噛ませ犬のクラフトワーク   作:刺身798円

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もしもいつか赦せる日が来るのならば

「やはり、実戦は必要だな。今回の戦闘で、思いもしなかった弱点が露呈した。」

 

イアンは一軒家の一室で呟いた。家の先住者がどうなったかは、知らない方がいい。

ソファに深く腰掛け、目の前のテーブルにはワインとグラスが置かれている。

 

「弱点?」

 

オリバーが、部屋の片隅で二人の赤子を抱えながらイアンに問い返した。

 

クレイジー・プレー・ルーム・レクイエム。

猿がシェイクスピアの戯曲を書き上げる、狂気の部屋。

その能力はいくつもの特性を持ち、その一つとしてイアンのスタンドのいる部屋の中では起こり得る事象の中で最もイアンに有利な状況が展開される。

 

「私の部屋では、私にとって最も都合の良いことが起こる。しかし、私が知らない事。私の理解できない事。私が不可能だと感じたことは起こり得ない。」

 

イアンの部屋で猿がシェイクスピアの戯曲を書き上げるのは、イアンがシェイクスピアの戯曲を知っているからである。

イアンがシェイクスピアを知らなければ猿は書き上げられないし、書き上げてもイアン自身がそれと気付けない。

今回の戦闘も同様で、メロディオの切り札がどういったものなのかイアンが知らなかったために、イアンはそれに最適な対応ができなかった。メロディオの切り札は、人間に理解不能な能力だった。

 

無敵のスタンドなど、いない。

イアンのスタンドは、未知のものに弱い。しかし、好奇心旺盛なイアンにとって、未知のものは大好物だ。

イアンはメロディオの奇妙な能力を前に、恐怖半分好奇心半分で何が起こるのかと楽しみにしている自身を自覚していた。

 

「ままならないものだな。」

「一体何のことだ?」

「いや、こっちの話だ。」

 

オリバーがイアンに問いかけ、イアンはワインを飲んで返答した。

 

「当分はおおっぴらに動けない。潜伏する必要がある。少なくとも………。」

 

イアンは、オリバーが抱えるディアボロとドッピオの赤ん坊に目をやった。

 

「戦力が揃い、ローウェンに対しての時間稼ぎが可能となるまで。」

「イアン、あなたの目的は一体なんなのですか?なぜ暗殺チームを敵視するのですか?」

 

チョコラータが、先住者(ジョン・ドゥ)のカルパッチョをテーブルに乗せて運んできた。

 

「目的か。君にそれを理解する必要があるとも思えないが。」

「単純な興味です。」

 

チョコラータがカルパッチョを乗せた皿を配膳しながら、イアンに質問した。

 

「………生きて何をするかが生きることの目的だという人間もいるが、生物とはそもそも生きることが目的だ。」

「そうかもしれませんね。」

 

チョコラータはイアンの前に座って頷いた。

 

「例えば君がパスタが食べたくて、レストランに向かったとしよう。しかしいざ到着して、店頭で見た食品サンプルのシーフードピッツァが、パスタよりも美味しそうに見えたとする。」

「よくあることですね。」

 

イアンの説明に、チョコラータが頷いた。

 

「君は予定を変更して、ピッツァを注文した。その過程を楽しむ事こそが、生きる事だと私は考えている。私はただ、私なりに生きる過程を楽しんでいるだけだよ。自分の人生を、素晴らしい劇にしたい。目的は、ただそれだけだ。暗殺チームは、私の人生の劇を彩る役者たちだ。」

「そこから歯止めが効かなくなれば、あなたのように他者を殺害することを躊躇わない悪鬼が生まれるのですね。」

 

チョコラータは訳知り顔で頷き、イアンはその態度が少しイラついた。

 

「君も同類だ。君のその喋り方は、オリバーと同じくらい気持ち悪いな。以前の方がまだマシだった。」

「オリバー………。」

 

チョコラータは部屋の隅で赤ん坊に頬ずりしてあやす気持ち悪いオリバーに目をやり、落ち込んだ。

 

「ところでチョコラータ、君はパッショーネにウィルスを行使するスタンド使いがいるという情報を知らないか?」

 

