勇者たちをイチャイチャさせたい!   作:紅氷(しょうが味)

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story2『その後の僕たち』

ある日の昼下がり。僕は自宅で昼食の準備をしていた。

真新しいキッチンには様々な器具が備え付けられており、とても快適に料理がすることができるこの空間はお気に入りだ。

 

「…ん。イイ感じ」

 

味見をして納得のいくものが出来たら二人分に盛り付けてリビングのテーブルへ運ぶ。

そこにはまだ彼女の姿はどこにも見られない。なので僕はその足で隣の部屋に赴く。

 

「────♪」

 

寝室に彼女は居た。

ダブルベットの上でゴロゴロとしている金髪の女の子。名を乃木園子。

長く艶のある金髪を揺らしながら何やら作業中のようだった。

 

「園子ー、お昼ご飯できたよ」

 

呼びかけるが応答がない。

近寄ってみると両耳にイヤホンをしており、そのせいでこちらの声掛けに気がついていないようだった。

 

「……ずいぶんと集中してるな」

 

真横に来ても僕の存在に気がつかないところを見るに相当集中しているようだ。

普段のぽわんとしている雰囲気は消え、真剣な表情を浮かべているその横顔はとても珍しいものを見ている気分になる。

一体何をしているのだろうとタブレットの画面を見ようとしたところで園子と視線がぶつかってしまった。

 

「…あ、ゆっきー?」

「ご飯できたから呼んでたんだよー。なにしてたの?」

「ごはーん♪ ごめんね気が付かなくてー。ちょっと考え事してたんよー」

 

イヤホンを外してニコニコしながらベットに腰かけて言う。

 

「考え事? ってことはタブレットで調べものしてたのね。今日は焼きそばだよ」

「わぁい! 焼きそば~♪」

「なので食べる前に先に手を洗ってきなさい」

「はーい!」

 

間延びした声で園子は手を洗いに寝室を後にした。

僕も準備しようと立ち上がろうとしてふと園子のタブレットの画面に目がいってしまった。

 

「────ん? これは……」

 

点けっぱなしの画面にはとあるサイトが開いたままであった。その中身を見て僕は疑問符を浮かべる。

 

「…気になるあの子との距離を縮める方法百選? 恋愛関係のサイトかこれ」

 

関係性のある調べものをすると大抵出てくるその手のサイトを園子は閲覧していたようだ。

それを意味するのは僕との交際に関してのあれこれなのか、はたまた別の目的故なのかは分からない。

 

(もしかして、園子は僕に何か不満に思ってることがあるのか……?)

 

彼女の身体も元に戻り普通の生活が行えるようになってきてしばらく、それなりにスキンシップをとってきたつもりだったがなにか不満が残ってしまっていたのだろうか。

 

「おまたせー! ってゆっきー何してるん?」

「え? いや、なんでもないぞ! ささ、食べよう!」

「うん♪」

 

ひらひらと手を揺らしていつのまにか戻ってきた園子と一緒にリビングに足を運んだ。

食卓には焼きそばをメインに小鉢をいくつか用意してある。

椅子に腰掛けて向かい合わせで園子が座る。

 

「いっただきまーす!」

「いただきます!」

 

手を合わせて食事を始める。園子は食べる前から嬉しそうに目を輝かせて箸を手にして食べ始めた。

この前までの様子を思い出し、僕にとっては彼女の楽しむ姿は自分のことのように嬉しくなる。

 

「おいしー♪ はむ」

「…ほんとに美味しそうに食べるなぁ園子は。作った甲斐があるよ」

「もうゆっきーのご飯無しじゃ生きていけないんよー。嫁にきておくれー!」

「それを言うなら婿だ。まぁもう殆どそんな感じだけどね僕ら」

「よせやい、照れるぜ」

 

はにかみ、園子は上品に焼きそばを食す。僕の言葉はその通りで現在は前の家を引き払い、乃木家と大赦の計らいにより二人で住まう家を用意されてそこに一緒に住んでいるのだ。

