噛ませ犬のクラフトワーク   作:刺身798円

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今回の話は、非常にグロテスクな表現があります。
苦手な方は、即座にブラウザバックすることをお勧めします。


狂人達の宴 前編

「イアン教授のー、簡単三分クッキングー!」

「イエーイ、ドンドンパフパフ!」

 

冷たく薄暗い密室で狂人達は笑い、狂気の宴は夜通して催される。

薄青い部屋の中で、イアンは勢い良く机に飛び乗った。

 

「まず必要なのは、培養液と専用の機材。他にも対象の細胞、魂の元、生体タンパク質などが必要となります。」

「先生、魂の元って、どこのホームセンターに行けば売っていますか?」

 

オリバーが馬鹿笑いをしながら手を上げて、イアンに質問をした。

 

「魂がホームセンターに売ってるわけねえだろうが!!!よく考えりゃわかんだろ!!!少しは頭を使えこのクソイワシ野郎が!!!」

「いや、意味わかんねえよ。なんでそこで突然キレるんだよ?イワシ野郎ってどういう意味だ?第一材料は俺が攫ってきたんだから知ってるに決まってんだろ!いつものノリだよ。」

 

イアンは唐突に激昂し、オリバーは相変わらず理解不能な相棒に苦笑いをした。

 

「殺す!殺してやる!!!」

「うるせえこのトサカ野郎が!!!」

「ああああああああああああ!!!」

 

研究室の中では、混沌と狂気が渦巻いている。別室と仕切られたガラスに、血液が飛び散った。

イアンとオリバーは馬鹿笑いをして、ガラスに仕切られた向こう側の部屋では三人の同じ顔をした人物が蛇蝎の争いを繰り広げていた。

 

「私の部屋に長期間保管しておいたチョコラータの細胞を培養液に浸します。それに魂の元をふんだんに加え、生体タンパク質で満たした専用のカプセルで電気反応を起こして一ヶ月間寝かせます。」

「さっき三分クッキングとか言ってなかったか?三分はどこ行ったんだ?」

「細かいこたぁいいんだよ!!!」

 

イアンは机から飛び降りて研究室の手術代を蹴飛ばし、傍には彼のスタンドが控えている。

機械的な見た目に、上から白衣を纏っている。その眼球はネジで出来ていて、無機質な表情は何を思考しているのかさっぱりわからない。

オリバーが研究室の手術代に腰かけ、イアンは丸椅子に座った。

 

「それにしても面白いなあ、これ。レクイエムってんだっけか?鎮魂歌が眠れる魂を黄泉から叩き起こすって、考えてみりゃあ皮肉だな。お前もスタンドを改造してみないか?」

「俺はもう勘弁だ。日の下を歩けないのは想像以上に面倒だから、これ以上なんか副作用がある人体改造はもう勘弁してくれ。」

 

チョコラータがチョコラータの目をえぐり、チョコラータがチョコラータの喉笛に食らいついた。チョコラータがチョコラータを蹴り飛ばし、チョコラータがチョコラータの顔を引っ掻いた。チョコラータがチョコラータの髪を掴んでガラスに叩きつけ、チョコラータは頭からぶつかってガラスが振動した。チョコラータは床に倒れ、チョコラータの上にチョコラータが馬乗りになって殴りかかった。

 

「さて、出来上がったものがすでにとなりの部屋に三体います。さあチョコラータAとチョコラータBとチョコラータC、一体誰が栄光を掴み取るのか!!!混沌の中から這い上がれ、奇跡の戦士たち、勇者チョコラータよ!!!」

「それにしても、見れば見るほど気持ち悪いな。」

 

オリバーは三人のチョコラータの戦いをしげしげと眺めて、首を傾げた。

 

「お前の性癖ほどではない!!!」

 

三体のチョコラータは相争い、殺し合い、時間の経過とともにそのうちの二体が動かなくなった。

屍の上に、血に塗れた一体のチョコラータが立ち尽くしている。その胸部には、チョコラータCという名札が付けられていた。

 

「勝ったのはまさかのチョコラータC、大穴だああああッッッッッッッ!!!!!」

 

