勇者たちをイチャイチャさせたい!   作:紅氷(しょうが味)

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大変遅くなりました。
リクエストから話を広げてみました。



楠 芽吹の章
story1『楠芽吹は食べさせたい』


ゴールドタワー。

 

それは正規の勇者たちとは別に選ばれた『候補生』が集う施設である。

構成される人材は三十二とし、実力に紐付かれた精鋭八人を筆頭に『隊』をなしている。

いずれも『勇者』たちとは別で秘密裏に行動し、彼女たちを間接的に支える…それがこのゴールドタワーに所属する『候補生』たちの任務であった。

 

楠 芽吹。

 

防人を務めるこの隊の総指揮官である彼女は皆に一目置かれ、有事の際には全員をまとめ上げ、先導するその姿は『勇者』たちに引けを取らない人物だ。

そんな彼女は教室を離れてとある場所に赴いている最中であった。

午前の講義も終わり、一度昼食を挟む所謂『昼休み』の時間。

 

芽吹は目を伏せ、凛とした姿勢を維持しながら施設の中を渡り歩いていた。

 

(…とうとうこの時間がやってきたわね)

 

キッと伏せていた目を細めて眼前を睨みつけるその行動はさながら死地に赴く戦士のそれに近かった。

すれ違う仲間たちからはそんな芽吹を見て「ヒッ!?」と小さく悲鳴を上げている。当の本人はそのことに気がつくことなくスタスタと歩を進めていくとつき当たりの所で扉が一枚確認できた。

 

「……ふぅ」

 

一度扉の前で立ち止まった芽吹は短く息を吐いて心を落ち着かせる。

そしてゆっくりと扉に手をかけてその先へと目をやる。

 

 

「……お! メブぅ〜! 遅いよー、こっちこっち!」

 

広い一室にはちらほらとタワーに所属する少女たちの姿が目に入った。

テーブルと椅子、カウンターと必要最低限に収めたこの室内は昼時、放課後などに解放されるオープンスペースのような感じの場所だ。

 

いの一番に芽吹の存在に気づいた少女はニコニコと手を振ってこちらに招いていた。

 

加賀城 雀。

防人隊の『護盾型』に所属する彼女は芽吹の横にいつもついてくる少女である。

芽吹は彼女に呼ばれる足で近づいていくと、いつも集まっている面子が幾らか少ないことに気がつく。

 

「今日は少ないわね?」

 

芽吹の言葉に雀は「そうなんだよ〜」と相槌を返す。

 

「弥勒さん、しずく、あややは他の人たちと外にランチに行っちゃったんだー。今日のお弁当組はわたしたちだけだよ」

「……そう」

 

何が楽しいのかにへらと笑みを浮かべる雀を他所に、芽吹は隣に腰を落ち着けた。

そのまま対面に居る”彼”にも声を掛ける。

 

「祐樹君はついていかなかったのね?」

「いやぁ、あの中に男一人ってのもどうかと思って……」

「あら。そんなの今更じゃない、唯一の男性勇者さん(、、、、、、)?」

「からかわないでよ芽吹」

「ふふ……ごめんなさい」

 

苦い顔をしながら彼女の言葉を躱す祐樹と不敵な笑みを崩さない芽吹。

そう。芽吹にとって今この瞬間から戦いが始まっていたのだ。

 

(……ここまではリサーチ済み、想定内ね)

 

芽吹は雀と祐樹以外のメンバーが外出していることはあらかじめ把握していたのだ。

本音を言えば雀も同じように行って欲しかったようだが、彼女の性格を考えたら仕方ないと割り切ることにしていた。

 

(さて……祐樹君。あなたの昼食は────)

 

いつもは芽吹自身それほど力を入れているわけではない昼食。

しかし今日、この日はいつもの量よりかは幾らか増量しているのだ。その理由は至極単純……目の前の彼、祐樹に食べてもらうため。

 

(今までの統計からして祐樹君のお昼はパンやコンビニのお弁当が多数を占めている……育ち盛りの男子からすればその量はきっと足りてないはず…!)

