Fate/Grand Order 劇場版幕間の物語   作:部屋ノ 隅

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・オケアノスのキャスターの真名バレ有り。


第3章 恩讐竜を追え

第三章 恩讐竜を追え 一

 

 

 

 

第一印象は「苦手な人っぽい」という、ザックリかつふわっとしたもの。

 

かつての、姐さんと会う前の自分は結構なコミュ障だったから、こういうシッカリとした芯を兼ね備えた清純で無垢な女性というのは、どうにも苦手意識があった。

ただでさえ人類史において偉業を成し遂げ、世界に「英霊」として認められたその女性に、弱くて根暗な自分は、最初っから良い印象なんて抱ける訳が無かったのだ。

 

だから最初の……「邪竜百年戦争オルレアン」で彼女と共闘した時は、何かと理由を付けては彼女のことを避けていた。

 

彼女の在り方が眩しかったわけじゃない。彼女の若干押し気味の善意が肌に合わなかったわけでもない。その人への信頼が気持ち悪かった訳でもない。

 

その時は、ただ本当に何となく。自分でもそれがなんなのか理解できないままに、特異点を消し去るその時まで彼女のことを避けていた。

 

 

 ――――だから。

 

 

『またお会いできて、本当によかった!』

 

 

まるで星のような笑顔を浮かべてカルデアの召喚ルームに現れた彼女に、自分の手をギュッと握りしめながらそう言った彼女に

 

労りと慈しみの心を持って俺に接してくる彼女に

 

 

 

 

胸の中がムカムカして、仕方がなかった。

 

 

 

 

大森林の中  

 

 

 

藤丸「……これで丁度三つ目の橋っと……後は森を抜けて、峠を二つ越えれば良いんだったか」

 

マシュ『はい。恩讐竜という組織がフランス・イングランド両教会と敵対しているなら、その拠点であるオルレアンから遠く離れ、なおかつ見晴らしが悪いこの辺りにアジトを造るというのはかなり妥当だと思います』

 

ダヴィンチ『正直なところ、せめてあともう少し情報を仕入れてから動くように言うべきだったかなぁ?って軽く後悔中。もちろん、上手くいけば自体が一気に動く可能性はあるけれど……』

 

サリエリ「恩讐竜に対しての情報は申し分無く手に入っただろう。……教会によっていいように歪められた情報ではあるだろうがね」

 

『ジャンヌ・ダルクが捕らえられてから一週間後。突如としてフランスに現れた黒い飛龍使いの反教会集団……

曰く、魔女ジャンヌ・ダルクの同胞であり、悪魔の手先。神に仇なし、人々を蹂躙し、国家を乱し、陥れる者……』

 

「まぁ事の真偽は兎も角、ワイバーンに乗って教会連中にゲリラ戦仕掛け続けてるならそういう風潮になるよな。西洋での竜って堕天した天使……つまり、悪魔の象徴そのものだし。あ、神竜だの守護竜だのといった例外を除き」

 

『そう。それ気になってるんだよねぇ……恩讐竜はどうやってワイバーンを手なずけてるんだろう。実際手なずけようとした経験があるから言うけど、かなり難しいよ?

無駄に頭良いし、本筋の竜ともなると、下手な魔術だったらはじき返す必要も無いし』

 

「先ほどの襲撃もそうだが、町の人々にも恩讐竜に対して怯えた様子はあまりなかった。

あったとすれば戦闘や面倒事に自分達が巻き込まれるのではないかという恐怖と、どうしたら良いのか分からないという戸惑いだな」

 

『それもそれで変な話さ。この時代の「教会」っていうと、下手すれば王家よりもずっと力があったからね。悪魔や天使、魔女に神……人々の間に根付き、蔓延ったオカルトが当り前のように人々の心を支配していた時代だ。

 

神の代理人の集まりである教会は、そんな不安から人々を救うような存在だった筈だ』

 

『……先輩達がこの時代に来る前に、恩讐竜と教会が何度か激突しているとして……人々に教会が不信感を抱かせる……判断を鈍らせる「何か」があった……?』

 

「まぁ何にせよ。その二つに絞って調べていけば色々と……」

 

「待て、マスター……どうやらお出ましのようだぞ」

 

『ああ……こっちでも確認している。野犬が三、最初に戦った人造人間が六だ! 人造人間の外郭は硬いが薄い! 一点集中攻撃で片を付けろ!』

 

 

 

BATTLE 野犬&人造人間

 

 

 

「ちっ! 次から次へと……! やむをえん。マスター、伏せていろ! 宝具を使う!! 我が……!」

 

 

 

ドッゴォオオオオオオオオオオオオン!

