噛ませ犬のクラフトワーク   作:刺身798円

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黄泉帰る悪鬼

チョコラータが、帰還しない。

イアンは手術室の冷蔵庫の前で、首を傾げた。仕方がないから代わりとなる人材を補填した。

 

「ディアボロとヴィネガー・ドッピオってのは蘇らせなくて構わねえのか?」

「それ誰だっけ?」

「あのローウェンを襲わせた奴らだよ。」

「ああ。」

 

ここは外から光が差し込む、どこかの家のリビングの一室だ。

イアンはソファーに腰掛け、周囲には複数の人間が立っている。

リュカ・マルカ・ウォルコットがイアンに質問し、イアンは気怠げに手を振って応えた。

 

「それにしても………。」

 

イアンは、視線でリュカの言いたいことを理解した。リュカは憎々しげに睨んでいる。

リュカの視線の先、青い瞳、肩まで伸びた白みが強いプラチナブロンドの髪を後ろに綺麗に撫でつけ、白いワンピースを着た上品で美しい女性。

体は綺麗に均整が保たれ、シミのない肌、清潔感のある服装、切れ長で知性を感じさせる眼差し、まるで有名ブランド店のモデルのようだ。

しかし、部屋の中にいる人間の彼女を見る眼差しは非常に冷ややかだった。

 

「………。」

 

彼女は、オリバーの手にした紙袋を引ったくった。

中身を検める。彼女が愛用していたパッショーネ産よりも、品質が下がる物品。

 

「………おい、イアン。これは一体どういうことだ?」

 

彼女はわがままな美食家だ。満足できないだろうことは、予想できていた。

 

「仕方ないだろう?パッショーネの麻薬部門は、ヨーロッパから撤退したんだよ。」

 

彼女の名は、ベロニカ・ヨーグマン。

かつてイアンの所属していた臓器密売組織のボスであり、リュカとも協力関係にあった。

彼女は重度の麻薬中毒者であり、パッショーネの熱烈なファンでもあった。ただし、あくまでも麻薬部門限定の。

彼女にとって、パッショーネの麻薬部門を無くすなど狂気の沙汰。ここにディアボロがいたら、敗北をなじり殺しにかかっていたことだろう。出来るかどうかは別にして。

 

「お前、私をナメてんのか?」

 

ベロニカの背後に、不気味なスタンドが現れた。

灰がかった黒の体色、不定形の二メートルくらいの巨体、体の上部に付属した口からは黒い不気味な生物が溢れ出し、眼球はピントの合わない明後日の位置に二箇所付いている。口から溢れ出る不気味な生物は、数を増して床を覆っていく。リュカとオリバーは、慌てて壁際に退避した。

 

「君は相変わらずオツムがお粗末だな。ナメてるに決まっているだろう?君は死者で、私が創り出した贋作に過ぎない。時代は変わる。いつまでも自分が頂点にいると考えるのは、実に恥ずべきことだ。」

 

彼女はかつてスイスで臓器密売を主力とする組織を運営し、スイス暗殺チームのリーダー、ヨルゲン・ルーベルクに暗殺された。

裏組織に連携されて情報を丸裸にされ、弱点を攻め立てられた結果だった。強力なスタンド使いであるにも関わらず、驕ったのだ。

彼女がヤクで気持ちよくトリップしている間に強襲、暗殺されたのである。

 

「………殺してやるよ。」

 

スタンドの口から無数に溢れる生物が床を埋め尽くし、イアンに殺到した。

それは小型の黒い蟹、海老、蛸などの海棲の甲殻類であり、その体液や吐き出す泡は王水という濃塩酸と濃硝酸を三対一で混ぜた金やプラチナさえ溶かす強酸である。

 

彼女はスタンド使いの中でも変わり種、悪魔の手のひらでスタンドを身に付けた人間である。

その悪魔の手のひらに生息していたウィルスは、環境条件によって他のスタンド発現ウィルスと若干異なる進化を遂げていた。

それに適応した結果、彼女は普通の人間とは主食を異にしていた。常人が摂取することは不可能な強酸や、害を為す薬物毒物も、彼女にとっては栄養源だ。パッショーネの薬物は、彼女にとって至上の美食なのである。