事の経緯は園子が寝たきりから復帰を果たし五体満足になったところで、すぐに彼女が行動を起こしたのがきっかけである。

 

──これからはゆっきーと二人で住みます。

 

と、大赦に告げて彼女はその足で実家に行き両親を説得してみせたのだ。

『乃木』の家柄は絶大な影響力を及ぼす。しかもそこの長女であり勇者であった彼女は下手をすれば自身の両親以上の力を持ち得る、そんな女の子なのだ。

最初にその話を聞かされた両親は困惑している様子を見せたが、僕も一緒にその場に赴いて胸の内の想いを二人に話をして納得してもらった記憶が新しい。

 

「──私達は出来る限りサポートしよう。娘の大変な時に何も出来なかったせめてもの償いだ」

「娘をよろしくお願いします。祐樹さん」

 

本当は無理言っていたのは僕たちのはずなのに、逆に感謝すらされる始末に僕が困惑していた。

園子の両親はあの時のことを今でも悔いていたようだった。祀られていた、その時に彼女の両親はどうしても非情になりきるしかなかったと聞かされた。

 

お互いの腹を割った話し合いを得て、今は良好な関係を築けている。

予定が合えば両親を交えて食事をしたりするし、僕も個人で父親に会いにいったりしてる。

あの人の下でいるととても勉強になるからだ。

まぁ、今こうしてうまくやれていることは良いことだ。学校にも通えて『勇者部』の人と、かつての仲間である東郷とも仲良くしてるようで安心してる。

 

「……ん! この煮物、わっしーの味がする!」

「お、正解っ! 昨日たくさん作ったみたいでそれをもらったんだ。一日寝かせたから味が染みててうまいでしょ?」

「またこうしてわっしーやゆっきーの手料理を食べられるなんて幸せだぁ〜♪ 」

「よせやい、照れるぜ」

「ぜ〜!」

 

園子と同棲を初めて笑わない日は無いぐらい楽しい生活を送れている。だからこそ彼女には不満を持って欲しくない、と考えてしまうことは悪いことだろうか。

会話の片隅で先ほどのことを考える。恋愛、恋と愛。果たしてそれらを僕らはキチンと育んでこれているのだろうか。

 

「なぁ、園子。何か悩んでることある?」

「悩み事ー? はてー?」

「いや、さっき部屋で真剣に何かしてたからさ」

「あー! あれねー。確かに行き詰まってたよー」

 

やはり、と園子が閲覧していたサイトを思い出す。

出来る限り一緒に行動するようにしていたし、出歩くときは手を繋いたりもしてる。それでも何か物足りなさを感じてしまったのか。

 

「すまん園子。僕が不甲斐ないばかりにキミに辛い思いをさせて…!」

「んんー? ゆっきーは何も悪くないよー。どちらかと言えば私の問題かな?」

「…そんな!?」

 

戯けた様子で園子はああ言うが、まさかそこまで思いつめていたとは…!

僕は歯を食いしばって悲観していると、何かを察したのか園子は「あぁー」と声を漏らしていた。

 

「ゆっきー」

「な、なに──んぐっ!?」

 

呼ばれて顔を上げた途端に、口に何かを入れられた。

いや、これは東郷からもらった煮物の里芋だ。園子は箸を僕の口から離すと、そのまま自分も里芋を口にした。

 

「今日は二人ともお休みだから、この後付き合ってくれるー?」

 

咀嚼し、飲み込んだところで園子は言ってきた。

 

「えっ? あ、うん。もちろん」

「よかったー♪ じゃあ、ちゃちゃっと食べちゃおー!」

 

彼女のお願いは無理難題でない限りは断らない。けど、たまに突飛な行動、思いつきに振り回されたこともある手前少し不安を感じた。

 

 

 

 

 

昼食を食べ終えて一緒に後片付けをした後に、僕と園子は寝室に戻ってきていた。

お互いがベットに腰掛けて今は肩を寄せ合いながら共通のある事をしていた。

 

