私は私を許さない   作:如月 刹那

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お久しぶりな方はお久しぶりです。息抜きに書いたものですが、ゆっくりと見ていってください。


私は私を許さない:序

 

アナスタシア・ニコラエヴナ・ロマノヴァ

 

2017年12月31日———異聞帯サーヴァントである彼女に攻められて、カルデアは崩壊した。これが人理を救ったマスターとその仲間達を襲った現実だ。

 

しかし、数多ある何処かの世界線では査問が引き延ばしにされ、様々な厄介事を引き起こす者がいれど、割と平和な日常を送れたカルデアもあった。

 

ならばこれも運命(Fate)か。

 

これは、大切なものを奪われた皇女(こうじょ)と大切なものを奪った皇女(こうてい)の闘いである。

 

 

 

 

 

 

彼との出会いは、普通の聖杯戦争ではなかった。私が召喚されたのは、辺りが炎に包まれ、廃墟と化した街。目の前にいたのは、まるで未熟な魔術師。闘いとは無縁そうな、平凡な男だった。それでも彼はその身を震わせながら、私にこう言った。

 

「力を貸してくれ」と。

 

彼は率直に言えばドが付くお人好し(人誑し)だった。サーヴァントである、私をただの人の様に接して。だからこそ恐れた。もう一度、大切なものを失うことを。

 

「近付かないでください」

 

彼はそれでも私に接してきた。それと同じ様に彼の後輩(?)である、マシュ・キリエライトも話しかけてきた。まあ最初に召喚されたサーヴァントは私ですし、あまり仲が悪そうに見えても、他のサーヴァント達への影響がありそうですしね。そこへの配慮はしましょう。

 

「まぁ……壁越しに喋るくらいなら、構いませんが……」

 

彼は楽しそうに笑う。それがどんな虚勢であろうとも、周りを安心させるために。大切な後輩を守るために。仲間達と未来を見るために。弱音を吐かず、人類史を歩み続ける。……少しはサーヴァントとしての役目を果たした方がよろしいでしょう。

 

「まぁ……同じ部屋に居るくらいなら、良いです……」

 

彼は至って、普通の人だ。魔術礼装がなければマトモな魔術も使えず、それでも世界を救う為に頑張っている。けれど、普通だからこそ……責任や重荷は彼を縛り付ける。私がそれを支えてあげたい。

 

「あらマスター、いらっしゃい。ちょっと待ってね。今、お茶を淹れるから。皇女といっても、末期は自分独りで色々とやれるようになっていたのよ」

 

彼は———平凡で、お人好しで、普通で。私にとって最高のマスター。いつの間にかに、私の心の(かべ)は溶かされていた。マスターも、周りの人達も、お姉様方達の様に大切な存在になっていた。ならば、私は———。

 

「掴んだ手を、離さないで……。私の目の届く所に居て。私の声を聞いたら、いつでも返事をして。私はもう……失いたくないの」

 

———この命尽きる時まで、貴方をお守りします。

 

 

 

 

 

 

素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。

 

降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。

 

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

 

繰り返すつどに五度。

ただ、満たされる刻を破却する

 

———告げる。

汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。

 

誓いを此処に。

 

我は常世総ての善と成る者、

我は常世総ての悪を敷く者。

 

汝三大の言霊を纏う七天、

抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ———!

 

 

 

「サーヴァント、アナスタシア。召喚の求めに応じ、ここに参上したわ。久しぶりね!再び、貴方を守り続けるわ!」

 

クリスマスが終わりを告げ、マスターとのお別れを果たし、名残惜しいもののカルデアから退去をした私。こうして再び召喚されたことを嬉しく思いながらも、先程から嫌な予感がしてならない。

 

———地獄すら生温い現実が、すぐそこに迫っていた。

 

 

 

 

 

俺の名前は藤丸立香。様々な経緯があって、人理修復をすることができる最後のマスターになってしまった。ドクターやダヴィンチちゃんはすごく申し訳なさそうにしていたが、俺は後悔はしていない。確かに人理修復するのに、色々な傷を負い、死を目の当たりにし、大切な人も失った。それでも色褪せない、濃い2年間だったと思う。

