萌えっ娘もんすたぁ えっくすわい 作:三上
のどかなアサメタウンに、朝日が昇る。
澄み切った少し肌寒い空気に、窓から差し込む光明が一日の始まりを告げている。
うーん、文句なしののどかな朝だ。
もう少し毛布にくるまってうとうとしていたい。
警告1。
ばさばさ音を立てながら、ヤーちゃんが入室してくる。
俺の脳内でターミネーターの例のBGMが流れ出す。
この時点で起き上がれば彼女も鬼じゃないので軽くじゃれ合うだけで終わる。
いやでも、マジで今日は常軌を逸して眠い。
ここに引っ越してきて最初の朝だし、昨日は荷物の荷解きですげえ疲れたもん。
もうちょっと寝かせて。
警告2。
ヤーちゃんが控えめにチュンチュン鳴き出す。
控えめに、ってとこがポイントなんだよな。
ヤーちゃんはとんでもなく育ちが良いので鳴き声上げててもちょっと上品。
これでは睡眠を妨げるどころか睡眠導入BGMになってる。
ダミーヘッドマイクで朝の環境音ASMR動画投稿すれば広告収入で小銭稼げそう。
これが最終警告である事が分かっていても目が覚ませない。
もう意識失いそう。
そしてヤヤコマ、ヤーちゃんのくちばしが、今日も鋭く俺に突き刺さる。
「ヤーッコヤッコーッ!」
……痛い痛い、実はねヤーちゃん、ここだけの話そのくちばし結構突き刺さってるんだ。
鋭角に抉ってる人体を。
命獲りに来てるのかと思ってたもん最近まで。
できればその過激極まりないモーニングコールやめて……はい分かりました、俺が早起きすれば済む話だね。
起こしてもらってる分際で生意気言ってすいません。
とにかく、おはよう。
今日は、俺が合法的にポケモンを持てるようになる記念すべき日だ。
この世界の成人は10歳。
法的には俺も晴れて大人の仲間入りとなるわけだ。
ゆったりしたパジャマを脱いで畳み、拘りの丈感の合った青スキニーを履く。
インナーとして首元の開いたVネックの薄いシャツを着て、青地に太いホワイトラインの引かれたジャージを重ねる。
拘りは、ジャージの上だけを羽織るのではなく完全に重ねてしまう事。
チャックを上まで全て閉めて、完全にインナーを見えないようにする。
最後に赤いキャップを浅めに被って特製の遮光サングラスをのっければコーデ完成。
このコーデでサングラスはせっかくだけど添え物だ、掛けたりはしない。
……ダサいとかいうなよ、活動的でいいだろ。
「おはようカルム、引っ越しの疲れは取れた?」
「バッチリ。そっちより、今朝もヤーちゃんのくちばしの方が被害が甚大かも」
母さんは相変わらずヤーちゃんのモーニングコールにノータッチだ。
なんせトレーナー時代から数えても一度も喰らった事がないらしい。
何で俺だけ……
今朝も俺を起こしてくれた手のひらサイズの小さいとりポケモン、ヤーちゃんことヤヤコマはマジで遠慮を知らない。
後々まで痛みが残る箇所を的確に鋭く抉ってくる技術は、母さんと全国各地を旅して周っていた頃の名残り。
起きた(激痛とともに無理矢理起こされたともいう)時に合う曇りのない目を見ると、彼女に悪気がない事は分かるんだけど……なんでファイアローに進化してないのか未だに分からないような、そんな俺達の大切な家族だ。
「朝ご飯食べたら、早いうちにお隣さんに引っ越しの挨拶しちゃいなさい。持ってく菓子折りはそこに用意しといたからね~」
ご近所付き合いという奴。
面倒な用事というのはいつだって早めに済ますに限る。
このスクランブルエッグをヤーちゃんと一緒に食って歯磨きしたらすぐに向かおう。
「きゅきゅい♪」
ヤーちゃんにもご近所付き合いとかってあんの? ないか。
ヤーちゃん真夜中に囀って迷惑掛けたりとか一切しないもんな。
生活リズムもほぼ俺達と一緒だし、もうヤーちゃんって鳥感あんまないよな何でも食うし。
スクランブルエッグだってぶっちゃけ共食いじゃねとか最初の頃は思ってたけど、もう気にしなくなったわ。
ポケモンって皆こんな不思議生命体なのかな。
「おはよう、アサメタウンにようこそ。私はセレナ。あなたのお隣さんよ」
「あたしはサナでーす♪ これからよろしくね!」
歯磨きしてから、怠けたがる身体に鞭打って家から一歩外に出た瞬間このエンカウント。
流石にちょっと面食らったけど、こっちから出向く手間が省けたとも言える。
なんなら同年代のかわいい女の娘二人を朝から拝めて眼福眼福。
人生捨てたもんじゃないなまだまだ。
「えっと……うん、引っ越してきたカルムって言います。よろしく。今菓子折りもう一箱持ってくるから、ちょっと待ってて?」
「えっ? ううん、そんな大丈夫だよ、気遣わないで~! っていうか初対面で最初の言葉が菓子折りって、君もしかして……天然さん?」
「お隣さんだって、サナにだけは言われたくないと思うわ……」
ひどいよ~、と器用にも家に戻ろうとする俺を引き留めながら後ろのセレナちゃんに噛みつくサナちゃん。
もうこのやり取りだけで二人の普段の関係性が窺えるというもの。
元気一杯の天真爛漫褐色ツインテ少女サナちゃんと、何だかんだ言いながら傍で優しく見守る素直クール系世話焼きツンデレポニテ少女セレナちゃん。
良いコンビだ。
(尊い……)
(……?)「あのね、私達はあなたを呼びにきたの!」
え、何の用件があって?
