勇者たちをイチャイチャさせたい!   作:紅氷(しょうが味)

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私に神託が下りたんだ。だから書いた!(ドンッ



三ノ輪銀の章
story1『夏祭り』


ここは乃木邸の一室。園子の衣装部屋とも言われるこの室内に本人を含め三人の少女たちが居合わせていた。

 

その中で一人を除いて妙に上機嫌で、かつ鼻息を荒くしている者もいれば、キラキラとした瞳を輝かせている者もいる。

 

「…なぁーほんとーに似合ってるのかコレ?」

 

不満げに言葉を漏らす彼女の名は三ノ輪銀。彼女は神樹館に通う小学生で世界を守る御役目を担う『勇者』である。

学校では、性格も明るく活発な少女を印象付けでおり、また勇者としては前衛、アタッカーとして先陣を切る──といった誰からしても取っつきやすく親しみやすい女の子である。

 

「…むぅ」

 

そんな彼女が渋い顔をして姿見の前に立って未だにブツブツと口にしていた。

理由は単純で、その身姿によるものだった。

 

「──そんなことないわよ銀。とてもよく似合っているわ♪」

 

微笑みながら銀の着付けをしているのは鷲尾須美。

膝を折って身を包む彼女の衣装──『浴衣』を着せている。時刻は夕方、本日は夏場に入って初めてのお祭りの日。

 

今はその準備を乃木邸で行なっていたというわけだ。

 

「アタシは普段の格好でよかったんだけどなぁ……須美や園子と違って着こなすというより着られてる感がスゴイんだよー」

「あら、着物は線が細い子の方がよく似合うのよ。大丈夫、誰が見ても銀は立派な大和撫子よっ!」

「くぉぉ…っ!? し、締めすぎだぞ須美ぃー!」

「あら、ごめんなさい。ついつい……」

 

熱が入ったせいか帯を強く締められてしまう銀。一瞬やめてもらおうかなぁなんて考えたが、横目で見る須美の嬉しそうな表情を捉えてその考えも何処かへ消えていく。

 

恥ずかしいものは恥ずかしいが、せっかく友人が用意してくれているんだから……と自分自身を納得させていくしかない。

しばらく身を任せていると、部屋の横扉からひょこっと園子が顔を出してきた。

 

「どーお? わっしー順調~?」

「ええ、そのっち。丁度今終わったところよ……はい、銀できたわ」

「さんきゅー須美! っとお、動きずらいなぁ」

「わぁ♪ ミノさんよく似合ってる~~!」

「そういう園子こそ、似合ってるな」

「わーい! ミノさんに褒められた~」

「銀、私は?」

 

身を乗り出してきた園子の浴衣の色は紫をベースとしたもの。着付けをしてくれた須美は青色で銀は赤といったそれぞれの色をモチーフとしたものを着ている。

園子に感想を述べていると、横に居た須美が小さく頬を膨らませながら袖を引っ張ってきた。

もちろん、と銀は須美の頭を撫でながらニカッと晴やかに笑う。

 

「須美もすっごい似合ってるぜ!」

「…うん!」

「えへへーこれでみんな準備万端だね。後はーゆっきーと合流するだけ!」

「そうねそのっち」

 

びしっと指を立てて園子は銀に向かって言う。園子の一言に銀の表情は強張ってしまう。

 

(そ、そうだったー!? 高嶋さんもいるんだよね。改めて見ると……へ、変じゃないよな)

 

ちらりと鏡を見てもう一度その格好を確認する。友人や家族、道行くひとたちの浴衣姿は数多く見ているために見慣れてはいるが、自分自身がこうして着ている姿にはどうしても違和感が拭えない。

 

「銀、問題ないわ。この私が保証します」

「そうだよミノさんー。ゆっきーもきっと可愛いって言ってくれるってー♪」

「ばっ!? そ、そんなこと気にしてないしっ!!」

 