「──♪」

「…へぇ」

 

お互いの片耳にイヤホンをつけてそこから流される音楽に耳を傾けていた。それは聞き覚えのある歌声でご飯の前に園子が聴いていたものの正体が分かった瞬間でもあった。

 

「樹ちゃん、また歌うまくなったね」

「でしょー♪ もう私のお気に入りなんよ。将来は絶対人気者になるねイっつん!」

 

ノリノリでその歌を聴く園子を見ながらその評価は間違っていないと思った。

歌手や最近の曲はよく分からないけど、こうして身近な人が歌っているものを聴くと音楽も悪くないなぁなんて考える。

 

「…ん。ゆっきー?」

「あ、ごめん。嫌だった?」

「ううん。もっと撫でてー」

「ああ」

 

隣で見下ろす彼女のさらさらとした髪を見て思わず梳くように撫でてしまった。

けれど嫌がる素振りを見せずにむしろ頭を撫でやすいように園子は動く。

喉を鳴らしてまるで猫のように、園子は目を細めて僕の行為を受け入れてくれる。肩にもたれかかってきてとても心地好さそうだ。

 

「園子って撫でられるの好きだよね。この前も東郷にせがんでたし」

「落ち着くんよ。ミノさんにもよくしてもらってたんだー」

「そうだったね。三人の中だと誰が一番?」

「みんな一番だよー? んーと。わっしーは優しいなでなでで、ミノさんは安心するなでなで。そしてゆっきーはー……」

 

肩から離れてこちらを見てきて、園子は満面の笑みを浮かべた。

 

「──幸せになるなでなでだよ」

「…そ、そう?」

「あは。ゆっきー顔真っ赤っかー♪」

「か、からかうなよ!」

「ふへへー…あっ! これイイ!」

「へっ?」

 

ぴっかーん、と瞳を光らせてどこからか手帳とペンを取り出した。

かと思えばそのまま何かをスラスラと書き始めて余計に疑問符を浮かべてしまう。

まるで世紀の発見をしたかのような、そんな希望に満ちた反応であった。

 

「──ふぅ。あ、ごめんね急にー。はい、どうぞ♪」

「え? 今の行動は一体──」

「んー!」

「お、おう」

 

一仕事終えたような表情をして、再び頭を差し出してくる。

僕はまた先ほどと同じように髪質の良い園子の頭部に手を乗せて撫でていく。甘え上手だな。

 

「今のはー…小説のネタが閃いたから書いたんだよ。こう、ぴっかーんと!」

「あー、そういえば書いてたんだっけ。園子の小説かぁ…」

 

趣味の範疇でそういうのをやっていることは知っていたが、どのジャンルの、どういった内容の作品を書いているのかまでは聞かされていない。

 

「ゆっきー見たいのー?」

「見せてくれるの? だったら見たいかなぁ」

「ふーむ。ゆっきーはそっち方面もイケる口なのかね?」

「…ん? くち?」

「いいよー♪ じゃあ、完成したら一番に見せてあげるね!」

「うん? ありがとう??」

 

なにやら理解し得ぬままに、園子は読ませてくれるらしいがどうもセリフからして何かありそうだけど…?

 

(園子のことだからファンタジー系とか? いや、案外ミステリー物だとか…むむ)

 

イマイチ傾向が読めないものであるが、それ故に楽しみでもある。

 

「ふぁー…ゆっきーの手暖かくて眠くなっちゃうんよー」

「食べたあとすぐに寝ると牛になるぞー」

「うしー…ぎゅー……ゆっきーぎゅー!!」

「わっ!? ちょ──っ!」

 

ぎし、とベットのスプリングの軋む音が耳に届くと僕の身体は仰向けに倒されていた。

同時に身体にもう一人分の重りが加わって肺から空気が強制的に吐き出されてしまう。

吐き出された空気を補充しようと息を吸うと、甘い香りが鼻腔をくすぐる。

 