 

傍らでお弁当の包みを開けながら雀と会話を繰り広げている祐樹を見つめる。

 

「見てみて祐樹くん! じゃじゃーん!」

「え……サラダだけ? なになに雀は草食動物になったの??」

「うえぇ!? そんなわけないじゃん!! …実は雀さん特製ドレッシングを作ってみたんだよぉ。その名も『みかんドレッシング』っ!」

「──美味しいのソレ?」

「美味しいに決まってるっしょ! えへへ~また一つみかん道を極めてしまった気がする♪」

「みかん道なんて初めて聞いたよ……」

 

先ほどからテンションが高いのはそういう理由か、と芽吹はルンルン気分の雀を白い目で見ながら三段に重なった重箱をテーブルに乗せる。

その瞬間に二人の視線が一気に芽吹へと向けられた。

 

「ひゃわー! メブ今日はまたどうしたのこのお弁当!?」

「……たまたま興が乗って作りすぎただけよ」

「え、これって興が乗ったってレベルじゃないような? メブもしかして祐樹くんに────」

「な・に・か?」

「あぁいえいえ、なんでもないですはい……ふえぇ、わたしまだ何もやってないよね……?」

「凄いね芽吹……おー、とっても美味しそう!」

 

しくしくと鳴いている雀はとりあえず放っておく。

祐樹の視線が一段目を開けた弁当に向けられて、芽吹はその瞬間を見逃さなかった。

 

(──かかったっ!!)

 

出だしのインパクトからの中身の華やかさ、そして量。

これらの情報を一心に受け取った彼の興味が惹かれるのは自明の理だ。

 

ここですかさず芽吹は追い打ちを仕掛ける。

 

「──まぁ作りすぎちゃったのは事実なの。よかったら祐樹君食べてもらえるかしら?」

「えっ? いいの??」

「ええ。とても私一人では食べきれないし、嫌じゃなかったらどうぞ」

 

出来る限り自然に笑みを浮かべながら重箱を差し出す。

前々から計画していた『祐樹君に手作りお弁当を食べてもらおう』という任務(ミッション)

芽吹は恥ずかしくて、他の隊員の手前もありどう行動するべきかを常に考えてきた。

 

(この流れなら違和感もなくごく自然に食べてもらえる……ふっ、我ながら名案だわ)

 

いつだか会話の流れで祐樹は問われたことがある。

 

────祐樹くんの好きな女性のタイプってあるのかにゃー?

 

隊の誰かがなんとなく、訊ねた一つの質問。

当時教室で放たれたその一言に一瞬場の雰囲気が変わった気がしたが、芽吹はそれ以上に関心がそちらに向けられたのを覚えている。

 

しばしの沈黙の後、彼は

 

『うーん。家庭的な、料理が上手な女の子っていいよね』

 

少し気恥ずかしげにそう述べた言葉に芽吹は天啓が閃かれた。きゅぴーんと。

その日からなぜか彼が昼食や夕食に誘われることが多くなっていたのが気にかかったが、芽吹は来たる日に備えて練磨を重ねてきたのだ。

 

「──じゃあ、僕も何かあげるよ」

 

そういって芽吹は割りばしを手渡そうとしたところでその手がぴたりと止まる。

目を丸くして彼女は祐樹に視線を移すと彼の手元には青い包みが…。

 

「えぇ!? 祐樹くんお弁当作ってきたの〜?!」

「雀…なにもそんなに驚かなくてもいいじゃないか」

「だってだってー。今までパンやらコンビニのうどんだったじゃん!」

「…………、」

 

芽吹は確かに雀の言う通り彼が料理をするなんて話には聞いていなかった。

出来ないであろうと勝手な想像をしていた彼女もこれには驚愕せざるおえなかった。

 

────食べてみたい。

 

率直に思った感想がこれだった。

表立って顔には出さまいと鋼の精神で抑える芽吹の意識は『食べさせる』ことから『食べてみたい』にいつのまにかシフトしていた。

 

「みんなのお弁当見てたら僕も作ってみようなかなぁなんて思ってさ。タワーに来る前はそれなりにやっていたんだけど、結構ここでの訓練とかキツくてどうにも重い腰が上がらなくて…」

