噛ませ犬のクラフトワーク 作:刺身798円
あまり期待しないで下さい。
細かいことを気にしない男、イアン・ベルモット。
本作煉獄変のボスであり、最狂のスタンド使い。
彼は絶対に細かいことを考えようとせず、物事を雑に進める癖がある。
彼がなぜそんなにも大雑把な性格になったのかといえば、そこには理由がある。
彼の大雑把な性格、もうこれは言い訳のしようもなく、完全にスタンドのせいである。
御都合主義の権化とも言える能力、クレイジー・プレー・ルーム。
この能力は、イアンが脳内で描いた理想絵図を細かくなぞって展開を進めていく。
イアンが細かいことを考えてしまえば、それはイアンの部屋の中で勝手に現実化してしまうのである。
なんなんだ、これは?こんなことがありえてしまっていいのか?あり得てしまう。
そのせいでイアンは細かいこと、どうでもいいこと、興味の薄いことは何も考えないようにする習慣がついてしまったのである。
もうこれは、はっきり言ってどうしようもない。イアンが細かいことを考えてしまうと、イアンの能力の影響は周囲に多大な被害を及ぼすことになる。
そして、イアンの裏ステータスである好感度表。
これは文字通りイアンの仲間に対する好感度であり。
最高段階の十から最低段階の一まで存在する。
まずは十。
これはもう文句無しにお気に入りであり、オリバーが唯一ここに該当する。
ツンデレのイアンは普段は絶対に態度に見せないが、自分の信じるルールを破ってでも幸せになってほしいと願う特例的存在であると言えよう。
俺が死んでもお前は生かして返す。お前ほど強い人間はいない、生きろ。決めゼリフを言っちゃうレベル。
そして八。
マジかっこいい。付き合ってもいいかなぁ、と思えるくらいの好感度。
サーレーがここに該当する。サーレー、早く逃げて!
そして五。
仲間として、一人の人間として、尊重しよう。そのレベル。
ここに、リュカ・マルカ・ウォルコットとパンナコッタ・フーゴが該当する。
………お前が目的を達成できるといいな。
そして三。
まあ確かに仲間だな。
バジル・ベルモットは、ここと評価五の中間付近に位置する。
二。
仲間………?知り合い………?どこかで見たことはあるなぁ。
ここにチョコラータとベロニカが該当する。
チョコラータ………?ああ、チョコラータ!確かにそんな奴いたな。
そんな感じ。
一。
………誰それ?
ディアボロとドッピオ、そして哀れな金髪。金髪は泣いていい。
そんな風にザックリと分かれる、狂人式好感度表。
ぶっちゃけ、イアンは評価が二以下の人間の末路には全く興味を示さない。
別にどうなっても構わないからである。
そんなこんなで。
「何見てんだコラァ!!!ヤクはどこだ!!!」
評価が二であり、徐倫ウェザーコンビと戦闘をかわしたベロニカ・ヨーグマン。
イアンにとって、玩具菓子のお菓子的な存在。もちろんイアンが大好きなのは、お菓子ではなく玩具の方である。
イアンの好感度の低い彼女は、イアンにその存在をすっかり忘れ去られ、今現在パッショーネに身柄を拘束されていた。
もうこれは、仕方がない。
ぶっちゃけイアンのスタンドは弩級であり、イアンが運命を決定した場合はそれを覆すことは不可能に近い。
しかしイアンが運命を決定するのは、イアンがなにがしかのこだわりを見せる人間かもしくは契約を交わした人間に限定されており、イアンはどうでもいい人間に労力を割いたりしない。時間のムダ。下手に思考をすると、余計な運命が付いてくる可能性がある。
イアンはベロニカがあまり好きではなく、そのために契約の細部を詰めることもすっかり忘れていた。
