story1『託した者、託された者』
僕は天に輝く星々が怖い。
この頃はほとんどその姿を拝むことはなくなってきたが、こうしてたまに晴れる日の夜天は星が怖いぐらい光っている。
まるで見下すように、獲物に標的をつける獣の眼光のように。
「……はぁ。寒い」
厚手のコート、手袋、マフラー諸々と完全武装していても尚冷え込む夜に僕は外に出て空を見上げていた。
北海道旭川市、カムイコタン。僕が故郷を離れこうして北の大地に足をつけているのはまったくの偶然であった。
今は会うことのない両親の意向によって転校した矢先に巻き込まれてしまった『天変地異』。
世界は各地で孤立し、各々が自分の住む世界を守るために奮闘することになった今の世界を僕は生きている。
四季は狂い、僕の住む北海道は白き世界を残してその他を失ってしまった『氷の大地』になりつつある。
『世界の終焉』。誰かがそう言ったこの言葉も今となっては間違いでない現状に絶望してしまう人がほとんどだった。
その時にとる人間の行動と言えば、略奪、暴動、他人の蹴落とし合い。
普通に生きていれば表に出ることのない内に秘めていた暗い感情がドロドロと溢れ、人々を狂わせていくその様を最初見たときは僕も酷く悲しい気持ちになっていた。
昨日まで笑い合って話していた友人が、親戚が、血を分けた家族までもが血眼になり生き残るために弱者を切り捨てようともがいていく。
単純に生物の生存本能としてみれば間違っていない行動なのかもしれない。でも僕たちは紛れもない人間であって。
この世の地獄を見た気がした。
本当は打破すべき目標は別にあるというのに、なぜ人々は争いを生んでしまうのだろうと。
氷の大地のように心は徐々に凍り付いていく。それをこの争いの中で見いだせることはなかった。
閉じていく世界。これが今僕たちの住む大地の現状だった。
「……今日は堕ちてくるなよ、『星』ども」
日々続いていく異形のものとの戦い。ある日突然世界の終わりを告げる星の化身に対抗する術を持つものはいなかった。
人間が培い、練磨してきた『歴史』は奴らには傷一つつけること叶わず、蹂躙されていく光景は酷い有様だった。
人類は為すすべなく奴らに喰いつくされる────そう思っていたけれど。
一縷の望みというべきものが身の内にあったことを知るのはそう遠くはない未来のことだった。
今や一つの地域に収まるほどの人口になってしまった人々が最後に行う行動と言えば『願う』こと。
今日まで心の内では信じていなかった『カミサマ』に助けを乞い、祈りをささげる。追い詰められた人々は盲目的にそれらを一心に行っていた。
必然的に集まる”場所”も絞られていき、最終的な集落となった場所と言えば神聖、カミサマの居た大地。そんなところ。
神居古潭。この大地も例外なく当てはまることになり、そして今や北海道の最終防衛ラインとなった地域の名である。
「……だいぶ、ボロボロになってきたかな」
懐から取り出ししみじみと眺めるのは細かな傷の残る『籠手』である。
僕たち神居古潭の人々を守る唯一の手段。そのための”武具”を僕は持っていた。
なぜこれを僕が持ち得ていたのかは今も分からない。でもそのお陰で僕たちは今もこうして生き長らえている。
偶然? カミサマのおかげ? いや、そんなことは今やどうでもいい。
この『籠手』がなければ、僕は既に息絶えていただろう。そして時を同じくして守護する”もう一人”も耐えきれてなかったのかもしれない。
『神具』とも、もう一人の彼女は言った。カミサマが用意した『星』と戦うための手段。
これらを用いて、戦えるのは選ばれた人間だけ。その人数は────僕を除いて”一人”のみ。
いや、正確にはもう何人か居たらしいのだが、”らしい”というのも今の現状を考えてくれれば答えはすぐに出てくることだろう。
「──お、やっぱりここにいた」
「雪花?」
考え耽っていると、不意に隣から声を掛けられた。
少しだけ驚いてそちらを見てみれば、ともに戦場を駆ける少女が歩み寄ってきた。
同じく厚着をした完全武装で白い吐息を吐き出しながら。
彼女の訪れに眉間に寄っていた皺も緩んでいくのがわかる。
「相変わらず寒いのによく外に出る気になるよね~祐樹っちは?」
