勇者たちをイチャイチャさせたい!   作:紅氷(しょうが味)

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なっちの章解禁ッ! ────ということで棗さんを書き上げました。

少々短めですが、どうぞ。


古波蔵棗の章
story1『海の中で』


あいつは元気にやっているのだろうか。

そんなことをいつも不意に考えてしまう。

 

「……あつい」

 

ぎらつく太陽を見上げ、目を細めながら汗をぬぐう。四国に居たときと比べてこちらの気候は過ごしやすくはあるが、如何せん暑いの一言に尽きた。

だから僕は涼を求めるために『海』に来ることが増えた。それはこの地で出会った彼女のおかげでもあるのだが、まぁそれを抜きにしてもこの沖縄の海は好きになっていた。

 

「ふぅ……結構日焼けしたなぁ」

 

海に入り、足で波を受けながら自分の腕を見る。綺麗に小麦色に日焼けしたその姿は四国にいる『幼馴染』が見たらすごく驚くことだろう。でも、今はその反応を確かめることも、見せることもできないのだが。

 

膝まで浸かり、不安になる思考を水に流す。まだまだ彼女がいるのは先だ。

ちゃぷちゃぷと水をかき分けて、泳ぎに移行する。ひんやりとした海水は火照った身体にはとても気持ちがいい。

 

海は好きだ。なぜだかわからないけれど、僕は海に入るととても心が安らぐ。彼女のように染まってしまったのだろうか。

だとしたら彼女はとても喜んでくれそうだ。くすりと笑いながら更に沖合に泳ぎ進んでいくと見つけることが出来た。

 

「…………。」

「棗ー?」

 

大きな波を立てないようにゆっくりと泳ぎ進めていくと一人の女の子がいた。仰向けでぷかぷかと浮かぶその姿はとても安らいでいて見ているこちらも安らぎを覚えてしまうほど。

声をかけていくとこちらに気が付いた彼女────古波蔵棗は微笑を浮かべながら手をひらひらと降ってくれた。

 

「……祐樹か。お前もここに来たのか」

「棗がいつでも来ていいからって言ってくれたから来たんだ。邪魔だった?」

「いや、祐樹なら大歓迎だ。お前も『海の加護』を受けているし、ここの神も歓迎しているぞ」

「またそれか。覚えはないんだけどなぁ」

 

『海の加護』。それが何を意味するのかは分からないけれど、僕はどうやら生まれついてその『加護』を授かっているらしい。四国にいたときにはそんなこと知りもしなかったし、教えてくれる人なんていなかったからにわかには信じられないところもあるけれど。

まあそのお陰でこの沖縄でもたくさんの人が余所者の僕を快く受け入れてくれたし、なにより棗と出会えたことが僕にとって嬉しい。

 

今もなお浮いている棗の横に失礼して僕も仰向けに身体を寝かす。雲一つない快晴が視界一杯にひろがっていた。

 

「……棗。海神様はなにか言ってた?」

「今は波も落ち着いていてすぐに敵がくることはなさそうだ。ペロも大人しく待っていてくれてるしな」

「そっか……」

 

彼女の言う通り、僕は『声』を聴くことはできないがなんとなく感じ取ることができる。目を閉じてみるとまるで『海』と一体化してしまいそうなほど、穏やかな雰囲気がここにはある。

そうしていると、伸びていた手に人肌の感触を感じ取った。

 

薄目を開けて横をちらりと見てみると、そこには横で変わらず空を見上げている棗の手が僕の手を握っていた。

心臓が少しだけ鼓動を早める。

 

「棗…?」

「不思議だ。お前とこうしていると一層穏やかな気持ちになる。お前はやっぱり凄いな」

「…そんなことないよ。僕はそんな大層な人間じゃない。あの白い化け物に臆することない棗の方がよっぽど凄いさ」

「そう自分を卑下するな。お前に一目惚れ(、、、、、、、)した私が言うんだから凄いのは間違いない」

「……恥ずいな」

 

きゅっと棗の指を絡めながら海水に濡れた腕を頬に当てて熱を誤魔化す。

彼女の言う通り、棗と初めて出会った時を思い返すと初めて発した言葉がとても印象的だった。

 

『お前に惚れた。私と一緒に居てほしい』

 

あっけらかんと、初対面の自分にそう言ってみせたのだ。あの時は僕も目を点にしてしまったし、当の本人も言葉にしてからハッとしていたのを覚えている。

でも嫌じゃなかった。そしていつの間にか僕も彼女と一緒に居たいと……そう思っていた。

 

「──祐樹。故郷に帰りたいか?」

「どうしたの突然?」

「いや、祐樹の手からそんな気を感じ取った」

「凄いな棗。うーん……どうだろ」

「帰りたくないのか?」

 

彼女の言葉に僕は首を横に振った。

 

「なんというか……あんまり故郷って言われてもピンとこないんだよ。僕にとっての居場所って『幼馴染』のいる所って言うのかな。家もあいつと一緒に住んでたし、なにをするにしてもいつも隣にはあいつがいたんだ。僕は本当の両親を知らないし、生まれた土地も知らない。そんな僕が帰りたいと思う場所ってあいつの隣しか思い浮かばない」

 

空いた手を空に掲げながら話す。もちろんその時に一緒に居た親には感謝している。でもどこか距離感というか、そんなものを感じていた。

僕がこうして化け物と対峙できているのも、やはり根っこの部分はあの子のおかげだ。

 

