勇者たちをイチャイチャさせたい!   作:紅氷(しょうが味)

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久々の投稿なり。


高嶋友奈の章
story1『手を取り合って』★


◾️

 

 

 

────キミはどうしてここにいるの?

 

 

その言葉が彼女との最初のやり取りだった。膝を丸めて、まだこの時は自己表現に乏しく、反応が薄かったのを記憶している。何も期待できなくて、どうして自分がこんなところに存在しているのだろうかと悲観していたこともあった気がする。そんな時に彼女と出会った。

 

 

────…そうなんだ? むずかしいことはわかんないけど、帰るところがないならうちにおいでよっ! ね?

 

 

差し伸べられた手。最初は意味が理解できなかった。でもこの手を取ったからこそ今の自分があると言える。無意識のうちに変わりたかった──いや、変化が欲しかったのかもしれない。とにかく差し伸べられたその手を自分のと合わせた。

 

 

────私は高嶋友奈! キミの名前は? ……えー、わかんないの?

 

────わかんない。えっと…◾️◾️◾️。

 

この時自分は◾️◾️◾️と答えた……幼い時のことは記憶が曖昧だったが、当時の友奈も理解できなかったみたいで首を傾げている。腕を組んで唸って考えることしばらく、何かを閃いた彼女はニコニコと花を咲かせるように微笑んで口を開いた。

 

────だったらわたしが名前を付けてあげるね! ユウキくん! キミの名前は『ユウキ』がいいと思う。わたしね、『ユウキ』ってコトバが好きなの!

 

────『ユウキ』?

 

◾️◾️◾️は彼女からそう呼ばれてる。そして向こうの両親に引き取られた自分は今も彼女と共に生活をしているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

丸亀城の一角にて頭を悩ます二人の少女の姿がそこにはあった。方や苦笑を浮かべ、方や呆れながら少し上を向いて眺めるその先には宙吊り状態の二人がそこにいる。その表情は納得がいかないとばかりのものでプラプラとその身を揺らして存在感を示していた。

 

「はぁぁぁ〜……また(、、)なのタマっち先輩?」

 

大きな溜息を吐き出し口火を切ったのは伊予島杏。どうして目の前の状態になっているのかは自明の理なので問うのも馬鹿馬鹿しいが、一応……万が一のことを考えて訊ねてみた。

 

「……これはだなぁ杏。山よりも高く、谷よりも深い事情があってだなー──」

「あ、ならまだまだそのままで良さそうだねタマっち先輩。山よりも高ーいその場所で谷よりも深く反省してたらいいと思うよ」

「ぬぁぁ!? まってまって杏ぅ! 冷たいぞ!! 私は悪くなぁい!」

 

やれやれと肩を竦める杏に対し懇願しながら身体をプラプラさせる球子。そして杏の横でもう一人、高嶋友奈は土居球子の隣で同じ状況になっている男の子に訊ねる。

 

「祐樹くんはどうしてタマちゃんと一緒に吊るされてるの?」

「……それはだなぁ友奈。こいつが『俺』と一緒にいたひなたにちょっかいを出してだな──」

「あぁ! ひきょーだぞーゆーき!! あれはタマの試みに水を差したゆーきのせいじゃないか」

「あんな唐突に現れて『今日こそはその霊峰に登頂してやるぞー!』とかワケわかんねぇこと言いながら突撃してきたのがいけないんだろーが! こちとら巻き込まれた被害者なんだぞコラ!」

「はーん?! そうかそうかそう言うのかゆーき! お前だってひなたのナイスバディを堪能してたじゃないかぁ!!」

「バ……っ!? な、なにを言ってるんだタマ○っちが! お、俺は別に……」

「だぁーれが○マごっちだ! 喧嘩なら買うぞゆーき!」

「上等だ、表に出やがれ!」

「先輩……? それは本当なんですか」

「え、いや、だから伊予島これは……あだだだだっ?! 足を引っ張らないで! 千切れる締まる殺されるー!!?」

「いい声で鳴きますね先輩ー。タマっち先輩がやるならまだしも、男の人がやるのはセクハラなんですよー?」

「ひゃははは! いい気味だぞゆーき! あだー?!?」

「タマっち先輩も反省しなさい! 大方先輩にアタックして、ひなた先輩に祐樹先輩がダイブした形なんでしょうけど」

『分かってるなら足を引っ張らないでくれー!?』

 

