愉快犯が暇潰しに幻想入り   作:苦瓜

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執筆の要領が掴めたので初投稿。
ガバガバな東方知識と厨二要素。男オリ主に二次設定盛り沢山。
それらがダメな人はブラウザバック推奨。

※少し修正しました。


序章 愉快犯は幻想郷の土を踏む
プロローグ


 どうにも、人生というものには暇が多すぎる。

 勿論、暇がないよりかはある方が幾分マシだが、それにも限度があるだろう。広げた手のひら溢れ続ける暇を潰す手段も気力も、軈ては尽きる。その癖、もて余した分だけ、暇はぶくぶくと肥え太る。最早それは私が仕える神々でさえどうしようもあるまい。

 

 ……まあ、だからこそだ。

 我等はソレを捻り潰すべく、あらゆる存在に目を、耳を、心を傾け。その末路を傍観し、嘲笑うのだがな。

 

 

 ◆◇◆◇◆

 

 

 寒い。

 冬も末とはいえどまだまだ春の暖かさは遠いのか、身にまとった黒のトレンチコートすら突き通す冷気に腕をさする。

 

「まったく」

 

 白い吐息が大気に溶けていくさまを目に、青年は夜間の寒さに対する自身の見積もりの甘さを呪った。

 癖のある黒髪を押さえつけるようにのせた黒いトップハットを深々とかぶることで寒さをごまかしつつ、少しでも熱を逃がさぬようコートの襟をたてる。手を覆う黒の皮手袋はもはや焼け石に水で、手がかじかみ痛いくらいだった。このままでは朝日を拝むまでもなく、人の形をした一体の氷像でも出来てしまいそうだ。

 

「早いところ、人里を見つけなければな」

 

 ザクザクと地面に敷きつめられた落ち葉を踏みしめ、歩を進める。年期を帯びた樹木が立ち並ぶ景色を尻目に、青年はいくらかの距離を進んだところで足をとどめた。

 

「ふむ」

 

 切れ長の、気まぐれな気質をしめす物憂い煌めきをたたえた瞳がゆっくりと細められる。

 

「ここか」

 

 視線を幾分かさ迷わせると青年は狙いをさだめ、何もない中空にむけて、まるでそこに何かがあると思わせるような仕草で──優しげに指を滑らせた。

 

「いいだろう」

 

 次の瞬間、青年が指を滑らせた箇所から『波』が駆け巡る。

 水面をゆらす波紋のように、それは半径五メートルほどを円形に塗り潰し、変化を終えた。

 その有り様を満足げに眺めた青年は、変化が終わるやいなや口元に裂けるような三日月型の笑みを浮かべ、躊躇することなく円へと身を投じた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「暇ねえ」

 

 雲一つない青空。

 ゆるやかなグラデーションを描く美しい光景にひとつの──例えるならば、まっさらな画用紙へと一滴、墨がおちたような──異物が紛れていた。

 青空の一角が剃刀で裂いたようにパックリ割れ、裂け目から爛々とした目玉たちが覗いている。その、常人からしたら身震いしそうな裂け目に……『スキマ』に、紫を主とする道士服にナイトキャップという奇妙な衣装をまとい、くるくると手持ちぶたさに日傘をまわす金髪の少女が腰掛けていた。

 

「異変は兎も角、害がない騒ぎなら適度に起きていいと思うわ」

「紫様。あまり不謹慎なことを口になさらないでください」

 

 日傘を弄くる少女のすぐ真横から、諌めるように声が響く。

 

「別に不謹慎なことなんて口にしてないわ。 私が望むのはこの場所に害がない程度の騒ぎよ。そのくらいは、望んでもいいじゃない」

 

 『紫様』と呼ばれ、少女が視線を動かす。するといつの間にやら、少女の真横に、また別の少女が立っていた。藍を主とする道士服をまとった、これまた現実離れした美しさをたたえる金髪の少女だ。

 現れた少女は、目の前で不貞腐れるように日傘をまわす少女を眺めて目を細め、頭に存在する一対の『耳』、そしてまばゆい金色にきらめく九本の『尾』をゆらめかせる。

 

「そもそもとしても、冬眠から目覚めたばかりの紫様には、潰せる暇などないはずでは……」

「あら、言うじゃない」

 

 九尾の少女の言葉に、少女は日傘を畳むとどこからか持ち出した扇子を口に当て、クスクスと笑みをもらす。

 

「まあ、そういう意味では暇じゃあないわね」

「では、何か別の意味があると?」

 

 無造作に開いた扇子をパチンと音をたてて閉じながら、少女は微笑む。

 

「そうねえ……言うなれば、代わり映えのない日常に刺激が欲しい、といったところかしら」

「刺激、ですか」

 

