勇者たちをイチャイチャさせたい!   作:紅氷(しょうが味)

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上里ひなたの章
story1『日々の過ごし方』


丸亀城敷地内、訓練場にて。

 

 

「──ハァッ!!」

「ぐっ!? まだまだ!」

 

訓練用の装備を用いて打ち合う男女の姿がそこにあった。

乃木若葉と高嶋祐樹。今日も今日とて二人はお互いの練度を高めるために励んでいた。

 

「どうした祐樹。拳筋がブレてるぞ!」

「…うわっ!?」

 

若葉の言葉と共に弾かれて、その胴を打ち抜かれた祐樹はその場に倒れ伏した。

若葉はふぅ、と一呼吸置いて歩み寄ってきた一人の少女からタオルを受け取る。

 

「若葉ちゃん。お疲れさまでした」

「ああ。すまない、ひなた」

 

微笑み、若葉はスポーツドリンクを飲んで未だに倒れている祐樹を見やる。

祐樹は肩で息をしていて疲労困憊といった感じだ。

 

「…やけに疲れているな。訓練までに何かしてるのか祐樹?」

「いや……別に。ごめん、ちょっとまだ動けそうにないから先に戻っててくれ若葉」

「わかった。ひなた、私はシャワー浴びにいくが?」

「え? 一緒に入りたいんですか若葉ちゃん。もうそれならそうと──」

「ち、違うっ! そうではなく……」

「ふふ。冗談ですよ、私は祐樹さんが落ち着くまではここにいますので、若葉ちゃんは汗を流してきてください」

「ひなたの冗談は冗談に聞こえないな…なら、先にいくぞ」

 

そう言って若葉は先に寄宿舎に戻っていった。

ひなたは手を振って見送ると、倒れている祐樹の元に近づいて腰を下ろした。

 

「祐樹さんもお疲れさまでした。あと少しでしたね」

「いや、若葉も言ってたけど拳がブレちゃってたから、今日の評価としては最悪だよ。はぁ…」

「そうでしょうか? 確実に若葉ちゃんと打ち合えるまで成長したことは喜ばしいことではありませんか」

「……他のみんなにも手伝ってもらってもこの体たらく。僕ってあんまり戦闘に向いてないのかなぁ」

「あら、それは違いますよ祐樹さん。若葉ちゃんも結構負けず嫌いなところがあるので、勝ち負けを競うのであればそういう意地のぶつかり合いだと私は思います。私は祐樹さんならば出来るって信じていますよ」

「…ひなた」

「──はい、祐樹さん♪」

 

起き上がった祐樹に対してひなたは両手を大きく広げた。

ニコニコと、満面の笑みで。

 

「…ぅ。その、それは恥ずい」

「今は私たち以外誰もいませんよ? なのでお気になさらずに」

「…汗もスゴくかいたから、汚いし」

「それこそ何も問題ありません。さぁさぁ──!」

「ちょ!? うぶ──っ!」

 

引き寄せられて抵抗するまでもなく祐樹の身体はひなたによって抱きしめられた。

柔らかい二つの感触を顔面で感じ取る祐樹は、訓練後の熱とはまた違った熱が途端に吹き上がってくる。

だからといって逃げるわけでもなく、されるがままでいると祐樹の頭に手を乗せてひなたは頭を撫で始めた。

 

「ふふ…祐樹さんは頑張ってます。努力は必ず実を結びますからこれからも励んでいきましょう」

「…でも、悔しい。若葉に負けるのが」

「そこは男の子ですから、男子の意地というものを見せつけてあげればいいんです。若葉ちゃんなら真摯に向き合ってくれますよ」

「…うん。かっこ悪くてごめん、ひなた」

「くす。何を言っているんですかー…祐樹さんは私が接してきた異性の中で一番カッコいい男の子ですよ。だからこうして──好きになったんですから♪」

「……ん」

 

ひなたの言葉に恥ずかしくなり、祐樹は顔を埋める。

その間にも彼女の撫でる手は止まらず、いつものように優しく彼を受け止めてくれる。

 

どうしようもないくらいかっこ悪い自分を、屈託のない笑みを浮かべて迎え入れてくれる彼女。それが────上里ひなたという少女だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上里ひなたはスキンシップを好む女の子だ。

