️

 

内容はひどく胸糞悪くなるものだが、金になる可能性がある以上持って行かないわけにはいかない。

黒は部屋の書棚にまとめられた埃を被った資料にザックリと目を通して、眉をひそめた。

探し物はこれじゃあない。が、やはり内容がとてつもなく不愉快だ。ひどい嫌悪を催した。

 

「おかしいな。どこにも見当たらない………。チッ、埃がたまっていやがる。ゲホッ。」

「う?」

 

暗い部屋で、黒は咳き込んだ。始まりはここから。

そこはかつてのセッコの相方、チョコラータの隠れ家であった。

 

黒とセッコはパッショーネの暗部に関わり、生命の危機を感じた黒はツテを頼ってイタリアから中国へと逃亡を試みようとしていた。

その際、彼らの隠し家にはセッコが所有していたチョコラータの極秘研究資料が存在し、その内容は惨憺たるものであるものの、好事家にとっては金銭的な価値があるために、長期間の逃亡になる可能性が高い彼らはそれを回収して逃亡先へと向かおうとしていた。

逃亡には金がかかるものだ。現金の手持ちが少ない。

 

「おい、セッコ。遊んでねえでさっさとブツを探し出せ。」

 

セッコは、さっきからずっと部屋に設置してあるモニターを眺めている。黒はふと違和感に気がついた。

………おい、待て。なぜそれは電源が入ってるんだ?ここは長い間、誰も出入りをしていないはず………。

電気の契約は切ってあるはずだ。セッコが電源を入れられるはずがない。

 

モニターにノイズが入り、画面がしばらくの間ブレた。黒はそれを注意深く観察している。

やがてそこに何かが映し出された。

 

【こんにちは。君は何でも屋の、黒だね。】

 

モニターに突然白衣を着た不気味な存在が現れ、黒に挨拶をした。おそらくはスタンドだ。

無機質な機械の体をして、目がネジで出来ている。不気味な瞳が、モニターの向こう側から彼らを値踏みするようにじっとりと見つめていた。

 

「誰だッッッ!!!テメエッッッ!!!」

【誰でもいいだろう。私は君に、用がある。】

 

白衣の怪物は、不可解なまでに落ち着き払った所作で返答した。

 

「俺はテメエなんかに用はねえッッッ!!!失せろッッッ!!!」

 

目の前の存在に本能で危険を感じた黒は、セッコを退けてモニターに詰め寄った。

 

【君の探しているものは、私の友人の大切な形見だ。コソ泥風情に渡すつもりはない。とっくに私が回収したよ。】

 

怪物は、ニヤついている。

部屋にシュー、シュー、という音と共に、無色透明のガスが流し込まれた。黒は眩暈を感じた。

それは睡眠を誘導するガスだ。

 

「しまったッッッ!!!クソッッッ!!!」

 

慌てて部屋から逃走を試みるも、外側から施錠されたようにドアが開かない。

セッコが、パタリと床に倒れた。

 

【おやすみ。いい夢を。】

 

スタンドは楽しそうに、そうつぶやいた。

 

◼️◼️◼️

 

空は暗く、数多の星が瞬いている。街は街灯の灯りに包まれている。

その中でも、一際に明るい建物が存在した。

今日は六月の半ば、フットボールの国内シーズンは終了し、これから戦い続けた戦士たちにひと時の休息が訪れる。

 

「ついにここまで来たか。……感慨深い。今日は勝てるといいな。」

「そうだな。せっかくの機会だ。今日は損得抜きでお前のチームを応援するぜぇ。」

 

サーレーとズッケェロは、ひたすらに興奮した。

周囲には、見渡す限りの人々。その数およそ六万人。

その誰しもが、手に汗を握り始まりを今かと待ちわびている。殺気にも似た、凄まじい熱気を感じる。

ここは、スコットランドのグラスゴー。イギリスの領土だ。

 

今日は、グラスゴーに建設されたセルティック・パークで、世界的に権威を持つフットボール大会の決勝戦が行われる日だった。

 

毎年行われるヨーロッパ最大の祭典の決勝トーナメント最終戦。

正確には三位決定戦も同時に行われるが、もちろんこちらがメインイベントだ。

今年の決勝戦は、イタリア、パッショーネの保持するミラノのフットボールクラブチームと、イングランド、ロンドンの名門クラブチームの戦いだった。

 

視点は切り替わる。

 

「……嬉しいものだね。まあベストは、ネアポリスクラブチームがここまで来ることだったけど、それはもう言いっこなしにしよう。」

「そうですね。勝てば今年のヨーロッパチャンピオンです。世界一と言っても過言ではないでしょう。イタリアの国民も、さぞかし喜ぶことでしょう。」

 