その結果、無為に生き延びたベロニカは今現在パッショーネに拘束され、パッショーネ側もどう対応するべきか決めかねている。
ちなみにイアンのいうところの生き延びた仲間とは当然オリバーのことであり、決してベロニカのことではない。
下手に実力があるために対処も困難であり、どうにもこうにもならない。
牢屋に閉じ込めても、王水の液で鉄格子を溶かして逃げ出そうとする。
綺麗に消え去ったつもりのイアン・ベルモット、最大の負の遺産であるという以外にもう言いようがない。
イアンうっかり。
「このど変態がッッッ!!!拘束されてる私を見て欲情してんのかッッッ!!!この三下ヤローがッッッ!!!」
ベロニカの朝は早い。
早朝にパッショーネの構成員が、専用の薬剤を彼女に投与する。
そうしないと彼女は、拘束具をスタンドで勝手に溶かして逃げてしまうからである。
外見の見かけだけはいいのだが、拘束具の中でスパンコールドレスを着るそのこだわりの意味がわからない。きっと、誰にもわからない。
「副長………どうしましょうか?」
「どうにかしようにも頭がなぁ………。」
そう。彼女は何を隠そう、実はサーレーが賢く見えてしまうレベルでオツムが弱いのである。
本人が実際にそこまでオツムが弱いのか、それともイアンの創造した彼女だからこんなにもオツムが弱いのか。
それはもう、永遠に誰にもわからない。どうでもいい、どうでもいい、私は自由だ、どうでもいい。
組織的に考えれば、このくらいの人間がスケープゴートにするにはちょうどいい、のかも知れない。
そんな彼女。
立場を理解せずに喚き散らし、毎日重度のヤク中っぷりを見せつけ、その自意識過剰な振る舞いは対応するパッショーネの構成員をノイローゼへと陥れる。まさに、悪魔が去り際に残した災厄の残りカス。
「おい、テメエ今チラッと私の胸を見たろ!胸を!代金がわりにヤクを持ってこい!」
「………もうホント、勘弁してくれよ。」
本当にどうしろと言うのか?
専用の薬剤を製作するのも、当然タダではない。
このままでは無駄飯ぐらいの役立たずを、ただ置いておくだけになってしまう。
パッショーネはミラノのテロで、社会復興のために大金をバラまいて金に余裕がない。あってもこんな女を無為に養うのには抵抗がある。
「アァン、何ガンつけてんだ、コラ?」
伝説の鬱人間量産機、ベロニカ・ヨーグマン。誰にも手をつけられない最悪の忘れ形見。
無駄に戦闘力だけは高いために、扱いに細心の注意が必要で下手な対応もできない。
万が一朝の薬剤の投与をし忘れでもしたら、ミスタでさえも戦いの相性により敗北する可能性がある。
まさしくワールドクラスの不良債権。使い道の見つからない、萌えないゴミ。
だがそんな彼女にも、たった一つだけ弱点が存在する。
「………ミスタ、どうにかなりそうかい?」
「ジョ、ジョルノ様ッッッ!!!」
「………ぶっちゃけ、お前にしかどうにもできそうにない。」
そう、イケメンにめっぽう弱いのである。ウェザー然り。
うるさいベロニカを黙らせるためにはジョジョ成分が必要であり、しかしボスであり忙しいジョルノをこんなわけのわからない些事に付き合わせるわけにはいかない。ミスタの白髪はどこどこまでも増え続ける。
「ジョルノ様ッッッ!!!私をあなたのお側に置いてくださいッッッ!!!一生尽くしますッッッ!!!」
パッショーネのボスでありイタリア裏社会の帝王、ジョルノ・ジョバァーナ。
確かに結婚適齢期ではある。適齢期ではあるが………さすがにジョルノにも相手を選ぶ権利というものが存在する。
他人の内臓を勝手に売りさばく人間の相手は、是が非でも御免被りたい。