にやにやと視線をぶつけてくる二人に銀の顔は真っ赤になってしまう。今しがた意識してしまっていたところに的確に指摘してくる二人に恨めしい眼差しを向ける。それでも今のテンションの上がった彼女たちには効くどころか逆効果のようで、

 

「ミノさん今とっても恋する乙女になっとるよー! いいよぉ!!」

「銀、一枚撮らせてもらうわ。いいえ、もうたくさん撮るッ!」

「や、やめろー!!」

 

カメラを手にした須美を止めようと動き出すが慣れない衣装に普段の動きができないでいる。

それを好機にと二人にもみくちゃにされてしまうのだが、約束の時間いっぱいまで三人は騒ぎ合っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祭り会場には途中まで乃木家の用意したリムジンで送迎される。

相変わらず規格外だなぁ、なんて銀は考えながら窓の外を眺めているとそれらしい人たちがちらほらと見えてきた。

 

「今年は四人で夏祭り~♪ 楽しみだねーわっしーミノさん」

「そうね。でも銀はよかったのかしら、私たちと一緒でも」

「えっ? 当たり前じゃん、どうしたんだ急に?」

 

須美の言葉に視線を彼女に向けると、少しだけばつの悪そうな表情を浮かべた須美が口を開く。

 

「だって祐樹さんと恋仲になって初めての祭事でしょ。二人の時間も必要だと思うの。ただでさえ四人でいることが多いのに…なんだか申し訳ないわ」

「ちょ、須美さんや。そんなこと気にしないでくれよ、アタシも高嶋さんも一緒に周りたいからこうしてるんだしさ」

「でも……」

「まーまーわっしー。ミノさんもこういってることだし、あんまり言い寄るのもミノさんが困っちゃうんよ」

「……ええ、ごめんなさい銀。ならみんなでたくさん楽しみましょう」

「お、おう!」

 

園子のさりげないフォローに乗っかる。そうして園子が再び須美と会話を繰り広げている最中に、銀は窓に薄っすらと映る自分の顔が目に入った。

 

───誰がどうみてもその顔は朱に染まっており、また口元は緩んでいるその顔を。

 

自分の照れ顔が恥ずかしくて銀は正面に向き直る。

銀は意識しないようにしていた。須美の言う通り彼女と祐樹は男女のお付き合いをしている。

付き合い始めてまだまだ日の浅い二人だが、こういったイベントは今日が初めてなのだ。嬉しくないわけがない。

 

(うぅ……やばい、きんちょーしてきた)

 

もう少しで集合場所に到着する。心臓の鼓動が少しづつ強く脈動するのを感じた銀は膝に置いていた両手をきゅっと握った。

 

「んー、あっ! あそこにいるのゆっきーじゃない?」

 

目をつむってその時を待っていると、園子の声が彼を見つけたようだ。

園子はそのまま運転手に車を止めてもらい、ドアを開けられる。

パタパタと小走りに彼の元へ向かう園子を筆頭に須美、銀と車内から出て行く。

 

「ゆっきー! おまたせー」

「園子。それに須美に銀!」

「祐樹さん、おまたせしました」

「……っ」

 

道行く人たちを避けて隅の方に待機していた祐樹が彼女たちの存在に気がつくと、すぐに歩み寄ってきた。

二人が挨拶を交わしているときに、銀は思わず須美の背中に隠れてしまう。

 

咄嗟の、無意識の反応だった。

 

「祐樹さんも今日は浴衣に着替えてるんですね」

「うん。みんなが浴衣で来るって言うから着替えてみたんだ……どうかな?」

「ゆっきーばっちしだよ!」

「よく似合ってます祐樹さん……ほら、銀も」

「わ、ちょっと須美押すなってっ!?」

「銀……」

「あっ…あぅ」

 

心の準備もままならないうちに須美に手を引かれた銀は祐樹の目の前に飛び出す。

ばっちりと目が合うと途端に頰が熱くなる。

 