ぎゃあぎゃあと叫びながら吊された二人の足をくす玉の紐を引っ張るように弄ぶ杏を見て友奈はあたふたとするばかりだった。

 

 

そうしてしばらく堪能した(された)のちに球子は杏の手によって降ろされていた。縄は依然縛られたままだったが、いいように弄ばれた球子は大人しく従うのみである。

 

「じゃあ友奈先輩、祐樹先輩のことはお任せしますね。私はタマっちとひなたさんのところに謝りに行ってきますので」

「う、うん。ヒナちゃんによろしくー…」

「うぇえー……もう許してくれ杏ぅー」

 

杏の威圧に半ベソかきながらずるずると連行されていく球子を見てどちらが先輩なんだか……と疑問に思ったところで教室には友奈と祐樹が残ることになった。

 

「友奈」

「ねぇ祐樹くん。ヒナちゃんとのことについて訊いてもいいかな?」

「……友奈、だから誤解なんだってば。キミなら俺のことを信じてくれるよな?」

「でもヒナちゃんの胸の感触はー……?」

「──最高でした! いだだだ!!?!」

「もー! 開き直るんじゃないの! 女の子には紳士に優しくしなさいっていつも言ってるでしょー?」

「その言葉をそっくりそのまま友奈に返し──でででっ?!」

「アンちゃんみたいにもっと厳しめにしたほうがいいのかな? えい、えい」

「すみませんすみません友奈様!」

 

未だ吊られ続けている祐樹のロープを引く友奈は困ったもんだと思いつつもそのロープを解いて降ろしてあげる。漸く解放された祐樹は締め痕が残る手を振りつつ立ち上がった。

 

「いつつ……ありがとう友奈。最後のはともかく助かったわ……」

「災難だったね」

「え……ほ、本当だよまったく……球子のやつ覚えておけよ」

「タマちゃんは祐樹くんと遊びたくて悪戯したんじゃない?」

「マジかよ…ひねくれすぎだろ、素直に言ってくれれば遊んでやるのにさー……っと?」

「──あ、ぐんちゃん!」

 

ぱぁ、と一層明るくなった表情を開いた扉の元へと向けられる。現れたのはサラッとした黒髪を靡かせて手には携帯ゲーム機を携えた郡千景であった。二人の存在に気がついた千景は特に表情を変えずに扉を閉めてこちらに近づいてきた。そして祐樹を一瞥すると、

 

「──あら、漸くお仕置きは終わったのかしら?」

「いや知ってたなら助けてくれよ」

「あ、高嶋さん。これ昨日言ってたオススメのゲームなんだけど」

「わぁ! ありがとうぐんちゃん♪ 楽しみにしてたんだよね〜」

「…うん。喜んでもらえて何よりだわ」

「おーい……無視しないでくれ」

「……上里さんが意味もなく祐樹君を吊すわけがないし──まぁ考えるまでもなく土居さんにまた嵌められたんでしょうけどね。あなたは悪くないわ」

「ち、千景……!」

「すごーいぐんちゃん。よく分かったね!」

「……このぐらい幼馴染み(、、、、)なら当然、よ」

 

最後の方はボソッと口にしていたので二人の耳には届いていないが、こちらも長い付き合い……彼女の『優しさ』に触れて感極まっている様子だった。

 

「詳しく話すまでもなく、状況を察してくれて……ぐす、持つべきものは『親友』だよなぁー! 千景ぇぇ!」

「は? ちょ、ま──! なに抱きついて……!?」

「あ、ずるーい! 私もぐんちゃんに抱きつくのー!」

「ひゃ!? た、たた高嶋さんまで?!! ちょ、ちょっと!」

 

不意打ちでやられた。

昔からこうだと千景は祐樹と友奈のスキンシップの程度に焦りつつも、しっかり二人を受け止めていた。なんだかんだ邪険にしない辺り彼女は二人に対して気を許している証なのかもしれない。