イアンのテンションは振り切れ、絶叫した。

 

「それにしてもなんでこいつらを戦わせたんだ?」

 

オリバーが、疑問を感じてイアンに問いかけた。

 

「そんなもの決まっているだろう!チョコラータが強力なスタンドを持っていても負けたのは、ズバリ競争力がないからだ。ギリギリの戦いを経験してこなかったから、ギリギリの局面で敗北した。ならば、雑魚は三体も必要ない!チョコラータごときに負けるチョコラータなんぞ、役立たずのチョコラータにすぎん!役立たずはいらん!!!」

「あーなるほど。つまり弱いチョコラータを三体扱うよりも、強いチョコラータを一体確保しようってわけか。」

 

オリバーが納得して頷いた。

 

「いや、正直に言うとどうも二人以上同じ人間がいると、互いが気に食わなくて勝手に殺し合いになるようだ。私も初めて知った。」

「なんだそりゃ。」

 

イアンは顎に手を添えて、オリバーはずっこけた。

 

「スタンドも、どうやら同じのが同時に二体以上存在することは不可能のようだ。まあ争いが不可避ならば、強い奴を一体残すしかないだろう。本当は、量産型チョコラータで軍隊を組ませようかと考えていたんだがな。」

 

狂気のチョコラータ軍。実現しなくてよかったと、オリバーは胸を撫で下ろした。

イアンは残念そうにそう告げると、立ち上がってガラスで仕切られた部屋の隅に設けられた鍵の扉から部屋の内部に侵入した。

 

「イアン!!!テメエ、よくもやってくれたな!!!クソが!!!」

「おいおい、チョコラータ。生き返らせてやった同胞に対してずいぶんな言い草だな。」

 

傷だらけのチョコラータは激昂し、イアンはそれを軽くいなした。

 

「それにしても、いきなりコレはねえだろう!」

「………君は冷酷な殺人鬼だ。ならば強くなければ、誰かの恨みを買って死ぬことになる。私の愛が、感じられないのかい?」

 

イアンは、涼しい表情でチョコラータに嘲笑を送った。

チョコラータは、肩で息をしている。来ている患者服は、血と肉片で真っ赤に染められていた。

 

「さっさとスタンドを発現させろ!!!勝者への報酬なんだろう!」

「ああ。腕を出してくれ。」

 

イアンは懐から注射を出して、チョコラータの右腕に針を刺した。

注射液には、矢に付着していたウィルスが混入されていた。

 

「おおおおおおおお、これだ、コレ!!!キタキタキタ、イヒイイイイイイイッッッッ!!!!私は、帰ってきたああああああ!!!」

 

チョコラータは興奮した。

チョコラータの背後に、緑色の人型の生命のヴィジョンが映し出された。

それはカビを操るチョコラータのスタンド、グリーン・デイだ。

 

「次はどうすんだ?ディアボロってのも生き返らせんのか?」

「ディアボロ?」

 

オリバーがガラス部屋の外からイアンに質問を投げかけた。

チョコラータは首を傾げた。

 

「パッショーネの元ボスだ。」

「パッショーネの元ボス?」

 

チョコラータの脳内に、過去の記憶がゆっくりと掘り起こされていく。

 

クレイジー・プレー・ルーム・レクイエム。狂気は加速する。

矢によって進化した、狂気の手術室。その能力の概要は、スタンドの部屋の中でイアンは万能超人となる。

事実よりも、詭弁や机上の空論が優先される狂気の研究所。その能力は、猿がタイプライタでシェイクスピアの戯曲を書き上げるイかれた部屋。

行動の結果は、無数の未来の中から必ずイアンが望んだものが選択される。

 

矢のウィルスを手術室で摘出して保管することに成功したイアンは、捕らえた黒とセッコをスタンドの進化の実験台に利用した。

しかし二人はウィルスによる超進化に適応できずに、魂の元を残して溶けて消えて行った。

イアンは自身の興味に勝てずに自分も実験台にして、進化後の能力クレイジー・プレー・ルーム・レクイエムの無限の猿の定理でレクイエム進化に適応するという離れ業をやってのけた。進化後の能力で、進化の過程を乗り切るという矛盾を成し遂げた。結果が過程を捻じ曲げたのである。

