勇者たちをイチャイチャさせたい!   作:紅氷(しょうが味)

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ユウキの章
story7-1『■■祐樹は■■である』


大赦が管理する施設の一つ。

そこに僕は呼ばれて足を運んでいた。

 

「──これは?」

 

疑問を投げかける。入室し連絡をよこした人物と対面するなり何かを手渡された。

…それは端末。僕は首をかしげた。

目の前の大赦所属の者は話を続ける。

 

『あなた様は唯一の男性勇者(、、、、、、、)としての資質を得られました。神樹様に見初められた、ということになります』

「……それは既に選定されたのでは? それに僕は『男』です。あり得ません」

『はい。確かに先代の勇者たちを含めそのすべてが少女が選ばれ、神樹様から賜る神力を用いて世界を守ってきました。けれどその中には大人あるいは男性が選ばれたことはなかった。…なぜ、あなた様がその中で選ばれてしまったのか』

「──僕にもわからないです。何かをしてきたつもりもありませんし、神託もない……。家柄のみを見るのであれば可能性はあるでしょうけど…」

 

僕の家柄、『神樹様』含めての話や歴史は伺っている。

僕よりはるか数百年────遠く離れた先祖は『勇者』としてその力を振るっていたことも教わった。

しかしながら目の前の人が言ったとおり、神に見初められるのはいつだって『少女』であるはずだ。

戸籍上も、生物学的にも僕は『男』である。本来ならばあり得ない、絵空ごとのような出来事(イレギュラー)が発生してしまっている。

 

────神樹様が選出方法を変えた? あるいは別の理由故か?

 

一介の男子中学生である僕には理解が及ばなかった。

それは大赦側も同じようで、今現在も真相を究明中のようだった。

 

『我々の結論は当面の間様子見、ということになりました。しかしいずれ訪れるであろう戦いにあなた様は呼ばれることになるでしょう。こちらとしても無闇に勇者を散らすわけにもいかない故、他の勇者同様の力を行使できるようにその端末をお渡しします』

「僕が……勇者」

 

当然、実感なんてものはない。あるはずがない。

それもそうだ。今代の勇者はそれぞれ『鷲尾家』、『乃木家』、そして『三ノ輪家』となっているからだ。

巫女からの神託もその通り。御三家以外の勇者は確認されなかった。

僕の『家』はその枠にないことも。

 

『現状、未確認のことが多い。あなた様はお三方のフォローをする形での出撃をお願いします』

「確か僕より年下の子たちですよね?」

『はい。どうか勇者たちをお願いします────高嶋祐樹様(、、、、)

 

『勇者』。

果たしてこの言葉の中に僕のことは含まれているのだろうか。

正規の勇者でない僕は一体どういう立ち位置なのだろうか。

 

考えても、思考を巡らせても答えは出てこない。

 

この場では頷くしかないので、僕は無言のまま首を縦に振った。

 

そして話は終わり僕は施設を後にする。手には勇者になるための端末を握りしめて。

見上げると茜色の空が目に映った。

 

「……帰るか」

 

いつのまにか日も沈みかけていたので僕はこのまま帰宅することにした。

 

考えることは僕にその御役目が果たせるのか、ということばかり。

大赦によると実家に連絡はいっていたようで両親からは喜び半分、もう半分は不安があるそうだ。心境は穏やかではないらしい。

だが御役目に選ばれるということはとても名誉なこと。先祖様以降、『勇者』としての資質をもった者は『高嶋家』には現れずに今日まできた。

 

『勇者』に選ばれ、御役目を果たしていくことで家の地位は上がっていく。

決して裕福ではない家庭であるが、これが為されるのであれば息子としても大変喜ばしいことだ。

 

「──あっ!?」

「…おっと!」

 

思考に耽っていると曲がり角で誰かとぶつかってしまう。不注意の為に全然気が付かなかった。

尻もちをつきそうになっていたその子を反射的に腕を掴んで引き寄せてしまう。

 

「わぷ!?」

「ごめん、大丈夫キミ? 前を見てなかったんだ」

 