引っ越し初日から面貸せよみたいな案件だと怖すぎるのでそうじゃない事を祈るばかりなんだけど。
地方には地方のルールがあるし、郷に入っては郷に従うつもりだ。
「あなたの引っ越してきたこのカロス地方にはプラターヌさんという立派なポケモン博士がいらしてね、その博士が私達にお願い事をしたいんですって」
おお、セレナちゃんの今のセリフはめちゃめちゃ博識っぽい。
こっちじゃ当たり前の知識だとしても俺はアウェー感全開の余所者なので新鮮に聞こえるよ。
綺麗なブロンドの髪にも緩くウェーブが掛かってるし、服も上品でセレナちゃんちょっと深窓の令嬢っぽいんだよな。
実際どうかは知らんしそんな事が訊ける程まだ仲良くないけど。
「とにかく、隣町に行こっ! そこでポケモンがもらえるんだって!」
ショートパンツから大胆に露出しているほっそい御御足が綺麗で。
肩から掛けているバッグを揺らして、足先のローラーシューズみたいなピンクの靴は踊るように忙しなくしている。
今にも走り出しそうなサナちゃんは全身から"楽しい"を放出していて、未知に対する夢と希望をその小さな身体にいっぱい詰め込んでいて。
眩しい、って思った。
この娘はなんか、太陽の擬人化とか言われても疑わない程眩しい。
小さい頃から庭とか学校とか駆け回ってきたタイプだ。
近くに居るだけで溶けたりとかしないかな俺。
不安。
「……お隣さん? まだ、準備出来てなかったかしら? サナはもう先に歩き出してるし、私一人でもここで待つわ」
「……大丈夫。サナちゃん、凄い娘だね」
「……ええ。私の自慢の友人ですもの」
面食らったような表情の後、誇らしげに笑みを浮かべるセレナちゃん。
自分の事を褒められたかのように少しはにかんで、でも堂々とした表情のセレナちゃんと既に走り出しているサナちゃんの後ろ姿を交互に見て、本当に良い関係だなと自然に笑みを浮かべてしまう。
俺も誰かとこんな信頼関係を築けるだろうか。
「二人とも早く~!置いてっちゃうよ~~~!」
セレナちゃんと二人、顔を見合わせてから気持ち速足で歩き出す。
行き先がどこかなんて知らなくても、彼女達が手を引いてくれる。
~1番道路 アサメの小道~
「……ねえサナちゃん、何で俺、君と手繋いで歩いてんの?」
「カルムが遅いからっ!」
「ふふっ……元気一杯じゃない」
なんと、そんな事考えてたら物理的に手を引かれてしまった。
なんかドキドキするってよかは微笑ましくなってしまった。
当人のサナちゃんとか驚くぐらい本当に他意なさそうだし、セレナちゃんは休日に娘にからかわれている夫を見ているかのように穏やかな微笑みを湛えている。
大人っぽすぎるだろ。
ここで茶化したりしない育ちの良さ尊敬できるよ。
~メイスイタウン~
「おーい! こっちだよー!」
街に着いてすぐ、カフェの飲食スペースのようになっているお洒落なテーブルの一角には二人の先客が居た。
どうやらここが待ち合わせの場所だったらしい。
「カルム こちらにいるのが、パワフルなダンスが得意なティエルノ君」
「All right! よろしく!」
うおぉ……良い子そうだけど、これはめちゃめちゃな太陽系その2!
