勇者たちをイチャイチャさせたい!   作:紅氷(しょうが味)

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(投稿日からして)時期ではないですが、どうぞ。
タイトルの通りちょこっとしたお話です。


story2『チョコッとしたお話』

二月一四日。本日はなんだか周りの空気が浮き足立っている気がした。

理由は────まぁ今日という日が『バレンタインデー』だからと言う他ないだろう。

 

 

「…むっ」

 

朝いつものように登校して校舎に入り、下駄箱を開けたところで僕はすぐにあるモノに気が付く。

そこには一つの綺麗にラッピングされた小箱があって僕は手に取ると無言のままバックにしまう。

 

──これで五個目。

 

「はぁー…」

 

廊下を歩きながらため息をひとつ漏らす。

いや、このため息は決してもらうことに対して嫌だからというわけではない。嬉しい、嬉しいのだが……。

 

(……まさか結果としてこうなってしまうなんて。人生どうなるのか分からないもんだなぁ)

 

去年からやり始めたボランティア活動。結果として僕という存在は学校内では知らない人間はいないほどの認知度を得ることになっていた。

その過程でクラス、学年の枠を超えて男子もそうだが女子とも自然とかかわることが多くなり、必要以上の好意をもらうことも増えていった。

 

「あっあの祐樹くん。はい、これ。チョコレート……この前助けてくれたお礼に…う、受け取ってくれるかな」

「うん、ありがとう」

 

手渡されたチョコを受け取る。

そもそもがこのボランティア活動を始めたきっかけは、放課後から休日まで一緒にいることの増えた彼女の影響が大きい。

彼女は確か……『勇者部』という名前の部活に所属して活動をしている。

 

そこでやっている奉仕活動について、彼女の口から聞いた僕はとても感心したことを覚えている。

当時の僕は彼女との共通の話題を探していたのもあり、真似事のように始めてみたのだが意外と楽しいことが分かった。

そのお陰か今日まで続けているのだけど…。

 

「お、ゆうきっち! はいチョコあげるー♪」

「おーサンキュー! 後で食べるよ!」

 

笑顔でチョコを受け取り僕はすたすたと歩いていく。

人と会話をするのは嫌いではないし、どちらかというと好きな部類なので最初は結構後先考えずに突っ込んでいったなぁ。

 

もちろん失敗もあったし、そのせいでへこんだこともあったけれど。

成功したときの依頼者が浮かべる『笑顔』を見たときにああやってよかったと思える瞬間が嬉しかった。

 

『わぁ! さすが祐くんだねー! わたしも祐くんと一緒の部活だったらなぁ』

 

もちろんその時のキモチを彼女に話してみたらまるで自分のことのように喜んでくれる。

また頑張るか! とモチベーションにも繋がったしよく話を聞いてもらっていた。

 

「先輩! う、受け取ってください!」

「う、うん。ありがとう」

 

再びチョコを受け取る。

教室に入ろうとしたところで待ち伏せしていたのか下級生の女子数名が僕にチョコを手渡してくれた。

わざわざ上級生の階に来てくれたのだ。無下にできるはずもなく、受け取ってお礼を述べると女子たちはそのまま走り去っていってしまった。

 

(どうしようか……?)

 

両手いっぱいのチョコレート。

……そろそろカバンに入らなくなってきたな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後も廊下を歩けばもらい、移動教室に向かっている道中で手渡され、あれこれと溜まったチョコの数々はとうとう持ちきれなくなる。

昼を一緒に食べる友人からビニール袋をもらってそれに入れることにした。

袋を受け取るときにとても恨めしい顔をされたけども。

 

そして放課後。僕はカバンとは別に袋を三つ抱えた状態で下校することになった。

……お返しどうしよう。

 

「──ほへー。すごい量だね祐くん」

「自分でも驚いてる…食べきれるかなぁー」

 

いっぱいになった袋を見つめてまた一つ息を漏らす。

隣を歩く彼女も乾いた笑みを浮かべて僕の心配をしてくれていた。

 

「祐くんはとっても優しいから好きになっちゃう子が多いんだよー。モテモテさんだっ!」

「うーん。ほとんど義理ってやつだと思うよ。依頼のお礼ってのもあるみたいだし」

「そうかなぁ……その中には勇気を出して渡した子も居たと思うよ?」

「……でも僕はキミから」

「えっ? 祐くん何か言った?」

「い、いやなんでもない」

 

小首をかしげる彼女に僕は反射的に答える。

そっかぁと特に言及することもなく彼女──友奈は前を向いて歩きだした。

 

──むぅ。

 

(正直、チョコをもらうのは嬉しいけど……もらうなら友奈がいい…って言えるわけないよなぁ)

 

この頃はよく一緒になることが増えてきたから……なんて下心があったわけではないけども。

いや、義理くらいならばもらえるかなんて考えていた自分が浅ましい。

現実はチョコのように甘くはなかったみたいだ。

 

