勇者たちをイチャイチャさせたい!   作:紅氷(しょうが味)

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なんてことのない日常を書きたかったので書いた所存。


story 2『二人の日常』

「──じゃあお姉ちゃん。行ってくるね」

「はいはーい、行ってらっしゃい樹。車には気をつけるのよ」

 

そんな短いやりとりをしながら犬吠埼風は妹である樹を玄関先で送り出す。

今日は二年生組と一緒にショッピングに行くことになった彼女は何とか寝坊せずに起きることができ、支度を済ませこうして時間通りに行動出来たのだ。我がことながらに妹の成長に嬉しさが込み上げてくる風である。

そんな妹の樹は「わかってるよぉー」と毎度のことに言われているセリフに簡潔に返すと、今度は風の横にいるある人物にジト目で見つめて口を開いた。

 

「祐樹さん。あまりハメを外しすぎないでくださいね」

「樹ちゃん最近手厳しくない?」

「そんなことないですよー? お姉ちゃんと仲が良いのはイイコトなんですけど、キスしてる現場を目撃したりしてしまう妹の気持ちも汲んでくださると嬉しいだけなので」

「ちょ、ちょっと樹!? まさか昨日の見て────っ!」

「なんのことかなぁ? じゃあ行ってきます〜!」

 

とぼけたフリをしつつ樹は和かに今度こそ自宅を後にした。残された祐樹と風は顔を赤くしてお互いに視線を逸らしつつ彼女を見送った。パタン、と扉が閉まると祐樹は乾いた笑みを浮かべて困った様子になっていた。

 

「…あはは。少しわきまえた方がいいのかな? 樹ちゃんの言葉が毎回突き刺さるよ……嫌われちゃったかな」

「それはないわよ。お互い一緒に過ごす時間が増えて樹も祐に慣れてきた証拠だから。でもそうね……少し控えた方がいいの、かしら?」

 

ちら、っと横目で風が祐樹を伺う。指先をもじもじと絡ませている様は年相応の、少女の顔をしている。

祐樹も祐樹で頰をかいて同じような反応なのだが、樹に嫌われていないことにホッと肩を撫で下ろしている側面も垣間見えていた。

 

「……言い訳じゃないけど、その……風との触れ合いは気持ちがいいからつい、な」

「……っ!? それを言うならあたしだって祐とちゅーするのは……気持ちいいと言いますか。はは……あたし何言ってんだろ」

 

祐樹の言葉に嬉しさがこみ上げてつい口が滑ってしまった風。けれどそれは紛れもない事実であるので、その気持ちを彼にも分かってもらいたい部分もあった。

祐樹は風の言葉に更に顔を赤くし、彼女のその手を優しく握った。

 

「風……そんなこと言われたらキスしたくなっちゃうじゃん。いい?」

「うぇ!? い、いい今?? い、樹に釘刺されたばかりじゃない」

「あくまで樹ちゃんの見えない所でなら──って本人も言っていたし……ね?」

「ま、待って心の準備────んんっ!?」

 

心の準備も何も、実の妹に呆れられるほどの回数を致しているのに……なんて祐樹は考えたが口にしたら拗ねそうなのでそっとしておく。

風を抱き寄せてそのまま吸い寄せられるように唇を塞いだ。彼女も身体を強張らせながらではあるけれど、拒否するようなことはしなかった。

 

「──ん、んむ」

 

当てるだけのキス。

うまく表現出来ないが風の唇はとにかく柔らかいの一言に尽きた。慣れない素振りも最初だけ、すぐに順応する形で風も祐樹の指を自分のものと絡めて恋人つなぎしながら行為に没頭し始めた。

樹が家を出てからわずか数分後の出来事である。これには彼女もため息の一つや二つついても誰も文句は言わないであろう。

しかしお互いを想う気持ちの大きさ故であることを樹も理解はしている。だからこそ厄介なのだが、それを口にするほど野暮ではない。そんなこんなで二人の時間を作る意味でも樹は家を開けることを増やしているわけだが、果たして二人はそのことを理解しているのかは別の問題である。