 

 

 

「!?」

『『!!?』』

「……これは……」

 

 

 

 

「はーっ! はっはっはっは!!」

 

 

 

 

 

第三章 恩讐竜を追え 二

 

 

 

 

「天から溢れる神秘のしずく……大地溢れる豚の群れ……オケアノスには海魔が蔓延り、私の側には竜が伏す……

 

なーにが竜の魔女だよ! こちとら正真正銘神代を生きる大魔女だってのにさぁ!!

 

……はぁ……それにしても暇だなぁ……やることと言えばそこいらの魔物やゴーレムを豚に変える事だけ……これでも私の宝具なんだぞぉ!? あの強突く張り女、一体魔女を何だと思って――」

 

「……」

『『……』』

 

「……なにやってんだキルケー」

 

「…………のわぁああああああああああああ!!? マスター!? マスター何で!!?」

 

『えぇっと……その、何て言ったら良いのか分かりませんが……』

 

『まぁ、いつも通りと言えばいつも通りなんじゃないかなぁ? あ、霊器パターンは当然カルデアに登録されているキルケーだよ?』

 

「きききキルケー!? 誰かなその誰もが美しいと言わんばかりの美貌を兼ね備えていそうな魔女は!? そんな人私は知らないなー!!」

 

「(呆れ果てて言葉が出ない)」

 

「私は誇り高き反逆者! 神と教会に鉄槌を下す者!! 恩讐竜が一人、天魔竜「クロニクル」!!」

 

「いやだってお前さっき俺のことをマスターって」

「天魔竜! クロニクル!!」

「ってか自分のこと大魔女って」

「天魔竜!! クロニクル!!!!」

「いやだから」

「天魔竜!!!! クロニクル!!!!!!!!(半泣き)」

 

「……で、そのクロニクルはここで一体何してんだ」

 

「え? そりゃボスに言われて食料や素材の調達と、不審者が入ってこないように見張りを……」

 

「……」

 

「……し、侵入者ー! くそうくそう! 会話で私を油断させてその間に情報を得ようとは何て卑劣な……! もはや容赦しないぞぉ!」

 

『えっと……何か一気にやる気が削がれましたが、キルケーさんは本気です! あんな方でも実力は確かなので注意してください!』

 

「あんな方!?」

 

 

 

FATAL BATTLE VS 天魔竜「クロニクル」

 

 

 

「ぐぅ……! そ、そんな本気になってぶちのめさなくても……」

 

「黙れ。下らん茶番に続けて豚共の鳴き声で私の、ただでさえ不安定な演奏をとんでもない音楽会にしたこと、ただで許されると思うなよ……!」

 

「なるほど! 文字通り「トン」でもないと言うわけだ!」

「(ブチッ)」

「どわぁああああああ! ちょ、ちょっとまったまったまっ」

 

「……うわぁ……」

 

『あの、先輩。キリの良いところで止めてあげてくださいね?』

 

『うーん、この酷さ。なんと表現したものか……サリエリくんも、まさかアマデウス以外の人物に、それも女性にマウントポジションを取って殴り続ける日が来るなんて思ってもみなかっただろうなぁ……』

 

「お、おぶふぅ……。じょ、女性の柔肌にここまで傷を付けるなんて……君! 本当に宮廷音楽師か!? レディの扱いくらい心得ているだろうに!

それとも何かい!? 君が責任を取ってくれるのかい!? 取ってくれちゃうのかい!?」

 

「そうだな。カルデアに戻ったらちゃんと責任を取って、殺してでもお前を救ってくれる看護婦を紹介してやろう。遠慮はするな。肌の一枚や二枚は引っぺがされるやもしれんがな」

 

「アッハイやっぱり良いです……っと、そろそろ時間かな」

 

「……サリエリ! 上だ!!」

 

「なっ……! ちっ!」

 

『ワイバーン!? いえ、でも確かに先ほどまで観測機にはなにも……!』

 

「ふっふっふ……神代の……じゃない。恩讐竜随一にして魔術式総監督たるこの天魔竜クロニクルを舐めて貰っちゃあ困るなぁ……?

ボスの力と私の魔術が加われば、未来の観測機を欺くのなんてお茶の子さいさいさ! ……いやまぁ、リソースだの何だのの関係があるから常時破れるわけじゃないんだけどね。よっと」

 

「逃がすか! まだ殴り足りん!」

 

「え、ちょっ! そんな理由で襲ってくるの!? ってかあれだけボコボコにしておいて殴り足りないのかい!? 