というか無理。絶対に無理。どうやっても無理。永遠に愛せない。
「………もう処分しちまおうか。」
ミスタがボソッと呟き、ベロニカはビクッと肩を震わせた。
「すいません調子乗りましたごめんなさい許してください。」
このふざけたババアの厄介さ。
ミスタが本気でイラついて処分を考えだすと、敏感に察して謝り倒し始めるのだ。
オツムの弱い彼女であっても、一度死んで学習したのだろう。その生存本能は非常に厄介だと言える。
「まっ、ジョルノ。お前も仕事があんだろ。この女は俺がどうにかするから、お前は戻って仕事しな。」
「このクソワキガヤローが。私とジョルノ様の逢瀬に出しゃばんじゃねーよ。どうせモテねーくせに、ひがんでんじゃねーよ。」
「………処分しよう。」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。」
とまあ、こんなふうに箸にも棒にもかからない。どうにも対応のしようがない彼女。
そんな彼女にも、ある日転機が訪れる。
「暗殺チームに新メンバー?」
「………ああ。本当に気が乗らないんだが、まあ死んだところで別に誰も気にしない人材で、他にどうにも使い道もない。とりあえず見に来るだけ見に来てくれ。」
サーレーの無邪気な表情に、ミスタの胸がチクリと痛んだ。
大事な部下にあんな厄介なババアを押し付けたくない。しかし他に使い道が思いつかない。
弩級の不良債権としか言いようがなく、しかしどうにかしないといけない。無理難題を請け負ったミスタの小じわは増え続ける。
「なあ、サーレー………どう思う?」
「え………どうって………。」
「アアン?何見てんだゴラッッ!!!変な髪型しやがってッッッ!!!」
サーレーは、ミスタの目線の先に目をやった。
一人の女性。外見は美しく、胸の空いたドレスを優美に着こなしている。
だがなぜかキャスター付きの拘束具で拘束され、パッショーネの構成員にここまで運ばれてきた。
サーレーをひどく鋭い目つきで睨んでくる。
なんか地雷臭がする。というか、この女どこかで見た覚えがあるような………?
「………例の敵の残党だ。使い道が無く、俺たちも困っている。はっきり言って、もうどうにもならないなら処分を考えている。」
ミスタのその言葉にベロニカは肩を震わせ、拘束具の中で突如態度を豹変させた。
「あ、あなた様の部下にさせて下さいッッッ!!!なんでもやります!!!なんならご奉仕しますからッッッ!!!ほら、好きでしょ!!!」
「………絶対に耳を貸すな。まあとりあえずもしも使うなら、厳重注意だ。なんかやらかしそうだったら速攻で殺せ。」
暗殺チームは今現在ズッケェロと二人きり。悩みどころだ。
戦力の底上げが必要なのは明白ではある。実力も保証されている。
だが、肝心なところで裏切るような人間を受け入れるわけにはいかない。
サーレーに、そんな小難しい判断が急につくわけがない。
「え、えぇ!?そんなこと急に言われても、俺にも判断つかねぇっすよ。」
「………実は俺にも判断がつかねぇんだ。………情けなくて本当にすまねぇ。………もうどう扱っていいかわからないんだ。許してくれ。」
ミスタの目尻に、また一本深いシワが刻まれた。
人は苦労を重ねて、厚みのある人生を歩んでいく。ミスタがオリバーみたいになる日も、近い。
「お願いします!!!なんでもやりますからッッッ!!!なんならお試し期間でッッッ!!!」
ベロニカは必死で助命嘆願を行い、徐倫とウェザー相手に土下座で押し切った経験を持つ。
………暗殺チームは、経験が重要視される。
「じゃ、じゃあ少しだけ使ってみましょう、、、か?」
暗殺チーム下っ端、ベロニカの戦いが今始まる?
