「……どこだここ」
オレの家の周り、全部まっさらな草原なんですけど!?
川ないよ、水どうすんの!?
遠くに山とか森とか見えるけど、まじで、どうすんの!?
「おい」
「え」
誰かに声をかけられた。
家を囲む塀から、いかにも悪党な人が出てきた。
「えーと?」
「お前のもの、全部おいらのモンだああああ!!」
「ぴぎゃあああ!!!?」
悪党がナイフを抜いて襲い掛かってきた!
距離わずか、13M!
こちとらただの一般人で、N――自宅警備員なんだよ!
回避なんて、出来るわけないだろ!?
「(や、やられるッ!)だ、誰か助けてくれえええ!!」
咄嗟に腕を顔の前で交差して、めを閉じる。
――嗚呼……死ぬなら、いっそのこと楽に――
「な、オイ。テメェ、誰だ!?」
!?
オレは拍子外れな悪党の遠い声を聴いて、すぐに腕の隙間からそいつを見てみる。
すると中年っぽい人が、『安全パトロール隊』というチョッキを着て、悪党の両腕を
抑えていた!
「私は地域安全パトロール隊の班長、佐藤だ。
お前こそ、我等のお上になにしやがってんだぁ、ああ?」
「チッ、丸腰中年オヤジに、おいらが負けるかよ!」
悪党は腕を回して、佐藤さんの腕を解いた。
そして後ろに飛びのいて、一気に走りこんでナイフを振り回してくる。
「おっさん!!」
危ない、と咄嗟に声が出ないし、何もできない。
怖くて、当事者になりたくなくて、脚が動かない。
あのおっさんも、すぐに殺され……え?
「力押しだけで、『安全パトロール隊』の佐藤を抜けると思ったのか?」
喉を狙うためにナイフを持った腕を伸ばしてる悪党。
それを見切ったおっさんは、その腕を回避して悪党の手首と二の腕を持ち相手の駆ける運動量を利用。
背中と腰で悪党の慣性を宙へもっていき、そのまま悪党の腕を下ろしながら放り投げる。
「い、一本背負い……!」
悪党は泡拭いて伸びてた。
「子供の安全は、私達が守るのだ」
私服の上に着ているチョッキを正し、毅然と言った。
――
悪党を家にあったロープで締め上げて、佐藤さんと面会。
「えーと、助かりました……」
「いいんだよ、君はここの主だからね」
「は、はあ」
話が見えてこないんだけど。
そもそも、ここどこ?
なんで佐藤さんが、ここにいるわけ?
「まあ、のんびりお茶でものんで、落ち着いて話をしようか」
「え、外で?」
「その方が、今からする話をするにはちょうどいいんだよ」
そういって、オレにお茶が入った紙コップを渡してくる。
「ほうじ茶だよ、のめるだろ?」
「あ、はい」
話?
一体なんだろうか。
オレは家の中で、現実逃避してネット掲示板で悪ふざけをする毎日を過ごしたいだけなんだ。
「どっから話すかねぇ。よし、結論から言おう!」
過程すっ飛ばして、結論から言ってくれる。
別に外は暑くないんだけど、結構近くにファンタジーなまものがいるから
安心できないんだよな……いつまた、襲われるか。
気が気じゃない。
「私は君のアドヴァイザーだ。よろしく頼むよ、靖国総理」
「はい?」
オレ、いつの間にか、総理に?
「いやいやいやいやいや、おかしいでしょ!?
何でオレが、そんな身の丈合わない、そんな、やばいのになるんですか!?」
「君の首相官邸は、この家。いろんな情報が、君の家の中にあるパソコンでできるから、
国を作っていこうか」
「目的は!? 俺はいつ、現実に戻れるんすか!?」
家の中に戻ると、基本的な家具以外なくなっていて、泣いたんだからな!?
今、泣いたぞ!
「時代を作っていけば、また作れるようになるさ。
さあ、首相。パソコンを操るんだ!」
佐藤さんが隣に立って、俺のノートパソコンを見てくる。
一応持ち運び可能だけど、外に行きたくない。
ガンガンに冷えた部屋で、素敵なマイライフを楽しむのだ!
<警報、警報。残り電力が3割を切りました!
非常事態宣言を発動し、非常用電源を作動します>
「わ、わ!?」
「首相。まだ、電気設備も建てられていない今、そんなに電力を無駄にしちゃいかんだろ?」
「はあ!? なんで、時代が下ってんだよ!