「そういう雪花こそ。わざわざ探しに来てくれたの?」
「ん~まぁ、どうだろうねぇ~?」
相変わらずおどけた感じで言う子だな、なんて考えてしまう。
けれどその態度に助けられたことも数えきれないほどあるのも事実であって、嫌というわけではない。
雪花も僕の隣に来ると夜天を見上げる。
「…にゃーるほど。『星』を見に来たんだねーキミは」
「”観測”はしておかないといけないしなー……なんてのは建前で久々の晴れなんだ。夜とはいえ出ないわけにはいかないだろ? 朝にはまた吹雪になっているかもしれないし」
「私は祐樹っちみたいに天体観測が趣味じゃないからね~。まあ綺麗なのは認めるけどさ。でも今やあれら全部”敵”っしょ? 怖くならない?」
横目でチラっと雪花を見ると、雪花は空を見上げたまま話していた。
「怖いね、とても。でもこうして眺めているとさ……雪花と出会った時のことも思い出すよ」
「……お世辞にもいい思い出になるなんて出会いじゃなかったともうけどにゃー」
「それはそうだけど…はは、手厳しいな雪花は」
「それが私だしねー。でも、祐樹っちが居てくれなかったら私もどこかで野垂れ死んでかもしれないし、そう考えると悪くないかななんて思う」
彼女もよく思ってくれている。とても嬉しかった。
「ところでさ、こうして平和なウチに聞いておきたいんだけどー」
「なにを?」
「──ずばり祐樹っちは
「…………、」
彼女の質問に僕は見上げていた空から視線を落として雪花を見る。
雪花も真っすぐな瞳を向けて僕を捉えていた。
心配してくれてる、のだろうか?
「気づいてたんだ?」
「そりゃあ私は”精霊”さまと繋がっているわけで、現実から目を背けるお馬鹿さんでもないわけよ。キミはこの地出身でもなければ『あの日』とほぼ同じ時期に他県から来た人っしょ? 当然、精霊さまとの”繋がり”もあるわけでもなし。でも祐樹っちは私と同じ”力”を使える……それってさ」
「わかってるよ雪花。他でもない、僕自身がよく解ってる」
「………そっ。じゃあ返答は~?」
しばしの沈黙を挟んで僕は言葉を紡ぐ。
「あとフルで三回……省エネでいけば五回出撃できればいい方かな。僕の体内とこの『籠手』に宿した力の残量からしてみればそれが限界。そのあとは僕は紛れもないただの”一般人”に戻る」
「……やっぱりねー。精霊さまもそう言ってたにゃあ」
「ごめん。最後まで一緒に戦えそうにないかもしれない」
「にゃはは。なんでキミが謝るのさー? 充分すぎるぐらいだぞ~」
見た目ではいつもの調子な雪花。でもどうしてかな、その瞳はそうは見えなかった。
でもそれを僕が指摘したところで現実はなにも変わりやしない。
それは彼女も分かっている。だからせめていつもの調子を維持しているんだ。
悔しい。力足らずの自分が憎たらしい。
自分の不甲斐なさに落胆していると、いきなり額に衝撃が走った。
目先には雪花の指先が見えた。
「──痛ッ!?」
「こらこらーキミがキミ自身を否定しちゃダメだぞ~? 雪花さん、祐樹っちと一緒に過ごしてきてなんとなく考えてること理解できるし。自分がーなんて思ってるでしょ?」
「……はは」
「今更悔いたってしょーがない。でも諦めちゃあダメだ。私たちは生きるよ、どんな手をつかってでも──選択肢が少し減っただけっしょ? まだまだいけるいける!」
「雪花がイケメンすぎる」
「あ~それは乙女に言ってはいけないセリフだぞー? 私は華の女子中学生なんだから……ってもう学校はないか~。にはは」
「悪い。でもそうだな……雪花は可愛くてほんとは優しくて家庭的な女の子だもんね。僕の大好きな────」
「…………。」
「い、いたた!? 無言で頬をつねないでー!」
最後まで言葉にする前に雪花の指が僕の頬を引っ張り始めた。
照れ隠しなのはわかっているのだけど、こういうときの雪花は手加減せずにやってくるので少し困ってしまう。
そして当の本人はジトーっといった様子でにらみを利かせて一向にやめてもらえない。
「相変わらずキミは歯の浮くセリフがお好きなようで……なに、それはわざとやってるのかにゃあ?」
「わ、わざとじゃなくて本気なん──だだだっ!!?」
「なお質が悪いにゃー」
でもその度にほんのり赤くなってるのを僕は知ってるぞ!!?