ここはセルティック・パークの貴賓席。

そこではジョルノ・ジョバァーナと、その腹心の一人であるジャンルッカ・ペリーコロが歓談していた。

彼らがここにいる理由は、簡単だ。今日はパッショーネ保有のミラノフットボールクラブチームが今年のヨーロッパナンバーワンになれるかの決勝戦であり、所有者のペリーコロとボスのジョルノはワインを傾けて戦いの前の心地よい緊張感を楽しんでいる。

 

「選手の調子はどうだい?」

「久々の決勝戦ですから。入れ込みすぎが少し気にかかりますが、監督は選手のモチベーションの管理に定評があります。当然絶対に勝てるとは言い切れませんが、しかし十分な期待が持てます。」

「……相手は決勝の常連だ。非常に難しい試合になるだろう。しかし君がそう言うんであれば、僕も期待して楽しむことにしようか。」

 

ジョルノはチーズを摘んだ。

ジョルノがチーズを舌の上に置くと、それは舌に塩気を残して溶けていった。

 

「そう言えば彼らは?」

「サーレーたちは下で見てるよ。ボスのお側なんて恐れ多いとか言っていたけど、本音は多分少しでも近くで試合を見たいんだろう。」

 

ミスタは今日はイタリアに残って仕事をしてくれている。たまには羽を伸ばして楽しんで来い、だそうだ。

いい友人を持った。ジョルノは笑った。

 

「始まりますね。」

「ああ。」

 

選手が少年少女と手を繋いでコートの中に入り、賛美歌(アンセム)が心を震わせる美しい旋律を奏でた。

王者の中の王者が、今日決定される。ミラノクラブチームのボールでスタートだ。笛が鳴った。

 

◼️◼️◼️

 

「勝てよぉー、勝てよぉー!!!」

 

帽子をかぶったサーレーは、手汗をかいて両手を固く握っている。鼻息が荒く、顔が真っ赤になっている。

周囲の人間に顔から生えている毛が緑色である事を知られてしまえば、変なトラブルになるかもしれない。帽子はその対策だ。

ボールが動かされ、ミラノクラブチームの中盤から前線へとボールが渡された。しかしロンドンの名門はしっかりと守りを固めて、選手を自由にさせない。

 

「正直なところよぉ、どうなんだ?相手のチームが強いのは分かりきっているだろう?お前の応援してるチームは勝てる見込みはどのくらいあるんだ?」

「難しいな。準決ではビハインドからまくっているから、チームは昇り調子ではある。しかしそれで勝てると言い切れるほどフットボールは簡単じゃないし、相手は去年も大会ベスト4まできている。常連の経験値は馬鹿に出来ない。それとミラノクラブチームの9番は、ふくらはぎを痛めて準決を欠場している。今日試合には出場しているが、一体どこまで本来の調子が戻ってきているやら。」

 

ボールはロンドンクラブチームに奪われ、ロンドンクラブチームは素早く攻守を切り替えた。ミラノクラブチームは立ち上がりが若干硬く、ボールを持ったロンドンクラブチームに素早くボールを回され、自陣でクロスを上げさせてしまった。

 

「おい!しっかりしろ!」

「まあこんくらいじゃあまだ危険とも言えないだろ。ミラノクラブチームのディフェンスは高さに定評があるだろう。」

「バッカ!!!確かに空中戦には強いが、間違いが起こる可能性はあるだろうが!!!」

「まあそりゃそうだな。……そういやウェザーたちは結局来なかったのか。」

「……まあアナスイが、な。アイツら付き合いが長いから、アナスイを置いて来たくないんだろ。家でテレビで観戦すると言っていた。」

「そんじゃあアイツらにもお土産買って帰らねえとな。」

 

ボールを奪い返したミラノクラブチームは前線に雑にボールを蹴りだした。前線でミラノクラブチームのフォワードと敵のディフェンダーが競合い、ボールは敵に奪われてしまう。フォワードは奪われたボールをおいまわした。

 

「……やっぱ対応する側になるよなあ。実力差的に。9番がボールを持てるからロングカウンターを戦術にしてるのかな。」

 

ロングカウンターはフットボールの戦術の一つだ。

彼我の実力差と戦術の相性を考えて、監督は戦術を組み立てる。

ロングカウンターは相手にボールを奪われてしまったら、守りを固めることを優先する戦術だ。

 

カウンターにはショートカウンターとロングカウンターがあり、ショートカウンターはロングカウンターに比べて守りを固めることよりもボールを奪い返すことを主眼においている。ショートカウンターの方が攻撃のチャンスを作り易いが、メンバーの阿吽の連携と攻守の切り替えの速さが必要となるために、失敗した時に手痛いしっぺ返しが待っている場合が多い。ロングカウンターの方がより保守的だが、メンバーの長所や実力と相談してどう戦うか決めることになる。

