噛ませ犬のクラフトワーク   作:刺身798円

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スペイン、フランス同時発生事件 後編

「ヘイ、クソッタレ小僧。今のを躱すとは、相変わらずムカつくガキだ。」

 

爆発によって廃工場の床が抉れ、中から男が出てきた。

パーカーを着てスキンヘッドの頭部に竜と髑髏のタトゥー、眼球の白眼の部分もタトゥーにより黒く染まっており、鼻と口にピアスをつけている。男は、額に手を置いて工場の天井を仰ぎ見た。天窓から月明かりが降り注ぎ、カソックを着たシルエットが天井に張り付いている。

ローウェンは床が爆発する直前に雲を多量に撒き散らして周囲の空気を急速に冷やし、上昇気流を引き起こしてそれに飛び乗って敵の攻撃による自身への被害を最小限に抑えていた。

 

「………リュカ、なぜお前は生きている?」

「どうでもいいだろ?そんなことよりも………。」

 

ローウェンが冷やして張り付いた天井から降りてきて、リュカが両手をあげると同時に時間差と共に周囲で連鎖的に爆発が起こった。

リュカの背後には、セミの幼虫に似た彼の生命のヴィジョンが、恨みを晴らすのは今日なのだと、歓喜に満ち満ちている。

 

パーティの、始まりだ(Faisons une fete.)。ヘイ!!!過去の恨みに十年越しの利息を付けて、綺麗さっぱり全部返してやるよッッッ!!!」

「地獄から迷い這い出てきたのなら、再び地獄に送ってやる!!!!」

 

殺意の爆煙と雲が室内を渦巻き、弱い方が漆黒の闇へと溶けて消える。

三日月を天頂に抱き、中央に巨大な空洞がある廃工場の一室で、二人の殺戮者は激突した。

 

◼️◼️◼️

 

「君のカビは強力だが、能力に弱点がある。」

 

室内で、イアンがオリバーが連れてきた少年チョコラータに告げた。

 

「融通の利かなさだ。制約に則った能力は、制約下では強力なパフォーマンスを発揮する。しかし、予期せぬ事態や相手に能力を分析されて攻略されてしまえば、ひどく脆い。」

 

イアンに新たに生み出されたチョコラータはうなずいた。

 

「私が君に望むのは、旧来のチョコラータの能力とは異なるグリーン・デイだ。奴らはすでに、君のカビが低所に向かうことを発動のトリガーにしていることを理解している。変化を付けて、狼狽させろ。相手の思惑を外し、後手に回し対処させろ。それが出来ないのなら、君はいつまで経ってもチョコラータの壁を超えられない。今ここで、チョコラータの壁を超えろ。」

 

クレイジー・プレー・ルーム・レクイエム。イアンのスタンドの部屋で、狂気は無限大に膨れ上がる。

少年チョコラータのカビを模した緑色のグリーン・デイは、狂気で赤く染まった。

 

◼️◼️◼️

 

周囲を捜索させた配下から、連絡が来ない。メロディオは不審を感じた。

 

「クソッタレ!アイツらちっと目をかけてやっていたのに、また鍛え直しだな。」

 

メロディオは懐から携帯を取り出して、レノに電話をかけた。

 

「おい、パッショーネからの援軍の到着はまだか?」

『あと三十分ほどでカタルーニャ州に入るとの連絡を受けています。到着したら、こちらで事件の説明を行いそちらへ送ります。』

「了解。」

 

通話を切って電話を懐にしまった時、不意にメロディオは電話を持った自分の左手に違和感を感じた。

 

「これは………ッッッ!!!」

 

左手を、赤い不気味な植物が覆っている。

カビだ。メロディオは、慌ててレノに連絡を取り直した。

 

『どうなさいましたか?』

「レノ!!!グラシア通り周辺を大至急再封鎖しろ!!!急げッッッ!!!」

『一体何がッッッ?』

 

カビを操るスタンド使いは、すでに倒したはずではなかったのか?

