Fate/Grand Order 劇場版幕間の物語 作:部屋ノ 隅
第二節 異端の徒ジャンヌ・ダルク 一
街の外壁周辺
藤丸「やっと到着かぁ……意外とかかったな」
サリエリ「そう言う割にはあまり疲れていないように感じるが……」
マリー「それはそうよ、マスターは健脚ですもの。草原を走るお馬さんだけじゃなくて、砂漠を歩くラクダさんでもあるのね」
マシュ『はい。先輩は第三特異点でエウリュアレさんを担いでヘラクレスさんから逃げ切っていますし、第五特異点ではニューヨークからワシントン以上の長い道のりを徒歩で踏破しています。
聞いた話ですが、いつかのクリスマスの時はジャックさん、ジャンヌ・オルタ・サンタ・リリィさん、ナーサリー・ライムさんを担いだまま数キロも走ったらしいです』
ダヴィンチちゃん『加えて、色々なサーヴァントと戦闘、魔術、その他諸々の訓練を欠かさないときた。カルデア自慢の礼装や戦闘服、サーヴァントありきの力や技も多いとは言え、今や下手なサーヴァントより強いよ? 彼』
『(無論、それ自体が悩みの種なんだけどね……引き際や指揮のノウハウをキチンと把握して良い判断をしてくれる。そしてどれだけ強くなろうとも、基本的には前線に出ない。
……けどなぁ、ここぞという所でトンでもない無茶をするんだよなぁ。……ホント、誰に似たんだか)』
「……ふん。どれだけの鍛練を積んで、どれだけ強くなろうがこいつはただの人間で、我々はサーヴァントだ。存在のあり方がまるで違う。
マスター、お前は聡いからそれくらいは分かっているだろう?」
「心配してくれてありがとな」
「断じて! 違う! その程度も分からないようなマスターでは今後が不安だから聞いただけだ!!」
「ふふっ、それじゃあ早速情報収集と行きましょうか。こんにちは! 素敵な問兵さん」
問兵「む?」
「私達、旅の歌劇団なのだけれど、この町の皆さんにも歌を聞いていただきたいの。この町のどこかに広場はないかしら。それと、お宿の場所も教えてくれたら嬉しいわ」
「歌劇団だって……? この状況でよくもまぁ暢気な連中がいたもんだな……」
「あら、いけないかしら」
「いけないことはないが、あんたら本気か? ただでさえ色んな奴らが不安で狼狽えてるんだぜ? 下手すりゃあ怪しまれて反感を買いかねねぇぞ?」
「だったら尚更私達の出番ね。歌と踊りと音楽はいつだって人の心を癒やすもの。心を込めて歌えば、きっと皆落ち着きを取り戻すわ」
「むぅ……しかし」
「すまない、この町のガーディアン殿。我々は数日前にこの国に来たばかりでね……小さな劇団の、これまた小さなグループなのでな。
知ってることと言えば、この国とイングランドが長年戦争をしているということくらいだ。故に、君があまり我々の行いを推奨しない理由があれば教えてもらいたい」
「新曲や新しいダンスの調整でここ最近は忙がしかったしなぁ。落ち着く暇も無かったからきな臭さこそ感じるけど、細かい近況とかはあまり分かってないんだ」
『(す、素晴らしい口先八寸……! 先輩含めそういうのが得意な方々だとは思っていましたが、噛まないどころか口調に淀みが全くありませんでした!)』
「……教会の連中でもないし、恩讐竜って訳でもなさそうだな……本当に何も知らないのか……?