そのがっちりした体格にムードメーカー気質の明るさ、優しそうなマスクにダンスが得意という圧倒的モテ要素!
これでモテなかったら嘘だ。
「あのね、仲良くするためニックネームで呼びたいんだけど、 カルやん ってどう?」
勝手に距離取ろうとしててごめんな、仲良くやっていこう。
すげえ良い子だったわ。
これは確実にモテてる。
さては彼女いるのに女の子と遊ぶのに抵抗ないタイプだな。刺されないようにね。
あと普通にカルムで頼む。
それは絶対に流行らないし流行らせない。
「えーっ! やだっ! カルタロ が良い!」
サナちゃんが考えたあだ名とか最高にかわいくない?
なんでも許せる気がするわ。
本当なら好きに呼んでくれと言いたいところだけど、この人数の前でそう公言すると全員からそう呼ばれかねないので流石にこのラインだけは絶対に死守するぞ。
普通にカルムで頼む。
「ま、まあともかく、こちらが、テストはいつも満点! だけど控えめなトロバ君ね」
そう紹介されたのは、この4人の中でもひときわ背が小さく、自己主張も小さい控えめなオレンジショートカットのショタっ子。
どうもこうやって話すよりかは黙々と机に向かっているような研究家気質の子らしい。
それにしてはビジュアルがかわいすぎるけど。
「ご紹介に預かりました、トロバです。ちなみに僕はカルPが良いと思います」
普 通 に カ ル ム で 頼 む 。
「ねえねえ、早く皆のパートナーになるポケモンに会わせて!」
自己紹介と雑談もそこそこに、サナちゃんは一刻も早くポケモンに触れたい様子だ。
楽しみすぎて目がしいたけみたいになって輝いている。
かわいい。
サナちゃんのポケモンはきっと溺愛されて育つんだろうな。
「だよねえ! 僕とトロバっちがポケモンに出会った時の感動、サナ達も味わって」
そう言うと、ティエルノ君はおもむろに巨大になった細長い財布みたいなケースを取り出す。
トロバっちとかいう陽キャ特有のあだ名に言及したいのは山々だけど、それより大事なのはこのケースの中身。
この口ぶりだと既にティエルノ君とトロバ君は初めてのポケモンに触れているという事になり、それとさっきセレナちゃんが言ってたプラターヌ博士の情報を照らし合わせれば、そのケースはティエルノ君の私物というよりは博士がティエルノ君に預けた形なんじゃないかと思う。
当然中身は……
「フォッコッ!」
「リマー」
「ケロッ」
まあこういう事だわな。
こいつらが運命的な俺の最初のポケモンになるのか。
うん……? 俺の、最初……?
「どの子もかわいー♪」
「……ごめん、俺は選べない」
「えっ?」
なんていうか、俺の生まれて初めてのポケモン、って意識すると、違う。
この三匹とも良い子達である事は良く分かっているんだけど、俺には『初めて』を約束した、大事な子がいる。
遠い記憶の向こうに、そんな思い出がある。
だから。
「こんなふわふわした感じで断って本当にごめん。でも俺には初めてのポケモンが別にいる。だから選べない」
「……ふーん、お隣さんにそこまで言わせる娘、少し気になる」
セレナちゃん、意外に食いつくね。わざわざ博士が用意してくれたポケモン蹴った痛い奴の妄言なんて普通に聞き流してくれ恥ずかしい。
「……一匹のドレディアが居たんだ。本当にずっと一緒だった。向こうはもう忘れてるかもしれないけど……」
───────片時も忘れた事などありませんよ、私のご主人
ふわりと、花の香りがした。
いつの間にか俺の真後ろに立つ、緑髪の女性。
丈の長いクラシカルなメイド服。
メイド服自体はシンプルなデザインのものなのに対し、緑を基調とした明るめの配色が目を惹く。
優しそうな垂れ目に緑髪ポニーテール、随分年上に見える薄緑メイド服のお姉さんだけど会った事もないし、その鈴が鳴るような透き通る声も聞いた事がない。
けど、俺は、他の誰でもない俺だけはこの娘を知っている。
色んな花の咲き乱れる迷いの森で、毎日朝から日が暮れるまでずっと遊び倒してた。
香水やトワレの人工的な
姿形がどれだけ変わろうとも、匂いは誤魔化せない。
人間の遺伝子は自分より遠い、相性の良いパートナーかどうかを無意識に香りで判定すると聞く。
もしそれが本当なら、俺はきっとこの香りを遺伝子、細胞レベルで求めていた。
「れでぃ……なのか?」
「はい、貴方だけのれでぃが馳せ参じましたよ。この時をあの日からずっと心待ちにしておりました」
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