 

「パッショーネに告げろ!!!危険度レベル4だッッッ!!!私が帰ってこないことを、想定しろッッッ!!!」

『ッッッ!!!了解しましたッッッ!!!』

 

カビは強い生命力を持つが、弱点も多い。

乾燥、50℃を超える熱、殺菌効果を持つ消毒液、風などが挙げられる。

メロディオはカビ使いの暗殺に失敗した場合は、それらの手段のいずれかを大規模に行う作戦を予定していた。

 

チョコラータのカビの天敵は、風や熱を操るウェザー・リポート、フランシス・ローウェン、ジャック・ショーンなどのスタンドが挙げられる。

フランシスがフランスから動けないのは非常に痛手で、パッショーネにウェザー・リポートという風を操れるスタンド使いがいることを知らないことも、メロディオにとって致命的だった。それを知っていれば、メロディオはウェザーを指名して彼らの到着まで耐えるという選択肢を取り得たのだ。

 

「アエアアエエエエッッッ!!!」

「お前ら………。」

 

メロディオの部下が、メロディオの元に帰ってきた。全身を赤いカビに寄生された無惨な姿になって。

メロディオは右手で即座にホルスターからMk.22を抜いて、四人の頭部を吹き飛ばした。

四人はその場で倒れて、痙攣して動かなくなった。

 

「時間はない、か。」

 

左手に寄生したカビは、先ほどよりも侵食してきている。左手だけだったのが、左腕の第一関節を上に上がってきている。

脳まで侵食されたら、おそらくは先の四人のようになってしまうのだろう。

 

先に仕留めた配下の四人はメロディオよりも侵食が進んでおり、おそらくはそちらに進んだ方向に黒幕がいると考えられる。

 

メロディオは拳銃を構えて、慎重に先へと進んだ。

鬼が出るか、蛇が出るか。進むしか、道はない。

 

◼️◼️◼️

 

「ヤー、ハーッッッ!久々のシャバだ。心が踊り、工場が爆発するぜッッッ!!!」

 

リュカとローウェンは戦闘を有利に進めるために工場内を走りながら、時折対峙して拳を交わした。

ローウェンのスタンド、ハイアー・クラウドの雲が工場内の中空を覆い、リュカのスタンド、ケミカル・ボム・マジックの生成した爆弾の爆風が雲を吹き飛ばして散らした。

 

「………消え失せろ。外道が。」

「先輩に向かって、何たる言い様だ。俺が教育し直してやるよ!!!」

「貴様に教わることなんぞ、何一つとしてない。」

 

工場を支える一本の鉄骨を挟んでローウェンとリュカは向き合い、水色の波打った形状のスタンドとセミの幼虫のようなスタンドは瞬時にいくつもの拳を交えた。鉄骨は瞬く間にへし折れ、リュカのケミカル・ボム・マジックが口腔に付随するストローをへし折れた鉄骨に突き刺した。

ローウェンのスタンドが鉄骨周辺の地面を凍らせ、敵を至近距離から逃すまいとするも、鉄骨が爆発して爆風に乗って二人の距離は離された。

付近をローウェンの雲が覆い、リュカは敵のスタンドの有効範囲から逃げ出した。

 

「相変わらず、厄介なガキだぜ。」

「………落雷(クー・デ・フード)。」

「んあ?」

 

ローウェンのスタンドが噴出した雲は、突然動きを変化させて一箇所に収束して縦長に伸びた。

縦に長い雲はあたりに気流を巻き起こし、静電気と火花を散らし、小型の雷がリュカ目掛けて落雷した。

しかしそれは直撃寸前で不自然な軌道を描き、地面に着雷した。

 

「………避雷針か。」

「テメーお得意の必殺も、こんなに簡単に避けられるんだぜ?まったく便利な世の中だよなあ。ヘイ!」

 

リュカは、笑いながらローウェンを挑発した。

その時突然ローウェンの横の壁が膨れ上がって、小型の爆弾を無数に周囲に飛び散らせた。

 

「………マジうぜえなあ。それを防御するとか。」

 

リュカのスタンドの必殺であるクラスター爆弾。それは非常に高い殺傷力を持つ。

大きな爆弾の内部に多数の小型の爆弾を内蔵し、散弾銃のように周囲一帯に爆撃を行う。

ローウェンは自身の左半身を瞬時に分厚い氷で覆い、散布された無数の爆弾を防御した。

 

周囲の空気がローウェンに向かって流れ、緩やかに分厚い雲が辺りを覆っていく。

 

「………遊びはここまでだ。」

「はあ?」

 

ローウェンの精神が、闇の奥底に沈んで行く。

 

不審時に於いて、時に情報は命にも等しい。

リュカから情報を搾り取るために生け捕りを予定していたのだが、相手が想定よりも粘るのでローウェンは急遽予定を変更した。

廃工場に差し込む月明かりは、分厚い雲に遮られて闇に飲み込まれて行った。

 

◼️◼️◼️

 

「お待ちしていました。」

 

少年がメロディオを迎え、メロディオは相手の頭部に銃口を向けた。

 

「おっと、それはお勧めしません。僕の赤いカビは、僕を殺せば瞬く間に拡散し獰猛になり、辺りの生物を見境なく喰い殺します。」

「………。」

 