 

「……それにしても、夢のようだ。自分のチームをこうやって応援する事が出来るなんて。」

 

サーレーは上を見上げた。夜空がとても美しい。

これが勝利の対価であると言うのなら、それはとても素晴らしいことだ。

 

「……まあなあ。忘れるべきじゃねえよ。今俺たちがこうしていられるのは、戦って勝てたからだ。負けてればイタリアはめちゃくちゃになっていた可能性が高いし、ボスがおっしゃるにはあの男のせいで幸せを奪われた人間も数多くいるらしい。……ムーロロのダンナも連れて来たかったなあ。」

「……湿っぽい話はナシだ。今日は今日という日を目一杯楽しもう!」

「ま、そだな。」

 

◼️◼️◼️

 

「……あの、ジョジョ……。」

 

ペリーコロは少し困っていた。

 

「どうしたんだい?」

 

相手はパッショーネの偉大なるジョジョだ。果たして指摘してしまっていいのだろうか?

 

「い、いえ……あの……。」

「ふふ、興奮するのもわかるよ。僕だって少しだけ興奮しているさ。ひょっとしたら僕たちのチームが、世界一になれるかもしれないからね。」

 

……少しだけ?

先程から貴賓席を蔦が多い、どこからともなく小動物がひょっこり顔を出している。

……リスだ。

 

「あ痛ッッッ!!!」

 

リスがペリーコロに噛み付いた。

鳥が空に飛んで行った。ウサギも飛び跳ねた。

スタンド使いでないペリーコロには視認できないが、ジョルノの背後でジョルノの生命のヴィジョンであるゴールド・エクスペリエンスが手に汗を握っている。

 

……ジョジョは冷静を装っているが、どう見ても興奮してゴールド・エクスペリエンスが暴走している。

相手が相手だ。どうしよう……。

 

「僕たちにできるのは、応援することだけさ。」

 

ジョルノは無意識に、犬の頭を撫でた。

 

◼️◼️◼️

 

「なかなか厳しいな。」

「……まだ敵の時間帯だな。試合には流れがある。疲労、偶然、実力……さまざまな要素が加わって、自分たちに有利な時間帯と敵に有利な時間帯が存在するのは当然だ。」

 

ロンドンクラブチームがパスを回し、前線にボールが配球された。

選手はパスを受けると見せかけてそれをスルーし、鮮やかにミラノクラブチームのディフェンスを欺いた。脇から選手が中央に侵入し、ボールを確保して内側に向かってカットインする。ゴール前にボールを流し込み、中央の選手がボールをゴールに蹴った。ミラノクラブチームのキーパーは横っ跳びに跳んで間一髪で掻き出した。

 

「危ねえ。今のは一点ものだったぜ。値千金の守備だな。」

「ああ、キーパーが助けてくれてよかった。」

 

セカンドボールを立て続けにロンドンクラブチームが確保し、ペナルティーエリアの外からシュートを放った。キーパーは反応してボールを弾くも、詰めていた敵選手がゴール隅にボールを蹴り込んだ。ネットが揺れて、敵側応援スタンドの歓声が上がった。

 

「クソッッッ!!!ビハインドか!!!楽させてくれねえなあ。」

「まだ一点だ。ここに来るまでもミラノクラブチームはビハインドを跳ね除けているだろ?」

 

1ー0。

ロンドンクラブチームの優勢だ。イングランドの選手が喜びのパフォーマンスしている。

やがてボールを中央に持って行き、ミラノクラブチームのボールでスタートされる。

 

◼️◼️◼️

 

「ワンワンワン!!!」

 

犬が、吠えた。

 

「クソッッッ!!!」

 

ジョルノが無意識にテーブルを強く握り、テーブルは植物へと姿を変えた。

……どうすんだ、これ?

ペリーコロは困惑している。

 

「あ痛ッッッ!!!」

 

ペリーコロは今度は犬にお尻を噛まれた。

敵がミラノクラブチームの優位に立つと同時に、ジョルノが創り出した動物は途端に不機嫌になってペリーコロに牙を剥いた。

 

◼️◼️◼️

 

「いけッッッ!!!点を返せッッッ!!!攻めなきゃ、勝てねえだろうがッッッ!!!」

 

サーレーはビールを飲み干した後の紙コップを握り潰して、立ち上がって声を張り上げた。

 

「まあ攻めなきゃ勝てねえだろうが、言うほど簡単じゃあねえぜ。ロンドンクラブチームは、攻撃がミラノクラブチームよりもうまい。」

 

ズッケェロが冷静に分析した。

 

