噛ませ犬のクラフトワーク   作:刺身798円

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神憑き

「ようやく俺の出番か。よくもまあ、ずいぶんと待たされたものだ。」

 

冷蔵庫の扉が開き彼が外の様子を伺うと、外は赤黒く染まった手術室。

そこで、二人の男が戦いを繰り広げていた。一人は彼を生み出した人間で、その人間は向かい合うスタンドに腹部を貫かれている。

 

「さて。」

 

彼のかたわらに肉感のある強大なスタンドがはべり、虚空から懐中時計を取り出した。スタンドがそれを指先でいじくると、世界は色と音を失い、灰一色の世界と変貌する。

 

「俺のスタンドは、過去、未来、現在、その全てを支配する。………俺はあの男をどうにかすればいいのだな。」

【君に他者の殺害は赦されていない。ルールを忘れないように頼むよ。】

「言われずともわかっている。」

 

彼を生き返らせたイアンという男が敵と思しきスタンドに腹部を貫かれており、それに敵対する男を彼は標的と見定めた。

冷蔵庫からのっそりと出て、向かう彼の足取りは突如はたと止まった。

 

「………おい。」

【何か?】

 

ディオ・ブランドーに外見が少し似た彼は、思わず二度見した。

 

「何か、じゃない。お前はなぜ喋ってるんだ?」

【そりゃ喋るさ。だって生きてるんだもの。】

 

機械仕掛けの体に、ネジの瞳。白衣をまとった煉獄の管理人。

イアンのスタンドであるはずの執刀医は、時が止まった世界で普通に彼に返事をした。

 

「そりゃ喋るさ、じゃない!今世界は時が止まっているはずだ。それなのにお前はなぜ喋れるんだ!」

【喋ったっていいじゃない。】

「よくない!」

 

彼は執刀医をジト目で眺め、追求した。

 

「お前はあのイアンという男のスタンドではないのか?お前もまさか時が止まった世界に入門しているとでも言うのか!!!」

【私はイアンのスタンドではないよ?】

「………なに?」

 

彼は執刀医のサラッとした爆弾発言に困惑し、マジマジと見つめた。

 

【あまり見つめないでくれ。………皆私のこと彼のスタンドだと勘違いをしている。イアン自身ですらね。でもイアンのスタンドは、都合のいいことが起こる部屋そのものであって、私はそこの付属物というわけじゃあないよ?】

「………じゃあお前は一体何者なのだ?」

 

彼が生まれた煉獄を支配していたのは、この不気味な執刀医だったはずだ。

それがイアンのスタンドではないのだとすると、こいつは一体何者なのだろうか?

 

【私は、イアンのスタンドの部屋の中でしか存在できない。ただの部屋の間借り人だ。居心地いい部屋の家賃の支払いの代わりに、彼に協力している。】

「答えになっていない。」

 

微妙にずれた返答に、彼はさらなる追求をした。

 

【………奇跡的に物事を上手く運ばせることを、人は神懸かりと呼ぶ。多くの場合、人はそれを血反吐を吐くような努力と苦難の末に後天的に身に付ける。決してそれが出来る人間は多くないが。】

「おい、答えをはぐらかすなッッッ!!!」

 

彼は冷蔵庫の縁を手で叩いた。

しかし執刀医はそれになんら反応を見せずに、マイペースに話を進めていく。

 

【奇跡的に物事が上手くいく、それはイアンのスタンド能力そのものだ。そして人の世はごく稀に、先天的にその才能を強く持った人間が生まれてくる。人はそれを時に預言者、時に英雄、時に変革者、時に聖人などと呼称する。彼らのような人間は常に、その意思や思想とは無関係に血塗られた人生を歩む宿命を背負っている。成し得た出来事次第でその呼称は変わるが。】