 

「おいイアン、俺たちの迷惑も考えろよ。」

 

オリバーが部屋の隅に縮こまって嫌な表情をした。

彼女はイアンが隠し持っていた、二枚の札のうちの一つ。

イアンの能力は進化したことにより、生み出した人間の成長のためのインターバルを必要としなくなっていた。

 

スタンド使いとしてはそこそこ強力であるが、他人の言うことに耳を貸さない傲慢、唯我独尊な性格をしていた。

大人しく従うわけもなく、こうなることは目に見えていたはずだった。

 

「相変わらず耳に逆らう女だ。お前の天下は十年以上も前に終わったんだよ、クソザコババア。」

 

イアンの背後に立った執刀医が中指を上に突き立てるとともに、不気味な甲殻類は床に溶けて消えていく。

被造物は造物主に逆らうことができない。もしもそれが可能だとしたら、それはこれから先に展開される煉獄を生き抜いた最後の一人だけだ。

 

まあ彼女には不可能だろう。それなりに実力はあるが、そこまでの役者ではない。

その程度では、イアンが興醒めする。だからありえない。せめても(・)う(・)一(・)人(・)の方であれば、本命とは言わずとも対抗ぐらいの可能性はあるのかもしれないが。いや、ないかなぁ。

イアンは鼻で笑った。

 

「テメエッッッ!!!」

「君に許される選択肢は、二つに一つだ。この場で私に逆らって死ぬか、私の言うことを聞いて永らえるか。私の言うことを聞けば、君には私の支配下から逃れるチャンスが与えられる。」

 

ベロニカは、顔を真っ赤にした。屈辱なのだ。

イアンはもとは彼女の配下であり、傲慢な彼女にはかつての部下にアゴで使われる現状が我慢ならない。

 

「言うこと聞かねえなら殺せよ、イアン。こうなるのはわかりきっていただろう?」

 

リュカがスタンドを発現させた。

言うことを聞かないならば、その女は俺が消すという意思表示だった。

 

「まあ落ち着きたまえよ、リュカ。もしかしたら彼女は、悔い改めるかもしれない。ラストチャンスだ。」

「チッ。」

 

イアンがふざけて十字を切り、ベロニカが嫌いなリュカは舌打ちをした。

 

「………チャンスとはなんの話だ?」

「君は私の能力によりこの世に喚び戻された。君たちが一定期間私を守りきれば、この世に煉獄が顕現する。」

「煉獄………?」

 

ベロニカは不愉快な表情をしながらも、イアンに先を促した。

 

「私のスタンド能力だ。それが発動した世界では、世界中が殺し合い生き残ったたった一人が特別な何者かへと進化する。君がその一人になれるのであれば、君は自由だ。実力さえあれば、私の支配下から逃れられる。私を殺すことも可能だろう。」

 

悪魔は、笑った。

ベロニカの自尊心をくすぐり、その傲慢さを利用する。

 

「自信がないのかい?」

「………。」

 

不愉快極まりないが、従う他に選択肢が無い。

イアンに利用されたとしても、いつか復讐できるという希望は甘美だった。

しかし、残念ながら煉獄で彼女が生き残る可能性は存在しない。イアンがそう確信しているから。

 

「じゃあ話を戻すぞ。」

 

もともと、彼女を蘇らせたのは予定外だった。彼女はチョコラータの代用品だ。

チョコラータが蘇らないのだ。チョコラータが生きていれば、彼女よりチョコラータの方が彼らにとっていくらかマシなはずだった。

その空いた戦力を補填するために、イアンはベロニカを煉獄より喚び出したのだ。

ちなみにどうでもいいが、彼女の材料は魂の元と十人分の人間、それと王水である。それを遠心分離機にかけてレンジでチンして冷蔵庫で固める。狂人(イアン)式三分クッキング。

 

