ネタ帳的な何か   作:名無しの権左衛門

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ポケモン現代

1:はじまり

 

「新田君、進学希望は……」

「ありません」

「し、しかしだね……」

「僕は就職します」

「中卒だと、先は見込めないよ?」

「今すぐお金がほしいんです」

 

……

 

 僕は中学校から帰路につく。

 

 どうも、僕は新田義輝。

え、名前が古臭いって?

将軍様の様に偉くなりなさいっていわれた。

たぶんそう意味だと思う。

 

 しかしまぁ、なんていえばいいんだろう。

 

 いつの間にか、日本も学歴社会になっていたんだね。

すぐに日雇いとか、お金がすぐさま入るシステムはいいと思う。

僕のような馬鹿にとって、小賢しい社会は生きにくいよ。

 

 あーあ、こんな社会なんて、根本から変わればなぁ。

 

「グルァウ」

「きゃあっ!?」

 

 僕は鼻先が赤く、全身真っ黒で目つきが悪い犬を横目に見ながら、

リードを放された女性を見る。

 

 ん? 鼻先が赤い?犬?

 

「ウォオオオ!」

 

 その不吉にも真っ黒な犬は、遠吠えと共に火炎を口から空へ吐きあげた。

 

「ヤバイ」

 

 僕は命の危険を感じ取って、脱兎の如く家に帰る。

 

 広い道から細い道に入って、裏道へ入る。

そこからだいぶ行った先の十字路を左へ行けば、そのまま帰れる!

 

「「うわあああ!!?」」

 

 僕と十字路で右側から鉢合わせたお兄さんは、十字路中央に

降りてきた全身緑色で前脚がカマになっている等身大のカマキリを見て絶叫した。

もう頭の中はこんがらがって、心臓の鼓動と死への序曲が耳の中を支配していった。

 

「エアァァアア!!」

 

 風を切る音と甲高い声を聴いて、頭をもたげて空を見る。

そこには太陽の光を反射する金属光沢を思わせる翼を持つ鳥が、

大空の覇者と言わん限り縦横無尽に飛んでた。

 

 僕はその声で自分を取り戻すことができた。

 すぐに踵を返して、元来た道を走って別の道をさがす!

あのお兄さんの事は、知らない。今は自分の事でせいいっぱいなんだ!

 

「ポッポ!」

「ピジョッ!」

「クルック!」

「ハボッ」

「ヤドォ」

「ヤンヤン」

「キノ?」

「エーレブー!」

「ゼニッ!」

 

「ヒイイッ!!?!?!?」

 

 突然湧いて出てくる不可思議な生命体達。

そもそも生命体なのか?

そう思えるものばかり。

 

 そして僕はもしも日本だけでなく、世界がそうであるならば

まさしく破滅への序曲が奏でられる瞬間を垣間見た。

 

「カゲエエエ!!!」

 

 ひどく怒った全身橙で、しっぽの先に火がともったトカゲが火炎を吐きまくっている。

その先には、電線。

更には、電柱・車……。

 現代社会にとって、大事なものが真っ黒に焦がされ溶かされていく。

 

 更に次に見る生物で、ようやく僕は理解しパソコンで情報の印刷をしようと決めた。

 

「ピッカッチュウ」

「ピ……? あ、危ない!」

 

 僕はとっさに、火で溶かされた電柱がドミノになって倒れてきる矢先に、立ちすくむその生物を

抱えて直ぐに通り過ぎる。

 

「だ、大丈夫!? って、野生生物に、人間の匂いを与えちゃダメじゃん!」

 

 爪弾きにされるよ、僕のあんぽんたん、ばかたれ!

 

「ピカッ ピカピッ」

 

 僕が一人で勝手に一人芝居をしていると、ピカチュウが何やら身振り手振りをしている。

 

 と、とにかく、自宅まで走って、自室で聞くことにする。

 

「ただいまー!」

「おかえりー、お兄ちゃん。ちゃんとハンガーにつっておきなよー」

「分かってるよー!」

 

 今日も自宅で療養中の妹の言葉を、簡単に切り上げたらすぐに自室にこもった。

そしてパソコンとインクジェット印刷機・印刷用紙を用意して、彼ら……

つまりポケットモンスターに関する全ての情報を取り寄せて印刷をして行く。

 情報の順番待ちなんて気にしない!

 今はまだインフラが大丈夫。

まだ大丈夫な今だからこそ、関係ないのもあるけれど全部降ろす!