 

「ひなたには事故とはいえ悪かったと思うけど、俺の弁明を聞くまでもなく断罪する伊予島は酷いと思うわけよ! 最近あの子先輩後輩だーとか関係なく痛めつけてくるし、いつかトラウマになりそうだわ」

「普段の行いのせいじゃないの? トラブル体質というか……そこらへん結構ゲームの主人公みたいよね祐樹君って」

「好きでこうなってるわけじゃないぞ……てか、主人公的なやつを求めるなら『カッコいい』感じがいいんだけど?」

「あ、昨日見た仮面シリーズのことでしょ。カッコよかったよね〜」

「まぁ…そういう憧れでもないんだけどさ。うん、いやでもあれはあれでカッコ良かったけども」

「でしょ?」

「高嶋さん、祐樹君は私たちと違って戦えない(、、、、)んだからあまり現実を突きつけるのは可哀想よ……そういう番組を見て夢をみるのは自由だけど」

「さりげにディスるよね千景さん……くそー、なんで俺には『勇者』の力がないんだよぉー友奈ぁー」

「…女の子じゃないからかな?」

「女装すればワンチャンあるか……?」

「気色悪いからやめて」

「さっきから辛辣すぎない千景さん?」

 

がっくりとうな垂れる祐樹。それは当たり前だと友奈と千景は口にしなくとも意見が一致する。そんな彼の肩を友奈がぽん、と叩く。

 

「でも祐樹くんは祐樹くんにしか出来ないことがあるし、若葉ちゃんたちだって頼りにしてるよ?」

「RPGの戦闘だって回復役(ヒーラー)は重要な役目だから気落ちする必要はないと思うわ」

「──友奈、千景ぇ……! そうだよな、俺にしか出来ないことがあるもんな! はっ、まてよ……!? 模擬戦で若葉と球子にボコボコにされても治癒すればいつまでも戦えるかもしれん」

「ボコボコにされる前提なんだ……」

 

落ち込んだり元気になったり変調が激しいなと千景は彼を横目に友奈に耳打ちする。

 

「(祐樹君なんであんなにメンタルやられてるのかしら?)」

「(あはは……ちょっとアンちゃんたちに弄られすぎちゃったのかな? ああ見えて祐樹くん結構引きずるタイプだから。ヒナちゃんにも罪悪感が勝ってるだろうし、ちょっと『癒し』が必要かも)」

「(回復役(ヒーラー)が『癒されたい』って本末転倒ね)」

 

ひそひそと話している最中にも彼のテンションの上げ下げに己が振り回されている節が見受けられる。まぁ反省半分、お巫山戯半分と言ったところかと千景は当たりをつけた。

 

「ということでこれから祐樹くんの部屋に行こうと思ってるんだけどぐんちゃんも一緒に来ない?」

「え? で、でも……私は高嶋さんにゲームを届けに来ただけだから……それに『二人の時間』、でしょ? 私が居たら…邪魔しちゃうし」

「そんなことないから。ぐんちゃんならむしろ私たち歓迎する! 欲を言えばずっと居て欲しいぐらいだよ。ね、祐樹くん?」

「ん? おう、今更遠慮なんてするなよ千景。気を使ってくれるのは嬉しいけど俺と友奈もお前と……三人でいる時間だって大切なんだからさ!」

「…………、」

 

ニカっと笑う祐樹と友奈。嘘偽りない笑みは千景にとって何よりも眩しくて、暖かいものだ。引きこもりの自分を外に引っ張り出してくれた二人。それはもう小さい時からの話だが、あの出会いは千景にとって『奇跡』に近いもので、その『奇跡』は今もこうして続いている。自身の家庭問題にも力を貸してくれて、居候という形ではあるが一時期は厄介になっていたこともある高嶋家の両親にも千景は感謝していた。

 

────そんなに嫌だったら、オレたちの所に来いよ! 友奈も喜ぶから!