何分経ったか、どちらからでもなく唇は離れて見つめ合う。うっとりと上気した風の瞳に思わずドクン、と心臓を高鳴らせる祐樹。

 

「祐ぅー……あたしって流されやすい女なのかしら……」

「そんなことないと思うよ。好きで自然にこうなっちゃうんだから仕方ないさ。それだけ風が魅力的なんだから」

「うん……」

 

しおらしい態度に祐樹はぞくりと背筋にビリビリとくる感覚に襲われる。

普段の外の顔と比べて自分の前だけに見せてくれるその表情はとても魅力的だった。その感情をどう彼女に伝えたらいいのか毎度のことながらに迷ってしまうほどに。

でもその度に祐樹はほぼ決まった行動をとっている。

 

「……風は可愛いな」

「うっ……抱き着くなー」

「でもイヤじゃないでしょ?」

「まぁ……そうだけどさ。はぁー…我ながら単純だわ」

「僕としては分かりやすい方が嬉しいよ」

 

そんなやり取りをしながら二人玄関先で抱きしめ合う。祐樹は風を感じるために少し強く抱きしめ、風は祐樹の温もりを感じるために彼よりも強く抱きしめる。これも今となっては見慣れた光景になりつつあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

樹が出かけたから自分たちも────って考えてしまうかもだが今日はそうではなかった。やりたいことがないわけではないけれど、それは別に今日する必要もない。たまにはこうしてゆっくりと家で一緒の時間を過ごすのも悪くないからだ。

 

「風ー。他に掃除機かけるところある?」

「じゃああたしの所お願いー」

「了解」

 

スイッチを入れてガーっと吸引音を響かせながら掃除機をかけていく。お世話になっている家である以上はこういった雑事もやることにしている祐樹は風と一緒に部屋の掃除を行なっていた。

当初はやらなくてもいいと言われてきたが、効率を考えたらと風もいつの間にか頼むことになっている。

キッチン周りを掃除している風の元に掃除機を走らせていく。

 

「はいはーい。足下失礼するよ〜」

「あたしも一緒に吸わないでよ」

「面白そうだけど物落とすと危ないからやめとく。終わったら手伝おうか?」

「ううん。ここはあたし一人で十分だから……お風呂掃除頼めるかしら?」

「もちろん。じゃあ終わったらやるよ」

「ありがと」

 

風は結構綺麗好きだ。そこだけを考えると妹と正反対の結果を生んでいるがいつ来ても部屋はしっかり整理整頓されている。(一部を除く)

日常的に続けていくと言うのは実は結構凄いことなので祐樹は彼女を尊敬していた。皆はお母さん気質とよく口にするけれど、彼からしてみれば良いお嫁さんになるなぁなんて頭に過ってしまうほど。

 

(それを言ったら恥ずかしがっていたっけか。はは…)

 

風呂場に向かいながらつい昔を思い出す。口では女子力女子力と言う彼女だが、面と向かって言われたときの反応は初々しいというかまるで免疫のない態度を示してくれるのだ。そこが面白くて可愛らしい。

もしかしたら予め自分で言うことによって心の平穏を保っているのかもしれない。なにかと不意打ちに弱い彼女はまたそこも魅力の一つであるのだ。

 

(しかしまぁ……自分の家以上に掃除してる気がするな)

 

ゴシゴシと泡立てながらスポンジで浴槽を擦りつつ考える。

祐樹は一人暮らしをしているので、家事自体は苦手ではない。人並みには出来るが好んでするかと言われればそうではないだけ。

最近では風が彼の家に遊びに、あるいは泊まりに行く時はたまに好意で掃除をしてくれる時があるが、自分は中々彼女のようにはなれないなぁなんて思う。

 

でも彼女と出会う前以上にはこういうのも悪くないとも考えている自分もいた気がした。

 

「祐。ごめんねお風呂までやってもらっちゃって」

「お…そっち終わったんだ」

「うん、おかげさまでね。中々キッチン周りを隅々に…って時間取られちゃうから祐が他をやってくれたおかげで集中して出来たわ」

「ならよかった」

 

