勇者たちをイチャイチャさせたい!   作:紅氷(しょうが味)

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交際をスタートした二人のある一日。

何をするにしても全てが輝いて見えてしまう二人はどうにも浮かれ気味の様子。
部内ではこいつらどうにかしてくれと嘆くものもいれば、ネタとして取り入れるものもいる。

『結城友奈。今日もたくさん甘えちゃいます!!』

今日も彼女は全力でイチャイチャしていく────。


story1-after『二人で過ごそう!』

 

「んんー。ゆう、くん……」

 

 甘い一声に僕の意識は微睡みから解放される。

 すぐさま天井の模様を凝視しながら今の状況を把握していくことにした。

 

 視界に捉えた時計の時刻は七時を回ったところだ。

 今日は学校も休みなので時間は特に気にすることはない。

 布団の上で寝ている僕。だが今は身動きが取れない状況である。

 首を横に動かして見てみると、近距離で彼女の顔がそこにあった。

 自分たち男とは全く違う香りが鼻腔を甘く刺激されてしまう。

 加えて想い人である彼女ならばそれは一段と特別なものとなってしまうのだ。

 ぶっちゃけ、色々と大変だった。

 

 

(…可愛いなまったく)

 

 本当に気持ち良さげに寝ているので無闇に起こすのは忍びない。

 僕は仰向けで寝ていて彼女——友奈は僕の身体を抱き枕のようにしていたため、いろんな箇所からの様々な感触が僕に届いてくる。

 

「うりうりー」

「んん~! にゃ……かぷ」

「──っ!?」

 

 頬を指先でつついていたら何を思ったのか友奈はその指を咥えてしまった。

 心臓が飛び跳ねそうなほど驚いてしまったが、次に彼女はあろうことか僕の指先を舐めてきたのだ。

 

「むふ……あむ。れろ……」

「な、ななな……」

 

 舌先が僕の指に触れているのが分かる。

 ダイレクトに伝わる光景と感覚に朝方の僕には刺激が強すぎた。

 顔を真っ赤にして耐えていると不意に彼女の瞳が開かれた。

 

「ふぁ……はれ、わたし…?」

「お、おはよう友奈」

「…………。」

 

 極めて冷静に朝の挨拶を交わすと、無言のまま友奈は自分の状況を確認していた。視線だけを行ったり来たり、と。

 指先から口を離すとわずかに頬を染めながら毛布で半分顔を覆ってこちらを見てくる。

 

「祐くんのえっち……」

「いやなんでさ!? 友奈が咥えたんでしょ僕の指っ!」

 

 あらぬ誤解を受けた僕は声を多少荒げてしまうのも仕方ないだろう。

 そんな彼女は本気で僕が無理やり咥えさせたものだと思っていたらしく、それはもう大層驚いていた。

 弁解させるのに少し時間がかかった。

 いや、解せない。

 

「ご、ごめんね! 勘違いしちゃってたよー」

「いいよどうせ男はみんな獣だーって思っているんでしょ友奈は……」

「そ、そんなこと……なくはないけど。それに祐くんにならわたし──」

 

 なくはないんかい、とツッコミしかけるがグッと喉元で抑え込む。

 後ろを向いて体育座りで塞ぎこむ僕の背中に友奈は自重を預けた。

 

「祐くーん。ごめんね~」

 

 甘い声で囁きながら手を回して抱き着いてくる。

 もう許してあげてもいいんではないのだろうか、と秒で僕の意思は崩壊しかけるがなんとか堪えてみせた。

 

「な……なんでも言うこと聞いてあげるから────きゃ!?」

「キミはそうやって……!」

 

 ベットに彼女を押し倒す。僕の行動に驚いた友奈は呆けた表情を浮かべていた。

 

「誰にこんなこと吹きこまれたの? ……風? それとも園子辺りかな?」

「い、いやー……なんのことでしょうか」

「ふーん。キミがそういうつもりなら……」

 

 友奈の瞳が驚愕の色に染まる。

 

「……ん」

 

 いつのまにかお互いの距離が無くなっていた。

 そのことを理解すると友奈はすぐにそれを受け入れる。この子は少しばかり警戒心がなさすぎるんではなかろうか。

 

「ぷあ……ゆ、祐くん」

「で、誰に吹き込まれたの? 言ってごらん」

「……祐くんの言う通り風先輩と…園ちゃんです。で、でもそれはわたしが訊いたからで二人は悪くないよ!」

「なるほどね……まあそれは後々問い詰めるとして。友奈には僕をからかったおしおきをしないと、ね?」

「え、ええ!? なにを──」

 