 

幼き頃の思いを馳せる。聞けば彼もまた彼女に救われた存在らしく、千景と祐樹の境遇はある意味で似てる部分がある。『高嶋友奈』という少女は二人にとってかけがえのない人物で、

 

「──行こっかぐんちゃん、祐樹くん」

「おーう」

「……うん」

 

ずっと隣に居たいと思える『居場所』なのだから。

 

 

 

 

 

 

『癒し』を提供する友奈の言葉によって三人は祐樹の部屋に向かう。

扉を開けて中に入った祐樹は備え付けの冷蔵庫に向かって中身を漁る。

 

「二人はなに飲む?」

「なんかシュワシュワ系がいいー……あっ、ラムネがある! 飲んでいい?」

「おう。千景は?」

「私も同じのでいい」

「はいよ。いっぱいあるから遠慮せず飲んでくれ」

「……祐樹君。なんでこんなに沢山あるの?」

「この前さー城の外に買い出しに行った時に安売りしてたんだよ。だからつい……正直買ったはいいけどどう消費しようか迷ってたところだった」

「あ、わかる。半額ーとかアウトレット商品とかつい目移りするよね!」

「……買う気がなくてもワゴンセールの中身を漁るみたいな?」

「そそ。俺はそれに手を出してしまうダメなパターンだな、うん」

「…ふふ、なにそれ」

 

それぞれがラムネを手にしてテーブルの前につく。いい感じに冷えているラムネの蓋を祐樹と千景はさっそく開けていった。

 

「……ん? んー!」

「高嶋さん?」

「開かないのか?」

「おっかしーなぁ。祐樹くん開けて〜!」

「ん……お、マジだ。固いな」

「最近のって簡単に開けられるようになってるのに珍しいわね」

「私開けるの苦手だよー。瓶のやつなんて特に」

「……あれは私も得意じゃない、かな? 勢いで手を滑らせて割っちゃいそうで」

「分かる分かる! だからその時は祐樹くんに任せてたかなぁ」

 

二人が会話をしているとプシュ、と蓋を開ける音が聞こえてきた。

無事に開けられたらしい彼の顔はどこか誇らしげだ。

 

「ま、こんなもんだな!」

「さっすが祐樹くん」

「開けるだけでそんなにドヤ顔な人初めてみたわ」

「カッコつけられる時はカッコつけないとな」

「祐樹くんはいつでもカッコいいよー! よっ、世界一〜!」

「よせやい照れるぜ」

「…………。」

 

二人のやり取りに白い目を向けながらラムネを煽る千景。比率的には祐樹に対してが殆どであるが。

 

「ちなみにお菓子も沢山あるぞ。こっちも衝動買いの成果だから消費に貢献してくれるとありがたい」

「至れり尽くせりね。今度ゲームやり込む時にこの部屋を利用しようかしら?」

「俺の部屋は二十四時間営業だから気にせず来いこい」

「……男子って──というより防犯意識が少し低くない祐樹君?」

「防犯としての機能なら十分でしょこの城」

 

言われて確かにと思ってしまう辺り苦笑を浮かばざる終えない。まぁそれで今日まで平気だったなら気にするだけ無駄だと考え、千景は手近にあった小袋のチップスを開封する。友奈は既に食べ進めていた。

 

「それで俺の部屋に来たのはいいが何する? ゲーム……ってのもラインナップは変わらないけど」

「──あ、そうだった。祐樹くんに癒しを提供してあげようって思ってたの忘れてた」

「高嶋さん……」

 

どうやらお菓子を食べた時に目的を忘れてしまっていたらしい。

たまに抜けてる部分があるところが愛嬌あるなーと千景は微笑ましく見つめていると、対面の友奈と視線が重なってニコニコと華やかな笑みと共に見つめ返された。千景は気恥ずかしくなり顔を赤くしてもじもじとしだすが、うまく視線を外すことが出来なくて二人して見つめ合う形になってしまった。そんな二人を祐樹は頬杖ついてしばらく眺めていた。

 

「おーい……俺を置いてきぼりにしないでくれよ。二人でイチャイチャしおって」

「そ、そんなことない……から」

「えへへ。ぐんちゃん可愛いから楽しくなっちゃってー♪」

「ぅ……恥ずかしいわ……高嶋さん」

「ほらほら、見てよ祐樹くん! そう思うでしょ?」

「──不覚にもときめいてしまった」

「だよね!」

「ふ、二人して弄らないで!」

 

