1はじめまして
とあるオンラインショップの仕分けにて。
「あ、やっべ。どっちがどっちかわかんねぇや」
「大丈夫だろ。駄目だったら返却してくるはずだしな」
「それもそうか」
……
運送業者が間違えてしまった送り主の一人。
彼は古臭いアパートに住んでいる、安月給な独身男性である。
「うーん。Dominoあきたしなぁ。ボカロの安い奴でも手だしてみようかな?」
何年か前に購入したi7ノーパソで、オンラインの音楽系ショップを覗く。
「最新型のV5で、一万円程度の発見。これにしよう!」
そして音声ライブラリと共に、8600円程度のエディターも購入。
それと同時に彼自身の嗜好品の量も、それ相応に削らなくてはならないことが確定した。
数日後、それは休日であった。
おかげで最初から、じっくりとねっとりと隅々までいじることができる。
アパートの前に、郵便バイクではなく運送トラックが止まる。
安月給やいろんな事情を抱えた人間が集うアパートに、異質な重々しさがあった。
周辺の暇人や定年し離婚金をとられた年金爺さんが、その存在を注視する。
ビザ切れ違法滞在者やホームレス日雇い労働者も、何事かと思い顔をのぞかせる始末。
なぜなら、そのトラックの他にも、数台の車が続いて停車したからだ。
車とトラックから人が出てきて、茶色の小さな封筒に大きな段ボール?箱。
こんな仰々しいものを、夕方に運び込まれる。
ピンポーン。
「宅配便です」
「はーい、今出ますよ! え?」
注文した彼が玄関口をあけると、そこには黒服と宅配業者がいた。
あまりの事に意識を手放していると、深く帽子をかぶった男性が封筒を渡してきた。
「ご注文の品です。それと、サインを」
「え、あ、はい」
いわれるがまま、流される。
「それと、今回の商品の特典として、こちらを持ち込ませていただきました」
黒服黒メガネがたいMAXなスキンヘッドが、拒否権なんてねえよといわんばかりの威風を浴びせる。
これにたじろいだ彼は、何度もうなずいた。
これに満足したのか、彼の狭い部屋に段ボール箱を運び込んでそのまま立ち去った。
「では、我々の研究に携わっていただくということで、こちらをお納めください。
パスワードは、中に入っておりますので」
怪しさ満々なので、渡された黒いカードは大事に保管しておこうと決意した彼であった。
そして、なんか色々あって、彼は引きこもることにした。
そう、注目されたのだ。
すぐに隣の住民から、聞かれる。
「お前、そんなすごい奴だったのか?」
「……ちょっとクーリングオフしてくる」
「やれると思ってんのか?」
住民は走り去ったトラックらの影を見る。
「……誰だよ、間違ったやつ……」
「俺は何も見なかったことにしてやるから、そのカードと段ボールは隠しておけよ?」
「ありがとうございます」
「おらおら、てめえら帰った帰った」
隣人のおかげで、注目を回避することができた。
だがこの後の事で、結局注目を浴びることになってしまう。
古いアパートなので、壁が薄いのだ。
「はぁ……散々な目に合った」
部屋に戻ってため息をつく。
そうそうこんな目に合うのだ、やる気がなくなっていってしまう。
それでも新たに手に入れたおもちゃだ。
遊ばなくてはもったいない。
それとこの段ボールの中身もみなければならない。
確認しなければ、戻すときの文句も言えないからだ。
「よし、オープンチェストから始めようか……」
玩具はいつでもできるが、クーリングオフは一週間未満。
その前にこれを調べ上げ、返すときに色々文句をいって返礼の金をせしめるのだ。
「オープン!ごまだれ~……ん?」
開けてみると、そこには等身大のダッチワイフ……チャイルドがあった。
膝を抱えた状態で、奇麗な青の頭髪を生やしている。
造形は非常にきれいだが、これがもし一般家庭に届いていたらと思うと寒気が走るのだった。
「危うく離婚の危機になるよな、これ。おれでよかったな、ほんまに」
彼は本体以外に、色々見る。
見ていく中に、商品説明が書かれた起動のための説明書が……。
「起動……!? こいつ、動くのか? そういや、休憩中にクローンとか、機械人間の人権がどーのこーのってあったな」
そう考えつつも、他の場所を開く。
生命維持装置・肌着・下着・ミュージシャンによくある派手な服。
「あん? この服どっかで……」
そう思いパソコン画面を見る。
そこには音街ウナのパッケージが写っていた。
「まさか、こいつが音街ウナなのか」
そういって色々見ていく。
まずこの人形自体が、衰退したボーカロイドに繁栄を齎す為作られた本当のボーカロイドであること。
起動時に体を障る必要があるが、触った部分によってマスターへの忠誠心などが変化する。
接触部位の差異については、説明書に追記されていない。
生命維持装置は最初の一週間に使うことで、環境に適応させられる。食事は与えなければならない。
11年間、歌にのみ心血を注がせた為、一部の常識が欠如している。
よってマスターが育てなければならない。
クーリングオフは無効であるが、何か故障や病気になればワクチンソフトや再構成ソフトの無料送還は可能。
また人権や国籍を得ている為、医療機関などの利用が可能。カードは説明書に貼っている。
この事を国家権力や故意に拡散すれば、守秘義務の観念で処理される。
しかし上記における目的である、ボーカロイドのすばらしさ・優位性を伝え普及させるのであれば、身バレしない程度に青空演奏が可能。
またマスターへの忠誠心を、本能的に刻み込んでいるが万が一があるので、
ナイスボートをされないように。
「殺す気か」
最後に黒のカードには、迷惑料なども含めて一千万入っている。
送られてきたボカロのために使ってもいい。
「よし決めた。この子には、人並みの生活をしてもらおう。そうしよう」
そういって彼は、彼女の頭を撫でた。
<ボーカロイドナンバー****――――音街ウナ、起動します>
いきなり口と目を開いて、起き上がる。
すぐに手を引っ込めて、行動を阻害しないようにする。
<あ、あ、あーー。……おはようございます、マスター」
「おはよう、音街ウナ。そして、初めまして」
「初めまして」
無機質な彼女が起動した。