点を先に取られた現状、どこかで点を取り返さなければミラノクラブチームは勝てない。それは厳然たる事実だ。

しかし、焦って無理に攻めても、攻撃力に定評のあるロンドンクラブチームにカウンターを喰らって状況がより悪くなるだけの可能性が高い。先に述べたように、フットボールの試合には流れが存在し、我慢を重ねればいずれミラノクラブチームの時間帯が来る可能性もある。

 

臆病すぎてもいけない。果敢過ぎてもいけない。チャンスの女神には前髪しか存在しない。

敵の時間帯を上手く凌ぎ、自分たちの時間帯をモノにした方が勝者となる。特にロンドンクラブチームは大舞台での対戦経験が豊富であり、敵の時間帯である今現在無理に攻めてもはぐらかされて、鼻っ柱に痛烈なカウンターを喰らうだけに終わる可能性は高い。当然二点、三点と相手に点を決められてしまえばミラノクラブチームの勝率はどんどん低くなる。

 

「クソッたれ!」

 

サーレーは落ち着き無く時計を見た。まだ試合は前半も終わっていない。十分に逆転のチャンスは残されている。

しかし、気が気でない。

 

ボールはピッチを転がっていく。

ミラノクラブチームの選手が、攻撃を組み立てようと中盤でパスを回した。しかしイングランドの選手たちは素早いプレッシングで、ミラノクラブチームのパス回しを楽にさせない。ミラノクラブチームは仕方なくボールをディフェンスに渡し、ディフェンダーはキーパーにボールを戻した。イングランドのフォワードがそれを貪欲に追い回し、ミラノクラブチームは否応無しにボールを雑に前方に蹴り出した。

 

「……ボールを捨てざるを得ないってのがなあ。やっぱ中盤の選手のボール保持力に明確に差があるなあ。中盤でボールを持てないから、攻撃をなかなか組み立てられねえ。」

 

ズッケェロが呟いた。

 

「……そうだな。ミラノのフォワードはボールを持てるが、それはイングランド側に警戒されてしまっている。人数で危険な選手を抑えられてしまえば、いくら良い選手でも活躍することは難しい。」

「でもそれは裏を返せば、他のところのマークが薄くなっているってことじゃねえか?」

「……敵の監督が戦術を上手く組み立てたからだろう。双方とも前もって相手の戦い方を分析し、自分のチームが優位に立てる戦い方を模索してきたはずだ。その練度が、悔しいがミラノクラブチームよりロンドンクラブチームの方が一枚上手だということだ。相手の方が経験豊富で、敵に対応するための連携が鮮やかだということだ。」

「……言うは易しだが、それがどこよりも上手く出来るチームが一流と呼ばれるんだろうなあ。」

「そうだな。」

 

二人の目はピッチ上のボールを追いかけている。

攻守は目まぐるしく入れ替わり、しかし明らかにロンドンクラブチームがボールを持つ時間帯が長い。

ミラノクラブチームの中盤の選手が、ペナルティボックスの外側からヤケクソ気味にシュートを放った。シュートはダフって、ゴールバーの遥か上を過ぎていった。

 

「サーレーさん。」

「うん、どうした?」

 

一人の男が、サーレーに耳打ちをした。パッショーネから出向した人員だ。

ミラノクラブチーム関係者の護衛を請け負っていた人員だ。

 

「ああ、わかった。」

「アン、どしたよ、相棒?」

 

ズッケェロが怪訝な顔でサーレーに問いかけた。

 

「野暮用だ。すぐに戻ってくる。」

「手伝いは?」

「いらない。」

「了ー解。」

 

サーレーは、観客席を立った。

 

◼️◼️◼️

 

「場所は、どこだ?」

「女性用トイレの個室です。」

「対応は?」

「すでにトイレを封鎖しています。第一発見者には、混乱を防ぐためにすでに口止めを済ませています。」

「ブツの破壊規模は?サツには連絡を?」

「ブツは大したものじゃありません。確認しましたが、せいぜいトイレの個室一つ吹き飛ばすくらいのオモチャです。サツへの連絡もすでに済ませています。オモチャの処分はこちらで引き受けると、独断ですが……。」

「いや、それで良い。良い判断だ。ご苦労だ。」

 

男は、感激していた。

彼は、最近パッショーネミラノ支部に所属した下っ端だ。組織の大幹部、ペリーコロ所有のフットボールクラブチームがフットボールの権威ある大会の決勝に進出し、彼は会場に来訪するパッショーネ関連者と会場の警備のためにスコットランドまで出向していた。

 

彼はスタンドは使えるものの下っ端であり、チームの先輩であるドナテロ・ヴェルサスから暗殺チームのヤバさと凄さを耳にタコが出来るほど聞かされていた。(周囲の人間はドナテロの言葉を一切信じていなかったが、彼だけは先輩のドナテロの言葉を信じていた。一人ぐらいそんな人間がいたっていいだろう?暗殺チームは本来、担当者が公開されない。ドナテロは周囲に暗殺チームに所属していたことを明かしていたが、それは周囲に虚言だとみなされていた。)