「………。」

【私が誰かは語らない。私自身にもそれはハッキリとはわからないことだ。君だって、唐突に自分がなんなのか具体的に説明しろと言われても困るだろう?ただ言えるのは、イアンは天然物の神憑きで、イアンの部屋で最初に起こった都合のいい出来事とは私が住み着いたことだったということだ。私が住み着いたせいで彼の部屋は人間を生み出すというとんでもない能力を獲得し、イアンの妄想が現実化するという恐ろしい能力を実現するに至った。極端な話、イアンが明日隕石が落ちて地球が滅亡すると信じ込めば、それは実現する。

「………。」

【忘れないでほしい。ルールは破らないでくれ。彼は私たちの主人だ。長年付き合うとたとえイかれた人間であったとしても、愛着が湧く。一世一代の大舞台を台無しにして、彼を落ち込ませたくない。………ルールを破る者は、私たちの世界には必要無い。】

 

執刀医はそれだけ語ると、背景の灰色と同化していく。執刀医の最後の言葉に、男はゾッとした。

時が止まった世界で、彼はただのオブジェへと戻った。

 

【ああそうだ。】

「………まだ何か用か?」

 

執刀医が思い当たったように再び動き出し、彼は驚いてビクッとした。

 

【イアンの怪我は、治さなくていいよ。私が手術する。その方が彼は喜ぶ。彼は痛みを喜ぶ性質を持つ変態だから。】

 

男はスタンドの持つ懐中時計を巻き戻して、時間を過去に戻すことが出来る。

とは言っても、彼が生まれた前の時間までには戻すことが出来ないが。

彼はイアンの怪我を治すために、時計のネジを巻き戻そうとしていた指を止めた。

 

【じゃああとはお願いね。】

「………フン。」

 

思わずビクッとなってしまいバツが悪かった彼は、不気味な執刀医がいなくなってホッとした。

だがふと思い当たって、大声を上げた。

 

「おい、待てッッッ!!!お前も止まった時間の中動けるのなら、お前が俺の代わりに戦えばいいだろうがッッッ!!!」

【それは悪質なルール違反、一発退場だよ。私だってルールに縛られているんだ。誰しもがルールに縛られて生きていて、それを破る決定権を持つ特権階級はこの世のごく一部だけだ。イアン主催の劇なのに、狂言回しの私が主役を喰ってしまうのはいただけないだろう?それに私がそれをやってしまえば君は用無しになってしまうが、君はそれでもいいのかい?】

 

執刀医の声が、遠くに聞こえた。

 

◼️◼️◼️

 

腹部をぶち抜き、敵をその状態で固定、そのまま逆の手で頭部に攻撃を加えて消し飛ばす。

サーレーは考えることもなく、その手順を実行する。暗殺チームとして、確実に敵を殺害するための手順として染み付いた手法。それを実践する直前に、彼はふとした違和感に気が付いた。

 

「………?」

 

体が重い。動かない。クラフト・ワークの能力ともまた少し違う、まるで呼吸の出来ない深海に沈んでいくかのような感覚。

周囲の背景は緩やかに色を失っていき、灰色が侵食していく。やがて灰色はサーレーの体にも纏わり付き、体が動かなくなる。

 

「これはッッッ!!!」

【済まないね。レギュレーション違反とも言えるほどに強力無比な能力だが、それでもイアンが頑張って試行錯誤した末に獲得した能力だ。どうか許容してほしい。】

 

その言葉は、今は誰にも届かない。

サーレーは石になったように固まり、イアンもクラフト・ワークに腹部を貫かれたまま彫像のように動かない。

 

「課せられたルールは、殺害禁止。適当に痛め付けて、外に捨ててくるか。」

 

外見がディオ・ブランドーに似た男。

本来のディオのザ・ワールドは、数秒間時間を止めるという能力。しかし彼のザ・ワールド・アナザー・ヘヴンは、時間を任意に停止することが出来る。それどころか彼が存在する過去、未来にも時間を自由に移動させることができ、彼がその気になればそれこそ不可能なことはない。

 

「とは言っても今の俺は作り物で、主人のイアンとあの不気味な白衣には逆らえないんだがな。」

 

