勇者たちをイチャイチャさせたい!   作:紅氷(しょうが味)

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ケモ耳をつけた女の子……いいよね(遠い目


story2『チカにゃん』

事の発端は祐樹が訓練から帰宅して寮へと戻ってきた時のことだ。

 

「あぁ、疲れたー」

 

 

今日も今日とて疲労困憊の様子の彼がドアを開けると既に明かりがついていた。

もはや自分の部屋に誰かいるのは当たり前のような出来事になっているため特に驚くことはない。

この前なんて土居球子が居たときなんかは、『これから買い物に行くから付き合えゆーき!』なんて駆り出されたばかりなのだ。

 

「……おかえり」

 

部屋の真ん中に設置されているテーブルと座椅子に一人の少女が我が物顔で座っている。

名を郡千景。同じ勇者のチームメンバーであり、また祐樹とは密にゲーム仲間としての関係を有していた。

 

「……千景か」

「なによ? 私が居てはダメなのかしら」

「そんなこたぁないよ。ただいま」

「……うん」

 

視線と声だけこちらに向けて会話をする千景を一見して祐樹は彼女の対面に座った。

目の前の千景は特に表情を変化させずに手元にあるゲーム機を操作し続けている。相変わらずの集中力だ。

 

「今日は一緒にゲームする約束してたっけ?」

「いいえ。特には……ただ単に居心地がいいから来てるだけよ」

「……さいですか」

 

会話も途切れ途切れに祐樹もテーブルの上にあったゲーム機を手に取り起動させる。

これも千景が居た場合の”流れ”というものだ。祐樹も操作の慣れてきたソレを手早く入力していくと、任務(クエスト)待機画面に移っていた。

ちらり、と視線を彼女に向けてみるが特に反応はない。祐樹は視線を落として今度はその画面をぼーっと眺め始める。

 

しばらくの間が経つ。するとピコン! とゲームのアイコンが反応を示した。

 

《Cシャドウが参加しました》

 

このゲームは複数人で遊ぶことができる。だが、それは前提として同じタイトルのゲームを所持していないと成立しない。

これらが意味するのはただ一つなので言及することはしない。これもいつものことなのだ。

 

待たせないようにテキパキと準備を済ませて『準備完了』させるとすぐに”Cシャドウ”も準備完了させた。

そして始まる。

 

「……今日も乃木さんと訓練してたの?」

「うん。でも結構食らいついて行けてる気がするよ。少しは成長してるのかな僕も」

「自分で評価してるのはどうかと思うけど……まあ、祐樹くんがすごく頑張ってるのは私は知ってるから。エリア五にいるわよ」

「おっけー……ありがとう千景。マーキングは僕がする」

「うん」

 

ゲーム画面越しに二人は会話をする。これもいつもの光景だ。

なにも知らない人からすれば二人の姿は稀有なものと捉えられるだろうが、そこには気まずさはなく落ち着いた空気に満ちていた。

 

カチャカチャとボタンを押す音とゲーム音が部屋に流れる。

少ししたら同じエリアに”Cシャドウ”が合流して二人で敵と戦い始めた。

 

時に祐樹が攻め、時に相方が攻めて、隙あらば二人で一気に詰める。

阿吽の呼吸の如く敵を蹂躙していく。

 

「……こっちもうまくなったわね祐樹くん。回復ありがと」

「いつまでも──ほっ! 千景に負担かけてられないからねー! どういたしまして」

 

それからあっという間に敵を倒して任務を完了させる。

相変わらずの腕前に祐樹ももっと精進せねば、と内心意気込んで異なる任務を選択していく。

 

「……そういえば」

 

ぽつりと千景が一つ言葉を漏らすと、祐樹は彼女の方に意識を傾ける。

 