口元が緩んでいることもね────なんて内心考えていても雪花は察しが良いのか余計に力を込めてくる。
涙目になりかけてきたところで雪花はため息を吐いてやめてくれた。
「んー、このタイミングで渡すのはとても恥ずいけど……ほい、祐樹っち」
「……え? なにこれ」
コートのポケットから平たいラッピングされた箱をもらった。
頭に疑問符がつきないまま僕は手渡されたソレを受け取る。
「今日がなんの日だか覚えてる?」
「えっと……んー?」
最近は戦いばかりで本来の暦に疎くなってきたのか、すぐには答えに辿り着けない。
雪花もそれはわかっていたのか特に気にするわけでもなく、
「世間でいう『バレンタインデー』の日だぞ~? 世の男子なら忘れちゃいけないイベントじゃないかにゃあ?」
「……言われてみればそうだけど。でもチョコってよく用意できたな……甘味なんて今じゃめったに手に入らないんじゃ?」
各地で孤立した今、外部からの供給なんてものは絶無である中、どうやって調達してみせたのか。
嬉しい気持ちももちろんあるのだが、そちらの興味も同じく強い。
雪花は少し視線を泳がせながら頬をポリポリかいている。
「正確にはチョコモドキってやつ。保存の利くココアパウダーやら砂糖さらを練って作ったものだから期待には沿えないけど」
「へぇ……それでも凄い嬉しいよ雪花。よくレシピなしで作れたね?」
「まあ誰かさんのおかげで多少は作れる範囲が広がったからでー……って私のことはいいの! ほい、全男子の想いを胸に感想を述べよ」
「荷が重すぎないそれ!?」
「にゃっははー」
雪花の言うものは背負えないけども……それはそれとして、こうして実際にもらってみるとこうなんというか心があったかくなるのがわかる。
「うん、本当に嬉しいです。大好きな雪花からもらったものだから嬉しくないはずがない! ……今、食べてみていい?」
「口に合えばいいけどね~」
相変わらず『好き』の部分をスルーされるけど、僕は今は彼女のくれたチョコを食べたくて仕方ない。
包みを開けて箱を開ける。その中身と香りは間違いなくチョコで僕は思わず感動してしまった。
「一口大にしてあるからひょいっと食べちゃってよ」
「いただきます……あむ」
口いっぱいに広がる甘みに僕はもう一度感動を覚えた。
久々の感覚を噛み締める。確かに雪花の言う通りチョコよりかは少し固めではあるが、十分に美味しい。
「凄いなー。まんまチョコだぞコレ!」
「褒めたまえ褒めたまえ~♪」
雪花も感想が聞けたのか嬉しそうだ。
でも一つここで問題が発覚することにより、僕の手は止まった。
「祐樹っちどうしたん?」
「……いや、こんな貴重な物をもらってお返しどうしようかなぁと思って」
「ああ、なーるほど」
うんうん、と頷いて雪花は更に距離を詰めてきた。
「それなら今お返しもらっちゃおっかにゃ~?」
「えっ? お返しって僕は今もってるのは携帯食料しか──」
「はい、あーん♪」
有無を言わさず雪花は僕の持っていたチョコの一つを手に取ると僕の口にねじ込んできた。
呆気にと垂れていた口に入れられる羽目になるのだが、次の瞬間には僕はすごく驚くことになる。
「隙ありっ!」
「────っ!? 雪花、まっ……んんっ!?」
口がふさがれた。誰に、なにでとは言わなくても分かるだろう?