 

そしてオリバーが外から生体タンパク質を攫い、魂の元を使ってチョコラータを培養した。

イかれた部屋で三人のチョコラータが殺し合い、一人のチョコラータが出来上がる。

煉獄の屍の上に、血で罪を鎧った悪鬼が帰還する。

 

「この部屋の中では、狂気は無限大に膨れ上がる。」

「パッショーネ、うん?パッショーネ?」

 

イアンは笑い、チョコラータは首を傾げた。

 

◼️◼️◼️

 

私の名前は、メアリー・スティアート。

スイスの有名大学に通う、医学生。スポーツも得意で、ミスコンでも優勝した。

自慢になるけど、なんでもできる花の女学生。

 

「以上の理論により、ここはこのような結論を導き出すことができる。何か質問は?」

 

遺伝子医学の授業で、イアン・ベルモット教授が声を上げた。

瘦せぎすで少しキツめの顔をしているけど、三十代半ばで有名大学の教授に就任した、前途有望な人間だ。

非常に優良物件だと言える。

 

「それでは今日の講義はここで終了とする。次回の講義は小テストを行うので、今日の授業内容の復習を怠らないように。」

 

イアンはそう告げると、教壇を降りて教室を後にした。

メアリーは急いでイアンの後を追う。完璧美少女は、常に完璧でないといけない。今日の講義は難解で、よく分からなかったところがある。

 

「イアン教授、今日の遺伝組み換え価の計算式で、理解が困難だった箇所があるんですけども。」

 

メアリーはイアン教授の背後から、声をかけた。

 

「理解が困難な箇所、ですか?」

 

イアンは振り返り、眼鏡を上げた。

白衣を羽織って黒髪に鋭い目付き、容貌からは理知的な印象を受ける。

メアリーはカバンからノートを取り出して、講義の内容を指差した。

 

「ここです。この計算が、よくわかりませんでした。」

「ああ、これか。」

 

イアンはノートを見て納得したように頷いた。

 

「これは講義の最中に君たちに伝えたと思うが、私がこれから研究して学会に発表しようと考えている新しい理論をもとにした計算式だ。テストに出すつもりはないから、覚える必要はないと伝えたはずだが?」

「私も実は、研究者を志望しているんです。今のうちから勉強させていただきたいな、と。」

「なるほど。」

 

イアン教授は、納得したように頷いた。

 

「向学心があることは素晴らしい。しかし君は医学生のはずだ。研究者よりも医者になった方が給料は稼げるんじゃないか?」

「いいんです。自分の人生だから、自分が納得できるように生きたい。臨床研究の道に携わるのが、昔からの夢だったんです。ぜひともご教示ください。」

「………君は真面目だな。いいだろう。今日の講義が終わったら、研究室に来なさい。少し時間がかかるかもしれないから、親御さんにも連絡をしておいた方がいい。」

「問題ありませんよ。もう子供ではありません。今日の講義はもう終わりましたし、教授に用事がなければ早速行きませんか?」

「そうか。ならば明るいうちに終わらせてしまおう。」

 

メアリーはイアン教授の先を歩き、イアンは彼女の後をついて研究室に入室した。

二人が研究室に入室し、イアンは後ろ手にドアを閉めた。

 

「……君がここに来ていることを、誰かに話したかい?」

「いいえ。何故ですか?」

 

イアン教授から、突然意図の理解できない質問が発せられた。

 

「それでは手早く終わらせてしまおう。」

 

メアリーは椅子に座り、イアンは横を向いて笑った。

メアリーは唐突に、視界が揺れる感覚を感じた。

 

「先生、何がおかしいんですか?」

「いやなに、前々から不愉快だったんだ。せっかくの私のプライベートの研究の時間を邪魔する愚か者共を、どうしてくれようかと思っていてね。もうどうせ私は行方不明になるし、最後にちょうどいいかなと。」

 

………?

