「おめでとう、君は悪魔と契約した」
「なっ!?」
「君はその力を何に使うのか、見ものだ。もちろん、殺し合いをしちゃってもいいよ?」
そういって、占い師はその場から消えた。
―――
今日は気温が40度を超える真夏日。
ヒートアイランド現象とかいろんな理論があるけれど、
純粋に暑い日。
俺は今、仕事の昼休憩でうどん屋へ行き、かけうどんを食った。
そしてすぐに帰ろうと近道をして帰っていたんだ。
そうすると見慣れない人物が、店番をしていたので接近してみた。
「やあ、お兄さん。何か占いたいかい?」
「すまんな、俺は占いは信じないんだ」
「無料でいいよ、一発やっていきな」
賭博みたいな言い方をするその人物を見て、
若干不信に思ってしまう。
完全にフードをかぶっているし、こんな昼間から一目のつかないところに占い師
をやっている。
清算や生活費はどうしているんだろう?という疑問を浮かべながら、
占いをやってみた。
「ふむ。働きたくないか。そして自分の力で、会社を立ち上げたい。
何か変わったエネルギー等ないか、と探しているが見つからない」
「……よぉわかるな」
占い師は口尻を上げて含み笑いをしている。
なんだかうざいが、当たっているのだから仕方がない。
「ではお兄さん、開運のお守りを一つ1000円で売るよ」
「運命は頑張りで何とかなるって言うのか?
人間一人一人に限界の才能があって、頑張ってもそれ以上にいけない。
だから個人の意思なんてない。この世はまるでジオラマだ」
「面白いですね。では、ガチものを売ろう」
いきなり雰囲気と口調が変化する。
なんだろうと思いながら、一万円を財布から抜き取り占い師に渡す。
「お買い上げありがとうございます。これを飲んでみなさいな」
渡された飴。それを丸ごと飲むんだとよ。
「?」
「くく」
占い師が白い歯と歯茎をむき出しにして、盛大に笑った。
「おめでとう、君は悪魔と契約した」
「な!?」
「君の能力は、『きしょう』を操る力。
その力を巧みに操りたいのなら、同じような能力を持つ者を殺せばいい。
だいじょうぶだ、死体は残らない。なぜなら、悪魔に魅入られているから」
そういって占い師は、その場から消滅した。
オレはあまりの事に、呆然と立ち尽くしてしまった。
そして俺は……正気に戻った時、昼休憩を過ぎてしまったことに気づく。
(やばい!)
俺は真面目に仕事をしていると思うだろうが、この会社はちょっとした失敗
でも悪い意味で持ちあげられて給料を引かれる。
失敗を隠しても、周囲の人間にちくられる。
チクった人間が正確に上司に伝えた場合、給料が増えるというクソ仕様。
そんなこんなで、俺は……履歴書に傷がつくことを恐れた。
だから……この新しく手に入れた能力を使ってみようと思った。
「……ふ。俺は弱くない。能力を持たない奴が弱いんだ。
この世界は、ずるがしこい奴が生き残るんだ」
俺は独り言ちて正当化する。
何を正当化しているのかって?
それは俺が逃げる理由だ。
もともと気が弱い。だから、俺は万全を期してきた。
だけど結局簡単な事で動揺して、失態をさらしてしまった。
「もう終わりだ。 だったら、巻き込んでしまえばいい。
流れればいい……!」
俺が選んだのは、『ゲリラ的集中豪雨』。
選択した瞬間、風が変わった。
それと同時に、積乱雲が多数発生していって、ダウンバーストが発生。
巨大な積乱雲が発生して、小粒の雹が降り雲内放電を多数発生させる。
ダウンバーストにより発生した風は、ビルにあたり吹きおろしと分割風と合流。
太陽により温められたアスファルトが、落ちてきた水を蒸発させ上昇気流が発生。
最終的に風向きにより、雲と大氣が回転を始める。
「ん? おい、ちょっとまて、そんな……そんなの頼んだ覚えはない!」
局地的に豪雨が降れば、遅刻の理由として成り立つかもしれないと思った。
だが俺は心の中で、会社がつぶれればいいと思っていたんだろう。
だからこんな豪雨が、あり得ない気象になってしまったんだ。
きっと、この『きしょう』は、俺の『気性』によって『気象』を操り、
気象観測において『稀少』なものが選ばれるんだろうな……。
だってさ、日本じゃ『スーパーセル』は珍しいだろう?
あぁ、携帯に異常に発達した雷雲が発生、豪雨に注意ってなってる。
更に瞬間最大風速が、34M超えている。
既に一部のガラスが割れている。
裏路地にいるけれど、外にいるのは危険になってきた。
「どこ……どこかに避難を……」
避難先を決めようと周囲に目を配る。
するとこの裏路地に、今まで見たことのない人物が道路の真ん中に立っていた。
「……」
「……」
その人物は合羽も傘も使わず、ずぶ濡れで俺に向かって歩いてくる。
なんでそう言い切れるのかって?
普通この道路を渡るだけなら、俺がいる真ん中を避けていくだろう?
来るな。来るなよ……。来るんじゃねえよ……!