「あぁーそれ分かる分かる。わたしも今でも実家に帰りたくなるもん」

「いや、キミの場合楽しようとして芽吹にバレた挙げ句倍メニューになってるだけじゃん。自業自得だぞ」

「そ──そそそんなことないよっ! わたしは真面目にやってぇ…」

「雀。どうやら倍メニューじゃ少ないようね」

「め、メブぅ〜…」

 

オロオロと狼狽える雀。

 

「じゃあ、えっと……卵焼きでいいかな芽吹?」

「ええ。なら私は唐揚げを……っ!?」

 

スッと目の前に差し出された卵焼き。祐樹はどういうわけかそのままの状態で芽吹に差し出してきたのだ。

これにはポーカーフェイスを維持していた彼女も動揺をしてしまう。

 

(まさかこれは……俗に言う、『あーん』じゃ?)

 

芽吹は頰が熱くなるのを自覚する。

雑誌の類や噂でしか聞いたことのないこの行為をまさか自分に降りかかってくるとは思いもよらなかった。

 

(ど、どうすれば…!? 普通に食べればいいの?? えっと……あぅ)

 

口を開けては閉じてまるで酸素を求める魚のように芽吹はどうしていいか分からないでいた。

そして、目の前の祐樹もいつまでも食べてくれない彼女に首を傾げている。

 

この男、どうしようもなく無自覚である。

こういう思わせぶりな態度を他の隊の人たちにもやっているのだが、それはまた別のお話。

 

お互いが硬直状態でいると、そこに刺客が現れた。

 

「…あっ、美味しそうな卵焼きだぁ♪ …ぱくっ!」

『あっ』

 

いつの間にか落ち込んでいた雀が復帰を果たしたかと思えば、箸に掴まれていた黄金色のソレを食べてしまったのだ。

モグモグと頰に手を添えながら美味しそうに咀嚼する姿に当人たちを除いた数名の防人の仲間たちは顔を青ざめていた。

 

────あいつ、終わったな。

 

何だかんだこの場所の九割以上は女子の空間。

唯一の男子となれば、その場の会話に交わらなくても気になるものである。

いわゆる聞き耳を立てていた隊の面々は絶対零度の眼光を放つ芽吹に畏怖の念を抱き、今も幸せそうに咀嚼している小鳥の最期に合掌するしかなかった。

 

「ん〜♪ 甘い卵焼きサイコー! 祐樹くん料理上手だねー!」

「あ、ありがとう……でも、その」

「うん?? どしたの……って、ぴゃ!!?」

 

冷や汗をかきながら祐樹は小さく雀の横を指差して彼女に知らせる。

不思議がった雀は横に顔を動かそうとしたところで、ガシッとその頭部が一人の少女の手によって掴まれた。

 

ミシミシと軋む音を伝えながら雀は自身の状況を悟った。

身体が無意識のうちにガタガタと震え始める。

 

「め、メブ……わたしの頭を掴んでなにをぉあだだだだっ!!!?」

「……断罪」

「ぎゃあー!? やめてよメブぅ!! 割れちゃう! 中身が出ちゃう!? ゆ、祐樹くーん! ヘールプッ!」

「芽吹! 卵焼きまだあるから、そろそろその辺に……」

「ギ、ギブギブ!! ひわー!」

「雀が死んじゃう!? め、芽吹! タコさんウインナーもあるから!!」

「……っ!」

 

ピタリと万力の如く締め付けていたその手の動きが止まる。

 

「……くれるの?」

「う、うん。どうぞ」

 

祐樹が頷くと芽吹は雀を解放して彼の方へと向き直った。

 

「食べさせて、祐樹君」

「う、うん。じゃあ、あーん」

「…っ。あ、あーん」

 

今度こそ箸に掴まれたおかずが芽吹の口に運ばれた。

頰を朱に染め、小さく咀嚼するその姿は小動物を連想させる。

先ほどの修羅の顔が何処へやら。

 

少しの間の後、飲み込んだ芽吹はもう一度祐樹を見やる。

 

「…卵焼き」

「はい、甘いのだけど平気?」

「うん」

 

先ほどの剣幕も鳴りを潜めて芽吹は餌を待つ小鳥の如く、祐樹にはそれが可愛く思えて仕方なかった。

 

