勇者たちをイチャイチャさせたい!   作:紅氷(しょうが味)

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リクエストありがとうございます。
うまく取り入れられているか不安ですが、どうぞ。


郡 千景の章
story1『思うはあなた一人』


ある日の夜のこと。

寄宿舎に戻ってきた祐樹は側から見ても分かるくらいの疲労の色を見せて自室に向かって歩いていた。

 

スタスタ歩くというよりトボトボと言った感じの足取りで。

大社の計らいにて急遽用意された一室ではあるが住み心地は気に入っている。

女子たちの部屋とは少し距離が開いていて入り口から遠いことはこういう時に不満に思わなくはないが、今は男子が一人で使用しているための配慮だ。

 

充てがわれた部屋の前に辿り着くと扉を開ける。

部屋の施錠は基本的にしていない。というのも特別盗まれようが漁られようが困るような物品は持っていないためだ。

 

だからなのか、結構な頻度で祐樹自身が帰宅するより前に訪問している人がいた。

 

部屋の明かりはついている。これは祐樹がつけて外出していたわけではなく、前述の通り誰かかいるわけになるのだが…最近はほぼ固定されている。

 

「……おかえり」

 

部屋に入ると彼の部屋にはこたつが設置してある。

その場に陣取っている彼女こそが訪問者だ。

第一声に口にする言葉は自然体に発せられたもので昨日今日の関係性ではないことが伺える。

 

祐樹も特段驚くこともなく視線をそちらに向けると疲労顔を何処へやら、柔和な笑みを浮かべていた。

 

「ただいま。今日も来てたんだね千景」

「ええ…この部屋はゲームをするのに適した環境だもの。祐樹くんの部屋だけこたつがあってズルいわ」

「それ以外は逆に僕の方が羨ましく思うけどねー……それって新作のゲームだよね?」

「…一緒にやる?」

「うん! でもちょっと待ってて、汗かいちゃったから先にシャワー浴びてくるよ」

「ならそれまで他のゲームやっているわ。ごゆっくり」

「いってきます」

 

彼女────郡千景の提案に祐樹は快く頷いてから部屋を後にする。

その際にチラッと千景を見てみたら、言葉の通り別のゲーム機を取り出してピコピコやり始めていた。

相変わらずその時の千景の表情は普段の時とはまた違った側面を覗かせている。

 

(…ま、お言葉に甘えてゆっくり入らせてもらいますか)

 

今日はまた一段と厳しい訓練内容だったので彼もゆっくり体を清めたかった。

しかし祐樹の住まうこの一室は浴槽はなく、シャワーのみの簡素な造りでゆっくり浸かるというよりはゆっくり湯に当たると言った方が正しいか────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おかえり」

 

帰宅時と同様に千景のお出迎えを受ける。

祐樹は彼女を見ると、視線はゲーム機に落とされたまま。言葉だけがこちらに向けられていることに気が付くと小さく笑ってしまった。

不意の微笑に千景も気が付いたのか上目状態のままこちらを見てきた。

 

「……なんで笑っているの?」

「いや、凄い集中力だなぁと思って。気分悪くしたなら謝るよ」

「…別にそこまで気にしてはないけど。で、準備はできた?」

 

表情は大きく変化が見られない彼女だが、今か今かと催促されているような気がした。

「ちょっと待って」と言って祐樹はキッチンに足を運ぶとマグカップを二つ取り出してあるものを作り始める。

特別時間はかからない。ちゃちゃっと作り終えるとこたつと一体化していた千景の目の前にマグカップを置いてあげた。

 

「何もおもてなししないのも悪いしね。外も寒いしココアでもどーぞ」

 

話しながら祐樹も千景の対面の位置でこたつに入る。

ピタッと手を止めた千景は祐樹とマグカップを交互に見ると小さく頷いて口元に持っていっていた。

 

「──甘い。おいしいわ」

「疲れたときは甘いものってね。…ふぃー生き返る」

「私は今日はオフをもらってたから祐樹くんほど疲れてはいないけれど……乃木さんと鍛錬してたんでしょ?」

 

彼女の言葉に祐樹は苦笑とともに頷いた。

そう、なぜ彼が疲れ切った顔をしていたのか……その理由は千景の言った通りで乃木若葉との鍛錬のせいであった。

千景も改めて原因が分かると「あぁ」と小さく声を漏らして祐樹ほどではないにせよ、同情するような表情(かお)をしていた。

 