俺はその人物を見るだけで、逃げようとしなかった。
一つの事に集中すると、他の事ができないんだ。
だからその人物の動向に注視してしまっていて、逃亡することができない。
この癖は治したかった。
だけどすでに遅し。
彼は俺の目先3Mほどにいた。
「よお」
「な、なんですか?」
「お前、能力者か?」
「へ?」
俺が無意識に間抜けな返答をすると、違和感を感じて身をかがめた。
「お? 俺の殺気が強すぎたか」
彼は手にコンバットナイフを持って、腕を突き出していた。
嘘だろ嘘だろ嘘だろ、どうなってんだよ。
あれか、能力者を殺せば能力を制御でき、更に高みへ登れるっている虚言か!
「な、な、な」
「おんやぁ~? お前、まさか狙われる理由、知らないのか?」
俺はあまりの事に考えが追い付かず、ただ何度もうなずくだけ。
声質から男性。
そんな彼は俺の憔悴状態を見て、呆れたような態度をしている。
「まあ、冥途の土産に教えておいてやるよ」
ナイフを持つ手を引いて、俺にその死んだ目を向けてくる。
注視してみると、その服には血痕がついていた。
まさかと思うけれど、今日一人やったのか?
「俺たち能力者は、殺すことでさらに強くなるんだ。
ああ、強くなる理由は、金でむさぼる奴らに対抗するため。
さて、これで殺される理由もわかったろ?
じゃあ、さっさと死んでくんね?」
そ、そんな快楽犯の欲望で、俺の人生が終わってたまるもんか!
「く、来るなあ!」
その瞬間風が変化して、俺の背後から突風が吹き荒れる。
不思議とその突風に、風が煽られることはない。
「チィッ! またうまそうな能力だな!」
彼は全力で走ってくる。
その手にはコンバットナイフ。
俺はその武器に目が奪われて、体が動かない。
逃げろ逃げろ逃げろ! 逃げられない!
「だ、だめだ……!」
死ぬ!
と思ったら、痛みも何もない。
「あれ?」
とっさに痛みに備えて目を閉じていたんだけれど、
眼を開けてみたら目の前で電柱に頭を打ち抜かれた彼がいた。
既に足元に血だまりを作っていた。
「ひ!?」
救急車なんて呼ぼうと思わなかった。
俺はすぐにその場から逃げた。
もうこれ以上、平穏な日々が変わるような事はごめんなんだ!
俺がついに背を向けて、必死に逃げる準備ができたとき、それが起こった。
空間が引き裂かれたような、猛烈な破裂音が周囲に轟いたんだ。
轟音は背後。
驚愕で咄嗟に後ろを見てみたんだけど、そこには真っ黒こげな彼がいた。
そして猛烈な豪雨と風により、その消し炭は燃えカスとして消えていった。
「もう、いやだ。せめて、晴れてくれ」
俺はもう、疲れた。
彼は能力者だったらしい。でも、全く分からなかった。
そもそも強くなったり、制御しやすくなった感じがしない。
だってさぁ、まだ『スーパーセル』は活動しているんだから。
俺は全てが終わった3時間後、この場所にやってきた。
ただ全身が濡れていて、腰下まで水に浸っている。
<おめでとうございます。あなたは、能力者から能力を一つ取得できます>
「奪うの間違いじゃないのか」
システム音声らしく、何も反応はない。
嫌味ったらしく、怒りをぶつけるように吐き捨てた。
彼がいたらしい場所には、光る何かがあった。
これに近づくと、新たな力を選択できるようだ。
彼の能力は、『けんし』。
剣士・拳士・検視・犬歯・繭糸等の中から、たったひとつだけ得られる。
一つだけでも、十分俺自身の強化につながる……。
ん?! 強化? 何を想っているんだ、俺は!
強化じゃなくて、身を守る為の仕方ないことなんだ!
「銃刀法違反になりたくないし、ここは『拳士』でいいかな」
テコンドーだっけ?
近接護身術を得られてよかった。まあ、身の守り方さえ、素面でできないのがつらい。
この後、俺は警官のボートに救出されて、近くの山にあるテントにて服を乾かした。
死傷者は数人。史上最大の短時間豪雨になって、この都市は水に浸かってしまった。
しかも沿岸部だから、水が全て塩分を含んでいて乾かしても、傷んだりべとべとしたまんまだ。
俺の語彙力がないから、稚拙な表現で床上浸水だけに聞こえると思う。
でもインフラとかライフラインが死んでいるんだよね。
ほかにもビルが真っ黒こげになったり、火事になったりもしてる。
更に工業地帯のガスタンクに落雷があって、大規模な爆発が連鎖して発生。
総被害額が億を超えてしまっていた。
「普通に晴れてくれ」
『スーパーセル』だった積乱雲は、積雲になって鱗雲になって雲量2ほどになって晴れた。
「後はもう、自由に」
これで通常に戻ったかな。
でも数日後、また仕事かぁ。
まあ、仕事先があればの事だけども。
だからもったいないけれど、違う場所に引っ越しするしかないかもしれない。
「まあ、自宅は無事だけどさ」
山の中腹にある不便な場所にある。
百メートルレベルの津波が来なければ、きっと大丈夫。
そんな場所に俺の家はある。
こんな天災が収まったら、すぐに帰って準備しないとな……。