主人公、列車に乗ります。
ハリーと道端で鉢合わせるような出会いをしてから幾日かたった。
あの後俺は、漏れ鍋の部屋を拠点としながら、数日をかけてゆっくりと入学の準備をした。
仕上がったローブを受け取ったり、魔力探知の鍛錬をしたり、揃えた教科書を読んだりと、のんびりとした日々を過ごしていた。途中、同年代の子らをちらほらと見かけたが、おそらくだいたいは新入生だろう。
だが、一つ気になることはあった。オリバンダーの店での出来事だ。あの時俺は、杖に魔力をごっそりと持っていかれたような感じがして、ひどく疲れてしまったのだ。それとは別に、自分の内側で起きた、無視できない力の爆発。あれもさっぱりわからない。師匠がいれば何かしら教えてくれただろうが、生憎あの畜生は帰郷している。というか、外国に子供一人置いて帰るとか、普通に考えたら酷いもんだな。
まあ、力の爆発については、ホグワーツにいる教師に聞いてみよう。情報がないんじゃどうしようもないしな。
そして、ホグワーツに出発する日となった。
キングズ・クロス駅に到着し、改めてチケットを見る。
《ホグワーツ特急 9と3/4番線》
まるで意味がわからない。
何だよ3/4て。駅に分数使うなよ。
まあ恐らくあれだろう。木を隠すなら森の中、的な感じで、マグルの駅構内に入り口を設けたのだろう。
構内に入っても、そんなものがあるようには思えない。
とりあえず9番線と10番線の間のホームで、範囲を絞って魔力探知をする。まだ調整しきれておらず、あまり長い時間はできない。
すると、ホームにある柱の一つに、魔力の揺れを感じた。集中を解き、側に行って少し触れてみる。すると、分厚く硬いレンガの見た目なのに、まるで何もないかのように手がすり抜けた。どうやらあたりだったようだ。
周囲を一応確認しつつ、そそくさと柱へと突っ込んで行く。一瞬暗くなったと思ったら、次の瞬間には視界がひらけ、赤を基調とした立派な蒸気機関車が佇んでいた。
どうやらこれがホグワーツ特急のようだ。その証拠に上の看板に「ホグワーツ特急 11時発」と書かれていた。まだ早い時間だったためか、まだ搭乗者はいない。今のうちに座席を確保して起きたかったため、この時間に来て正解だった。ふと手元の懐中時計をみる。時計は9時頃を指していた。
………早過ぎた……。
手っ取り早く荷物を運び入れ、適当なコンパートメントに陣取る。びっくりするほど誰もいない。ここは日本で育った影響だろうか、出発の時間よりも出来るだけ早く到着するような時間設定をしていた。外国はこの辺はルーズなのだろうか。
暇なので適当に教科書を開いて読み始める。
魔法という概念は中々面白い。全く未知のものかと思いきや、所々忍術にも応用できそうな箇所や、逆に忍術を応用できそうなものもあった。
あ、そうだ。魔力探知の鍛錬として、この辺の気配探知をしてみよう。たくさんの魔法使いが集まる訳だし、いい練習になるかもしれない。
目を閉じ、精神を統一させる。以前のように垂れ流さないように慎重に、慎重に。
………おお、色んな人の気配がするな。さっきより大分人が増えたようだ。気付かないうちに出発の時間が迫っていたんだろうか。汽車の中にもどんどんと人が増えている。そうこうしているうちに汽車はゆっくりと動き出した。やはりあれから結構時間が経っていたんだな。
気配探知にはまだ余力があったので継続。すると扉の近くに見知った気配がするのを感じた。これはハリーだ。知らないもう一つの気配と共に先程からあちこちと動き回っているようだが、もしかしたら席がないのかもしれないな。
「ごめん、ここの席……」
「ハリーか。空いているぞ」
扉を開けて何か言おうとしたのを遮って声をかける。そのまま目を開けると、眼鏡のハリーと、赤髪の少年が、揃って口をぽかんと開けていた。
「再会早々顔芸か。中々愉快な挨拶があるんだな」
「違うよ!?」
ハッと我に返ったハリーに突っ込まれた。
「どうして僕だってわかったの?目を瞑っていたじゃないか」
「感じた気配がハリーのものだったからな」
「気配?」
「ああ。それより隣の彼を紹介してくれないか?初対面だ」
赤髪の少年は未だぽかんとしている。何だろう、そんなに俺は珍しいのかな。
「ああ、えーと、彼はロン。駅で入り口がわからなかった時に教えてくれたんだ。ロン、この子はシノ。ダイアゴン横丁で会ったんだ」
ハリーがそれぞれを紹介してくれる。ロンと呼ばれた少年はそこでようやく我に返った。
「藤林紫乃だ。生まれは日本だ。そちらも改めて名を教えてくれ」