流石に相手を選んで…というのは当たり前だが、自身が気を許した相手にはとことんその行為を求めてくる傾向にあった。

 

「あら若葉ちゃん♪ ほっぺにご飯粒がついていますよ〜。私が取ってあげます」

「や、それぐらい自分で出来る! こ、こらぁ!?」

「はい、取れました♪」

「────っ!!」

 

その筆頭ともいえるのが、祐樹の目の前で食事をする乃木若葉である。

幼馴染である彼女たちには切っても切れない強固な絆のようなものがある。二人のやり取りを見るだけで日常の力関係とも言うべきものが見て取れた。

味噌汁を啜りながら祐樹はそんな二人を視界に入れながら食べ進めていると、不意にひなたと視線が交わった。

 

慌てて祐樹は自分の顔に手をやる。

 

「──祐樹さん。そんなに顔に触れてどうかしましたか?」

「いや、別に……なんでもない」

 

まさか自分にも若葉のように米粒でもついていてそれにひなたが気が付いた────なんて考えてはいない絶対に。

思わず顔を背けるとひなたは含みのある笑みを浮かべて対面に座る祐樹の隣に腰を落ち着けた。

 

「あらぁー? 祐樹さん、こんなところに何かついてますよー?」

「えっ……ホントに────っ!!?」

「なんて、冗談ですよ♪」

 

ひなたの言葉に振り向いた瞬間────彼女の人差し指の先が祐樹の唇に触れていた。

イタズラな笑みを滲ませて、ひなたはその指先を自分の唇に当て合わせる。

 

祐樹の顔は沸騰したかのように真っ赤になった。

 

「ひ、ひなたぁー!」

「そんなに怒らないでください祐樹さん。カッコ可愛いい顔が台無しですよー?」

「ひ、うぅ……」

「鼻の下が伸びてるぞ祐樹……あむ」

「ど、どうして若葉はそんなに冷静なんだよー」

「慣れだな」

 

バッサリと斬り捨てた若葉の言葉に苦笑を浮かべる祐樹だった。

そんな彼を余所にひなたは祐樹の肩に身体を預け始めた。びくん、と祐樹の背筋は強制的に立たされる。

 

「祐樹さん……」

「ひなた…?」

「────ごはん、おかわりいりますか?」

「…………。ぁ、うん。もらうよ」

「はい♪」

 

なぜそんなに密着してきたんだろう……? と思わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

丸亀城内の教室。机を四つくっつけて、囲うようにそれぞれの椅子を並ばせて座る。

机の中心にはカードの束が乱雑に積み上げられていた。そのカードの種類はトランプ。

窓の外から視える天気は雨雲に覆われていて、しとしとと雨粒が降り注いでいた。

 

「いえーい! これでタマのあがりだー!」

「必然的に私も上がりだな」

 

ぱしん、と二枚のカードを叩きつけて勝利に浸る球子とその勝利に続く若葉。対面に座る祐樹は苦悶の表情を浮かべていた。

『ババ抜き』。今日は天候も相まって外の訓練が無くなったので、みんなは時間まで遊んでいるところだ。

 

先に上がった千景は行く末を見守っている。残りはひなたと友奈と杏……そして祐樹だ。

 

「くっふっふ……祐樹くん。私には必勝法があるんだよ?」

「ゆ、友奈??」

 

カードを差し出しながら祐樹は得意げに語る友奈を訝しげに視線を送る。

しばし目を伏せた友奈はカッと目を見開く。

 

「ババ────持ってるでしょ? 祐樹くん」

「……っ。言葉で揺さぶろうとしたって無駄だよ。僕は持っていない」

「ちっちっちー……これだぁ!」

「なぁ!!?」

 

不敵な笑みを浮かべたと思ったら迷わずにババとは逆方向にあるカードを奪い取っていく。

呆気にとられる祐樹に反して友奈は悦びと共にカードを表に開いた。

 

「じゃーん♪ どや!」

「な、なぜ…」

「さすが高嶋さんね。それに対して気がつかない祐樹君はまだまだ、ね」

「ぐはっ!?」

「ではこれで先輩が私のカードを引いて上がりです♪」

 

千景の口撃に打ちのめされ、杏にも上がられる。

 