羞恥のせいかそこまで強く出れない千景をみて高嶋ズは身を悶えさせた。その後、満足した友奈は祐樹のベットに移動し腰掛けて手招きする。

 

「祐樹くん、身体こっちにズラしてきて」

「ん? なんだ藪から棒に……こうか?」

「そうそう。えい!」

「……っ!?」

 

友奈の前に移動した祐樹の両肩に彼女の手が置かれる。一瞬驚くも次の行動に彼の身体から力が抜けていくのが分かった。

 

「お客さん……ずいぶん凝ってますね〜」

「何するのかと思ったら…マッサージかぁぁ」

「祐樹くん、訓練終わってもちゃんとケアしてないでしょ。こんなにガチガチにしてー」

「くぁーー……きもちぃーーーいぃ……ぁあ〝ああ〝!?」

「どっちなのよ……」

「ふん! ふん!!」

「ちょ!? ぢから強すぎぃぃ──ぎゃー!」

「───ぷっ」

 

千景は携帯ゲームをやりながら祐樹のコロコロ変化する表情をチラチラと伺い、笑いを堪えながらことの顛末を見守っていた。友奈は友奈で楽しくなってきたのか祐樹を更に鳴かせにかかっていく。一見適当にマッサージしているかに思えるが痛めない程度には加減はしているようで、単に彼が凝りすぎているのが原因なのだ。

 

「──ふいぃー。ひと仕事したよ」

「ぐぉぉ……もうちょっと加減してくれよ友奈ぁ。おかげで体が……軽いぞ?!」

「ふふん、高嶋家直伝のマッサージ術。味わっていただけましたかな? よっと」

「そんなのがあったのか! 知らなかったな……千景、お前は知ってたか?」

「知らないわよ」

「まぁ今日が初お披露目だったけどねっ!」

「でもなんで急にこんなことしてくれんの? 俺なにかしたっけか」

「んー? それはねぇ」

「お、おい……わぷ」

 

今度は祐樹の横に腰を下ろした友奈はそのまま彼の頭を優しく自分の膝に落とした。されるがままにその太ももに顔をつけた祐樹は視線を上に動かして「何事?」と疑問を浮かべている。

 

「…友奈?」

「よしよーし……いいこいいこ」

「いや、あの……え?」

 

疑問を他所に友奈は祐樹の頭を撫で始めた。優しく慈しむように髪を流していく。祐樹は頰に感じる彼女の太ももの感触を堪能しつつも撫でられるその手に特に抵抗することはない。

 

「祐樹くんそろそろ甘えたくなったかなーって。だから私が膝を提供してるんだよ?」

「……いや、ガキじゃないんだから。それに千景だって見てるし」

「えー? ぐんちゃんはゲームに夢中になってるから平気だよ。ほら」

「…………。」

 

横向きなので視線をそのまま千景の方に向けると、彼女はいつの間にかイヤホンをしながらプレイしていた。真剣な表情で画面を注視しているその姿を見て、確かに見られてはいないことは分かるのだがそれでも恥ずかしいものは恥ずかしかった。だが友奈は手を止めることなくその行為をやり続けた。

 

「はぁ……友奈って頑固だよなぁ」

「む、それはお互い様でしょ? 祐樹くんだってこの前無理に前線に出てきて私のこと助けてくれたじゃん。アンちゃんの制止を振り切って」

「それはー……」

 

痛いところを突かれてなにも言えなくなる。

 

「──お前だってあんなにガッついて行かなくてもよかっただろ? 若葉や千景だっていたんだから無理する必要はない。お前に何かあったら……その…」

「何かあったら?」

「……千景が一番悲しむだろ。俺の手が届く場所にいるなら絶対に死なせない自信はあるけど、そうじゃないところで無理されて何かあったら……」

「……んっ」

 

祐樹は友奈のふくらはぎに見えた『痣』にそっと触れると、友奈はピクンと肩を小さく跳ねさせた。

 

