噛ませ犬のクラフトワーク 作:刺身798円
ここまででちょっとだけ投稿休止しようかと思います。
「なんで俺たちが、お前についていかないといけねえんだ!」
「相棒よぉ、ほんとに、こういうのは一人でやれよな。」
モッタがサーレーに文句を垂れ、ズッケェロも渋い顔をした。
「静かにしろ!標的にバレるだろうが!」
彼らは、何をしているのだろう?パンナコッタ・フーゴは、呆れた。
ミラノの街で、講義を終えて帰宅するフーゴの後を、チンピラプラスアルファがストーキングしている。彼らの意図が全く読めない。
電信柱の影から、サーレーの特徴的な髪型がはみ出している。ちょっと面白い。
フーゴは早足で、街路の角を曲がった。
「急ぐぞ!見失うな!」
「おい、引っ張んな!」
「ほんとに、なんでこんなことしてるんだか。相棒よぉ、やり方があまり賢いとは言えねえぞ。」
サーレーがモッタの襟首を掴んで引きずり、ズッケェロはため息をついて後を追った。
「何をしているんだい?なぜ僕の後をつけた?」
「うわあッッッ!!!」
角を曲がったすぐ先にフーゴが仁王立ちでサーレーたちを待ち構えており、驚いたモッタは悲鳴を上げた。
「………なんのことだ?」
「しらばっくれてもわかってるよ。さっきからずっと、僕の後をつけていたじゃあないか。」
中央にサーレーがいて、両脇にマリオ・ズッケェロとパッショーネ新人のアルバロ・モッタがいる。
フーゴはサーレーに目を向けた。サーレーの目は泳ぎ、脇に雑誌を抱えている。どうやらゴシップ誌のようだ。
「………なんのことだかわからないな。」
「ジョジョに報告する必要があるのかな?サーレーが何か不審な行動をしていた、叛意ありと。」
「わああッッッ、待て待て!話す、話すから待ってくれ!!!」
とんでもない男だ。いきなり脅してきた。
ジョジョに叛意ありだとか報告されては、たまったものではない。濡れ衣もいいとこだ。
「なんのために僕をつけた?」
「えっと、その………。」
なんかチンピラがモジモジしている。気色悪い。
「やはり、報告の必要があるようだな。」
「わああッッッ、これだよ、これ!!!」
サーレーは往来で大声を出すと、雑誌の一ページを開いてフーゴに指し示した。
「これは?」
フーゴがそのページに目を向け、見る見るうちに険しい表情になった。
「こんなもの、一体どこの………これはパッショーネの子会社が敢行している雑誌じゃあないかッッッ!!!」
フーゴが読んだページには、歌手のトリッシュ・ウナと目線を入れた一般人男性が仲良さげに連れ立って歩いている様子がパパラッチされていた。
フーゴは雑誌の刊行社を確認して、天を仰いだ。
『有名人気歌手トリッシュ・ウナ、一般人男性と熱愛か?』
そう書かれた見出しと共に撮影された男性は、目線は入っているもののあからさまにパンナコッタ・フーゴだった。
どう反応していいか、わからない。こんな飛ばし記事を書いた出版社に抗議するべきか、それがパッショーネの子会社であることを嘆くべきか、そもそもサーレーが何を言いたいのかわからないことからつっこむべきか。
トリッシュはこのことを、知っているのだろうか?