………読めない。

真実か虚構(ブラフ)か、街灯の逆光を背にした少年の表情からは判別がつかない。

 

「正解です。僕の言葉が真実であれ嘘であれ、貴女に僕は撃てない。僕を撃てば、僕の背後にいるさらなる邪悪を貴女は取り逃がすことになります。」

 

神経を逆撫でする表情で、少年チョコラータは笑った。

グラシア通りの一角に建つホテルの前で、メロディオとチョコラータは二度目の邂逅を果たした。

 

「何が目的だ?」

「さあ。彼に聞いて下さい。僕は貴女の案内役だ。」

 

チョコラータはそう告げると、メロディオの左手のカビを取り払った。

 

「何のつもりだ?」

「だから僕はただの案内役だと。僕は主人(マスター)のオーダー通りに動く、ただの人形です。人形を攻撃したところで、何も解決しませんよ?」

 

チョコラータは無表情に返答し、メロディオの拳銃の銃口は依然チョコラータの頭部に照準を合わせている。

 

「おやおや、臆病者のお姉さんは、平和の使者に銃口を向けたままでしか向き合えないんですか?」

「どの口が平和の使者などとッッッ!!!」

「僕は、貴女がさっきまで戦っていた人間とは別人ですよ?貴女への攻撃も解除して丁重に出迎えたのにこの仕打ちとは、野蛮人と罵られても仕方ないのでは?」

「………平和の使者を騙るのならせめて名前ぐらい名乗ったらどうだ?」

「これは失礼。僕の名前は、チョコラータと申します。」

 

チョコラータはニヤニヤ笑いながら、慇懃無礼な口調でどこまでも挑発した。

平和の使者を騙るなどと、不愉快も甚だしい。スタンドで攻撃して強制的に取れる選択を狭めたのはこの男だ。第一メロディオは、すでにこの少年の攻撃で部下を四人失っている。

 

「それはお姉さんご自身が殺害されたのでしょう?」

 

少年チョコラータはメロディオの思考を読みながら、どこまでも神経を逆撫でにしてくる。

 

メロディオは深呼吸した。取れる選択肢は三つ。

この少年に着いて行く。この少年をここで殺害して独自に黒幕を探す。逃走する。

どの選択も、一長一短だ。

 

最初の選択の利点は、少年が嘘を付いていなければ黒幕と直接対峙できる。

欠点は、生還できる可能性が極めて低い。

 

二番目の選択の利点は、少なくとも敵方の厄介な駒であるだろう目前の少年を始末できる。

欠点は、敵の情報が何も入ってこない。カビのスタンド使いは消したはずなのに、スタンド使いの少年が新たに現れた謎が何も解明されない。付け加えて言うと、少年の言葉が真実だった場合、周辺地域を少年のカビが蹂躙することになる。

 

三番目の選択の利点は、メロディオという強力な駒が生きて還ることが出来る。

欠点は、やはり敵の情報が何も入ってこない。カビを使うスタンド使いは依然猛威を振るい、相手の出方がわからないままに後手に回ることになる。

 

付け加えれば、もうじきパッショーネの援軍が到着する。

それらを鑑みて最善の選択肢は。

 

「………連れて行け。」

 

メロディオは、覚悟を決めた。

 

◼️◼️◼️

 

雷光の如き速度で、ローウェンのスタンドがリュカとの距離を詰めてきた。

リュカのまぶたに薄く氷が覆い被さり、それに気付いた時にはすでに、リュカはローウェンとの距離感を見誤っていた。

 

「おおう。やべえなあ。」

 

いきなりトップギアに上げてきたローウェンにリュカは慌ててスタンドを操作し、ハイアー・クラウドの拳を腕を交差させて防御した。

 

「マジッッッっ!!!かよッッッ!!!」

 

ハイアー・クラウドの右拳は敵の交差させた腕に衝突する寸前に鉤爪の形になり、しなやかな鞭のように軌道が変化してリュカの首筋後ろの脊髄神経を根こそぎ引き千切ろうとしてきた。

リュカは慌てて首を捻り、相手の指を躱した。

 

「うえッッッ!!!」

 

しかしハイアー・クラウドの右拳は、さらに変幻自在に軌道を変化させて代わりにリュカの鼻を吹き飛ばした。飛び散る血液が目に入り、リュカの視界はさらに狭まった。

同時にハイアー・クラウドの左拳が蛇のような軌道を描き、リュカの喉笛を引き千切った。

リュカは、喉からも盛大に出血した。

 