「…そーのーこー?」

「ぎゅー…ぎゅーー♪ わぎゅー!」

「そんなに抱きしめられると苦しい、ぞ……ぐえ」

「あははー! サンチョみたいな声出てるよゆっきー」

「むっ、こうなったら……こちょこちょこちょ」

「ひゃ!? わははー! くす、くすぐったいよゆっきーー!」

 

二人ベットの上でじゃれあう。これも二人で暮らし始めてからほぼ毎日のようにやっている光景だった。

大体が園子からちょっかいを出してきて僕がそれにノる。たまに僕から行くとそれはもう咲いた花の如く笑顔で迎え入れてくれる。

 

「むっこら逃げるな園子。烏天狗、園子が逃げないように抑えるんだ」

『……。』

「あ、二対一なんて卑怯だよぉ~! ぎ、ギブギブー!!」

 

園子の精霊の烏天狗が現れ彼女の逃げ場を塞いでくれる。普段は彼女を守る精霊だが、こうして害がないことが分かるとわりと僕の言うことに従ってくれるのだ。

日々のお世話の賜物である。

 

ひとしきり堪能した僕は園子を解放する。息を荒げて瞳を潤ませた姿は何やらイケナイ光景に見えなくもないが、やっていたことは小さな子供がするような事だと言わせてもらう。

 

 

…そういえば、なにか忘れているような?

 

 

 

 

 

僕と園子は現在外出している。今日は天気も良く、二人で歩くにはとても過ごしやすい日だ。

るんるん気分で隣を歩く園子はとても楽しげで見ているこちらの気分も上がる。

 

「ゆっきーとお買い物デート〜♪」

「僕は食材と日用品の買い出しだけどねー」

「好きな人と出かけるところはそれが全てデートコースなんよ。あ、イネスに行こうよゆっきー!」

「はいはい。ちゃんと前向いて歩くんだぞ」

「ふっふっふ。こうしてゆっきーと手を繋いで歩いてるから大丈夫ー♪」

「ほんとかなぁ」

 

今も言いながら顔をこちらに向けて話す園子に転ばないか内心ヒヤヒヤしつつ、目的地となったイネスへと足を運んでいた。

本当は近所のスーパーなどで済ませる予定ではあったけれど、こうして園子の気分で変わることもしばしば。

 

それが嫌だとか思わないし、むしろこうやって手を繋いでいる時間が増えるので僕としても願ったり叶ったりというわけである。

 

「イネスに行ってー、ジェラート食べたい!」

「ジェラート大好きだな園子は」

「好きだよー。だって〜大切な親友が教えてくれた味だからね」

「…同感。今度東郷も誘ってみるか」

「お、ナイスアイデアだよー♪ さっそくわっしーに…」

「今からは無理だよさすがに。東郷も予定あるって園子昨日話してたでしょ?」

「あ! そうだったー。ついうっかり」

 

てへ、とあざといポーズをとる園子であるが、様になってるのでとても僕の目には可愛く映っていた。惚れた弱みもあるだろうけど…。

 

照れ臭くなって視線を明後日の方に向けて歩く。

 

「ん〜。スズメ×ハト……ハト×スズメ? 種を超えた禁断の愛…」

「……、」

 

しばらく風景を楽しみながら歩いていたら横からぶつぶつと園子がよく分からないことを呟き始めた。

目線をそちらに向けると、ぽやーって感じに空を飛ぶ鳥たちを眺めていた。

 

「鳥たちの観察してるの?」

「…こうやって色んな視点で物事を観察すると思わぬ収穫を得る場合があるんだよー。ゆっきー×烏天狗とか?」

「えっ!? わ、いつのまに…こら、外だと勝手にでちゃダメだろ烏天狗」

「烏天狗は私と一緒でゆっきーのことが大好きだね〜♪ 私も抱きつくー!」

「ちょ──! キミは飼い主なんだからむしろ止めなさい!」

 

ふわふわと漂う烏天狗を捕まえると、園子が僕に抱きついてきた。

いやいや、キミはむしろ止める側にならないとダメでしょ…。

 