勢いもあってすっぽりと僕の腕の中に収まってしまった少女。

反応がない。咄嗟のこの対応は不味かっただろうか。

 

「…………。」

「あのー? もしもし?」

 

恐る恐る様子を確認する。

腕の中の少女は無言のまま静止してしまった状態で動かない。

どうすればいいのだろうか。

 

というよりこの子どこかで…。

 

「はっ!? 思いのほか心地が良くてぼーっとしてしまった!」

「うお!? びっくりした」

「あ、ごめんなさい! よく見ないで飛び出してしちゃって…怪我はないですか?」

「僕は大丈夫だけど、キミこそ怪我ないかな」

「アタシは大丈夫っす! 受け止めてくれたんで助かりました!」

 

ニカっと笑って頭を下げる。どうやら怪我がなくて安心した。

 

「なにやら急いでいたようだけど、何かあったの?」

「…そうだった! すみません、この辺に猫が走って来ませんでしたか? 探していて」

「猫? うーん…ここに来るまでは見かけなかったけど。キミの飼い猫なの? 逃げちゃったとか」

「いえいえ! 近所の飼い猫が逃げちゃったみたいでアタシが探してるんです。室内飼いの猫なんで早く見つけてあげないと──」

 

そう言って少女は走り出そうとする。

僕は思わず彼女の手を取って引き止めた。

 

「待って待って! もう日も暮れ始めてるし、闇雲に探してたって見つからないよ」

「でも!」

「なら僕も手伝う。一人より二人のが早く見つかるかもしれないし、これも何かの縁だと思ってさ。どう?」

「…いいんすか?」

「いいもなにも、女の子が暗くなっても探してるのは何かと問題あるし、親も心配するだろ?」

「お、女の子……えへへ」

 

なにやら照れているようだが、反応するとこが違うのではないだろうか。少し抜けている気もする目の前の少女を少し面白く思いながらも僕は猫の特徴を聞いてみる。

 

「三毛猫か。道はこっちで合ってるの?」

「さっき見かけたんですよ! えっと…」

「ああ、ごめん自己紹介がまだだったね。僕は高嶋祐樹、キミは──」

「高嶋さんっすね! アタシは三ノ輪銀っていいます。呼び方は高嶋さんに任せます!」

「三ノ輪、ね…三ノ輪っ!?」

「わ、どうしたんですか急にアタシの名前を叫んで」

 

まさかの出会いである。おかけでオーバーリアクションをしてしまうほどにびっくりした。

突飛な行動に三ノ輪は疑問符を浮かべている。

 

「い、いやごめんなんでもない。それよりも行こう」

「はい! あっ! 待ってくださいよー高嶋さん!!」

 

三ノ輪銀が示してくれた方に進んでいく。

僕が大赦から命令された所謂『護衛対象』の一人とまさかの邂逅に驚くが、いい機会でもあるので仲良くしておこうと思う。

どうあれ、戦場に赴くことになれば否応無しに手を取り合っていかないとならないからだ。

僕に何が出来るのかは分からない。もしかしたら彼女たちより劣る力しか持ち合わしていないのかもしれない。

けれど、三ノ輪の姿を見て末端の勇者として頑張らないといけない。そう思わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらく探していると、公園の茂みの中でそれらしい猫を発見した。

この辺りは野良猫も見かけたことはなかったので、間違いは無いと思う。僕は目の前の猫を呼び寄せて優しく抱きかかえると三ノ輪のもとに歩み寄っていった。

 

「──はい、きっとこの子じゃないかな?」

「おー! 高嶋さんもう見つけたんですか!? この子で間違いないです! …良かったぁー」

「この子の飼い主は何処かな? 僕が届けるよ。三ノ輪はもう暗くなったし帰った方がよくないか?」

「いえ! ちゃんと最後まで面倒みたいので気持ちだけ受け取っておきます!」

「なら一緒にいくよ。僕は猫もそうだけどキミのことも心配だ」

「ふぇっ!? な、ななななんで」

「なんでって……さっきも言ったように女の子一人にしておくわけにもいかないし、それに三ノ輪だって親に説明してくれる人間が一人いた方が都合がいいでしょ」

「あっ、なるほど!」

 