 

 もしもポケモンだけじゃなくて、アイテムとかそこらへんが出てきたら使い方がわからないなんてことが

あったら、困るのは僕……もそうだし、皆が困っちゃう!

 

「ピカピ!」

「あ、ごめんね、ピカチュウ。どうしたんだっけ?」

 

 言葉遣いがおかしいのは、インフラ限界まで時間の猶予があるのかわからないから。

 

「ピカピ、チュウ、ピッカッチュウ」

 

 つまり、助けてくれてありがとう?

 

「どういたしました!」

 

<ピンポーン>

《主要電源より未接続になりました、貯蓄電気に切り替えます》

 

 自宅が太陽光電池で発電する方式でよかった、と今すんごく思った!

 

 

 

 そして僕は3時間にわたって、膨大な数の資料を印刷した。

基本的なポケモン802種類に加えて、200種類に上る異種・アイテムや教育論・

ポケモン図鑑等の説明といったもの。

 これらを集めきって余韻に浸っている時、ついにその時が来てしまった。

 

<インターネットに接続できません>

 

「あぁ、ついに……」

 

<ピーピー ピーピー>

 

 あ、僕の部屋につけられた子機が、呼び出し音を出してる。

なんのようだろう?

 

ガチャッ

 

「何?」

<お兄ちゃん、インターネットとか繋がらないから、アンテナ曲がってないか見てー>

「だいじょうぶ、なんも触ってないし動いてない。

それよりもいい加減TVつけるか、外見ろ外」

<外?―(カーテンを開ける音)― ファッ!? ナニコレェ!??!?>

 

 病床に伏せているから、知らなかったんだろうなぁ。 

しかしこれからどうしよう?

こんな混乱だと、仕事どころじゃなくなっちゃったぞ?

 妹やお父さん・お母さんのために、進学を蹴ってまでして治療費用を確保しようと思ったのに。

 

 はぁ、お先真っ暗だよ。

 

「ピカ……?」

 

 膝を抱えている僕を、心配そうにこえをかけてくるピカチュウ。

なんとなく僕は、心配してくれるピカチュウを撫でた。

 

「チャ~」

 

 下あごのところとか、色々。短い毛があって、さわり心地がいい。

 

「ピカチュウ、これからどうなっていくんだろうね?」

「ピッカピカ チュゥピッカ!」

「なんとかなるさ? なるようにしかない?」

 

 今はちょっと引きこもっておこうかな?

 

<ちょっとお兄ちゃん、電話切れてないんだけど>

「あ」

<それと外にいる生物そこにいるんでしょ? 出頭しなさい>

「仕方ないなぁ。でも、安全とはいえないから、ペースメーカーのある

七海には絶対触らせないよ」

<え~>

「この子、電気ねずみポケモンだからさ」

<やっぱり?>

「そうだよ」

 

 妹もポケモンは、エメラルドまでやってたことがある。

きっと、エメラルド時代までのポケモンを見つけて確信したんだろうな。

 

<お兄ちゃん、寂しいから下まで来てよ>

「ピカチュウに触りたい口実? だーめ!」

<えーいいじゃん>

「だめなもんは――」

 

「ピカッ ピカチュウッ」

 

「え、元気づけたい? しょうがないなぁ、もう。

いいかいピカチュウ、僕の妹は病気中なんだ。決して、電気を放っちゃいけないよ」

「ピカッ!」

 

 僕は元気に返事をして頷くピカチュウを見て、一応信じてみた。

 

 彼(尻尾がハートじゃないピカチュウ)を抱えて、一階へ降りてリビングに向かう。

正確には、リビングと直結している七海の部屋なんだけどね。

 

―(木製のドアを横に滑らせて開き、閉じる音)―

 

「あ、来た来た♪」

「楽しそうだね、七海」

「うん。ずっとTVとパソコンが、私の世界だったから」

 

 新田七海。

僕より二歳年下の妹。

 

 幼いころより心臓の筋肉が発達せず、成長による肉体の拡張で、

末端まで血液を送り出せなくなった。

現在はペースメーカーのおかげで、安全な生活を受理できてる。

 だけどこのペースメーカーを植え込む前、この特異な心臓病に気づけず

肉体の一部が壊死寸前の先端不随になってしまった。

 