まぁ良いさ。どうせここ最近は昼夜休まずにつっ立ってるだけで暇だったしな」
『(よしよし、これでようやくまともな情報が手に入りそうだ……さて、何が出るやら……)』
「でもよ……いくらあんたらでも流石に戦争が終ろうとしてるって事は知ってんだろ?」
「……な!?」
「ん!?……」
「――だって?」
「……驚いた、これも知らねぇのか。一体どんだけモグリなんだあんたら」
「そんなことはどうでも良い! 戦争が終ろうとしているだと……一体何があった!?」
「……シャルル七世とフランスの各町は? もし戦争が終ったというなら、不安で狼狽えている奴が多いって、どういう事かしら?」
「おいおい、なんでそんなに食いついてんだ……? 王なら生きてるよ。町は、他は兎も角、オルレアンは一時期ほぼ壊滅してたさ。忌々しいが、連中が「奇跡」を起こしてくれなきゃ今頃は……」
「オルレアンが壊滅ですって……!?」
「……俺達は戦争で疲弊した人達に少しでも元気になってもらいたくてフランスに来たからさ。急に「戦争が終った」って言われて驚いちまったんだ。
落ち着いて、一つずつ聞かせてくれ。まず、事の発端……戦争が終ろうとしてる理由は分かるか?」
「んなもん決まってる。イングランドと教会側に「神様」と「御使い」がいたからさ」
『神様に御使い……ですか……?』
「丁度ジャンヌ・ダルクがイングランドに捕らえられてから二日経ったくらいだったか。
イングランドと教会が突如として「彼女が主の声を聞いてないことを証明しよう」とかなんとか言い出してオルレアンで……俺らの前で、神様って奴を降臨させて見せたんだ。
なんていうかこう……神威っていうのか? 俺でも分かるような神々しさと、一目見ただけで分かるような絶対感を醸しだしながら、そいつはこう言ったのさ」
『ジャンヌ・ダルクは火刑に処すべき異端である』
『私はこの女に言葉など掛けてはおらず、彼女の言葉は偽りであり、また、その力は悪魔と取引したことで得た禁忌のもの』
『彼女はイングランド・フランス両国家を混乱に陥れ、偽善を騙り、民衆を貶めた大罪人である』
『よって、聖なる火に燻るべきである。骨まで灰と化してようやく、我が身元に至る清純さを取り戻すであろう』
『フランスの民草に罪はあらず。イングランドの人間にも罪はあらず。
この長き戦争はジャンヌ・ダルクの火刑をもって終るべきであり、二つの国々はこれをもって手を取り合わなければならない』
「……」
「……」
「……はぁ」
「……正直さ、信じらんねぇよ……俺みたいな一兵卒にも充たねぇような奴でも笑顔で励まして、鼓舞してくれたあの人……ジャンヌ・ダルクが国家を揺るがした傾国の魔女だなんて言われてもよ……だがどうすりゃいい……?
正真正銘の神様って奴が、異端だと、火に燻るべき魔女だとハッキリ言ったんだぜ……? 今やイングランドはおろか、フランスの殆どの町や村にも「ジャンヌ・ダルクは魔女だ」っつー風潮が流れてる。これに異なんか唱えたら、それこそ捕まって火あぶりにされちまうかもしれねぇ
……まぁ、勿論それに異を唱える奴らもちゃんといるんだが……」
「……そうか、嫌な話をさせてごめん」
「別に良いさ。それと、不安がってる奴が多い理由だったか? それなら……ああ、もう言ってるそばから原因がやって来やがった!
敵襲! 敵襲ぅうううううう!! 対飛龍用迎撃砲と大槍の準備! 急げ!!」
『先輩! 後方三キロ付近から飛行生命体が多数急速接近中! ワイバーンです!』
「速攻で片づけて話の続きを聞くぞ。サリエリ! マリー!」
「了解した。折角の情報提供者に万一のことがあっても困る。この演奏会は迅速に終らせるとしよう」
BATTLE ワイバーン
「これで……終りだ!」
「驚いた……あんたらやるなぁ。そこの鎧を着た強面の男は兎も角、そこのお嬢さんも大したもんだった。ああ、勿論あんたも凄かったぜ。後ろで二人に指示出しばっかしてると思いきや、近寄ってきたワイバーンの頭をいきなりドガッ! とぶん殴って気絶させちまうとはなぁ……。
歌劇団なんかより、町の警護団に入って欲しいぐらいだ。……ってあれ? そういや鎧なんていつの間に着たんだ、あんた」
「……早着替え、と言う奴だ。歌と曲だけでは食べていけなくてね、多少の芸は身につける必要があった。最近は物騒だしな、戦闘技術も旅をしている内に嫌でも身についたよ」
「へぇ……歌劇団ってのも大変だな」
「そんなことより、お話の続きをしましょうよ! 町の人達が不安になっている原因って、今のワイバーンやモンスター達の事かしら」
「ああ、他にも教会の方達や恩讐竜やらの事もあるけど、基本的にはそうだ。なんでもジャンヌ・ダルクが野に放った悪魔達の残党だって教会は言ってる。