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「というわけで、相談に来た。」
「えぇ?そんなこと言われても、私だってそんなに何でもかんでもはわからないよ。」
ベロニカにうっかり押し切られそうになったサーレーだが、間一髪のところで暗殺チームとして長い経験を持つ先達であるメロディオに相談するというウルトラCに思い当たった。ギリギリで保留を告げ、サーレーはサッと亀の中へと推参する。
ちなみにサーレーの中での信頼度は、暗殺チーム監督官であるシーラ・Eよりもよそ者のメロディオの方が圧倒的に高い。
「ベロニカ・ヨーグマン。スイスで過去に臓器密売組織のボスを勤めていた女だ。」
「あぁ。」
ベロニカの名は裏社会でそこそこ売れている。悪い意味で。
起こした事件のタチが悪く、無意味に強く、最悪のスタンド使いイアン・ベルモットを輩出した組織。
もうこんなもの、どうやってもいい噂が流れようにない。
「………暗殺チームとして使えると思うか?」
「………絶対に責任持てない。」
サーレーはその答えに、察した。
メロディオはこれまで何人もの部下を育ててきた経験を持ち、大概の人間はなんとかそれなり以上に仕上げてきた。
その彼女が即座に匙を投げる存在、それがベロニカ・ヨーグマン。
「………無理か。」
「この世に本当にどうにもならない人間なんていない………って思いたい。思いたい………けどあの女は無理だと思う。うん、無理。絶対に無理。………やっぱり、どう考えても無理。使い物になるヴィジョンが見えない。有能な敵よりも無能な味方の方が怖いってのは戦場の常套句だし………無力でごめんね。」
肩を落として落ち込むメロディオに、サーレーは罪悪感を感じた。
「………いや、いいんだ。変なことを聞いて済まなかった。」
サーレーは念のために、彼女と実際に戦った経験のある人間にも助言を乞いに行った。
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フランス、パリ。
荘厳な教会の礼拝堂にて佇む、松葉杖を隻腕で持つ高身長の赤毛の男。
「無理だな。」
即答だった。あまりにも早く、端的な一言。もう少し考えても良さそうなものだが。
こんなにあっさり終わるのなら、わざわざ来ずとも電話でも良かったかもしれない。
「考えてみろ。自分が金持ちになりたいためだけに人間をバラして、自分の命が危なくなったら必死に命乞い。筋も道理もなく、悪としての矜持すらない。下手に実力があるぶん、余計に厄介だ。自分の命が危なくなったら即座に自分だけが逃げ出すだろうし、隙があったら間違いなくお前を殺しにかかるはずだ。」
オリバーへの対応と全然違う。違いすぎる。
サーレーはそこに疑問を感じた。
「当たり前だ。実際にあの女は、イアン・ベルモットを簡単に見限って自分だけ助かろうとしただろう。あの女はまず無理だ。国家への帰属意識を持たせるという段階でまず無理がある。それどころか行動に一貫性を持たせられるかどうかすらも怪しい。猿を使った方がマシなレベルだ。残念だが、処分する方が賢明だ。」
オリバーは邪悪な行為を行った人間でも性根は真っ当であり、使えば間違いなく暗殺チームの死人を減らせる。
ベロニカは邪悪な行為を行った人間で性根も邪悪であり、使ってもおそらく死人は減らせない。それどころか増える可能性が高い。
こんなもの、同じ対応をしろという方が無理がある。
人格者フランシス・ローウェンにまで見事に全力で匙を投げられた。逆にすごい。
ベロニカを暗殺チームに入れるくらいなら猿を育成してチームに加えろ、と。
猿の方が、まだ任務の邪魔にならない。
その辛辣な評価に、サーレーはいっそ感心した。
「せっかくきたんだ。歓迎するぞ、と言いたいところだが………。」
今のローウェンは子供を預かっている。
大切なよそ様の子供であり、裏社会の人間とはなるべく関わらせたくない。
サーレーはそれを理解し、パッショーネへと帰還した。
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「というわけで………副長、すいません!暗殺チームでは預かれません。」
「………いや、いいんだ。俺が無理を言った。済まなかったな。」
そんなわけで………。
「何見てんだゴラァ!!!」
ベロニカ・ヨーグマンはパッショーネ最大の不良債権として、今日も元気にガンを飛ばしている。