さすが復讐者……いやこれ絶対霊器関係ないよね!? 急上昇! 急上昇ぅううううう!」

 

『ワイバーン、急速に上空へと飛翔しました!』

 

「ああもう散々だよ! 素材は見つからないし、ボコボコにされるし、予定は狂い続けるし……! ……でもまぁ、悪いことばかりじゃないかな。

と言うわけで、私はスタコラサッサとアジトに戻らせてもらうのだー!」

 

「ダヴィンチちゃん!」

 

『ああ! 今度こそワイバーン並びにキルケーの霊器反応は完全に補足した!! 到着予測地点はここから数十㎞先の廃砦だ!』

 

 

 

 

 

第三章 恩讐竜を追え 三

 

 

 

 

 

廃砦

 

 

 

 

『クックック……クロニクルがやられたようだね……』

「ああ、クリスティーヌ……だが彼女は我ら恩讐竜の中でも最弱……」

『カルデアのマスターに負けるなど、恩讐竜の面汚しですな……』

 

「……あの……ちょっと良いかい?」

 

『おや、なんですかなフルール。王妃様のお世話はよろしいので?』

 

「説明はとっくに終ってるし、むしろその後の方が大変だったかな……所でさ。なんでボスのいる前でも民衆の前でもないのに仇名で呼び合ってるんだ君達は!?

しかもインスマスとエクセレントは魔術まで使って雑談に参加して! 重要な会議があるわけでも、何か報告があるわけでも無いんだよね!?」

 

『ハッハッハ! ブラッドルート程じゃあ無いとは言え、君もお堅いなぁ』

 

「聞いた話、我らがクリスティーヌ(マスター)生誕の国では組織の幹部がやられた際に、残った幹部で今の詩を述べるのがお約束、というものだとか……」

 

『仇名も、言い合っている内に楽しくなってきてしまったのです。しかもこの名は我らがボス直々に考え、我ら六人にお与えくださったもの……何を躊躇ってわざわざ真名で呼ぶ必要がありましょうか』

 

(私は「フルール」っていうまだマシな仇名だからよかったようなものの……「エクセレント」に「インスマス」に「ブラッドルート」に……正直な話、呼ぶのも呼ばれるのも恥ずかしくて仕方がないんだが……!)

 

『っていうかさぁ。どこに目と耳があるか分からないんだし、仇名で呼ぶのは当り前じゃないかい? 聖杯戦争だって、マスターは自分のサーヴァントを真名じゃなくてクラスで呼ぶじゃないか』

 

「ぐっ……!」

 

「今回も今まで同様、普通ではない聖杯戦争……いや、聖杯戦争と言えるかさえ分からない歪な異変が起きようとしている今、我らがマスターは兎も角、サーヴァントのことを真名で呼ぶのはいささか危険では……」

 

「ぐうっ…………!」

 

『そもそもの話。この中で騎士兼スパイとして活躍し、様々な逸話と名を持っているあなたがそれを言いますか?

真名で呼ぶことの危険性を一番理解しているのはあなただと思っていたのですが……』

 

「ぐぅうううううううううう!! き、君らなぁ……!」

 

 

 

「なにやってんのよ」

 

 

 

『!? おお……! これはこれは我らがボス……!』

 

『なぁに、下々の者がちょっとした雑談をしているだけですよ。所でなにかよう?』

 

「クロニクルからの報告は既に受けました。少し早いですが、嬉しい誤算と言って良いでしょう。ブラッドルートはどうなっている」

 

「クロニクルとほぼ同時に報告があったよ。……正直、あまり良くないみたいだ。警備が厳重すぎて、接触しようとしてもまず露呈するみたい」

 

『あいつの気配遮断、アサシンなのにほぼお飾りみたいなもんだしねぇ。……まぁ暗殺、なんて事しようとしてもする奴じゃないから仕方ないさ』

 

『ふむ……では予定を切り替えて彼には私達二人の方に加わってもらうというのはどうでしょう。決行の時が何時になるかはまだ分かりませんが、あそこで燻らせておくよりは良いのでは?』

 

「……いや、ダメね。作戦は無理に行わなくて良いから待機を続けるように伝えなさい。

攻めるにせよ退くにせよ、肝心な時に誰よりも情報を掴んでいる奴が一人いれば成功率が段違いよ。そのまま情報収集を続けてもらうわ」

 

『了解っと! ……おや、どうやら来たみたいだね。それじゃあ次は僕の番かい? でもフルールとハーメルンの時は兎も角、僕まで戦う必要ある?