 

自分を慕ってくれる後輩(マシュ)、司令官代理や技術顧問など影から支えてくれた万能の天才(ダヴィンチちゃん)、1番最初に召喚に応じてくれた彼女(アナスタシア)に、数多の英霊(なかま)、カルデアのスタッフ達、皆のお陰で未来を掴めた。

 

特にアナスタシアにはお世話になった。最初はかなり拒絶的な態度を取られたものの、特異点を駆け抜けて、時間を過ごすと共にかけがえのない存在となった。自分が挫けそうな時も、ずっと支えてくれた優しい皇女。

 

お転婆で、ちょっとワガママで。

 

そんな彼女(ナースチャ)のことが好きだった。

 

結局、本人には言えなかったけどね。マシュと言い、2人して積極的に迫ってきたから、比較的平和な時はかなり心臓に(別の意味で)悪かった気がする。

 

退去前に告白しようとも思ったが、自分は人間で彼女はサーヴァント。彼女を俺で縛り付けていけない。また会おうと約束してお別れをした。

 

———だからこそ、あの光景は忘れることができない。

 

 

 

 

 

シャドウボーダー内で、備蓄に余っていたなけなしの聖晶石で召喚できるかを、ゴルドルフ新所長の判断を元に実行した。召喚は成功した。

 

「あら?随分と殺風景な場所ね。カルデアではないのかしら?とりあえず、マスターにお茶でもご馳走してあげたいのだけれど」

 

プンプンと効果音が聞こえそうな可愛らしい仕草で、アナスタシアはそう告げた。彼女は悪くない。あの(・・)アナスタシアとは別人だ。そう皆は頭では思っているが、実際は警戒している。立香自身も今、どんな目でアナスタシアを見つめているか分からない。

 

「……なにかしら、この空気。随分と張り詰めているみたいだけど、どうかしたかしら?」

 

そう問いかけるが、誰も答えない。否、答えることができないのだ。彼女に言ってしまえば、きっと彼女は耐えられない。ここで黙っているのは決していい結果にはならないが、最悪の結果になることもない。だからあのホームズも、黙りを決め込んでいる。

 

だが、その均衡を破ったのは良くも悪くも、ゴルドルフ新所長だった。

 

「な、なぜ貴様がここにいる!!」

 

青い顔をして、新所長が驚いていた。無理もないだろう。ゴルドルフ新所長はあと数秒遅れていたら、この少女と同じ人物に氷漬けにされていた。

 

実際、俺とマシュが助けに行かなければ……。

 

「新しいカルデアのスタッフかしら?私の名前はアナスタシア。アナスタシア・ニコラエヴナ・ロマノヴァ。ロマノフの皇女よ。よろしくね」

 

そう言って、アナスタシアはゴルドルフ新所長に微笑みかけるが、新所長は青い顔から一転、顔に怒りを浮かべていた。そして怒りのままに、崩壊の言葉を放とうとした。

 

「なぜ貴様がここにいるかと聞いている!貴様は……!「ダメです!ゴルドルフ新所長!!」カルデアを崩壊させたサーヴァントだろう!!」

 

その言霊が放たれて、一瞬で空気が凍り付くのが分かった。アナスタシアは、言葉の意味が理解できていないようだった。

 

「私が……カルデアを崩壊させた……?」

 

「そうだろう!私だって間一髪だった!殆どのカルデアのスタッフを殺し尽くして、カルデアを凍結させた!」

 

「それ以上はダメです!!アナスタシアさんが!!」

 

マシュが止めに入るが、時既に遅し。アナスタシアは信じられないという顔をしている。周りに眼を回す。スタッフ達の目は大小あれど、警戒、畏怖の眼を向けている。

 

次に救いを求め、縋り付いてきたのはマスターである、俺だった。

 

「ねぇ……嘘でしょマスター?私がカルデアを……大切な皆を手にかけただなんて……。嘘だと言って……立香(マスター)……」

 

立香は目を逸らしてしまった。本来ならそこでアナスタシアの言葉を受け止めて、答えてあげるべきなのに。それを解と受け取り、アナスタシアは顔を絶望に染めていく。

 