「これで残りは私が引いて──もし当たれば祐樹さんがビリですね」

「う、ぐ……」

「なんか戦う前から結果が見えてるような?」

「そもそもひなたさんが最後まで残っているのが不思議なんですけどね…」

「ひなちゃんファイトー!」

「まぁ諦めて観念しタマえゆーき。負けた方がアイス奢り&買い出しだぞー!」

「わかってる…!」

 

こんな雨の日に外になんかでたくない。

気を取り直して祐樹はひなたに向き直る。ニコニコと微笑みを絶やさない彼女には隙がどこにも見当たらない。

 

「祐樹さん。このままではフェアではありませんから一つ、アドバイスしておきますね」

 

ひなたは人差し指を自身の目元に持っていき、話を続けた。

 

「実は祐樹さんはカードを引かれる時に無意識のうちにジョーカーに視線が移るクセがあるんです。先程の友奈さんはソレを利用した形ですね」

「マジか……友奈」

「えっへへー。でも私だけじゃないよ? みんなもそうだよねー」

 

友奈の言葉に一同が頷く。道理で手札からジョーカーが動かないと思っていたらそういうことだったようだ。

だが、それを敵にわざわざ教えてしまうのはどういう意図が…。

 

「ここで、従来の賭けとは別に──私としませんか祐樹さん」

「なにを……」

「いたってシンプルですよ。もしこのターンで祐樹さんが逃げ切れたら──祐樹さんの命令を一つなんでも聞いてあげます♪」

「なん、だと──」

 

祐樹に電流が走る。その時に彼女のある部分に目がいってしまったが首を振って雑念をかき消す。違う、雑念などない。

というか、今…わざと強調されたような────?

 

「あー祐樹くん絶対今エッチなこと考えたー! ひなちゃんに何をお願いしようとしたのー?」

「は、はぁ!? 友奈なにいって──」

「お、なんだなんだゆーきもひなたの霊峰にきょーみがあるのか!? なっはっはー。ゆーきのすけべー」

「ぐ、ぬぬぬ……」

「タマっち先輩……?」

「え、あ、杏?? なんでそんな怖い顔して──ひぃ! 吊るさないでー!!」

「祐樹。節度を持って行動するんだぞ」

「若葉まで!? 誤解だから!」

「最低ね…祐樹君──ふっ」

「がはっ!!?」

 

再び千景の口撃に心が抉れる。もはや戦意喪失気味にまで堕とされるが、まだ勝負は終わっていない。

プルプルと起き上がって、ひなたに相対する。

先ほど以上にニコニコとしていた。

 

「そしてもしここで私が引いてしまったら祐樹さんの負けです。その時は一日私の言うことをきいてくださいねー」

「や、やってやる…」

 

引かれなければいいんだ。引かれなければ。見えないように机の下でシャッフルしていく。彼女のあの自信は相当なものである以上は本当にここで回避しないと負けてしまうことになりそうだ。

 

「…………っ」

「あら。目を閉じましたか…むむむ」

 

目を閉じる。これでもう視線での位置は探られることはない。

後は何を言われようと黙秘を続ければいい。

カードを持つ手を伸ばし提示する。右か、左か──ひなたの指先が品定めを始める。

薄目を開けて顔色を伺ってみるけど、少しの揺らぎもなくいつもの調子の彼女が見えた。

 

これは────もらっ────。

 

「ちなみに♪」

「え…?」

 

言葉と共にカードが引き抜かれる最中、ひなたは和かに語り始める。

 

「こうして追い詰められた祐樹さんのとる行動は、利き手側に自分の危険カードを無意識に並べるクセがあるので要注意です、よ?」

 

カードは既に手中から離れていた。タイミングを合わせてひなたが語った解答に祐樹は目を開けて驚愕する。

 

────ぁ。

 

「と、いうことでこれで決着です祐樹さん♪」

 

二枚の絵柄の揃ったカードを持ってして、勝敗は決した────。

 

 

 

 

 

 

 

丸亀城を出て変わらずに降り注ぐ雨音を聞きながら道中を傘をさして歩いている。

未だがっくりと項垂れる祐樹とそれを横で申し訳なさそうに歩くひなたの姿があった。

 