 

ドナテロの言う世界の救世主というのはさすがにマユツバにしろ(ドナテロには少々、いやかなりの虚言癖がある)、それでも誰に聞いても暗殺チームはヤバイと口を揃えて言うのである。(ヤバいという表現事態が実に陳腐なのだが、きっとそれ以外に言いようがないほどに本当にヤバい奴らなのだろう。どうヤバイのかはよくわからないが。)

 

当のドナテロの言うところのサーレーという名の男は、試合会場の対テロ特殊警備員を任されていたために、サーレーには試合を観戦する役得をいただく余裕があったのであった。(通常の要人警護の護衛や試合会場の警備員とは、若干異なる目的で雇われた特殊警備員である。特殊、実に便利な言葉だ。普通でなければ全て特殊と言っても差し支えないのだろう。)

 

「ここか?」

「はい。」

「……まったく、世の中には理解に苦しむ人間が存在するな。」

 

サーレーはため息を吐いた。

トイレの個室には、爆発物と思しきブツが仕掛けられていたそうだ。会場の見回りを任せていた人間のうち、爆薬の知識のある人間に言わせれば、大きさから判断すれば爆発物の威力は大したことはないらしい。恐らくは愉快犯の仕業だろうということだ。

警察に任せたら大ごとになって、試合進行に支障を来す可能性がある。犯人が愉快犯であれば、捕縛も難しい。犯人の身元を探るような証拠品もなさそうだということだ。

 

「ご苦労だった。あとは俺が始末しとくから持ち場に戻んな。」

「はい。」

 

サーレーが女性用トイレのドアを開けると個室の一つに黒いバッグがあり、ジッパーを開くと中から四角い弁当箱のようなものが出てきた。アルミニウムのような材質で出来ており、重さはさほどない。

 

「報告通り、問題なさそうだな。さっさと片付けるか。」

 

クラフト・ワークがサーレーの背後に姿を現し、拳を振った。

箱は粉々に砕けて、サラサラと崩壊していった。

 

「片付け完了、と。うん、どうしたんだ?」

 

トイレの外から、歓声が聞こえてきた。

 

「どうなった?」

 

サーレーが観戦席に戻り、相棒のズッケェロに試合経過を問いかけた。

 

「ミラノクラブチームが点を返したぜ。同点だ。」

「マジか。誰が決めた?」

「9番だ。サイドハーフの選手が右からクロスを上げて、それを9番が中央でヘディングで合わせた。カウンターで一閃だ。」

 

ミラノクラブチームのサポーター席では、興奮冷めやらぬ観客たちが立ち上がって声援を送っている。

やがて笛が吹かれて、ハーフタイムに突入した。選手たちの休憩時間だ。休息が終われば、後半の残り45分がスタートする。

電光掲示板に、1ー1のスコアが記されている。

 

「ところで問題は?」

 

ズッケェロがサーレーに問いかけた。

 

「そっちは大丈夫だ。それよりせっかく休憩時間なら、ジョジョとペリーコロさんに挨拶に行くぞ。」

「ああ。」

 

二人は、席を立った。

 

◼️◼️◼️

 

貴賓席は、動物ランドのような様相を呈していた。

サーレーは恐る恐る、ジョルノに問いかけた。

 

「あの、ジョジョ。なんでここはこんなに動植物だらけなんですか?」

 

ジョルノの目が泳いだ。

 

「……サーレー、君は勘違いを犯しているといえる。」

「勘違い、ですか?」

「ああ。僕たちは裏社会の住民だ。人が何かに熱中するとき、その時は無防備になるだろう?しかし僕たち裏社会の住民は、いついかなる時も敵に備えないといけない。」

「……はあ。」

 

……説得力が、全然無い。言ってることは完全な間違いでは無いのだが、サーレーの指摘と共に動植物は元の貴賓席の備品へと姿を戻していった。ジョルノの背後でペリーコロが親指を立てているのも、説得力を一段と下げている。そもそも小型犬とかリスとかが、スタンドを使う危険な敵への備えになるのだろうか?

 

「……誤解してはいけない。今こうしている間にも、水面下でなんらかの陰謀が蠢いていないとも限らない。違うかッッッ!!!」

 

どうしよう。これはもしかして、吐いた唾が飲み込めなくなってしまっているのではなかろうか?