「あひっ、あひひひ。容赦ねえなあ。昔よりもさらに動きがキレてやがる。」

 

リュカの鼻と喉の傷は復元されていき、リュカはローウェンから距離をとった。

 

「………貴様、なぜ生きている?」

 

今の攻撃は、間違いなく致命傷だったはずだ。

しかし傷は復元され、元どおりになった。リュカはニヤニヤ笑っている。

ローウェンは唐突に、リュカが生きている人間の感情を探知するヴィオラートのレーダーに映らなかったことを思い出した。

 

「言うわけねえだろ、ボケッッッ!!!俺は、絶対にお前に復讐する。まあとは言っても、俺も無駄死にはしたくねえよなあ。そもそも生きてねえと、復讐できねえわけだし。」

 

リュカは、首をかしげる仕草を取った。

直後にリュカのスタンド、ケミカル・ボム・マジックが両手を上げると同時に、工場の壁が爆発した。

 

さようなら(Au revoir.)。ローウェン。」

「待てッッッ!」

 

リュカは工場の壁を抜いて逃げ出し、ローウェンは逃げるリュカの後を追った。

 

◼️◼️◼️

 

「不躾なお嬢さんだ。出会うなり、いきなり銃撃してくるとは。」

 

イアンが両手を広げて、笑った。

メロディオは、目を細めて難しい表情をしている。

 

メロディオの道化(スタンド)は、この世の理を司る。

故にメロディオは理解した。ここは通常の理が捻じ曲げられる、異界である。

 

メロディオが手に持ったMk.22でイアンを銃撃し、銃弾は部屋内で上方からたまたま落下してきた分厚い本に遮られて、軌道が変わった。

さらに立て続けに銃撃し、それはたまたま手を動かしたイアンの右腕の骨に絶妙な角度で当たって、軌道が変わって逸れていった。

三発目の銃弾は、たまたま指を曲げたイアンのスタンドに摘みとられた。

メロディオは、空になった弾倉に弾を込め直した。

 

「元気なのは嫌いではないが、人と対面するときの作法には気をつけよう。」

「お前が本当に人間と呼べるのならな。お前からは、ハエも集らないヘドロ以下の匂いがする。」

 

メロディオは装弾された八発の銃弾を全てイアンに向けて連射し、それはたまたま全部なんらかの要因によってイアンを外れた。

メロディオがピンを抜いて床に転がした手榴弾は不発に終わり、イアンはそれを足で踏み転がした。

 

「酷いことを言うな。私だって、生きている。幸せを求めてヨーロッパを旅をしてるんだ。」

「お前の歩いた道の後には、屍の山が出来上がる。お前は生かしてはおけない!!!」

「ならばどうする?」

 

イアンのスタンドがいる部屋の中で、イアンは万能超人となる。

起こり得る事象のうち、最もイアンに有利な状況が展開される。

クレイジー・プレー・ルーム・レクイエム。狂気は、無限大に膨れ上がる。

 

イアンが手榴弾をメロディオの方に蹴り転がし、それは横っ跳びに逃げるメロディオの近くで炸裂した。

イアンのスタンドの執刀医がメロディオとの距離を詰め、メロディオの腹部を強打した。

メロディオは壁に激突して、部屋の床に這い蹲った。

 

「筋肉質だな。思ったほど吹き飛ばなかった。見た目よりもずっと重い。さぞかし必死に訓練したんだろうな。だが無意味だ。………お前は今、どういった気分だ?」

 

開腹するのが楽しみだ。イアンは、楽しそうに笑っている。

白衣を着た不気味な執刀医が、メロディオに向かって近寄って来た。

 

◼️◼️◼️

 

「そろそろ、決着はついたっすかねえ?」

 

ランドが、ヴィオラートに話しかけた。

 

「………気を引き締めて集中しなさい。」

「でもフランシスさんっすよ?」

 

廃工場の物陰で、ヴィオラートとランドは工場の入り口を見張っていた。

敵が逃走した場合、距離を置いてヴィオラートのレーダーで追跡するためである。

 

「………あなたを連れて来たのは間違いだったと、ローウェンに言わせたいの?」

「厳しいっすねえ。」

 

若いランドが、苦笑いした。

リーダーであるローウェンが工場に侵入して、およそ十五分。そろそろ決着がついても良さそうだ。

 

工場内では時折爆音が響いていたが、ランドは一切の心配をしていなかった。

何しろフランシス・ローウェンは、ヨーロッパ暗殺チーム最強と名高い。

 

