勇者たちをイチャイチャさせたい!   作:紅氷(しょうが味)

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鷲尾須美の章
story1『小さな思い』


あるときに一人の少女が言いました。

 

────お二人さまはどうしてそんなに堅苦しく会話してるんだい?

 

少しキャラを作りながらもお淑やかに、まるで優雅なティータイムを楽しむが如く。少女は相席するもう一人の少女に問いかける。

 

「…堅苦しくいるわけではないわ。ただその──どうしていいのか解らないのよ」

 

沈痛な想いを吐露する少女の名は鷲尾須美。モジモジと指先を合わせて視線を泳がす彼女は自分でもこの感情に対してどうしてよいのか分からない様子。

 

────それは、アタシらのようにもっと砕けた感じで接すればいいのではなくて?

 

更に隣にいるもう一人の少女が見よう見まねで須美に云う。

けれどキャラを意識して作りすぎているせいか、どうにも違和感が拭えなく、遠巻きに馬鹿にされている気がしてならない須美である。

 

「そうは言っても、初めてのことなのだから仕方ないじゃない」

 

目を細めて須美はうな垂れる。確かに二人の云う通り、自身の性格のせいもあるとはいえもう少しどうにかならないかと思う。

平行線を辿る一方なのも事実なわけで、だからこそ目の前の友達に相談しているのだ。

 

「というより二人とも。もう少し真面目に聴いてもらえると助かるのだけど」

「わりーわりー! 少し悪ノリが過ぎちまったな」

「え〜? わたしはいつも通りだったよ〜?」

「マジか…流石お嬢様だな。すげーサマになってた!」

「ほんとぉー? 嬉しいなぁ」

 

褒められて喜ぶ園子。そして褒め称える銀の姿を見て須美は頭を抱えてしまう。

 

────もしかして、人選を間違えてしまった…?

 

しかし須美の今現在の交友関係を辿ると、彼女らを除いては安芸先生ぐらいしか相談に乗ってもらえそうな人はいなかった。

 

────あれ、私の知り合い少な過ぎ……?

 

まして異性ともなれば片手の指で数える程度しかいない気がする────いや、盛った。いないに等しい。

ますます気落ちしてしまう思考回路を脱却すべく須美はうつむき気味だった顔を上げた。

 

「と・に・か・く! 私はその……せっかく祐樹さんとこ、恋仲になったのだしもう一歩踏み込んでいきたいと考えているのよ」

「乃木さん、やだわこの人ノロけてやがりますよ?」

「あらまぁー! いいですわよーもっとやっておくだせ〜♪」

「…もういい、帰ります」

『わぁ!! 嘘うそ、ごめんなさーい!』

 

立ち上がって本当に帰ろうとする須美の両腕を二人で抑え込む。

まぁ、冗談半分でことに及んだのでそこまで須美は怒ってはいない。そこまでは、だが。

 

一息ついて須美はミルクティー(、、、、、、)をストローで啜る。

 

「す、須美がそういうの飲むなんて珍しい、な?」

 

銀が須美の手に持つ飲み物が目に入った。

以前に同じような物をすすめてみたのだが、あまり反応がよろしくなかったのだがなぜだろうか。

 

「そうかしら? 意外と飲んでみれば美味しいことに気が付いたの」

 

実は最近彼にオススメされてから絶妙にハマってしまっていた一品だ。恋する乙女、例え西洋文化が混じろう物でも彼のためなら飛び込んでいく所存である。

そうやって乾いた喉を潤していくと、対面に座る園子が口を開く。

 

「わっしーとゆっきーは手は繋いだの~?」

「…い、いえ。お付き合いを始めてから(、、、、、、、、、、、)はまだ」

『え?』

 

銀と園子の声がダブる。

 

「──じゃあじゃあどっかにデートとか??」

「……御役目や訓練もあるし、交際を始めてからまだ日も浅いからあまり一緒にお出かけとかは……あ、そういえば先日一緒に服を見に行ったわ。実は今日着てきた服は祐樹さんが選んでくれたモノで──♪」

『…………、』

 

両頬に手を添えながらはにかみ、須美はその時の記憶を振り返っているようだ。なんと愛らしい姿なことか。

反面に銀は苦い顔で、園子はほへぇ、といった表情を浮かべながら二人はお互いに顔を見合わせていた。

 