「それで………その。」
「気色悪いからモジモジしてないで、ハッキリ言ってくれ!君は何が言いたいんだ!」
「ほら、相棒よぉ、しっかりしろ。」
サーレーはまるで乙女のようにチラチラとフーゴを見ている。
フーゴは吐き気と頭痛がした。
「はあ、しょうがねえなあ。コイツが話があるらしいから、どっかカフェにでも行こうぜ。」
モッタがため息をついてその場をまとめ、彼らはカフェに移動した。
◼️◼️◼️
「どうやったらモテるか、俺に教えてください。」
カフェでサーレーが、腹の底から蚊の鳴くような情けない声を絞り出してフーゴに問いかけた。
「はあ?君は一体、何を言ってるんだい?」
サーレーの言葉の意味がわからず、フーゴは聞き返した。
「その………有名人とお付き合いしていらっしゃるフーゴさんに、ぜひ女性にモテる秘訣を………。」
「お付き合いして、いないッッッ!!!君はそんなゴシップ誌の与太話を信じるのかッッッ!!!」
フーゴはさっそく、頭痛がした。
このぶんでは、話を聞いて帰る頃には頭痛で席を立てなくなっているかもしれない。
「その………。」
「ハッキリと喋れないのなら、時間の無駄だ。僕は帰る。」
「まあ待ってくれよ。」
席を立とうとしたフーゴを、ズッケェロが留めた。
「お前にとっちゃあしょうもない話になるかもしれねえが、相棒にとっちゃあ案外死活問題なんだ。話だけでも聞いてやってくれよ。」
「………話してみてくれ。」
ズッケェロの様子が案外と真剣だったので、フーゴは迷いながらも話だけは聞くことに決めた。
「その………俺ももういい年じゃないすか。そんで、いい加減いい女性を見つけて、年とった母親を安心させてやりたいんすよ。」
サーレーがこの間実家に久々に帰って感じたことは、年老いた母親への愛情であった。
暗殺チームは現役の間は結婚が許されないが、女性とのお付き合い自体は認められているし、引退すれば結婚が認められる。アナスイが実例だ。サーレーもいい女性を見つけて、母親を安心させたい。サーレーは根無し草のその場凌ぎの人間で構わないと思っていたが、最近は少し心境に変化があったということだ。
「そんで俺たちは、その程度も一人で相談できない、情けないリーダーのお守りってわけだ。」
「乙女か!!!」
モッタが辛辣に吐き捨て、フーゴは突っ込んだ。
「………まあとにかく話はわかった。しかしそういうことは僕に相談するんではなく、もっと他のモテる人間に相談したほうがいい。何度も言うが僕はトリッシュと付き合っているわけではないし、多分君とそう変わらないよ。」
フーゴは落ち着いて、紅茶を飲んでからサーレーを諭した。
「いえ、フーゴさん。さっきまで大学の研究室で女性と仲よさそうに話してたじゃないですか。」
「君たちは一体、いつから僕をストーキングしていたんだッッッ!!!」
すっかり忘れていた。
そういえば相手方には、潜伏を得手とするマリオ・ズッケェロがいるんだった。
フーゴは卒業を控えて、就職先も決まっていて時間を持て余していた。この日は出席する講義も少なく、帰り際に頼まれて同学の女性に勉強を教えていた。
「え、それは講義が始まってから………。」
「君はまさか、朝の九時からずっと僕を付け回していたのかッッッ!!!」
フーゴは時計を見た。今は夕方の四時だ。
まさかサーレーの両脇の二人も、彼にずっと付き合わされていたのだろうか?
「マジで勘弁してくれよ。」
「………同情するよ。」
モッタが文句を言って、フーゴは同情した。
「なんか助言だけでも!」
サーレーはフーゴを拝み倒し、フーゴはため息をついて諦めた。
「………今日は時間があるから協力できるなら君に協力したいけど、僕にも大したことは言えないよ。相手に誠意を持って接するとか、将来設計をしっかりしておくとか、そんな月並みなありきたりのことしか言えない。結果にも責任が持てないし、とりあえず他の人にも聞いてみたらどうだい?」