聞き間違いだろうか?今イアン教授がとても邪悪な表情をしていたような?

それに何故だか、とても眠い。

 

メアリーはウトウトして椅子から滑り落ちた。

研究室の床から、ぬるりとイアンのスタンドが姿を現した。

 

「ふむ、私の芸術心をくすぐるな。なかなかに面白そうだ。」

 

唐突に頭に浮かんだアイデアに、イアンは邪悪な笑みを浮かべた。

キチキチと不気味な音がして、メスが研究室の光を反射した。

 

◼️◼️◼️

 

「おいおい、イアン。何やってんだよ。意味わかんねえよ。俺には人さらいをさせておいて、自分は楽しくおままごとかよ。いいご身分だな。」

「仕方がない。溢れ出る好奇心を抑えられなかったのだ。」

「ほんとイかれたヤローだ。こんなことのために、わざわざ私までこんなところまで呼び出して。」

 

声がする。

一人はイアン教授、もう一人は多分用務員のオリバーさん。もう一人いるけど、その人はわからない。

なんの話をしているのだろうか?

 

「まあ手術をしてみたいという気持ちは私にも理解できるが、なんで花嫁衣装を着せたんだ?お前、馬鹿なのか?」

「それはそっくりそのまま君に返すよ、チョコラータ。下衆には芸術のなんたるかが理解できないと見える。」

「あん?お前、私に喧嘩売ってるな?鼻からプラスドライバーをねじ込んでやろうか?」

「私のフィールドで私に喧嘩売るのか?ゲスラータ、身の程を弁えろ。お前は私がいないと即座にタンパク質塊に変化するのだぞ?」

「おいおい、喧嘩はやめろよ。仲良くしろって。」

「黙れ、このクソイワシ野郎が!」

「それには私も同感だ。イアン、なんでこんなつまんない奴を仲間にしたんだ?」

 

なにかを話している。

床に倒れた私は、体を支えて起き上がろうとした。

……なんで私は床に寝ているのだろう?

 

「おい、目が覚めたみたいだぜ。」

「さて、どんな反応をするのやら。」

 

楽しそうな声がする。

教授は、一体なにがそんなに面白いんだろう?

私は目の前のガラスに手をついて、立ち上がった。

 

目の前?違和感がある。

なんだ………コ………レ………ハ………?

 

「おお、お嬢様が立ち上がったぞ。」

 

オリバーが興味深げに眺めた。

 

メアリーは、目の前のガラスを見ている。

なぜか視界はカメラ越しの映像のように、、、。なんで?おかしい……。

 

ガラ…スノ…ムコウニハ……サンニンノ……オトコ……。

アノ……キョウジュガ……テヲオイテイル……ホルマリンヅケノ……ブッタイハ……?

 

「なあイアン、こんな面白いアイデア、どこから湧いてきたんだ?」

「閲覧注意。首なし鶏のマイクだ。インターネットでたまたま見かけてな。鶏でできるんなら、人間でも同じことが出来るんじゃないかって思ってやってみた。」

 

メアリーは、違和感を感じた自身の頭部に手を置いた。

上顎から上が……ない。頭部が存在するはずの場所には、脊髄の視神経に繋いだカメラが設置されている。

その硬い機器に触れたメアリーは、ひどく狼狽した。

 

なんで………?あの教授が持っているものは、一体何?

 

「やあメアリー、おはよう。今日もとても綺麗だよ。今から君の頭でバーベキューパーティーをしようと思うんだが、せっかくだし君も来るかい?」

「あ、あ、ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

イアンは楽しそうに笑って、ガラス越しにホルマリンに漬けたメアリーの上顎よりも上の部分を抱え上げた。

 

私の顔。金髪の豊かな髪に、彫りの深い目鼻立ち。誕生日にお母さんにもらったイヤリング。

毎日見ている私の顔。なんでなんでなんで?なんで私の顔があそこにあるの?私の頭が………無い。

なんで?なんでこんなことになってるの?なんで私はこんな状態になって生きているの?