それはパッショーネに大量虐殺ができるスタンド使いがいるという情報から派生した、不確定極まりない情報である。

以前大人のチョコラータに質問していたが、それよりも若い彼に質問すればまた違った答えが返ってくるかもしれない。

 

「さあ。僕にはわかりません。もしも知っているとしたら………。」

「………やはり奴がカギか。とにかくあと一ヶ月弱は動けないということか。」

 

チョコラータが、部屋の隅の赤子に目をやった。

ディアボロは、パッショーネの前のボスだった。ブチャラティチームのスタンド使いの情報が入っているとしたら、彼らしかいない。

 

クレイジー・プレー・ルーム・レクイエム。

矢のウィルスよりもより強力なウィルスでスタンドがさらなる進化を遂げるとイアンが信じ込めば、その妄想は部屋の中で現実のものとなる。

イアンが脳内に描いた狂気は、現実に形を為す。

 

「とりあえずリュカを復活させる。まあどうせ、ローウェンに勝てるわけはない。今頃アイツは死んでいるだろう。」

「………スタンドの進化とは別に、生物感染の可能性はどうですか?」

「生物感染?」

 

チョコラータが邪悪に微笑み、イアンはチョコラータのアイデアに耳を傾けた。

 

「蚊やネズミを媒介にして、ウィルスをばら撒くんですよ。僕のカビよりも凶暴な性能を発揮して、首謀者も見つかりにくいんじゃあないですか?」

「ナシ寄りのナシだな。」

「えっっ?」

 

全面的に賛同してもらえると考えていたチョコラータは、目を見開いて驚愕した。

 

「このドアホ!お前は私の話を聞いていなかったのか!長く遊べるおもちゃを、自分たちから壊すのは馬鹿がすることだろう!私は楽しむ事が目的なのであって、虐殺自体が目的なのではない。それよりこのカルパッチョは、一体誰が食べるんだ?私に食人嗜好はないぞ?」

「えっっ?」

「………まあディアボロとドッピオの成長のための材料にするか。」

 

人生は、喜劇だ。

人が無様に踊り狂う様が愉しいのであって、ただ殺すだけでは面白くもなんともない。

そしてそこには、自分たちも含まれている。何もかもを捨て去って、笑って狂って踊り果てよう。

 

狂人たちの夜は、しばしの休息を挟む。

 

◼️◼️◼️

 

少し時間を遡る。

 

スイス暗殺チーム失踪の黒幕であるイアンと対峙したメロディオは、最期にとっておいた切り札を行使した。

部屋には抜け殻になったメロディオの体だけが残り、部屋の一部分が白く発光してイアンはそれに対して本能的な危険を感じた。

イアンは一部で伝手を持つメロディオを手術して手駒にしようと目論んでおり、それが失敗した今のこの現状は作戦失敗だと言えた。

 

リュカの存在により、最も警戒するローウェンがヨーロッパの現況に異常を感じ、すぐさま動ける体制に移行する可能性が高い。

さらにさまざまな場所で、今回の事件に対応した動きがあると予想される。何しろスイスとスペインの暗殺チームリーダーが、立て続けに失踪及び死亡する事態である。

 

作戦が失敗したのならば、速やかな逃走あるのみだ。

イアンはチョコラータに命令し、メロディオの抜け殻に赤いカビを寄生させて逃走した。

 

そしてイアンが部屋を去ってしばし後に、近隣を捜索するサーレーとホル・ホースとベルーガが戦闘が行われた部屋へと到着した。

部屋内は荒らされており、一目でそこで戦闘があったとわかる状況だった。

そこでサーレーは白い光を見つけ出し、危機管理の緩いアホサーレーはついついそれに触れてしまった。

そして、前話の最後の部分へと繋がっていく。

 

◼️◼️◼️

 

「まあおじさんのことは嫌いではないけど、いきなり押し倒すのはナシだよ。このどスケベ!」

「………いつまで茶番を続けるんだ?」

 