「キミのその格好を見るのはとても新鮮だな」

「ふ、え……た、高嶋さんこそ……か、カッコ…いいっすヨ?」

 

普段と違う格好。それはお互いの見える景色も違って見えて。

とても眩しく思えて。そんな小さな変化すらも嬉しく思えてしまう。

ぎこちなくなってしまうのも無理はなかった。

 

「ありがとう。銀こそ、とっても可愛いよ」

「……ぁ」

 

夕日に照らされて彼の赤と黒の二色の髪が揺れる。度重なる戦闘によって影響を受けたその髪も銀にはとても魅力的に見えた。

浴衣という格好のせいか、いつも見えない彼の肌が共に眩しく思える。

 

「へいへいお熱いお二人さん! そろそろ出店を見て回らないかーい?」

「あまり往来でその……いえ、そのっちの言う通りよ。時間も限られているわけだから早く行きましょう!」

「…だそうだ。じゃあ行こうか」

「あ、はい!」

 

前を歩く二人を追うように銀と祐樹も歩き出す。

 

(あぁーヤバイ。顔のニヤケが治らないーっ!)

 

そうして会場入りを果たした四人。しかし銀は先ほどの祐樹の言葉が脳内で反響していてしまっていた。

 

(可愛い……って言ってくれた。すっごい嬉しい、やっばいよぉ)

 

まだお祭りも始まったばかりなのに、既に彼女の中では盛り上がりが最高潮に達していた。

好きな人にそんな言葉を送られて嬉しいにも程があった。

気を抜くとスキップをしてしまいそうなぐらい。祭りというこの場の雰囲気が余計に足取りを軽くさせてしまっている。

 

「いろんなお店があるね。何からいこうかー?」

「迷うわね……なにか行きたいところでもあるかしら二人とも」

「んーそうだなぁ。銀、何かある?」

「はいはーいっ! アタシは金魚すくいやりたーい」

 

手を挙げてぶんぶん振りながら提案する。

 

「金魚すくいかぁ…いいね!」

「ならあそこにある屋台にいこー! ついでに勝負しちゃうー?」

「お、やる気だな園子。アタシはこう見えて結構得意なんだぞ」

「負けないよミノさん!」

「僕のことも忘れちゃダメだぞ!」

「ちょっとそんなに走ると転ぶわよ二人とも! 祐樹さんまで…もうっ!」

 

テンションの高まった三人は足早に目の前の出店に向かって行く。

須美はため息混じりに三人の後を追う形となった。

 

 

 

 

 

 

 

「ま、負けた…須美と園子に負けたぁ!!」

「ぐっ…まさかこんなことになるとは」

「わっしー強すぎだよぉ」

「甘いわね三人とも。精神統一して金魚の重心や動きを読み切るのよ…ハァッ!」

 

それぞれが手に持つポイは須美を除いて破れていた。結果としては、須美はお椀いっぱいの数、次いで園子が十匹で銀が七匹、そして祐樹は一匹という感じに終わった。

というより須美も興が乗ったらしく、未だに獲りつづけていて店主が涙目状態であった。

 

「ゆっきービリ決定〜♪」

「というより高嶋さん下手っすね」

「ぐはっ…やはり勢いだけじゃどうしようもないか」

「勢いといえば──そのせいで須美はすんごいことになってますけどね」

「アリアリアリアリアリーッ!」

「あははっ!! わっしーおもしろーい!! 金魚が宙に舞い上がってる〜♪」」

 

弧を描いて次々と椀に流れ入れる須美を瞳を輝かせて興奮気味に見る園子。そんな様子を銀と祐樹は苦笑とともに眺めていた。

 

「銀はこの子たち持って帰る?」

「いえ、ウチじゃ飼えないですから返します。弟たちは喜びそうっすけど」

「僕も飼うとしたら一式買い揃えないといけないし…まぁ雰囲気を楽しんだということで」

「そうですね」

「わっしーあと少しでゴールだよー!」

「ふっ、この私にかかればなんてことないわ。このまま一気にいくわ──ッ!」

「じょ、嬢ちゃんたち勘弁してくれー!」

 