つーか、そっちの都合で、おれが此処にいること自体がおかしいだろうが!」
「自分の不遇を理由にして、他人に八つ当たりちゃいかん。
道徳で習ったろ?」
オレの惨めな八つ当たりを、佐藤さんは軽く流した。
「くそっ。電気設備……。全然解放されてないんだけど」
「まぁ、まずはインフラ整備後に、住居を立てる事だな。
ほれ、そこにある『Cities:SkyLines』のようにやるんだぞ?」
スチームで買ったシミュレーションげーム。
こいつみたいにやるって、どうやるんだよ。
「最初は道路区分を敷いて、区画を決めるんだ。
そしていろんな施設を建てる。一番いいのは、インフラ系だな。
次に住居を立てて、人を増やすこと。
すると大人は近くの施設に入って、施設の能率を上昇させそれに見合った資金を住民が手に入れる。
そうやって経済を回して、街を開発する資金を増やし、研究をして行って見事な国にするんだ」
だからなんでこんなことしなきゃいけないんだよ。
仕方ない。涼しく楽な生活のために、開発するか……。
――
オレがこの世界にやってきて、内部時間において一週間ほど経過した。
衣食住はこの家で、なんとかやっていけてる。
ただ食える奴が、全てカロリーメイトとただの蒸留水だけで、
味覚というか娯楽に乏しい。
これらは、いつのまにか机の上にあったりする。
だから見つけたら、同じ時刻に食べて少しでも体を慣らしていってる。
「建築レベル1で、インフラレベルも1。
研究はどうやってするんだ!?」
「まずは水を確保して、人口を漸増させる。
そして衣食住を拡充させていって、村レベルに拡大する。
次にルールを決めて、税金という年貢制度を作り国庫を潤沢にする。
そこから社会主義のように、保険や医療・学校・公共施設を作り上げる。
このように生活基盤が安定してきたら、学校を作って学力を向上させる。
そのあと一定の学力レベルに達すれば、解禁される研究所に人をあてがう。
すると研究が開始されるから、完成まで待てばいい。
残念ながら、首相が行える研究は基礎であるレベル0とレベル1の研究物だけで、
他は研究者の成果を待つしかないんだ」
「くっそめんどい!」
「でも住居区画を設定すれば、最初の人口だけ勝手に増えてくれるよ」
インフラレベルは1。これがオレが建築・行動できる国家の基礎レベル。
レベルが0と1の間には、隔絶された差があってかける費用や時間・効果が段違い。
なによりインフラレベル0にある水資源の確保は、0で直接水くみになる。
レベル1になると、木の桶が開発されて水資源が近くにない場合でもなんとかなった。
「第一産業レベルも0。米は3からか……」
お米はもっともお腹が膨れる穀物。
早めに確保しておきたかったけど、ないものねだりはしょうがない。
「第二産業は解禁されてすらいない。木の桶なんてつくれないじゃないか」
第二産業は第一産業からくる原料を加工するところ。
さらに第二産業で生まれたものを売るのが、第三産業。
基本的に第三次産業といわれているけれど、ここだとこんな風に略称されている。
「涼しい風だなあ」
俺は休憩がてら、二階のベランダから外を見る。
住居レベルは1。基本的に住居の維持コストは、住民持ちなので国庫負担にならない。
また住居レベル1で、横穴式住居とかいう山じゃないとできなさそうなものから、
平地でもできる竪穴式住居が採用される。
きっとこの後、高床式住居・寝殿造り・書院造とかでてくるんだろうな。
それはそれで、発展が楽しみだ。
「靖国総理、村が育ってきたな」
「そっすねー」
「しかし、順応したねぇ」
「涼しいおかげで、パソコンに使う太陽光電力だけで過ごせるし、
なにより住民が勝手に魔物を狩るから、あまり心配してねぇんだよ」
軍事レベルは0。
竹槍なんてなく、ただの棒とか骨・もとからあるとがった石でなんとかやってる。
生活環境レベルも0。
内包される料理や衣服関係も0で、基本的に火で焼くものばかり。
食器も土器ばかりで、縄文という模様は1からになる。
そうだ、以前限りある国庫を使って、産業区画を作ってきた。
そのおかげか、土器や衣類が住民にわたり始めた。
「そういや、住人の種族とかって大丈夫なのか?」
「基本的に首相と同じ種族だね。それと一応隔世遺伝がある。
ただ身内による交配が起こりやすいから、劣等遺伝は発生しないぞ」
となると、色弱者や生まれついての奇病・アトピー患者も生まれないってことか。
医療費が浮くなあ。ただ左手が利き腕の人は生まれる模様。
あれ、環境が関わるらしいから……。
「お、人口200人突破しましたぞ」
「持ち直してくれたか、よかった」