「チョコラータが喚び戻せないわけは?」

「私のスタンドとて、完全無欠では無い。例えばクレイジー・プレー・ルームで、生まれる過程で敗北して誰かの原材料になってしまった魂は、この世に喚び戻せない。それと同様に、パッショーネになんらかの天敵と言えるスタンド使いが存在している可能性が高い。」

 

それは、破格と言える性能を誇るイアンのスタンドの制約の一つだった。

具体例を挙げれば、煉獄でチョコラータに敗北してチョコラータの原材料になってしまったセッコは、この世に絶対に喚び戻せない。

 

「………マジか。」

 

オリバーの質問にイアンが返答し、イアンを頼みにするリュカは難しい表情をした。

一方のイアンは、これも劇を盛り立てる演出であると上機嫌だ。ルールがあるから、ゲームは楽しいのだ。

劇におけるチョコラータの役割は、もう終わったのである。

 

「その可能性は極めて高い。私の望む劇なのだから。」

「………。」

 

ベロニカはイアンに呪いを込めた視線を向けた。

図々しいイアンに呪いなど効かない。

 

「ローウェンはどうなった?」

「川に落ちた。爆風に巻き込んで仕留め切れると思ったが、しぶとく逃げやがった。生きてるかどうかは半々といったところだろう。」

「あのローウェンが?」

 

オリバーがリュカに経過を聞き出し、予想外の返答にオリバーはリュカに確認をとった。

 

「ああ。ディアボロとヴィネガー・ドッピオが予想よりも削りやがった。千載一遇のチャンスだったから、橋ごと爆破した。爆風の直撃だけは避けて川に逃げたが、仮に生きてたとしても瀕死だろう。セーヌ川に浮かぶ名無しの死体になってくれればラクなんだがな。」

「………そうか。ローウェンも役者ではなかったということか。残念だ。」

 

リュカがローウェンと戦闘したのは、およそ十日前。

生きてたとしても手酷い傷を負っているのであれば、この短期間で戦闘に復帰することは不可能だ。裏社会でその名を轟かすローウェンでさえも、役者不足で脱落したということだろう。

 

「おいイアン、それは甘く見過ぎだぜ?憎い敵だ。俺だって殺れるんなら、俺の手で確実に殺りたかった。だがローウェンは殺れる時にキッチリ殺っとかねえと、簡単に負けるぜ?」

「………いずれにしても、役者として舞台を務めることはないということかな?」

 

ヨーロッパにその名を馳せる猛者を楽しみにしていたのだが。

イアンは期待していた舞台が一幕潰えた可能性に、寂寥感を覚えていた。

 

「んで、ディアボロとドッピオはどこやったんだ?」

 

オリバーがイアンに、ずっと疑問に感じていたことを伝えた。

 

「彼らは今現在、煉獄にいるよ。」

 

生まれるのは強者のみ。弱者はすべからく、強者の材料となりて煉獄の狭間に消える。

強者が這い上がる煉獄で、これまででも最悪の個体が生まれようとしていた。

 

◼️◼️◼️

 

赤茶けた大地、乾いた風、血と臓物の匂いが染み付いた世界。

地面から湧き出る人影を眺めながら、現状の把握に努める。

 

「………フン。」

 

彼は赤黒く変色した空を見上げて、美麗な眉を歪めて鼻を鳴らした。

目の端、空の彼方では巨大な執刀医が薄気味悪く笑っている。不細工な世界だ。

 

自分がどうしてここにいるのかは、うっすらと予想している。欲に眩んだどこかのマヌケが、きっとおかしなことをしでかしたのだろう。

血煙を上げる砂塵、呪われた紛い物の命、祝福された真っ当な生命とは違う不正規な裏街道で、彼らはこの世に再び生を受ける。

 

「一体何を目的に………?」

 

自分が何者なのかは、どんな影響を及ぼす存在なのかは、理解している。

恐らくは身の丈に合わぬ欲望に精神を焦がした愚者が、彼をここに喚び出したのだろう。

そうでなければ、常人は彼を喚び戻そうなどと狂ったことは考えない。

 