止まった時の中で、彼は手術室を見渡した。

 

「それにしても、なるほど。確かに一理ある。全てが思うがままというのも、つまらないものだ。制約が必要だというのも頷ける。」

 

今の彼であれば、全ての物事は思うがまま。

時間を止めたまま人類を滅亡させることが出来るし、憎いジョースターを根絶やしにすることもできる。

ただ、それが意味のある行為だとも思えない。彼にはそれが世界中のアリの巣に水を流し込むような不毛な行為にしか思えない。

人類を滅亡させたところで、それこそ無意味だし、労力の浪費でしかない。

 

「さて、俺は何のために生まれたのだったか。」

 

イアン・ベルモットの切り札として煉獄より産み落とされた彼。

しかし作っては見たものの、実際に使用するとなるとドン引きするほど強力な能力だったために、その力の行使にひどく制限をかけられてしまった。彼が殺害を許されているのは、因縁の相手、ジョースター一族のみ。

 

「………。」

 

灰色の世界で彼はわずかな寂寥感を感じながら、スタンドを現出させる。スタンドはイアンに攻撃を加える男を軽く痛め付けた。

そのまま男をスタンドで担ぎ上げ、軍事基地の廊下へと退出した。

 

「こいつらもか。」

 

床で這いずるマリオ・ズッケェロとホル・ホースを見かけた彼は、二人もそのまま一緒に担いで運んでいく。

やがて彼は、建物の外へと到着した。

 

「なるほど。俺はこれを終息させるために呼び出されたのか。」

 

イアン・ベルモットの遊び、彼は楽しめる相手で長く遊びたい。納得のいく結末を迎えたい。

その過程が全ての目的だ。しかし今はまだ、彼はサーレーに直接相対するには実力不足だった。

敗北は許容できるが、情けないのは許容できない。

 

イアンは戦闘の仕切り直しを望み、そのために戦いの盤面そのものを叩き割ることができる彼に白羽の矢が立った。

 

イアン・ベルモットの信条、苦難を超えて人は高みへと登る。

イアンは矢のウィルスで苦しみながらレクイエムを獲得し、パープル・ヘイズ・ウィルスで寝込みながらスタンドのさらなる進化を獲得した。今回の戦いでも彼は腹部を破られる攻撃を受けており、ここを超えれば彼はきっとさらなる高みへと登れるはずだ。

 

イアン・ベルモットの狂気、死に近づけば近づくほどに、それを乗り越えた時に彼は人生の充足と劇のさらなる山場を迎える。

イアンはさらに強力な存在となり、ライバルとのしのぎを削る戦いはきっとさらに熾烈なものとなる。彼は、ドラマティックを求めているのである。

 

それらの妄想は、イアンのスタンドの特性により現実に形を成す。

 

窒息しそうな虚構の世界で喘ぐ彼が探す、何か。

イアンは世界が素晴らしいものだと信じたいし、全てが現実だと実感することを望んでいるのである。

 

イアンはその矛盾に、気がついている。狂気と愛は紙一重。

イアンは世界を愛している。世界が素晴らしいものだと信じたい。しかしイアンは、世界を破滅させようとしている。

………イアンは、全力を出して戦い、自身が劇的な幕切れを迎えることを望んでいる。なぜなら彼は、彼が生きている世界を信じているのだから。

 

「まあ………わからんでもないか。もし仮にこの世に本当になんでもできる存在などいてしまえば、全てが空虚に見えてしまうことだろう。この世がつまらなくて自死を選んでもおかしくない。」

 

リュカとベロニカがスタンドを操り、ミスタ率いるパッショーネとフランスの合同戦闘部隊が彼らと戦闘を繰り広げている。

その最前線で彼は運んできた人間を放り出して、時間を再び動かした。

 

「………はッッ!!!」

「お前は何者だッッッ!!!」

 