「まさか最初から掌の中で踊らされていたとは…悔しい」

「ごめんなさい祐樹さん。若葉ちゃんと同じように分かりやすくてつい意地悪をしてしまいました」

「いや謝らなくていいよ。色々と引っかかる自分がいけないんだし……それに、ひなたこそ悪いね。一緒に来てもらっちゃって」

「いいんですよ。こうして二人でお出かけできる口実が出来たわけですし」

「…なるほど。まぁとは言ってもすぐそこのコンビニだけどね。ほら、もっとこっちに寄らないと濡れちゃうよひなた」

「それでもですよ♪ ありがとうございます。それじゃあ失礼して──えいっ」

 

ぎゅっと祐樹の傘の持つ手とは反対の腕にひなたは抱きつく。

二人で入るような大きさの傘ではないために少々手狭なものだけど、当人同士は特に気にしている様子はなかった。

 

「今日は一日雨だっけ?」

「そうですね。しばらくは続くようですよ。そうなると訓練も屋内になりますねー。パシャり」

 

言いながらひなたはスマホの内カメラを使って写真を撮り始めた。

彼も突飛な行動には慣れているようでちゃんとカメラ目線になっている。

 

「祐樹さんと相合傘記念の写真いただきました!」

「そんな撮るようなものなのかな?」

「もちろんです。若葉ちゃん同様、祐樹さんとのちょっとしたイベント毎でもこうして記録するのが楽しみなんですから」

「…まー。ひなたが喜んでくれるなら僕も嬉しい。あとで僕のスマホにもデータ送ってもらえる?」

「はい♪ なんでしたらしばらくは二人でお揃いの待ち受けにしてみませんか?」

「球子と友奈あたりにからかわれそうだ。主に僕が」

「ふふ。それも面白そうですね」

 

想像してみるといとも簡単にその光景が思い浮かぶ。

二人で顔を見合わせて小さく笑う。

 

「よし。次こそはひなたに勝ってやる! あと若葉にも」

「その意気ですよ。もし勝ったらいっぱいハグしてあげますね♪」

「う、嬉しいけどさ…恥ずいよやっぱり」

「恥ずかしがる祐樹さん──それがいいんです。むしろ勝っても負けてもハグしちゃいます!」

「えぇー」

「否定はできません! これは命令です祐樹さん。私にハグハグされまくっちゃって下さい!」

「ここでソレがくるかー……まぁ、嫌じゃないし、お手柔らかに頼みます」

 

最後の言葉は気恥ずかしくて祐樹はボソッと言った。

ひなたの指を自分の指に絡めながら彼は苦笑する。

 

 

 

 

 

 

 

日も経ち、雨もすっかり上がった晴れの日。

久々の屋外での訓練を勇者たち全員が満を持して挑んでいた。

 

「どう、だ若葉……ッ!」

「むっ!? やるな祐樹──!」

 

若葉の持つ木刀の合間を縫って祐樹の正拳が頰を掠める。

動きのキレは日を追う毎に研磨され、一撃一撃には彼の想いのようなものを感じる。

 

「おー! 祐樹くんが若ちゃんに一発入れたよっ!」

「まぁあれだけみんなにバシバシ扱かれれば、否応無しに強くなってなきゃおかしいけどなぁー」

「高嶋さんの指導が良かったのよ。最初のサンドバッグ状態だった頃に比べたら彼の成長具合も中々のものね」

「でも祐樹先輩の気迫は凄いビリビリきます。ひなたさん何か喝でもいれたんですか?」

 

杏の言葉に四人の視線がひなたに向けられる。

 

「ふふ。いつも通りですよ、祐樹さんも若葉ちゃんも。私は何もしていません」

 

頰に手を添えて微笑むひなた。

その様子を見た球子はからからと笑う。

 

「ま、若葉からしてみれば私に勝てないとひなたはやらん! 的な感じかもなぁー」

「くす。そうかもしれませんねー」

「まじか!? おっタマげたぞ!」

「あ、あはは。なら今見える光景が娘の父親を説得しているようにも見えなくはありませんね」

「祐樹くんは昔からいつも一生懸命だからね!」

「そうね……でも上里さんからすれば別の狙いもありそうだけど」

「はてさて? どうでしょうか千景さん」

 

写真を撮りながら千景に素知らぬ顔を崩さない彼女を見て、嗚呼この人は一枚上手だ──と思わざるおえないと千景は内心考えた。

 

そうこうしている内に彼らに動きがあった。

祐樹の拳が一瞬の隙を見せた若葉の木刀を弾き飛ばしたのだ。

 

(しま──視線はフェイクかっ!)