フーゴの提案に、サーレーはうなずいた。
◼️◼️◼️
「おい、サーレー!!!なんで僕も君について来ないといけないんだッッッ!!!」
「そう言うなよぉ。お前がうっかり、時間があるから協力するなんて言ってしまうからいけないんだぜぇ。」
フーゴは額に手を当て、ズッケェロは道連れが増えたことを喜んだ。
「なあに、そんなしょうもないことで、そんなにゾロゾロ引き連れてわざわざ私のところに来たわけ?」
「そう言わないでくれ!!!」
「………まあお前たちには恩があるからな。徐倫、すまないがあまり邪険にはしないでやってくれ。」
「それはわかってるけど、私たち国際結婚で、会える時間がそんなに多くないのよ?向こうでの仕事もあるし。」
車椅子を押した徐倫が呆れて、車椅子に乗ったアナスイが仲を取り持った。
徐倫は、相手の人数を数えた。モジモジしたサーレーを先頭に、ズッケェロ、モッタ、ズッケェロに引っ張られたフーゴ。それに久々に友に会うからとウェザー・リポートまで付いてきた。ここはアナスイがチョイスした、ミラノのデートスポットのカフェだ。
「頼むよ、徐倫。なあどうやったら、女性と懇ろになれるんだ?」
「懇ろってアンタ………。」
サーレーのあまりにも情けない質問に、徐倫は白い目を向けた。
「教えてくれ!なんでお前はアナスイのプロポーズにオッケーしたんだ?」
「はあ。まあアンタみたいな情けない男でも、恩人だから答えてあげるわ。アナスイの提案には、未来と希望があったのよ。」
「未来と希望?」
サーレーが徐倫の言葉を聞き逃すまいと、身を乗り出した。
「そう。ワケありの私たちにも実現可能な明確なプランと、私たちが目指せる最善の未来。アナスイはそれを明確にカタチとして、私に提案した。私はその未来に魅力を感じたから、アナスイと共に未来を歩む事を許諾した。感情は、後でどうにでもなるわ。道を歩く間に、相手を好きになればいい。あなたが本当に結婚を望むのなら、まずはあなた自身の未来をどうしたいかを明確にすることね。」
あなた自身の未来。サーレーは徐倫の言葉を、心の中で復唱した。
サーレーは、振り向いた。
「なあズッケェロ、ウェザー。お前たちは、今の職務を全うしたら、その先のことを考えているのか?」
「俺はパッショーネのどの部門に回されてもいいように、ヨーロッパ圏内の言語を勉強してるぜぇ。英語、スペイン語、フランス語、ドイツ語、ポルトガル語あたりはもうだいたい理解できるようになったぜ。次は少し遠くの、中国語か日本語あたりを勉強しようかと思っている。」
「俺は、刑務所にいる期間と記憶のない期間が長かったからな。とりあえず金を貯めて、大学に通って勉強したいと考えている。具体的にやりたい事は、アナスイに相談しながら今から見つけていきたい。」
ズッケェロもウェザーも、サーレーが考えているよりもずっと具体的で明確な答えを持っていた。
「マジか………。」
「ま、そういうことよ。誰しもが、なりたい未来を思い描いている。遠回りに思えても、なにかを築いていくことがあなたの願いを叶える最善の道だと私は思うわ。アンタはかっこ悪くても情けなくても、私は人間的には嫌いではない。アナスイはアンタに希望をもらったって言っている。きっとできるわ。応援している。」
「徐倫、それ言わないでくれって言っただろう?」
徐倫は薔薇のように鮮やかに微笑み、アナスイは照れ臭そうそっぽを向いた。
◼️◼️◼️
「ふざけるなあああッッッ!!!ジョジョがどれだけお忙しいと思ってるんだっっっ!!!こんなつまらない些事で、お手を煩わせるなッッッ!!!」
馬鹿は恐ろしい。
パンナコッタ・フーゴは、心の奥底から震えた。