凄惨な戦いの前線に突如現れた金髪の男に、ミスタは拳銃を構えて警戒しながら誰何した。

彼の前にはボロボロになって気を失ったサーレー、マリオ・ズッケェロ、ホル・ホースが倒れている。

 

「仕切り直しだ。お前ら今日はもう帰れ。」

 

金髪の男は、ミスタにそう通達した。

 

「何を勝手なことをッッッ!!!」

 

ミスタは言葉ではそう言いながらも、現状を把握してサーレーが敗北した以上ここでさらに戦いを続ける意味は薄いと理解した。

 

「おい、どういうことだ?」

「あの男が敗北した。結末はそれでも構わないが、過程に不満が残るからやり直しだそうだ。」

「ふざけるな!!!」

 

リュカが金髪の男に詰問し、男のふざけた答えにベロニカは怒りを露わにした。

 

「黙れ。これはあの男の決定事項だ。」

 

それだけ告げると、問答無用と男はその場から消え去った。

 

「副長、どうします?」

「………目的達成に失敗した以上、一旦帰還する。作戦の練り直しだ。」

 

ミスタは連れてきた兵を集めて引き上げていく。

こうして、軍事基地での一度目の激突はあっけなく幕を閉じた。

 

◼️◼️◼️

 

「戦略会議を行う。」

 

イタリアのパッショーネミラノ支部での会議室、議長をグイードミスタが務め、ヨーロッパ各国裏組織の幹部も集合していた。

軍事基地での戦闘を終えて今日で四日が経った。パッショーネの構成員三十名中十四名死亡。フランス戦闘部隊十五名中八名死亡。軍用車七両大破。軍用ヘリ一機墜落。惨憺たる結果であった。

 

「新たに敵について判明した情報、アルバロ・モッタ、資料をここに。」

「はい。」

 

パッショーネ情報部で、他国の組織との渡りもつけたアルバロ・モッタが敵に関する資料をグイード・ミスタへと手渡した。

ミスタは資料へと目を通すと、周囲に理解しやすいように説明を行なった。

 

「敵の一味に、リュカ・マルカ・ウォルコットと、ベロニカ・ヨーグマンがいることが新たに判明した。リュカはかつてのフランス、ラ・レヴォリュシオンの暗殺チームリーダー。ベロニカはスイスの臓器密売組織の首領を務めていた。イアン・ベルモットはもともと、ベロニカが首領を勤める裏組織とのつながりを指摘されていたが、決定的な物証がなかったために処分を見送られていた。リュカは爆弾魔の異名を持ち、ベロニカはスイスの外道として悪名高い。しかし二人は共に、すでに死亡していたはずだった。この二人に関しては、近接戦闘のスペシャリストだ。」

 

会議に出席している人員のうち、幾人かはうなずいた。

 

「この一点だけ見ても、敵が尋常では無い脅威であることが断言できる。死亡したはずの人間を蘇らせているのであれば、それは世を混乱に陥れることが想像に容易い。そして、マリオ・ズッケェロ。」

「はい。」

 

議場の末席に座るマリオ・ズッケェロは、はっきりと返事した。

 

「お前は感情を操るスタンド使いと戦闘を行って敗北したと言っていたな。戦場に現れた見覚えのない人物と合わせて三人。素性の分からない敵方の人間の調査を、パッショーネ情報部が総力を挙げて行なった。その結果、可能性が高いと思しき人物が二人浮上した。」

 

ミスタはいったん言葉を切ると、会議場を見回した。

 

「恐らくは軍事基地の屋上にいた男の名が、バジル・ベルモット。戸籍上は敵の首謀者、イアン・ベルモットの弟ということになっているが、不審な点がいくつかある男だ。」

「不審な点ですか?」

 

議場に座る男性が質問をした。

 

「些末なことです。質問の回答は後回しにしましょう。」

 

男性は納得したようにうなずいた。

バジル・ベルモットは戸籍に関して過去に揉めた経緯があるが、ミスタは今更それを論じたところで意味が無いと判断した。

 