名案だと言わんばかりの納得した顔をしていた。

いや、気がつこうよと言いたいところだがグッと堪える。

 

 

「それにしても会ったばかりなのにその子妙に高嶋さんに懐いてますね」

「僕は動物には割りかし好かれやすいんだよ。こういうとき暴れたり逃げようとしないから助かる特性だね」

「いいなぁ……アタシもいろんな動物に懐かれたいです」

「こればっかりはアドバイスみたいなのは出来そうにないな」

「いえ、ありがとうございます! あっ! 飼い主の家はこっちです」

 

三ノ輪に先導されて僕たちは歩き出す。

いつのまにか日も完全に沈みきって夜の顔を覗かせていた。街灯も灯り、見知った道も色を徐々に変えていく。

そんな中、隣を歩く彼女は何やらご機嫌の様子だ。

 

「なんか楽しそうだね」

「へ? ああ……まぁ。楽しそうに見えました?」

「僕からしてみればそう見えた。何かいいことでもあったの?」

「実は……んー、高嶋さんここは内密にお願いしたいんだけど」

「秘密に、と言われれば喋らないよ。どんな赤裸々な話でも真面目に聞いてあげる」

「そ、そんなに身構えるほどのことじゃないから! …じゃあ、えっと……私の通う学校でのことなんすけど」

 

誰かと話題を共有したかったのか、ポツリポツリと三ノ輪は話し始める。

曰くクラスで前々から気になっていた子たちが居たそうだが、それぞれが近寄りにくい雰囲気を醸し出すせいか中々お友達になれなかったそうだ。

だけどそんな子たちと今日ちょっとした切欠から話す口実を得ることに成功して、ようやくお友達としての第一歩を踏み出せたという。

なんというか、微笑ましい話題だった。

 

(…楽しそうに話すな三ノ輪は)

 

暗がりでもその表情が分かるくらい、声色と共に嬉しさに満ち溢れていた。

 

 

「いいと思うよ。友達は大切にしたほうがいいからね。うまくいくことを願ってる」

「はい! …これから大変になるから頑張って仲のいい友達になります!」

 

彼女の人柄なら大丈夫だろう。

歩くことしばらく、彼女に案内された家に足を運んで僕たちはその猫を無事に送り届けることができた。

残すは目の前の少女を家に送ること。

 

「じゃあ次はキミを送る」

「えっとアタシの家は──ってどこに行くんですか?」

「どこってキミの家だよ。こっちでしょ確か」

 

三ノ輪が示すより先に僕は歩き始める。なぜ、という表情を浮かべている三ノ輪はすぐに走ってこちらに寄ってくる。

 

「どうして私の家の場所しってるんですか?」

「──三ノ輪、鷲尾、乃木家は知っている人からすれば有名だからね。僕もその手の話は伺っているってわけ」

「えっ!? それじゃあ高嶋さんは大赦の関係者ってことですか?」

「家としては関わりはあるけど、僕個人としてはあんまり好きじゃないなぁあそこ。息が詰まるというか」

「あ、すごい解ります! アタシもあそこの雰囲気が肌に合わなくて集まりがあってもぶっちゃけサボってたりしてました」

「だろうねぇ。やっぱり……」

「どうしたんですか?」

「いやいや……あ、見えてきたね」

 

飼い主の家から数分。確かに近所だけあってその場所は近かった。

三ノ輪もすぐに気が付いて僕を抜き去ると自宅の門を開けてくれた。

 

「ありがとうございました。少しウチに上がっていきますか?」

「……そうだね。ご両親にも挨拶していきたいし」

「ん? はい、じゃあどうぞ!」

 

僕の発言に疑問を浮かべているが、深く気にせずに三ノ輪は僕を案内してくれた。

家のドアを開けて僕たちは家の中に入っていくと、出迎えてくれたのは彼女の母親だった。

 