ランドは戦闘の才能はあったが、経験が浅いがゆえに暗殺チームのシビアさを甘く見ていたのである。

そして、時に思慮の浅さはそのまま致命の事態へと直結する。

 

「うわッッッ!!!」

「馬鹿がッッッ!!!さっさと隠れろッッッ!!!」

 

突然彼らがいる近くの工場の壁が爆破され、ヴィオラートは反射で素早く物陰に隠れたがランドは何があったのかと身を乗り出してしまった。

工場から出てきた人物の黒い眼球の中にある青い瞳がランドを射抜き、さらに彼に必死に忠告するヴィオラートの声も彼に聞こえてしまっていた。

思わぬ福音に、リュカは邪悪に笑った。

 

「あ、ああ………。」

「邪魔だ、クソガキ。」

 

ランドは、リュカの迫力のある表情に怯んだ。

リュカのスタンドが素早い動きでランドの顔面に殴りかかり、ランドは彼のスタンドで必死に腕を交差させて防御して地面を転がった。

 

「ヘイ!!!久しぶりだなあ、ヴィオラート。」

「………ゲスが!」

 

ヴィオラートがマニューリンMR96を構えて、リュカ目掛けて発砲した。

リュカは、銃弾を容易くスタンドで弾いた。

 

「ヴィリー!!!」

「おおっとぉ。」

 

ローウェンがリュカを追って工場から出てきた時は、すでに遅かった。

リュカはヴィオラートの背後に回り、首筋にストローを突き立てていた。

リュカはヴィオラートを、ローウェンに向かって突き飛ばした。

 

「ボム!」

 

ヴィオラートが、ローウェンの目前で血肉を撒き散らして弾け飛んだ。

次の瞬間、リュカの頭上に雲が収束し、雷を落とした。

 

「あぐッッッ!」

「死ね。」

 

リュカはローウェンの恋人を殺して隙を作り、逃走を目論んでいたのだが、その目論見は見当外れに終わった。

落雷がリュカを襲って硬直した次の瞬間にはローウェンは距離を詰めており、ハイアー・クラウドがリュカを地面に引きずり倒した。

そのまま即座にリュカの頭部を踏み潰し、リュカの死体は地面に溶けて消えて行った。

 

「フランシスさん………すみません。」

 

ローウェンはランドに近寄り、彼を殴り飛ばした。

コンクリートの地面に血が飛び散り、ランドの前歯が転がった。

 

「………暗殺チームに、避けられない犠牲は付き物だ。だからこそ、一瞬の油断も許されない。どれだけ強かろうとも、油断した人間から簡単に死んで行く。」

 

ローウェンはランドにそれだけ告げると、胸部の飛び散ったヴィオラートの遺体を大切そうに抱え上げた。

 

◼️◼️◼️

 

道化の世界(エル・モンド)。』

 

痛みで床に蹲るメロディオの前に天秤が浮かび上がり、周囲に白い光を発して緩やかに回転して小刻みに震えた。

イアンは、それを警戒した。身動きの取れないメロディオのただの悪足掻きか、はたまた切り札か?

 

イアンの能力は、部屋の中の状況をイアンに最も有利な展開に持っていくものだが、無敵ではない。

イアンに打つ手や勝ち筋がない状態では、イアンは簡単に敗北する。はっきり言えば、有利に事態が運ぶ部屋の中だろうと真っ向勝負でスター・プラチナにはとても勝てない。少なくとも、()()

 

天秤は震えて何かを起こしそうな雰囲気が漂っており、天秤の後ろでは道化のヴィジョンがアルカイック・スマイルを湛えている。

イアンはその様子に、不気味さを感じた。

 

「………貴様、それは何だ?」

「さて、何でしょうか。正解は、発動した後で。」

 

メロディオの切り札は、発動に時間がかかる。効果範囲も狭い。

効果範囲に敵を巻き込めれば勝利が確定するが、敵はひどく警戒して近寄って来ない。

それならば、それでいい。最悪は、発動前に問答無用で敵が攻撃を仕掛けてくることである。

 

メロディオはこの局面で、初めてイアンに精神的に優位に立った。

イアンは、メロディオを攻撃するべきか相手の不気味な能力に対して逃走するべきか迷った。迷った挙句、部屋の中ではイアンにとって最高の状況が作り出されるという自身の能力の特性に頼って、距離を取って様子見をするという結論に達した。

 

「どうした、臆病者?私から逃げないのか?イキリ損なった、マヌケなヘドロヤロー。何が起こるか呆然と立ち尽くして待っているだけの今、一体お前はどんな気分だ?」

「………。」

 