「ん?」

「忘れていたわ…私が部屋に来た時に配達物が届いていたわよ。玄関前に置いておくのもなんだし、部屋に持ってきてしまったけど」

「届け物? なんだろ……何かを頼んだ覚えはないんだけど……ちょっと見てもいい?」

「ええ。ちょうど祐樹くんの後ろの方に置いて──そう、ソレ」

 

千景に指示されて祐樹は一つの段ボールを手に取った。

サイズとしては中間の物で、無地の段ボールからは中身を示唆するものは見当たらなかった。

 

それが更に疑問を生むことになる。

 

「んー? 中身は軽いし……ほんとになんだろ?」

「さぁ? 開けてみればいいんじゃないかしら。祐樹くんの部屋にあったんだからその権利はあるはずよ」

「それもそうか。じゃあ開けるよ」

 

一瞬、危険物も視野に入れたがそれはこの環境が許さないだろうとすぐに候補から外す。

封を開けて中身を検めると更に白い布に包まれている物が姿を現した。

 

祐樹と千景は首をかしげてソレを眺める。

 

「……何これ?」

「うーん。小物のようだけど……包みを開けるよー……っ!?」

「そ、それは……!?」

 

二人して驚愕の色に染まった。

特に反応の色が強かったのは千景であった。祐樹もそれなりのリアクションを取っていたが、果たしてその物の正体は────。

 

「ね……ネコミミ、だと……っ!?」

 

震える手で祐樹はカチューシャ型の猫耳を手に取ってみる。

色は黒く、それは所謂『黒猫』を模したコスプレグッズであった。

 

「なんで僕の部屋に猫耳(こんなもの)が届くんだ……」

「まさか…祐樹くんにそんな趣味があったなんて……ああいえ、このことはみんなには黙っておくわ……うん」

「そんな優しさは逆に辛いよ!? それにつけるなら僕より千景の方が似合うって!」

「わ、私? ……はっ。祐樹くんはこうやって誰かに着けさせる魂胆で……?」

「それも違うと断言させてくれ!」

 

一体全体どうなっているんだ、と祐樹の頭は混乱していた。

まあ千景自身も祐樹がこんなものを用意するなんて思ってもいない。その場のノリに乗っかってみただけである。

 

「……でもまあ千景が着けている所を見てみたい気もする。ほい」

「えっ?? ちょ──」

 

呆気にとられているうちに祐樹のいたずら心が身体を先に動かす。

千景も反応できずにその頭に猫耳カチューシャが装着されてしまった。

 

「おー……千景似合う。可愛い!」

 

次いで祐樹の発言にハッと千景は我に返る。

続くようにその顔は真っ赤に染まりわなわなと肩を震わせて祐樹の胸をポカポカと叩き始めた。

 

「な、に、するのよ!」

「い、痛い!? ご、ごめんつい──でも本当に似合ってるよ。千景の黒髪とマッチしてるし」

「──っ!! あなたはそうやって……!! もう知らない! 取るわ」

「えーもったないな……あ、はいごめんなさい」

 

そろそろグーが飛んできそうな勢いだったので祐樹は押し黙った。

千景もそんな彼の姿を見ていくらか冷静さを取り戻したので、改めて頭の猫耳を取ろうと手にする────。

 

「……あれ?」

 

そこで彼女は違和感を覚えた。同時に嫌な予感も含めて。

 

「どうしたの千景? 取らないの??」

「え? う、そでしょ? ……取れないわ!?」

 

引っ張ってみるがびくともしない。それどころか妙な感覚が先端に現れていた。

途端に冷や汗がでてくる。祐樹もそんな彼女の様子を見て徐々に焦りが見え始めた。

 

「まさかイタズラ?? 接着剤がついてたとか!? ……ごめんちょっとよく見せて千景」

「あ、ちょ……待って! ひゃん!!?」

 

祐樹が猫耳に触れた途端に、千景は全身に電流が走った。

ビクッと体を震わせてその場にへたり込むその姿を見て、祐樹は更に顔を青くした。

 