少なくとも「ここ」じゃ絶対無理だし、戦ったところで僕弱いし、彼がいるから下手すりゃ殺されかねないんだけど』

 

「……そうね、必要ない。今すぐ砦に戻ってきなさいエクセレント」

 

『はー、やれやれ。やーっと戻れるよ。ここだと本当に騒がしくてゆっくり曲を作る暇も……』

 

《ねぇねぇ、えくせれんとー!》

《またピアノ弾いてー! わたしきらきら星!》

《ねぇったらー!》

 

『えぇい本当に騒がしいな! そもそもこういうのは彼の役目だろうに……今日はもうお終い! また今度にしてくれ。僕だって用事があってだね――』

 

「ふふっ……」

 

「ああクリスティーヌ……かの天才は今、苦言を申しながらも笑みを浮かべている……

子供達の喧噪と合わさったそれは、一曲の歌のようにも聞えるよ……」

 

「それでボス。いよいよ事情を話して合流といくかい? 戦況を先に進めるには良いタイミングだ。彼らにも出来る限り情報を渡しておきたいしね」

 

「……いえ」

 

 

 

「ここまでお膳立てがあるんですもの。どうせなら一旦キチンと、幕を下ろしておきましょうか」

 

 

 

大森林の中

 

 

 

「ダヴィンチちゃん。ワイバーンの反応は」

 

『しっかりと補足済みさ。丁度今頃廃砦に着いた頃だと思うよ』

 

『それにしても、キルケーさんでハッキリしましたが……皆さんは一体なにをお考えなんでしょうか。明らかに操られているわけでも狂化スキルが付与されているわけでもありません。

あれは私達の知っているカルデアの皆さんです』

 

「合流して事情を聞けばハッキリするさ。素直に話すかどうかは別だけど」

 

「はっ! あの自称大魔女にはあの男同様、人を小馬鹿にする狂化スキルの一つでも付与されていてもおかしくないと思うがね……」

 

「……サリエリ、非常に残念なことだけどな。あいつはあれが平常運転で……」

 

『ん? ちょっと待ってくれ……香立くん。ちょっとそこの大きい岩と岩の間を調べてみてくれないか』

 

「……これは……」

 

『古代ギリシャ文字が、音符のように岩に刻まれていますね……あと、男性と女性が沢山の星の下で抱きしめ合っている絵、でしょうか』

 

『複合結界魔術……? 仕組みは単純なものだろうが、そこそこ厄介だね。おそらく、その古代ギリシャ文字が音階で、横にある絵がヒントになっている筈だ』

 

「……司令官代理。ここに刻まれている古代ギリシャ文字は?」

 

『当然分かるさ! なにせ天才だからね……はいよっと』

 

「ふん……ワザとなのかどうかは分からんが、随分と気取った真似をしてくれる」

 

 

ド・ド・ソ・ソ・ラ・ラ・ソ

ファ・ファ・ミ・ミ・レ・レ・ド

 

 

『あ……きらきら星!』

 

「ああそうか。確か、元々は恋の歌として作られたんだっけこれ。だから男女が星の下で抱きしめ合っていると……で、だ。こんな結界作るって事は多分……」

 

「あぁ……奴が、この近くにいる可能性があるな……」

 

『さ、サリエリさんが今までになく凶悪な笑みを……! 先輩! 前方の景色に変化が!!』

 

 

 

壊滅した村

 

 

 

「……酷いな」

 

『はい、主な家屋は殆どボロボロ。……これは、焼かれた後でしょうか……それにしても酷いです……まるで、村全体が火炙りにされたような……』

 

「それだけじゃない。我々サーヴァントでないと気づけないレベルのものでしかないが……僅かに血の感じが残っている。匂いじゃない。雰囲気だが、私には分かる」

 

『なにかとんでもない事があったのは一目で分かるね。でも、生命反応はキチンと残ってる……しかも結構多いぞこれ。主に村の外れにある教会からだ』

 

「行くか。サリエリは……」

 

「分かっている。いるのがこの村の住人とは限らんからな。敵だとしても迂闊に攻撃を仕掛けたりはせんさ。あの男がいるなら分からんがね」

 

『お、お願いですからいても唐突に戦闘を仕掛けるのは……』

 

 

 

「……誰?」

 

 

 

「……子供、だと?」

 

「こんにちは。俺達、旅の歌劇団なんだけど……」

 

「? 歌劇って何?」

 

「ピアノを弾いたり、お歌を歌ったりして皆を楽しませる職業のことさ」

 

「!? ピアノ! お兄さんピアノ弾けるの!? もしかしてエクセレントの友達!?」

 