雪花の顔が間近にある。瞳を閉じて整った顔のパーツを改めて見つめる。
……でもそれを雪花が許してはくれなかった。
ぬるっと僕の口内に暖かいものが差し込まれていく。
「んちゅ……んー、れろぉ。にゅふ~♪」
蹂躙されるとはこのことをいうのだろうか。身体を密着され、お互いの熱が冷めていた空気を溶かしていく。
チョコの甘みとは別の甘さが僕の心を満たす。
「雪花──」
自然と彼女の身体を抱きしめ、それを受け入れてくれる雪花。
満天の星空の下で僕たちは戦中であることを忘れて求めあう。刻むように、離れないように、忘れないようにと。
時間の感覚も薄れてしまう中、どちらからというまでもなく離れるまで僕たちは行為を続けた。
「──ふっふっふ」
「なんで笑ってるんだ雪花?」
「なんでもないよん♪」
「変なやつだな」
◇
────ああ、まったくもー。
ぼんやりと視界が晴れる中で私は起き上がる。
爆発に巻き込まれて揺れていた視界もだいぶ元に戻ってきたところで現状を見て顔をしかめる。
「これは、ほんとにヤバイにゃあ……」
悲鳴、怒号、叫び。耳に届く音はどれも不快なものばかりだ。
────『星』による襲撃。それも今までにないほどの侵略。まるでここで片をつけようとしているかのように…。
私は傍らに落ちていた槍を手に取り立ち上がる。
ダメージはそれほどなく、戦闘は余裕でいける状態だ。
一先ず逃げ纏う人々を誘導して安全な所に避難させないといけない。
「……祐樹っち」
彼は今この場には居ない。丁度離れていたところに図ったかの如く攻めてきたのだから安否の確認のしようがないのだ。
もう祐樹っちは一度の戦闘しか戦えない身だ。そして侵攻してきているはずなのに敵の数が少ないことから、その最後の力を使用しているに違いない。
もしその力が枯渇したらいよいよ戦えるものは自分ひとりになる。
そうなったらもうこの侵略を止めることは────。
「…なんて、なにがなんでも生きてやるし……人間の意地汚さを舐めるなってね~♪」
軽い口調で言う。そうだ、今に始まったことじゃない何度もあった危機だ。
駆け出して近辺にいる住民に声を掛けて回る。
「ひぃ!!? だ、誰かたすけ────」
「させない、し!!」
離れたところに蹲っていた男性に迫る『星の化身』。
喰らいつこうとしているところに私は持っていた槍を投げて奴を吹き飛ばす。
驚いた男性は震える足に活を入れて立ち上がってこちらに走ってくる。
ここまで生き残った人たちだ。もうそのまま立ち止まっているなんてヘマはすることない。
意地汚さは私を含めて人一倍あるのだ。じゃないとこの氷の世界じゃ生き残れないからだ。
「さぁ!」
「ありがとう! 恩に着るよ」
歩み寄らずに周囲に意識を傾けながら男性が来ると私はすぐに移動を開始する。
「いやー投げた後のことを気にしなくてもいいのは助かるにゃあ──っと!!」
先を行く住民を抜いて槍が『星の化身』を突き貫いていく。
(さてさて、祐樹っちはどこに──)
後方から爆発が響いた。
全員が一瞬歩みを止めて確認してみると、とても広い範囲の煙幕が立ち込めていた。
恐らくあそこに祐樹っちがいる。でも────
「行ってくれ勇者さま。俺たちは大丈夫だから。小僧をよろしく頼む」
「自分たちの身は自分たちで守る。だから行ってあげなさい雪花ちゃん。祐樹くんをお願い!」
「みんな……」
雪花の背中を押すように住民たちは笑っていた。
こんな状況なのに。それはとても強い光のように思えて、私にはとても眩しく感じた。
────私一人ではここまで勝ち取れたのだろうか。いや、出来なかったと断言できる。
生きることに手段を選ばない私にとって、恐らくこの人たちですら私は最後に道具として利用していただろう。
でもそうさせなかったのは彼が居たから。祐樹っちが居たからみんなの意志は確固たるものに変化したのだから。
私だって、その一人なんだ。
小さく頭を下げて私は全力で雪原をかけ始めた。
道中に現れる敵にどんどん槍を投擲して殲滅していく。その足は止まらない、止めてなるものか。
爆心地まで一直線に駆け抜ける。
────退け、退け、退けっ!!
私のことを心の底から『好き』と言ってくれた人がそこにいるんだ。
普段ははぐらかしてその言葉を口にすることはほとんどないけど、心の中では私だって彼に負けないぐらい愛を囁いてるんだ!
「はぁ、はぁ……祐樹ぃ!!」
彼の耳に届くように叫ぶ、腹の底から叫びまくる。私らしくない? そんなの私が一番理解してる!