「銀っ! あなたまたこんな遅くまで何をやっていたの」

「うっ……えっとそのぉ——た、高嶋さぁん」

「もう僕に投げるんかい。あーその三ノ輪さん、お久しぶり(、、、、、)です」

「──あら? まぁ、祐樹君じゃない! 久しぶりねぇ、また大きくなったんじゃない?」

「え? あれ、どういうこと!?」

 

対面から秒で僕に振ってきた彼女をよそに三ノ輪の母親に挨拶をする。

なぜって顔ぶりをしているが、それはもう知っているに決まっている。

 

「祐樹君が娘を送ってくれたの? ごめんなさいね」

「通りでばったり会ったので一緒に居ました。暗くなってましたし女の子一人では夜も物騒ですからね」

「ありがとう。ささ、上がって上がって。みんなも会いたがってるわよ」

「はい、じゃあ遠慮なく……三ノ輪? どうした」

「お、お母さん!! なんで高嶋さんのこと知ってるの!? た、高嶋さんもしってたんですか!」

「あれ? 言ってなかったっけ? 僕は何回もあったことあるよ。大赦の集まりでね……まぁ、キミは毎回サボってたみたいだし知らないのも無理ないか」

「え、えー!?」

 

期待通りの反応をしてくれて僕は内心でガッツポーズする。

呆然とする三ノ輪を置いて僕は一室に案内される。そこにいたのは幼い二人の男の子と彼女の父親だ。

 

「お、祐樹君じゃないか。いらっしゃい、娘が世話になったそうだね」

「はい。偶然道で会いまして……おっと!」

「兄ちゃんだ!! なになに遊びに来たの!?」

「鉄男~! 今日はたまたまだよ。お姉ちゃんと一緒に帰ってきたんだ」

「姉ちゃんと!? あ、姉ちゃんおかえりー!」

「あ、うんただいま……えー、弟たちとも知り合いなのか」

 

唖然とする三ノ輪は父親に抱かれていたもう一人の弟を抱いてこちらに歩み寄ってくる。

 

「じゃあまさか金太郎とも…?」

「…ぶっちゃけ、三ノ輪…いや、銀以外は全員顔は合わせちゃってるかな」

「…そういえばそうだったな。銀、ちゃんと祐樹君にお礼は言ったか?」

「うん、ちゃんと言った…あーもー! こんなことならちゃんと顔出しとくんだったぁ!」

 

何やら後悔しているようだが、彼女の気持ちは分からなくもない。

あの長ったらしいお話や行事は正直飽きてしまうから。

 

「兄ちゃん遊ぼうぜー!」

「鉄男、今日はお兄ちゃんお父さんとお母さんに用事があって来たんだ。だから、遊ぶのはそのあとにな」

「えぇー! じゃあ、終わったら絶対だからね!!」

「…話とは?」

「…ここでも平気なら話を。『御役目』についてなんですが…」

 

僕の言葉に大人たちと横にいた銀が反応する。

銀の両親は互いに視線を合わせ小さく頷くと姿勢を正してこちらに向き直った。

 

「銀、お前もそこに座りなさい。祐樹君も」

「…わかった」

「失礼します。…ここでいいんですか?」

「御役目のことは家族全員の問題だ。この場でいい」

「わかりました」

 

両親とテーブルを挟んで向かい側に僕と銀が座る。

鉄男は不思議そうにその間に腰を下ろして僕たちの動向を見守る。

 

「…今日、大赦の方に呼ばれて行ってきました。そこで聞かされたことを三ノ輪さんの耳に入れておいて欲しかったんです」

「…なにか不都合でもあったのか」

 

隣にいる銀の母親が不安そうに見つめる。

 

「いえ、彼女たちには特に。僕自身の問題なのですが……新たな神託が下り僕が唯一の男性勇者として選ばれました」

「え……高嶋さんなんて? 勇者に?」

「……驚いた。まさかそんな」

 

全員呆気にとられる。『少女』だけを選出してきたこの御役目に男はいない。そんな当たり前となっていたことが覆されたのだから。

 

