Fate/Grand Order 劇場版幕間の物語   作:部屋ノ 隅

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第5章 聖竜 その1

第五章 聖竜 一

 

 

 

カルデア 模擬戦闘シュミレーター室

 

 

 

「お疲れ様です。今日も本当によく頑張っていましたね、香立くん!」

 

「……なんでジャンヌがこんな所にいるんだよ」

 

和やかで裏表の無いその笑顔を向けてきたジャンヌに、俺は内心ドキドキしながら素っ気なく返す。

断っておくが、ドキドキしたというのは決して彼女の笑顔に見惚れたからではない。

彼女に見られたくない所を見られたのでは、という不安からだ。

 

「何でって、私、今日シュミレーターを使う予定のパーティーメンバーですし、それもLeaderですから」

 

「あー……そうか、神の城壁の」

 

ジャンヌがLeaderを勤めるパーティー。通称「神の城壁」は彼女を中心に、レオニダス、デオン、ゲオルギウス、それからマシュを加えた「どれほど苛烈な攻撃にも耐えぬく」事をテーマにした耐久パーティーだ。

 

その実力は、ローマ皇帝・ネロ・クラウディウスが定期的に主催する戦闘をテーマにした催し。

通称「ネロ祭り」で上位入賞。耐久戦においてはぶっちぎりで優勝という輝かしい成績を残した、カルデア随一の実力パーティーであり、最後の盾。

 

相手の攻撃を最小限のダメージで凌ぎ、こちらはしっかりと一撃をお見舞いする。

余程の宝具や並外れたステータスをもったサーヴァントが、無敵という概念そのものをを貫通する霊装でも装備していない限り、大抵の相手には勝てるし、勝ってきた。

 

「いや待て、時間がズレてるだろ。日常的に一時間前行動でもしてんのかよ?」

 

「流石に日常的に一時間前行動はした事がありませんけど……私がここにいたらいけませんか? マスターの鍛錬を見ておくのもまた、サーヴァントとしての勤めの一つだと思いますが」

 

「いけない訳じゃ無いけど……」

 

理由、理念が相変わらずしっかりしている。こう返されると「良いからどっか行け」とも言いにくい。

シュミレーターを使って自分が鍛錬をする時は、その時の担当サーヴァント達以外にも野次馬が必ず何人か沸いて出るのだから、彼女一人を出禁にする訳にもいかないのだ。

 

姐さんの時は聖人や、拳で戦う系統のサーヴァント達が。小次郎の時は武蔵ちゃんを中心に日本刀を扱うサーヴァントが。

ロビンフッドの時はアウトドアやアウトロー系が集まるし、李書文の時は中華系統のサーヴァントやランサー達が、それぞれ何人か集まってくる。

 

基本的に何をするでも無いが、時々修行にちょっかいや口出しをしたりする、まさに野次馬達だ。

自分があまりそれを気にしていない以上、直接シュミレーター内に入ってきた訳でも無いジャンヌに何か言うのはおかしいだろう。と、俺は口を紡ぐ。

 

「香立くんの気がこれ以上散らないようにと、外からモニターで観戦させて貰っていましたが……」

 

急にグイッと俺へ近づいてきたジャンヌは、再び満足そうな表情を浮かべながら言った。

 

「毎日毎日、本当によく励んでいますね! 種火や強化素材の回収だけでなく、戦闘指揮や魔術の勉強に、自身の鍛錬も! 怠慢が無ければ慢心も無い。マスターの鑑、と言って良い位に成長していると思いますよ!!」

 

「……そりゃどうも」

 

やりづらい……「目標」を定めてより訓練に集中するようになってからは、彼女に対するイラだちの原因が何となく分かってからは、かなりそれはマシになった方だが、やはり今でもこのイライラは消えてくれない。

 

「最初の頃は自身の鍛錬に傾きすぎていた気もしますけど……まぁ、それは香立くんの経緯を聞くにある程度納得できましたし、本番の戦闘ではキチンと私達を頼ってくれていますしね。……それにしても、少し前に出すぎだとは思いますが」

 

「……悪かったな」

 

「戦闘服が無きゃ何も出来ない役立たずが前に出て」とは言わない。

 