「まあまあ、落ち着いてくれ、フーゴ。僕も彼との会話は、仕事の合間の息抜きに楽しませてもらっているよ。」
「いや、これは普通に俺もダメだと思うぞ?ネアポリスに向かうっていうから、ついついてきてしまった俺も俺だが。」
アルバロ・モッタもドン引きした。
サーレーは事もあろうか、ボスであるジョルノに助言を乞いにネアポリスの図書館までやって来ている。
距離が近い腹心の部下だからこそ、サーレーは気付いていない。ジョルノはこんなことに手を煩わせていいほど、暇ではない。
フーゴはブチャラティたちの墓参り以外には会うことのない多忙なジョルノにこんな形で面会し、卒倒しそうになった。
「ホラ、だから言ったろ相棒。いくらなんでもこれは常識がなさすぎるぜ?」
「深く悩んでいる事は理解するが、相談する相手が間違いだ。」
ズッケェロとウェザーまで否定的で、サーレーはフルボッコだ。
「うぐぐ………ジョジョ………。」
「まあまあ、とにかく僕に何の用事だい?」
瀕死のサーレーは、何とか喉から声を絞り出した。
「モテる秘訣を、どうか俺に教えてくださいッッッ!!!」
理由や事情をすっ飛ばした単刀直入な用件に、ジョルノは頭に疑問符を浮かべた。
「………君は突然何を言い出すんだ?」
「コイツ、この間実家に帰ったときに、母親を安心させてやりたいって思ったらしいんすよ。モテねえ金もねえ息子を、母親にゃあ見せたくねえって。」
あまりに酷い相棒の姿に、見かねたズッケェロが横から口を挟んだ。
「なるほど。」
「俺みたいな家族のいない人間からすりゃあ、羨ましい悩みですが、まあ長く相棒やってますしどうかチョロっとでもご助言いただければと。」
ジョルノは、少し難しい顔をして考えた。
暗殺チームの管理に関しては、ミスタに一任してある。
暗殺チームに関しては、人員の補充と現役の人員の任期満了による引退を考えている。
しかし、今のところ目ぼしいのは殺し合いを経験したことのない人員か限定的な状況下でしか力を発揮できないピーキーなスタンド使いばかりで、クラフト・ワークとサーレーほど優秀で万能なスタンド使いはいないとのことだった。最初のハードルが、少し高すぎたのかもしれない。
暗殺チームに所属している間は、結婚を許していない。彼らはいざという時は、死ぬ事も仕事のうちだからである。
社会という大多数を守ることを職務にしている以上、社会よりも優先されるものが存在してはいけない。
家族を持たせてしまえば、例えば家族と社会を天秤にかけられた場合に家族を優先する可能性が出てくる。
しかしあまり杓子定規にしていても、不満が噴出して反乱を招く恐れがある。
そのために暗黙の曖昧な部分が存在し、結婚を前提としたお付き合いに関しては何も言わない。
柔軟に、適当に、うまくやるのがコツだ。
しかし、彼らもいつまでも暗殺チーム所属というわけではない。
ミスタがそういった人間を随時リストアップして鍛錬しているし、彼らが暗殺チームを辞めても彼らを他に使える部署は他にいくつか存在する。マリオ・ズッケェロに関しては、向学心が強いという報告も受けている。
親衛隊を増強するのもいいかもしれない。親衛隊は、つまりはジョルノの私兵という意味合いである。
諸外国に対する補償も払い切る目処がついたし、雇用を作り出すという意味でも武力による牽制という意味でも親衛隊の規模を拡大して彼らを親衛隊入りさせるのはアリだ。まあ私兵とは言っても、デスクワークがメインになりそうだが。それでも便利に使える、カンノーロ・ムーロロ的な役割を果たす存在が欲しいと思っていたところだ。
「君たちは、直属の上司のミスタには相談したのかい?」
「いえ。ミスタ副長は、俺と同じくらいモテないんで。」
「ミスタ………。」
サーレーの返答に、ジョルノは悲しみのあまり目頭を押さえた。
裏社会のナンバー2が、そんなに女性に不人気でいいものか?