 僕は両手を開いて、彼女の両脇に手を入れる。

 友奈はまさか、と目で訴えてきているが僕はお構いなしにその行為を実行に移す。

 

 

「ん、やぁ……ゆ、祐くん」

「──ここが弱いのか友奈? ならもっとしてあげる」

「ひゃわ!? あはは!!」

 

 両手の五指がわしゃわしゃと友奈の肌を撫でる。

 友奈はたまらず動いて逃げようとするが、僕が上に乗っかっているためかその行為も徒労に終わった。

 

 眼尻に涙を浮かべて為すすべなくも小さな抵抗をしている。

 たっぷり一分弱、僕は友奈をくすぐり地獄の刑に処した。

 息を荒げてぐったりとする友奈は、自分でしておいてなんだがこうくるものがあった。

 

「はぁー…はあぁ……祐くんの…いじわるぅ」

「……いや、うん。これはやりすぎた、ごめん」

「じゃあもう一回キスして! それで許してあげる」

「──うん」

 

 今度はゆっくりと時間をかけてしてあげる。

 なんだかんだ僕は彼女に甘いなぁと思わざる負えなかった。

 

 結局、ちゃんと起きるのに一時間以上もかかってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いただきます!」

 

 二人で手を合わせて食卓を囲む。

 簡単に作ったトーストとハムエッグだが、友奈は美味しそうに食べてくれている。

 今度はしっかりとした料理を作ってみるか…。

 

「食べ終わったら一回家に帰らないとね。両親も心配しちゃうだろうし」

「そうだねー。でも祐くんの家に行くっていうとむしろよろしくお願いしますなんて言われるよ!」

「そうなの!? 初耳なんだけど…」

 

 驚愕の事実を聞かされた。普通男の家に行くなんて許さないところのほうが多い気がするのに。

 確かに友奈と付き合ってからは、両親とも必然的に交流は増えてよくしてもらっているが本当にいいのだろうか。 

 …まぁ、既にこの場に呼んでいる時点でこの考えは意味をなさないけれど。

 

 当の本人は小首をかしげて不思議そうに僕を見てくる。

 ちくしょう、愛いやつだな。

 

「──ほらパンくずがついてるよ友奈」

「んん……ありがとう♪」

 

 にへら、とだらしなく綻ばせたその顔を見て、また零さないだろうか冷や冷やしてしまう。

 

「今日は勇者部の活動はお休み?」

「うん! たまには彼氏とイチャイチャしてこーいって風先輩が言ってくれたんだー」

「お、おう…」

 

 それでいいのか勇者部部長。恐らく今朝の友奈の行動はこのときに仕込まれたに違いない。

 不敵な笑みをしている彼女の姿が脳裏に浮かぶ。

 

「だから今日はいっぱい祐くんとイチャイチャしまーす!」

「…口に出さないでくれ。恥ずかしい」

「えぇ~。はい、じゃあこれを——あーん」

 

 思い立ったらすぐ行動と言わんばかりに友奈はデザートのホイップのせプリンをスプーンに乗せてこちらに運んでくる。

 拒否する理由はないのでそのまま口を開けた。

 

「…あっ?」

 

 食べようとしたらひょい、となぜか避けられてしまう。

 その次の行き先はこれまたなぜか僕の鼻先近くにきた。ちょこん、とクリームが鼻についてしまう。

 

「──しろはな祐くんかんせーい♪ ……ふふっ」

 

 友奈が口に手を当てて笑いを堪えている。

 恐らくさっきのくすぐりのお返しなのだろう。僕は鼻先をそのままに友奈の持つスプーンをパクっと咥えてお返しのお返しをしてやる。

 

「あぁ!? 私のプリンー! 祐くん食べちゃった…」

「あーんされたら食べるでしょ普通」

「むぅ!!」

 

 なにやら求めていたものと違っていたらしい。女の子の心境は複雑である。

 僕は自分の分のプリンを掬って友奈に差し出す。

 

「ほら、友奈。あーん」

「…クリームつけない?」

「つけないつけない」

「……じゃあ、二口ちょーだい」

「地味に倍増してるな…いいよ~。はい、あーん」

「あーん……んー、おいしぃ~!」

「そこですかさず、あーん」

「むぐ!? …んん、なんのこれしきー!」

「まだまだ~」

「むぐぐっ!!?」

 