 

 

 

 

 

 

多少回り道をしながらようやく僕たちはイネスへと到着する。

園子はたまに悪ノリをしてしまう時があるので抑えるのが大変であったが無事にたどり着くことができた。

 

イネス。

 

このショッピングモールは僕たちにとって短いながらに思い出の場所でもある。

手を繋ぎながら店内を歩く僕と園子はあの頃より二年以上もの月日が流れていた。

当時の視点から見えていたものが、まるで別のもののように見えてしまうのは時の流れゆえなのか。

 

まぁ、この前までと比べると園子も回復してからはよく顔を出すようになってきたので店内はそれほどの変化はみられない。

 

『うっし、今日も隅々まで堪能し尽くすぞー!』

 

園子と会話を弾ませながら瞼の裏にはあの子の楽しむ姿が思い浮かぶ。

もうあの頃とまったく同じには戻れないけれど、全てを手の平から零してしまうことにはならなくて本当に良かったと思う。

彼女が──彼女たちが守ってくれた日常は今もこうして続いている。

 

「おいし〜!」

「うん」

「ゆっきーのも食べたい」

「はい。どーぞ」

「ありがとー♪ 私のも食べて食べてー」

「…ん。うま」

 

席について一息つこうとジェラートを二人で食べていた。

ざっと店内を見渡すと休日もあってかそれなりの賑わいを見せている。

園子は満足気に両足をプラプラさせて舌鼓を打っているようで来た甲斐があったというものだ。

 

「そういえば私のワガママでイネスに来ちゃったけど、買いたい物ここで買えるのかな?」

「えーと……うん、大丈夫だと思うよ。仮に売ってなくても急ぎの物は特にないし……園子は買いたいものあったりする?」

「私ー? ん〜お花が欲しいかな」

「花か…確か花屋があったよね。なんの花を買いたいの?」

「牡丹のお花ー! 実は既に予約してたりして」

「いつのまに……ってことは最初からイネスに来る予定だったんだね」

「ごめんね」

「謝らなくていいよ。僕も園子とこうしてデート出来て嬉しいし……牡丹の花ってことは帰り道はあそこに行くってことでいい?」

 

僕の言葉に園子が頷く。そうしてジェラートを食べ終わって席を立つと僕と園子は手を繋いで花屋へと足を運ぶ。

 

花屋に近づくにつれて特有の甘い香りが漂ってきている。

店先まで近づくと小走りで園子が向かっていった。

 

「おばさまー! お花買いに来たよ〜」

「あらー園子ちゃん。いらっしゃいー、今日は一人なのかい?」

「今日は旦那と一緒なんよ~♪」

「じゃあこの前に話してた子かい! ……あらまぁ、可愛い顔の旦那さんだこと」

「こ、こんにちは。園子、店員さんと知り合いだったの?」

 

園子のノリに平然とノってみせる店員のおばさん。流石としか言いようがないがそこはツッコムべきところである。

というかいつの間にここの店員と仲良くなっていたのか不思議だ。

僕の疑問を悟ったのか園子はにこにこと話してくれる。

 

「うーんと、退院して初めてこのお店に来た時からだからわりと最近かなぁ。とっても良くしてもらってるよー」

「えらい綺麗な女の子がいるとおもったら、うちの花に話しかけてるんだもの。『君は元気な子かいー?』ってさ! 面白い子だよ」

「えへへーそれほどでもー♪」

「…はは。なんというか」

 

らしいと言えばらしいなぁ、なんて考える。でも園子のような感じの子ならおばさん受けがいいのかもしれない。

あと僕一人で行ったときに先に供えてあった花はここで購入していたらしい。大赦に頼めば用意してくれるものの一つではあるが、自分の手で見つけて用意したい園子の気持ちが見て取れた。

 