「僕に相談するよりも、女性目線で見たほうがいいんじゃないかな?シーラ・E。」
「ええっ!?私ですか!?」
書類の検閲を終わって重要書類をジョルノに目を通してもらうためにジョルノの下を訪れたシーラ・Eが、唐突な無茶振りに素っ頓狂な声を上げた。
「サーレーが女性にモテなくて悩んでいるらしい。………君が適任だ。」
「ちょっっ、ジョジョッッッ!!!」
「私に何をしろとッッッ!!!」
悩みを勝手にバラされたサーレーとわけのわからない任務を振られたシーラ・Eは焦った。
「フーゴ、ズッケェロ。君たちは書類業務を手伝って欲しい。ズッケェロは将来的に親衛隊入りを選択肢の候補に挙げている。今のうちに学んでおいて、損はないはずだ。せっかくだからウェザーとモッタも見ておくといい。」
「ジョルノ様ッッッ!!!」
いきなりズッケェロが同僚になる可能性を示唆されたり、わけのわからない悩みの解決を任されたり、シーラ・Eは目を白黒させた。
◼️◼️◼️
「一体、私は何を任されたの?」
とりあえず話がわからないことには先に進まない。
シーラ・Eは近場のカフェに入って、サーレーの話を詳しく聞くことにした。
「あの………その………。」
「はっきりと喋れ!」
サーレーはゴニョゴニョと喋り、要領を得ない。
シーラ・Eは、イラッとした。
年下の女性に相談しろだなんて、ジョジョも酷いことを言う。
サーレーは恥ずかしいやら情けないやらで、何を話していいかわからない。
俯いてなかなか要件を切り出そうとしないサーレーに、シーラ・Eの短い導火線にはやくも火がついた。
「………帰るわ。」
「わああッッッ!!!待てっ!待ってくれッッッ!!!言う。言うから、俺を助けてくれッッッ!!!」
シーラ・Eは席を立ち上がり、サーレーは情けないほど狼狽した。
「さっさとなさい。」
シーラ・Eは席に座りなおし、相談費用とばかりにケーキを注文した。
もちろんサーレーの支払いだ。
「この間実家に帰って、おふくろに久し振りに会ったんだ。」
「アンタ、母親いたの?」
「当たり前だッッ!!!自然発生したわけではない!!!」
「ああごめんごめん。裏にいる人間はワケありの人間ばかりで、身内と交流のある人間って少ないのよ。私もいないし、アンタの相棒もいない。ウェザーも父母がどうなったかわからないらしいし、ホル・ホースも天涯孤独みたい。義父のいるモッタは例外ね。」
「お前………。」
サーレーはシーラ・Eが仲間の家庭事情を把握していることに、驚いた。
「まあ同僚として扱うからには、最低限の情報は知っておく必要があるわ。アンタに母親がいるのは知らなかったけど。」
パッショーネの構成員は、入団面接の際に家庭事情を質問されている。その書類が、情報部に保管されている。
サーレーは面接で、両親とは縁を切ったとだけ告げていた。
「それで、どういうことなのかしら?」
「ああ。この間実家に帰省したんだが、おふくろに孫の顔を見たいとせがまれたんだ。まあ諦めたと言っていたが、寂しそうだったんでな。それで………。」
「なるほど。」
シーラ・Eはうなずいて、難しい顔をして考え込んだ。
だから、モテないことを気に病んでいたのか。しかし………。
「そうね。本気で結婚する気があるのなら、生活態度を改めること。常識を身につけること。まあ顔が緑色なのは………ファンデーションでどうにか誤魔化せるわ。総合的に見たら………達成難易度激高の任務ね。」
「………そんなにも困難なのか?」
「パッショーネの総力をもってしても、達成確率1パーセント未満だわ。」
「マジか………。」
サーレーの目の前は、真っ暗になった。
「………仕方がないわ。乗りかかった船だもの。私が今日1日、あなたの生活態度を指導してあげるわ。こうしちゃいられない。」
「おい、何を勝手にッッッ!」
「あなた、本気で結婚する気あるの!!!」
なぜだかわからないが、急にシーラ・Eはやる気を見せた。
サーレーはシーラ・Eに叱られ、シーラ・Eは今日は仕事できないことをジョルノに伝えるために電話をかけた。
「許可はもらったわ!さあ、行くわよ!」
「………どこに?」
シーラ・Eはサーレーにそう告げると、伝票を取って席を立った。
「あ、おい!会計は俺が払うんだろ!」
「気が変わったわ。アンタは貧乏なのでしょう。金は、結婚資金にとっておきなさい!」
シーラ・Eは無駄に力強く言い放ち、あまりにも男らしいその背中にサーレーは逆に不安を感じた。
◼️◼️◼️
「ところで、お前はどれくらい男性とお付き合いした経験があるんだ?」
ふと不安に思ったサーレーは、道を歩きながらシーラ・Eに質問した。
シーラ・Eはあの後、仕事着から普段着に着替えるために一旦家に帰っていた。青いシャツに黒のジャケットを羽織り、白いロングスカートを履いている。
「私をナメないで!私はジョルノ様のお付きで、さらにスパイス・ガール主催の、女を磨こうの会に所属しているのよ!」
………コイツは何を言っているのだろう?
