ハリー・ポッターと極東の隠密   作:炉端焼き

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主人公、ロンドンに降り立ちます。


第弐話

1991年 7月31日 イギリス、ロンドン

 

 

「………外国ってこうも違うものなんだな」

 

 俺はロンドンの街並みを眺めて、そう呟いた。

 今、ホグワーツ入学に際して必要な道具などを揃えるために、日本からロンドンに来ていた。

 現在、俺は単独行動をしている。

 

「さて、と。アホジジイめ、めんどくさい事考えつきやがって…」

 

 それは今から数刻前の出来事である。ロンドンに着くなり、アホジジイこと師匠がこんなことを言ってきた。

 

   ~~~回想~~~

 

「さて紫乃よ。お前、自分で探し出してみよ」

「は?」

「実はな、魔法使いというのは、世界に数多く存在するが、その存在を隠しているのだ。そうしなければ世界が混乱してしまうからな」

「そうなの?その部分はなんか忍に似てるな」

「確かに似ている部分はある。で、だ。存在を隠しているということは、普通の場所に魔法使いの類はいないのだ」

「ふーん」

「お前にはこれからそこを見つけ出してもらう」

「なるほどねー……っておい」

「どうした」

「どうした、じゃねーよ!どうしてその話から俺が見つけ出すことになるんだよ!」

「まだわからんのか。魔法を使わない一般の人間、通称マグルの者たちから気づかれないようにしている。それはつまり魔法を行使しているのだ。お前にはその気配を探り、見つけてもらう。つまりはそういうことだ」

「な、こんなとこまで来て修行かよ」

「そう言うな、お前に取っても有益だぞ、魔法の気配がわかるというのは。それに、まだ気配探索は不得手だったような気がするしな」

「うぐ…」

「では一つだけコツを教えてやろう。自分から掴みに行くのではない、向こうから来るものを受け入れるのだ」

「はあ?いったいどういう事だよ」

「それが分かれば、気配感知も魔力感知も造作ないことぞ。では、頑張れ」

 

  ~~~回想終わり~~~

 

 で、今である。師匠は言うやいなや姿を消している。忍術を極めた当代当主による忍独自の移動術に、居場所をつかむ術は無い。

 事実俺は気配探知系の術が苦手だった。なんとなく、水をただ素手で掴もうとしているような感覚に陥るのだ。

 

「何を頼りに探せばいいかわからねえんじゃしょうがないんだよなあ」

 

 そんな事をぼやきながら街並みを歩く。今まで育ってきた日本の、しかも山奥でずっと修行を続けてきていたため、街並みというものを初めて見る俺は、必然的に周囲をキョロキョロと眺めながら歩くことになる。

 

「…あれ、今の俺、スゲぇ目立ってる?」

 

 気がつけば、街を歩く周囲の人々から、チラチラと視線が集まっていた。何事かと思ったが、原因は俺の格好にあるようだった。黒い長袖のインナー、袖なしの羽織を着て、その上から濃紺のパーカーを着ている。下は普通の黒ズボンだが、片目に眼帯をかけ、さらに自分の黒髪もあって、全体的に黒々しい姿をしていたのである。

 眼帯は、日常生活でそのまま『白銀の瞳』を曝け出しているとロクな目に合わなかったで、普段はこれで隠すことを、長門守と二人で決めたのであったが、今の段階ではその眼帯も相まって、非常に街から浮いた存在となってしまっていたのである。

 

「おおう、こんなに目立つとは思わなかったな。ちょっと場所を変えるか」

 

 さすがにいたたまれなくなったため、そそくさとその場から退散をはじめる。眼帯も眼帯で何とかしたほうがいいかもしれない。そもそもこの目の言い伝えは日本国内の物なのでぶっちゃけ外してても問題はないだろうと師匠は言ってたが、この目を周囲に晒すと言うのは、まだ俺の心が受け入れてくれなかった。なんだかんだトラウマになっているのだ。

 人気の少ない公園のベンチに座り、気配探索のコツについてもう一度考えてみる。

向こうから来るものを受け入れる、か……どういう事なんだ?隠れた物を探すにはこっちから動くしかないじゃんか……

 ん?もしかして、初めから隠れてなんかいないってのか?