普通のマスター……魔術師がサーヴァントと一緒に前線に出ることはまず無いらしいし、もしも俺が死ねば人理修復はほぼ確実に達成出来なくなる。

ジャンヌだけではなく、マシュやドクター。ダヴィンチちゃんやその他面倒見の良い英霊からも、ピンチでも無いのに前に出すぎ、と言う注意を受けることは結構あった。

 

事実として、俺は自他共に「死ぬ訳にはいかない存在」になっているのだ。

世界中の人達の為に。焼却された人理の為に。他の誰でも無い俺の為に。

 

「役に立たないから」ではなく「死んでもらっては困るから」

 

事情と事実だけを単純に語ると、まるで俺自身にはなんの価値も無いような感じになるが、俺は自分を不足だと思ったことはあれど、役立たずだの価値が無いだのとは思ったことは無い。

むしろ、普通の人よりちょっとだけ、色々頑張れている方だと思っている。だから言わないし、言えない。

 

それに姐さんを含め、心の底から俺のことを案じ、心配してくれるサーヴァントや職員も結構いた。

 

俺の好物を多く献立に加え、しかし栄養バランスが崩れないような食事を作ってくれたり。

鍛錬に態々付き合ってくれた上、積極的にアドバイスをくれたり。

本当は苦手なはずなのに、俺に請われたからと言う理由で、誰かに物を教える勉強を態々してくれたり。

空気を読んで気を遣ってくれたり、本当に色々だ。

 

それだけで十分だ。俺は戦える。前に進める。自分の中にある「これ」を我慢できる。――――少なくとも、今は。

 

「そう思っているのでしたら、何かと理由を付けて戦闘に出る事自体を止めて頂きたいんですけど……あなたの事を心から想い、心配している人も数多くいるのですから、無茶はいけませんよ?」

 

「……」

 

「ほら! また目を逸らすんですから!! ちゃんとこっちを見て下さい、香立くん!」

 

彼女の言っている事は正しい。よく分かる。

俺のことを心配してくれるみんなに対して、申し訳ないという気持ちも当然ある。

けど、だけど――――

 

 

「五月蠅い、黙れ」

 

 

――――そんな本心を、胸内にある激情を、必死になって噛み砕く。

 

 

「わーったよ! 全く本当に口うるさいなぁ。お前はあれだな、良い意味でも悪い意味でも学校の委員長だな。クラス委員とかじゃなくて、生徒会長とかそういうタイプだ。容姿端麗成績優秀品行方正で、全生徒の憧れの的な奴」

 

「委員長、ですか……? 私は今の学校というもの自体の仕組みがあまり良く分かっていないので、聖杯から与えられた知識によるものからでしか印象が掴めないのですが……うーん……」

 

彼女は少し悩むような表情を浮かべた後――

 

「……皆さんを先導し、導く立場であるというなら……そうですね。そのような印象を抱いて頂けているというなら、何となく嬉しいです」

 

――ニコッと笑いやがった。……半ば嫌味を込めて言ったのだが、まるで効果が無い。分かっていたが。

 

「……悪いけど、そろそろ行かないといけねぇから。三蔵ちゃんと精神統一の鍛錬があるんだ」

 

「あ、そうでしたか……お時間を取らせてしまい、申し訳ありません。無理せず、頑張って下さいね! 私も頑張りますから!!」

 

再びニッコリと笑ったジャンヌを背に、俺はシミュレーションルームを後にする。

少なくとも今日の内は、最後に見たあの笑顔が忘れられそうに無くて、やはり俺はイライラしていた。

 

 

 

 

 

大空。

ワイバーンの背。

 

 

 

「ぐっ……! おい、ちょっとトバしすぎじゃないのか!?」

 

「黙ってなさい! 迂闊に喋ると舌を噛むわよ!! 悠長な事言ってる場合じゃ無いの。本当は、今すぐにでもあんたと話し合いたいことがあるんだけど、それは後!」

 

「だ、だったらせめて聖竜ってのがなんなのかくらいは――――!!」

 

