勇者たちをイチャイチャさせたい!   作:紅氷(しょうが味)

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ギリギリセーフ? セーフだよね(汗

でもごめん、今回は『彼女』メインなんだ!
短いですがどうぞ。


story 2『滴のようなひととき』

冬季による早朝の肌寒さが残る中でとある一室にてもぞもぞとうごめくものがあった。

 

「……ん」

 

そこから漏れる微かな声────声の出どころは一室のベッドの上だった。シーツに包まりかの者は惰眠を貪っている様子が見受けられる。

その中で更にもう一つ別の山が出来上がっていることにかの者は気が付かない。山は尚もうごめきそしてシーツの中から顔をのぞかせた。

 

「ぷぁ……ったく。こんな動いても起きねぇとは流石だなぁーオイ」

 

声量を普段より落として悪態をつく。その表情はまるでこれから悪戯でもしようとする小さな子供のようにも見えなくはない。

ぴょこっと跳ねた癖っ毛を手で軽く梳いてからジッと今もなお眠る彼に視線を向ける。

無言のまま数秒。特に何かをすることなくジッとただただ目の前の男の寝顔を見つめる。そうして次にその者はスッと手を伸ばして指先で頬を突いた。

 

「……んっ、む、ぅ」

「これも起きないのか……はは、なんかおもしれえな。こーの寝坊助めぇー」

「んんっ、ん……っ」

「わ、おい、ちょ────ッ!?」

 

ツンツン、つんつんとしていたら。

眉を顰め頬を突かれていた男は寝返りをうつ要領で身体を横に移動させた。その時に巻き込まれたその者は男の腕に掴まれて一緒に寝転ぶことになってしまう。

慌てて脱しようとするががっしりと腕の中に包まれて身動きが取れない。

 

「なっ! お、おい……離せ……っ!」

「むにゃ……しずくぅー……」

「────っ!!?」

 

ぎゅうぅ……っと体を抱きしめられ耳元で名前を囁かれて身を硬らせるしずく────いや、シズクが居た。

細やかな抵抗として彼の胸に手をついて離れてもらおうとするが、まるで意に介さず更に強く抱擁される結末となってしまった。こんなはずではなかったのに、とシズクは上目遣いのまま睨み付ける。

 

(……くそ。どうせオレじゃなくてしずくのことを呼んでるんだろうが……ッチ)

 

どうにも面白くない。この状態まで陥ったのはシズク自身のせいなのだが、無意識とはいえこうして抱きしめられてまで口にされる名前が自分じゃないとなると、幾らその名が大切な彼女のこととはいえシズクはモヤモヤが拭えないでいた。

と同時にこんな思考回路になっていることについても、彼女の眉を顰める原因となっていた。比率としてはこちらの方が傾きがあると言っても過言ではないぐらいに。

 

「蹴り飛ばしてぇぐらいなのに……はぁぁ。やっぱり出来ねえ、な」

「んっ……」

 

こんなの柄ではない。加賀城雀辺りに知られたら馬鹿にされるってことも理解しているシズクはしかしこの腕を払い除けることは出来なかった。もう既に気持ちの整理はついているはずなのに、どうしてもこうして確かめたくなる時がある。半身であるしずくは言わずとも多分な愛情を彼に向けていることは知っている。そして彼もまたしずくに負けじと好意をぶつけてくれることも知っていた。

 

「オレは……オレはオマエの『好意』の中に含まれてるんだろうか……なぁ、ユウ」

 

目の前のユウ────高嶋祐樹は寝て、他の誰も聞いていないからこそ漏れるキモチ。しずくを守るために生まれた『人格』としての彼女は時々この胸に燻る『想い』に揺らされる。文字通り存在意義そのものを。

 

根底としての存在理由は忘れてはいない。それは当たり前の事実なのだが最近はどうにも祐樹の存在がしずくの隣に並びつつあるのだ。しずくにとっての『祐樹』は大切な人で、恋人で、愛している人間だ。けれどそれはシズクにとっては同義となり得るのか否か、迷う時がある。

 

(こうしてやられてるだけで安心しちまうオレがいる。それにユウ自身からも相応の言葉をもらってる……迷う事はねぇはずなんだがな)

 

戦いや訓練に明け暮れていた当初よりも皆と打ち解けてきていることもシズクは理解している。しずくも自力をつけてきているからまぁしょっちゅう表に出ることも以前より少なくなってきているし、喜ばしいことだがそうなった先に、とふと考えることがあった。

 

「オレはいずれ考えなきゃならんのかね……消えるか、消えないか」

 

目を細めシズクは頰を祐樹に擦り合わせる。伝わる温もりと匂いを感じてシズク自身気付いているのかわからないが、その口角は緩んでいた。

 

「……なぁ。オレはどうすればいい?」

「────これは、寝言だけど」

「……あ?」

 

独り言のつもりだった言葉に返答があって彼女は目を丸くした。

 

「自分の気持ちに『嘘』はつかないで欲しいかな。むにゃ……僕はしずくとシズクに居てほしい」

「……ユウ」

「だから────シズぐえっ!?」

「ユウぅぅー……っ!」

 

寝言などと戯言をぬかした祐樹の首をその手で絞める。シズクの顔は茹でたったぐらいに真っ赤になっていてその眼光も羞恥の色が垣間見えた。

 

「テメェ最初から起きてやがったのかよ?! だぁぁクソッ! 忘れろ!! 今のことそっくり全部忘れやがれぇェー!」

「な、なん……うぐっ。ちょ、ちょっとタンマ──ギブギブ!」

「誰かにチクったら潰す。分かったなっ!?」

「い、言わない! 言わないからー?!」

 