「もう一人、パッショーネ暗殺チーム所属のマリオ・ズッケェロとホル・ホースが基地内部で戦った男、それはオリバー・トレイルという男だと推測される。」

「オリバーッッッ………。」

 

ズッケェロが自身をあしらった敵に、ほぞを噛んだ。

 

「最後に現れた金髪の男が誰なのかは、判明していない。バジル・ベルモットはスイスの電化製品販売店勤務の販売員。イアンの国際指名手配と同時に行方が分からなくなっていた。一方でオリバー・トレイルはスイスの元警官、事件の直前はイアンが教授を勤める大学の用務員として働いていた。イアンの失踪と同時期に、大学から行方をくらましている。オリバーに関しては、スイスの病院に彼の子供が入院していることが判明している。」

「子供を人質にとっては?」

 

グイード・ミスタは、首を横に振った。

 

「現時点では、敵の名は伝聞による推測に過ぎません。私たちにその男がオリバーだという確証が無い。それにオリバーは、社会に対して恨みを持っている可能性がある。」

 

ミスタは資料を議場の人間に回した。

 

「オリバーは息子の難病の手術で、社会に不当に非難された。これ以上追い詰めてしまっては、今まで以上に手段を選ばなくなる可能性が出てくる。」

「これまでも手段を選んでるとは思えませんが。」

 

先ほどとは別の男性が発言した。

 

「オリバーの息子は、過去イアン・ベルモットの手術を受けて一命をとりとめている。オリバー・トレイルはイアン・ベルモットに対して、その恩義で従っている可能性がある。しかし社会が彼の息子を排斥してオリバーを追い詰めてしまえば、ただでさえ低いオリバーの社会への帰属意識が悪意へと変化する。オリバーはより過激に、本当に社会の破滅だけを望んで行動する可能性が高くなるということです。………スタンドは、時に必要に迫られて進化する。オリバー・トレイルがこれ以上邪悪なスタンド使いになって手が付けられなくなる可能性を潰しておきたい。」

「なるほど………。」

 

男性は納得したように引き下がった。

 

「情報を整理しましょう。敵の首謀者は、イアン・ベルモット。スイスにある有名大学の元教授。その部下で判明しているのが、リュカ・マルカ・ウォルコット、ベロニカ・ヨーグマン、バジル・ベルモット、オリバー・トレイル、それと………。」

 

言葉を選び、ミスタは難しい表情をした。

 

「俺たちパッショーネ暗殺チームを軽くあしらい、戦闘を終結させた金髪の男………。」

「………ああ。」

 

サーレーが発言した。

パッショーネ暗殺チームは、四日間の休養を過ごしていた。

ズッケェロとホル・ホースの怪我も、ジョルノが治療している。

 

そんなのんびりしている場合じゃないように思えるが、疲労は体に蓄積される。

休む時は休み、戦う時は戦う。そうしないと、肝心な時に動けなくなる。

 

「その男に関しては、情報が一切入っていない。何かヤバそうではあるんだが……。」

 

会議場に重苦しい沈黙が流れた。

 

「パッショーネのアクションは、近日中に基地に向けて誘導ミサイルを発射する。」

 

中距離弾道ミサイル。

射程は三千キロ前後、一発にかかる費用、およそ百二十万ユーロ。それを十五発。

軍事基地ごと敵を吹き飛ばすために発射する。

 

「発射先のフランスともすでに話はついている。これで奴らを吹き飛ばせればいいんだが………。」

 

懸念は尽きない。

ミスタは難しい表情で、眉間にしわを寄せた。

 

◼️◼️◼️

 

「反省会を行う。」

「反省点なんてねぇよ。」

「反省会をッッッ!!!行うッッッ!!!」

 

軍事基地の食堂で、リュカは冷めた目でイアンを眺めていた。

テーブルを囲んでイアン、右隣に執刀医。その前に並ぶ右からリュカ、ベロニカ、バジル、オリバー、ディオに似た男。

イアンの意味不明に高いテンションに、誰もついていけない。それを無視して、イベント大好きイアンは勝手に反省会を進めていく。

 