「ご、ごめっ!? 大丈夫か千景! やっぱり誰かの嫌がらせか……よく見せてくれ!」

「んんー!? そ、そんなに乱暴にさわら──きゃふ?!」

「え……この反応。まさか千景────」

 

ふにふにと祐樹が触れている猫耳。最初に触っていた時に比べて妙な生暖かさを感じ取った辺りでまさか、と驚愕する。

千景は本来の耳を真っ赤に染めて息を切らしていた。

 

「な、なんか感覚が伝わって……まるで身体の一部になってるかのようだわ」

「…そんなことがありえるのか?」

「私も信じられないわよ! 一体何なのよこの猫耳……」

 

うっすらと涙目になりながら千景が上を向くと、今度はその猫耳が上下にぴょこぴょこと動き始めた。

思わずその光景を目の当たりにした祐樹は吹き出してしまう。

 

(や、やばい!? なんだこの可愛さ……っ! まずい、殺される……)

 

もはや尻尾がないのが悔やまれるがそれでもこの破壊力は凄まじかった。

この時ほど彼女────上里ひなたのようにカメラを常備していれば、と思わずにはいられなかった。

 

「……ど、どうすれば? 祐樹くん」

「──っ!?」

 

上目遣いで助けを乞う姿に祐樹の顔は赤くなってしまう。

反則的な可愛さを兼ね備えてしまった猫千景に翻弄されていると、不意に玄関先からドンドンとドアを叩く音が響いた。

 

ビクン、と二人して肩を跳ねさせて視線はドアの方に向かう。

 

『…おーい! ゆーき! タマだぞーいるかー?』

「なんてタイミングで球子のやつ!? …って、ドアに鍵かけてなかった!?」

「え、え、え……どうするの祐樹く──」

「ああえと……とりあえずこのパーカー着てくれ!! そしてフード被って」

 

身近に隠すものがなく慌てた二人はとりあえず祐樹の着ていたパーカーを千景に着させることにした。

千景は両手で目深にフードかぶると同時にドアが開け放たれた。

 

「ゆーきー! 入るぞー?」

「タマっち先輩! 勝手に入るのはマズいよ」

「はっはー! 気にするな杏! タマとゆーきの仲なら構わないのだ!」

 

がやがやと気配が近づいてくる。この時ほどオープン状態の部屋を恨んだことはなかった祐樹であった。

 

「……お、なんだいるじゃないかゆーき! 返事しろよな~」

「あ、あぁすまん。杏も」

「こんばんわです祐樹先輩! 勝手に上がってしまってすみません……あれ? 千景先輩も一緒だったんですね?」

「え、えぇ……さっきぶりね伊予島さん」

「なんだ千景も居たのか! ……ってどうしたんだそのカッコ?」

 

早速球子が千景の様子に疑問を持ってきてしまった。驚いた千景はだらだらと額に汗を垂らしながら視線を泳がせていた。

祐樹は思った。ここでフォローしないとまずいと。

 

「それってゆーきの服だよな? なんで千景が着てるんだ?? 部屋のなかでフードも被って──」

「ああー!!? ちょ、ちょっと飲み物を零しちゃったんだよ!! それで替えに着てもらってるわけだぞ球子!?」

「うお! 急にどしたゆーき。顔が怖いぞ!?」

 

ガシッと球子の両肩を掴んで千景との間に割り込む。

ずいっと彼女の視界を塞ぐようにいくと、球子も少し大人しくなっていく。

 

「きゅ、急になんだよぉ…」

「球子、(千景のことは深く踏み込まないで良いから)僕だけを見てくれっ!」

「ふぇ!? あ、あ……」

 

口をぱくぱく開閉しながら球子は沸騰したかのように赤く染まる。

祐樹は「あれ?」と彼女の様子の変化に首をかしげるが、あまり今の千景を探られるのは芳しくないので続ける。

 