メロディオが舌を出して、サーレーはなかなか話が進まないことに呆れた。

ここはメロディオのスタンドの世界。そこでメロディオは藍色の宇宙に逆さに浮かび、サーレーとホル・ホースは座り込み、ベルーガはメロディオに怯えてサーレーの背中に隠れた。周囲には、無数の星が瞬いている。

 

「もうちょっと面白いリアクションしてくれよー。笑わせろよー。もう私は、これで最後なんだよ?」

「………そうだったな。」

 

メロディオの像は透けている。

スタンドエネルギーが無くなれば、消滅すると本人が言っていた。

きっと人生最期に、湿っぽくしたくない。笑って去りたいのだろう。

 

「………お前の気持ちを考えずに、済まなかった。次からは、キチンと手順を踏むことにするよ。どうか許してくれ。………俺はお前を、愛しているッッッ!!!」

「敵の情報だけど、わかったことがいくつかある。」

「おい!!!」

 

サーレーがメロディオの茶番に乗っかり、メロディオはいきなり話を変えた。

 

「もー、なんだよー。私の存在できる時間は限られてるんだよ?ふざけないで。部下に最後の引き継ぎも行わないといけないんだし。」

「先にふざけたのは、お前だろうがッッッ!!!」

 

この女は、どうにかできないものか?

 

「まあマジな話をするよ。時間制限があるし。」

「ああ。」

 

サーレーが真面目な顔をして頷き、ホル・ホースは変わらずにメロディオの話に耳を傾けている。

 

「敵に関してまずわかったことは、敵は複数いること。私がこの部屋で会ったのが敵の黒幕だと言っていたけど、確実な情報では無い。そいつは、おかしなスタンド使いだった。そいつと戦っている時、そいつにとって有利なことばかりが起きた。おそらくはそいつのスタンド能力だと思う。」

「例えば?」

「銃弾が突然落ちてきた本に遮られたり、手榴弾が不発に終わったり。でもそれが全てだと思わない方がいい。まだ何か隠し持っている可能性は高い。それはとりあえず流して聞いておいて。私が確認した敵は二人。そいつと、カビ使い。」

「カビ使いがスペインで惨状を引き起こしたのか?」

「うん。私はそのカビ使いを仕留めた。でも奇妙なことに、死体は地面に溶けて消えていった。」

「溶けて?」

 

スペインで起こった事件は、予想よりも危険な予感がする。

サーレーは続きを促した。

 

「そう。溶けて消えた。でもそのすぐ後に、そいつより若いそいつによく似たカビ使いが現れた。そいつにここに案内されて、私は自称黒幕と対峙して敗北した。カビ使いはなんとも言えない奇妙な髪型の、笑顔がもの凄く気持ち悪い男。自称黒幕は白衣を着た黒髪の、神経質そうな見た目の男。まあ服や髪型はすぐ変えられるからあまりアテにしないで。」

「そうだな。」

「そして奇妙なのは、同時期にフランスが襲撃を受けて行動不能だったこと。少し前にスイスの暗殺チームが消息を絶ったこと。一連の事件が繋がっている可能性は高い。ここから先は可能性の話になるけど。」

「話してくれ。」

 

相手は情報部もこなす、スペインの頭脳だ。サーレーは情報の開示を依頼した。

 

「スイスの暗殺チームが消息を絶った時、スイスの地方では誘拐事件が多発していた。私が会った自称黒幕の雰囲気と総合して考えると、敵は高い隠蔽能力を持っているのかもしれない。」

「どういうことだ?」

 

サーレーはメロディオの言葉が理解できずに、解説を頼んだ。

 

「奴らはカビによる大量虐殺に、何ら主張や要求を伴わなかった。そのことも鑑みて、あの男は計画的で短期間の忍耐も出来るけど、時折衝動的に物事を起こしてしまうタイプの人間のように思えた。………人は皆、隣人が自分と似たことを考える人間だという幻想を信じて生きている。社会とは、見えない隣人を信用することによって成り立っている。優しさを信じて、建設的な未来を目指して。奴は、恐らくはそこがぶっ壊れた人間だ。ストッパーも一切存在しないのだろう。そんな人間が、いつまでも何も起こさずに潜伏し続けることができるとは思えない。そこになにかのカラクリがあるように、私は感じた。」