須美の勢いは止まることなく店主の嘆きによって閉幕することになった。

結果────鷲尾須美の圧勝である。

 

 

 

 

店を後にした一行はとりあえず冷静になった須美を健闘っぷりを讃えていた。

 

「はぁぁ…私としたことがあんなにはしゃいでしまうなんて…」

「でもでもわっしーすごかったよ〜?」

「素直に喜ぶべきか悩みどころだわ…」

「アタシも浴衣じゃなきゃもう少しやれたんだけどなぁ」

「銀もほどほどにね。あんまり無理に動くと着崩れちゃうから気をつけなよ」

「はーい、高嶋さん」

 

勝負中に真っ先に脱落した祐樹は銀の動向を見守っていたのだが、あまり服装のことを気にせずに突っ走ろうとしてたため、袖を濡れないようにフォローしてあげたりしてた。

 

「じゃあ、次は的屋にいこー!」

「お、いいね園子!」

 

 

園子が目に入った屋台は射的屋であった。

 

 

「銃は須美が得意なんじゃないか?」

「あーわかる。これでまた須美無双が始まるのかー」

「もう……私が扱う得物は弓でしょ。でもそうねー遠距離型としては負けられないのも事実だわ」

「じゃあチーム戦でいこー! わっしーとわたしでー。ゆっきーとミノさんのペアで勝負だよー」

「おっし、頑張りましょ高嶋さん!」

「ああ。次こそは負けない!」

 

園子の提案により、四人で並んでチーム戦が始まった。簡単に言って小さい景品は得点が小さく、大きい景品は得点が高いというシンプルな判定方法だ。

コルクの弾を銃身に込めてそれぞれが構える。点数配分は園子の独断で決めているが、もちろん狙うは大きい景品だと考えて祐樹は引き金を引いた。

 

「ありゃ、ダメかー」

 

軽い発砲音が響くと、景品のぬいぐるみの胴体に命中するが少しだけ動くだけでコルク弾が下に落下していく。

隣に居る銀も同じ考えだったのか別の大きめの景品を狙ったのだがこちらも獲得ならず。

銀はぶぅーと頬を膨らませる。

 

「おっちゃんコレ弱いんじゃないのー?」

「馬鹿言うな嬢ちゃん。狙いどころが悪いんじゃないのかい。見ろ、連れの子たちはきっちり仕留めてるぞ」

「げ、マジだ」

 

須美と園子の手には小さいけれど、で確実に景品を獲得しこちらに見せびらかしていた。

ぐぬぅ、と祐樹と銀は目を細める。

 

「須美は当然として、園子までがやるとは……」

「えっへへー♪ わっしー褒めて褒めて~」

「上出来よそのっち。この調子で勝利を掴みましょう」

「ぐっ……銀、僕らも小さいので得点を稼ごう」

「了解ッ!」

 

再び構えて景品に銃口を向けて撃つ。須美たちの通りに実行したら簡単に景品を獲得できた。

 

「うっしゃー! 獲れましたよ高嶋さん!!」

「僕もいけた! やったな銀。この調子でいくぞ」

「はいッ! ……って」

 

二人で景品片手に喜んでいると、銀はふと横にいた須美と園子が視界に入った。

そこにはカメラ片手に親指を立てる須美の姿があった。

 

「二人のはじける笑顔いただいたわ♪」

「わっしー後で写真ちょーだい~」

「ちょ!? 須美なに撮ってるんだよー!」

「あら、せっかくのお祭りの思い出なのだから記録に残しておかないと。祐樹さんからも承諾済みよ」

「えー…高嶋さぁん」

「いや、だってその……ね?」

「ちなみに金魚すくいのときはわたしがこっそり撮ってました~♪」

「園子まで!? ……はぁ」

 