スパイス、何?女を磨こうの会?
サーレーは、首をひねった。
「お前は何を言っているんだ?」
「私に任せるからには、アンタをジョルノ様のような立派な男にしてみせるわッッッ!!!」
「………ジョジョ?」
何かいろいろと間違っている感じがする。
果たしてこのままこの女について行っても、大丈夫なものか?
「おい、シーラ・E。待てよ。俺は別にジョジョのようになりたいわけでは………。」
「ジョルノ様はおモテになるわ。ジョルノ様の真似をすれば間違いない!アンタ、ついてたわね。ジョルノ様のお付きの私がいて!」
………どうにも判断に困る。
ついて行って正解のような気もするし、失敗しそうな予感もする。何より気になるのは。
「おい、シーラ・E。お前はなんで、突然そんなにやる気を出したんだ?」
「私には、身内がいないわ。………アンタに母親がいるのなら、私はアンタを応援したい。」
「………そうか。」
シーラ・Eは、物憂げな表情をした。
つまらないことを聞いてしまった。
ここは紳士らしく、この女を信用してついて行ってみようじゃあないか。
「ところでシーラ・E、お前は男性とどれくらい………。」
「ホラ、行くわよ!!!」
念のために確認しようとしたサーレーを、シーラ・Eは無視した。
◼️◼️◼️
「まずアンタは、と・に・か・く!その髪型がムカつくのよ。そこをどうにかしないと、話が始まらないわ。ここはパッショーネの子会社系列の美容院で私が話を通しておいたから、髪を切って染めてきなさい!」
いきなり無茶苦茶言ってきた。
この髪型は、サーレーのアイデンティティだ。
「おい、何をいきなり………。」
「いいから、行きなさい!」
「待て!!!」
いくら何でも、好き勝手にさせるわけにはいかない。
サーレーは必死に抗議した。
「………何?」
「この髪は、俺のこだわりだ!」
シーラ・Eはサーレーを半目で睨むと、高圧的に反論した。
「だから何?アンタのそのだっさい髪にこだわりがあろうがなかろうが、今まで全然モテてないんだから、間違っているに決まっているじゃない!まあそもそもアンタの人生自体が間違っているのかもしれないけれど、そこは口をつむっといてあげるわ。アンタ、センスのかけらもないんだから、黙って私の言う通りになさい!」
「酷すぎる!!横暴だ!」
口が悪すぎる。なんなんだ、コイツは!?
「なあに?まだ言いたいことがあるの?」
「………髪を切ったら、お前を待たせてしまうことになるだろう。」
しょぼくれたサーレーは、彼にできる精一杯の反論をした。
「それぐらい、待つわ。」
「………俺の生活態度と常識をどうこうするという話ではなかったのか?」
「むむ………。」
サーレーの指摘に、シーラ・Eはやや考え込んだ。
しばし黙考したのちに、サーレーを指差した。
「アンタの言うことは確かに一理あるわ。でもその髪型だけはムカつくから、ちょっと来なさい!」
「何をするッ!やめろッッッ!!!」
シーラ・Eはそう言うと、サーレーを引っ張って美容院に入店した。
サーレーを叩き込むように空いている椅子に座らせると、勝手に備えてある整髪料を使用してサーレーの髪型をいじりだした。
「ああっっ!!!何をするッッッ!!!」
「黙りなさい!!!」
クラフト・ワークで固定した髪型は、整髪料と重力とシーラ・Eに完膚無きまでに敗北した。
サーレーは聖域を荒らされたような、大切なものを蹂躙されたような、なんとも言い難い感情を覚えた。
ことが終わってそこには、個性の無いただのチンピラが一人存在した。
「まあそっちの方が、普段のだっさい髪型よりはいくらか見れるわ。」
「酷い………酷すぎる。」
サーレーの泣き言を無視して、シーラ・Eはサーレーを席から立ち上がらせた。
「さあ、私をエスコートして見せなさい!私がアンタにダメ出しをしてあげるわ!」
シーラ・Eは、胸を張った。ここに来て、アホの子サーレーもさすがに気がついた。
これは、人選ミスに他ならない。
◼️◼️◼️
「意味がわからないわ。なんであの女はあんなにモジモジして、はっきりとした答えを言わないのかしら?好きなら好きだって言えばいいじゃない。時間が、勿体無いわ。」
「だから、恋愛はその過程を楽しむんだよ。」
映画館を出たサーレーは、フーゴのように頭痛を催していた。
この斜め前を歩くおかっぱの女は、女性の恋愛の機微がまるで理解できないらしい。にも関わらず、サーレーは彼女から恋愛指南を受けようとしている。何か間違ってなかろうか?