「芽吹料理上手だから口に合うか心配だったよ」

「そんなことない。美味しかったわ……今度は私ね」

「僕も?」

「…嫌?」

「ううん。じゃあ、あーん」

 

今度は祐樹が口を開けてきた。芽吹はその光景に喉を鳴らし箸で唐揚げを掴むと震えながら恐る恐るといった感じで祐樹の元に運んでいく。

『される』のももちろん『する』なんて前の自分ならすれば考えられないな、と彼女は考えていると祐樹は唐揚げを口に含んで食べ始めた。

 

「…うわぁ、美味しい! これって手作り?」

「ええ。口にあって良かったわ。他のもどんどん食べて」

「おいしそう……いいなぁ祐樹くん」

「……はぁ、雀も食べなさい。その代わり雀のやつと交換よ」

「…っ!? さすがメブぅ〜! うんうん!!」

 

まるで救世主を見たかのように雀の瞳はキラキラと輝いていた。

なんだかんだいつもの調子を保てているのは側にいる彼女のおかげかもしれないと芽吹は思う。

 

「それならみんなで交換し合おう! 祐樹くんもどうぞ〜♪」

「どれどれ……あ、本当だ。美味しいなみかんドレッシング」

「…そうね。正直驚いたわ」

 

二人で彼女の自信作の料理を摘むと確かに想像していた以上に美味しいものだった。

その二人の反応を見た雀はにへら、と口元を綻ばせていた。

 

「でしょでしょ!! もっと褒めてくれてもいいんだよぉ〜♪」

 

でもあまり褒めちぎるとまた調子に乗りかねないので、ほどほどにしておこうと芽吹はこのひと時を過ごしていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴールドタワーの食堂で楠芽吹は頬杖をついて外の景色を眺めていた。

その瞳は何を映しているのか他の者には分からないが、普段らしからぬ彼女のその姿に傍らに居た祐樹と雀はうどんを啜りながらこちらも眺めていた。

 

「…メブ、どうしたのかな?」

「もしかしてお役目で新たに大赦から通達があったとか?」

「あーあり得そう」

 

今日はお弁当ではなく食堂からのメニューを食している彼らは目の前にいる芽吹の思考を読み取ろうとあれよこれよと話し合うが、どれもしっくりとくる理由が見当たることはなかった。

そうこうしている内にうどんも食べ終わり、その間にも芽吹は変わらず。いい加減に問いかけようとしたところで彼女の方から口を開いた。

 

「ねぇ、祐樹君」

「なにかな?」

「私って………魅力ないのかしら?」

「っ!? ごほっ!!?」

 

こちらに視線を向けて愁いを帯びた瞳で語りかけてくる。

うどんの汁を啜っていたところでこの仕打ちに彼はむせ返るしかなかった。

隣に座る雀は口元を押さえてプルプル震えている。

 

「きゅ、急にどうしたのさ芽吹。キミらしくもない」

「私らしく…? ふふ、私らしさって何かしらね」

「……ぶふぅ!」

 

肩をわなわなさせて雀はテーブルに突っ伏すようにしているが、堪えきれずに吹き出していた。

何時もならそのままお仕置きの流れも、芽吹は特に意に介さず話を続ける。

雀はなぜか物足りなさを感じていた。

 

「防人隊の人たちと比べて私は女の子らしくないなと。最近の流行り廃りも分からないし。そう考えるとあやちゃんなんて私の理想形ね。可愛いし、人が良くて愛想もいい」

「んー、確かにあーちゃんはそうかもしれないけども…芽吹も充分に可愛らしい女の子だと僕は思うよ?」

「………そんなことない」

「あ、メブにやけてる」

 

雀の指摘するように芽吹の口角は少しだけつり上がっている。

一見して変わらない表情のように見えるが、常に守ってもらえるように近くにいた雀には判別ができるのだ。

だからこそ思うこともあるようで、

 

(素直じゃないなぁメブも。というかよく好きな人にそういうことしれっと聞けるよね〜…わたしには恥ずかしくて無理ムリ)

 