 

メアリーは状況を理解して、床に崩れ落ちた。頭が無いから、涙も出ない。

 

「お前のスタンド、どうなってんだ?なんであれで生きてられるんだ?脳がないのに思考しているようだし、訳が分からねえ。」

 

チョコラータが興味深そうにイアンに尋ねた。

 

「さあね。面白ければ、細かい仕組みはどうでもいいじゃないか。私も自分のスタンドの仕組みなんて、サッパリ知らないよ。過去にそういう生物がいる、そういった実例がある。それだけで私の研究室内では、あたかもそれが常識のように再現される。君のカビで血管を塞いで失血死を防げば、何体でもマイクは作れるよ。」

「ほへー。」

「あああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!!!!」

「おいおい、どうせまた俺に被験体をプライベートの研究室まで運べとか言うんだろ。人の迷惑も考えろ。」

「ああそうだ、イアン。研究所に拘束されていた不気味なパーカーの男は、いったい何者だ?」

「君も十分不気味だよ。チョコラータ。」

 

メアリーは絶叫し、ガラス越しの三人はそれを意に介さずに会話を続けている。

 

「というよりもあの女。女?まあいい。この部屋から出したら生きてられないんだろ?どうやって運ぶんだ?」

 

チョコラータが、イアンに疑問を発した。

 

「簡単だ。手術してまた頭部をつないでやればいい。研究所に戻って、また頭部を分離させればいい。」

 

イアンのスタンドの執刀医が、メスを掲げた。

その表情は心なしか輝いて見える。

 

「お前のスタンドは、一体どこまで生命を冒涜すれば気がすむんだ?」

 

チョコラータが、自分のことを棚に上げて呆れた。

 

「オリバー!ディアボロの材料も捕まえてきたんだろう!ついでにその女も研究室に運べ!!!」

「人使いの荒い奴だ。」

 

イアンのスタンドがメアリーの背後に現れて首筋に注射針を刺し、上顎から上の部分を手早く縫い付けた。

 

「………煩い女だ。夢は布団の中で見るものであり、白昼に見るものではない。今のお前の全てが夢などではなく、現実だ。研究者になりたいのならば、技術の進歩に貢献したことに感謝して狂喜しろ。」

 

イアンは冷酷な眼差しで、気を失って床に倒れたメアリーを見下ろしていた。

三人は何事もなかったかのようにメアリーをトランクに詰めて、大学の研究室を後にした。

 

◼️◼️◼️

 

イアンの拠点は、スイスの地方にある弱小マフィアの本拠地を乗っ取った場所だった。

マフィアの名称はリンドレンデッド。内部には檻で仕切られた部屋がいくつもあり、そのうちの一つに気絶したメアリーも収容された。

建物の内部では、イアンに改造されて薬剤を投与された自由意志を奪われた人形たちが幽鬼のようにあてもなくさまよっている。

 

「おい、イアン。なんでここにはこんなにたくさん檻があるんだ?」

「前任者が、金持ち相手の違法な動物の密売を行なっていたのだよ。まああまり儲からなかったみたいだがね。せっかくできることの幅が広がったことだし、これから先彼女のような被験体を増やしていくのもアリかなと思っている。檻はどれだけあっても足りないよ。」

 

チョコラータがイアンに疑問を投げかけ、イアンが返答した。

 

「イアン!!!俺の出番はまだか!!!俺を早くここから出せ!!!」

 

メアリーの収容された二つ隣の部屋にはパーカーの男がいて、彼は檻を揺さぶった。

 

「リュカ、君の出番はまだ先だよ。戦力が揃っていない。今君を出しても、ローウェンに返り討ちにされるのがオチだ。そうなれば私たちにも被害が及ぶ。何度も言っただろう?」

「関係ない!!!さっさと殺させろ!!!ああああああああああああ!!!」

 

リュカと呼ばれたパーカーの男は、口角から唾を飛ばして鉄格子を力任せに揺さぶった。

 

「おい、あいつ誰なんだ?私もここに収容されていた時、煩くて敵わなかったんだが?邪魔になるようなら、消してしまってはいけないのか?」

 