「エクセレント……? んー、多分そうだと思うなぁ。もしかしてそのエクセレントって人、変な色をした服を着て、仮面を付けてる人じゃなかったか?」

 

「うん! やっぱりエクセレントの友達だ! 言ってたもん! 恩讐竜は、本当は愉快なブレーメンみたいな人達が集まってるんだって!」

 

『恩讐竜のエクセレント……』

 

『まぁ十中八九あいつの事だろうねぇ』

 

「すまないが聞きたいことがある。あいつは今どこに……!」

 

「えっ? エクセレントとなら『また近い内に来るからさ』って言って出かけちゃったよ?」

 

「なっ! ……それは何時だ」

 

「えっと……一時間? くらい前?」

 

『……ちょうどキルケーさんと戦い終った直後くらいですね……私達の接近を察知してどこかに向かったのでしょうか』

 

「ねぇねぇ! ピアノ弾いてよ! いつもエクセレントが弾いてくれてたんだけど、今はいないからみんな退屈なんだー!」

 

「……すまないが、我々は急いで」

 

「ああ、良いぜ! このお兄さんはエクセレントに負けず劣らずのピアノの先生だからな」

 

「ほんとう!? やったぁ!」

 

「なっ……! おいマスター!!」

 

「ただし、今日はここに泊めて欲しいんだけど良いか? 一宿一飯の恩って奴をピアノと歌で返すよ」

 

「うん! じゃあ教会にいこう! はやくはやくー!」

 

「……」

 

「どうせもう日が沈む。廃砦で戦闘があることも考えると、今日はもう休んだ方が良い……ってかお前は良いかもしれないけど、俺は人間だぞ? 疲れは取っておかないと、戦闘の指揮やサポートにも支障が出るだろ」

 

「ぐっ……! 魔犬や飛龍を殴り飛ばしておいて今更何をと言いたいが……やむをえん、か」

 

『そうですね……今日は一日中歩きづめの戦闘続きでしたし、そろそろ休んでおかないと……』

 

『ああ、良い頃合いだ。私達もその間にやりたいことがあるしね』

 

「ねーってばー!」

 

「ああ、今行く!」

 

 

 

焦げた教会

 

 

 

「ねぇねぇ、あの人達だぁれ?」

「……エクセレントの知り合いだって」

「教会の奴らじゃないの……?」

「またピアノが聞けるって本当?」

 

『子供達がこんなに……』

 

『いや本当に多いな!? 明らかにこの村の子供ってだけじゃ説明できない数だぞこれは!』

 

「……恩讐竜が支援をしている孤児院もどきか……? いや……」

 

「明らかに孤児とは思えん子供もいる。なにか事情がありそうだな」

 

「ようこそおいで下しました。女子供しかいませんが、エクセレント様のご友人であるあなた達の事を心より歓迎します」

 

『シスターさん……?』

 

『おっと、やはり急かないで正解だったね、彼女ならもっと詳しい情報を知っていそうだ』

 

「それは嬉しいし、願ったり叶ったりなんだけど……一つだけ確認させて貰って良いか? 俺達のことをすんなり受け入れた理由は何だ? この村の様子を見るに多分……」

 

「……申し訳ありませんが、詳しい話は子供達がいない場所で……ああ、ただ一つ」

 

「?」

 

「「白髪で赤い眼をして、縦縞の紳士服を着た奴が来たらそいつは僕の友人だからよろしく」と言づてをもらっております」

 

「……(凄まじく複雑な表情)」

 

「ねぇねぇピアノはー?」

 

「おっと、そう急ぐなって。そうだなぁ……夕飯の時にでも聞かせるから。なぁサリエリ先生」

 

「……悪いが、今の私は」

 

「先生? お兄さんは先生なの?」

「いや、ちが」

「そうだぜ? 凄くピアノが上手い先生だ。この人にピアノを教わってる俺が保証するよ」

 

「せんせー!」

「せんせいだー!」

「なっ……! お、おい! 近寄るな! 服を掴むな! 集まってくるなお前達!!」

 

『はっはっは! 口調は乱暴だけど無理に振り払ったりしない辺り、やはり子供には手が出ないねぇ彼。まぁカルデアで子供組に絡まれてるのを見れば天才じゃなくても分かるか』

 

「ええい! 放れろと言っている! ピアノなら夕飯の時に弾くと言っただろう! 細かい調整をするから離れろ!」

 

 

 

 

 

第三章 恩讐竜を追え 四

 

 

 

 

 

「はいみんなー! 一緒に手を合わせてせーの」

 

「「「ごちそーさまでした!」」」

 

「……ごちそうさま」

 