満足そうな笑みを浮かべているにそのあたりは時間が取れてなかったんだろう。祐樹としても自身の家で家事をやってもらっている恩返しが出来て良かったと思っている。

シャワーで泡を流して浴槽の掃除を終わらせた。

 

「ありがと祐。お疲れさま……ほら、ほっぺに泡がついてる」

「んん……悪い」

「いいのよこれくらい」

 

気がつかなかった泡の残りを風が拭いてくれる。若干くすぐったくて目を細めるがそれもほんの少しの時間。風はよし、と頷いてみせた。

 

「んー! あらかた終わったわね。なんだかんだお昼の時間になってるし、ご飯作ろうかしらね」

「うどんが食べたいな」

「はいはい。お肉も残ってるから祐の好きな肉うどんにするわね」

「うん。ありがとう」

 

そんな会話をしながら祐樹は風の頰にキスをした。ぴくん、と身体を震わせた彼女は僅かに頰を朱に染める。

 

「今日はやけに積極的な気がするわねー…」

「嫌ならやめておくけど」

「誰もイヤなんて言ってない…けど。不意打ちはびっくりするのよ……んっ!」

「うん」

 

目を閉じて唇を突き出す風に応える形で祐樹も重なる。先ほどと変わらず重ね合わせるだけのキス。何度も啄むように、唇の熱を、情の熱をお互いに感じていた。

 

「──ご飯、作るわね」

 

終わり離れたところでボソッと口にする風は口元を綻ばせながら祐樹を見つめていた。

 

 

 

 

掃除を終えた二人はリビングで食事をとっていた。

メニューは祐樹の要望通りうどんから始まり、風の計らいで小鉢を作ってくれている。そういった細かい部分でも彼女の優しさが滲み出ていて今度は祐樹が頰を綻ばせていた。

味はどれも最高に美味い。彼女は即興で作ったと口にしているがそれでもやはりこのクオリティーを繰り出せるのは流石と言えた。

 

「樹ちゃんは今頃楽しんでるかな?」

「たまの休みだもの。なんの気兼ねなく楽しんでくれてなきゃ困るわねー…特に最近までドタバタしてたわけだし」

「たしかにね」

 

経緯は割愛するが、風の言う通り彼女含む勇者部の面々には様々な障害とも言える出来事が起こっていたのだ。

今となっては振り返るべく『過去』となってこうして振り返ることが出来るが、当時は本当にどうなってしまうのかと不安に塗りたくられていた。祐樹はその中でも目の前の彼女を支えるという使命を全うし、こうして再び食卓を囲うことの出来る仲にまで発展したわけだがまだまだ不安定感は否めない。

 

「風もちゃんと休みの日は楽しめてるか? 樹ちゃんを気にするのは分かるけど、自分のことも疎かにしたらダメだからね」

「わ、わかってるわよ。ちゃんと休日は休めているし、祐と一緒に居るだけで楽しいし幸せだから安心して」

「ならいいんだけど……」

 

顔色を伺うが彼女の言葉の通りに受け取っても問題なさそうだ。うどんを啜りながら祐樹は窓の外を見やる。晴天が日差しと共に窓辺から漏れやはりこの天気の日に外に出ないのはもったいない気がした。

 

「やっぱり午後は外にでるか? 天気もいいし」

「んー……そうねぇ。夕飯の買い物にでもいく?」

「僕はデートのお誘いをしてたんだけど。まぁ、夕食の買い物は大事だな」

「ショッピングデート?」

「響きはいいね。間違ってはいない」

「でしょ」

 

人差し指を顎に当てて小首を傾げる姿はとても可愛く見えた。まぁ祐樹としても当てのなくブラブラするよりかは一つぐらい目的があった方が動きやすいかと思い、彼女の提案に首を縦に振った。

 

食事もほどほどに、祐樹と風は後片付けを二人で分担して身支度を整えていく。

 

「戸締りは?」

「バッチリッ!」

「じゃあ行こう」

 

施錠を済ませて二人は家を後にする。天気も良く気候も過ごしやすいほど好調だ。お互い顔を見合わせてから自然と手を伸ばして握りしめる。恋人つなぎ。そうして歩き始める。

 