ワイバーンだけじゃなくて、魔犬や屍人、骸兵に悪霊……昼夜問わず、不規則に色んな町に現れてはこまめな襲撃を繰り返してる。犠牲者だって結構な数が出てるんだ……皆不安で仕方ないのさ」
「ちょっと良いか。最初から気になってたんだけど、恩讐竜ってなんだ? 何かの組織の名前のような気はするけど」
「ああ、それは……」
「おいお前! なに話し込んでんだ! 戦闘が終ったんだったらとっとと報告! 被害と損害、経過を隊長に伝えに行くんだよ!」
「お、おう! ……すまないが、話はここまでだ。恩讐竜やその他のことについて聞きたいなら、他を当たってくれ。
それと、宿なら町の中心にある広場のすぐ近くにあるからそこに行きな」
「どうもありがとう! ヴィヴ・ラ・フランス!」
『……さてと、何はともあれ、まずは一歩前進かな』
「戦争の終演。魔女ジャンヌ・ダルク。恩讐竜。そして神に御使いか……はっ、戦争の終演自体は歴史に刻まれる程の記念すべき出来事であるはずなのに、この胡散臭さときな臭さはどういう事だ」
「話を聞く限りじゃあどう考えても茶番かつ、よくある異端審問のそれだよな。端から見るだけで分かるほどの悪意と謀略だ。どうしてもジャンヌを「異端の徒」として殺したいらしい。
まぁそれ自体は実際の歴史でも似たようなことがあっただろうから「神」と「御使い」を除いて良いとして」
「よくないわよ! 実際に行くかどうかは別としても、私は今すぐにでもジャンヌを助けに行きたいもの!」
「それだマリー」
「え?」
「さっきの話を聞いて考えるべき事、調べるべき事が寧ろ増えた。これはその一つなんだけど……「サーヴァントのジャンヌ」は今どこで何してるんだ?」
「あ……!」
『確かに、今現在の時間軸が「ジャンヌ・ダルクの処刑前」なら多少気になることはあるね。生前のジャンヌは史実通り囚われの身で良いとして、カルデアに登録されているサーヴァント・ジャンヌ・ダルクの行方は未だに分からない状態だ。
まぁ、それを言うなら他の皆もだし、そもそもこの時代にいるっていう保証はないんだけど……』
「はっ! 他の者は兎も角、ここまで執拗に「ジャンヌ・ダルク」で異変が起きていてそれはあるまい。間違いなく、この時代にいると見て良い筈だ」
『……サーヴァントの皆さんの行方も含め、調べることは非常に多いですが……まずは宿に向かいましょう。
先輩含め皆さんお疲れでしょうし、拠点として動ける場所は確保しておくべきです』
「それじゃあ行くか」
「……そうね。落ち着いて、まずは色んな事を調べなくてはならないものね!」
第二節 異端の徒ジャンヌ・ダルク 二
オルレアンの牢獄塔
ジャンヌ「……」
謎の男「……気分はどうかね? 魔女ジャンヌ・ダルク。何か変わった事でもあったかな?」
「気分もなにも……変わりませんよ。私の答えも。あなたへの返答も」
そうだ、変わらない。変わる事なんてない。この不可思議とも言える状態において主に祈りを捧げる以外何が出来るという訳でもないが、私は私のままだ。
ドンレミでただの村娘として遊んでいた時も。教会で主の啓示をうけ、戦うことを決意した時も。
ジルと出会い、仲間達と共に戦場を駆けて旗を振るった時も。捕らえられて異端審問に掛けられ、拷問を受け、陵辱を受け、最期に火に掛けられた時も。
死後座に登録されてサーヴァントとして現界し、彼と共にあの大戦を駆けた時も。人理を修復するためにカルデアに呼ばれ、マスターと共に戦っている今も。
「ふむ……流石は悪辣を極めし魔女と言った所か。主に背き、主の言葉を騙り、そして主の御前においてなお改心すること無く悪魔に助けを求め続けるとはな」
「あなた達の「主」は決して「主」などではありません。いえ……神ですらないでしょう。
そも、既に神代は終っています。人を僅かに助けこそすれ、政治や戦争に介入する神などいようはずもない」
僧兵「貴様! 枢機卿に何て口を……!」
「よい。それに私はここに入る前に「黙ってみていなさい」と言ったはずだが? いつから君は異端審問に口出しできるようになったのかね?」
「……も、申し訳ありませんでした」
「よいよい、許すとも。キツい口調で言ってすまないね。
だがこれも主の啓示……私のように高潔かつ徳の高い……真に神のご加護を受けた者でなければ、この魔女とは言葉を交わすことすら危険なのだ。どうか、分かってもらいたい」
「……」
「さて……おかしな事を言う物だ。君は勿論、シャルル七世陛下やジル・ド・レェ元帥。オルレアンに住まう民草たちは皆「主の姿」をその眼で見たはずなのだがね。
君も偽りとは言え聖女を騙った身ならば、主の威厳を少しでも感じられると踏んでいたのだが……」
「言ったはずです。あんなものは主でも神でもありません。ただその衣を借っているだけの紛い物です。それを利用し、人々を苦しめようとしているあなた達の姿にこそ、主はお嘆きになるでしょう。