ズッケェロが俺に任せろのジェスチャーを送ってきた。

 

「おっしゃる通りです、ジョジョ。しかしあなたの前には俺たちがいる。そして、組織に関わる防衛チームがいる。俺たちを頼りにしてくださるのなら、俺たちは誰にも負けずあなたに忠誠を捧げるでしょう。」

「む……。」

「今日が奇跡の夜になることを願いましょう。油断なく警戒することは大切だが、時には人生には喜びも必要だ。我らのクラブチームが敵を倒し、世界に冠たる栄光を手にすることを願いましょう。我らはそれを共に、楽しみましょう。」

「……ズッケェロ、君は随分と口が達者になったね。」

「後半が始まります。俺たちは席に戻ります。偉大なるパッショーネに、栄光あれ。」

 

ズッケェロがニヤリと笑って、二人は応援席へと戻って行った。ジョルノは笑って、手を振った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◼️◼️◼️

 

「光あれ。」

 

白衣を着た黒髪で無精髭の男が、呟いた。旧約聖書、創世記より。

呟いた男は、微塵も神を信じていない。信仰など無い。白々しい。

彼が信じるのは、己のみ。今ここで生きていることが、彼の全てだ。

 

そこは暗くて、寒い。固くて冷たい何かの上に乗せられている。

機械音が鳴り、ホルマリンに漬けられた目玉が彼を見ていた。

光あれ。男の言葉と共に、カチリという音と共にモニターの電源が入れられて薄暗い部屋に僅かに白い光が差し込んだ。

 

「敵を探知する能力は、有能なスタンド使いに必須な能力だと言えるだろう。生物とは、必要に迫られて、進化する。」

「……ッ……。」

 

拘束具に拘束され、口に猿轡を噛まされた男が呻いた。

拘束具の中の男は、針に串刺しにされて虫の息だった。

 

「我が同士チョコラータは、素晴らしい研究者だった。彼の研究には、千金の価値がある。」

『ここだよぉー。脳のここを切除すれば、肉体の性能が飛躍的に上昇する。おいセッコ、キチンとビデオ撮れてるだろうな?』

 

薄暗い部屋で、紙をめくる音がする。

モニターから映像が流れて、誰かが喋る声がする。映像は、在りし日のチョコラータと被験者だった。

暗い部屋で白衣の男が拘束された男に語りかけ、その部屋の唯一の光源はチョコラータの悲惨な人体実験のスナッフビデオだった。

 

「惜しむらくは、目先の快楽が第一だったことだろう。彼の研究を突き詰めれば、新たな可能性が拓けることとなる。そうだな……例えば紫外線を照射するスタンド使いがいたと仮定しよう。」

『あっ、またミスっちまった。これでオシャカになったのは……ええっと………何体目だったっけか?おいセッコ、お前何体めだったか覚えてないか?』

 

大変なことになった。

 

救いは無い。

もう俺は、助からない。俺に永遠に幸福は訪れない。

目が見えないが、それだけはわかる。

 

吐き気を催す邪悪な匂いが、この部屋には充満している。

息をするのも、苦しい。こんな人間が存在するのだと考えるだけで、鬱になって死にたくなる。

救いはもう、安息だけ………早く………早く、お願いだから早く、楽に………。

 

「スタンドには、不明な点が多い。それを解明するためには、人体実験する他に方法が無い。例えば紫外線を照射するスタンド使いを石仮面で吸血鬼にしたら、紫外線に耐性を持った吸血鬼が生まれるのだろうか?それとも、自分の能力で自滅するのだろうか?あるいは、まったく別の能力に置き換わるのだろうか?視界を失った君に矢を突き刺してどういった進化をするかを観察すれば、その方向性が見えてくるのではないだろうか?あるいはそれらは全て個人の資質に決められていて、法則が存在しないのだろうか?……君は気にならないかい?」

 

床を歩く音が聞こえ、拘束具を解くために暴れ回る音が聞こえる。消えゆく命に抗うための、命がけの最期の足掻き。

されどそれは、無情にも頑丈な拘束具の前には無意味だった。

 

……寒い。苦しい。永遠に届かない光を求める苦しみから、誰か俺を解放してくれ。

黒の眼窩は眼球が抉られて空洞になっていて、周囲では血液が干からびて黒ずんで固まっている。

 

「矢でスタンドを獲得し、スタンド使いを再び矢で刺せばそれは進化する。そのメカニズムは明かされていないが、ウィルスによるものだと推測されている。ならばより強力なウィルスに感染すれば、生き延びた後にスタンドを超えるさらなる力を得るのではなかろうか?血清は?人間に吸血鬼を越えた先は存在しないのか?君は興味ないかい?……興味は、人間を進化させる。」

 

男は、指で手術台を二回弾いた。

コツコツと乾いた音がし、手術台に乗せられた黒という通り名の男はその微細な振動を感じ取った。

機械音が、絶え間なく響いた。

 