 そんな言葉に、九尾の少女は首を捻る。

 ここの住人は、一部をおいて非常識な者ばかり。刺激など、頼んでいなくとも勝手に訪れるのが常だからだ。

 

「いいわよ。深く考えるほどのことでもないから」

「そういうものですか」

「ええ。でもやっぱり、平和が過ぎるのも考えものね。平和な時ほど、仕事は増えるものだし」

「……やはり、仕事が面倒なだけでは?」

「そうねえ……そうかも?」

 

 クスクスと少女が笑う。

 

「それもこれも全部『アイツ』の仕業なのかも。」

「『アイツ』ですか」

「そう。『アイツ』」

 

 そんな少女の言葉に、九尾の少女は眉をひそめた。

 

「『アイツ』とは、いったいどなたの?」

「それはあれよ……あれ。ええっと」

 

 少女は頬に手を添えて考える。

 

「どうだったかしら。『アイツ』に決まった形なんてなかったから」

「形?」

「理解できているといえば……そう。性格が悪くて、いっつも人を食ったような笑みを浮かべてたり」

「記憶にありません。いや、でもどこかで……」

「気まぐれに事を起こして、周囲ごとロクでもない目に遭わせて──」

 

 そこまで口にしたところで、少女は目を見開いた。

 

「藍」

「はい。どうかしましたか」

「私はいま、なんて言ったかしら」

「紫様が、ですか」

 

 藍と呼ばた少女は、少女の言葉に考えるまでもなく答えを返す。

 

「『周囲ごとロクでもない目に遭わせて』ですね」

「その前は?」

「『性格が悪くて、いっつも人を食ったような笑みを浮かべてたり』『アイツに決まった形なんてなかったから』だったと」

「…………」

 

 瞬間、少女の顔に影がさす。

 

「無意識に口にしていた……いままで殆ど忘れてたのに」

「紫様?」

 

 九尾の少女は、目の前の少女がまとう雰囲気の変化に気づき、原因を尋ねる。しかし、少女は思考に没頭しているのか一切の反応を見せない。

 

「どうしていまになって……『アイツ』には結界なんてあってないようなものだし……しかし、目的は……」

 

 少女の様子に九尾の少女が首を傾ぐ、その時だった。

 

「いえ。こうして疑っていることが、一番決定的ね」

 

 パチンという音と共に、少女が腰掛けていた『スキマ』が広がっていく。そして……

 

「紫様!?」

「藍。すこし急用ができたわ」

 

 少女が身を投じるとスキマはピタリと閉じきり、少女は跡形もなく姿を消す。

 残された九尾の少女は訳もわからぬまま、呆然と立ち尽くすのだった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「良くも悪くも単純だな、この博麗大結界とかいうものは。全てを受け入れるのはいいが、押し入りも歓迎するのはどうかと思うぞ?」

 

 背後で薄らいでいる波紋を眺めつつ、青年は呆れたように、いましがた自身が通り抜けた『常識』と『非常識』を隔てる存在へ呟いた。

 

「世の理を操作することなど、『我等』にとって片手間にできるというのに」

 

 ……まあ、その様な些事はどうでもいいことか。

 青年はソレへの意識を断ち切り、にんまりとした笑みを浮かべながら、上機嫌に歩を進める。

 

「自然が多いなここは。静養にはもってこいだ」

 

 青年はぐるりと体を回転させ、手当たり次第に辺りを見まわす。

 周囲は『結界』を越える前と同じ、樹木が立ち並ぶ森林だ。頭上には夜空があるが、生憎と月も星も雲にかくれているのか、そこにはペンキでもぶちまけたような黒しか存在しない。

 だが、そこまで把握したところで、どういうことか月明かりがないにも関わらず、青年の周囲が闇に塗り潰されず、地形を把握できるくらいには明るいことに気づいた。何故かと青年は首を傾げるも、よくよく目を凝らすと、空気中に霞のようなものがかかっている。どうやら周囲の植物から漏れ出ているらしきそれは、ごく僅かだが淡い光をまとっているようだった。

 

「これは……霊力か?」

 

 それの正体を理解した瞬間、思わず青年は笑った。

 何故ならその光景とは、人工灯が普及し、自然が削がれてしまった外界では失われた、遥か悠久の光景だったからだ。その姿はまるで、合理に埋もれることを拒み、大多数に忘れ去られてなお存在しようとし続ける幻想たちの反抗の意志を見ているようだった。

 

「滅びに甘んじることのない、無様な世界だ」

 

 軽快な足取りで青年は進む。

 

「まあ……だからこそ」

 

 曇天の切れ間から月が姿を現す。

 柔らかな月光を浴びる青年は狂ったように哄笑し、月に吠ゆる。

 

「その行く末に、滅びを願ったのだがな」

 

 

 

 

 

「私が帰ってきたぞ。愛しき楽園──幻想郷よ」

 

 

 

 

 

 




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