 ……そうか!気配ってのは、人の『気』そのものか!人の誰しもが持つその気配を捉える事が気配探索なんだ!って事は、魔力ってのも同じように気配として漂ってるってのか。

 よし、そうと決まれば即実行、全身の力を抜く。漂っているなら、無理につかもうとすれば途端に逃げられる。霧とか靄をつかもうとするのと同じだ。なら、自身もその一部になって、同化するように漂うままに任せるって感じで……。

 目を閉じ、長く息をはく。そうする事で、周囲に漂う人の気の流れを感じ取る。おお、なんかうまくいった気がする。捉え方がそもそも違ったんだ。なるほど、師匠もわかりづらいアドバイスしやがって。

 そして気配探知を続けていくと、その中に異質な流れを生み出している扉を発た。これか?普通の人間から出る気とは全く違う感じがするな。

 集中を解き、そこへ向かう。そこには、何の変哲もない古びた建物と、それに見合った古ぼけた黒い扉があった。それ自体は特に変な気はしない。しかし、その裏から漂ってくる気配は明らかに異質のものであった。

それに、よく周りを注意してみれば、本当に違和感が垣間見えるだけだが、誰しもがその扉と、その前に立つ俺に見向きもしていない。

 

「これが……人避けの魔術か。なるほどね」

 

 どうやら当たりを引いたようだ。改めて扉を眺める。扉の付近には「漏れ鍋」と書かれた看板がある。おそらくこの店の名前だろう。

 

「よし、行くか」

 

 意を決し、扉を押し開ける。その奥には、扉のイメージ通りの、古びた雰囲気の、しかし決して不潔というわけではない店が広がっていた。どうやら飲食店らしい。テーブル席で、カウンターで、食事をしたり、ジョッキを煽っていたりする人で、そこそこ賑わっている。

 ただ、外と決定的に違うのが、ここにいる人間のほとんどが、黒いローブを着る者、先のとがったツバの広い帽子をかぶった者であることだった。いわゆる一般的な「魔法使い」「魔女」のイメージ通りの格好をした人物達で賑わうここは、明らかに扉の外と違う世界だった。

 

「ほお、随分と早かったな。なかなか感心だ」

 

 角のテーブル席に、見覚えのある格好と顔をした老人が座っていた。というか師匠だ。

彼の目の前には店の料理が。

 

「やはり捉え方の違いだけで苦手意識を持っていただけのようだな。読んだ通りだ」

 

 次々と長門守の口に消えていく料理達。

 

「………」

「そうだな、合格といったところだろう。よし、まだ時間はあるし、今日は休むか?」

 

 身体の中央から鳴る地鳴りのような音。

 

「………」

「ここは宿屋も兼ねていてな、出発まではここに寝泊まりすることになる。あとでマスターにも挨拶しておくのだぞ」

「まず飯食わせろこら」

 

 出てきた言葉はそれだけだった。

 あとは、二人の男の飯をかっこむ音が、漏れ鍋の中に響いていた。

 

 

「さてと、予想より早くここに来たことだし、今日中に最低限のことは済ませておこう」

 

 飯を食い終わると、師匠がそんなことを言った。俺は俺で、初めての外国料理だったのだが、空腹のあまり何をどのくらい食ったか覚えていない。とりあえず空きっ腹の俺には美味く感じられた。

 

「必要最低限のこと?」

 

 食後の飲み物として紅茶をもらい、それで落ち着いてからそう返した。うん、紅茶も悪くないが、やはり俺は煎茶の方が好きだ。

 

「ああ。銀行で金をおろし、お前の金庫を作る。あと、ホグワーツで指定されたものの店の場所を教える」

 

 そう答えると、師匠は立ち上がって裏口らしき方へと向かった。食事の金は払っていたそうで、俺は慌ててついていく。

 扉を開けた先は、レンガに囲われた狭苦しい物置スペースだった。師匠はおもむろに杖を取り出した。持ってたのかよ。その杖でレンガのいくつかを数回叩くと、レンガの壁が動き、アーチ状へ広がっていった。