「ご愁傷様」

「…僕から頼んだことだから自業自得だけど、まさかあんなにきついとは」

「──身体や精神を鍛えるのは幼少時からやっているそうよ。それに比べたら祐樹くんはここ最近にやり始めたんでしょ? それでもついていけてる祐樹くんも大概……だと私は思うわ」

「僕も小さいときからやってたけど……ああいや、でも何年か空白期間あるからそれもあるのかなぁー絶対明日筋肉痛だ」

「居合に空手に射撃──祐樹くんはオールラウンダーにでもなるつもりなのかしら? …それなら鎌の扱い方レクチャーする?」

「若葉のやつがひと段落したら教えてもらおうかな。千景と一緒なら楽しくできそうだ」

「……私だって教えるなら徹底的にやるけど? ステ上げに妥協は許さない」

「う”っ……お手柔らかにお願いします」

 

祐樹の動揺具合に千景はくすりと小さく笑みを浮かべる。

言葉そのままに受け取る感じは同じ苗字を持つ彼女を連想させるが、こちらはまた彼女とは違った反応するので千景からすればからかい甲斐のある男の子であった。

 

千景はマグカップに残ったココアを飲み干すと小さく息を吐いた。

 

「まぁ考えておくわ……ごちそうさま。さて、じゃあ早速やりましょうか」

「了解」

 

千景はサッとゲーム機を取り出して起動させる。

祐樹もゲームに関しての彼女の突飛な行動に慣れているのか、用意してある同じゲーム機を取り出すと同様に起動しはじめた。

 

お互いにこのゲームをやるのは初めてである。

いや、正しくは千景は前作をプレイしていたらしくまったくの素人ではないらしい。シリーズ物の狩猟ゲーム、その第二弾。

前々から約束して二人でやろうと決めていたのである。

 

ゲームに関しては他の追随を許さない千景に同じスタートラインに立つにはこうして『初めから』のゲームをするのが手っ取り早いと祐樹は考えた。

そしてこのゲームはソロプレイはもちろんだが、本質は協力プレイに重きを置いている。チーム内では千景ほどゲームに没頭するような人はいないようで、最終的についてきたのは祐樹ただ一人だった。

 

「こういうゲームって操作難しいのかな? あ、まずはキャラメイクか」

「…簡単に言ってしまえば、”慣れ”の一言で済むわね……祐樹くんがこの前までやっていたのはターン制のバトルだけど、今回のはリアルタイムの戦闘になるの。勇者の時の戦闘と同じで適切な状況判断と仲間……との連携も大事になってくるわ」

「なるほど。千景の戦闘時の立ち回りはこういうゲームで培われてる面もあるのか……奥が深いな」

「もう。真面目に評価されると恥ずかしいからやめて……」

 

しみじみといった感じで祐樹が千景の分析をしている中で、千景は恥ずかしくて視線を泳がしてしまう。

それでも流石というべきか着々と初期設定を済ませていくあたり筋金入りである。

 

「武器選択か──お、鎌があるね…ってことは千景はコレかな?」

「私は今回は遠距離で行かせてもらうわ。そうね……小回りの利くボウガンで行こうかしら」

「お、意外な選択」

「…ゲームだもの。現実と違って得手不得手はないから……それに祐樹君は近接武器にするつもりでしょ? 両方近接の脳筋プレイも悪くないけど、今は祐樹くんのフォローに徹するわ」

「うーん。千景がそれなら……じゃあ僕が鎌を使うよ」

 

千景が少し驚いた顔をする。

 

「…いいの? 徒手空拳もできるし、太刀もあるのよ?」

「もちろん足を引っ張らないように努力するけど、背中は千景が守ってくれるなら安心して戦える」

「…………、」

「それに千景を見てたら鎌もどんなものかなーって気になってたところだし丁度いいってのもあるよ」

「……ばか、ね。ならどんどん突っ込んでいきなさい」

「おう!」

 

口では悪態突きながらでもその表情は柔らかい。

祐樹も彼女の雰囲気が伝わっているのか悪い気もせずに答えてみせた。

 

そうしてキャラメイクも済ませてゲームが始まる。

千景のゲーム解説を交えて会話をしながらチュートリアルをトントン拍子で進めていく。

 

初心者である祐樹も千景のフォローのおかげですんなりとゲームに取り組むことができて結構楽しんでプレイしている様子だ。

 