「お前……こんな所に青痣できてんじゃん。ちゃんと他に負傷がないか教えろって言っただろ?」

「あ、あははー……これぐらいならいいかなって」

「万全にしとけよ。あとそれ以前に女の子なんだから『傷』は残したらダメだろ───ほら」

 

祐樹は青痣を手のひらで覆う。すると次の瞬間には傷は綺麗さっぱり無くなっていた(、、、、、、、、、、、、、、、)

白い肌にはさっきまであった『痣』は消えて、まるで最初から無かったかのように痛みも同様の結果を生んでいた。

 

「──ありがとう祐樹くん。相変わらず凄いね、その力」

「勇者の力がない分、こっちしか取り柄がないからなぁ……何もないよりかはマシだったけどよ」

「その力って神樹様から授かったやつだっけ?」

「違う……と思う。俺の中に元々あったものだよ。小学生の時からよく治してただろ?」

「あはは、そうだったね」

「まぁ治癒の力だけじゃあ、どうしようもないけどな」

 

自分の手のひらを見つめながらそう言う彼の表情は浮かない様子だ。

 

「男の子だねぇ……そんなに戦う力が欲しいの?」

「戦う力があったら未然に防げるだろ? 誰も痛い思いをしなくても済むし……」

「私は祐樹くんのその力の方が全然良いと思うな。優しい力なのに」

「だったら交換しようぜー」

「もう、無理言わないの!」

「はは、わかってるよー」

 

からから笑っている祐樹だが、すこしばかり声に覇気がなくなってきているようにみえた。その様子に気がついた友奈は微笑みを浮かべて、

 

「──眠くなってきた?」

「あー……かも。『力』使ったからかな。ふぁぁー、膝枕心地よい」

「寝てもいいよ? 今は祐樹くんが独占してもいい枕なんだから」

「いやー、でも……千景が………いる、し」

「気にしなくてよいよい……目を閉じて、ゆっくり休んでいいんだよ」

「いやー………」

 

間延びした声のまま、祐樹の目を覆うように友奈は手のひらを重ねるとすぐに規則正しい寝息が聞こえてきた。彼は『力』を使いすぎるとこうして睡眠欲が高くなるらしく、さっきまで我慢してたのが友奈にはすぐに察することができた。徹夜明けのテンションがおかしくなるように、こうして無理にでも眠らせないと後で大変なことになるのは目に見えていたから。

 

頭を撫でる。起こさないようにゆっくりと。そうすると対面にいた千景がイヤホンを外してゲームから視線を友奈の元に戻していた。

 

「……寝た?」

「うん。もうぐっすりだね……我慢しないで休めばいいのに」

「私たち全員の治療に力を使ってくれたのよね……悪いことしちゃった」

「今回は『酒呑童子』も使っちゃったし、精神汚染も含めて治してくれたから余計に疲労が溜まってたみたい……無理させちゃったなぁー」

 

日に日に強くなる『敵』に対し、こちら側も『切り札』を使わざるおえない状況も増えてきた。それでボロボロになる度に彼にお世話になっている状態にも、己の力不足に申し訳ない気持ちで一杯だった。それは幼馴染みの千景も同じで、二人の元に近づいた彼女も寝息を立てる祐樹の頰に手を添えて軽く撫でていく。

 

「いつもありがとう……祐樹君、今回もあなたはカッコよかったわ」

「ふふ、直接言えばいいのに。祐樹くん喜ぶよ?」

「ぅ……だって、恥ずかしいもの。面と向かって言うのはどうしても」

「私には聞かれちゃっても平気?」

「高嶋さんは……ううん、高嶋さんになら聞かれても大丈夫。もう沢山私の恥ずかしいところ知られちゃってるし、今更かなって」

「嬉しい。ありがとうぐんちゃん」

「お礼を言うとしたら私の方よ高嶋さん。ありがとう」

 

二人で顔を合わせて笑い合う。その膝下で眠る祐樹は「う〜ん…」と小さく唸ると頰に手を添えていた千景の手を取って握り締めた。千景は驚くが振り解こうとせずに彼の手を握り返す。

 