 結果体つきは小さく、脳の一部も血が行かないおかげで脳梗塞になり、

ホルモンも十全に発揮されてない。

 その結果13歳なのに、まだ二次性徴しておらず一部記憶障害があるくらいの女の子に

なってしまったんだ。

しかも指を動かしづらく、半身不随となっているんだ。

 あまりの辛さに、安楽死をさせようとか言ってたけど、

まだ死への選択に関して法案が整備されてなかったから、

七海が殺されることはなかったんだ。

 

「この子がピカチュウだよ」

「ぴかちゅう?」

「サトシの相棒」

「ああ!」

 

 七海がまだ健康だったころ、よくポケモンの映画にお母さんと一緒に行ってたんだ。

懐かしいなあ。

 

 僕は再度ピカチュウに、電気を放たない事を約束してもらって

七海に抱かせる。

短い毛が生えているようで、さわりごこちがいいんだよ。

 そう思っていると七海も、ピカチュウの抱き心地に気づいたのかペットかのように触る。

 

 七海の朗らかな表情を見ていると、自宅にあるじいちゃんのために置かれている

緊急避難警報がなり始めた。

 

―(けたたましい警告音)―

 

 警告音が二回止むと、スピーカーから初老の男性の声が聞こえた。

 

<緊急避難指示が発令されました。緊急避難指示が発令されました。

指定の避難所に、貴重品や寝泊まり具を用意して避難してください。

 緊急避難指示―ノイズ―>

 

 僕はその警報を止めた。

 このうるささに、ピカチュウと七海がびっくりしてちょっとした静電気と共に、

心拍数が上昇したのを見たからだ。

 更にこの後自宅に電話がかかってくる。

誰もいないから、僕が出るしかない。

必然的に、ピカチュウと七海の視界からいなくなる。

 

(だいじょうぶかなぁ?)

 

 心配しかないけれど、お父さんやじいちゃんかもしれないから出ないといけない。

電話線はまだ繋がっているってことを、確認できただけでも嬉しいんだけどね。

 

 僕がピカチュウの方を見る。

彼はきょとんとしてた。

なら、安全かな?

 

 僕はリビング側のスライドドアは開けっ放し。

リビングに行って、電話の受話器を取る。

 

「もしもし――」

「義輝! 無事か!?」

「あ、ああ、うん。大丈夫だよ、お父さん」

 

 なんか焦ってるみたいだから、なるべく落ち着いた声で話す。

変な焦燥感は、下手な事故を生み出しやすいって心理学の書物に書いてた。

 

「七海も無事か!?」

「自宅が太陽光発電システムなの知ってるよね?」

「ぁあ。そうか、よかったぁ。じゃなくて、お前たち絶対外に出るんじゃないぞ!?

お父さんは今、公衆電話からかけてるが道は混雑、他のインフラは電気が消えて

帰れる状況じゃない! だから、自動車で帰ってくる父さん(じいちゃん)とかあさんの

いう事をよく聞くんだぞ!? いいな!」

 

「勿論だよ。七海は、僕に任せて!」

 

「それでこそ、七海の兄ちゃんだ……!

後の人がつっかえてるから、これで終わりにするが命を大切にな!絶対だぞ!?」

「わかってるよ。お父さんも、下手に焦ってつまずかないでね?」

「おう、もちろんだとも!」

 

―(通話が切れるノイズ)―

 

 お父さんは都心の方に遠距離通勤してる。

片道46分のJR通勤。わざわざ都内じゃなくて、家賃や土地代が安い田舎に家を建ててる。

ボーリングで地質調査・気候調査をして、天災で被害を受けにくい場所になってる。

 それでも今回のポケモン騒動は、予測不可能な領域。

どうしようもできないよ。

 

「七海ー、お父さんからだった――」

「チュウウウ!!!」

 

―(見た目高電圧な電気が、空気を引き裂く音)―

 

 

「――は?」

 

 リビング側から戻ってきたから、七海がピカチュウを抱えているところが見える。

普通ならば、七海は返事をしてくるがそこには、上を見て白目をむいている七海。

 

彼女の膝の上には……笑顔で七海を感電死させたクソネズミがいる。

 

「――おい」

 

 ボクは近くにあった仕舞い忘れられている錐を手にもって、クソネズミに近寄ってぶっ殺そうとする。

思いのほか、ボクの頭は冷静で。

口から泡を吹いている大事な妹を、しっかり受け止めながら敵を確認できた。

 あとはヤるだけだァ。

 

「クソガ――」

「待って!!」

 

 錐をもってクソネズミに突撃しようとすると、死んだはずの妹が動かないはずの手のひらと指で

クソネズミをとらえて、動かないはずの左腕と右腕でピカチュウを抱擁した。

 