「現状、僕がどこまで御役目を全うできるのか未知数です。ですが、三ノ輪さんの娘である銀と肩を並べていく以上はこうして挨拶に伺うのは筋かと思いまして…日を改めてと考えていたんですが、偶然彼女と鉢合わせてしまったのでこうして足を運ばせてもらいました」

「高嶋さん…」

「そういうことなんだ。銀、突然のことなんだがわかってくれ」

 

神妙な面持ちのまま、銀の両親は僕の話を聞いている。

銀もまた急な話に困惑するばかりだった。

 

「……御役目に選ばれて、君のとこの『高嶋家』も鼻が高いだろう」

「…あなた」

「だが、祐樹君。私は個人的に君のことが心配だ。きっとご両親も……娘のこともそうだが、一親として手放しに喜んだり出来ないんだ」

「お父さん…」

「…ありがとうございます。娘さんは…銀たちは僕が無事に帰ってこれるように尽力します」

 

頭を下げて僕は自身の定めた思いをこの人たちに告げる。

 

「…それは君もだよ祐樹君。みんなで協力し合って無事に御役目を果たしてきてくれ。何も出来ない大人たちのせめてもの願いだ」

「そうよ。本当は私たち大人がやってあげなくちゃいけないことなのに…」

「お母さん……」

「そのお気持ちだけで十分です」

「えー! 兄ちゃん勇者になったの!? すげー!」

 

暗いムードになりつつあったこの場に、明るい口調で話す銀の弟である鉄男がキラキラとした目で僕の下に飛び乗ってきた。

僕はそれを受け止めて自然と頬が緩んでいく。

 

「ああそうだぞ。鉄男のお姉ちゃんと僕とで悪い敵をやっつけるんだ」

「おー!!」

「ちょ、高嶋さんこの話マジなんっすか? えー…今日は驚かされることばっかりだ」

「ああ、だからよろしく頼むよ────銀」

「っ! うん、こっちこそよろしく!」

 

差し出した僕の手を銀は手に取って応えてくれた。その様子を彼女の両親は微笑ましくもどこか悲しげに眺めていた────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わって『神樹館』の屋上。

三ノ輪銀は大きくため息をついていた。思い返すは先日の出来事。

 

「まさかこんなことになるなんてなー……」

 

屋上の柵に腕を組んでもたれかかっていると、柔らかい風が頬を撫でていく。

今は昼休みで昼食をここで食べていたところだ。もちろん一人で──ではなく、今日はいつもと違った顔ぶれが揃っていた。

 

「ミノさん黄昏てどしたさー? 悩み事~?」

「三ノ輪さん、相談になれるなら乗るわよ?」

「あーいや。大丈夫大丈夫! はは…」

 

背後から声を掛けられる彼女たちの名前は乃木園子、鷲尾須美。

『御役目』として選ばれた自分を含めて彼女たち二人が選出された。まだ初陣すらまともに出てないが、こうして同じ目的を持った以上は親睦を深めるためにもこうしてお昼を共にすることにしたのだ。

私は二人の下に戻ると、広げられたレジャーシートに座る。

 

「そういえば聞いてるかな二人とも~?」

 

なにを、と私と鷲尾さんが小首をかしげる。

 

「昨日、大赦の人がうちに来てねー。わたしたちとは別にもう一人勇者が神樹様に選ばれたんだってー!」

「……乃木さん、本当に? って三ノ輪さん、そんなに慌ててどうしたの?」

「へっ!? いや、あはは……なんでもないぞ!」

 

思わず口に入れたお茶を吹き出すところだった。

まさかもうその話が広がっているなんて思いもしなかったからだ。

だが、よくよく考えてみたら乃木さんの家ならばすぐに情報が伝わるのは当然かと思う。

乃木さんは私の反応に目を閉じて数瞬すると、その瞳をカッと見開く。

 

「ミノさんその人と会ったね〜! ずばりどうだったの?」

「うえっ!? な、なんでそれを……っ!」

「そ、そうなの? 三ノ輪さん教えてくれないかしら?」

 