一度一気に住居区画を設定しすぎて、住人が過剰増加。
そこから食料不足や水不足で、民が餓死してしまった。
内部時間的に、約二日前の事なんだ。
遺体とかはちゃんと燃やして、粉々にした骨を袋に詰めて埋葬しています。
鳥葬と土葬は、世界史的にクソだからやらねえ。
「よし……次は……」
「大変だー!!」
「どうした!」
ベランダ下から、住民の一人が叫び佐藤さんが応える。
「クマだ! あっちの山からクマがでた!角が生えてて、既に二人刺し殺されてしまった!」
「わかった、今すぐ行こう! 首相、軍事レベルを1にしてくれ、お願いします」
「やばい奴なのはわかった。仕方ない、上げよう」
というか、今までが平和過ぎた。
オレはこの時を境に、富国強兵を国是にした軍事国家を目指すことにした。
「オレも見に行った方が良いか!?」
「首相様は、そちらにて吉報をお待ちください!」
男性が複数人出てきて、木の棒の先にとがった石を括りつけた槍を持ち、俺の眼下で
叫んで勇み足で駆けていった。
比較的遠くで見えないけれど、遠くに見える黒い点がそうなんだろうな。
佐藤さんや住民の男性たちが、立ち向かっている。
オレはここで、黙ってみているしかない。
戦闘能力は皆無だ。暑い時なんて、体がだるくて動けなかった。
オレがいったって、皆戦闘に集中できないだろう。
うん、オレはここで結果をまとう。
それに佐藤さんがいるんだ、勝ってくれるさ。
――
「勝ちました。死者5名で済んだことは、幸いですな」
「流石、佐藤さん」
勝利の方法は簡単至極。
研究レベル1にあげ、猛毒キノコを木の枝で差してその粉や液をやりに塗り、
目や口・間接に刺すことでころした。
さすがにそんなのが体内に回っているクマを食べるのは忍びない。
よって火で炙って食った。
いやぁ、熱でおわるたんぱく質系の毒でよかったよ。
「皆、クマを使った食事にありついている。
悲しいこともあるが、いいこともあるもんだ」
集落の中心から白い煙が上がっている。
肉と脂が焼ける臭い。良い匂いだけども、きっと味がきついんだろうなぁ。
現代人なオレには、ちょっと無理かもしれない。
だけど、今はいつ死ぬかわからないんだ。
食える時には食っとかないとな。
「ちょっと固い……」
「クマは筋肉質だから、なおさら固いぞ?」
「うげぇ」
しかも匂いと味の癖が強い。
焼かれたクマの骨付き肉を、佐藤さんからもらって食しているが美味しいとは言えない。
とにかく噛んで、噛み千切って丸のみにする。
これくらいしか解決できん。
終わったら、また開発しないとなぁ。
「お?」
パソコンで研究画面を見ると、生活環境に『文化』の項目ができていた。
文化の内容は、『謝肉祭』。
狩猟した動物を、家族や親族を超えた社会・大衆で調理し味わう祭り。
「兵農分離ってのは、どうするんだ?」
「ん? 社会制度の項目にでてくる。でも、今は村の単位だから、
まだレベル上昇はしないし解禁もされないよ」
クマ肉に悪戦苦闘中の佐藤さんは、オレのように噛み千切って丸のみしてた。
しかし……研究していないのに、項目が解禁されたりレベルが上がる事なんてあるのか?
軍事レベル0や1を見てみても、棒とか投石とか色々書かれていて
使用可能なのは明るい背景に染められている。
使用不可能なのは、文字も背景も真っ黒だ。
ただ、次の軍事レベル2の中にある、弓だけ明るくなっている。
俺はこの弓の部分をクリックしてみる。
するとチェックが入る。
きっとこれで、皆が弓を認知するんだと思う。
なんせ軍事レベル0と1の内容全て、緑色のチェックが入っているんだから。
弓は赤色のチェックだ。
きっとレベル2が解禁されていない中、一つだけ解禁されているからなんだろうな。
たぶん、研究はしなくても、誰かが率先して開発してくれれば、研究するために
沢山の時間をかけなくていいんだと思う。
国庫へダメージを与えないのならば、この明るくなっている項目にチェックを入れよう。
学力レベルならぬ、『教育』レベルに。
教育レベル0の中にある噂、レベル1にある口伝、レベル2にある生存学習、レベル3にある知恵の伝達、
レベル4にある大衆教育、レベル5にある植字教育、レベル6にある塾、レベル7にある学校教育、
レベル8にある英才教育、レベル9にある専門教育、レベル10にある通信教育を解禁した。
そう、なぜかこの勉学方法だけ解禁されていたんだ。
理由はわからないけれど、徐々に解禁される項目が増えている。
社会制度は変わっていない。
これは、一度村の中を見てみないといけない。
明日が楽しみだ。
「靖国首相、村におかしなものが立っているが、見に行かないか?」
これは好都合。
かまをかけてやろう。