 

祐樹のクセ……それは次の動作を始める前にどこに拳を打ち込むのか分かりやすい視線の動きがあったのだが、ここにきてその若葉の読みを逆手にとられてしまった。

 

(だが……なにも武器は木刀だけではない!)

 

刀を納めていた鞘を使って範囲外からの一撃を与えようとする。

しかしここでも若葉は驚きをあらわにした。

 

(なにっ!? まさかコレすらも……読まれ────)

 

目を見開いて狼狽える彼女の眼前には既に拳があり、ぴたりと止まっていた。

まるで次はこうくるだろうと予見していたかのような動作だった。

審判を務めていた友奈が「そこまで!」と待ったをかける。

 

「この勝負は──祐樹くんの勝ち! おめでとー♪」

「よっしゃー!! 若葉に勝ったぁ!」

「ば、バカな……くぬぅ」

 

友奈と祐樹がハイタッチで喜びあう中で若葉をひざを崩して落ち込んでいた。

慢心していたわけでも、油断していたわけでもない。純粋にこの場では彼の方が上だった。

 

「ひなた! 勝ったよ僕!」

「おめでとうございます祐樹さん♪ 勝利のハグです」

「わっ!? こんなみんながいる前だと恥ずかし──」

「あはは。二人はラブラブだねタマっち先輩」

「もうタマは見慣れてしまったよ……うおーゆーき! 今度はタマと勝負しろー!」

「……リア充爆発」

 

もみくちゃにされながらその場は盛り上がったのだった。そして────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────その日の夜。ひなたの部屋には彼────ではなく、幼馴染の若葉が訪れていた。

若葉がひなたの元に来た理由は昼間の試合でのことだ。

 

「むー…! 悔しい……」

「あらあら♪」

 

来て早々にひなたに抱きつきうめき声を上げる。

そして彼女の膝の上でむくれる若葉。その頭を撫でながらひなたは愉しげに見守る。

 

「祐樹さんに負けてしまったのがそんなに悔しかったんですか?」

「当たり前だ。みんなで祐樹の特訓に付き合っていたようだし……ずるい! …でもあの成長具合は頼もしくもある……それに私が負けたらひなたが遠くにいってしまう気がして不安だったんだ。だから意地でも負けたくなかったのに」

「あぁー嫉妬してる若葉ちゃんかわいい♪ こほん──それこそありえませんよ若葉ちゃん。今まで通り、私と若葉ちゃんの関係は崩れたりしません。祐樹さんからもこれまで通りに仲良くしてくれと言われてますし、若葉ちゃんにも祐樹さんは言っているはずですよ」

「…でもぉ。うぅ」

 

太ももの上でイヤイヤ首を振る若葉がとても愛らしいです。まる。

 

「それに私の知っている若葉ちゃんはこれぐらいでへこたれる人ではないと思ってます。いいじゃありませんか。一緒に腕を磨き高めあえる人というのは貴重な存在ですよ」

「ぐす……そうか?」

「はい♪ なので明日からまた凛々しい若葉ちゃんになるためにも、今は私にいっぱい甘えちゃって下さい。何かして欲しいことはありますか?」

「…………耳かき」

「喜んで♪」

 

どこからか取り出した耳かき棒を手にしてひなたはいつものように、彼女に優しく耳かきをするのであった。

 

(ふふ…。若葉ちゃんが終わったら祐樹さんに連絡入れましょうか。むくれてる若葉ちゃんも最高でしたけど、反対に喜びではじけてる祐樹さんもきっと同じぐらい可愛いんでしょうね〜♪)

 

一度で二度美味しいとはこのことか、とひなたは一人口角を綻ばせる。二人からすれば真剣な勝負ではあるのだが、ひなたからしてみれば双方の普段とは違う表情などを発見できるいい機会なのでウェルカム状態なのである。

 

────さて、次はどうやって二人の新しい一面を引き出しましょうか。

 

ひなたはそんな感じでうきうきしながら日々を過ごしている。

昼間の千景の言葉はあながち間違いではないようだ。『彼女のほうが一枚上手』だと。

 

 

 

 

 

 





手のひらで転がして楽しんでいるひなちゃんを書きたかった。
後は私もひなちゃんに抱きしめられたい……(願望駄々洩れ
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