「君は、どう思う?裏社会の情報屋の君なら、多少は独自の知見があって良さそうなものだが?」

 

男の名はイアン・ベルモット。

冷たい手術台の上には目玉をくり抜かれて拘束された黒が、拘束具の中には捕獲されて医療器具で滅多刺しに拷問されたセッコが存在した。

 

チョコラータの負の遺産、チョコラータの人体実験の集大成。

人間を改造して擬似的に石仮面の効果を得る手術法をチョコラータは独自に編み出しており、セッコの所持するスナッフビデオテープにその詳細が記録されていた。チョコラータは独自に興味本位でパッショーネと矢と石仮面のルーツを調べており、吸血鬼のディオ・ブランドーの存在を認識していた。

 

イアンはその研究結果に、矢によるさらなる人類の進化を組み合わせようと画策している。

研究室の台の上では、ペトリ皿で矢に付着していたウィルスが培養されている。

 

人類がどうなろうと、知ったことではない。ヨーロッパがどうなろうと、関係ない。

彼は、心が望むままに行動するだけだ。そのために今まで、機を待ち潜伏していたのだから。

 

そこは彼の研究室。狭間の世界。生と死の境目に存在する、独り善がりの煉獄。

煉獄の主人は、歪な世界に君臨する狂った造物主、その名はイアン・ベルモット。

 

陰謀とは、いつも水面下で蠢く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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試合は終盤に差し掛かっている。

ロンドンクラブチームもミラノチームもシーズンを戦っており、疲労があからさまに見えている。

しかし、全員が必死に栄光を勝ち取るために戦い続けた。

 

「こりゃ延長戦かな。」

 

ズッケェロが呟いた。

 

「……延長になったら、ミラノクラブチームは負けるな。」

「消耗度合いから見て、まあそうなる可能性が高いな。」

 

ロンドンクラブチームはボールを上手く回し、ミラノクラブチームはボールを追いかける時間が長かった。

それは最後の局面でより大きな意味を持ち、両者ともに疲労していてもその差異は明確だった。

 

「……勝負どころだ。リスクを負ってでも勝ちにいかないと、延長戦は分が悪い。」

 

サーレーは時計を見た。

電光掲示板にロスタイムが表示された。試合時間はもうあと五分も残っていない。

 

「行けッッッ!!!勝てッッッ!!!」

 

ミラノクラブチームのフォワードが後ろ向きにボールを受けて、それを中盤の選手に落とした。それと同時に裏へと飛び出し、落とされた中盤の選手はワンツーでフォワードの選手にスルーパスを出した。出し抜かれそうになったロンドンクラブチームのディフェンダーは慌ててフォワードの肩を掴んで倒してしまった。イエローカードが提示され、ミラノクラブチームはペナルティエリアの少し外でフリーキックを獲得した。

 

「……大チャンスだ。」

「ああ。」

 

サーレーもズッケェロも、穴が空くほど集中してピッチを凝視している。

ボールの前に、選手が立った。壁の位置を確認している。

 

「……どこを狙うか。本命は無回転。あるいはファーを狙うコントロールカーブシュートか。意表を突いて壁の下を抜きにかかる可能性もある。さすがにここでトリックプレーは狙わないだろう。」

「どこを狙うにしろ、これを外せば勝てる見込みは薄いぜ。」

「ああ。」

 

ボールの前に立つキッカーが動いた。無回転シュートだ。

ボールは蹴り出され、不規則な軌道を描きネットの右上に突き刺さった。

 

「やった、やった、やった!!!」

 

サーレーは叫んだ。

 

◼️◼️◼️

 

「まあなんだ、気をとり直せよ。」

「……ああ。」

 

試合が終わった帰り道。試合結果は、4ー2。

サーレーはひどく落ち込んでいる。

 

試合は終盤残り三分という状況で、ミラノクラブチームが2ー1でリードした。

しかしその残り時間をミラノクラブチームはリードを守りきることができず、ロンドンクラブチームに2ー2の同点を許してしまう。そこから延長戦に突入し、力尽きたミラノクラブチームは延長戦でロンドンクラブチームに2点を許してしまった。

結果試合が終了して4ー2の敗北。

 

「……まあここまで来れたのがそもそも栄光だし……。」

 

ズッケェロがサーレーを慰めるが、その言葉は虚しく宙に消えた。

当たり前だ。あと一歩でこの上ない栄冠を手にするはずだった。

 

「まあせっかくだしなんだ、ちょっと飲んで行こうぜ。」

 

しょぼくれたサーレーを引き連れて、ズッケェロは近くのバーに足を運んだ。

心なしかサーレーの髪型も萎びて見える。

カウンター席に座ってビールを二杯頼むと、隣のテーブル席から声が聞こえてきた。

 