乃木さんの問いかけに墓穴を掘ってしまった。

鷲尾さんも彼女の話に食いついて興味津々といったご様子。

詰め寄られる私は、観念して話すことにした。

 

「二人は『高嶋』については知ってるのか?」

「んー? おーゆっきーの家のことだね~知ってる知ってる~」

「私も高嶋……祐樹さんのことは知っているわ。何回か集会で顔合わせしてるから」

「やっぱ知らなかったのは私だけだったかー…いや、それよりその高嶋さんがもう一人の勇者だってことなんだ。ちょうど昨日うちに来てさ」

 

一瞬、目をパチクリした二人だったが次の瞬間には声を上げて驚いた。

 

「わー! ゆっきーが勇者だったんだー!」

「でも本当なのかしら? 勇者は本来『女性』がなるもの…祐樹さんは『男性』のはずだわ」

「あ、そっかー……しゅん」

「え、いやたしかにアタシが聞いたのは本人からだし、間違いはないと思うんだけど?」

 

思っていた以上に反応が薄かった。アタシはそこのところはよく分かってない部分もあるだけに面を食らっていた。

確かに『男』が勇者として選ばれたことは聞いたことがなかったが、そんなに不思議なことなのだろうか。

アタシは高嶋さんと一緒に戦えると思うと嬉しく思うんだけどなぁ────

 

(…ってアタシは何を考えて!? うん、戦う仲間が増えて嬉しいだけだ、うん! そうだ)

 

顔を左右に振って雑念を払う。なぜか最初に出会った頃のあの抱きしめられた場面を思い出していた。

違う、と。あれはアタシの不注意のせいで起こってしまっただけのことだ。

 

「どしたのミノさん?」

「いやー!? な、なんでも……それよりいつ御役目が始まるのかなって思ってさ」

「…来ないことには喜ばしいことなんじゃないかしら? でも──」

 

鷲尾さんの表情が曇る。どうしたのかとアタシと乃木さんがある違和感に気がつくと、食事の手をやめて立ち上がった。

 

 

「…おいおい。これってまさか」

「ミノさんフラグ建てちゃったってやつー? 全部が止まっちゃってるね」

「ま、マジかっ! 鷲尾さ…」

「──鈴の音が」

 

凛、と静かに響くその音色は心を落ち着かせるようなそんな音。

けれど、アタシたちからすればそれはこれから戦いが始まることを示しているために不安が煽られる。

音の出所を辿ると、目の前に見える瀬戸の大橋から世界がぱっくりと割れ始めていた。

そこから広がる大量の花吹雪が吹き荒れ見たこともない『根』が地表を覆い始めていた。

 

「あれが…」

「樹海化、だよね。いよいよ初陣だ~」

「二人とも気を引き締めて。御役目を果たしましょう」

 

二人と頷きあい、迫り来る樹海化に正面から向き合う。

そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

眩い光が晴れると世界は一変していた。

様々な色をしたその『根』の数々は周り全てを包み込みこむ。アタシたちが居たその場もいつの間にか屋上ではなく同じような場所に立っていた。

 

「…おー! 凄いねこの光景」

「不思議な感覚。さっきまで屋上にいたのに……あの先の大橋からバーテックスが来るのよね」

「それで後ろの大樹が神樹様ってわけだ! よっし! 気合が入ってきたぁ!! お先ッ!!」

「ちょ、ちょっと三ノ輪さん! 単独行動は危険──あぁー…」 

「あはは~。ミノさんやる気まんまんだー! よぉーしわたしもー」

「ちょ! 乃木さんまでっ!?」

 

端末でアプリを起動してアタシは跳び立つ。

ぽやーっとその様子を眺める乃木さんもそのままアプリを起動して勇者服に身を包むと後を追って先に跳び立って行ってしまった。

残された鷲尾さんは額に手を当てて頭を悩ます。まずは戦闘云々より統率力をどうにかしないといけない、と彼女は考えているようだ。

 

このまま居ても仕方がないので、彼女もその手にした端末を用いて変身を果たす。

 