これも何度も言いましたが私は聖女などではありません。ただの……田舎の小娘に過ぎませんから」
「ふふふっ……」
「……?」
「人々を苦しめる? 主がお嘆きになる、か……ふふふふふっ」
「なにを……笑っているのですか」
「なに。では血に塗れた魔女に教えるのも一興かと思ってな。君と、我らの主。本当に人々を苦しめているのはどちらなのかをな」
「……私の手が血に塗れていることなど分りきっています。人々を殺め、苦しめたのは私もあなたも同じ、とでも言いたいのですか?」
「いや? 私はこれでも争いに嘆きはするが、戦士の在り方はよく理解していてね。……遙か昔。神の子がこの世界に降り立ち、人の罪を背負って御許へ行かれてからも、人の争いはなくならなかった。
それは、人の悪性が強すぎたからという事ではない。ただ単に、その争いが人類にとって必要なものだったからさ。事の善悪がどうあれね。だから……」
「……」
「君の罪状は文字通り……「聖女を偽ったこと」なのだよ。ジャンヌ・ダルク」
街の宿
「……よし、じゃあ宿も確保したところで話の続きと行くか。まずは調べることの羅列からだな」
『主に「恩讐竜」と「魔女ジャンヌ・ダルク」この時代にいると思われる「サーヴァントの皆さんの行方」
……そしてオルレアンに降臨したという「神」と「御使い」についてですね』
『アドバイスしとくと「神」と「御使い」については今の所大した情報は得られないと思うなぁ。なにせ、こういうハッタリ染みた「神の降臨」ってのは大抵が目撃者の数が限定されてるか、もしくは目撃時に条件がありすぎて長い間見れていないかだからね。
それを見た人に聞いたところで、大抵がさっきの問兵と同じような事を言うだけだと思うよ』
「ご大層な名を使い、奇跡染みた力を一度振るって人々を煽った所で、その詳細は隠匿する……きな臭さと胡散臭さが溢れんばかりで笑う気にもなれんな」
「そもそも! 生きているジャンヌにしろ、私達のジャンヌにしろ、皆を苦しめるために魔物を国に放ったりする訳ないじゃない!
オルタちゃんだって、もうそんな事は決してしないと思うし!」
『そもそもも何も、オルタさんは巌窟王さんと同様、冬木の時から力を貸してくれていますし……前にオルレアンで暴れていたオルタさんと、私達の知っているオルタさんは同一人物の別人ですから』
「聖杯が関係している可能性もあるし、完全にハッタリとも言えねぇな。「主」かどうかは兎も角、術ジルみたいにジャンヌや神を造ったり、神霊級のサーヴァントを召喚して、言うことを聞かせたりしている可能性もある」
『そればっかりは直接オルレアンに乗り込んで確かめてみないと分からないかなぁ……まぁ兎に角、今は他の方から調べていこうか』
「私としては恩讐竜なる組織が気になるな。先ほどの門兵が何度も口にしていたし、教会との関係も名前から想像できる。まずはここから調べるというのはどうだ?」
「ちょっと待ってアントニオ! 私は皆の行方を探る方が大事だと思うわ! 私達より先にこの場所へ来ているなら色々と知っている事もあるでしょうし、一気に情報が手に入るかもしれないじゃない。
何より心配よ。皆の事もそうだけれど、一部の人が厄介事を起こしてここの人達に迷惑を掛けていないかしらって意味で」
「アマデウスと術ジル、ファントムにキルケーにジャンヌ・オルタ……考えてみれば半分以上がトラブルを起こしそうなメンツで頭が痛い……」
『こういう時にハサンの皆やマタ・ハリ。忍者の諸君なんかがいてくれたら相当楽なんだろうけどなぁ……うーん……こういう時はあれだ。
やっぱりマスターである香立くんに決めてもらうべきだね。「恩讐竜」と「皆の行方」どっちを調べるべきだと思う?』
Select・「皆を探そう」
「ええ! そうよね! やっぱり皆を探す方を優先しましょう!」
『情報が手に入るかもっていうのもありますが、なにより合流できるなら戦力の強化に繋がります。探すに越したことはないと思うので私も賛成です』
「……必然的に「奴」と出くわす可能性も増えるわけだが……まぁ仕方あるまい。了解した」
『よし、方針は決まったね。じゃあまずは……』
「待て……なんか外が騒がしいぞ」
『これは……町の入り口の方でしょうか。人が沢山集まっているようです』
「行ってみましょう!」
街の外壁付近
町長「こ、これはこれは司教様。こんな辺鄙な町にようこそおいでくださいました……この町の長として、あなた達の巡礼にこうして立ち会えることをまことに嬉しく感じます」
司教「はっはっは! そう硬くならなくてもよいよ町長殿。聖なる国の聖なる教徒の前に、一人の人間として、町が魔女の残党の襲撃に遭ったと聞けば駆けつけるのは当然のことではないか!