「これより、評価を数字で算出していく。それを各自参考にしてほしい。まずはバジル。評価点(レート)、6,0。可もなく不可もなく。」

「まあそんなもんか。俺はできることが限られているからな。」

 

評価点は10が最上で、0が最低。

とは言っても、10や0がつけられることはまずあり得ない。

現実的に4から8の間で、平均は6,5ぐらい。

 

「次にリュカ。評価点(レート)、3,0。ダメダメだな。もっともっと頑張りましょう。」

「おい待て!!!そんなに低いわけねえだろうが!!!」

 

3,0はあり得ないほどに低評価。

命をかけて戦った挙句の不当な評価に、どうでもいいと冷めていたはずのリュカは声を荒げた。

 

「目つきが悪い。言葉遣いもむかつく。不愉快。白目が無くてキモい。」

「ふざけんな!そんな理由で………。」

「………どうでもいいだろう。なんなんだこの茶番は。」

 

憤慨するリュカを尻目に、ディオに似た男がつぶやいた。

 

「次、ベロニカ。評価点(レート)、2,0。話にならない。もう少し真剣になって取り組んでください。」

「はあ?私が2,0?おいイアン、そりゃ一体どんな評価算出方法だ!」

 

2,0はリュカを下回る低評価。不当な評価に、ベロニカも大声をあげた。

 

「露出過多。格好が無駄にエロい。前線にスパンコールドレスで出ていく奴があるかバカ。いい旅夢気分か!暇と金を持て余した、有閑マダムベロニカの軍事基地一泊二日見学ツアーかッッ!!戦場を舐めるんじゃねえ!ジャージを履け、ジャージを!」

「誰が有閑マダムだッッッ!!!」

「見知らぬ赤の他人の内臓を勝手に売りさばいて、私はこんなに金持ちになりました。………なんかどっかの雑誌の裏表紙に乗ってる胡散臭い広告みたいだな。」

「黙れッッッ!!!」

「妖怪ホルモンババア。」

「ぶっ殺してやるッッッ!!!」

 

ベロニカはイアンのおふざけにイラついた。

確かにお気に入りの胸が空いたドレスが爆煙で埃まみれになった。

思い当たる節があったため、その点についてはさほど強く言い返すことはなかった。

 

「次、そこのチャラいクソ金髪。評価点(レート)、0,0。止まった時の中で勝手に干からびて死ね、クソが。」

「おい、ふざけんな!!!俺はお前の尻拭いを………!!!」

 

あまりにも冷たい暴言に、クールぶっていたディオに似た男まで思わず言葉を返してしまった。

0,0は言うまでもなく、低評価。試合開始と同時に審判に暴言を吐いて退場処分を受けたフットボール選手でさえ、もう少し評価が高い。

 

「黙れ!!!何が時間の支配者だ!!!何が過去、未来、現在その全てを支配するだッッ!!!お前の能力は理不尽すぎてクソだ!!!お前は小学生か!!!お前のせいでせっかくの戦いが興醒めだ!!!このゴミがッッ!!!」

 

イアンはブチ切れてまくし立てた。

あまりに真っ向から辛辣な苦情を言われ、ディオに似た男は言葉を失って唖然とした。

 

「次、オリバー。評価点(レート)、7,5。特に問題ありません。引き続きこの調子で頑張ってください。」

「おい待て!!!この流れでなんでそのイワシヤローがそんなに高評価なんだ!!!」

 

ここまでの流れからオリバーもボロクソに言われると期待してただけに、予想外の高評価にリュカは思わず突っ込んだ。

執刀医はイアンの横に座り、当然のようにお茶をすすっている。

 

指令(オーダー)を問題なくこなしていたからな。お前のように目つきも悪くないし、ベロニカのようにドレスで最前線に出張るようなアホなこともしない。金髪のように地頭も悪くない。高評価も当然だ。戦場で敵にケツを振るベロニカとは違うのだよ。」