「見ればいやでも分かるわよ! 戦闘準備は出来てる? 出来てるわよね?? オーケー、出来てるなら良いわ……ああもうっ! こんな事なら時間が掛ってでも飛行能力に特化したワイバーンを一匹作っておくんだった……!!」

 

『おや、そんな事まで出来るのか。てっきり汎用型を作り出すのが精一杯かと思っていたんだが……』

 

「表の特異点にいる私様々ね……普通の、カルデアにいる状態の霊器の私じゃあワイバーン一匹作るのだって厳しいでしょうし」

 

「無い物ねだりをしても仕方がないさ。サリエリも僕も戦闘準備は出来てるから、現場に着いたらすぐに取りかかろう。ボス達が陽動、僕らが二人の救出で良かったよね?」

 

「ええ、そっちは任せた――――ほら、お見えになったわよ。聖印(スティグマ)を刻まれた天の使いとやらがね!!」

 

『!? せ、先輩! 前方数キロメートル先に高密度のエネルギー反応が多数です! 聖装兵と……これは……ワイバーン? でしょうか。でも、それにしては反応が……』

 

『それだけじゃない。性質がかなり妙であやふやだけど、一種の結界まで張り巡らされてる。なんだこれ、まるで雲みたいな……。マシュ! 少しの間、香立くん達のシュミレートを任せた!』

 

『は、はい! お任せください!! ……っ! 先輩! オルタさん!!』

 

「分かってるっ、っての!! 邪魔よ!!」

 

キュォオオオオオオオオン!

 

「……白い、ワイバーン? それに、あの紋章みたいなのは……」

 

「聖印(スティグマ)よ。主に属した人や物に自然と発生することがある神の紋章……あいつらは竜であって竜じゃ無い。体は墜ちたそれでも「今だ墜天する事無く、天上の主に属する者」に当てはまるらしいわ」

 

『堕天する事無く、天上の主に属するって……まさか!』

 

「ええそう。いわゆる「天使」とかいう奴ね……当然、霊格も魔力も普通のワイバーンとは比べものにもならない。私達サーヴァントでさえ、油断すれば危うい相手…………本当なら、だけど」

 

「本当なら? つまり今は違うと?」

 

「詳しいことは省くけど、今のあいつらは通常のワイバーンより少し強い程度に格落ちしてる。単体としてなら大した脅威じゃないわ。……でも、そんな事が問題にならないくらい厄介なのが……」

 

うぉおおおおおおお! もう限界だぁああああああああ!!

 

「!? おい、今の声!!」

 

「ああクソッ! 期待はしてなかったけどやっぱり「この中」か!! もう一度確認するけど、戦闘準備は出来てるのよね!?」

 

「よく分からねぇけど、いつでも良いぞ!!」

 

『カルデア戦闘服。魔力共有並びに宝具チェインシステム。オールグリーンです! カルデアに残っている英霊の皆さんも全員霊器保管庫へ入って貰いました!』

 

「分かった。なら突っ込む前にこれだけ言っておいてあげる……あの雲の中に突っ込んだら「霊器の影」は召喚しない方が良いわ。ただただ魔力を無駄に消費する事になりかねない。

あくまで、自分にあいつらの影を落として戦いなさい」

 

「……? おい、それはどういう意味――」

 

「おいボス! 時間が無いぞ!!」

 

「分かってるっての! 急降下からの超低空飛行で一気に突っ込むわよ!!」

 

 

 

 

草原 疑似聖域内部

 

 

 

 

「ああもう! ああもう!! やっぱり私に直接戦闘なんか向いてないんだって!! 私はもっとこう、仲間のピンチに颯爽と現われて、用意してきた霊装だとか秘密の大魔術とかを使ってさぁ。

指をパッチンと鳴らすだけで敵が倒れたように見える演出とか、圧倒的な力を見せつけながら敵をなぎ倒すような、そんなのが似合ってるんだって!!」

 

「聖竜のクラスはライダーだから、ただでさえ私の魔術が効きづらいっていうのに……!! こんな泥臭いピンチなんかまっぴらゴメンなんだよぉ!」

 

「ククククッ! ああ、クリスティーヌよ……これだけの数の竜に囲まれて、身も心も引裂かれたというのに、私の瞳にはあの聖なる輝きを帯びて舞う君の姿しか映らない……ああ……あの輝きを纏っているのが竜ではなく君であれば、ここは真に天なる国になり得たのだろう……」

 

「ハーメルンはハーメルンで完全にトリップしちゃってるし! いや何時もと変わらないって言えばそうなんだけどさぁ!! 君、仮にもクラス相性有利なんだからもうちょっとマジに戦ってよ!