「ゆ、ゆーき? み、みんなが居る前でそんなこと言われても……タマは困る、ぞ」

「球子……」

「……っ。ゆーきぃ」

 

両者ドキドキと脈打つなれどその理由はそれぞれ異なるのが、それがなんとも言えない状況を生み出していた。

だがそんな二人の一連の行動を外野の二人が黙っていなかった。

 

ガシッと球子の肩を掴まれる。そして同様に祐樹も背後から肩を掴まれた。

二人して強制的に振り向かされる。

 

「タマっちせんぱい?」

「……祐樹くん?」

 

そこに居たのは黒いオーラを放つ千景と杏が……。

強引に現実に引き戻された二人は「ひっ!?」と小さく悲鳴を上げてしまっていた。

 

「私たちは夕食のお誘いに来たんですよねタマっち先輩?? でも、この状況はなんなのか……説明してくれる?」

「あ、杏……ど、どうして怒ってるんだ? タマは、なにも……してないぞ?」

「怒ってないよ? ただ、説明が欲しいだけなの」

「ひぃ!」

「祐樹くん……もしかして本当は土居さんにしてほしかったんじゃないの?」

「ち、千景。待って、僕はキミを守ろうと────」

「……伊予島さんの言う通りよ。きちんと説明してちょうだい」

「ひぃぃ!?」

 

二人の圧に押されていくと祐樹と球子は背中合わせになってしまう。

まるで敵地の中心に放り出されてしまった戦士の如く、二人はただただ縮こまることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

スタスタと廊下を歩く者と涙目のままトボトボと歩く者と両者様々の反応を見せながら四人は食堂に向かっていく。

杏子に弁解をしつつ歩く球子を祐樹と千景が後ろから眺める構図である。

 

「ち、千景……悪かった。機嫌を治してくれ」

「別に…ちょっとムッとしただけ。それよりコレ、どうしようかしら?」

 

千景は今はフードではなく、帽子を被っている状態である。

これも祐樹の手持ちのものを使用しているわけだが、室内というのもあって少しばかり違和感があった。

その中身は相変わらず猫耳が装着されたままで、おまけに感覚まで付与されているときた。

このグッズを送りつけた主の目的が見えない。

 

「…今は対策のしようがないからどうにか誤魔化していくしかないよ。みんなに相談する?」

「それは嫌。土居さん含めてどう弄られるのか…それに、恥ずかしいの」

「……ところで、帽子を被ったわけだけど僕の服はもう着る必要はない気がするんだけど?」

「それも嫌。ちょっと精神的に平穏を保っていたいからしばらく貸してて」

「あ、ハイ」

 

ジロリ、と目を細めて訴えかけてくる千景に祐樹も肯定するしかない。

 

(…でもだからって何も匂いを嗅がないでも。く、臭くないよな?)

 

千景は果たして気がついているのか不明だが、真剣な表情をしている中で祐樹のパーカーの袖口に鼻を押しつけている。

なんか段々と行動が動物的になっているようだが、これは伝えた方が良いのか否か祐樹には判断がつかなくなってきた。

 

「んー……ふにゃ」

「ちょ!? 千景蕩けてる、蕩けてるってば!」

「…にゃによー」

 

小声で千景に語り掛けるが、聴こえていないようで匂いを嗅ぐ動作を止める気配がない。

 

(てか、猫化進んでない?)