「クソがぁぁぁッッッ!!!」

 

執刀医は納得したように頷き、イアンも当然の顔をしている。

ベロニカは顔を真っ赤にして、怒り狂った。

 

「最後に私、イアン・ベルモット。評価点(レート)、4,5。もう少し頑張りましょう。総評、全体的に低評価です。次回に期待しましょう。」

「「「待てッッッ!!!」」」

 

リュカ、ベロニカ、金髪。

オリバーを除く三人から、物言いが入った。

 

「何か?」

「何か、じゃねえよ!お前一人が敗北したせいで、わざわざ戦闘が仕切り直しになったんだろうがッッッ!!!他に誰も負けてねえんだぞ!なのになんでお前は俺たちより評価が高いんだッッッ!!!」

「黙れッッッ!!!」

 

イアンはテーブルを両手で叩いた。

 

「………確かに私にも落ち度があった。私がほんの少しダメだったことは、認めよう。それを理解しているからこそ、レート4,5という低評価を甘んじて受けているのだッッ!!!」

「………ほんの少し?お前が一番ダメだったじゃねえか!………お前、勢いだけで誤魔化せると思うなよ?」

 

リュカが訝しげな目つきを送った。

 

「惜しかったッッッ!!!あと一歩だったんだッッッ!!!クソッッッ!!!もう少し私に力があればッッッ!!!」

「………。」

 

三人は冷めた目つきでイアンを眺めている。

 

「そろそろ晩飯の時間だな。」

「おい待てッッッ!!!反省会はまだ終わっていないッッッ!!!」

 

オリバーが調理のために席を立ち、ほかの面々も解散とばかりに離れていく。

 

「………付き合ってられん。」

「アホくさ。」

「おい、誰がケツを振ったって!!!」

「クソッッッ!!!みんなもっと必死になれよッッッ!!!私の一世一代の晴れ舞台なんだぞッッッ!!!」

【イアン、反省会は私が聞いてあげるよ。】

 

ベロニカだけが、未だに自分の評価点にこだわっていた。

執刀医が、イアンの横でにっこりと微笑んだ。

 

◼️◼️◼️

 

「軍事基地の周囲を覆う、赤黒い空間が勢力を増しています。」

「………嫌な予感しかしねえ。」

 

観測員からの報告に、グイード・ミスタは猛烈に嫌な予感がした。

今日で戦いから、六日が過ぎた。その間にイアンの煉獄が増した勢力は、二の六乗、六十四倍の表面積となる。一辺の長さが八倍にもなり、もうこうなってくると外から見てもあからさまにその範囲を広げていることが確認できる。

 

「クソ!!!上手くいくとも思えねえ。」

 

切り札的手段として温存しておいた中距離弾道ミサイルだが、全く上手くいく気がしない。それでもダメ元で攻撃はしてみるが。

 

「マジかー。やっぱこうなるのか………。軍用ヘリも墜落してたしなぁ。」

 

ミスタは観測員から送られてきた映像に、ため息をついた。

発射された十五発の中距離弾道ミサイルは、煉獄の赤い空間に触れた途端にことごとく空中でバラバラに分解して地面に落下していく。

 

「………また作戦会議だな。」

 

ここ一ヶ月で、十年は老けた。

グイード・ミスタは帽子の下の頭髪を掻きむしりながら、ヨーロッパ裏社会の総会議を開くべく各国に連絡を通達した。

 

◼️◼️◼️

 

名前

?(ディオ・ブランドーに外見が似た男)

スタンド

ザ・ワールド・アナザーヘヴン

概要

懐中時計を使用して、現在、過去、未来のその全ての時間を支配する。無制限に時を止めることが可能であり、彼が存在するいかなる時間軸に時間をズラす事もできる。イアンはその能力のあまりの理不尽さに、ブチ切れた。

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