「祐は何処か行きたいところあったりするの?」

「んー…正直思いつかなかった。公園とか寄る?」

「いいわよ。あまり早くスーパーに行っても安くなってないし。遠回りしていきましょ」

「うん」

 

などとやり取りをしながら祐樹は風に視線を移す。

 

「ん? こっち見てどうしたの?」

「いや、なんでもないよ」

「あ〜。もしかしてあたしに見惚れてたんでしょぉ! この女子力溢れるあたしに」

「見惚れてたのは本当だけど、改めてなんで風がモテなかったのか不思議でならないなぁって」

「ふふ、なにそれー」

 

彼女曰くチアの活動をしてた時に告白されたとかされないとかの話は過去に聞いたことがある祐樹だが、それ以降は何もないというのは他の人の見る目がないのかと声を大にして言いたい。

かといって今更どこの誰かに言い寄られたりするのは彼としても癪なのでやめて欲しいところだが、風の魅力をみんなに知ってもらいたいとも思ってしまう複雑な気持ちを胸の内に抱いている。

 

「祐はあたしにモテて欲しいの?」

「いや、それは勘弁願いたいな。風は僕のだから」

「……あ、ありがとう。あたしも祐の大切な人でありたい。祐もあたしの人以外の所に行って欲しくない」

「当たり前だよ。僕は風のものだし……同じように大切な人でありたいからね」

「うん……祐、好きだからね」

「あぁ。大好きだよ」

「嬉しい……あたしも、大好き……」

 

恋人繋ぎしている手を強く握る。なんだか照れ臭いやり取りをしている気がするが周りには二人以外誰もいないのでよしとしよう。そうして歩んでいった先に話題にだしていた公園に到着した二人は周囲を見渡す。

休日ではあるがそれに比べて人は少ないような気がした。子供連れの親子が砂場で遊んでいるぐらいで他に遊んでいる人は見受けられない。

 

「なんだか最近外で遊ぶ子供たちを見なくなってきたような気がするよ」

「そうかしら? 遊んでいる子は遊んでるの見るけどね。たまたま今日が少ないだけじゃない。ねぇ祐ーせっかくだからアレに乗らない?」

 

人も少ないから、と風が指さしたのは祐樹も小さいときに乗ったことのある『ブランコ』だった。

二つあってそのどちらも空いている。タタっと小走りに風はブランコの元に行き、片方に座ってみせた。そのままキイ、と金属音を奏でながら身体を前後に揺する。

 

「ふふっ……こうして改めて乗ってみると案外キモチいいわねー! 祐もどうーー? 隣空いてるよ」

「風、スカートなんだから気を付けてくれよ」

「す、座ってるから大丈夫なの! 祐のえっちー!」

「なんでさ!」

 

そんなことを言いつつ風は楽し気にブランコを漕いでいた。微笑ましく祐樹も彼女の隣にあるブランコに立って漕ぎ始めたら、あっという間に風よりも勢いをつけて追い抜いてみせた。

 

「あー。立ちこぎはズルでしょ祐!」

「へへん。悔しかったら風も──やってみるんだなぁ!」

「なにをー!」

 

負けじと風も座りながらだが祐樹に続くように体を振って勢いを上げていく。その様子を子供を連れている親たちは微笑ましく眺めているのだが、二人はそのことに気が付かないでいた。

 

とは言ってもどちらがより振れるか────ぐらいしかない勝負はあっという間に終わり今度はその近くにあったシーソーに跨っていた。

 

「な、なんかちょっと怖いわね……ゆっくりしてよ祐」

「怪我したら危ないし、もちろんゆっくりやるよー──そらっ!」

「わっ!? ひゃ?!」

 

祐樹は体重を掛けて反対側に座る風が持ち上がる。おっかなびっくりといった様子の彼女はしかしその口角は微笑みを崩さないでいた。

 

「い、今一瞬お尻が浮き上がった!! 祐強すぎっ!」

「ごめん。加減が分からなかった……うぉ!?」

「なんてね♪ お返しよっ!!」

 