メロディオは、警戒するイアンを煽り返した。

二人の間で精神の駆け引きがなされ、宙に浮かぶ天秤はやがて破裂した。

 

◼️◼️◼️

 

「状況は?」

 

高速ヘリでカタルーニャに到着したサーレーは、出迎えたレノに現状の確認を取った。

 

「我らのリーダー、メロディオが、カビを使うスタンド使いを一旦仕留めました。しかし、背景の洗い出しのために周辺の捜査を行っている最中に、帰らない事を想定して作戦を組めと言い残して連絡が途絶えました。今現在は、対象区画のグラシア通り周辺は封鎖中です。」

「了解した。作戦は?」

 

サーレーが、レノに聞き出した。

 

「今現在は、部下を送って対象区画の状況を把握している最中です。カビが未だに猛威を振るっているようでしたら、イングランドのジャック・ショーン氏に緊急の協力を要請する事を想定しています。」

「………アンタも大変だねえ。」

 

ホル・ホースが、タバコを咥えて火を付けた。

事態は、リアルタイムで同時進行して視点が変化する。

 

「ヒイイッッッ!!!」

 

暗い足元を、なにか小動物が駆けて行った。

それを恐れて、彼は悲鳴を上げた。

 

グラシア通りを懐中電灯と共に捜索するスペイン暗殺チーム使い捨ての駒、彼の名前はベルーガ。

少年少女を誘拐して少年兵に仕上げ、テロ組織に売り渡すという外道商売を営んでいた海外の組織の裏のトップである。

彼はメロディオに策略を見破られ、死ぬまでスペイン暗殺チーム所属を言い渡されていた。死んだら足を洗えるって………。

 

………何でこんなことになったのだろうか?彼はただ、金持ちになりたかっただけだ。

まあ言ってしまえば手段があまりにも最悪すぎただけで、目的自体はさほど後ろ指を刺されるものでもない。

 

彼は今現在、人を喰い殺すカビが繁殖しているという情報が入ってきたグラシア通りに、現状の把握と行方の知れない暗殺チームのリーダーの捜索のために向かわされていた。

 

『逃げたり反抗したら、即刻殺しますから。』

 

暗殺チーム、情報収集部のレノという男が、拳銃を片手に殺意を滲ませてニッコリと笑った。

ベルーガはその笑顔に恐怖を感じ、逆らったら間違いなく殺される事を理解していた。

 

「勘弁してくれよぉ。」

 

彼は弱音を吐いて、泣きベソをかいた。

何であんな年増の貧相女のために、こんな危険な場所の捜索を行わねばならないのか?

 

『彼らは、あなた自身の罪によるものよ。』

 

リーダーに思いをはせると同時に、異常な世界に連れていかれて白い手に生命を掴まれる感触を思い出した。

前門の虎に、後門の狼。行くも地獄、引くも地獄。いつどこから生命が脅かされるかわからない。

 

「ああああああああああああ!!!」

 

得体の知れない何者かに襲われる幻覚を見て、ベルーガは恐怖の叫び声を上げた。

事態は、リアルタイムで同時進行して視点が変化する。

 

メロディオの連絡を受けて、レノはグラシア通り周辺に六ヶ所、二重の検問を設けた。

およそ五百メートルの距離を置いて、計十二ヶ所の通行止めを設置したのである。

ここは、その中でもグラシア通りから見て南側の、E地点。

 

「こんな夜中に、一体何があったってんだよ?」

「さあな。上からの緊急通達だ。何やら相当ヤバイ事態らしいが、情報がまるで入ってこない。俺たちゃあ知らない方がいいって事だろ。」

「寝みいよ。明日俺、支部に顔出さないといけないんだぜ。」

「緊急事態だからそれくらい考慮されるだろ。まあ、どうなんだろうな?」

 

アルディエンテの下っ端の構成員が四名、武装して検問を行なっていた。

情報が規制されていて、状況がまるでわからない。上からの通達は、不審人物を絶対に通すな。行き来しようとする人物がいたら、事情を適当に説明して押し留めろとのことだった。

 

「ホラよ。」

「おっ、あんがと。」

 

一人の男が自動販売機からジュースを購入し、配って回った。

その瞬間、暗闇から何者かが彼らにいきなり襲いかかってきた。

 

「うわああッッッ!!!」

「何事だッッッ!!!」

 

ジュースを配り終えた男に赤い気持ちの悪い何かが付着した人間が襲いかかり、男は恐怖で所持する拳銃を発砲した。

 

「何だッッッ!!!貴様ッッッ!!!離れろッッッ!!!」

「撃つな、撃つなッッッ!!!」

 