「あれ、園子さん……アタシらこれ相談にノる必要なくないっすか?」

「ん~? それは当人の考え方次第だと思うけどー……わっしー的にはどう?」

「ええ、やっぱり何かが足りないと思うのよね。でも、私はこれ以上どうしたらいいのかわからなくて……」

「……イマノママデイインジャナイカナ?」

「わー。ミノさんのカタコト面白ーい♪ もっかいやってー」

「ソノコ、サン」

「あははははっ!」

「そんな!? 見捨てないで銀! 迷惑な相談なのは重々承知しているの!!」

 

まるでこの世の終わりかのような表情を見せる須美。

いやいや、と銀は身振り手振りで彼女のその反応を否定する。

 

「アタシからしても充分に二人はうまくやれてると思うんだけど? ならちゅーはどうだ須美? キッス!!」

「……ぽっ」

「なにー!? ヤったのか須美っ!! おのれ高嶋さん…よくもアタシの須美とぉ!」

「きゃ〜♪ わっしー大胆ー! マウストゥーマウス?」

「あ、ち…違うわ! してない! ぁ…ほっぺにはされちゃったけど……でもでもまだ接吻はしてないわ二人とも……はっ」

『きゃー!!』

「うぅぅー…酷いわ」

 

黄色い声が響く。

一々反応してしまう須美もだが、見事に誘導尋問に引っかかる彼女の顔は茹でたこのように赤くなる。

銀はそんな彼女の様子を見てしみじみと、まるで嫁いでいく娘を見送るように背もたれに寄りかかった。

 

「そっかぁー…こうして人は大人になっていくんだな。胸は既に大人な須美、父さんは嬉しいぞっ!」

「む、胸は関係ないでしょっ!? それに私は銀の娘になった覚えがないのだけど!」

「わっしー! 是非ネタとしてもらいたいんだけどいい?」

「だ、ダメよそのっち!」

 

懐から取り出したメモ帳に書き連ねる園子をワタワタと止める須美。

 

「しっかし、改めてまとめると恋人らしいことしまくってるじゃん。不安がらなくても大丈夫だろー須美」

「そ、そうかしら…うーん」

「のんのん二人とも。まだやっていないことがあるんよ?」

『えっ?』

 

人差し指を立てながら園子が提案する。銀と須美は共に首を傾げていた。

 

「どういうことそのっち? なにか妙案が……」

「それだよわっしー! 二人に足りなかったのはソレだぁー!」

「なに急に大声で言ってるんだ園子…ソレって──あ、まさか!」

「え、え? 分からないわ?? きちんと説明して」

 

くつくつと笑う園子。たが銀からしてみればインパクトに欠ける提案であることは否めない。

 

「わっしー。わたしのことは何て呼んでるー?」

「そのっちは『そのっち』でしょ? ……あ」

「そうそう♪ わたしはそう呼ばれてて、わたしはミノさん、わっしーって呼んでる。これが大事なんよ」

「えーでもアタシは須美から普通に名前で呼ばれてるぞ。それならこれを機にアタシも須美からあだ名で──」

「ダメよ、銀は銀だもの! ここは譲れないわ」

「がーん。そんなに否定しなくても……まぁ、確かに須美からミノさん呼びされるのはしっくりこないしな。アタシらは今まで通りでいいと思うぜ」

「でもでもー。ゆっきーとわっしーはカップルだからー、お互いの愛称の一つや二つ持ってなくてはダメなんよ」

「そういうものなの?」

 

不安げに訊ねる須美に園子は満面の笑みで返す。

 

「まー、園子の言うことも一理ある。じゃ、さっそく…高嶋さんをなんて呼ぶのか考えようぜ!」

「わたしが考えた『ゆっきー』はー?」

「ゆっ!? ゆ、ゆー……っきー……はぅ。無理よ、私はそのっちみたいになれないわ」

「あれれー? じゃあ、『ゆーみん』はー?」

「それも無理っ!」

「じゃあ、あえて高嶋からとって『たっちゃん』…とか?」

 

園子の提案はともかく、銀の言葉を元に想像を膨らませてみる、が。

 