風が素敵な笑みを浮かべたと思ったら祐樹が次に持ち上がって跳ね上がる。一瞬の出来事によって祐樹の顔も面白いものとなっていたらしくそれが風のツボにハマったようでくつくつと笑っていた。

 

「あはは! 祐ってば変なカオしてたわねー」

「ぐぬ……ならこれならどうだっ!」

「きゃ!? もーそんな激しくすると落ちちゃうってばぁー……えいっ!」

「とか言いつつキミの方が威力あるぞ?!」

 

ギーコーギーコーとシーソーを軋ませながら二人は脇目も振らず楽しんでいた。傍からみれば何したんだあいつらと言われかねないけれどたまの事なので許して欲しいと祐樹は内心訴えかけておく。

 

その遊びもいつしか終わりを迎え二人はベンチで腰掛けてジュースを片手に休憩していた。

 

「なんか以外と楽しめたわね。夏凜や友奈が居たらもっと白熱してたかも?」

「いやいや勘弁してくれ。二人……というよりキミたちの部活の面子はアグレッシブなやつが多いから振り回される未来しか見えない」

「いい子たちじゃない。祐もなんだかんだいって付き合ってくれるしね」

「……そりゃあまぁ、そうだけども」

 

バツの悪い顔をしているけど、先も風が言ったようになんだかんだ最後まで付き合ってくれるのだこの男は。そういう優しさが人を惹きつけるのかもしれないと風は感じていた。現に自分自身もその優しさに甘えさせてもらっているから。

軽い運動で火照った体に冷たいジュースが染み渡る。二人してほぅ、と息を漏らしていた。

 

「ああいったものって樹ちゃんともやってたの?」

「ん〜……いや、やってないわね。というかやらせなかったかも。怪我したら危ないしさ、なんだかんだ理由を付けて砂場で遊ぶのが殆どだったっけ」

「ふ〜ん……まぁ女の子だしね。あんまり体動かす系よりおままごととかのが合ってるか」

「そんなとこね。ちなみに子供ながらに中々ドロドロした家庭環境を設定したおままごともやったことあるわよ」

「……それって楽しいの?」

「やる分には楽しかったわ。現実では体験したくないけどねーあっはっは」

 

わざとらしく笑いながら風は小さい頃を思い出しているようだ。大事な妹との記憶。きっと風は忘れまいとこうして思い出に耽っているのかもしれない。

 

「内容はともかく……少なくとも僕はそういう環境にしようとは考えていないからな」

「あらぁ〜♪ それって将来の事を見据えてるってこと?」

「うん。僕はそのつもりだ」

「…………ぇ? 今なんて──?」

「……何度も言うのは恥ずい。風の年齢的にもまだまだ先の事なのかもしれないけど、僕にとってはそのつもりで付き合ってるから」

「…………ぁ」

「こういう男は重いかな?」

 

空いた手を祐樹は自分の手を重ね合わせる。僅かに溢れる声と見開いた目は祐樹を捉えて離さない。

 

「──重く、ないわよ。あたしも……祐がいい。あたしが素のままで居られる君の隣がいい」

「うん、その言葉が聞けただけでも十分嬉しい。ありがとう風……じゃあ、そろそろ行こうか」

「ええ」

 

空になった空き缶をゴミ箱に捨てて二人は手を繋いで歩きだす。

なんて事のない日常のひと時のこと。でもそんな日々がとても眩しくて尊いものだと理解している二人は噛み締めるように進んでいく。

 

「いっそのこと僕たちが高校に上がったら一緒に暮らしてみない?」

「くす…気が早いんじゃないかしら? あ、嫌だというわけじゃないからね。あたしもそうしたいと思ってるけど、樹にも相談しないといけないし」

「また白い目で見られそうだなぁ」

「心配はしてないけど、二人とも仲良く…ね?」

「分かってる。未来の妹候補なんだから仲良くするさ」

「もう…! でも楽しみにしてるわ」

 

顔を見合わせながら笑い合う。これからもずっとそのつもりで生きていく。やるべき事は山積みだけれど、二人ならば超えていけると信じていこう。

 

こうして二人の日常は過ぎていく────。

 

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