「どうでもいいことか。」

 

時間軸は、現在だけが存在するわけではない。

現在、過去、未来のその全てを支配して、初めて時間軸の、否、世界の支配者であると言えるだろう。

 

天国の裏側には、別の天国が存在する。

オーバーヘブンの裏側には、アナザーヘブンが存在する。

 

彼はイアン・ベルモットの最後の札。肉の芽より帰り出でし最強の悪鬼。

それに加えていつものイアン・ベルモットの直感、ディアボロとヴィネガー・ドッピオを彼の素材に使えば、彼はさらなる高みに登るのではなかろうか?より劇的な展開が望めるのではなかろうか?

 

具材はディアボロとヴィネガー・ドッピオの素、肉の芽、複数人の生贄、隠し味にパープル・ヘイズ・ウィルスを少々。何が出来るか狂人の直感任せの、クレイジークッキング。

クレイジー・パーガトリィ、イアン・ベルモットの妄想は、手術室で現実のものとなる。

 

「ボスッッッ!!!こっちは任せてくださいッッッ!!!」

「クソッッッ、ドッピオ、そっちは任せたッッッ!!!」

 

二人の人間が、鉄錆のように赤茶けた大地を犬のように元気に駆けずり回っている。

彼らをどこかで見た覚えがあっただろうか?まあどうでもいいことだと、彼は自身を納得させた。

 

「目的は一つ。」

 

大切なことは、たった一つだけ。それさえ叶うのならば、あとは些末事。

それが叶うのであれば、この凶劇を演じようとする愚者に付き合っても構わない。

彼はうっすらと笑い、人間の愚かさに感謝した。

 

もしももう一度帰れるのなら、時が戻るのならば、彼はひたすら再戦を望む。

敗北し、砂を噛み、世界の王となるはずであった彼を蹴落とした憎き一族への再戦の機会を。

奴ら一族の血によってのみ、苦痛の表情でのみ、苦悶の感情でのみ、彼の敗北の痛みは禊がれる。

 

勝者とは、最後に生きていた者である。

ゆえに彼は、本来絶対的に敗者であったはず。しかし彼は、なんの手違いなのか勝者に返り咲く機会を与えてもらった。

ここで勝利さえすれば、最後に生きているのは奴らではなく彼になる。勝敗がひっくり返る。

 

愚かさに感謝を、狂気に賞賛を、奇跡に滂沱を、愛を以って現世に帰還しよう。

私を生き返らせてくれるあなたに捧げる供物は、花束ではなく首塚。

無骨な私をどうか許してください。私の誠意は力でしか示せないのだから。

 

感情が爆発し、生と死の狭間の世界で彼は狂気と狂喜の雄叫びを上げた。

 

「ジョースタァァァァァーーーーーーーッッッ!!」

 

彼の叫びとともに世界は灰色一色に染まる。

強者のみが這い上がれる煉獄で、時間が止まった。

 

◼️◼️◼️

 

全くもって、思考回路が理解出来ない。

 

「はい、わかりました。ええ、ええ、なるほど。」

 

サーレーは、車の中で携帯電話の通話を終えた。通話先はグイード・ミスタ。

横では相棒のマリオ・ズッケェロが運転をしている。

 

パッショーネ主導でイアン・ベルモットの国際指名手配をかけたところ、パッショーネ情報部に山ほど目撃情報が入ってきた。

なんのために隠蔽工作特化のスタンド使いを保有しているのか?あれだけの犯罪を主導した首謀者は、隠れる気が全くないらしい。

これほど不気味で思考が読めない敵がいるとは、とても信じられない。自分たちが追われていることを理解していないはずはないのだが?