「鎌ってカッコいいモーションするよね。千景もこのゲームみたいに動けたりするの?」

「……鎌使いとしては頷きたいところだけどどうかしらね。祐樹くんは真似しない方がいいと思うわ」

「えー僕はこういうカッコいい動きできたらいいだろうなぁって思うけど?」

「…訓練次第では出来なくないけど、素人がやったら敵をやる前に自分の首がすっ飛ぶわね………スパーンと」

「こわ……あっ、なんか敵が落とした!」

「……レアドロップね。さっきから運が良くないかしら祐樹くん? 同じ依頼(クエスト)してるのに素材に差が出てきてるんだけど」

「なんでだろうねー? お! なんかまた落ちたよ!」

「…そういえば高嶋さんも同じ感じだったわね。……似たもの同士?」

 

最後のほうは独り言のようなものだったので祐樹には聞こえていない。指先は器用に動かしながら千景は熱中し始めた彼の姿を見据える。

 

(…疲れてるはずなのに、大丈夫……かしら?)

 

確かに約束はしていたが千景は彼が帰ってきたときのことを思い出すと、悪いことをしたかなと後ろめたさを感じてしまう。

時折小さな声で「うわ」とか「あぁーやられた」などとリアクションを取りながらプレイしてるあたり本人は楽しんでいるようだが。

 

プレイを始めて早三時間。そろそろ休憩どきかもしれない。

 

「……一度、休憩しましょうか。私はともかく祐樹くんはゲーム慣れしてないから」

「おっと…もうそんな経ったのかー。じゃあ、千景は部屋に戻ってお風呂でも入ってきたら? まだまだ先は長いんだし」

「お風呂……」

 

彼女は制服姿のままこの部屋にいる。明日は学校も休みなわけだが彼女曰く夜通しプレイするつもりらしいのでだったらと祐樹は千景に提案してみた。

数舜ばかり考えるそぶりを見せていた千景は祐樹の問いかけに頷く。

 

「…それもそうね。じゃあ祐樹くんのとこのシャワー借りようかしら」

「えぇっ!? 今日は冷え込むしちゃんとお風呂に入った方がいいんじゃ? それに着替えだってないし…」

「…私はもともと長風呂はしないのよ。さっきも言ったけど祐樹くんの部屋は私好みの造りしてるのと…あと単純に部屋に戻るのが面倒だわ。着替えは……スウェットでも貸してくれればそれでいいわ」

「……じゃあ、バスタオルとか諸々用意するよ。千景の頼みなら仕方ない」

「ありがとう」

 

こたつから出て立ち上がって千景は洗面所に歩いていく。

見送る祐樹も準備するべく立ち上がって衣装ケースのあるところに向かう。

 

「……覗いたら承知しないから」

「しないしない。入ったら傍にバスタオルとか置いておくから使ってよ」

「…そう。いってきます」

「いってらっしゃい」

 

ひょいっと顔を出した千景からそんなことを言われたが手をひらひらさせて否定しておく。

少し面白くなさそうなむっとした顔をしていたようだが、流石にその弄られ方に祐樹は慣れていたようだ。

 

準備を終えてしばらく、浴室からシャワーの音がし始めたところで彼はそちらに足を運んで着替えとタオルを置いてあげていた。

 

(……正直、千景が風呂に入るのは初めてじゃないにせよやっぱり慣れないな)

 

ある意味で信頼を勝ち取れているのかもしれないが、彼女も彼女で警戒心が足りてないと祐樹は考える。

扉一枚隔てた先には千景の────。

 

「…ゲームでもして待ってるか」

 

信頼されるのは悪い気はしない。

部屋に戻って祐樹はこたつに入ると、テーブルの上にあるゲーム機を手にとって座り気味の目を画面に注視させる。

 

うつら、うつらと。

 

時間はあと一時間もすれば日付が変わる時刻。

視線を右へ左へ動かしてみれば口からは大きな欠伸がこぼれ落ちる。

 

「ごめん、千景……やっぱりお風呂上がるまで寝させ…て、くれ」

 

睡魔が一定値を超えてしまったのか、祐樹は電池の切れたおもちゃの如くテーブルに突っ伏してしまい寝息を立て始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……起きて」

「────ん?」

 

肩をゆすられ微睡の中から引き上げられる。ゆっくりと瞼を開けるとそこには彼の用意したスウェット姿の千景がいた。

ハッとその姿を見て起き上がって祐樹は時計を確認する。

 

三十分ほど寝てしまったようだ。

 