「まったく、普段はうるさいぐらいに活発なのに……こうして寝てる時は甘えるのよねこの人」

「ぐんちゃんのこと大好きだからね祐樹くん」

「た、高嶋さんほどじゃないわ……私なんて全然」

「そんなことないと思うけどなー。ヒナちゃんにも気にかけられて……ふふ、祐樹くんってばこんなに女の子に好かれてモテモテさんだ」

「高嶋さんは……いいの?」

 

千景の言葉に「ん〜?」と考える素振りを見せる。

 

「──最終的に決めるのは祐樹くんだからね。祐樹くんが選んだ人なら私は喜んで心から祝福するよ。でも強いて言えばぐんちゃんを選んで欲しいけどね!」

「ぇ、そ、そんな……高嶋さんとの方がお似合いよ。私には二人に幸せになって欲しいから……上里さんには悪いけど」

「ヒナちゃんしっかりしてるから祐樹くんの手綱を握れそうだねぇ…」

 

本人の預かり知らぬところで様々な未来を予想する。でもどれもどうなっていくのかは彼次第。その時に彼の隣に居るのが誰なのかは────誰にも分からない。

 

「……でもこうして三人でいつまでも一緒に笑い合っていけたら、とても幸せなことなのかもね、ぐんちゃん」

「……うん、私もそう思う。歳をとって大人になっても、おばあちゃんになっても……ずっと」

 

二人は想いを巡らせ、いつかの先を見据える。手を差し伸べてくれた『あの時』から見ているものはみんな変わらない。

 

 

────未来のその先へ。

 

 

「そのためにも頑張らないとだね!」

 

 

膝下に眠る愛しき人を撫でながら、高嶋友奈は微笑んだ。

 

 

 




高嶋祐樹
──本ルートでは年相応の反応を見せている幼馴染み三人の内の一人。「勇者」に選ばれているわけではないのでその力はなく、代わりにその力とは別のものを宿している。詳細は不明、他ルートでその片鱗は見せているが主に対象の「治癒」を目的としているようだ。

高嶋友奈
──本ルートのヒロイン兼幼馴染みの三人の内の一人。小学生時代に◾️◾️◾️と出会い、「ユウキ」の名付け親? となっている。こちらも詳細は不明。祐樹に対しては好意的。曰く『家族として、親友としても大好き!』とのこと。異性としては……本人は伏せている。(隠せているかはともかく)
もう一人の『親友』である郡千景のことが大好きで、こちらも小学生時代に出会いを果たし、衣食住を共にしたこともあることから親密度はマシマシになっている。

郡千景
──本ルートにて一番の環境の変化を果たした少女。幼馴染みの三人の内の一人。こちらも小学生時代に『奇跡的』に二人と出会い家庭問題その他諸々関わってくれたおかげで、千景にとって本来の家族よりも高嶋家のことを信用、信頼している。祐樹には好意的。友奈曰く『ぐんちゃんは私たちにいつも(ラヴ)パワー全開だ』と言われている。その際本人は毎回否定しているがそれは『羞恥』から来るものが大きく、さして間違ってはいないようだ。祐樹と友奈の幸せを一番に願っている。

上里ひなた
──今話の被害者。祐樹に(事故とはいえ)自身の胸にダイブされてとても恥ずかしい思いをした巫女。祐樹には好意的ではあるが、高頻度に恥ずかしい思いをしているためか、いつしか年相応の少女の反応を見せるようになっていた。球子には罰として、祐樹には照れ隠しとして吊し上げて本人は若葉の元に走って逃げたのが真実。可愛い。

土居球子
──悪戯好き。祐樹とはウマが合うためかたまにバカやったりしてたりしなかったり。最近はひなたに吊られ慣れたせいか、その状態で結構動けたりする。

伊予島杏
──タマっちの保護者兼後輩ポジション。最近は祐樹とセットでやらかすことが多いせいか、彼に対しては色々遠慮がなくなってきている節が見られる。


友奈とイチャつくとなるとぐんちゃんがセットのがいいかなと思った次第。


そして作者が構想していた設定、立ち位置での一幕。これで新しく物語を書いてみようかどうか悩んでいたりいなかったり笑

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