 

『しかもご丁寧に、人気のない国境ときたもんだ。場所を選べれば火器を使用し放題だし、いざとなったら金を積んで軍事兵器の動員も視野に入れている。とは言えもみ消すのにはアホみたいに金がかかるし、事後承諾の使用許可ですら出すのに時間がかかる。お前らが成果を上げてくれるのが一番手っ取り早い。』

 

パッショーネの暗殺計画は、ミスタ率いる陽動部隊が正面戦闘を仕掛け、マリオ・ズッケェロを擁する暗殺チームが別働隊として奇襲、暗殺を完遂させる。それが大雑把な枠組みで、細部はミスタとサーレーがそれぞれ現地で臨機応変に指示を出す。

詳細な作戦計画書は、詳細な情報が入手できて初めて立案できる。敵の詳細な情報が入手できていない現在、雑な作戦で臨機応変に動くのがベストであるとミスタは判断している。

 

手段の一つとして誘導ミサイルを筆頭とした軍事兵器で敵を拠点ごと潰す作戦は安全性は高いが、国内が不穏な空気を抱えている現在、軍事兵器を発動する作戦は相当な無茶をしないと通らない。秘密裏にそれらを使用する場合でも、国内外を問わず最低限の根回しは必要だ。さらに少数という敵勢力の身軽さを考えれば、それらを使用しての殲滅作戦は、作戦立案および作戦遂行に時間がかかるわりに成功率が高いとは言えない。

 

国内情勢が不安定な現在、軍事兵器を使用することを納得させるためには恐ろしく時間と手間がかかってしまうのである。挙げ句に発射先は国内、これはもうほぼ不可能と判断していいだろう。ただしミスタは、敵の攻撃による被害状況次第では、無理をしてでもその行為に及ぶ可能性を視野に入れている。カタルーニャとミラノでの大量虐殺は、ミスタにそれだけの危機感を抱かせていた。

 

「いくらなんでも軍事兵器は無茶では?」

『そんなヌルいこと言ってらんねえんだよ。パッショーネの存亡どころか、最悪の場合はヨーロッパ全体の危機まで俺たちは想定している。いざという時はパッショーネを潰してでも、表社会を守るためにやらねえといけねえ。だからこそお前たちの仕事にかかってるんだ。重責を押し付けていることは重々承知だ。言っただろう?作戦を成功させりゃあ、いくらでも贅沢させてやるって。俺たちはブラックだが、誠意の無い嘘はつかねえ。』

「………。」

 

敵は現状、イタリアを北上してフランスとの国境に向かって移動している。

すでにフランスの裏社会には通達して、連携を打診している。

 

『下手に連携を取りすぎると、万が一作戦が敵に筒抜けた時に戦況が悪くなる。通話はここまでだ。俺たちはフランスと連携して動く。お前らはお前が判断して動け。最優先目標はイアン・ベルモットの暗殺。以上だ。』

 

ミスタの告げた指示。

最優先目標はイアン・ベルモットの暗殺、その意味は作戦に動員される人員の生死よりも暗殺を優先しろということである。

カタルーニャとミラノで大量に死者を出した主原因であるチョコラータ自体は処分したが、チョコラータを裏で操っていたイアン・ベルモットはそれ以上に危険な敵である可能性が高い。

 

そしてミスタは与り知らぬことであるが、ミスタにはイアンがチョコラータを再び蘇らせるのではないかという懸念もある。

実際はサーレーの能力で処分したために、チョコラータが現世に還ってくることはもうないのだが。

 

サーレーは携帯を耳から遠ざけ、携帯に情報部から送付された報告に目を通した。

 

◼️◼️◼️

 

建物が、爆発した。

砂塵が舞い、機器は故障し、警報が鳴り響き、運の悪い人間の肉片が飛び散った。

振動が地面を伝い、建物内はパニックを起こし情報が錯綜していた。仕方がない。

ここは特殊な建物で、ここを襲撃するということは非常に大きな意味があるのだから。

それでも彼らは訓練された人間であり、早期に持ち直して不審者を撃退しようとした。

 

「一体、何が………!!!クソっ!!!撃て、撃てぇぇぇーーーーーッッッ!!!」

「うわあああああああッッッッッッ!!!」

「ボム!ボム!ヘイ、ヤーハー!!!」

 