(…バレンタインで浮き足立ってたのは僕も同じか)

 

でもまあ別にチョコをもらうためにこうして接しているわけではないし、平日の時間が合えばこうして下校も待ち合わせしている関係なので充分なのかもしれない。

彼女には嫌われてはないと思うからこれからも気長にやっていこうと思う。

 

「あ、祐くん。あそこの公園のベンチに行きませんか?」

「ベンチ? ──ああうん、いいよ」

 

帰り道の公園を横切ろうとしたところで友奈に呼び止められて足を止める。

この後の予定はチョコとの格闘以外はやることはなかったので二つ返事で了承した。

 

公園には小学生たちがサッカーで遊んでいる以外は誰もいない。

脇にあるベンチに腰を落ち着かせると、隣に友奈が座ってくる。

 

「──つめたっ!? うぅ、おしり冷たいー!」

「…はは。まだ少し気温が低いし友奈はスカートだから余計に冷たいだろうね。大丈夫?」

「はい、大丈夫です。こういうとき男子のズボンがうらやましくなっちゃうよー」

 

友奈が座る場所を見る。ひと一人分の空いた距離。今の関係上では埋まることのない距離感。

…少し寂しいが仕方ない。いつかは埋めてみせると内心誓い僕は友奈と今日の出来事をお互い話していく。

 

「今日は風先輩がですね────」

「へぇ。相変わらず大変だな……そういえばこの前──」

 

他愛のない会話。僕はこの時間がとても楽しい。

ほぼ毎日のように話しているのに会話が途切れることがないんだ。

友奈も果たして僕と同じように考えてくれてるだろうか。

 

「──そういえば祐くんって結局チョコは何個もらったんですか?」

「……えーと三十個ぐらいかな。アハハ」

「あの、えっと」

「……ん? どうした友奈?」

 

時間たっぷりと話し終えると、会話の途切れ目に友奈が別の話題を振ってきた。

急にしおらしくなったかと思えば視線を泳がせてモジモジし始める彼女に首をかしげる。

 

「そ、そんなにもらっちゃうと食べきるの大変ですよね?」

「まあ、ね。今日も帰ったら食べるつもりだけど……」

 

質問の意図が分からない。

僕の顔を見て唇を小さく震わせ、視線は下へと移動する。そしてまた僕の顔を見る、それの繰り返し。

その血色の良い頬は朱に染まっていて何か物言いたげな雰囲気を醸し出してる気がした。

 

「ねぇ友奈、なにか──っ!?」

 

──言いたいことでもあるの? と口にしようとしたところで視界の隅から黒い影が接近してきているのを捉えた。

しかもその影はあろうことか友奈の方目掛けているではないか。

 

彼女は気が付いていない……なぜならこちらを向いているから。

であるならば僕のとる行動は一つだった。

 

「ゆ、祐くん!? きゃっ…」

 

可愛らしい小さな悲鳴が耳に届く。

僕は急いでこちら側に引き寄せて影に当たらないようにしたため、腕の中には彼女の姿があった。

ああ、想像していたよりも小さいな友奈は……って違う違う!

 

「だ、大丈夫か? 友奈」

「う、うん。ありがとう祐くん」

 

どうやら怪我はなかったようで安心する。

僕は視線を影の方へと移動させて見ると地面をバウンドしているボールを見つけた。

…ってあれはさっき遊んでいた小学生のサッカーボールじゃないか。

 

「ごめんなさーい!」

 

一人がこちらに走り寄ってきて慌てて頭を下げるとボールを持って戻っていった。

 

「サッカーボールだったか……はぁ。なにが飛んできたのかと思ったよ」

「わたし全然気が付かなかったー。祐くんが助けて…くれて……なかったら?」

「──ん? あっ……」

「……っ!!」

 

突然のアクシデントに冷静さを取り戻した僕と友奈は今置かれている状況を把握し始める。

そして次にとる行動は、がばっと両者ともに勢いよく離れることだった。

 

──や、やばい。顔が熱いぞ。

 

「な、なんかその……うん、ごめん」

「……ぅぅ」

 

友奈の顔をまともに見れないから分からないが小さく唸っているようだ。

 

「あ、あー…とにかくけ、怪我がなくて安心した。そろそろ帰ろうか友奈!」

「──ゆ、祐くん!!」

「ど、どうした!? ……って」

 

気まずい空気に耐えられず立ち上がろうとしたところで、それは阻まれた。目の前に差し出された物によって。

視線を落とすとそこにあったのは小箱。

一瞬なにこれと呆気にとられてしまう。今度は視線を横にずらして見てみると、顔を真っ赤にした友奈の顔が目に映った。

 

「え、ええと……う、受け取ってくれませんか!」

「──これってまさか」

「は、はい……バレンタインのチョコです。お、男の子にこうやってあげるの初めてなのでどう渡せばいいのか分からなくて…」

「ほ、ほんとに? 僕に?」

 