挙句に、映画代も例によって例のごとく気っ風のいい年下の姐御が支払ってくれた。
サーレーは情けないやら、どう反応したもんやら、気まずくて縮こまっている。
「さあ!次はどうするの!」
「………はい。次はバーに行こうと思うんですが。」
「お酒を飲むのね。じゃあ向かいましょう!」
なんでこの女は、こんなにも威勢がいいのだろう?
これは果たして本当に、サーレーの役に立っているのか?生活態度と無関係に思えるが、それはどこに行ったのだろう?
ローマの繁華街をエスコートされながら、サーレーはしきりに首を傾げた。
薄暗い品のあるバーに入店して、シーラ・Eは店員に二名という意味合いで二本指を立てた。
頷いた店員は、二人をテーブル席へと案内した。
「さあ、さっさとエスコートなさい。」
「いや、ここ結構高い店じゃねーのか?金ねーよ。」
「アンタは学習してないの?代金は私が全部払ってあげるわ。」
「………ヒモじゃねーか。」
今日の一連の行動で、サーレーは一体何を学習したのだろう?
サーレーにわかったのは、シーラ・Eは金を持っているということ。親衛隊の給料は結構いいのだろうということだけだ。
そんなことがわかっても、結婚できるとも思えない。
ひょっとして、暗殺チームをやめたら親衛隊を目指せという指南だろうか?
サーレーは店からジャケットを貸し出され、二人は席に向かい合って座った。
「はあ。それで、なんか助言はあるか?」
「なんでため息つくのよ。」
「なんかお前に疲れたんだよ。」
「失礼なやつね。」
サーレーはため息をついて、シーラ・Eはサーレーを睨んだ。
「そうね。昔よりはだいぶ生活態度が良くなっていると思うわ。でもだらしないところもあるんなら、アンタはアンタを引っ張ってくれるような相手がいいじゃないかしら?」
「引っ張ってくれる相手?」
「ええ。私もここ最近思うようになったのが、やはり完璧な人間なんていないわ。欠けているところがあるのなら、それを補う相手を生涯のパートナーにすればいいんじゃないかしら?」
「ふーん。なるほどねえ。」
「自分のことなんだから、もっと必死に考えなさいよ。」
シーラ・Eは、サーレーを睨みながら笑った。
「俺が必死になっても、ロクなことにならねえよ。今までがずっと、そうだった。」
サーレーも難しい表情をしながら、笑った。
「まあいいわ。結果から言うと、アンタはジョルノ様には程遠い。まだまだね。また付き合ったげるから、頑張んなさい。」
「次は俺が金を払うよ。」
「そうね。まずは金銭管理をしっかりできるようになるところからね。そうだ、せっかくだから、アンタ私の相談にも乗りなさいよ。」
「お前もなんか悩みがあんのか?」
「んー、今ひとつパッショーネの役に立てているという自信が持てないのよねぇ。どうすればいいかしら。」
「ジョジョはお前に感謝していると言っていたぞ。お前は考え過ぎだと思うが。」
落ち着いたバーで、二人は日付けが変わるまでゆっくりと酒を楽しんだ。