ぶっちゃけなくても楠芽吹という少女が祐樹のことを好いているのは誰もが知っている事実だ。

素知らぬ顔で隠し通していると思っているのは目の前の当人たちだけだろう。

現にこの前からお弁当を用意しているのはそういう理由故であることは想像に難くない。本人は否定していたが。

やれやれとお茶を啜りながら雀は傍聴を続ける。

何だかんだいって身内の色恋沙汰というのは見ている分には面白いものだ。

 

「でもあやちゃんか私かを選んだとしたら、答えは前者になるのも事実でしょ?」

「そうかなぁ…? あーちゃんの良さはあーちゃんにかないものだし──芽吹には芽吹にしかないものもあるよ」

「…例えば?」

 

不安げに芽吹は祐樹を見やる。

 

「例えば? えーと、芽吹ってみんなからお堅い人だーって言われるみたいだけど、ふとした時に見せる自然な表情って言うのかな…そういうのは他でもない芽吹の魅力だと思うな。僕も思わず見惚れちゃうから」

「……っ」

「あとはそうだねー。今みたいな悩み顔してる芽吹もプラモを真剣に作っている時の顔も年相応の女の子のようでとても好感が持てるねぇ。あとは……」

「も、もういいですっ!! 十分ですからッ!!」

「うわ〜…メブ顔真っ赤だ。てか、聴いてるこっちも恥ずかしい」

「ん? もちろん雀にもいいところあるよ。例えば────」

「まさかの飛び火っ!? や、やめて! 恥ずかしくて死んじゃうから!!?」

 

二人して羞恥の色に染まり祐樹の口を止めるが、言葉を遮られた祐樹は不満げな顔をしていた。

 

「むぅ。結局、芽吹はあーちゃんみたいになりたい感じなの?」

「いやいや祐樹くん。それは無理というか寧ろ不可能というか……例えるなら弥勒さんがボケをかまさなくなるくらい有り得ないことでしょ」

「すーずーめー。あなたが私のことをどう思ってるかよく分かったわ。次の訓練の時から覚悟してなさい」

「そ、そんなぁぁ!!? メブぅー! お慈悲をっ! 疲労で死んじゃうからヤダぁーー…」

「こらっ! もう、くっ付かないで!」

 

ぴーぴー喚きながら芽吹に抱きつく雀に祐樹は苦笑を浮かべる。

 

「私だってあやちゃんみたいになれるなんて思ってないわ。でもあの真っ直ぐで純粋無垢な感じはある種の憧れがあるのよ。でもほら、雀も言うように私はこうだから……」

「…そんなことないよ芽吹」

「えっ?」

 

芽吹の手を取って祐樹は静かに微笑む。

 

「今の芽吹でも十分に魅力的だよ。誰にも負けてないと僕は思う」

「祐樹君……」

「憧れや、こうなりたいと考えることは今の自分を高める糧になるんだ。諦めるんじゃなく、切り捨てるわけでもなくね……それはキミ自身がよく解っているはずだよ」

「……あなたが教えてくれたことだったわね」

 

そのやり取りに雀は深くまで知り得ない。でもいつからか芽吹の雰囲気というか纏う空気が変わったことがあったことは記憶に新しかった。

しおらしく顔を俯かせながら芽吹は祐樹の手を握り返す。

そんな彼女の様子を雀はキラキラと瞳を輝かせながら見ていた。

 

(ふぉー、あのメブが……乙女だっ!! 信じられない光景を見てるよわたしぃ~!)

 

これで二人が男女のお付き合いをしていないのだからある意味凄いものだ、と雀は内心で考えていた。

祐樹の言葉にすっきりとした表情をしている芽吹は自分がどういう表情を浮かべているのか分かっているのだろうか。

 

「…ねーねーお二人さん。わたしのことを忘れてやいませんかね?」

「雀。居たの?」

「うえぇー!? それは酷いよメブー!」

「ふふ、冗談よ。なんだか私らしくない悩み事だったわ。二人ともごめんなさい」

「うん。いつもの芽吹が一番だね。それに……こうしてフレームに収めて見るとまるで姉妹みたいだ」

「もう。調子がいいんだから……って姉妹?」

 

うんうん頷き祐樹は指で枠を作る動作と言葉に疑問を抱いた芽吹は後ろを振り返る。

そこにいたのは、

 