そろそろ雑木林を抜ける。その先に彼がいる。
嗚呼、でも改めて私は思う。
────この世は地獄に変わり果ててしまったのだと。
「────がふっ……」
濁った声が耳に届いた。
粘っこい、体液を吐き出す音。それがなんなのか、誰がだした音なのか私は理解できない、したくはなかった。
目を見開いて眼前の光景が痛いほどに焼き付く。
全身が鋭い針に覆われた『星の化身』に身体を貫かれた
「あ、あぁ────」
彼の背後には意識を失った子供が倒れていた。きっと彼はその子を守るために身を挺したのだろう。
既にその姿に”力”を感じ取れない。いつのまにか彼は戦う力を失っていた。それでも、背後の子供を助けるために……。
私は歯を食いしばり、眼光に”殺意”を乗せて地を蹴って接敵した。
槍は既に二本を目の前の敵に突き刺している。それでも引こうとするどころか倒れた彼にとどめを刺そうとしていたではないか。
「──くたばれぇ!! この化け物ッッ!!」
激情した私は脇目も振らずに槍を投げて、投げて、投げまくった。
いつのまにかゼロになった距離に私は尚も槍を突き刺していく。その際に敵の針に触れて出血してしまうが構わずに槍を刺す。
そして気が付いたら『星の化身』は動かなくなり、やがて消滅していた。
「──ゆ、祐樹!!」
ハッと我に返った私は背後に倒れる彼の元に駆け寄る。白い大地に彼の血液が広がり赤く染まっていた。
震える手で彼を抱きかかえて息を確認する。弱々しくもまだ呼吸がある。
「祐樹っ!! ダメだよ! 目を開けて!!」
「──ぁぁ。ごほっ……聞こえてるよ雪、花……」
彼は私の手に触れる。けどその手はとても冷たくて……。
「こ、こども…………は?」
「生きてる! キミが庇ったおかげで怪我一つしてない! 待ってて、急いで他の人を呼んで──っ!」
「せっ…か……それはダメだ。キミはあの子を抱えて……みんなの、避難を」
「なにいってるの!? そんなことしたら祐樹が────」
直後に、離れた場所から爆発音が響いた。
あの辺りは確か──みんなが避難している場所だ。
「はや、く……げほっ。みんなを──」
「私たちは何がなんでも生きるの! それはキミも含まれてるんだっ!! 勝手に逝くなんて許さない!」
「────ごめん、な」
小さく笑みを浮かべている。なんで、なんでそんな顔ができるの?
謝らないでよッ!
「自分のことは、じぶんが一番……よく解る。なぁ、雪花……これ、を………」
「──っ!」
右手を上げてその腕に装着している『籠手』を差し出す。
私は子供のように首を横に振るだけだった。
「いやだ……私は祐樹がいなくなったらどうやって生きていけばいいの!?」
何かと天秤にかけて物事を推し量ってきた私。そういう道だけじゃないことを教えてくれた。今の私を形作ってくれたのは紛れもないこの人なんだ。
彼は少しだけ困った表情をしていた気がする。
「僕は、死なない……キミの、中で……生き続ける、から。はは──意識が、もう……」
「祐樹っ!!!!」
私の膝の上で口から大量の血を吐き出した。ああ、もうすぐ彼は────
「雪花……大好き、だよ? 本当に……あい、して────る」
「ああ、私も大好きだ! ほら、恥ずかしくて言えなかった私の言葉だ! 目を開けて聞いてくれってば祐樹…ぃ」
「──はは、嬉しい、なぁ……キミならお役目を……全う、できる、から。頑張……れ」
左手が私の頭に乗るとぐいっと顔を近づけて私の唇を奪った。
重なるその感触に私は────涙を止めることができなかった。
────命の灯が消えていく瞬間を、感じ取ったから。
────そして、同時に大切なものを託されたから。
積もった雪に腕が倒れ落ちる。
私はゆっくりと顔を上げて、光を失った彼の亡骸を見下ろす。
なんで、なんでキミはそんなに────笑ってるんだい?
「………、」
そっと遺体を降ろして私は立ち上がる。
女の子のもとへ行き安否を確認する。──うん、ちゃんと生きてる。
抱きかかえると私はもう一度彼の方に目をやる。
「────っ!」
────寒い。この世界はとても寒い。
平気で人が死に、どの命も等しく軽く扱われる残酷な世界。
きっとこの地に限らず、日本中…いや世界中で同じことが起こっていることだろう。
私はもう振り返らずにもと来た道を走っていく。
(大丈夫。ちゃんとキミの想い、受け取れたから)
最初に彼と出会った頃に戻った気分だ。孤独で、真に誰かに頼れる人がいない環境。
でも、あの頃とは違うものが一つある。
「っ! あぐ!?」
足がもつれて倒れこむ。子供は抱えているので大丈夫だが、雪の中に盛大にダイブしてしまった。
────ほんとに、この大地は色々と寒いな。
「だけど……私はもうこの寒さに負けないほどの”熱”をもらったから、ね~!」
一人じゃない。孤独じゃないから。私は立ち上がれる。
ざわざわとそこら中に奴らの気配を感じ取る。
子供を隅に隠して、私は籠手を装着し、槍を構えた。
「……私の名前は秋原雪花。北の勇者代表として相手になるよ~…そこそこにやるから覚悟してかかってきな化け物ども!」
生き残れるか分からない。でも悔いのないように最後まで抗ってやる。
いつかまた彼と出会った時に笑っていられるように────。