園子と須美の行動にため息を漏らす銀。

 

「もしかしてミノさん怒っちゃった……?」

「いや、別に……恥ずかしいから撮るなら撮るって言ってくれ」

「…っ!! その顔も良いわ銀ッ!」

「須美ぃ!」

「まあまあ銀。まずはこの勝負に勝たないと……やっぱりでかい獲物とるしかないな」

 

そう言って祐樹は目の前のぬいぐるみと対峙する。

 

「確かにコレやれれば勝てますけど。絶対獲れないですって」

「おや、諦めるのか銀。勇者は気合と根性でしょ?」

「…む。いいですよやってやります」

 

発破をかけてあげると銀は見事にノってくれた。

既に写真を撮ることに専念している二人を余所に、銀と祐樹は並び立つ。

銃を構えて一体のぬいぐるみに狙いを定める。

 

「作戦はあるんスか」

「合わせ撃ちだ。同時にいこう…僕が銀に続く」

「信じてます……いきますよ」

『───はぁぁ!』

 

引き金を引く。放たれた弾はぬいぐるみの頭部と腹部に同時に着弾。するとぐらぐらと揺れてぽすん、と下に落下した。

その様子を見守っていた須美と園子も自分のことのように喜んでいた。

 

「やったぁ! 流石はチームイチの夫婦(めおと)だねぇ」

「だ、誰が夫婦だ!」

「そうだぞー園子。まだ僕らにはさすがに早い」

「くす……”まだ”、なんですね祐樹さん。良かったわね~銀♪」

「す、須美までからかうなよ……わっ、高嶋さん?」

「ほら、銀。このぬいぐるみはキミのだ」

 

店の店主から受け取ったクマのぬいぐるみを祐樹は持って銀に手渡す。

受け取った銀はなぜか困惑している様子。

 

 

「え、え?」

「僕と銀が二人で獲った景品だからさ。僕が持ってるより銀の方が大事にしてくれそうだし……受け取ってもらえるかな?」

「……いいの?」

「もちろん」

「じゃあ……ありがとうございます高嶋さん! ぜったい大切にします」

 

そう言って銀はぬいぐるみを優しく抱きしめた。普段の活発な雰囲気は鳴りを潜め、愛し気にぬいぐるみを見つめるその姿は年頃の恋する乙女そのもののように見えて思わず三人は見惚れてしまった。

 

(わっしー、わっしー!)

(ど、どうしたのそのっち。私はまだ銀を撮ってる最中なんだけど)

 

ひそひそと園子が須美に耳打ちしている。銀と祐樹は二人の世界を築いているので気が付いていない様子だ。

 

「実は───ひそひそ」

「……なるほど。じゃあ」

 

 

まるで悪戯する前の小さな子供のように、二人は笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらく。

時間も過ぎて祭りも更に賑わいを見せてきた頃。人混みの中を祐樹と銀は二人でかき分けながら歩いていた。

銀は少しばかり不満顔だ。

 

「まったく、園子と須美はどこにいったんだ。急にいなくなるんだもんなぁ」

「こんな人混みだとしょうがないよ」

「連絡してもでないし……暑い」

 

銀を見ると額からは汗が滲み出ていた。

夜といえど夏場だ。それに人が密集しているこの空間は熱気が凄く、祐樹の額からも汗がでている。

祐樹は一度立ち止まって振り返って銀の手を取った。

 

「ふぇ!? た、高嶋さん」

 

突然手を握られた銀は顔を赤くして驚き、祐樹はそのまま人混みから外れて通りの端に銀を連れていく。

 

「疲れたでしょ銀。ちょっと休もう」

「……そうっすね。はぁー暑いぃ」

「そこでかき氷買ってくるよ。何味がいい?」

「いちごがいいです」

「りょーかい。待っててね」

 

手を振って祐樹は目の前のかき氷屋に足を運んでいった。銀はハンカチで汗をぬぐいながら丁度よく座れる石段の所に腰を落ち着けた。

ぼーっと目の前に映る風景を眺める。

 

(…あれ、この今の状況ってデートっぽくない?)