「なるほど。だから事件を覆い隠せる高い隠蔽能力を持っていると。」

「うん。まあほぼ勘だから、あまり信用しすぎないで。ああ、それと敵が一人名乗っていた。自己申告だから偽名の可能性もあるけど。チョコラータと。」

「わかった。」

「敵が見つからない状況では後手を踏まざるを得ないけど、人間が失踪したらそれは奴の兆候である可能性が高い。どんな能力を持っているかわからない、危険な相手。油断しないで。」

「ああ。」

「危険な相手という前の発言を翻すようだけど、二人共近接戦闘に強い感じはしなかった。そこが突破口になるかもしれない。私から伝えられるのはそれが全て。あとは引き継ぎを行いたいから、レノを呼んできてくれないかな?」

 

ここでの情報はこれが全てだ。サーレーとベルーガは部屋の外に出た。

外の検問での赤い人間との戦闘がどうなったのかも、確認しないといけない。

 

「アンタは笑っていた方が、綺麗だぜ。」

 

後ろを向いたメロディオの震える肩を、ホル・ホースが優しく叩いた。

メロディオが振り返り、ホル・ホースはその瞳の底に神秘的な底知れない何かを見たような感覚を覚えた。

 

「………切り札は、一枚だけ。多分あなたが適任。一度だけ、おじさんの銃弾はルールを書き換えることができる。スタンドエネルギーがもうほとんど残っていない。これが私が残せる、最後のプレゼント。」

 

◼️◼️◼️

 

「わかりました。案内をお願いします。」

 

赤いカビを使用する本体のチョコラータがグラシア通り周辺から去った後、赤いカビに操られた人間たちは動かなくなった。カビは脳を侵食していて、動かなくなった人間は全員死亡していた。

 

「ああ。コッチだ。」

 

サーレーはスペイン暗殺チームの副リーダーであるレノに連絡を取り、来て欲しい場所があると告げた。

合流したレノはサーレーのその様子に何かを悟り、覚悟した表情で案内を頼んだ。

さほど時間がかからずに、彼らは元いた場所に到着した。

 

「ヤッホー。」

「………やはりそうなっていましたか。」

 

レノはメロディオの腹心の配下であり、メロディオの最期の裏技についても知らされていた。

 

「………困りましたね。」

「………だよね。ゴメン。」

「いえ、仕方ありません。」

 

サーレーは体が透けているメロディオを見ながら、どこかで見たような既視感に襲われていた。

どこかで、透けた人間を見たことがある気がする。でも思い出せない。喉まで出かかってはいる。

 

「何が困ったんだい?」

「………スペイン暗殺チームは、メロディオの作戦立案能力と分析能力で保っていたのです。今まで、なかなか個の力を持つ強力な戦士が台頭しなかった。故に彼女の作戦立案能力を頼りに、群の力で対抗してきました。彼女が欠ければ、戦力の低下が免れない。」

 

ホル・ホースの質問に、レノが難しい顔をして答えた。

 

もう少しだ。もう少しというところまで来ている。絶対に、どこかで見た覚えがある。

サーレーの脳はかつて無いほどに高速で回転した。

 

「いつかこうなる可能性は常に想定していましたが、時期が悪すぎる。ヨーロッパに異常が起きている現状、手を結んでそれに対応するべきではありますが、スペインには現場にすぐに駆け付けられる強力な兵士が少ないのです。対処が遅れるほどに、被害は拡大する。」

「ポルナレフさんだッッッ!!!」

「ポルナレフッッッ!??」

「もー、何なのさ。いきなり叫んで。こっちは真面目な話をしているんだよ?」

 

サーレーが唐突に人名を叫び、仇敵の名前にホル・ホースが反応して思わず拳銃(スタンド)を手に出現させて臨戦態勢をとった。

メロディオはそんな彼らを、白い目で見ている。

 

「パッショーネには、亀の中に住む幽霊のポルナレフさんがいる。その人と同じやり方をすれば、お前も幽霊としてまだ残れるんじゃないか?」

「んー?」

「おい、リーダー。そいつはまさか、ジャン・ピエール・ポルナレフとかいう名前じゃあないだろうな?」

 