「あぁぁ……。わ……たくしは……みんなを……たいせつなひとたちを……」

 

身体も声もガタガタと震わせていく。流石にその様子にゴルドルフ新所長も、あのアナスタシアと別人と認識したようだ。スタッフも我に返り、立香も声をかけようとするが———。

 

「ああぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ」

 

悲痛の叫びを上げ、そのまま霊体化して、この場を去っていった。このまま1人にしたら、どうなるか結果に見えていた。立香はその場を皆に任せて、アナスタシアを追いかける選択をした。

 

「……っ!俺っ!行ってきます!」

 

「ちょっ……待ちたまえ!……彼女は本当にあの時のやつとは別人なのか……?」

 

ゴルドルフ新所長は沈痛な雰囲気を漂わせながら、ダヴィンチに問うた。その答えはすぐに帰ってきた。

 

「……勿論だとも。彼女は人理修復を始めた時からの仲間でね。最初はツンツンした態度だったが、そのうちスタッフ達のカウンセリング相手などで随分助けられたよ。皆を家族のように接してくれたのさ」

 

「私は何も知らずに、彼女に酷いことを言ってしまったのだな……。後で謝らなければ……」

 

「ええ。ですが、今はMr.立香に任せましょう」

 

 

 

 

 

追いかけた先は期せずも、自分のマイルームだった。一瞬、入ることを躊躇ったが……。

 

とりあえずノックだけして、入る意思を表明した。

 

「入るよ、ナースチャ」

 

部屋の中に入ったが、真っ暗だった。当然ながら、シャドウボーダー内の電力は有限だ。自分がいない時に、電気を付けるなど以ての外である。

 

目を凝らした先……ベッドの上にアナスタシアが佇んでいた。そのままアナスタシアの元に向かおうとしたら、不意にアナスタシアが呟いた。

 

「私の」

 

「ナー「私の手を掴まないで」っ!!」

 

「私の目の届くとこから離れて」

 

「私の声を聞いても返事をしないで」

 

「私はもう」

 

気圧されて、そのまま壁にもたれかかり、部屋の電気がつく。

 

「何も失いたくないの………………」

 

目から光が消え失せ、壊れたように微笑み、涙を流している姿が照らされる。心が壊れた姿が、映し出される。その姿に何時かのアナスタシアはなかった。

 

俺は、勢いのままナースチャを抱きしめる。

 

「ごめんっ……!ナースチャが1番辛いのに……!俺は目を背けてしまった!俺が1番支えないといけないのに!ずっと支えてくれたナースチャのマスターなのに!」

 

「私に近付かないで……」

 

ナースチャは身体を震わせながら、そう呟くだけだった。自分の不甲斐なさに反吐が出る。何が人理を救ったマスターだ。好きな女の子1人守れない。

 

「……ナースチャ。俺はもう君のマスターである資格がない。ただ1つだけ言わせて欲しい」

 

虚ろな目をしながらナースチャはこちらを向く。その目に……どこかにナースチャの意思があると信じて。

 

いつかエミヤが話してくれたことが、少しだけ分かったかもしれない。きっと根本が違うのだけれど。

 

「俺は君のことが好きだ。君のことが大切だ。俺はもう君を裏切らない。俺はナースチャだけの【正義の味方】になるよ」

 

———いつしか、どこかの正義の味方が、大切な後輩に言った言葉。彼は、その呪いの言葉を受け継ぎ、1つの結末に辿り着いた。きっと1つの幸せの形に辿り着けたのかもしれない。

 

———けれど◼︎◼︎◼︎◼︎と藤丸立香は違う。◼︎◼︎◼︎◼︎は呪いの言葉で正義へと妄信したが、藤丸立香は普通の一般人だ。人理修復を成し遂げたとは言え、その心の在り方は変わらない。ただの平凡な人間だ。

 

……その先は地獄だぞ、マスター。君は……俺のようにはならないでくれ……!