 

今更ながらに銀はハッと気が付いた。

そして先ほどプレゼントされたクマのぬいぐるみを見ながら内心慌てる。

園子と須美はなぜか射的屋から行方不明でしばらく二人きりで屋台巡りをしながら探していたわけだが、こうして冷静に状況を分析してみると考えるまでもなくそうだったのかもしれない。

途端に意識しだすと、身体の火照りとは別の熱が銀の内から湧き上がってくる。

 

(あ、あわわ……これから一体どうしたら?)

 

意識した時にどういった行動をすればいいのか、彼女の中では未だ答えがみつからないでいた。

三ノ輪銀は男女の交際は初めてなのだ。それは勇者組全員に言えることなのだが、まさかその中でも自分が一番になるとは思ってもみなかった。

どうすれば世の恋人のように振舞えるのか、試行錯誤の毎日なのである。

しかも相手は同じ勇者である高嶋祐樹という男の子。他の男子に比べて付き合う前から一緒にいる時間が一番長い人であって。

 

────三ノ輪銀にとって、初恋の人なのだから。

 

銀にとって彼の前ではせめていい女の子でいたいのだ。

 

……まぁ、あれこれ考えているようで事実はキチンとイチャイチャしているのだがそれは当人が知る由もない。

 

「…銀?」

「うぇ!? あ、あ高嶋さん」

「そんなに驚いてどうしたんだ? …はい、かき氷」

「ど、どうもありがとうございます高嶋さん」

 

頭を悩ましていたらいつのまにか祐樹が目の前にいた。

銀の慌てっぷりに首を傾げながら、祐樹も彼女の座る石段に腰を落ち着けさせる。

一息つくと彼の手にも同じようにかき氷を手にしていた。

 

「一緒に食べよう。僕はブルーハワイ味!」

「あーちょっと下さいよ高嶋さん!」

「銀のやつと交換ならいいよー、あとさ」

「はい?」

「二人っきりの時は”名前”で呼んでよ。いつものように、ね?」

「…………っ」

 

しゃり、と氷を割る音と共に銀の表情はいちごシロップのように紅くなる。

チラッと横目で祐樹を見ると、今か今かと待ちわびているようだ。

 

「…っ、ぁ……ゆ」

「ゆ?」

「───ユウキ、さん」

「うん…銀、はいあーん」

「…あむ」

 

満面の笑みで祐樹はかき氷を差し出してきた。

銀もそれ以上は恥ずかしくて沸騰しそうだったのでありがたく口にすると、ひんやりと口の中で氷が解けていき熱が引いていく。

 

「…はい」

 

銀も自分のいちご味を差し出して祐樹もそれを食べる。

 

「ふぅ、この暑い日にかき氷は最高だな」

「はむ。ですねぇ…」

『んんーー!』

 

二人で頭を抑える。この手の食べ物のお約束の行動だ。

 

「それにしても須美も園子もどこにいったんだろーなー。そろそろ花火始まっちゃうぞ」

「闇雲に探しても埒があかないし、連絡だけ入れて花火の見れる場所を探すか」

「あっ、それならいい場所知ってますよユウキさん!」

「お、ホントに?」

「はい。ちょうどこの先に行ったところなんですけどねー……あっ」

 

立ち上がろうとしたところで銀は前倒れそうになる。

祐樹も驚いて彼女の手を掴んで転ばないように支えてあげた。

 

「大丈夫、銀?」

「ど、どうも…! ちょっと鼻緒が──」

「どれどれ……あー、ちょっと無理に歩きすぎたか」

 

銀の履いている草履の鼻緒が切れてしまっていた。

祐樹はしゃがんで確認してみる。

 