フランスとイタリアの国境沿い、人気の少ないフランス僻地の広大な敷地に、軍事基地が存在した。

今現在軍事基地は何者かに襲撃を受けており、基地に駐屯する軍人たちは自分たちが居座る場所の意味を理解して死に物狂いで不審者と交戦している。不審者に軍事物資と拠点を奪われてしまえば、フランスに国難が訪れる可能性がある。

 

「強者が残り、弱者は消え去る。さあ君たちも自分の存在意義をかけて、抗うといい。」

「馴れ馴れしく肩を組んでんじゃねーよ!」

 

イアン・ベルモットは両腕でリュカとベロニカと肩を組み、軍事基地の敷地内を堂々と闊歩している。

ベロニカはイアンの腕を振り払い、イアンの背後ではオリバーがイアンの後ろを歩いていた。

 

「次はここを乗っ取るのか?なんのために?」

「大した理由は無い。煉獄が完成するまでどこかで時間を潰す必要があるからね。暇つぶしだよ。」

 

イアンの周囲の空間は赤黒く染まっており、彼の周辺に青白い人魂のような炎が揺らめいている。

今はまだイアンの周囲だけだが、世界全体が赤黒く染まったその時には狂者の煉獄がこの世に顕現する。

世界中が殺し合う狂気の祭典、その開催までの猶予はおよそ四十日。

 

「あ、ああああああああッッッ!!!」

「もっと火力を上げろ。もっと、もっとだ!もっとやる気を出せ!もっと熱くなれよ!」

 

車両に乗って軍事基地に押し入った不審者四名。

イアン・ベルモット、リュカ・マルカ・ウォルコット、ベロニカ・ヨーグマン、オリバー・トレイル。

リュカのケミカル・ボム・マジックが基地を爆破し、ベロニカのリビング・アシッドが基地に配備された人間に集り足下から溶解液でドロドロにした。反撃の銃弾はイアンの周囲に浮かぶ浄化の炎で融かされ、ことごとく蒸発していく。

 

「ベロニカを引き連れて先に行って制圧しておけ。私はちょっとあっちを見てくる。」

「ああ。」

「………クソが。」

 

イアンに従わざるを得ない現状に、ベロニカは舌打ちをした。

リュカがベロニカを引き連れて建物内部に侵入し、イアンは興味本位で敷地内に設置された格納庫へと向かった。

格納庫には、軍用車と戦車が納車されている。

 

クレイジー・パーガトリィ、イアンが格納庫を対象にスタンドを発現すると同時に、格納庫の外に設置されたセキュリティの暗証番号をデタラメに入力した。イアンのスタンドの特性により、たまたま暗証番号が正解してシャッターのセキュリティが解除された。さらに近場に倒れている死体の指を切り落とし、指紋認証を解除する。死体のポケットから落ちた鍵を手に取り、シャッターの施錠を解除してシャッターを上げた。イアンがスタンドを発動すれば、須らく物事はイアンの都合のいいように推移する。

イアンはオリバーを伴って、格納庫のシャッターをくぐって格納庫内部へと侵入した。

 

「うーん、カッコいいなあ。」

 

イアンはキラキラした少年の眼差しで軍用車を見つめ、気分が高揚した。

軍事車両は少年の憧れだ。なんてったって、カッコいい。キャタピラは男のロマンだ。

無限軌道、なんてカッコいい響きだろうか、ステキ。抱いて。

 

「おい、何やってんだよ。そんなモンいつまでも見てねーで、さっさと行くぞ。」

「お前は相変わらず無粋だな。このクサヤ男が!ロマンを理解できないのか?」

「知らねーよ。お前がここに侵入を決定したんだろ。基地の制圧を人任せにして趣味に走らずに、リュカたちの手伝いをしろよ。」

 

オリバーが呆れ果てた表情で、イアンに苦言を呈した。

 

「いや、待て。おい、なんかいるぜ!」

「うーん?」

 

唐突にオリバーが緊張感のある表情をし、相対するイアンは首を傾げた。

格納庫内ではわずかではあるが、何者かが走る音が聞こえた。

 