奴らは早々に退散したようだが、これもまた、オルレアンにご降臨された我らが主の威光に他なるまい。聖女を偽った魔女を捕縛し、イングランドとフランスの両国に平穏をもたらさんとする……な」
「おいおい……なんでこのタイミングで教会の方々がこの町に来るんだ?」
「知らねぇよ……巡礼にしたって、早すぎるとは思うけど……言ってる通り、魔物に襲われてるって聞いて助けに来てくれたんじゃねぇか? なんか重武装の僧兵も結構いるし」
「教会の司教が町の巡礼と来たか。言葉的にはまぁ不自然ではないだろう。状況が状況だしな。ただ……」
「……」
「何故あそこまで重武装かつ大勢の兵を即座に収集出来たのかは気になるところだがね」
『魔物と戦う前提の兵曹だよねぇ、あれ。いやはやちょーっとタイミング良すぎじゃないかなぁ?』
『巡礼にしてはちょっと過剰武装ですね。道中魔物に襲われる危険性を考慮したとしても』
「所でだ、町長殿……あなた方の町は未だ中立……つまり、我々フランス・イングランドの聖教会同盟、しいては主のご加護を受けることを未だに迷っているらしいが……如何かな?」
「そ、それはですね……」
「はっはっは! よいよい。我々は決して強要しないし、あなた達の思考や懸念もよーく分かるとも。そもそも、この町には不運にも、そう、不運にもあの時オルレアンにいなかった者が非常に多い。
突然「主がご降臨なされた」などと言われても狼狽え、我々に不信感を抱いても仕方あるまい。町長殿が不信に思っているのは我々であって主ではないと言うことも、主はしっかりと分かっておられるだろう……」
「は、ははぁ……! ありがとうございます」
「ならばこそ。我々は全ての人々が我々の主のご加護を受け入れてくれるようになるまで説得し、魔物共を廃するのみ……
地道な努力こそ、主の素晴らしさを説くもっとも確実な方法なのだからな。この町も何れ必ず、神のご加護によって幸福と安定がもたらされるであろう」
「……だが……だが、もしも。もしもだ。ありえんとは思うが、この町の住人の中に
「魔女の支持者」がいた場合はそうでもないかもしれんがね」
「……! そ、それはその、ジャンヌ・ダルクの……」
「ああ! すまない町長に諸君! 怖がらなくともよい。安心せよ、分かっているとも。この町はあの魔女により何度か危機を救われているのだろう?」
「は、はい司教様。魔物やイングランドの兵を何度も退け、町や私達を何度もお救いくださったあの方が魔女と言われても……
ああいえ! 決して、決して主のお言葉を疑っているわけでは……!」
「大丈夫だ。分かっている。この町のみならず、様々な町や村でも、しいては教会の者であっても、ジャンヌ・ダルクは魔女なのかどうか疑う者がまだまだいる。
それは仕方のないことだ。なにせあの魔女は全てを……己の配下の魔物は勿論、軍や国。そして人の心の動きすらも当然のように把握し、謀略を巡らせ、表で人々の支持を得ながら裏で人々を虐げて私腹を肥やしていたのだから」
「……」
「自作自演、と言う奴だよ。この町を襲ったのも魔女で、この町を救ったのも魔女なのだ。そもそもの話。フランスの為と国を先導し、町や村から徴兵した者達を戦場に向かわせ、無残にも死なせているのだぞ?