「ごめん僕寝ちゃって……」

「……私の方こそ起こしてごめんなさい。でもそのまま寝たら風邪ひいちゃうと…思ったから」

 

千景の申し訳なさそうな表情に祐樹も首を横に振って答える。

 

「全然……それより頭にタオル巻いてる千景見るの新鮮だなぁ」

 

自然と目につくのが千景の姿。

長い艶やかな黒髪がタオルに巻かれて普段見えないうなじやらが露になっている。

祐樹の言葉に千景も気恥ずかしそうに頬を赤くしていた。

 

「えっと……髪、長いからこうやってしばらく巻いてるの」

「そうだったんだ。確かに千景の髪長いから乾かすの大変そうだよね」

「……この頃高嶋さんや土井さんみたいな髪も良いと思う時があるわ。私もああしようかしら……」

「いやいや! 千景の髪はキレイだから切るなんてもったいないよっ!」

「そ、そう? ……そう、なんだ」

 

千景の手をとり思わず前のめりになってしまった。

 

「……でもちょっと邪魔くさいのは本当なのよ。高嶋さんとかにも美容室に行こうって提案されるけど……まだ少し怖くて」

「──あぁ、なるほど」

 

暗い顔になる千景を見て祐樹はある程度察しがついた。

祐樹と出会う前の過去の千景が受けた”傷”。最初は友奈から聞いて、千景と仲良くなってからは彼女の口から直接聞かされたものがある。

今でも思い出すたびに彼女の悲痛な、達観、諦めにも似た表情は忘れられない。そして千景にそのような顔をさせてきた環境も祐樹は許せないでいた。

 

けれど、いくら祐樹の心の内がその者たちを糾弾しても彼女の過去は変わることはない。

だから────というわけではないが、彼女の傍に居てあげようという気持ちが沸き上がるのも必然だった。

 

「……なら、千景が安心できる人にやってもらうのはどうかな?」

「どういう、こと?」

 

首をかしげて疑問を浮かべている千景に対して、祐樹はクローゼットからあるものを取りだして彼女に見せてあげた。

 

「実は奉仕活動を色々しているうちに教えてもらう機会があってさ、何度か実技も含めてやったことがあるんだ。散髪(ヘアカット)

 

刃先は彼女に見せずに変わりに持ち手部分を見せる。

その時にもらった道具たちを。

 

「……活動をしていることは聞いていたけれど、ほんとにいろんなことに手を出してるのね」

「手伝いや誰かの助けになることを通して喜んでくれるのが嬉しくてさ。自分に対してもいい経験になると思ってやってきてたけど……こうして千景の助けになれるのならやってきた甲斐があったってもんだ。どうかな?」

 

千景はハサミと祐樹を交互に見てしばらく考えていると、やがて小さく頷いてくれた。

「良かった」と彼も優しく笑ってから準備を早速始めていく。

 

「鏡は洗面所のやつを使うか……椅子は確かこっちに折り畳みのが──」

「…なんか、ごめんなさい。疲れてるのに」

「謝ることなんてない。千景の困ってるときの助けになれて嬉しいし、これからもどんどん頼ってよ」

「……うん」

「さっ、ここに座って」

 

床に新聞紙を引いてその上に椅子をセッティングした簡単な散髪台。

祐樹に案内されて千景はおずおずと座って腰を落ち着かせた。

 

その背後に祐樹は配置につくと彼女の巻いていたタオルを取り、髪を手櫛で梳いていく。

 

「…ちょっと緊張するわね」

「はは。僕も初めて髪を切りに行ったときは緊張したなぁ……それよりお客さん、本当に良い髪質してるね~」

「……ふふっ。店員のつもりなのかしら?」

「雰囲気だけでもねー。して、お客さん本日はどのように?」

 

二人は鏡を通して視線を交わし会話をする。

 

「店員さんにお任せするわ」

 

ただ一言千景はそう言った。

 

「──僕的に今の状態の髪が好きだから、形はそのままで量を減らそうか。後は襟足のあたりを少しカットして……」

 

チャキチャキとハサミを鳴らして祐樹は千景の髪を切り始める。

千景は目を伏せて彼に身を委ねた状態でいる。

 

「どう? 大丈夫?」

「ええ。思ってたより怖くは……ないわね」

「おっけー。ちゃちゃっと済ませちゃうよ」

 