一人の男が襲いかかってきた人間を力任せに剥がし、拳銃を構えた。

 

「動くなッッッ!!!動いたら、射殺するッッッ!!!」

「おい、これ………。」

 

拳銃を構えた男の袖を別の男が引っ張り、周囲を指差した。

辺りには複数の、得体の知れない赤い何かが付着した人間が彼らを取り囲んでいた。

事態は、リアルタイムで同時進行する。

 

『こちらA地点ッッッ!!!変な赤い奴らが襲ってきましたッッッ!!!交戦中です!!!援護を頼みますッッッ!!!』

『こちらC地点!!!うわああああッッッッ!!!寄るなッッッ!!!』

『こちらG地点!!!同じく交戦中ですッッッ!!!』

 

タイミングをほぼ同じくして、レノの無線にいくつもの救援要請が入ってきた。

どこの連絡も同じで、得体の知れない赤い奴らが襲ってきたとのことだった。

 

「サーレーさん。すみません。状況が変わりました。読みが甘かった。私は、待機人員を呼び出して人員の再配置を行わないといけない。」

 

レノがサーレーに頭を下げた。

 

「聞いていた。ならば俺とコイツは独自に動こう。グラシア通りを捜索している人間のフォローに向かう。」

 

サーレーが親指で、ホル・ホースを指した。

 

「俺っちもかよ。」

「口応えすんな。」

「サーレーさん。グラシア通りの捜索を行っている人物の名前はベルーガ、以前パッショーネとの共同作戦でアルディエンテに吸収された組織の少年です。」

「わかった。」

 

ここはグラシア通り、検問C地点のすぐ近くだ。

 

「C地点のフォローをしてから向かう。」

「助かります。」

 

そしてまたまた視点が変わる。

ここは先の検問E地点。得体の知れない赤い集団の襲撃にあったそこには、なぜか今輝く煌びやかな小型の回転木馬が存在する。

 

「さすがに、痕跡を一切残さずに逃走することは不可能だ。」

 

イアンは笑った。

 

「オリバーさんって臭いくせに、案外役に立つんですねえ。」

 

少年チョコラータが、慌ててパニックに陥っている検問の横を悠々と通過した。

 

「………お前可愛くねえなぁ。赤ん坊の頃は、あんなに可愛かったのに。」

「気持ち悪いのでやめて下さい。」

 

オリバーが両肩にディアボロとドッピオを抱えて、少年チョコラータに文句を言った。

 

彼らの逃走作戦は、シンプルだった。

チョコラータの赤いカビでまだ生きている人間を操り、検問がパニックに陥っている隙にオリバーの記憶を残せないスタンドを行使して逃走する。

 

「それにしても意外と厄介だったなあ、あのスペイン暗殺チームのリーダー。」

「オリバー、お前の情報が足りていなかったから、作戦が片手落ちで終わるんだ。この役立たずが!!」

「………もう少し労ってくれても、いいんでない?」

 

視点は、変わる。

暗殺チームのリーダーの捜索とカビへの人身御供をグラシア通りにて孤独に続けていたベルーガ。

彼の前に、人影があった。

 

「あんた、なんなんだ!」

「………。」

 

人影は、返答をしない。体格的には、居なくなった暗殺チームのリーダー、メロディオと合致する。

ベルーガは恐る恐る、懐中電灯を人影に向けた。

 

「うわああああああああッッッッ!!!」

 

人影は、全身が不気味な赤に染まっていた。

ベルーガは驚いて、懐中電灯を取り落とした。

 

「何があった?」

「ヤローのサポートなんざ、やる気でねえや。」

「アンタらは?」

 

ちょうどその時、彼の元にサーレーとホル・ホースが到着した。

人影が手を動かし、その動きに銃火器だと判断したサーレーは素早く前面に出た。

 

周囲は暗く、相手の動きが見えない。コマ送りを発動しても射線が読めず、サーレーは目を瞑って集中した。

サプレッサー付きの拳銃が火を吹き、集中したクラフト・ワークの周囲に皮一枚で複数の銃弾が浮かんだ。

 

「ナーイス、リーダー。援護するよん。」

 

背後からホル・ホースが銃撃し、人影の足を撃ち抜いた。

しかし人影の動きは、止まらない。

 

「待て!ホル・ホース。生け捕りにする。俺に任せろ!!!」

「了解。」

 

敵に関する情報が少なく、人影は銃火器で攻撃してきた。強力なスタンド使いなら、スタンドで攻撃してくるはずだ。

サーレーは瞬時に判断し、リスクを負って相手を生け捕る選択を採用した。

 