最初から「聖女」などという称号が与えられること自体間違っているとは思わんかね? この町からも彼女が原因で死んだ者がいるだろうに」
「そ、れは……」
「…………」
『……香立くん』
「分かってる。だからここで言う……詭弁が過ぎる。その死んだ奴らだってジャンヌの為に死んだわけでもないだろうし、戦争の原因がジャンヌにあるわけでもない。そもそも戦争なんてやってる時点でどいつもこいつも悪に決まってるだろうが。
何よりあいつが人々を虐げて私腹を肥やすだって? 欠片も想像できなくて逆に笑えてくるぐらいだ」
「ええ……そうね、その通りだわ。悪い意味で懐かしいわね。この政に宗教を混ぜた言葉は、宮廷で毎日のようにあったそれにそっくりよ」
「あいつの言葉を借りるのはシャクだが……まさに耳が腐るというものだ。幼児が出鱈目に弾くピアノのそれの方が何倍も綺麗だろうよ」
『事の真実がどうあれ、あの人がジャンヌさんに悪意を持った風潮を広げているという事は間違いなさそうですね』
「さて……立ち話はこれくらいにしてだ。おい! この町の者達に支給品を!」
「はっ!」
「おお……! これは」
「数週間持つかどうかだが、食料と水。それから町の外壁の修繕素材だ。僅かな施ししか出来ないのが非常に心苦しいが……受け取って貰えるとありがたい」
「は、はい! ありがとうございます!」
「よいよい。ああ、それとこれを……」
「……なんだ? 何かが刻まれている大きいエンブレム……? ダヴィンチちゃん」
『んー……魔力反応自体はあるからなんらかの礼装だろうって事は分かるけど……ダメだね。
あれは多分直接君達の誰かが手に入れて解析しなくちゃ詳しいことは分からないよ。聖印(スティグマ)が刻まれている事は遠目にも分かるけど』
『聖印……聖なる人や物品に自然と刻まれると言われている神の紋章ですね。ジャンヌさんは勿論、同じ聖人のマルタさんやゲオルギウスさんの体にもあるそうです』
「これは……?」
「主のご加護を受け取るための御印だ。町の中央辺りに置いておけば然るべき時が来たときにこの町は神のご加護によってあらゆる災厄から護られるであろう。
多少大きくて邪魔に感じるかもしれんが……そこは受け入れてもらえるとありがたい」
「は、はぁ。では……」
僧兵「伝令! 伝れぇええええええい!」
「ええい! 何だこの大事な時に……! 魔物か? ならば聖僧兵共で蹴散らし……」
「違います! 「恩讐竜」です! 「恩讐竜」の幹部と思われる者に襲撃を受けています!」
「「!?」」
「「恩讐竜」……!」
「な、何だと!? ええい、数は!? いやそれよりも被害状況はどうなっている!」
「は、はい! 後衛ならび中衛の聖僧兵は急襲を受けて六割方壊滅! 例の「怪人」と見知らぬレイピアを使う騎士が複数の悪竜を率いています!」
「「怪人」にレイピアを使う騎士だと……!?」
「行くぞ!」
「あ、ちょっとマスター!」
「ぐっ……がっ……!」
「……クリスティーヌよ、私は今嘆いている。かの者達はもはや私と君の歌を聞いても正しく喜ぶことが出来ない、ただただ舞台で踊らされるだけの人形となりはてた……。
そんな命運は、君に魅せられた私一人で良いというのに……」
「普段は君の言葉を聞いても大抵共感することが出来ないが……今は別だな。この人達はそもそも舞台に上がることすらなかったはずの人間だ。
踊らなくてもよかったはずの人達だ。だから……早く止めてやろう。それだけが私達が彼らに払える唯一のチケット代になるだろう」
「ああ……クリスティーヌよ。私の同胞達をどうか、君の歌で受け入れたまえ……」
「ファントム! デオン!」
『はい先輩! 二人とも黒いローブを身に纏ってはいますが、間違いありません。
霊器反応サーヴァント「フォントム・ジ・オペラ」さんと「デオン・ボードン」さんです!』
「…………」
「デオン! ああ、よかったわ。丁度あなたに会いたかったのよ。……今までいったい何処で何をして――」
「妙な格好で妙なことを言う人もいたものだね。ファントム? デオン? 一体誰のことかな」
『……え?』
「デオン……?」
フルール「僕は正当なる竜王の使いにて、七人いる恩讐竜の一人。月華竜「フルール」」
ハーメルン「同じく、恩讐竜が一人。歌影竜「ハーメルン」」
「残念だけど、君達が言っている「デオン」と「ファントム」が誰なのかサッパリ見当が付かないよ」
「……あの怪人は良いとして、シュバリエ・デオンまで何を言っている……? カルデアからいなくなったファントムとデオンではない、同一人物の別人か?