「たっちゃん……ごめんなさい、銀。なんだかしっくりこないわ」

「そっかー…意外と難しいんだな。うーん」

「ゆんゆんとかどーおー?」

「そのっちの提案はどれも難易度が高すぎるわ…」

「しょぼーん」

「あ、いや、その……そうやって考えてくれるのを否定しているわけじゃないのよ? ただもう少し私に違和感がないようなものがあればと」

 

園子の落ち込みにフォローを入れる須美。元々無理を言っている身なのは理解しているが、性格故か中々園子のようにはいかないのも事実なのだ。

 

三人であれよこれよと悩み続け、それぞれの飲み物が空になる程度には時間が経過する。

けれどその場では『愛称』というものは決まらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──ゆ、ゆっきー。こんにちは」

 

出来る限り平静を維持し、上擦らないように心掛けながら声を出す。

しかし目の前に見える自分の立ち姿をみて、どうにも違和感が拭えなかった。

 

小さくため息を漏らす。

 

(はぁ…一体どうしたらうまくいくのかしら? 二人には迷惑かけてしまったし)

 

そもそも辿っていくとなぜそうなったか、今となっては思い出せないが自分でこれだ、と納得していた気がする。

姿見に映る自身を見て頭を悩ます。

 

「……それとも、やっぱり一歩踏み込むには世の大人たちのように──」

 

銀や園子にからかわれることのある、とある部位に視線を落として須美は呟く。

しばしの無言、我に戻った須美は頭をぶんぶん振って考えていた想像をかき消していった。

 

(いやいやいや…。何を考えているのよ鷲尾須美っ! そんな破廉恥な──)

 

須美は来年には中学生に上がる。近頃はネットなどの情報媒体が様々に展開されている中で、彼女なりに知識として頭に入っているものはいくつかあった。

だが、それでもお互いにまだまだ未成熟でありそういった段階には早計が過ぎるというもの。

 

「清く、正しい交際を──あぁ、でももし祐樹さんに求められたら私は断れるのかしら…?」

 

困り顔が浮かばれている。だが、その内心は果たして表の感情と同意であるのかそれは彼女自身にしか分からないことだ。

悶々と想像────もとい妄想に耽りながら須美は着替えを済ませていく。

 

「────須美さま。祐樹様がお越しになりました」

「はい、今行きます」

 

自室のドアがノックされ須美はルンルン気分になった状態で部屋を後にした。

 

 

リビングに向かいその扉を開けていくと、母と祐樹が丁度会話をしていたところであった。

須美は彼の姿を捉えると花を咲かせたように笑みを浮かべていた。

 

「こんにちは! ゆっ──こほん、祐樹さん」

「こんにちは須美。今日も可愛いね」

「そ、そんなことないですよ…もぅ、こんなところで恥ずかしいわ」

 

目の前に母と使用人がいるというのに、祐樹はいつものことのように言ってみせていた。

隣にいる須美の母はニコニコとまるで見守るように彼女らの様子を眺めている。

それが余計に須美にとって恥ずかしくもなって逃げるように祐樹の手を引いてリビングを後にした。

 

「須美? どうしたの急に……って言うのは違うかな」

「祐樹さんはイジワルです。あんな言葉を母の前で言うなんて」

「照れる須美が可愛いんですよーって話になったから言ってみたんだよ。まぁ、それ抜きにしても本心でもあるけどさ」

「──っ。もー!」

 

自室のドアの前で祐樹に向き直って彼の胸板辺りをポカポカと叩く。

ごめんごめんと宥める祐樹は須美の頭に手を乗せて撫でてみせる。

 

「…子供扱いしないで下さい」

「好きだって聞いたけど。髪さらさらしてて気持ちいいね」

「…………嫌では、ないです。ありがとうございます」

 

むすっと煮え切らない表情を浮かべる須美。しかし、今もなおされ続けているところをみるに満更でもない様子。

 

「あの、部屋へどうぞ」

「うん。お邪魔します」

 

区切りの良いところで二人は部屋に入っていく。今日は須美が彼を自宅に招待し、一緒の時間を過ごそうという予定だ。

園子は家の用事、銀は弟たちの世話で忙しいらしい。

 