『いやぁ、正直驚いたよ。夕飯をご馳走するって言われた時は、村の状況から見てもあんまり良い物が出てくるとは思えなかったんだけど……』

 

『えぇ……豚のソテーにマッシュポテト、パンにサラダ……この戦時下に、この状況下にあるフランスではかなり恵まれている食糧事情だと思います』

 

「豚はまぁキルケーがそこらの魔物やなんやらを豚にしてるとして……ん?」

 

「ねぇねぇお兄ちゃん。今日のご飯ね、私が手伝って作ったの……ど、どうだった?」

 

「ああ、美味かった。この調子なら、君は良いお姉さんになれそうだな」

 

「ほ、本当!? えへへ……あ、あの! 私ルチアっていうの! お兄ちゃんは?」

 

「香立。コウタ=フジマル。よろしくな、ルチア」

 

「コウタ……うん、よろしく! コウタおにーちゃん!」

 

「……」

 

「ねぇねぇせんせー!」

 

「……なんだ」

 

「ごはん、おいしかった?」

 

「……ああ」

 

「わたしね、じゃがいもゆでたんだー! こうやってつぶしてー、おしおふってー」

 

「……」

 

「わたしねわたしね、みんなで一緒に食べるってすごくうれしいって、ここに来てはじめてしったの! だからね――――」

 

「……」

 

「はい! じゃあ今日はエクセレントさんのお友達のお兄さん二人がピアノと歌を聞かせてくれるんだって! みんな座ったまま静かに出来るかなー?」

 

「「「はーい!」」」

 

「……うた?」

 

「何を不思議がっている。私がピアノ。マスターが歌。当然の役割だろう?」

 

「おい待て聞いてないぞ。何勝手に俺まで巻き込んでんだあんた!?」

 

「黙れ。最初に私をダシにしてここへ連れてきたのはマスターだろう。それに私達は歌劇団。誰かが楽器を弾くなら、誰かが歌を歌うのは当り前だ」

 

「いや俺はどっちかというと、お前とマリーのサポート役の小間使い的な位置が……ああもう分かった分かったよ、歌えば良いんだろ!? ダヴィンチちゃん、俺が今から曲名言うからその楽譜をサリエリに見せてやってくれ。お前なら一度見れば覚えられるだろう」

 

「はっ! 私をかの天才と一緒にするなと何度も言っただろう。楽譜が記憶できても音調や曲の調子がブレてしまう可能性がある。三分寄越せ、それでなんとかする」

 

『うわぁ……それって三分あれば完璧に仕上げられるって言ってるような物じゃないか。これだから自覚のない奴は……で、何が欲しいんだい?』

 

 

 

「ねー、まだー?」

 

「もう少し……よし、なんとかなるだろう。そっちはどうだ」

 

「あー……よし、こっちも大丈夫だ、イケる。いつでも良いぞ」

 

「……では、我ら藤丸歌劇団の初公演といこうか。曲はマスターのリクエストで……『色彩』だ」

 

 

~♪~

 

 

「うわぁ……!」

「とっても綺麗!」

「先生すげー!」

「お兄ちゃんカッコいい!」

 

『先輩……こんなに歌がうまかったんですか……!? わ、私後輩なのに今の今まで知りませんでした!!』

 

『ああ、サリエリからピアノの教授を受けていることは知っていたけど……これは歌のレッスンも受けていたのかな? 音程、ビブラート、アレンジ、どれもが素晴らしいと言って良い領域だ!』

 

「……どうだった? みんな」

 

「すごいすごい! とっても上手だった!」

「ねぇねぇ! 次はこれ弾いて! これ歌ってよ!!」

「お兄ちゃんお兄ちゃん! 次は私も一緒に歌って良い!?」

「せんせー! 私にピアノ教えて!!」

「わたしもわたしもー!」

 

「お、おい! 押すな貴様ら! ピアノというものは本来とても繊細な楽器で、上質のものでない限り衝撃などにだな……!」

 

「あらあらみんな。お二人は旅で疲れてるんですから、無理を言ってはいけませんよ?」

 

「いや、あと三曲くらいなら大丈夫さ。なぁサリエリ」

 

「……ちっ、とっとと次の楽譜を寄越せ。私の気が変わらないうちにな」

 

「はいはい。じゃあみんな! 次の演奏は――」

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……すみません。寝付かせるのまで手伝っていただいて……恩讐竜の皆さんも忙しいので、最近はあまり来てもらえなくてみんな寂しがってたんでしょうね」

 

「別に良いさ、子供の面倒なら慣れてるし。流石にここまで大勢の世話をしたことは無かったけど……」

 