何を潰すつもりなのかと背筋がゾクリとしてしまう。

必死に抵抗しながら祐樹はシズクの拘束から逃れようとするが、ベッドの上でバタバタと二人で揉みくちゃになっていた。

 

「あ、朝からシズクが居たと思ったらいきなり首絞められるとか……僕寝てただけだよね? てか、どうしてシズクが僕のベッドに…?」

「それはー……ユ、ユウがとにかくわりぃんだよ。起きてるのに寝たふりしやがって……やっぱガラでないこと考えるんじゃなかった」

「えー最初からじゃなかったよ? 途中から柔らかい感触がするなぁなんてぼんやりしてたらシズクを抱きしめたんだもん」

「変態」

「なんでっ!!? ……うわっ?!」

 

バッサリ切り捨てられた祐樹を他所にシズクは彼を押し倒して上に跨った。

 

「うぅ……ひどいよシズク」

「女々しい声出してんじゃねぇよ。それよりも……さっきの意味はどういうことだ?」

「自分の気持ちに嘘をつかないでって言ったこと?」

「あぁ。なんで…んなこと言った?」

 

嘘も何もシズクは流れに身を任せようと考えていた。しずく本人が大丈夫だと判断したら自分のことは忘れてくれていい、と。そんなことを思考の片隅で。

 

「しずくには良くしてもらってるのはよくわかる。けどよ、普通は『人格』なんてやつは一つしかないんだよ。オレはしずくを守るためにいる存在だ。そのしずくも近頃はユウとよろしくやっているようだし、芽吹たちみたいな仲間もいる。もう十分なんじゃねぇかなと思う時があるんだよ」

 

「みんなシズクが居なくなったりでもしたらとても悲しむよ。特にしずくなんて──」

「んなこと言われなくたってオレが一番よく分かってる。だからただの気の迷い、世迷言みてーなもんだから真に受けんな」

「…信じていいんだね? 仮にも、万が一にも居なくなったりでもしたら本気で怒るよ僕」

「おうおうそりゃ怖いな。オレは怒られたくねぇから消えるのは辞めておくわ」

「そうしてくれ」

 

でも少しだけ、ほんのちょっぴりだけシズクは嬉しいと思った。例え世迷言の類でも真っ先に心配してくれる存在が居ることに。こうしてみると本当はただ安心するために確認したかっただけなのかもしれない。そんなことを考えるけれど、シズクはその気持ちを表に出すことはない。恥ずかしいし、からかわれるのがオチだから。なのに目の前の男ときたら、ジーっとシズクの様子を窺うように見つめてきていた。

居心地の悪くなったシズクは同じようにジトっと睨みをきかせて対抗する。

 

「……ンだよそのカオ」

「寂しかったんだねシズク」

「…………はっ?」

「は? って、だから寂しくなっちゃったからこうして来てくれたんだねって思って。違った?」

「は、はぁっ? オマエなにい────って……っ」

 

途端に顔周りが熱くなるのを自覚する。祐樹はその様子を見て当たりをつけたのか嬉しそうに顔を綻ばせていた。対してシズクは彼の言葉を否定することが出来ない自分に半ば呆気に取られてしまっていた。

 

「別に恥ずかしいことじゃないよ。恋人同士だしさ、キミの在り方はキミの言う通りなんだとしても、そういう気持ちを抱いてはいけないなんて道理はないはずだ。それだけシズクが気を許してくれる人が増えてきたことは喜ばしいことだし、僕もその一つになっているのが改めて分かってとても幸せだな」

「うっ、ぐ……ぅぅっ!!」

「痛っ──いたいイタイ! 叩かないでよ〜シズク」

 

シズクは恥ずかしいことなどがあると反発する癖があるみたいだが、今度のは軽く叩く程度のもので、口にするほどは祐樹は痛みを感じていない。

 

「うっせ……オマエのせいでオレはこんなになっちまったんだ! あぁもう…………責任とれ」

「──うん?」

「責任、セキニンとりやがれっ! 本当はユウとしずくが仲良くしていればそれでいいって思ってたのによぉー……オマエが焚きつけるからだぞ。さっきから心臓の音がうるさくて堪まらねぇんだ」

 

ドッドッと脈打つシズクの心臓は治まるところを知らない。彼女自身もどうしていいのかわからないから声を荒げる。

シズクの言葉を聞いた祐樹は一瞬キョトン、と表情を浮かべると上に跨っていた彼女の頭に手を伸ばして自分に引き寄せる。彼女は抵抗しなかった。

 

「…っ、お、おい」

「……シズクって可愛いな。今再確認したよ」

「──っ! や、やめろぉー……オレに可愛いとか、言うんじゃねえよユウ」

「可愛いよカワイー……より一層好きになっちゃったな。ほら、分かる? シズクと一緒で今僕の心臓も早くなってるの」

「…………ん」

 

言われてシズクは耳を澄ませると確かに早く脈打つ心音が聞こえてきた。それはシズクに負けじと言わんばかりの鼓動音であった。

彼女はしばらくその音を聞いてから吹き出すように笑う。そして、祐樹もまたつられて微笑った。

 

「……まったく、お互いしょうがねぇな。いちいちこんなことでもドキマギしちまってよー…──ほんとおかしな話だわ」

「嫌?」

「んや────悪くねぇな。ユウとこうして居るのも、偶にはイイ」

「そっか」

「んっ」

 

何処か返事の仕方がしずくに似ていて祐樹は頰が綻ぶ。シーツの中で二人で温まりながら、お互い時間の許す限りこの瞬間を堪能するのであった────。

 




なんだかんだ言っても、詰まるところ『一緒に居る口実』が欲しかっただけですねー(笑

というわけで『シズク』メインのお話でした。
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