「あ、ああ。僕はロン・ウィーズリー。ハリーと知り合いだったんだね」
「とは言っても、ダイアゴン横丁でお互いにぶつかってしまったというだけだがな」
そう言ってハリーを見ると、彼は苦笑いをした。俺もつられて笑ってしまった。
「ともかく、ここは空いてる。好きに使ってくれ」
そう言って席を指すと、二人はコンパートメントに入っても座った。するや否やハリーが顔を近づけてきた。
「ねえシノ。さっきの気配って何?」
「あれか?そうだな、俺も最近会得したものだから上手くは言えないが、「その人がそこにいる」という事を敏感に感じ取る、といった具合だろうか」
実際、まだ感覚でしか操れていないため、上手く説明できなかった。案の定ハリー達はわからないようで、揃って首を傾げていた。この様子だと、忍だとか忍術だとかは言ってもわからんだけだろう。
それから俺たちは互いの事を話した。日本の事を話すと二人とも興味津々だった。やはり日本人というのは珍しいらし。どこかのタイミングで日本の土産でもあげてみようか。
ハリーはつい最近まで魔法という存在を全く知らなかったらしい。対称にロンは生粋の魔法使いの家系で、すでに何人も兄弟がホグワーツに在学、もしくは卒業しているそうだ。
「ねえ、その右目はどうしたの?」
気になっていたのかロンが聞いてきた。
正直軽い話ではないので気乗りはしないが、変に隠すよりはいいだろう。
「その前に一つロンに聞いておきたい。『白銀の瞳』について知っているか?
隣でハリーが「何それ?」みたいな顔で疑問符を浮かべているが、ロンは少し考えてから呟いた。
「ああーと、確か『両目が白銀色の者の周りには不幸が訪れる』って奴だっけ?聞いてはいるけど、ウチの家族はあまり信用はしてないね」
「なぜだ?」
「父さんが昔の知り合いにいたんだって、白銀色の目を持った日本人が。でも話に聞くような呪いじみたことはほとんどなかったみたいでさ、迷信だろうって言ってるんだ。それに、こっちにも似たような逸話はあるみたいだけど、そもそもそんな目に関することなんて聞いたことないよ」
「……そうか」
そんな話を聞いて、俺の心は安堵で満たされるようだった。師匠の言った通り、そこまで神経質にならなくてもいいのかもしれない。
「その考えは初めて聞いたが、それなら問題にはならなさそうだ。あとは見ればわかる」
そう言って俺は眼帯を外した。右目に宿る白銀色の目。その目から二人を見る。ロンは目を見開いて驚き、ハリーは嘆息していた。だが二人には、全く敵意が感じられないというところで共通していた。
「わーお、同じ色なんだね」
「ああ。俺の目は片方だけ、いわゆる呪いの目と同じ色をしているんだ」
「すっごい綺麗だね!」
ハリー達は何だかやたらと目をキラキラさせている。一体どういう事だ。
「こんなに綺麗なのにどうして隠してたの?」
続けざまにハリーは質問してきた。
「これは、さっきも言った通り、呪いの目と同じ色だから、周りから変な目で見られるとたまらないからな。だが、眼帯も眼帯で目立つようだし、何よりこっちには呪いの話は無いようだから、もう必要ないかもな」
日本にいたころの憂いは、入学する前には不必要なものになった。
そんな話をしていると、コンパートメントの扉が開き、一人の少女が顔を出してきた。
「ねえ、ヒキガエルを見なかった?ネビルのペットなの」
柔らかく癖のついた栗色の髪を長く伸ばし、利発そうな顔立ちをしていた。
ハリーとロンは二人揃って首を横に降る。おいお前ら、さっきから息ぴったりだな。
「俺も見てないな。だが、ちょうど向かいのコンパートメントのすぐ脇の隙間に、多分カエルが隠れてるぞ」
俺がそういうと、少女の後ろにいた少年が言われた通りの隙間を覗き込む。
「トレバー!」
どうやらお目当のカエルだったようだ。ふう、さっき駅で鍛錬した成果かが出ているな。小さな生き物の気配も、近場のものなら感じ取れるようになっている。
「どうもありがとう!僕はネビル、こいつはトレバーで、いつも逃げ出しちゃうんだ」
ネビルと名乗った少年は、こちらに何度もお礼を言いながら、ペットのヒキガエルを大事そうに抱えて自分の席へ戻っていった。だが少女の方は残って俺の方を見ていた。一瞬だけ、俺の目を見たが、ほんの少し逡巡した様子で目をそらした。
「あなた凄いのね、どうやってわかったの?」
「努力の賜物だ」
気配探知のことを改めて説明するのが少し億劫だったので省いた。でも間違ったことは言ってない。
「努力?まあいいわ。私はハーマイオニーよ。あなた達は?」
「俺は紫乃だ。こいつらは赤毛がロン、メガネがハリーだ」