「……ようやく本題に移れるな。まずあなた達と恩讐竜の関係、その経緯について詳しく教えて貰えないか」

 

「はい……始まりは、この村で謂われのない魔女狩りが始った事でした。なんでも、あのジャンヌ・ダルクさまがこの村の者と協力して禁忌の魔術を使用したと……」

 

「ジャンヌが……? この村の人はジャンヌの事を?」

 

「はい、よく知っています。ほんの僅かな時間ですがこの村に滞在し、フランス軍の皆様と一緒に、野犬や夜盗から村を護っていただいたことがありますから……元より、フランスを救うために立ち上がった聖女の支持者はこの村にも大勢いましたし、共に戦うとフランス軍に加わった人もいました」

 

『謂われ無き罪を着せ、人を殺す魔女狩り自体はこの時代、多くあったものだが……妙だな』

 

「ならこの村の惨状は教会の連中が?」

 

「いえ……違います……正確には「魔女狩り」と言うにはあまりにも優しすぎるものでした。私も端くれとは言えシスターですから、魔女狩りがどれだけ酷い物かは知っています。……最初に教会の方々がこの村に来たときは、それはもう酷く震えたものですが……

 

村の人達は全員、すぐに解放されましたし、教会の方々も魔女についての教義を行った後、それでもジャンヌ・ダルクを信じたいなら信じれば良い。そう言って去って行きました。

 

それどころか、ジャンヌ・ダルクを一定以上庇ったり、評価しているようなお話までされて……」

 

「教会がジャンヌ・ダルクを……? 話が見えんな、ならこの村の状況は一体どういう事だ」

 

「……それは……」

 

「……ああ、何となく分かった」

『……先輩?』

 

「くだらねぇ……ほんっとうにくだらねぇ真似しやがりやがって!! ああ、そりゃああいつらが態々「恩讐竜」なんてもの作るわけだ! 中途半端な統率で暴走するより完全な統率で管理する方が安全に決まってる!」

 

『私も大体想像付いちゃったなぁ。つまりさ――――この村を焼いたの、教会の過激派に賛同している「別の街の人達」だろう?』

 

「……!?」

 

「こ、虚空から声が……!?」

 

『おっと失礼シスター。私達は彼らの守護天使みたいなものでね。こうやって時折会話に加わってそこの二人を助けてやっているのさ』

 

「まぁ……! 天使様!! するとあなた達はもしかして主の……?」

 

「そんな大層なもんじゃねーよ。それよりも、続きを」

 

「……ええ。彼らは教会の、大司教様や枢機卿様の言葉を鵜呑みにし、この街の住人を「魔女の手先」と判断してしまった……フランスに害をなす、恐るべき魔道の者達と……酷い、本当に酷い有様でした……圧倒的な力による蹂躙ではありません。彼らと私達にそれほどの差があれば、まだ犠牲者は少なかったでしょう。

 

……混乱と悲鳴が村を支配し、私達の村も向こうの人達も、その多くが死に……。本当に……酷い、ありさまでした……」

 

『そんな……』

 

「ジャンヌ・ダルクを魔女として裁くかどうか迷っている教会の奴らがいるって噂でも言ってただろ。実際、ジャンヌの信仰と言葉が真摯かつ正しくて処刑判決を下すまでかなり時間が掛ったらしいしな。

 

逆に言えば……ジャンヌを信じてる奴らに「ジャンヌ・ダルクは本当に聖女かもしれない」っ言って、一方で不信感や憎しみを抱いている奴らに「ジャンヌ・ダルクの悪行」なんかを神の言葉として伝えれば……」

 

「簡単に対立を煽れる。ジャンヌ・ダルクという女一人でフランス国内を完膚なきまでに乱すことが出来る、か。はっ! 救国の聖女という名が思いっきり裏目に出たな」

 

『で、それをさせなかったのが恩讐竜と……確かにジャンヌ・ダルクを救う、庇う、そういう事を考えている人達が勝手に暴走するよりは、力のある自分達で軍として統率する方が圧倒的に犠牲者は少ないね。恩讐竜って言う力のある反教会勢力が出来れば、教会も対立煽りなんてまねしてる場合じゃなくなる』

 

『(……まぁ、重要なのは『何で態々そんな真似をしてまで教会に敵対しようとするのか』の方なんだが。デオンとかナポレオンとか、剣の方のジル・ド・レェなら分かるけど、他の奴らが理由もなしにここまでするかなぁ?)』

 

「……彼らが、恩讐竜を名乗る不思議な方達が訪れて事態を収束してくれなければ、恐らく私やこの村の子供達も……」

 