 

おまけに帽子の中の猫耳も動いてしまっているためか、モゾモゾと微動してしまっている。

非常にまずい。

 

「そういえば先輩は……って千景さんどうされましたか?」

「い、いやー? なんでもないよ杏。はは、あはは」

「むぐぐ……!?」

 

杏が急に振り向いてきたため、祐樹は慌てて千景を背後に隠した。

ぶつかる形で千景は祐樹の背中に顔を埋めてしまい、じたばたと暴れ始めてしまう。

さすがの行動に杏と球子も歩みを止めてこちらに意識を向けてきてしまった。

 

「んんー? なぁんか今日の千景はヘンだな? ゆーき、ほんとに大丈夫なのか?」

「そうですよね。何かお力になれることがあれば────」

「ぐぐ……っ!」

 

いよいよ疑惑の目を向けられてしまうこの状況に祐樹は耐えられなかった。

焦った彼は千景を脇に抱えて勢い良く踵を返した。

 

「さ、誘ってくれたところ悪いんだけど、千景の気分が優れないみたいなんだ!? だ、だから今日はごめんね二人ともー!」

「あ! おいゆーき!」

「……行っちゃいましたね」

 

バタバタと走り去っていく二人を杏と球子は呆然と見送るしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ、ここまでくれば大丈夫だろ……」

「んん!! にゃー!!」

「あ、ごめん千景」

 

ふしゃーと暴れ始めた千景を開放してあげると廊下の隅まで逃げるように離れていった。

まるで警戒心むき出しの猫のようだった。

 

(か、可愛いけど千景のキャラが……意識はあるのか?)

 

普段の彼女だったら火を噴いてしまうほどの行動を取ってしまっているのが心配である。

元に戻ったら数日間引きこもりそうな勢いだ。

 

「お、おーい千景。祐樹だぞ、わかるか?」

「……ふー」

「そうだそうだ。僕だぞ千景……よしよし、怖くないからこっちにおいで」

「──にゃ!」

 

目線を同じにしてあやすように優しく語り掛けてあげると千景は祐樹に飛びかかってきた。

行動は猫のそれになっているが、身体は人間のままなのでその勢いはダイレクトにきてしまう。

 

抱き着くように千景を受け止めると、喉を鳴らしながら祐樹の胸に顔をぐりぐり押し付けてくる。

祐樹は顔を真っ赤に染めながら、いろいろ伝わってくる女の子の部分に翻弄されてしまう。

 

「うえ!? ちょ、ちょっと流石にそれは──顔、近っ!」

「にゃお♪」

 

熱っぽい視線を感じたと思ったら今度は祐樹の顔元まで急接近してきた。

 

「ち、千景! しょ、正気に戻ってくれ!」

「……にゃー」

「ああダメだよ。こんな形でなんて……」

 

目を閉じてお互いの唇が重なろうと────する前にふっと身体に掛かっていた重さが消えていった。

そっと目を開けて恐る恐る見てみると、千景は祐樹の背後に居座ると何やらごそごそとしている様子。

 

「な、なにが──っ!」

「…ちょっとばかり効き目が強すぎたみたいですね。大丈夫ですか祐樹さん?」

「へっ? ひなた??」

 

千景を挟んで話しかけてきたのはなんと上里ひなただった。

申し訳なさそうに頬に手を添えて謝罪している所を見て、祐樹はまさかと察してしまった。

 

「……色々言いたいことがあるんだけど。まずその手に持っている物は??」

「これは”猫じゃらし”です♪ にゃんこちゃんはみんなこれに弱いんですよね~フリフリ」

「にゃ! にゃあ!!」

「ふふっ可愛いですねぇ♪」

 

帽子もとれて露になった猫耳をぴょこぴょこ動かしながら千景は目の前を動くそのおもちゃに意識が釘付けになっていた。

 

「いやぁーまさか試作品の性能がここまでとは……それとも、ふふ」

「ひ、一人で納得してないで説明してくれひなた! 千景は大丈夫なのか?」

「ああごめんなさい祐樹さん。ええ、ちょっと正気は失っちゃってますけど問題ないです。安心してください」

「……はぁ、良かった」

 

ひなたの言葉に祐樹は力が抜ける。

 