「あややだ~! おかえりぃ」

「はい、雀先輩ただいまです。芽吹先輩に祐樹先輩も。ずいぶん盛り上がっていたようですけどなんのお話をされてたんですか?」

「あやちゃん。他のみんなも戻ってきたの?」

「もう少ししたら戻ると思います。弥勒先輩が連れて行ってくれたお店の食べ物どれも美味しかったです!」

 

ニコニコと笑顔を咲かせる彼女……国土亜耶はどうやら先にこのゴールドタワーに戻ってきていたようだ。

 

「実は芽吹があーちゃんに憧れてるって話をしてたんだよ」

「ゆ、祐樹君!」

「そうなんですか? それはそれは大変恐縮といいますか……ありがとうございます芽吹先輩」

「あとは姉妹みたいだねって話もしてたよ」

「姉妹ですか! 芽吹先輩がわたしのお姉さんだとすごく嬉しいですっ! 元々は一人っ子なので兄妹姉妹はわたしも憧れがありますね♪」

「…私もあやちゃんが妹だと嬉しいわ。可愛いし、とにかく可愛い」

「は、恥ずかしいですよー芽吹先輩……あっ、それなら芽吹先輩のことをお姉様(、、、)と呼んだ方がいいんでしょうか?」

「っ!?」

「あ……メブが凄い衝撃を受けてる。流石あやや」

 

雷に打たれたかのように芽吹は驚愕していた。

亜耶は小首を傾げて心配そうに見つめている。

 

お姉様(、、、)? どうされましたか?」

「っっ!!」

「はわっ。だ、大丈夫ですかお姉様(、、、)、どこか具合でも悪いんですか??」

「はうっ!?」

「うわー…メブが見事にクリティカルヒット受けてるよ。あややも分かってやっているのかな? 『お姉様』呼びになっちゃってるし」

「──いや雀。あーちゃんのあれは素で言ってるぞ……っとと、芽吹大丈夫か?」

 

卒倒しそうになる芽吹を支えるように抱えると、芽吹は息を荒げて「…ええ」と頷いた。

 

「破壊力が凄いわ……」

「うん、だろうね。立てるかい?」

「ありがとう祐樹君」

「お二人は仲良しさんですね〜♪ 前から思っていたのですが、お付き合いとかはしないんですか?」

「ちょ…あやちゃん!?」

「…あはは」

 

亜耶の発言に思わず視線が重なる二人であったが、すぐに羞恥に耐えきれずに芽吹から視線が逸らされる。

 

「そうだよメブぅ~。この際だから二人とも付き合っちゃえばいいじゃん! そして二人でわたしを守ってくれればなお良しだから!」

「キミはどうこう以前にただ守ってもらいたいだけかい」

「あ、当たり前だよ! それがわたしなんだからー! 死にたくないんだもんっ!!」

「…すーずーめー!!」

「わぴゃあ!? このメブの気配はマズい気がする! 逃げろーあやや!!」

「わ、わ!? わたしもですかぁぁー……」

「いっちゃった……」

 

脱兎のごとく走り去っていく雀となぜかとばっちりを受けて一緒に連れ去られる亜耶。

芽吹も怒り口調ではあったがそれ以上は追わずにため息を漏らしていた。

 

「はぁ、まったくあの子は」

「──まあ元気があっていいんじゃない? こういう騒がしさも大事だと思うよ」

「そういうものかしらね……」

 

お互い顔を見合わせてクスリと笑い合う。

 

「さてと、また午後から訓練するわよ祐樹君。私は色々と越えなきゃいけないものが沢山あるんだから、休んでばかりいられないわ」

「うん、頑張ろう。一緒に」

 

芽吹はそう言いながら立ち上がり、祐樹はそんな彼女の後姿を目にする。

 

────凛としたその立ち姿にかつての面影はどこにもない。

 

けれど以前よりも確かに温かく、力強い、真っすぐ折れないモノが育っていることを祐樹は知っている。

芽吹はまだそれを自覚していない。

それを彼女自身が知ることになるのは、もう少し先のお話だ────。

 

 

 

 

 

 

 




たまにはこういう付き合う前の関係性でもいいよね?
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