「だいじょうぶだよ、お兄ちゃん。

ピカチュウが、治せるって言ったから……」

 

「は?」

 

「ピカァ……」

 

 件のピカチュウは、七海に抱かれて苦しんでいるみたいだけど、話すように見えない。

 

 

 

 七海は口元を僕が持ってきた手拭いで拭きとる。

そして動かない筈の手と指を動かして、茶碗を手に取り繊細な動きを要求する箸を丁寧に扱う。

妹は自分がねていたベッドから脱出して、リビングにある椅子に座り机の上にある食事を

ゆっくりと胃の中に放り込んでいく。

 

「本当に、何も、ないんだね?」

「うん。元に戻ることもないよ。だから安心して?」

「ピカピカチュ」

 

 七海の隣に顔と手を机の上に出しているピカチュウ。

 何を思っているのかわからないけれど、笑顔でしっぽを左右に振っている。

たぶんきっと、七海が元気になったから嬉しくて仕方がないっている感情表現なのかな?

不思議だらけだけど、ピカチュウは七海と仲がいい。

 うん。

 ちょっとだけ信じることができた。

相談もなしに突発的な行動をされたから、まだまだ猜疑心に溢れてる。

それでも、七海の病を打ち消してくれたんだ。

だからその報酬というか、対価をいうか……仕方ない、任せてみようかな。

 

「なぁ、七海」

「ん、なぁに?」

「この後宿題をやるから、つきっきりになれないんだ。

だから、ピカチュウと一緒に、遊んでてくれるかな?」

 

 僕はピカチュウにも目を配らせる。

すると質問を終えた途端、ピカチュウが七海の膝の上に移動した。

 

「ピカピカッ!」

 

 胸の前に握りこぶしを作った前脚を持っていく。

まるで任せて、とでもいうみたいだ。

 

「ピカチュウ、一緒にいてくれるの?」

「ピカッ!」

「わあ! ありがと!」

 

 箸をおいて七海はピカチュウを抱擁する。

 妹は朝や昼の時間帯、入れ替わりはあるけれど家をよく空けている。

おかげでさみしがりになってしまった。でもピカチュウのおかげで、

その心の隙間を狭くすることができる。

 

 

 

 僕は食事後、ピカチュウに七海の事を任せて、家事をして宿題を終わらす。

 

「ふぅ……」

 

 欠伸と体を伸ばしていると、家全体が揺れる音がした。

床を中心にした低い音。

場所はすぐ隣の部屋。つまり、七海の部屋だ。

 

「七海?」

 

 顔をのぞかせると、そこには床に尻もちをついた妹と七海を心配そうにみるピカチュウがいた。

 

「あ、お、お兄ちゃん、ちょっと手、貸して?」

「いいよ。どこに行きたいんだい?」

「トイレ……」

 

 僕は筋肉量が低下している妹をトイレへ連れていく。

 

 

 

 さて……通信手段が何もないし、よし、寝よう!

 

 あ、でも、帰ってきた皆のために、ピカチュウと七海の事について書いておこう。

 

「七海? 僕、もう寝るから」

「え、寝るの?」

「うん。外はポケモンであふれかえってるけど、明日学校だからね」

「そっか……」

 

 溜め撮りしているテレビ番組を、ピカチュウと一緒に見ている妹に告げる。

寂しそうにしてたけど、ピカチュウがいるから大丈夫かな。

 

「ピカピ、ピッカッチュウ」

 

 身振り手振りで、ピカチュウが妹に何かを伝えようとする。

七海は七海で、しきりに頷いてる。わかるの?

 

「え、でも、邪魔じゃないかなぁ」

「チュゥピッカ!」

「う、うん、そうだよね! というわけで、お兄ちゃん! 一緒に寝よ!」

「え、あ、いいよ?」

「やったあ!」

「ピッカア!」

 

 え、何、二人ともそんなに意気投合したの?

早くない?しかも完全に会話できてるよね、これ。

それとも、”考えるな……感じろ!”ってやつか?

 兎に角お父さんたちに、言伝の手紙を書いてから豆球を点けて寝る。

 ピカチュウは枕元で丸まり、七海を壁側に寄せて狭いベッドから落ちないようにする。

 

「おやすみなさい、お兄ちゃん、ピカチュウ……」

「おやすみ、七海」

「ピカァ」

 

 僕らは深い眠りに落ちていった。

 

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