「……って、ちょっと待ってひなた。”試作品”てまさか……」

「──てへ♪」

「さ、最近若葉との訓練の時に顔を出さないと思ってたらこんなもの作ってたのキミ!?」

「…だって若葉ちゃんの猫耳姿がどうしても見たかったんです! 大社と巫女の力をちょちょいっと拝借しまして開発しちゃいました♪」

「…………、」

 

唖然。

祐樹はひなたの言葉に唖然を通り越して戦慄も覚えた。

 

「──よし、このことは若葉に報告するとしよう」

「そ、それは困ります祐樹さん。若葉ちゃんの新鮮な反応が見られなくなっちゃうじゃないですか~」

「困るとこそこなの!?」

「それに祐樹さんからしてもこれは嬉しいことなんですよ?」

「ど、どういうこと?」

 

ニコニコと説明している間でも猫じゃらしを動かす手をやめないひなた。そしてその猫じゃらしに遊ばれる千景がとても愛らしかった。まる。

 

「もともとこの猫耳をつくる切欠は”装着者から向けられる愛情度”を図ることが目的だったんですよ」

「…えと、つまり?」

「猫ちゃんという生き物は愛情表現が豊かな生き物なんです。この習性を人間に当てはめて普段表に出さない感情を、この猫耳を装着することによって可能にさせる……」

「つまりは若葉がひなたに向ける愛情度が知りたかった……と、いうことか」

「そういうことです♪ 若葉ちゃんは恥ずかしがって教えてくれませんからねー」

「……キミって本当に若葉のことになると馬鹿になるね」

「むーその言い方はひどいです!」

 

ぷくぅっと頬を膨らませて抗議してくる。

 

「でもなんでそれを千景に?」

「…勇者たちの中では千景さんが一番性質が近いんですよ♪ いわゆるツンツンデレデレな方を探してみたら、というわけです。祐樹さんのお部屋に置いておけば、入り浸っている千景さんもそこまで警戒せずに手に取ってくれると踏んでやらせてもらいました」

「む、無駄な努力を……」

「無駄じゃないですよ。人類の大きな一歩です!」

 

いやいやいや、と祐樹はこればっかりは否定する。そして千景は相変わらずされるがままだった。

 

「……治す方法はもちろんあるよな?」

「ええ、ここに来たのもそれが目的なんです。少しお耳を貸していただけますか?」

 

ひなたに手招きされて祐樹は恐る恐る彼女のもとにいき、話を聞き始める。

ひなたが話し始めると、意味を理解した後に祐樹は顔を真っ赤に染めて口をパクパクと開閉し始めた。

 

「…え、ほんとにそれが?」

「はい! いわば”呪い”や”呪術”の系統をアレンジして流用しているので、特定のアクションを踏めば簡単に解呪できてしまうんです」

「出てくる単語が恐ろしいな!? いやでもほら……それは千景の意志がというか」

「もう祐樹さん、意思も何も答えは千景さん自身が示してくれるじゃないですか~♪ 隅で見ていましたが、ここまで反応してくれるなんて……正直妬けてしまいますね! お二人の写真もこのカメラに収めさせていただきました♪」

「最初から見てたんかい!? …あ、写真は後でください」

「素直な人は好きですよ祐樹さん♪」

 

うふふ、と頬に手を当ててひなたは微笑んだ。

 

「──でもごめん。解呪の方法がソレなら、いくらひなたの前でもできないぞ」

「それは承知してますとも。ですから後は祐樹さんにお任せします────あ、猫耳は祐樹さんと千景さんにプレゼントしますね♪」

「…じゃあ僕たちは部屋に戻るよ。いくよ千景、おいで」

「…! にゃ!」

「皆さんには私がうまく誤魔化しておきますので。お騒がせしてすみません」

「ほんとだよ……」

 

じゃあ、と言って祐樹は千景の手を引いて部屋に戻っていく。

そんな二人の姿を見てひなたは笑みを浮かべながら見送った────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ひなたに見送られながら祐樹と千景は再び部屋に帰ってきた。