私がこの聖域術式解除しないと増援が間に合っても厳しいって分かってるかい!?……うわっ……!」

 

「こっの! ……マジのマジでピンチだぞこれは……! せめてあの時マスターと本契約さえしておけばなぁ……!!」

 

「……ああ、クロニクルよ。確かに私達二人ならばこのまま無様に踊らされ、あの竜にむさぼり食われる幕引きが待っているのだろう……」

 

「それが分かってるいるならもう少し――!」

 

「「私達二人ならば」な」

 

「……!」

 

「今だ遠く離れていようとも、私には聞こえる。ああ……やって来たぞ、歪な聖(うた)を纏った竜共よ。

幾多の竜を引裂き、数多の特異点を乗り越え、魔神王すらも打倒した我らがマスター(クリスティーヌ)が、貴様らに死を届けにやって来たぞ!!」

 

 

 

 

 

「クロニクル! ハーメルン!!」

 

「おい、なんだここは……! 光る雲のような場所に突っ込んだ途端、急に周囲の様子が……!!」

 

「……淡い、光? 天の梯子みたいなのがあちこちに……なんか、これじゃあまるで……」

 

『ここは一体………………あ、あれ……?』

 

「……マシュ? おいどうした!?」

 

『も、モニターに特殊事象が発生しました! 周囲の……様子が、ボ……ケて……!! ……信状態……か……り……』

 

ブツン――

 

「マシュ!? おいマシュ!! おいオルタ、これって……!」

 

「やっぱりカルデアとの通信は遮断されるか……!! とっととクロニクル達を探すわよ! あいつさえいればこの規模で、大した魔力共有もされてない未完成な聖域なんてどうとでもなるわ!!」

 

「全員目をこらせ! なんとしてでも二人を見つけ出すんだ!!」

 

「……! いた! オルタ!! 右斜め前方に……! クッソ! 邪魔だどけ!!」

 

「ボス!」

 

「フルールとフォルテはそのままあいつらの元に急行! 私とあんたで周囲のこいつらをなるたけ蹴散らすわよ!!

さっきも言ったけど、こいつらは竜であって竜じゃ無い。ジークフリートやシグルドの竜特攻は意味をなさないから注意しなさい!!」

 

 

BATTLE VS 聖僧兵 5 聖竜 4

 

 

「「ガンド」! からの……シュッ! 発破!! Break!! よし、これで……!」

 

「グッ……! ウッザいのよ!! ……ちっ……!」

 

「オルタ!? おい、大丈夫か! ってかお前どうした!? 幾ら何でも動きが……」

 

「私のことを心配してる暇があったらとっとと次の奴を――――! マスターちゃん!!」

 

「――! 「空蝉」!!」

 

「いい加減に……死んどけっての!!」

 

「ふぅ……ようやく一段落付いたわね……早くあいつらと合流して、とっととここを出るわよ」

 

「おい待て! その前に教えてくれ。霊器の調子が悪いって訳でも無いのに、なんで――」

 

「あんなに苦戦したのかって? まぁ、例えあいつらの力を借りていてもあんたが私よりも多くの敵を仕留めるのは難しいでしょうね……」

 

「……」

 

「……マスターちゃんの事だし、薄々気付いてるんじゃないの? 前にもあったらしいじゃない。カルデアと連絡が取れない。サーヴァントが殆ど役に立たない。仕方なしにマスターちゃん主体で戦ったって言う特異点が、ね。あれと同じよ」

 

「セイレムと……? つまりここって……」

 

「主の御許って奴じゃあ、清廉で純潔なあの聖女様みたいな奴でも力を発揮出来ないどころか、ただの魂としてしか存在が許されない。

神から直接スカウトを受けて天界に召し上げられた「史上尤も清くて美しい魂」を持つ人間は、神の子を除いてただ一人だけ」

 