チョコラータが再びイアンに問いかけた。

 

「まあ今は煩くて品のない男だが、使い道があるんでね。それに君が考えているよりも、多分彼は強いよ。もうしばらくは我慢しな。」

「チッ!!!」

「おいイアン。チョコラータにはどこまで教えるんだ?」

 

オリバーがチョコラータにどこまで計画を教えていいか迷い、質問した。

 

「あん?」

 

チョコラータが疑問符を声に出した。

 

「チョコラータは以前パッショーネに所属していた。ある程度パッショーネの情報を所持している可能性が高い。リスク無くして、リターンは見込めない。こちらからも情報を開示して、互いに利のある協力関係を結ぼうかと考えている。どこまでかと具体的に聞かれると、まあこれからの流れ次第だな。そこは空気を読め。」

「何を隠してるんだ?」

 

チョコラータが不審に思い、イアンを詰問した。

 

「うーん、そうだな。チョコラータ、お前ウィルスを使用するスタンド使いを知らないか?」

「ウィルス?そんなもの何するんだ?」

 

建物内部にある一室で、彼らはテーブルを囲んで座った。

 

「私が独自に研究した結果、スタンドを目覚めさせる矢は付着しているウィルスで人間を強制的に進化させていることが判明した。」

「で?」

 

チョコラータは表情を緩ませて興味深そうに耳を傾けている。

彼らは、同じ穴の狢だった。

 

「ならばより強力なウィルスに適応すれば、スタンドはさらに凶悪な進化を成し遂げるのではないか?」

「……なるほど。一考の余地はあるかもしれない。」

 

チョコラータは思考の海に沈んだ。

 

「私の目的は、この世界をどこまでも遊び尽くすことだ。興味本位でこの世を我が物顔で蹂躙しよう。そのために、ヨーロッパの防衛機構である裏社会をめちゃくちゃにする。そうすれば、骨のある遊び相手が出てくるだろう。………チョコラータ、お前が持っているパッショーネの情報が欲しい。」

「なるほど。パッショーネはヨーロッパでも最も経済力のある組織だ。パッショーネを乗っ取れば、お前の目的を達成する難易度が一気に下がることになる。」

 

イアンとチョコラータは楽しそうに会話している。

 

「……だいぶ思い出してきた。ディアボロ……そうか。あいつが謎のパッショーネのボスだったのか。イアン、お前は幸運だ。」

「何がだ?」

 

チョコラータは椅子に深く腰掛け、テーブルに足を乗せた。

 

「俺の記憶が正しければ、パッショーネはあのディアボロと暗殺チーム、親衛隊、そしてブチャラティチームの四つ巴で戦闘が起こっていた。その過程で、暗殺チームと親衛隊は壊滅状態だったはずだ。今ならば、戦力がひどく低下しているはずだ。」

「……それがおよそ十年前だ。」

「まあ最後まで話は聞け。そのブチャラティチームってのは幹部ポルポってやつの部下だったんだが、ポルポには大勢の人間を大量虐殺できる部下がいるって噂を聞いたことがある。」

 

チョコラータはニヤついた。

 

「……先を話せ。」

「俺もちょっと不確定な情報だ。そのディアボロってのが本当にパッショーネの元ボスなら、今のボスはブチャラティチームのやつがこなしてるってことだろう。そこからたどれば、もしかしたらお前のお目当ての人物は見つかるかもしれない。俺のカビも大量虐殺が可能だが、俺と似たような大量虐殺ができるスタンドは、ウィルスである可能性が高い。」

 

イアンは椅子に座って目を瞑り、しばし黙考した。

 

「まぁ、何をするにしろパッショーネだ。パッショーネさえ乗っ取れば、ヨーロッパを玩具にできる。ウィルスの使い手も見つかるかもしれない。パッショーネの暗殺チームと親衛隊は十年前に一度壊滅していて、たった十年で立て直しができているか怪しい。やるなら早いうちがいい。」

「……まあどうなるか。出たとこ勝負だが、嫌いではない。やってみるか。」

 

イアンの瞳に、邪悪な光が宿った。

 