コクコクと勢いよく頷く彼女を見てマジか、と声を漏らしてしまう。

感動で震えた手によって僕は恐る恐る受け取る。

 

「や、どうしよ……マジで嬉しい。義理でも嬉しいよ友奈!」

「ぎ、義理じゃ……ないです」

「えっ?」

 

最後の方が小声で聞き取れなかったので聞き直してみるが、友奈は首を横に勢いよく振って「なんでもないです!」とそれ以上を遮られてしまった。

 

「祐くんチョコいっぱいもらってたからこれ以上渡すのは迷惑かなって思っちゃって渡すタイミングがなくて……えへへ」

「そうだったんだ。僕の方こそ気を使わせてごめんね……」

 

口調は冷静さを出しているが、今にもにやけてしまいそうな自分がいる。

飛び跳ねて狂喜乱舞しそうなほど嬉しい。

可愛らしくラッピングされた箱をまじまじと眺める。

 

「開けてもいい? 今すぐ食べてみたい!」

「ど、どうぞ……」

「………おぉー。生チョコだ」

「東郷さんに教えてもらいながら作ってみたんだ。お口に合えばいいんだけど」

「…いただきます! あむ」

 

丁寧にラッピングを剥がして蓋を開ける。

そして一粒手に取り口に運ぶとしっとりと口の中で溶けていく甘味に僕は舌鼓を打つ。

ああ、生まれてきてよかった。

 

「美味しい! 本当に美味しいよ友奈。いくらでも食べれちゃうよ」

「はぁ、良かった~! 緊張で胸が張り裂けそうだったよー」

「作るの大変だったでしょ?」

「ううん、意外と簡単に作れたんだよ! えっとねー…」

 

僕が食べている合間に友奈がレシピの説明をしてくれる。

どうやら勇者部のみんなでチョコを渡し合うこともやっていたらしい。

なにそれ最高かよ、と想像してみたけどやっぱり友奈から貰うのが一番喜ぶ気がする。

 

「これはお返しも奮発しないとな!」

「いいよいいよ! そんなつもりであげたんじゃないから!」

「そうはいかないよー」

「でも祐くんからは色々なものをたくさん貰っちゃってるからそれのお返しでもあるんです……」

「僕は何もしてあげられてないよ。むしろ僕のほうこそ友奈から元気いっぱいもらってるし」

「わ、わたしのほうがいっぱいもらってます!」

「僕が────!」

「わ、わたしが────!」

 

何度か同じやり取りをして顔を見合わせ、いつのまにか自然と二人して笑い合っていた。

……こんな時間がいつまでも続けばいいのに。

 

 

 

 

 

 

おまけ。余談のようなもの。

 

 

「東郷さん! 祐くんが喜んで食べてくれて大成功だったよ。ほんとにありがとう♪」

 

ルンルン気分で報告にきた友奈ちゃんに私の心はひどく揺さぶられる。

私は震える拳をそっと後ろに隠してニッコリと彼女に笑いかけた。

 

「それはよかったわ。私も教えた甲斐があったものね」

「うん! はぁーでもとっても緊張したよ。ちゃんと渡せて良かったぁ」

「くっ……!」

 

彼女の幸せな顔を見るのは大好きだ。でも同じぐらいこの胸中はとても複雑な気分なのだ。

…友奈ちゃんは間違いなく彼に惚れている。まだ本人はそれを自覚しているのか否か定かではないが大変私の心情に対してよろしくない!

握る拳がどうにも緩くなる気配がないわ。

 

「ってあれ? どうして東郷さん怖い顔してるの?」

「…ふふ。いいの、なんでもないわ友奈ちゃん気にしないで、ね?」

「は、はい!」

 

この気持ちをどうしてくれようか。……いえ、別に彼は悪い人ではないことぐらい理解しているの。

でも頭でわかっていても気持ちが同じとは限らない。

 

(……はぁ。でもそうね)

 

怒っても仕方ない。友奈ちゃんの方を見ると、彼から連絡が来たのか頬を綻ばせながら端末を操作している。

──ぐぬぬ。

 

「……あれ? 東郷さんどこにいくの?」

「ちょっと和菓子を作るわ。出来上がったら友奈ちゃんにも食べてもらうから家で待っててね? 後でもっていくから」

「ほんとー!? わーい、東郷さんのお菓子楽しみー♪」

 

取り合えず冷静になるためにも自分の好きなものを作ろう。

ここのところ洋菓子ばかり作ってしまっていたから鬱憤が溜まっていたに違いない。

 

そう自分に言い聞かせて私は家の門をくぐるのだった────。

 

 

 

 




執筆途中のモノを整理していたら書き上げていた物があって二月に投稿し忘れていたことを思い出す。←

来年まであたためておくのもなぁと思い、せっかくなので載せておきます(笑
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