サーレーが人影との距離を詰め、クラフト・ワークが相手を俯せに地面に押し倒した。

筋肉質ではあるものの、骨格と体の線から女性であるということが判別できた。

 

「ホル・ホース。縛るものを渡せ!!!」

「ほいよー。」

 

ホル・ホースは首に巻いたマフラーをサーレーに手渡し、サーレーはそれで人影を後ろ手に縛った。

ベルーガから引っ手繰るように懐中電灯を受け取り、それを人影に当てた。

 

「お前は………。」

「………。」

 

それは赤いカビに寄生されて判別がつきにくいものの、間違いなくスペイン暗殺チームのリーダー、ジェリーナ・メロディオだった。

 

「どするよ、リーダー?」

 

ホル・ホースも、メロディオとは面識がある。

彼女の現状が把握できない今、どう行動するべきかサーレーはしばし考えた。

 

「………ホル・ホース。レノに連絡を入れて、状況を説明しろ。コイツは俺の能力で固定して、ここに置いておく。お前は俺の後を付いて来い。状況をなるべく早く把握するために探索を続ける。」

「りょ。」

「………。」

 

ベルーガは震えながら頷き、ホル・ホースは了解を省略した。

 

「一体何が起こっている?この夜に暗躍するのは、一体何者だ?」

 

ジェリーナ・メロディオは百戦錬磨のスペイン暗殺チームの猛者だ。

彼女を得体の知れない状況に陥れた見えぬ敵に、サーレーは警戒心を一層高めた。

 

◼️◼️◼️

 

「あー。それは処分しちゃっていいよ。私じゃないし。敵能力の研究対象にしてもいいよー。ちょっとくらいなら目を瞑るけど、あんまりエッチ過ぎることはしないでね。やん。」

「するかアホッッッ!!!」

「えー、押し倒したって言ってたじゃん。このエロガッパ。」

「濡れ衣だッッッ!!!」

 

メロディオはニヤニヤ笑い、サーレーは脱力した。

この女はこの危機的状況で、どこまでマイペースなのだろうか?

 

結論から言うと、メロディオは狂気の夜を乗り超えられなかった。

ならばなぜここにいるかと言うと。

 

『一回きりの、私のスタンドの裏技だよん。ホントにどうしようもなくなったときは、精神だけ逃すことが出来るんだ。情報を残すために自分から幽霊になったと考えてちょうだい。』

 

だそうである。

 

「お前その状態は、生きていると言えるのか?」

「時間が来れば、スタンドパワーが切れて消滅する。まあ体が無いし、生きてるかと聞かれると微妙だよね。」

 

サーレーたちはあの後近隣を捜索し、建物の一室で奇妙な白い光を発する箇所を見つけた。

そこはメロディオの展開した世界への入り口であり、サーレーはそこで精神だけとなったメロディオと邂逅した。

 

◼️◼️◼️

 

新たに開示された情報

 

少年チョコラータ

スタンド

グリーン・デイ・ネクスト・ステージ

概要

旧来の低所に向かうことで増殖し、人間を殺傷する緑のカビと、新たな時間経過とともに緩やかに増殖し、脳まで達することで人間を乗っ取る赤いカビを使い分けることができるようになったチョコラータ。赤いカビは空気感染限定で、本体のチョコラータに近付くほどに増殖速度が増す。

 

リュカ・マルカ・ウォルコット

スタンド

ケミカル・ボム・マジック

概要

フランシス・ローウェンの前任のフランス暗殺チームリーダー。以前ローウェンに暗殺された。

炭素、酸素、窒素、水素の四つの原子さえあれば、スタンドの口腔に付随したストローを突き刺してかき混ぜることでどこにでも爆弾を作り出すことが可能なスタンド使い。建物の鉄骨を爆破した際は、建物自体を大きな一つの物体として工場内から元素を掻き集めた。イアンの手術により、オリバー以上に吸血鬼化している。作成できる爆弾は基本は対人地雷および時限式爆弾もしくは点火式爆弾で、作成に手間と時間をかけることでクラスター爆弾や対戦車地雷も作成可能。さすがに、原子爆弾や水素爆弾は作成できない。

 

補足事項1

ローウェンの得意技、落雷は、生成した雲の大きさにより威力が変化する。瞬時に生成した小型の雲では、敵を殺傷するほどの威力を持たせられない。

補足事項2

メロディオの道化の世界は、肉体を持ったままだとスタンドエネルギー消費量が多く長時間の展開が出来ない。肉体を捨てての逃避は、情報を残すための最期の手段である。

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