それとも記憶を無くしていたり、狂化スキルを付与でもされているのか?」
『いや、霊器を調べたけど間違いなくカルデアのデータベースに登録されている「デオン」と「ファントム」なはずだよ。
狂化のスキルも、見たところ付いているようには思えないね』
『一体何が……!』
「……人違いだよ……ただの、ねっ!」
「!? マスター!」
「ちっ!」
「悪いけど、こっちもこっちで忙しくてね……君達に付き合っている暇は無いんだ……ハーメルン!!」
「ああ、月に咲く華の竜よ。任せた」
「ひぃ! なんだ、なんだお前はぁああああ!」
「サリエリ! ファント……ハーメルンを追え!! マリーはここで俺と一緒にフルールを食い止めろ!」
「了解した!」
「……さぁ……「決闘」を始めようか」
「!?……そう……そうなのね。……良いわ、戦いましょうか。素敵なお顔をした竜の盗賊さん。思いっきり、全力を出し合いましょう!」
『来ます!』
FATAL BATTLE VS 月華竜「フルール」
「……っ! ……良いよ、凄く良い。「思った以上にやってくれる」……君も、君の主もね」
「あら? 当然でしょう。そちらの事は良く分からないけれど「決闘」を受けた以上、全力でお相手するのが礼儀ではなくて?」
「どこかの礼儀正しくて清純な騎士様が、護りの剣ってのを手ほどきしてくれたからな。逆に言えば、その隙を突いて支援する事だって出来る!」
「……ふふっ、そうか……では……そろそろ本気で行くとしようか!」
『魔力反応、大幅に上昇……宝具が来ます!』
「マリー!」
「ええ!」
「王家の百合よ、永遠なれ!」
「咲き誇るのよ、踊り続けるの! いきますわよ――!」
『百合の花咲く豪華絢爛(フルール・ド・リス)』!
『百合の王冠に栄光あれ(ギロチン・ブレイカー)』!
『……つッ! 宝具と宝具の正面衝突を確認! 周囲に多大な余波の影響ありです!』
「あ、ああ……! 聖僧兵達が! 我々の霊装が……! き、貴様ら……! 決闘だというのならもっと清廉にだな……!」
「クリスティーヌ……ああクリスティーヌ……ようやく我々の敵に隙が出来たようだ……」
「……!? しまっ――!」
「なっ! ひっ、ひぃいいいいいい!」
「声を立ててくれるな、口を開いてくれるな。思わずその喉を我が爪で引裂いてしまいそうになる……」
「よし、よくやったハーメルン。……聞け! 聖堂教会が司教の一人の命は、我が同胞ハーメルンの手にあり!
司教の命が惜しくば直ちに武装を解除してもらう! お前達も、教会の者達も、全員だ! その場に武器を下ろして手を上げろ!」
「ぐっ……!」
「お、お、お前達! 何をボサッとしている! 今すぐ武器を下ろせ! 下ろさんかこのグズ共めが!