「そりゃそうよね。私みたいな魔女は地獄で炎に焼かれるのが当然で、仮に神に会えるとしたら骨どころか魂まで灰になった後なんですもの。

まぁそれは置いておいて……要するに、この「聖域」と呼ばれる神の御許では「サーヴァントとしての霊格が落ちる」のよ。それも、強ければ強いほど、ね」

 

「……いや、それ変だろ。だったら」

 

「カルデアにいるサーヴァントの影を借りている自分は、いつも通り戦うことが出来ているのか、でしょう? それは――」

 

「……それは?」

 

「――私も知らない」

 

「おい!? お前そこまで引っ張っておいてそりゃあねぇだろう!」

 

「あのね。自慢じゃないけどあの聖女様の贋作モドキの、そのまたモドキみたいな私が、魔術だの結界だのに詳しい訳がないでしょう。

むしろあの鉄拳女に振り回されて色々やってるアンタの方が詳しいまであるわよ。さっきのうんちく云々だって、まんまクロニクルの受け売りだしね」

 

「……つまり、よく分かんねぇけど「聖域ではサーヴァントの強さに制限がかかる」って覚えておけば良いのか?」

 

「ええ。だから悪いけど、この特異点じゃああんたも立派な戦力と数えさせて貰うわ。マスターとしてじゃなくて、戦闘要員としてね。

この程度の「聖域」ならまだ私の方が強いでしょうし、アンタはいつも通り指示を出してるだけで良いけれど……

オルレアンじゃあ、そうもいかないから。ひっどいわよ? 今のあそこにサーヴァントが無策で突っ込んだら、ただの人間以下になる可能性があるらしいし」

 

「……教会側の本拠地か。そこに何があるんだ? アジトで報告を受けて異様に慌ててたけど、ジャンヌは今……」

 

「……その話は後。今度こそ、あいつらと合流するわよ。ボスとしてゲリラ攻撃に行かせた私が言えることじゃないけど、今ここでクロニクルが消えたら本当に「詰み」なの。

……魔女が魔女に頼るのは滑稽に見える? 笑いたいなら笑いなさい」

 

「別に、そんなことねぇよ。どんな理由があるにせよ、お前が特異点解決のために力を貸してくれるってんなら頼もしいし。

結果的にであれ、お前らが人を助けるような事をしてるって分かって、嬉しかったしな」

 

「あら、マスターちゃんは私がマスターちゃんやカルデアのためだけに動いてるとは考えてないのね? 少し寂しいわ」

 

「ははっ! 復讐の果てに死に場所を求めているお前が、それだけの理由で動いてるってんならそりゃもう世界の終りだろ。

文字通り、世界が終ってもあり得ないだろうけどな。……それで良いよ。俺達の存在が、お前にとってどれくらいの位置にいるかは分からないけど、俺の召喚に応じてくれて、一緒に戦ってくれて、この特異点でも皆を先導して解決に乗り出してくれてるって言うなら、それだけでもう十分嬉しいよ」

 

「……相変わらず、都合の良い考えだこと」

 

「うっせぇ、都合が良くて悪かったな。早く合流すんだろ? 行くぞ!」

 

 

 

第五章 聖竜 二

 

 

 

「くっ! ……一体どれだけ暴れ回ったんだ!? こいつら明らかに君達二人だけを狙っているじゃないか! 聖竜はまだしも、聖僧兵まで! ターゲット集中系のスキルは持ってなかったはずだよね!?」

 

「しょうがないだろぉおおおお!? ちょっとした隙を作って脱出するには、敵の攪乱が必須だったんだよぉ!

連絡を送ってから十分くらいで「あ、これ私達二人だけで脱出する方法にシフトした方が良いな。かなりリスクがあるけど、ここで消えるよりはマシだな」って思ってさぁ!」

 

「なんでもう少し待たなかった!? というか違う、そうじゃ無い! 私が聞いているのはどういう作戦を立てて、どういう行動を起こしたか、だ!!」

 

「ハーメルンの宝具で聖竜を堕として、その隙に私が結界のポータルポイントを探して壊していっただけさ! 厄介そうな個体や聖僧兵の指揮官は、私も宝具を解放してピグレットにしながらね!