「紹介がざっくばらん過ぎない!?」
失敬な。的確に印象を伝えてわかりやすく説明しただろうが。
「シノ?聞かない発音ね。もしかして日本人?」
「その通りだ。生まれ育ちは日本だ」
「そうだったのね。それで、ロンとハリーね……って、あなたまさかハリー・ポッター?」
どうやら彼女も知っているようだ。ハリーが証明するように髪をかきあげてひたいの傷を見せると、ハーマイオニーはさらに驚いていた。なんでも、彼女自身はマグルの両親から生まれたそうだが魔法使いに覚醒したそうで、魔法を知らされた際にこちらの史実を一通り調べたらしい。非常に真面目でまっすぐな印象を受ける。少々口調が厳しいが、それはただの口癖だろう。彼女からはわずかな驕りは見られたが、相手を見下すようなマイナスな感情は一切感じ取れなかった。
少し話をして、ハーマイオニーは、間も無く到着だからローブに着替えておきなさいと残して自分のコンパートメントに戻っていった。言われるままにローブへと着替える。このローブ、なんか邪魔だ。足も腕も隠れるから、身体を動かすのに障害でしかない。魔法使いってのはよくこんなものを着ていられるな、なんてことを素直に口に出したら二人からなんとも言えない苦笑いをされた。なんだというんだ。
「おい!このコンパートメントに有名なハリー・ポッターがいると聞いたんだが本当かい?汽車の中はその話で持ちきりだったんだが、もしかして君かい?」
唐突に外から声をかけられた。向けた視線の先には、淀みない白髪をオールバックにした少年が立っていた。後ろに二人の少年を引き連れている。
「そうだけど、何か用?」
ハリーはあからさまに不機嫌になっていた。それも当然だろう。この白髪は、眼で見るまでも無く言葉の端々に他者を見下すような感じが滲み出ていた。
「 僕はドラコ・マルフォイ。こっちがクラッブで、こっちがゴイルだ」
自分の名を名乗ったあと、後ろの二人を指して言った。ごついデブとごついノッポだ。二人とも同じくらい目つきが悪いが、その瞳にはマルフォイのような利発さは見えない。多分脳筋バカに当たるだろう。
「そっちの赤髪は言わなくてもわかる、ウィーズリーの子だろう?」
ロンは先程からハリーよりも苦い顔をしていた。魔法使いの家同士のいざこざでもあったのだろうか。
「そっちの君は……マグル生まれかい?」
そんなことを思っていたら今度はこっちに目を向けてきた。瞳にはわかりやすく嘲りの色が見られる。
「シノ・フジバヤシだ。両親のことはあまり覚えてないからなんとも言えないな」
それだけ言うと、マルフォイは微妙な顔をした。ちらりと二人を見ると似たような顔をしていた。まだ話していないし当然か。
「まあいい。ポッター君にフジバヤシ君。魔法族にも家柄の良いものとそうで無いものがある。間違った付き合い方をしないようにするんだね」
うしろのデブノッポを舎弟のように引き連れてるお前に言われたくない、という言葉が喉元まで出てきたが堪えた。
「大丈夫。間違ったのかどうかは自分で見分けられる。ご親切にどうも」
おお、なかなか言うじゃないかハリー。マルフォイの頰が紅くなってるな。
「僕ならもう少し気をつけるけどね、付き合う人は選ばないと、君も君の両親と同じ道をたどることになるぞ」
もはや虚勢にしか聞こえない。油断していると、今度は俺の方に視線を向けてきた。俺がどう返してくるか待っているようだ。
「家柄の良いものと、そうでないもの、ねえ」
「そうだ。付き合い方は考えたほうがいい。どこにでも低俗な輩はいるんだ」
俺が同意を示したと勘違いしたのか、得意げな顔でそう返す白髪。
「それで?」
「え?」
「家柄に良し悪しがあるのは分かった。だが、それとお前にどういう関係があるんだ?」
「だから……」
「仮にお前の家が良家だったとしても、今ここにいるのは俺とお前、シノと、ドラコだ。ドラコ、家柄の話をする前に、まずは自分の話をしたらどうだ?」
「……っ!揃いも揃って、後悔しないようにすることだね」
マルフォイは言うだけ言って、デブノッポを連れて去っていった。言ってきた言葉に対する憤りはあるが、こんな状況に最もふさわしい諺があったな。
「……負け犬の遠吠えってこんな感じなのか」
ぼそりと呟いたその言葉を聞いて、ハリーとロンは同時に吹き出した。どうやら意味は通じたらしい。
あのような連中もいるのだ、学校生活も一筋縄じゃ行かないかもな。俺はそう思いながら少しずつ暗くなっていく外の景色を眺めた。
続く
あれ、なぜかハリーから謎のヒロイン臭……
きのせいかな!!←