「……ふぅ、落ち着いて。平常心よわたし」

「──キミも大変だよね。須美(、、)

「っ!? あなたは──」

 

驚いて振り向くとそこに居たのは────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まるで身体が羽毛のように軽くなったような感覚だ。

樹海の中を颯爽と駆け抜ける私は眼前にソレらしき物体を捕捉した。

 

(…あれがバーテックス。人類の敵、私たちが倒さないといけない相手)

 

何やら水球のようなものをぶら下げてゆらゆらと近づく様はどこか不気味さを感じさせる。

こいつらを倒していかないと現実に、世界に被害が及ぶ。

両手に握った二丁の斧を強く握りしめて、バーテックスに近づいていく。

 

「……ミノさーん!」

「乃木さん! アレを一緒に倒そう!」

「うん! シオスミが来る前にわたしたちで倒して驚かせちゃおうよ~」

「ははっ! いいねそれ……よし、一番槍いただきっ!」

 

踏み込みを強く一気に接敵していく。

バーテックスはこちらに気がついて動き出すが、それよりも銀の行動の方が疾かった。

 

「っらぁ!!」

 

二丁の斧を振りかぶりその胴体を斬りつける。

手応えあり、とその身に二つの斬痕を残していく。

 

(…いける! このまま一気に…っ!)

 

その後に園子の槍がバーテックスに一閃。ぐらりと態勢を崩していくその隙に二人で再び攻撃を繰り出す。

だがそんなにこの相手は甘くない、とすぐに後悔する。

 

「……ごぼ!?」

「────っ!」

 

一瞬、何が起きたのか理解できなかった。浮遊感とともに息が出来なくなる事態にバーテックスの左右にあった水球を思い出す。

 

(しま…っ!? こいつのコレはアタシたちを閉じ込めるための…息が)

 

横を見ると園子も同じように水球に閉じ込められていた。

苦しそうにもがいているがどうにも状況が変わる気配がない。

 

(こうなったらこれを飲み干すしか……けど、乃木さんが間に合うかどうか…!)

 

一人ならまだしも、二人となると時間が厳しい。

どうしたものかと逡巡していると遠くから叫び声が聞こえてきた。

 

「…須美っ!!」

「ええっ! …射かけるッ!!」

 

声のした方を見ると、それぞれの水球に数本の矢が突き刺さった。

まるで風船のような球体の水だが、それだけでは破れも弾けもせずに徒労に終わる。

 

「私の矢じゃ効かない…!」

「いやあれでいい……僕が行くから園子のキャッチよろしく」

「はいっ! お願いします」

 

直後に矢の刺さった箇所に一人の人物が拳を構えた状態で現れた。

それは昨日出会った、最後の勇者——

 

 

「勇者……パンチッ!!!」

 

水中の中で視界が悪かったがそれでも分かった。

乃木さんを閉じ込めていた水球が消し飛んだことに。

落下していく彼女を半ばで鷲尾さんが抱えた。

 

「…乃木さん! だ、大丈夫かしら?」

「けほっ……おーシオスミありがと〜。命拾いしたよ」

「はぁ、よかった…」

 

どうやらあちらは助かったようだ。よかった。

だが、そうこうしているうちに自分も酸素を求めて苦しくなってきた。

 

「……勇者ぁ! キック!!」

 

突然として視界が晴れる。それは今しがた乃木さんを助けたと同様に水球を消しとばしてみせたのだ。

宙に身を投げ出されそのまま自然落下しているところを優しく抱き抱えられた。

 

「昨日ぶりだね。銀、大丈夫?」

 

笑みを浮かべてこちらの様子を伺う彼の…高嶋祐樹の姿がそこにあった。

つられてアタシも息を整えながら笑みを作り上げる。

 

「高嶋さんありがとうございました。あの、その姿が戦闘時の?」

「ああうん。自分でもびっくりなんだけど…変、かな」

 