◼️◼️◼️

 

スイス、チューリッヒに本拠地を置く裏社会の組織、ウートシュバイツ。

その暗殺チームのリーダー、ヨルゲン・ルーベルクはスイスの地方で起こっている失踪事件の調査を行なっていた。

たった一ヶ月という短い期間で、狭い地域でおよそ二十人の人間が失踪した。

 

ルーベルクは経験豊富な暗殺チームリーダーで、過去にいくつものスタンド使いが暗躍する事件を解決した実績を持つ。

その中でもヨーロッパの裏社会で有名な事件の一つに、スイス神隠し事件というものが存在する。

その事件の全容は、スタンド使いが暗躍して人を攫い、人体をバラバラにして裏の流通路で臓器を売りさばき、残った部分はスタンド能力である酸で溶かして証拠を隠滅するという凄惨なものであった。

 

事件にはスタンド使いのみならず大勢の人間と組織が関わっており(臓器密売は元手ゼロで利ざやが大きい。)、こんがらがった糸のように複雑な人間関係が事件の解決をひどく困難にしていた。その流通経路はヨーロッパ全域に根を張っており、利益目当てに首謀者を庇う人間も数多くいたのである。

 

ルーベルクは事件の解決に乗り出し、巧妙に偽装されていたもののある時期を境に臓器提供者が不自然に増加していることに気がついた。

調査を進めるうちに利益に群がる人間と組織が予想以上に肥大していることに気がついたルーベルクは、友人であり師事したことがあるローウェンに救援要請を送り、スイスはフランスの手助けを借りて事件を解決した。それが、ヨーロッパに悪名高いスイス神隠し事件の全容だった。

 

ルーベルクはかつて神隠し事件を解明した経験から、今回の事件も以前の事件に共通するものがあることを敏感に感じ取っていた。

彼は即座に行動を開始し、失踪者たちがいた地域の裏組織であるリンドレンデッドに情報を集めるために訪れようとしていた。

 

◼️◼️◼️

 

開示された情報

 

名前

イアン・ベルモット

スタンド

クレイジー・プレー・ルーム・レクイエム

概要

矢で進化したスタンド。その能力は、スタンドが部屋と同化して部屋がイアンの思うままに改造され、その中でイアンは完璧超人となる。いくつもの強力な特性を持つスタンドである。部屋の中では無限の猿の定理が働き、物事の結果は存在するうちから、イアンが望んだ結果が選択される。人間を生み出すことができるが、誰でも産まれることができるわけではない。具材は十人、そのうちの他者を喰い殺して残った一人だけが、造られた煉獄より生まれ出でることができる。同じ人間を二人以上同じ場所に置くと、殺し合いに発展する。

 

名前

オリバー・トレイル

スタンド

ラウンド・ラウンド・アンド・ラウンド・アラウンド

概要

イアンが不完全な手術を施した、半吸血鬼。普通の人間よりも筋力や生命力が強い。石仮面による完全な進化には及ばず、日光を浴びると大きなダメージを受けるが消滅するほどではない。体から、イワシの匂いがする。

 

名前

帰ってきたチョコラータ

スタンド

グリーン・デイ

概要

煉獄で、チョコラータの血で罪を擦り付けて生還したチョコラータC。三人のチョコラータのうちで、もっともしぶとい。イアンとはかつては研究者同士で、親交があった。

 

名前

ヨルゲン・ルーベルク

スタンド

???

概要

スイス裏組織、ウートシュバイツ所属の暗殺チームリーダー。

 

名前

リュカ

スタンド

???

概要

研究室で檻に拘留されている、フードの男の名前。フランシス・ローウェンに執着している。

 

名称

リンドレンデッド

概要

イアンが乗っ取った、スイスの地方に存在する弱小の裏組織。構成員は、イアンに改造されて自由意志を持たない下僕になっている。研究部屋、檻の置いてある見世物部屋、各個人の私室などが存在する。イアンとオリバーとチョコラータは私室を持ち、ディアボロは研究室に、メアリーとリュカは檻のある見世物部屋にいる。

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