「敵だッッッ!!!もう少し真面目にやれやッッッ!!!」

 

オリバーがイアンを突き飛ばし、イアンがいた場所を銃弾が通過していく。

格納庫内に、止まぬ銃声と金属音が響き渡った。

 

「スタンドだッッッ!!!」

 

オリバーが叫んだ。

両手に短機関銃を構えたマネキンのような人型が、格納庫内の軍用車の影へと走って隠れた。

イアンはゆっくりと立ち上がった。イアンの周囲には人魂のような青白い炎が浮かび上がり、格納庫内は異界と化す。

壁は赤黒く染まり、不気味な手術台が現れ、周囲に本能が忌避する浄化の炎が飛び交った。

 

「ごくろう、オリバー。君は隠れて見ていたまえ。」

 

格納庫のシャッターが一人でに閉まっていき、煉獄の主人イアン・ベルモットが戦闘態勢へと移行した。

マネキンのようなスタンドは、二丁の短機関銃で車の影から斉射を試みる。イアンの近くに浮遊する炎が周囲を半自動で動き回り、短機関銃の9×19mmパラベラム弾が雨霰のように格納庫を跳躍する。炎は揺らめきながらパラベラム弾に衝突し、浄化の炎により弾丸はことごとく蒸発していく。

イアンは両手を竦ませて、敵をジェスチャーで挑発した。

 

「威勢がいいねぇ。元気がいい子は、嫌いじゃあない。」

「イアン!さっさと仕留めろ!!!」

「おいおい。彼はせっかく必死になって抵抗してるんだから、適度に付き合ってあげないと可哀想だろう?」

 

マネキンは軍用車の影をつたいながら遠巻きに銃弾を乱射し、イアンは浄化の青白い炎とともに敵への距離を詰めていく。

イアンに気をとられたマネキンの足下から唐突に執刀医が現れ、マネキンの左足を掴んだ。執刀医は逆手にメスを持っており、メスを振るってマネキンの右足を付け根の球体関節部分から切り落とした。

 

「足下不注意。ダメダメだな。もう少し頑張りましょう。」

 

片足を失い倒れ込むマネキンの上方から浄化の炎が連なり緩やかな螺旋軌道を描いて落下し、質量を伴って直撃した。

魂を消し飛ばす炎の直撃を喰らい、マネキンは跡形も無く焼滅した。

 

「雑魚だな。全然楽しめなかった。」

「おいおい、基地内部にもまだスタンド使いがいるんじゃねえのか?リュカたちのフォローに行った方がいいんじゃねーか?」

 

オリバーが軍用車の影からヒョッコリ顔を出し、イアンに忠告した。

 

「この程度の敵なら、彼らなら大丈夫。まあ仮にやられたとしても、また生き返らせりゃいいさ。」

「お前の部下はやり甲斐がねーな。もう少しあいつらを労ってやれよ。」

「チョコラータを石で撲殺しようとしたお前がそれを言うのか?」

「あれは仕方ねーよ。あそこで捕まったら全てがおじゃんだろうが。」

 

オリバーが苦情を言い、イアンはそれを聞き流した。

 

◼️◼️◼️

 

名前

ベロニカ・ヨーグマン

スタンド

リビング・アシッド

概要

黒い不気味な形状をしたスタンド。不定形で、上方に付属した口から無数の甲殻類を吐き出す。甲殻類の体液は強酸で出来ており、触れたものをドロドロに溶かす。かつてスイスを本拠にした臓器密売組織のボスであり、イアンやオリバーの上司だった。

 

名前

?

スタンド

ザ・ワールド・アナザーヘブン

概要

ジョースター一族と因縁のある男、の偽物。

完全にパチモノであり、イアンの想像上の彼である。外見は不思議と、ほんの少しだけ似ている。それだけ。

本物だと思っていたら、性格が崩壊していて多分ビックリします。

 

名前

?

スタンド

ダンス・イン・ザ・ボックス

概要

マネキンのスタンド。概要は謎である。イアンのクレイジー・パーガトリィが交戦し、焼滅した。

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