……まぁ、途中で疲れた結果テンションが上がって、ピグレットにした奴らに「やーい豚豚~wwww飛べない竜はただの豚~wwww」とか言ったりはしたけど」

 

「明らかにそれが原因だろうこの大馬鹿魔女が! ここの厄介な場所から出たらあの時の続きだ。今度こそボコボコに殴り倒してや……! デオン!!」

 

「――ツッ! しまっ――――!」

 

ドガガガガガガガガッ!

 

「……疑似模倣宝具解放……『R・十面埋伏・無影の如く(じゅうめんまいふく・むえいのごとく・リバイブ)』」

 

「!?」

 

「ああ……やはり君は間に合うのだねクリスティーヌ。今私の目には、君こそがこの聖域にふさわしい聖者に見えるよ……」

 

「間に合った……! デオン! みんな!! 無事か!?」

 

「たっく……! あっさりと隙を突かれてるんじゃ無いっての!! はぁああああ!」

 

キュォオオオオオオン!

 

「マスターとボスか……礼を言う、助かった!」

 

「無事なら状況の報告! クロニクルはこの聖域の――」

 

「もうやり終わってるよ! ラスト一個! この場所から東に一キロ半!! そこにある聖遺物を壊してくれ! それでこの聖域は力を失う筈だ!!

っと! そうだそうだ。ボス!」

 

「ん。……よし。クロニクル! フォルテ!! あんたはマスターちゃんと一緒にこの聖域をなんとかしてきなさい!! 私達が乗ってきたワイバーンを使って良い!! 私達はこいつらを捌きながら聖域の外側……下がれる所まで退却! 殿は私がやる!!

聖域をぶっ壊したら、各自全力で逃げる事!! 良いわね!?」

 

「オルタ!?」

 

「余計な心配してんじゃ無いっての。この厄介な結界さえなんとか出来れば、私達はサーヴァントとしての力を取り戻せる。

それに分かってる? 今の私達ですら、アンタと比べれば強いのよ? マスターちゃんはいつも通り、自分に降りかかる火の粉だけを祓ってなさい。……今はね」

 

「……その……まさかとは思うのだが「フォルテ」とは……」

 

「アンタのことに決まってんでしょうが! 良いからとっとと行ってきなさい!!」

 

「マスター! フォルテ! 早く!!」

 

「……分かった。後で必ず!!」

 

「……フォルテ……フォルテか……」

 

 

 

 

「たっく、だからマスターちゃんが頼りって事は決戦の時まで言いたくなかったのよね……」

 

「ああ、彼は生半可以上に力を付けている。人理焼却前も強かったけど、今は状況と場合によっては私達サーヴァントを上回るだろう。

彼にオルレアンを含めた聖域の詳細を簡単に喋ったら最悪の場合、肝心な場面で私達を一切動かさない可能性すらあるからね。万が一、程度の物ではあるが。

……現に君も僕も、クロニクルの対聖域魔術の加護を受けていなかったから、予想以上にダメージを受けてしまっているし」

 

「うっさいわね、この程度何でも無いわよ。なんなら要らない位だわ、こんな気味の悪い魔術なんて。ンな事よりアイツよアイツ」

 

「ああ……クリスティーヌはその尊さ故に、我らが消滅するかもしれない危機ともなれば当然のようにその身を差しだし続けるだろう……

故に肝心の時まで情報を隠し、思考能力を奪い「こう動くしか無い」という状況に追い込んでしまう。前座で場が完全に出来上がれば、クリスティーヌは我らの思惑通りに動かざるを得ない……」

 

「どの道オルレアンの詳細は話さなきゃいけなかったし、この程度なら誤差じゃ無いかな。仕込みはマスター達が来る前に一応終えた訳だしね」

 

「そうね……あとはやっぱりブラッドルートと巌窟王。マスターちゃんと……」

 

 

 

 

「やっぱり、あの聖女様次第かしらね」

 

 

 


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