「んー、無理そうだなぁ。こういう時サッと直せるのがカッコいいんだろうけど」

「仕方ないすよ。まーちょっと歩きずらいけどなんとか動けるんで」

「……銀、ならこうしよう」

「ゆ、ユウキさん?」

 

何かを決めた祐樹は銀の前で腰を屈めてみせた。

突然どうしたのかと小首を傾げる。

 

「おぶって行くからほら、乗って乗って」

「な…恥ずいっすよユウキさん! この歳になっておんぶは…」

「平気平気。誰も気にしてないって、ホラ」

「うぅ…ユウキさんよくイジワルって言われません?」

「なんのことやらー」

 

銀は話しながら視線を行ったり来たりさせる。

その間でも姿勢を崩さないところを見るに彼女が乗るまでそのままでいるつもりなのでろう。

意を決した銀は恐る恐る祐樹の両肩に手を乗せて自重を預ける。

 

「──よっと」

 

銀が乗ったのを確認すると祐樹は彼女を抱えて立ち上がった。

 

「…どう銀。乗り心地は?」

「よ、よくわかんないっす」

「そか。とりあえず向かおう。あっちでいいんだよね?」

「うん」

 

そう言って祐樹は歩き始める。

けれど銀の内心はとても穏やかではいられなかった。

 

(ひゃー…まさかこんな展開になるなんて……ユウキさん意外とガッシリしてるなぁ。それになんだか落ち着く)

 

弟たちの世話をする過程で同じようにおぶることのある銀だが、これをしたらよく大人しくなるのを知っている彼女はこういうことかーと今更ながらに納得する。

 

(ユウキさんの匂い……うん、大好きな匂いだ)

 

顔を背中に埋めて深呼吸するように息を吸う。

 

「ん? どうした銀、どこか痛いのか?」

「いーえ。気にしないでくださいユウキさん。あ、そこの道を曲がって坂を登って行ったらつきますよ」

「あ、あぁ了解」

 

徐々に人混みから離れていき、周りの音も静かになっていく。

次いで夜の音と虫の音、背後から聞こえるがやがやと祭りの音が二人の耳に届いた。

 

「だいぶ静かになったなぁ。風が涼しい」

「丘になってるんすよこの先。アタシたちが見つけたんです、花火もきっとキレイに観れますよ」

「へぇ」

「それにしても重くないですかユウキさん? 結構歩かせちゃってますけど…」

「全然っ! 訓練で鍛えてるのもあるし、銀はとっても軽いから大丈夫ダイジョウブ」

「はは。頼もしいですね……でもだからって、ほかの女の子にはしちゃイヤですよ?」

「僕の背中は銀専用だから安心しなよ」

「もー、調子いいんだから」

 

と言われてなんだかんだ銀の表情はとても緩んでしまっていた。

顔を見られない状態でよかったと銀は彼の温もりを堪能していると祐樹は坂道を登りきって丘の上に到着した。

 

「到着っと!」

「ありがとうございますユウキさん。お疲れ様でした」

「…いい眺めだ。二人とは合流できるかな」

「あーそれは心配ないと思います。だってホラあそこ」

 

背中越しに前方に指を指す銀に、つられてそちらに視線を移すと二つの人影が見えた。

その影の正体がわかると祐樹は小さく声を漏らした。

 

「須美ー、園子ー! やっと見つけた」

「──あ、ゆっきーたちキタキタ! おーい」

「遅いですよ二人とも…って、銀。どうしたの!? まさか怪我を──」

「いやー実は鼻緒が切れちゃってさ。ユウキさんにおぶってもらった」

「そうだったのね…祐樹さん、草履を貸してもらっていいかしら」

「直せるの須美?」

「応急処置ぐらいなら…………はい」

「はぇー…流石は須美だな。サンキュー!」

 

状況を理解した須美が手際よく修理をすると、銀は祐樹から降りて草履を履き直した。

 