ドアを閉めて、普段はかけておかない鍵をかける。今度こそ誰からの妨害がないように。

 

千景はひなたに遊んでもらえたのかご機嫌な様子だ。

けれど祐樹の心は──心臓はうるさく脈打っていた。

 

「にゃあ、にゃう……」

「よしよし千景。こっちにおいで」

「にゃ~♪」

 

もはや完全に猫化が進んでしまって人語を話すことが無くなった千景。

平時のクールな態度ももはや微塵も感じられない状態だ。

 

ひなたの先ほどの言葉を思い出して祐樹は再び耳を赤くする。

 

「…千景。よしよし」

「ん~♪ にゃおぉ」

 

手を差し出せばすり寄ってくる。そんな彼女を愛おしく感じ祐樹は頭を優しく撫でていく。

その視線は千景の────を見ていた。

 

「なあ千景……僕のこと、好きか?」

「にゃ!」

「はは……それじゃ分からないよ」

 

撫でる手は止めず、言葉はそれ以上は出てこなかった。

どきどきと他人事のように感じる心臓音ばかりが彼を徐々に追い詰めていった。

 

数舜目を伏せて考える祐樹。すると意を決したのか赤くなって茹だった顔を見上げて猫千景に向き合う。

 

「千景。こんな形になっちゃったけど……この気持ちは本当のものだから。受け取って欲しい」

「にゃー? ……にゅ!? んむ」

 

ビクンと身体を跳ねさせた千景は次の瞬間にはその潤った唇が塞がれた。

他でもない祐樹自身によって。

 

「ん……」

「んん! ……んぅ」

 

重ねるだけの口づけ。祐樹の思考は沸騰しすぎて破裂しそうなほどだった。

対して無言のまま千景は微動だにしなくなる。

 

両極の反応を示す二人は、静寂の中でその行為を続けていく。

 

(……これで、いいんだよね本当に)

 

時間も少し経てばいくらか冷静さを取り戻していき、ひなたから聞かされた話を思い出す。

 

 

────これは童話にある眠れる森の姫と同様のもの。駆け付けた王子様の愛ある口づけで姫は正気を取り戻します。

 

 

彼女の言った”呪い”をアレンジしたこの猫耳の解呪方法。

身も蓋もない言い方をすれば、『キスすれば万事解決』ということだ。

流石にキスしているところなんぞ誰にもみせるわけにもいかないので、祐樹は苦肉の策で自室で行為に及んだわけだが。

 

(でも一体いつまでしてればいい??)

 

問題が解呪できたかどうか分からないことだった。

千景は相変わらず無言のまま動かないし、そろそろ離れてもいい気がしてきた祐樹は唇から離れようとする。

その瞬間に胸にどん、と衝撃が走った。

 

「……うわ!?」

「…………、」

 

急な一手に祐樹は尻もちをつく形で倒れこんだ。

驚いてそちらを見てみれば、手を前に出し俯いたままの千景が目に入った。

頭に付いていた猫耳は外れて落ち、心なしかその肩が震えている。

 

「ち、千景? 大丈夫、か?」

「……帰る」

「え? ちょ────!?」

 

猫語ではなく人語で会話したところを見るに元に戻ってくれたようだが、今度はそのまま立ち上がって部屋を出て行ってしまった。

祐樹は取り付く島もなく彼女の背中をみることしかできなかった。

 

「……あの様子だと正気に戻ってくれたかな?」

 

ホッと一安心すると共に、祐樹は先ほどの感触を思い出すように手で触れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ばたん、と部屋のドアを勢いよく閉めてその身体を扉に預けた。

ここは千景の部屋。祐樹の部屋から勢いよく飛び出した彼女は足早にこの場に戻ってきたのだ。

電気も点けずにその場にずるずると座り込む千景の顔は────その頬は赤く染まっていた。

 

「……ぅぅ。私、は…なんてことを…っ!」

 