メロディオは何の話か頭に疑問符を浮かべ、ホル・ホースはまさかのまさかに恐る恐る聞いた。

 

「………どうだったかな?まあとりあえず、未知の敵と戦うのならコイツは参謀として残しておいて損は無い。」

「私は安く無いぜ。そだねー。パッショーネが私と釣り合う兵士をスペインに融通してくれるんなら、考えてやってもいいんだぜ。」

 

なんだかわからないが、これはチャンスだ。

メロディオはここぞとばかりに、交渉を持ち掛けた。

左手を頭部に置き、右手を前に突き出している。何なんだ、その無駄にカッコつけたアホっぽいポーズは!?

 

「おい、どうするんだ?」

「………人員の譲渡は出来ない。しかし一定期間の貸与であれば、本人の意思次第になるが、恐らくは可能だ。」

「パッショーネは、ヨーロッパの盟主様だからね。下々の者が困っていたら、便宜を図るのは当然だよ。」

 

してやったりとばかりに、メロディオは嬉しそうな表情をした。

 

「上の確認が取れていない。本人の意思確認もまだだ。」

「そっか。そっちの暗殺チームは、サーレーさんにそこまで権限を持たせて無いのかー。」

「ホル・ホース。至急イタリアに帰還する。俺がボスに報告するから、お前が暗殺チームに説明しろ。許可が出たらウェザーと亀を連れて、またこっちに飛べ。」

「亀?」

 

ポルナレフの現状と亀を知らないホル・ホースは、首を傾げた。

 

「そのウェザーさんって人が、スペインに来てくれるの?」

「本人が首を縦に振ればな。かなり強くて、賢くて、頼りになる人間だ。絶対に死なせるなよ。」

「可能な限り、善処します。」

 

レノが頷き、サーレーとホル・ホースは大至急イタリアにとんぼ返りした。

メロディオが存在していられるのには、時間制限がある。

 

「ところでベルーガ。忘れられていると思ってるかもしれないけど、レノの言うことを破ったら、殺すから。」

 

レノが頷き、部屋の隅でこっそり息を殺していた少年の背中がビクッと動いた。

 

◼️◼️◼️

 

「そのことに関しては、リーダーである君に一任している。僕の承認は必要無い。しかし、確かにポルナレフさんの承諾は必要だ。それがヨーロッパの平穏に必要なことなのであれば、共に説明に向かおう。」

 

スペインからイタリアに至急トンボ帰りしたサーレーは、ミラノでホル・ホースと別れてそのままジョルノのいるネアポリスの図書館へとジェット機で向かった。暗殺チームの人員の異動と、ポルナレフの住む亀を借り受けるためである。ホル・ホースは、暗殺チームとミスタへの現状報告へと向かった。

時間帯は夜明け前であったが、カタルーニャ襲撃事件が緊急要項であったためにジョルノも事態の推移を見守るために起きていた。

 

「ええ。」

「しかし、ことが想定よりも危険な予感がする。チョコラータ………。」

 

図書館内を先導しながら、ジョルノは思考の海に沈んだ。

サーレーの報告の中でジョルノが最も気になったのは、もちろんチョコラータという名前である。ジョルノは、同じ名前をした外道の中の外道を知っている。しかしもしもあのチョコラータがただのコマに過ぎず、彼よりもさらに邪悪な存在がいるのだとしたら………。

 

「ジョジョ?」

「イタリアの警戒体制を、しばし強化しよう。恐らくは、ミスタも同意するはずだ。君が僕に報告を上げたチョコラータという男が、もしも僕の知っているチョコラータと同じ人物であれば、非常に危険だ。チョコラータは僕が知っている中で、邪悪さに於いても危険度に於いても、最も警戒するべき対象だ。」

「………そんなに。」

「奴は、確かに死んだはずだ。だがカビ使いという符号と名前、そして行動の凶悪さが一致している。そのことを合わせて考えても、ヨーロッパに異常な事態が起こっている可能性が高い。」

 

ジョルノが眉間にしわを寄せてサーレーに告げ、サーレーはジョルノの表情から現状の危険性を理解した。

 