 一口入れて、すぐさま口元にスプーンをやる。友奈はそれを反射的にまた食べる。また食べさせる。

 

 こんな感じで反応がいちいち面白いのでついやってしまう。

 

「祐くんがまたイジワルする!!」

「誤解だよー。友奈とイチャイチャしてるんだよ」

「これだとまるで餌やりみたいだよー! そうじゃなくてもっと…」

「あ、友奈ほっぺにまた付いてるよ」

「え、ほんと? どこどこ」

「……ここ」

 

 人差し指で友奈の頬についてしまったホイップを拭いて上げる。

 そしてそのまま僕はそれを口に含んだ。

 

「はい、とれた」

 

 僕の行動にポカンと口を開けていると、次第に顔が真っ赤になっていった。

 

「あ、うぅ…ありがとう祐くん」

「やっておいてなんだけど。恥ずい」

「も、もー! わたしの方が恥ずかしいよぉ。それにそれはわたしがやりたかったのに」

 

 だから鼻にクリームつけたのか…。

 

「まぁ次の時にでもやってくれ。ささ、食べちゃおうよ友奈」

「…はーい!」

 

 それからは特に何事もなく朝食を終えた。

 

 

 

 

 空を見上げる。快晴なこの空に一点の白い球体が弧を描いている。

 僕は距離を見計らって一歩、また一歩と調整をしながら、左手を天に掲げる。

 

「……ほっ!」

 

 左手に付けたグローブが乾いた音を鳴らす。

 そうすることでその中には白球が収まっていた。キャッチ成功、と前を向けば両手をブンブン振りながら次を待つ彼女の姿がそこにあった。

 

「祐くーんっ!! ナイスキャッチーーッ!!」

「おー! 次いくぞー!!」

「ばっちこーい!!」

 

 元気ハツラツな友奈の様子を眺めつつ僕は遠くにいる彼女に向かって白球を投げる。

 河川敷を走り回る友奈はさながら小型犬のようだった。

 

「おーらい、オーライッ!! よっと!!」

「さっすが勇者部エース!! 惚れ惚れしちゃうぞー!」

「ほんとぉ!! わたしも祐くんに惚れ惚れしてるよー!!」

「可愛いなおい」

 

 ぴょんぴょん跳ねる友奈に思わず本音を吐露してしまう。

 利き腕をぐるぐる回してやる気満々だ。

 

 というか流れるままこうしてキャッチボールをしているわけだが、どうしてこうなったって感じである。

 まぁ、彼女の実家にお邪魔した際に隅に転がっていた野球セット(勇者部で使用)を見たせいであるのだけど。

 元々彼女を含めて体を動かすのは好きな部類なので楽しめているが、はたしてこれはイチャつけていると言えるのだろうか。

 

「なぁ友奈っ! 楽しいかー!」

「たのしーよー! あっ!」

 

 何かに気がついた友奈は何処かに手を振り始めた。

 どうした? と僕もそちらに振り向いてみたら土手の所に人影が見えた。

 それが見知った人物だと分かると僕たちは一旦中断して集合する。

 

 

「夏凜ちゃんおはよー!」

「おっす夏凜! いい天気だな!」

「なんか騒がしいと思ったらあんたたち……午前中からなにしてんのよ」

「夏凜ちゃんは日課のやつ?」

「ええ、その帰りよ。友奈は野球してんの?」

 

 自転車を降りて若干呆れ顔の彼女────三好夏凜がそこにいた。

 

「キャッチボールだよ夏凜ちゃん! 楽しいよー!」

「僕たちと一緒に青春の汗を流さないか!」

『いえーいっ!』

 

 僕と友奈でハイタッチを交わす。

 

「体動かしてテンションおかしくなってるわねあんたら。いやはやお似合いというかなんというか──ああ、これが風が部室で話してたやつか」

「じゃあじゃあ夏凜ちゃんバッターで祐くんはキャッチャーね! わたしピッチャーやるから!」

「おっし! 面白くなってきた!」

「ちょ、ちょっと!? 私やるなんて一言も……って引っ張るなぁ!」

 

 友奈は彼女の手を引っ張っていく。僕は代わりに自転車を持ち上げて一緒に降りていった。

 

「解せないわ…」

「まぁまぁ、少しだけ友奈に付き合ってくれ。今度にぼし持ってくから」

「……うっし、一発決めてやるわっ!」

「現金な奴だなぁ」

「女子に向かって失礼ね! ──友奈ぁ! 本気できなさい!」

「おっけー! 全力でいっくよーーっ!」

 

 お互い気合いが入ったところで手製のバッターボックスに夏凜は立つ。

 睨み合う両者。

 友奈はワインドアップで投球を行うようだ。高まる緊張感に自然とバットを握る力が篭る夏凜。

 

 友奈が球を────投げる!