逐一千景の様子を確認しながら祐樹は手早く進めていく。想定していたより彼女は落ち着いているようで祐樹は安心した。

時折髪を梳く過程で頭を撫でてあげると目を細めて気持ちよさそうにしている。

 

「────よし、こんなもんかな。どうかな千景?」

「ほんとに器用なのね。手早いし……祐樹くんは将来は美容師にでもなるの?」

「素人の真似事だし、今はそのつもりはないかな。でも、やって欲しかったらいつでも言ってよ」

「……優しいのねあなたは…本当に。──ねぇ、祐樹くん。もう一つ、私のお願い……聞いてくれる?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋の照明は消されて、差し込む月明かりが部屋の中をうすく照らしている。

静寂が占めるこの場に祐樹と千景は二人向かい合うようにベットの上で寝転がっていた。

 

千景がお願いしてきたこと。それを聞いた祐樹は驚きはしたが、断ることはなかった。

ただなんとなく気恥ずかしさが勝り、どう話しかけたらいいのか分からずにはいた。

それは彼女も同じようで、二人して無言のまましばらくいると不意に千景から口を開いた。

 

「……ありがとう。私のわがままを聞いてくれて」

 

小声で話してくる千景もこうして提案してみたが実際は恥ずかしくて火が吹きそうなほどだった。

祐樹には悟られまいとしているがどうしても顔が熱くなってしまう。

 

どうにも彼の前だと自分が自分じゃない感覚に千景は困惑してしまうが、けれどもそれが嫌とはならなかった。

祐樹も彼女の言葉を聞いて緊張の糸がいくらか解れていく。

 

「ゲームはしなくていいの?」

「……また、今度一緒にしましょう。今は、その……えっと」

「うん。ねえ千景……違っていたら謝るし突き放してくれて構わないから────」

「………っ!? ゆうき、くん?」

 

手を伸ばして祐樹は千景を自分のもとに引き寄せた。

びくりと肩を跳ねさせる千景は突然のことに思考がまとまらない。

 

────抱きしめられている。

 

祐樹のぬくもりが千景を優しく包んだ。

囁くように祐樹は彼女の耳元で話しかける。

 

「ごめん突然。でもこうしてあげたいと思ったから……ダメかな?」

「…ダメじゃ、ないわ。恥ずかしいけれど……うん。私もこうして欲しかったのかもしれない」

「そっか。なら良かった」

 

そう言って祐樹は少し強めに抱きしめると、千景はそれを拒んだりはしなかった。

むしろ自分から求めるように祐樹の体に手を回して抱擁する。

 

────誰かのぬくもりに安心するなんて久しぶりのような気がした。

 

今まで排斥して自分の殻の中に籠ってきた以前の自分が見たら鼻で笑うだろうか、と祐樹の胸の中で自虐気味に千景は考える。

でもそういう暗い気持ちも、彼の匂い、ぬくもりに包まれているとスッと溶けて消えていくのが理解できた。

 

────今なら。二人しかしないこの空間でなら……私は自分のキモチに素直になれるかもしれない。

 

「…祐樹くん。もう一つお願いしてもいいかしら? ──頭を、撫でて欲しいの。いっぱい、して欲しい」

「…うん、お安い御用だよ千景。よしよし」

 

二つ返事で了承すると祐樹はゆっくりと千景の頭部に触れた。

優しく、壊れないようにその手を動かしていく。

 

心地の良い時間。瞼を閉じて息を大きく吸い吐いてみると彼の匂いがした。

なぜだかそれだけで嬉しく感じてしまう。

 

「全部どこをとっても祐樹くんがいるわね。くすっ……ふふ」

「嬉しそうな千景が見れて僕は幸せ者だな」

「……私も────うん、これが”幸せ”なのね」

 

小さく笑いあう。千景にとってそれはとても自然に笑えた気がした。

 

 

 

 

 

 




「ぐんちゃんおはよー……あっ!」
「高嶋さん、おはよう。どうか、した?」

隣に座った友奈は千景の姿を見るなりご機嫌になっていた。

「えへへー。とても似合ってるよ」
「……すぐに分かるのね高嶋さんは」
「もちろんだよー! お話色々聞かせて欲しいなぁ」
「聞いていて面白い話か分からないけど……うん。それじゃあ──」

ぽつぽつと千景は話し始める。
そんな姿は晴れやかで、ありのままの彼女の姿を見た気がした友奈はニコニコと彼女の話に耳を傾けていた────。



SSR『思うはあなた一人』にて。


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