「この素晴らしい奇跡の夜に、乾杯。」

 

どうやらロンドンクラブチームのサポーターのようだ。

……まあ、居て当然だと言える。

 

「野郎、俺に喧嘩売ってんのか?」

 

サーレーが、いきり立った。

 

「はい、ストップ。一般人に迷惑かけたら、ジョジョがブチギレるぜ?」

「……。」

 

サーレーは眉間にしわを寄せるも、ため息を吐いて脱力した。

応援しているチームが勝つのがベストだが、そもそも大会自体がお祭りだ。その雰囲気を壊せば、無粋な輩と言われても仕方がない。

 

「と言うよりも、今の声聞き覚えがあるんだが?」

 

ズッケェロが気になってテーブル席を覗き込んだ。

 

「おっさんじゃねえか。」

「ん、お前は。」

 

テーブル席にいたのは、クイーンズ・ロンドンのジャック・ショーンだった。

ジャックは何人も人間を連れていた。

 

「ああ、そりゃそうか。おっさんはロンドン出身だもんな。ロンドンクラブチームの応援に来ててもなんもおかしくねえ。」

「……そう言えば相手はミラノクラブチームだったな。フッ、あと一歩だったのにな。惜しかったな。」

 

ジャックはニヤリと笑い、指を立てて煽ってきた。

 

「ッッッ、おっさん。言うじゃねえか。」

 

サーレーが、喧嘩を買った。

 

「この偉大な大会のファイナリストになったことは評価に値するが、小僧っ子はまあ経験が足りなかったな。ギリギリのところでひ弱なんだよ。俺たちのロンドンには敵わねえ。」

「抜かしやがって。今回負けたのはたまたまだ。年寄りのジジイがいつまでも幅を利かせてんじゃあねえよ。」

「表に出るか?」

「いい度胸だ。」

 

ズッケェロはそれを横目で眺めながら、のんびりと酒を楽しんでいる。

 

◼️◼️◼️

 

「やっぱりおっさんは、本当に強えなあ。」

 

サーレーはグラスゴーの路地で仰向けになって、満天の星空を眺めていた。

完全敗北だった。傷付け過ぎないように子供扱いされて、手も足も出ない。痛みがむしろ心地よく、清々しい。

 

「そんなことはない。俺には、あのディアボロと名乗る男をどうにかするのは非常に困難だった。強さとは、簡単に測れるものではない。」

「そうは言っても、こうまで完膚無きまでに叩きのめされちゃあなあ。」

 

ジャックも夜空を見上げた。

 

「……奇跡の夜だ。俺はすでに死んでいてもおかしくなかった。だがこうして素晴らしい夜を迎え、美味い酒が飲める。応援するチームの栄光を見ることが許され、帰れば妻子が待っている。お前たちが勝利したおかげだ。」

「……。」

「お前の強さには意味があり、お前の戦いには価値がある。とは言っても、図書館でのあの戦い方はお粗末だったがな。」

「ああ、やっぱりズッケェロの言った通り気付いてたのか?」

「当たり前だ。俺も今でこそ親衛隊だが、元は失敗が許されない暗殺チーム上がり、あらゆる手を使って戦うのが常道だ。その観点でいけば、お前の行動は何か仕込んでますと言ってるようなものだ。やるんならもっと周到にやれ。」

「俺もあの時は連戦で疲労が残ってたし、図書館に急ぐことが優先であまり細かい策は立てられなかったんだよ。」

「しかし、敗北すれば意味が無い。」

「うっ……!!!」

「まあとは言っても、俺は所詮は敗者だ。敗者が勝者に説教するのもおかしな話だ。」

「……いや、ためになったよ。相棒のズッケェロは、奇襲に向いたいくらでも使い道があるスタンド使いだ。」

「まあそうだろうな。」

 

ジャックが笑った。ズッケェロが、店から出てきた。

 

「おーい、相棒!!!」

「ズッケェロが来たから、お暇させてもらうよ。よければまた勉強させてくれ。」

「……案外殊勝なんだな。」

「俺程度の実力で油断したら、明日にはすぐにでも死体になっているよ。」

 

サーレーは笑うと、ジャックに手を振って去って行った。

 

「パッショーネは、いい戦士が育っているのだな。」

 

向上心は、人を成長させる明確な要因の一つだ。

もしもジャックが本当に敵であったのなら。サーレーはそれを、痛感していた。

 

油断や過信は身を滅ぼし、死が常に側にあるという緊張感が駒を生き残らせる。

それはどこの暗殺チームでも、共通の見解だ。死と常に隣り合わせにあるからこそ、生きる人間と死ぬ人間を常にジャックは見極め続けてきた。

 

ジャックはサーレーの後ろ姿を眺めて、いい気分で笑った。

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