「こうして須美の部屋に来るのは久しぶりな気がするよ……なにこれお城?」

「それは丸亀城よ。うまく彫れた記念に飾っているの」

「へー……えっ??」

 

祐樹は一番に視界に入った彫刻の説明を須美がしてあげると、目を点にして首を傾げていた。

 

「な、中々個性的な趣味をお持ちで…?」

「はい? 趣味ではないけれど…何となく手持ち無沙汰になっていた頃にやってみただけよ。祐樹さん、立っていないでこちらに座ってください」

「はぁ〜…すごいなぁ須美は。前に絵も描いてたけど、芸術面の才能があるよねー」

「もう、褒めても何も出ないわ。あの……私も横に座ってもいいかしら?」

「もちろん。おいで」

「はい♪」

 

嬉しそうに笑って須美は彼の真横に腰掛ける。

両手を膝に置いてそわそわと身体を動かしてどうにも落ち着かない様子。

 

「なんかこうやって二人で居るのって毎回新鮮味を感じるよね」

「そうですね。いつも周りは銀やそのっちと一緒だから余計に感じてしまいます」

「だねぇー…」

 

ワイワイ騒いで、笑って日々を過ごす。当たり前のことなのだろうが、彼らにとってそれは眩しく、一段と価値のあるもの。

 

「私はみんなで過ごす時間がとても尊いものだと思っています。大事にしていかなきゃって思います」

「うん」

「でも……今はその…それと同じくらい祐樹さんと過ごす時間も大切なんです」

「……うん」

 

肩に須美が寄りかかり上目で彼を見る。熱っぽい視線を祐樹に向け、その小さく血色の良い唇をきゅっと結ぶ。

 

「祐樹さん」

「…須美、いいの?」

 

その熱に当てられて祐樹もその瞳に同じものが宿り、お互いの距離が少しづつ近づいていく。

 

「私が言った健全なお付き合いを──ってやつですか?」

「僕もその…一応男だから、こういう態度をされると……抑えているものが抑えられなくなっちゃうよ?」

「我慢、してるんですか? この前は私の頬にキスしたのに?」

 

視線は重なったまま、相手の吐息がかかるぐらいの距離まで縮まる。

祐樹は少しだけ困った表情を浮かべた。

 

「──それは。だって、須美が可愛いのがいけない」

「ふふっ。私のせいなんですか? なら……責任、とらないといけないですね」

 

触れるか触れないかの距離間に、須美はその瞳をゆっくりと閉じた。

薄目でその光景を見届けた祐樹も同じくして瞳を閉じる。

 

「────ん」

 

唇の先に温かい熱が触れる。初めての感覚。

 

『…………。』

 

時間がまるで止まっているかような錯覚に次にどう動けばいいのかお互いが分からないでいた。

呼吸も忘れ、苦しくなってきた頃にどちらともなく離れていく。

 

「────しちゃいましたね」

「正直、凄い嬉しい。まさか須美の方からなんて思ってなかったから」

「私だって本当は好きな人と一緒に色々と……なんですよ。ゆーくん(、、、、)?」

「…っ。須美、それ反則」

 

こつんと額を当てて祐樹のその顔は真っ赤に沸騰しているようだった。

須美はそんな彼の様子に瞳をキラキラと輝かせる。「やった♪」と内心ガッツポーズだ。

 

「ずるいよ須美、それみんなの前で言っちゃダメだからね」

「分かってます。二人のときだけ……私だって恥ずかしいから」

「僕も何か呼び方変えようか?」

「…ゆーくんがそうしたい、なら」

「うん。須美──すみ……すーちゃん?」

「……っ!?」

 

ぼふん、と須美の顔が赤くなった。祐樹はくすりと笑う。

 

「すーちゃん。もう一回、いいかな?」

「……今日だけ特別ですよ。ゆーくん」

「えー…ちょっとそれは悲しいなぁ」

「ダメです。節度をもって、健全なお付き合いを──です……今は」

 

最後の方は彼に聞こえないようにボソッと小声で言う。

自分で発した言葉に恥ずかしくなった須美は気を紛らわすように彼の唇に自分の唇を重ねた。

 

 

 

 

 




イメージ的に

東郷さん→オープン
わっしー→ムッツリ


…的な?


誤字報告、ありがとうございます。
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