 

そんな声が何処かで木霊する。しかし、藤丸立香にその声は届かない。

 

ナースチャは安心したかのように、俺に抱きついてきた。そのまま身を委ね、睡魔に誘われる。

サーヴァントは寝ることはないが、精神的に疲れたのか、そのまま安らかな寝息をたて始めた。

 

「もう俺は離さない……。ナースチャを支え続けるよ」

 

シャドウボーダー内の一室は再び、暗く、闇に沈んでいった。

 

壊れ始めた歯車は、もう戻らない。




ど う し て こ う な っ た。

どうも初めましての方は初めまして。お久しぶりな方はお待たせいたしました。作者の如月刹那と申すものです。

最後に作品を投稿してから数年。やっと書いたものを出せました。いや実際はインスピレーションが湧いたから、ちょちょいと一気に書き上げたものですけどね。

元からFate作品は出したいなーと思ってました。ですがネタはたくさんあるけど何を書こうか迷う。なら元々1つの案が浮かんでいたので、それを出すことにしました。

アナスタシアを題材にして、何かを書きたいなーと思っていた所存でして、前にカドアナとぐだアナでコタツを囲みながら、お互いのアナスタシアが惚気合うという物を書こうとしましたが、残念ながら没行き。まあ実際は割とお世話になっている掲示板で、そのような話があったのでそんな感じのが頭に上がってました。ダブルデートとかも、構想があったりなかったり。

今回の話もどこかで似たようなのを見かけた話でして。「うちのアナスタシアは人理修復前に呼んだんだ!」と言うのものを目にして、いっそのこと最初に呼んだらどうなるんだ。と組み立てて、今回の物語を書きました。

まあ予想はできてる方は多いとは思いますが、このアナスタシアさんは絆10想定です。異聞帯のお堅い感じではなく、本来のお転婆な皇女様です。コタツの民です。ナースチャはアナスタシアの愛称です。

あとは少しだけエミヤこと衛宮士郎についても絡めてみました。私は衛宮士郎と言うよりは男性キャラで断トツにエミヤが好きなキャラに入るのですが、何が好きかってその在り方が好きなんですよね。

正義の味方と貫き通して、その末があの心象風景。原作をまだやってない身としては完全に理解しきれていないところもありますが、凄く惹かれるキャラです。

そして辿り着いて出会えたのが、カルデアの藤丸立香。カルデアではサンタムなどとかなりハッチャケたりしてますが、それも抑止力にこき使われるより、安心して過ごせてる姿でもあると思うんですよね。実際、藤丸立香に対してかなり親密的に接してますし。新米魔術師だった頃の自分と重なったりと、思うところがあるんでしょうね。

そしてエミヤにとって、藤丸立香は1つの【正義の味方】の形でもあったんだと思います。見知らぬ人のためにでもなく、世界の為にでもなく。自分が生きたいから、皆と未来を見たいからという、自己優先で、それでも助けたい人は助けるという信念の元に動く姿は、エミヤもとい衛宮士郎にとって憧れの対象なんだと。

けれど藤丸立香は自分にそんな自覚はなかった。ただ生きたいからやったと。藤丸立香は衛宮士郎じゃない。藤丸立香という、普通の男の子(女の子)は決して正義の味方にはならないと思うんです。あれは一般人が背負うには業が深すぎる。

ていうか、元々こんな展開にする気なかったんですよ!本当は汎アナvs異アナでちょっとバトってもらう予定だったんですよ!
でも、アナスタシアみたいな美少女が絶望する姿をちょっと見たいな。見てみたくない?みたいに進めたらいつの間にかに、つい絶望のドン底だよ!オマケでぐだ男にも堕ちてもらいました(愉悦)。

決して当方は愉悦部ではありません!信じてください!

てなわけで後書きも長々と書きましたがここまで読んでくださいましたか?ありがとうございます。あなたのお宅にラフムを贈りました。どうぞご活用ください。

不定期更新(多分)ですが、流石に短編なのでササッと完結したいと思います。できるかなー?出来ると信じたい。

ではもう一度。ここまで読んでくださり、ありがとうございました!誤字脱字などがあれば、容赦なく追求してください。

PS.私はカドアナもぐだアナも好きです。4人がハッピーエンドになる姿がいいよネ!(そうなるとは言っていない)
この作品が終わったらぐだアナ(+α)で行く各種聖杯戦争とかも面白そうかも?
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