「……一応聞いて良いか? 生き残った大人は? あんただけって訳じゃないんだろ?」

 

「生き残った方達は出稼ぎに街に繰り出したり、恩讐竜の軍勢に加わったり、この村を去ったりと散り散りです。……そもそも、生き残った大人の方は私を含めて五人ほどですが……子供達は私達の村のように対立の争いに巻き込まれた村の孤児や、生き残った親御から請われた子をここで預からせていただいています」

 

「なるほどな。それでこれほどまでに喧しい教会の出来上がりという訳か」

 

『サリエリさん!』

 

「構いません。うるさいと感じるのは事実ですから……万一のことも無いように結界まで張っていただき、更には食料や水、衣類まで……今オルレアンでは主が降臨しているという話ですが、私は信じません。

 

高見から尊大な言葉を語るだけの偶像より、私達にしっかりと寄り添って戯れてくださるあの方達こそ、真なる主の使いでしょう……本当に、彼らには感謝しています」

 

「そっか……あいつら、そんな事してたのか」

 

『良かった……それならいつかの特異点のようにこれ以上戦う必要も無さそうですね』

 

「まぁ、何故お与えくださるお肉がいつもいつも豚のものなのかは分かりませんが……食事制限の修練なのでしょうか?」

 

「……あー……気にしない方が良い。つーか気にしたらマズイ。慣れれば平気だけど」

 

『(平均的な豚以上の大きさがあれば、基本的になんでも豚に出来ちゃうからねぇ、あの宝具……キメラやバイコーンやワイバーンは兎も角、スケルトンにリビングデッドにゴーレムに……)』

 

『(絶対に食べたくないものまで豚に出来ちゃいますからね……)』

 

『ともあれ、これで情報はかなり出揃った! 最早躊躇は不要……恩讐竜と合流し、さらなる情報を入手。どうするか考えようじゃないか!』

 

「ああ、そっちもよろしくな。ダヴィンチちゃん、マシュ」

 

『はい! 出発は明日の朝……廃砦はもう十数㎞先です、先輩!』

 

 

 

深夜

 

 

 

「……ふぅ……サーヴァントは基本的に疲れなど感じず、感じたとしてもかなり早く取れる筈だが今日は妙に……む?」

 

「♪♫♬」

 

「……ピアノの音……?」

 

「~♪」

 

「なにをしている」

 

「ひゃうっ! なんださりえりせんせいかー」

 

「もう深夜だ、子供はさっさと寝ろ。シスターにも言われただろう」

 

「うん……でもね、ひるまはみんなといっしょに使ってるから、ちょっとしか弾けないんだぁ……」

 

「……」

 

「あのね。わたしね。ぴあにすとになりたいの! ずーっとぴあのをひいてられるしょくぎょーがあるんだって、えくせれんとが言ってたの!」

 

「あの天才め……子供に適当なことを……ずっと弾いていられる訳じゃない。そもそも一日中演奏なんて本気で音楽と言うものを愛し狂う一部の変人《天才》にしか出来やしない」

 

「そうなの?」

 

「音楽に魅了されて人生を棒に振る奴は非常に多い。大成しても、早死に、不治の病、謂われのない風潮に悩まされ、地獄のような最期を迎える奴が殆どだ。……五百五十年程経てばそうでも無くなるらしいが」

 

「んー。でもね。かっこよかったよ! えくせれんともさりえりせんせーも! お星様みたいにきらきらしてみえた!!」

 

「……つっ!」

 

「だからわたしもああなりたいの! ……だめ、かな?」

 

「ああ……今のままではダメだな。ピアニストは心身共に体調を崩しやすい。子供の頃から夜更かしなんてもってのほかだ。だから……今日は、これが最後の一曲にしておけ」

 

ド・ド・ソ・ソ・ラ・ラ・ソ

ファ・ファ・ミ・ミ・レ・レ・ド

 

「! きらきら星!! えくせれんとが弾いてくれた!!」

 

「我々のようなプロが弾くならもう少し複雑なのだが、この曲は本来子供でも弾ける簡単なものだ。音調も曲調も単純で覚えやすい。……後で楽譜を書いてやる。こう言った単純なものを、まずは完璧に弾けるようになれ」

 

「うん! わたしも! 私も弾くー!」

 

「……フフッ」

 

ソ・ソ・ファ・ファ・ミ・ミ・レ

ソ・ソ・ファ・ファ・ミ・ミ・レ

 

ド・ド・ソ・ソ・ラ・ラ・ソ

ファ・ファ・ミ・ミ・レ・レ・ド

 

 

 

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