 

 空を切る音が耳に届くとともに僕のグローブに凄まじい衝撃が奔った。

 

「……なっ!?」

 

 夏凜は驚愕を露わにする。

 見送りでのストライク。手も足も出ないとはまさに今の夏凜を表していた。

 僕も僕で額から汗が流れる。どうやらうちの彼女は日々成長しているようだ。やるなっ!

 

「よっし! まずはワンストライクだね!!」

 

 さわやかな笑顔を向ける友奈。その様子に夏凜の闘争心が刺激されたみたいで不敵な笑みを浮かべ始める。

 

「……まさかここまでやるとはね」

「か、夏凜…お前」

「いっくよーっ!」

 

 ボールを渡して、友奈は一球目と同じように強烈な一投を放つ。

 遠巻きでも分かるぐらい投げる瞬間の友奈の目がマジだった。

 あれー…女の子がしちゃいけない眼をしてるぞー?

 

 どこか他人事のように二人を見ているとボールはまたもや僕のグローブに収まった。

 たが、先ほどとは違い夏凜はバットを振り抜いていた。僕は戦慄する。

 

(凄い…二球目で球の軌道に合わせてきたっ! さすが友奈と肩を並べてきただけはあるな)

 

 ボールを返してグローブを構える。

 友奈は顔を俯かせていてその表情は読めない。おそらく次は完全に打たれてしまうだろう。

 それは夏凜自身も理解しているのか、不敵な笑みを崩さないでいた。

 

「──いくよ、夏凜ちゃん!!」

「きなさい、友奈っ!」

 

 そして今、最後の一球が放たれ────

 

 

 

 

 

 

 

 

 ボールの行方は……。

 

「う、嘘でしょ?」

 

 振った。振りぬいた。

 しかしボールは前に飛ぶことはなく、代わりに僕のグローブに吸い込まれていた。

 三振。ゲームセットだ。

 

 友奈はガッツポーズを決めて喜んでいる最中、夏凜は納得のいかない様子。

 僕は立ち上がって彼女の肩に手を置く。

 

「祐樹……一体何が? 球が下にグンッ! と落ちて──」

「ふっ……これが友奈の魔球、勇者フォークだ!」

「ゆ、勇者フォーク!?」

 

 良いリアクションだ。相変わらずノリがいい彼女に思わず僕も興が乗ってしまう。

 

「日々のキャッチボールの中で偶然生み出されてしまった一球さ……正直球のキレが良すぎてあの子密かに特訓してたんじゃなかろうかと思うんだけど」

「あんたらアホでしょ……」

「ふっ…僕もそう思う。まぁなんにせよそういうことさ。オツカレ」

「祐くん、夏凜ちゃんおつかれー! いやー楽しかった!」

「友奈も大概だけど、あの球をすべて捕球できるあんたこそナニモンよ!!」

 

 何をいまさら。そんなの今更語るべきものでもないのだが、訊かれたのなら答えるしかあるまいて。

 

「僕は……友奈の彼氏だからな! 彼女の愛を受け止めるのは当然のことだ!」

「わー祐くんカッコいいよ!! 嬉しいー!」

「──アホ、いやバカップルめ……なんか見てるだけで胸やけするわまったく。あとはお若い二人でねーって」

「帰っちゃうの夏凜ちゃん?」

「用事は済んだでしょ。帰ってシャワー浴びたいのよ……んじゃね」

「おーまたなー」

「ばいばーい!」

 

 なにやらどっと疲れた様子の夏凜の背中を見送って再び二人に戻る。

 

「どうする? 友奈」

「うーん…ようやく肩が温まってきたし、もうちょっとやりたいな!」

「了解した! せっかくだから新しい魔球増やしちゃう?」

「祐くん教えてー!」

「おっけー!」

 

 この後めちゃくちゃキャッチボールした。

 

 

 

 




二人の愛のキャッチボールに振り回される完成型勇者がそこにいた。←

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