「おーすげー!」

「あんまり激しく動いたらダメだからね」

「わかってるって!」

「よかったよかった。ところで今の今まで何処に行ってたの? 連絡したのに出なかったし」

「ごめんねーゆっきー。わっしーと盛り上がっちゃってつい先走っちゃったんよ〜。ねーわっしー?」

「え、えぇ。すみませんでした祐樹さん」

「ほんとかー?」

「まあまあユウキさん。無事に合流できたんですしいいじゃないですか」

 

訝しげに見つめる祐樹を宥める銀。そんな二人の様子を見て須美と園子はニヤニヤと笑みを浮かべていた。

銀がそちらに気がつくと、目を細めてその反応に対し問いかける。

 

「いやーだって、ねぇー? 須美さんや」

「そうねそのっち。これは私たちの作戦勝ちだわ」

「な、なんだよその言い方は……」

「ミノさん、やっとわたしたちの前でもゆっきーを名前で呼んだよね〜♪」

「やはり日常と異なる場では、己の秘めたる願望を曝け出すことができるのよね。銀、おめでとう♪」

「は、はぁ!!? な、なな何言ってるんだよ。別にそんなんじゃないしっ! ……ないし!!」

 

二人の指摘に耳まで真っ赤にする銀。

確かに祐樹も気になっていたことで、まぁ恥ずかしいんだろうなー程度の認識でいたのだが。

 

「二人のおかげで次にステップアップできそうだよ」

「ゆ、ユウキさん? それってどういう──」

『あっ!』

 

それは誰からの声だったか。その一言で皆の視線は上空へと移された。

直後に響く音と綺麗な光。────花火が打ち上がったのだ。

 

ドンッと空気を振動させる爆発音と目の前いっぱいに広がる多色の光が夜空に彩られる。

 

「綺麗ね」

「たーまやー!」

「うはぁ! すっげーデカイよユウキさんっ!」

「うん、凄いキレイだよ。……銀」

 

歓喜の声の中、祐樹の視線は横で見上げている銀の姿であった。

銀も彼の声色を察してか視線を上空から彼の方へ向けられて、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───ん」

「……えっ?」

 

 

 

 

 

 

 

振り向いた先に祐樹の顔が間近にあった。

そして頬に伝わる柔らかい感触に銀は何が起きたのか理解できなかった。

自分の頬に手を添える。

 

(───え、えぇぇ!!?)

 

その間にも花火は継続して夜空に咲いている。

光が瞬く。祐樹の顔は花火の色のせいか否か、銀の目には心なしか赤くなっている気がした。

銀は魚のように口をパクパクと開閉していると、祐樹はくすりと笑う。

 

「……はは。これが次のステップだよ、銀」

 

須美と園子は目の前の花火に夢中で気が付いていない。そして今この場には四人以外は誰もいない。

更に更にと、今起きたこの瞬間は二人以外は誰も知らないのだ。

 

「────ぁぅ」

 

目をぐるぐると回し祐樹の顔を直視できずに頭を抱えた。

身体全体が沸騰しそうな感覚に襲われて彼女は花火どころではなかった。

 

「…んー? ミノさんどったのー? 顔真っ赤っかだけどー」

「え? いや、あのその……なんでもない」

「ちょっと花火に驚いただけだよね銀?」

「ふふ、銀ってば小さい子供みたいね」

「ち、違うってばーー!」

 

銀の叫び声も花火の音で消え去っていく。

そうしていると更に密度の濃くなっていく数々の花火たちに全員の意識もそちらに引っ張られていった。

 

『……わぁ!』

 

夜空に輝く星々とは違う、人が創る輝きを瞳と思い出に焼き付ける。

 

 

「…またみんなで花火を観にこような。銀」

「もちろんっスよ。ユウキさん♪」

 

いつの間にか繋いでいた手を握って二人の笑顔が夜空に輝いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




遅まきながらアプリ『ゆゆゆい』二周年おめでとうございます。
控えめに言って最高かよ、と思うばかりでございます(笑
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