「ポルナレフさん。こんな時間に申し訳ありませんが、緊急の用件があってそちらを伺います。」

 

ジョルノが、亀の外から内部に住むポルナレフに声をかけた。

続けてジョルノとサーレーは、亀の内部へと入室した。

 

「どうしたんだ、ジョルノ?難しい顔をして。」

 

ポルナレフが、気さくに笑ってジョルノに話しかけた。

 

「さほど時間が無いようですので、単刀直入に用件を伝えます。どうかあなたの部屋に、同居人が住むことを認めて欲しい。」

「同居人?」

 

ジョルノの真剣な表情に、ただことではないことをポルナレフは察した。

 

「簡単な説明を、彼が。」

「ヨーロッパに危機が迫っている可能性があります。そして俺の友人が今現在あなたと同じ状況に陥っていて、そいつをパッショーネの参謀として迎え入れたい。」

 

サーレーがポルナレフに向かって、真正面から説得にかかった。

 

「いいよ。」

「だからどうか………?」

「だからいいって。」

「軽っっ!!!」

 

ポルナレフは簡単に頷いた。

ポルナレフは、果てしなくお人好しなのである。

 

「そいつ、困ってんだろ?そんでこんなになった俺にも、そいつを助けることが出来る。騎士冥利につきるじゃねえか。俺はこんな体になっても、心だけは騎士のつもりだぜ?」

 

ポルナレフは、楽しそうにニヤリと笑った。

 

「ありがとうございますッッッ!!!つきましては、暗殺チーム所属のホル・ホースという男に………。」

「ホル・ホース?それってまさか、拳銃使いの?」

「お知り合いなのですか?」

 

サーレーのみならず、ジョルノも驚いた。

 

「そっかー。アイツは今はジョルノの部下なのか。まあ狡いし、しょうもないところもある男だが、上手く扱えば非常に有能な働きをする男だしな。」

 

ポルナレフはうなずいた。

 

「大丈夫でしょうか?」

「まあアイツが裏切らないんなら、いいんじゃないか?俺はその辺はジョルノを信用してるし、そもそもこんな状態で信用する以外に何もできないしなぁ。」

「それでは、ぜひお願いいたします。」

 

ポルナレフに話を通して、サーレーは続けてホル・ホースに連絡を取った。

 

◼️◼️◼️

 

「うげえッッッ!!!マジで、ポルナレフッッッ!!!」

「久々だな。」

 

ホル・ホースが慌てて拳銃(スタンド)を発動し、サーレーがホル・ホースの背後で殺気を露わにし、ポルナレフが苦笑いした。

 

「あ、待て待てッッッ!!!叛逆とかじゃあ、ないッッッ!!反射だ!反射で、つい。」

「ならば、武器から即刻手を離せ。その方は、ジョジョのご友人の方だ。もしも危害を加えるようであれば………。」

「まあ待ちなよ。俺とホル・ホースは昔はそういった関係だったってだけだ。そいつは今はお前の部下なんだろう?」

 

サーレーとホル・ホースの間の緊張感を、ポルナレフが取り持った。

 

「………次はないぞ。ところでウェザー、お前は構わないのか?」

 

ホル・ホースをドスの効いた声で脅して、サーレーはホル・ホースの背後にいるウェザーに疑問を投げかけた。

 

「俺は今は、イタリア暗殺チームの一員だ。それでイタリアとパッショーネの役に立てるのならば、別に構わない。」

 

メロディオとサーレーの間で交わした契約は、ヨーロッパが落ち着くまでパッショーネが信頼できる人材をスペインに貸与するという条件だった。代わりに、メロディオの幽霊が、参謀役としてパッショーネに推参する。

パッショーネ側は、信頼できる人材としてウェザー・リポートをスペインに貸与する。

 

「………お前には、苦労をかけるな。」

「………俺が好きでやっていることだ。お前が気に病む必要はない。」

 

サーレーが労った。

ウェザーは、貧乏くじを引いている。

 

実はパッショーネとウェザー・リポートの間には、密約が存在する。

 

ナルシソ・アナスイは、過去に人間を二人バラバラにして殺害している。

その罪状を鑑みれば、彼は本来ならばたとえ半身不随だろうと簡単に暗殺チームを抜けることは赦されない。

 

足を洗うには、犯した罪と社会への影響が重すぎるのだ。

暗殺チームの人材は使い捨てだ。死ぬとわかってても、任期が済むまで抜けられない。

彼は長期間の社会奉仕によって、再び社会に愛される権利を獲得するはずだった。

 

しかし、アナスイは現に暗殺チームから足を洗い、結婚までしている。そこに一体何があったのか?