 

「おおう……」

 

 そこには不規則に歪んだ街が広がっていた。緩やかな曲線を描く建物、蛇のようにのたくった道、その中を行き交うローブをまとった人々。

 

「ここが、ダイアゴン横丁だ。さて、まずはグリンゴッツ魔法銀行だ」

 

 さっさと前に進む師匠を見失わないように、俺も後をついていく。まあぶっちゃけさしたる苦労はない。ごった返す人混みを、すり抜けるように通っていく。忍としての修行の中で、ものの動きを的確に捉えるというものがあったが、それを使えばどこの誰がどう動いてくるかが大体わかるのだ。

 

 そして見えて来たのは、白を基調とした荘厳な建物だった。これがグリンゴッツ魔法銀行なのだろう。確かホグワーツの次に安全なんだったか。

 中に入ると、耳と鼻の尖った、背の低い生物たちが帳簿を整理したり、書類の整理をしていたり、よくわからない金属の器具を使って仕事をしていた。話に聞いていた、ゴブリンという種族なのだろう。なんとなく気難しそうな印象を受けた。

 中央奥の受付にて、師匠がそこのゴブリンと会話をしている。

 

「藤林長門守だ。俺の金庫を開けてもらいたいのと、こいつに新しく金庫を作りたい」

 

 受付のゴブリンは、カウンターから身を乗り出し、俺の方を見て来た。なるほど、人間を格下に見ているってのは本当なんだな。顔はいかつく、目つきも鋭いのに、体躯のせいでなんか愉快な感じになっているが、そんなふうに思っている事は絶対に表に出さないよう注意した。

 

「名前は?」

「藤林紫乃だ」

「かしこまりました。こちらの書類にサインを」

 

 そういって羊皮紙のようなものを出して来た。ここに名前を書けばいいだけらしい。なんというか簡単だな。手っ取り早くそこにサインをすると、別のゴブリンが来て奥に案内された。そのにはトロッコがあり、これで各個人の金庫へ向かうそうだ。

 トロッコの乗り心地は決していいものではなかったが、そこそこのスピードがあり爽快感はあった。涼しい顔でトロッコに乗る俺を見て、案内のゴブリンは不思議そうな顔をしていた。普通は初めて乗る人物は、そのスピードと曲がりくねった道のりで軒並み気分を悪くするらしい。普段の修行はこんなやわなものではないので俺は全然平気だった。

 着いた先は薄暗い洞窟のような場所で、目の前には分厚い扉がある。遠目に見れば、同じような扉が並んでいた。

 

「シノ・フジバヤシ様の金庫はこちらの472番金庫です。こちらが鍵になりますので、今後は受付の者に預けてください」

 

 そういって鍵を渡された。金庫の中は空っぽだった。作ったばかりだし当然か。

 そこからさらに移動した先、73番金庫が師匠の金庫のようだ。師匠が中に入り、白い布袋に金貨を詰めてこっちに投げてよこした。なかなかの重量だった。

 

「余程のことがない限りその程度で一年以上はもつだろう。あと、俺の金庫の三分の一をお前の倉庫に移しておく」

 

 さすがに金銭面になるとしっかりと対応してくれる。思い返せば、自分で何かを買う事はほとんどなかったが、生活必需品などを揃える時はこのようにしっかりとしていた気がする。

 

「ちなみに、こちらの硬貨はクヌート銅貨29枚で1シックル銀貨、シックル銀貨17枚で1ガリオン金貨だ」

 

 これを聞いて俺ははっきり思った。

 分かりづれえ。

 

 その後は銀行を出て、それぞれ必要なものを揃えるための店の場所を教えてもらいながら、漏れ鍋に戻った。ある程度の場所は把握したが、さすがにもう疲れていたので休むことにした。あてがわれていた部屋に入り、寝具に突っ伏したらすぐに意識は途切れた。

 

 

 

続く

 

 

 

 




補足1:ここでの気配、魔力等は全て独自設定とします。今後もこのスタンスは変わりません。

補足2:紫乃に私服のセンスはありません。皆無です。微塵も存在しません。

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