「ちょっと待っててね。すぐに用意するから」

「はいー! ゆっきー、このお店綺麗なお花いっぱいあるでしょー」

「うん、確かに種類豊富なようだし……このバラなんて園子好きそうじゃん」

「えへー♪ ゆっきー選んだの私のお気に入りなんよー。さすがぁ」

「ふふん、まーね」

「はいはいおまたせー! 今回もそのまま供えられるようにしといたからね」

「わぁ、いつもありがとうございますー♪」

「僕が持つよ」

「うん、じゃあ私はお金払ってくるねー」

 

おばちゃんが手に持っている花束を園子の代わりに僕が受け取る。

その際に僕に耳打ちしてきて、

 

「将来結婚する予定ならうちの花屋を贔屓にしておくれ。式用のものも取り扱っているからね」

「……その時はお願いします」

「あらやだよぉ、顔赤くしちゃって可愛いわ」

「なになに二人で何話してるの〜?」

 

ちゃっかりしているおばちゃんである。

会計を済ませた園子がこちらに来るが僕はなるべく平穏を保ちながら「なんでもない」と誤魔化す。

 

「うちを贔屓にしておくれーって話だよ。ほら、行こう園子」

「えーそれにしてはなんで顔真っ赤なのゆっきー? あ、おばさままたね〜!」

「はいはい、またよろしくねー」

 

くつくつ笑う店員を他所に僕はそそくさと店を出て行く。

 

「ねぇ、ゆっきーゆっきー。おばさまと何を話してたのー?」

「うっ……いや、まぁその。仲良く…やりなさいよ、って感じかな」

「ぶー違うでしょ。ゆっきーそれくらいじゃ赤くならないもん」

 

よく分かってらっしゃる。視線を隣にいる園子に向けるとバッチリ目が合ってしまう。

 

──結婚。

 

おばちゃんに言われたこの二文字の単語が思い浮かんで心臓が脈打つのがわかる。

 

「…おばちゃんに」

「おばさまにー?」

「…………け、結婚するときはうちの花を使ってくれって……言われた」

 

口に出して恥ずかしくなりそっぽを向く。

 

「…………、」

 

園子が立ち止まって同じように僕も歩みを止める。

彼女が今どんな顔をしているのかは分からない。笑っているのだろうか、おかしく思っているのだろうか。はたまた僕と同じように嬉しく思っているのだろうか。

 

様々な感情が渦巻く中で、恐る恐る園子を見やる。

 

「……さらさらさららー、と」

「なに、してるんだ?」

 

そのどれもが思っていた反応と違った。メモを片手に何やらものすごい勢いで書き連ねているではないか。

僕の動揺に園子はハッと気がついて、

 

「あ、いやー…いいネタが思いついたわけでー…あはは」

「そ、そうなんだ? しょ、小説のやつ?」

「う、うん…えっと……はい」

 

いや、そこはそのままのキミを貫いてくれー…とは言えずお互いの言葉がぎこちなくなってしまっていた。

園子は両手をもじもじと、しおらしくなっていて余計に意識させられてしまう。

 

「ゆっきーは……私と結婚したいん?」

「…うん。将来はそういうのも考えてはいる…よ」

 

まだ先の──けれど遠くない未来、きっと僕たちが辿り着く場所なのだろう。

流石にこの年でこんなことを言うのは気持ちが重いだろうか。でも僕の中で誓いを立てたあの頃からは何ら変わっていない。

 

──乃木園子の側にいる、と。

 

「…これからも一緒に居てくれるの?」

「もちろん。もうこの手は離さないよ」

「そっかぁ……えへへ、じゃあまずやらなきゃいけないことができたねー」

 

僕の腕に抱きついて園子ははにかんだ笑顔を向けてきた。

 

「ミノさんに報告しないと! 『私たち将来結婚しますー』ってね」

「…だな。なら買い物はまた今度にして今から行こうか、大事な報告に買い物袋ぶら下げて行くわけにもいかないし」

「うん♪」

 

牡丹の花束を二人で見つめて僕たちはお互いに微笑んだ。

 

 




そのっちと同棲したい(願望
こんなん絶対楽しいやん?
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