そこには密かに、記憶の戻ったウェザーと暗殺チーム監督官のミスタ、そして暗殺チームの三者間で交わした約定が存在した。

 

『未来を築こうと努力する友人の助けになりたい。俺は罪人だ。俺を使ってくれ。』

 

パッショーネ側としても、半身不随の人間を無理に使うよりも能力のある人間をより長く使った方がいい。

その方が、ウェザー以外の誰にとっても得になる。アナスイは生き延び、危険な任務をこなす暗殺チームは戦力的に助かる。

 

損をするのはウェザーだけで、そのウェザー本人たっての希望だ。

さらにそのウェザーが損しているということに関してさえも、実際は微妙である。

社会の一員として社会の役に立てているという自覚が、時に人の救いになることがあるし、時に成長の糧となる。

 

ルールは、人のためにある。逆説的に言えば、人のためにならないルールに存在意義はない。

それが彼らのためになるのなら、こっそりルールを曲げようか?

 

結果としてウェザーの暗殺チーム所属任期は伸びて、アナスイはウェザーに頭が上がらない。

 

◼️◼️◼️

 

「そうか。お前はしばらくスペインに異動するのか。」

 

車椅子に座ったアナスイが、ウェザーに話しかけた。

 

「しばらくは会えないな。こんな早い時間なのにわざわざ見送りに来てくれてありがとう。」

「サーレーがわざわざ気を利かせて俺に連絡を入れてくれたんだ。長い腐れ縁だしな。お前には返せていない借りもある。」

 

トランクを引いたウェザーが、空港の窓から空を見上げた。すでに明け方になっている。

パッショーネとウェザーの密約はアナスイにも秘密のはずなのだが、アナスイは何があったのか察していた。

 

「………ヨーロッパに不穏な気配が漂っている。気を付けろ。」

 

ウェザーがアナスイに忠告した。

 

「ああ。」

「おーい、まだかい?」

 

パッショーネのプライベートジェットを待たせている。

亀を抱えたホル・ホースがウェザーを呼んだ。

 

「また会おう。」

 

ウェザーはアナスイに向けて手を振った。

 

「………いつも済まない。」

「俺が好きでやっていることだ。」

 

良き未来を築きたいという願い。

アナスイのその願いは、ウェザーにとっての希望でもある。希望があるから、彼は前へと進んでいける。

 

ウェザーは笑って、スペインへと旅立った。

 

◼️◼️◼️

 

補足事項

 

ウェザー・リポートがアメリカで犯した罪は、復讐殺人。しかしそれはスタンドによるものであり、本来は立証されていない。パッショーネ側は、ウェザーがどういった理由で刑務所にいたのか詳細を把握していない。アメリカの刑務所側もそれを理解していないのだからそれは当然である。それらは、エンリコ・プッチによる刑務所側の人間とウェザー・リポートの記憶改竄行為による弊害の一つである。

 

ウェザーが己の罪に悩んだ末に出した結論は、最も長い期間を共に過ごしたアナスイのためにありたいというものだった。ウェザーはアナスイの罪を被り、自分で自分が赦せる日が来るまで暗殺チームに所属する。

 

そんな日が来るのかはわからないが、もしもいつか任期が終わる日が来れば、自分が赦せる日が来るのならば………ウェザーは失った空白の期間を埋めるために、やりたいことを探しに大学に通いたいと考えている。そのために現在、暗殺チームの給与を貯蓄している。すでにサーレーよりもお金持ち。

 

ナルシソ・アナスイに関しては、実はパッショーネの外交部から異動になり、今現在は情報部に所属している。しかしとある理由により、その存在は明かされていない。

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