町の連中もだ! 私を誰だと思っている! 神罰を食らいたいのか!?」
「は、ハッ!」
「……マリー、サリエリ」
「……ええ。分かっているわ」
「……ちっ」
「……」
「……フルールよ……」
「ああ……・これだな。間違いない。後はついでに……よし、これで全部だ。後は……おい町長」
「ひっ! な、なんでしょうか……」
「そこを動くな」
「は、はい?」
「動くなと言ったんだ!!」
「は、はい!」
「……」
「……!?……こ、れは……」
『(何かを渡した……? 小さな巻物……伝書と……なんでしょう、小さくてよく……・?)』
「……ふっ!」
「あ、あぁああああ! エ、エンブレムが……!! き、貴様ぁ! 何をしたか分かっているのか!? 挙げ句の果てに人質まで取りおって!」
「生憎と、こんな紛い物の聖遺物に興味は無い。……我々の行動理念は分かっているだろう? 少女を捕らえ、神を騙るようになった墜ちた教会に卑怯だのなんだのと言われる筋合いは無い。
そもそも教会の理念を語るのならば、まずはあなたが襲い来る賊から民草を護っては如何かな、司教殿」
「ああ……クリスティーヌ……」
「ひ、ひぃいいいいい!」
「……(チラッ)」
「……ねぇ、そろそろ良いでしょう?」
『マリーさん……?』
「私が人質を変わります。司教を解放しなさい、フルール」
『な……!?』
「おう……マリー様!?」
「……」
「お、おお! そこの娘! そうだ、早くこの賊から私を解放してくれ! 貴様と私。どちらが人質としてふさわしいか位分かるだろう!」
『(いや状況と立場を考えれば人質としてふさわしいのは司教の方じゃないかな……? 無理もないけど、半ば狂乱してるね。思いっきり「素」が出ている)』
「……良いだろう。だがまずはお前が私の元に来るんだ」
「ええ……当然ね」
「ちっ! おいマスター! 司教が解放されたと同時に王妃に令呪を使って……!」
「いや、待て。落ち着けサリエリ」
「マスター!?」
「……はい、これで良いかしら」
「まだだ。共に竜に乗ってもらう……よし……ハーメルン!」
「ふん」
「おぶほぉっっ!」
「し、司教!」
「……この美しいお方は何れ必ずこの街へ返す。必ずだ」
『せ、先輩! マリーさんとデオンさんを乗せたワイバーンが空に!』
「聞け! 我が愛するフランスの民草よ! 我らは恩讐竜!! 墜ちた教会と偽りの神に鉄槌を下す、黒き竜王の使いなり!! 教会の妄言に惑わされるな! 我らの虚構に捕われるな! 己が見、感じたもののみを、どうか信じて欲しい!!」
「……デオン……」
町の宿
「……」
「……」
『……えぇっと……』
『さて、見事にマリー王妃を恩讐竜と名乗る二人に連れ去られてしまった訳だが……香立くん』
「どうせ気付いてるだろ? デオンらしくない物言いだったから、俺も少し唖然としてたけど」
「待て、何の話だ。そもそも何で貴様はあの時……!」
『ええっと、先輩。私もうすうす思ってたんですけど、もしかして……』
「どう考えても演技だっただろ、デオンも、マリーもな。ファントムは……半分くらい素かもしれないけど」
「……!?」
『ああ。態度や言葉こそ毅然としていたけれど、含みがある場所が多すぎるね。「決闘」ってデオン……いや、あえてフルールと呼ぼうか。
月華竜フルールが言った後のマリーの反応も変だった。何か全てを察したような、そんな態度だったことは間違いない』
「それと、極めつけは宝具の激突だな。マリーの『百合の王冠に栄光あれ』は兎も角、デオンの『百合の花咲く豪華絢爛』は本来高威力の攻撃宝具じゃない。相手の精神を惑わす幻影宝具だ。
あれは、マリーが魔力の塊で出来た百合に対してワザと出鱈目に宝具をぶつけたことで出来た「魔力の爆発」だったはずだ。デオンの百合も、そういう風に調整してあっただろうし」
『……デオンさん達に何かを感じ取ったマリーさんが、即興劇に付き合った……?』
「……筋は通るな。それならばあの司教の代わりに自ら人質となったのも、シュバリエ・デオンと合流して詳しい話を聞き出すため、そう考えれば納得がいく」
『……ではどうしましょう。このままマリーさんが帰ってくるのをここで待ちますか……?』
『いや? 彼女が帰ってくるという保証は無い。仮にフルールとハーメルンが私達の知っているデオンとファントムだったとしても、向こうにも事情がありそうだしなぁ……』
「こっちから動こう。あれから司教と教会の奴らはオルレアンにある本部って奴に戻ったらしいけど、仲間が連れ去られたことを理由に恩讐竜の情報をねだったら、恩讐竜の事とかアジトがありそうな場所とか教えてくれたしな。……常に上から目線の尊大な態度で」
『アジトがありそうな場所として司教が言っていた場所と、ワイバーンが飛び去った方向、速度、時間から計算して……候補は大体三つに絞れるね。
ここから南に行った場所にある二つの村か、廃砦。そのどれかさ』
「決まりだ。折角宿を取ったところだが、やむを得ん。急いで準備を整え、王妃を救出に向かうぞ」
『皆さんと合流できれば完璧ですね! 早速向かいましょう、先輩!』