地に足をつけて今度は乾いた笑みを浮かべていた。

アタシたちの所謂『変身』は武具の展開と衣装の変化が見られるが、彼のその姿…というか、見た目が他とは違う感じがした。

いつもの黒髪が赤くなり、両の瞳もルビーのような赤色が印象的だ。勇者としての衣装も桜色を基調としたものをしていて一見女性的な色合いをしているが、それが違和感となるようなことはなかった。

 

「いえ! その…変じゃないっす。似合ってます」

 

なぜだが彼を直視できなくて、逸らし気味に感想を述べる。

それは今抱きかかえられているこの状態故か、少しばかり夢見たシチュエーションのせいなのか。

 

だが、そんな夢心地も眼前の敵によって引き戻される。

まだ戦いは終わってはいなかった。

 

「いける? 銀」

「──はいっ。もちろん」

 

アタシを降ろして呼びかけられる。向こう側では鷲尾さんと乃木さんが態勢を整えているのを目にする。

両手に戦斧を握り高嶋さんと視線を交わす。

 

「四人なら負けないさ。とりあえず思い思いにやってみよう」

「ガンガンいっちゃっていいんすか」

「なるべく合わせられるようにする──行こうっ!」

「応ッ!」

 

彼の声に押されてアタシは一気に駆けだした。

早々に高嶋さんを追い抜いて目の前のバーテックスに一撃を加えるために接敵していく。

しかしただではやられまいとバーテックスは先ほど閉じ込めた『水球』を展開していた。

 

(あれに捕まるとダメだ。でも近づかないとアイツが倒せない)

 

あれは言ってしまえば水の塊だ。斬撃主体のアタシでは相性が悪い。

動かす足が歩みを止めようとするが、首を横に振って前を向く。

 

「……っ!」

 

一歩を強く、さらに強く踏み込む。

 

一人ならば躊躇ったであろう。一人ならば。

だけど、今のアタシには頼もしい仲間がいる。ならばこそ退く道理はない。

 

『水球』に矢が刺さる。

 

「──あそこでいいの乃木さん」

「うんうん。次はあのへんに~」

「了解」

 

乃木さんが指をさし、そこに鷲尾さんの矢が放たれる。

そして、

 

「──はぁあ!!」

 

放たれた矢を基点に高嶋さんの拳と蹴りが叩きつけられた。

『水球』はもう怖くはない。

跳んで、バーテックスの頭上にアタシは登頂するとともに戦斧から炎が吹き荒れる。

 

「これは…これが私たち勇者の力だぁぁ!」

 

吼えながらブーストをかけた一撃をバーテックスに繰り出した。

 

 

 

 

 

「さすが…」

「流石ミノさーん! いえーい無事に初勝利だよシオスミ〜! ばんざーい♪」

「う、私もするのそれ?」

「ばんざーい!」

「…ば、ばんざーい」

 

乃木さんがぴょんぴょん跳ねる中、気恥ずかしそうに顔を赤らめ両手を挙げている鷲尾さん。

その光景を少し離れた場所で微笑みながら高嶋さんは眺めていた。

 

慌ただしくも何とか初戦闘は終えたようだ。

座り込んだアタシは再び高嶋さんを見る。

 

そうするとすぐにこちらの視線を感じ取って、こちらを見てくれた。

たったそれだけでも嬉しく思った。

赤いルビーのような瞳がアタシを捉え、微笑むと親指をグッと立ててくる。

 

アタシも満面の笑みで同じように笑って親指を立てて返した。

 

 




『鷲尾須美は勇者である』に祐樹が介入していたら…のIFストーリー。

設定、展開はところどころオリジナルが組み込まれていくかと思いますがご理解ください。


簡単な彼の設定説明。

〇高嶋祐樹
…『男性勇者』として資質を得た少年。変身時は髪と瞳が赤くなり、衣装は桜色を基調としたものになる。
戦闘は徒手空拳で挑むスタイル。手甲にはある武具が取り付けられている。


…ぶっちゃけ『あの人』と同じような感じになります、はい。
ここら辺も理由や展開は考えてあるのですが、それを披露するにはいつになるのやら…。



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