「祐樹はその子が大好きなんだな」

「……好きなのは棗だぞ?」

「ありがとう、嬉しい。だけどその子には今は負けてしまっている。一度、どんな人か会ってみたいものだ」

「きっと仲良くなれるよ。あいつは誰にでも気さくに話しかけて、いつのまにか人を笑顔にしてしまう子なんだ」

「楽しみだ。なら早く化け物たちを片付けて会いにいかないとな」

「うん」

 

ぱしゃ、と棗が体勢を変えて起き上がった。つられて僕も同じように仰向けを止めると彼女の優し気な瞳が僕を捉える。

 

「祐樹。少し潜らないか?」

「いいけど。棗ほど息は長続きしないからね?」

「問題ない。じゃあ行こうか────はぁ」

「おっと……行動が早いなぁ────すぅぅ」

 

息を吸って既に潜っていった棗に続くように僕も海の中に身を潜らせた。

外界の音は遮断され、水の音に耳を傾け青く美しい海の世界に身を委ねる。先に潜った棗が手を指し伸ばして僕はそれを握った。

 

二人で手を繋いで奥に泳いでいく。外の……町並みは酷い有様だが、この海は変わらずに美しさを保っていた。

これも海神様がいるおかげだろうか。ともあれこの場所はまるで包まれているような錯覚に見舞われる。

 

棗はもしかしたら僕に気を使ってここに連れてきてくれたのかもしれない。

 

『…………。』

『…………?』

 

棗は胸に手を当ててから僕の手をきゅっと握りしめてくれた。温かい。

僕も彼女にあわせて胸に手を当てる。

 

────お前がなにに迷っても、なにに苦しんでも私はお前とともにいよう。

 

僕は驚いて棗を見た。相変わらず彼女はまっすぐと僕を見るばかりで微笑みを崩さないでいる。

この海の中で、棗の声を聴いた気がした。

 

『……ごぼ!?』

 

あまりにも自然な空間故に呼吸ができないことを忘れて声を出そうとしてしまった。

肺から空気が出ていってしまい息苦しくなってしまう。慌てて酸素を求めようと浮上を試みようとしたが間に合いそうになかった。

 

しまった、と祐樹は棗の方に視線を移す。

 

するといつのまにか目の前に棗が居て、僕の両頬に手を添えてその唇を僕に重ね合わせていた。

 

「……んっ」

「……ふっ、む」

 

口を割られ棗の舌が僕の舌を舐める。そして送られてくる空気を僕は貪るように求めた。

思考が冷静になっていく。息を止めて棗の唇から離れると途端に恥ずかしくなってきた。

 

「……!」

 

棗が指を上に指して浮上するように呼び掛けてくる。頷いて僕たちは泳いで上がっていった。

水面から顔を出して大きく口を開けて呼吸をする。

 

「はっ……はぁぁー……ごめん棗。迷惑かけた」

「気にするな。いや……少し気にしてほしい部分もあったが」

「あ、その……初めてだった?」

「……ああ」

 

珍しく表情の変わらない棗の頬が僅かに朱に染まっていた。

 

「海の中で棗の声を聞いた気がした。ありがとう。キスもその──嬉しかった」

「私は口下手だが、海の中ならばちゃんとした言葉を送れる気がしたんだ。こちらこそ受け取ってくれてありがとう、祐樹」

「……棗って可愛いな」

「そう言ってくれるのはお前が初めてだ。照れるな」

「あとカッコいい」

「それはよく言われる」

 

クスッとお互いが小さく笑い合う。

そうしていると遠くから犬の鳴き声が聞こえてきた。

 

「ペロ……もしかして敵襲か?」

「いや、あれはただお腹が減っているんだろう。そろそろ上がるか」

「そ、そうなんだ……ん? あの子って棗の同級生じゃない?」

 

ペロの横で手を振る一人の女の子は棗と仲良くしている一人で、帰りの遅い僕たちを探しに来てくれたのだろうか。

泳いで岸に向かう。

 

「もー棗様と祐樹様、またここにいたんですね! 探しましたよー」

「すまない。祐樹と一緒に海の声を聞いていたんだ」

「…とかいいつつもまた自然とイチャイチャしてたんじゃないんですかぁ~?」

「痛い痛い! 脇腹を小突かないでよ」

「あ、失礼しました。ペロもお腹を空かせてますし、早く帰りましょう!」

「ああ、いくぞペロ」

『ワンッ!』

 

棗が頷いて歩き出す。僕はそんな光景を後ろから眺めつつこの地を歩み進めていく。

上を見上げると世界は刻一刻と変化しているというのに空は変わらずに澄んだ青を浮かべていた。

 

今は遠い地で彼女たちは元気に過ごしているのだろうか。

僕は不意にそんなことを考えてしまう。

 

「────祐樹」

「棗…?」

「お前の隣には私がいる。安心してくれ」

「……はは。それって男の僕が言うセリフじゃない?」

「そうだろうか?」

「でもありがとう、棗」

「ああ」

 

笑いながら僕は棗の隣を歩く。会いに行くにせよなんにせよ、まずは生き延びなければいけない。

そして棗たちと一緒にまた会いに行こう。

 

今日も沖縄の空は快晴だった────。

 

 

 

 

 

 

 

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