小さく後悔の念と共に言葉を吐き出し、先ほどまでの時間を思い出していた(、、、、、、、)

 

「………ゆうき、くん」

 

恥ずかしくて死にそうなほど羞恥に染まっているが、震える指先で千景は自分の唇に触れる。

 

「──っ!! ────っ!!?」

 

言葉にならない声でばたばたと足を叩く。

してしまった、と。そしてそれが千景にとってとても嬉しいことだったと自覚するのはすぐだった。

 

がばっと立ち上がって暗がりの中で寝室にで向かってその身をベットに投げ入れる。

反発で身体が跳ね上がるが気にせずに枕に顔を埋めて首を横に振った。

 

────千景。こんな形になっちゃったけど……この気持ちは本当のものだから。受け取って欲しい。

 

最後の言葉が何度も頭の中で反響して、その度に千景の口角はだらしなく緩んでしまう。

 

(これってそういうこと、よね? ……どうしよう。明日からどの顔して会えば……)

 

嬉しい気持ちとは裏腹に、この気持ちとどう接していけばいいのか分からない千景だった。

 

「うぅ……」

 

自分のやっていた行動に対しても、ひなたに一杯食わされた感のもやもやも拭えない。

そんな滅茶苦茶な心理状況の中であるが、自然と千景の心は晴れやかになっているのだから尚質の悪いことだった。

 

怒りたいのに怒れない。だってそれ以上に幸福に満たされているのだから────。

 

 

「……ばか」

 

誰にも聞こえない一室で、その一言が虚空へと消えていった。

 

 

 




おまけ


「では、約束の品をどうぞ祐樹さん」

茶封筒を渡され、祐樹は苦笑と共に受け取る。

「まるで悪魔の取引みたいだな…はぁ、人間の欲は深い」
「どちらも損をしない公平な取引じゃないですか。また何かあればよろしくお願いしますね♪」
「うへ……」

屈託のない笑みを浮かべるひなたとそんな会話をしていると彼女の背後から二人組がやってくる。
乃木若葉と今回の被害者となっていた郡千景だ。

「おはよう二人とも。朝から二人でいるなんて珍しいじゃないか」
「若葉ちゃんっ! おはようございます」
「おはよう若葉……キミも千景と二人なんて珍しいんじゃない?」
「それなんだが……」

どうにも複雑な表情を浮かべる若葉に祐樹とひなたは首をかしげる。
若葉の背後にはなぜか千景が隠れていたのだ。

「千景?」
「どうされたんでしょうか?」
「それはこっちが訊きたい。今朝すれ違ったらずっとこの調子なんだ」
「…………、」

ジーっと祐樹を睨む千景。その頬は赤くなっているため、事件の真相を知る二人ならばすぐに当たりをつけた。

祐樹は頬を赤らめ、ひなたはニヤニヤと口角を上げて反応する中で、若葉は更に疑問符を浮かべるだけだった。

「その様子だと何か知っているようだな? 話してもらおうか」

若葉が懐疑の目でこちらを睨むと、不意に彼女の頭上にあるものが乗せられた。
その光景を見た二人は驚きを露にする。

「なっ!? 千景、何を乗せたんだ? …取れないぞ!!?」
「……癪だけど、これで貸し借りはなしよ上里さん。いきましょ祐樹くん」
「え、えっ!? あれってまさか──」
「グッジョブです♪ 千景さん!」

祐樹は部屋にあったはずのソレに驚きながら千景に手を引かれて歩いていく。

「い、いいのか千景?」
「…良くも悪くも全部当人たちの責任よ。それに……私一人だけ恥ずかしい思いしてるのはなんか気にくわないの」
「そ、そうなんだ」

自然に繋がれた手にドギマギしながら二人は無言で歩く。

「……これからもよろしく祐樹くん」
「──っ! うん、こちらこそ千景」

ぎゅっと握り返すと同じように返してくれた。
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