いつまでも、どこまでも(惣主)   作:ミカヅキ&千早

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第1話「おかえり、ただいま、それから」(千早)

一年前に居候していた雨宮蓮が再び東京に来ると聞いたのは二月の初めだった。

AO入試で東京の大学を選び、無事に合格したと。

そして惣治郎が問題なければまた屋根裏をつかわせて欲しいとも。

あんな場所に好んで来るなんて酔狂だなと惣治郎は苦笑した。

だが双葉は目を輝かせてやったーと叫んでいたので、それだけでもう蓮の居場所は決まったようなものだ。

一年間、ろくに掃除をしていなかった部屋を二人で掃除して、彼が居た当初と同じように簡易的なベッドを作る。

もっといいベッドを買ってやろうかと思ったが、そういうのは大学に行きながらバイトをして自分で買うと言ってきた。

ささやかだが家賃も払うと。

家族みたいなもんだからいらないと言ったが、そっちは親からの気遣いだからと言われてしまえば受け取らざるを得ない。

結局慌ただしく日々は過ぎて三月の下旬、蓮は再びルブランに姿を現した。

「……こんにちは」

カラン、と入口の扉を開くと同時に控えめな声が零れる。

途端にカウンターに伏せっていた双葉が犬のように走り出して蓮に飛びついた。

「おかえりー!」

「双葉、ただいま」

首に抱き付いてぶらんぶらんと身体を垂れ下げる双葉の重みに、身体が少し前のめりになるものの蓮が笑みを浮かべる。

あんなに対人恐怖症だった双葉がここまで懐いてくれると蓮にとっても喜ばしいものだと。

そしてそんな二人を見て惣治郎も口端が緩むのを抑えられなかった。

「おかえり、カレー食うだろ」

三人分の食器を棚から取り出して惣治郎が告げる。

するとショルダーバック一つの荷物を背負い直して蓮は頷いた。

先に荷物置いてこい、と言うと双葉と共に屋根裏へ上っていく。

掃除されているとは思っていなかったのか、驚きの声と感謝の言葉が双葉に向けられるのを耳にする。

それもそうだ。

二年前には自分でなんとかしろと突き放したのだから。

しかしそれから一年の間にいろいろあって。

双葉が学校に復学出来たのも蓮のおかげだと惣治郎が知って。

だから今度は厄介な居候なんかじゃなく、家族として迎えようと双葉と二人で決めたのだ。

明日には彼の仲間もルブランに集まる予定だ。

今日はまだ上京したてなことと、荷物の片付けなどがあるから遠慮すると言って。

仲間たちは双葉に会いに何度もルブランに訪れていた。

だから騒がしいのには慣れてしまった。

そういえば蓮は竜司が珈琲を飲めるようになったと知っているだろうか。

尽きる事のない話はきっと夜まで続くだろう。

明日ばかりは臨時休業の札でも下げておくかと惣治郎はカレーを盛り付けた。

そして届いていた荷物を軽く整理し、揃って降りてきた二人と食事を取る。

久々の三人の食事に双葉は高揚していたし惣治郎も悪い気はしなかった。

ごちそうさま、と手を合わせて。

それから進んで洗物を引き受けた蓮の横で豆を引きサイフォンで抽出する。

薫り高い珈琲の匂いが改めてルブランの店内に広がっていった。

「よし、出来たぞ」

カップに注いでカウンターに並べるとテーブル席から双葉が移動してくる。

洗物を終えた蓮もカウンターに座り直した。

透明な耐熱カップに揺れる黒い液体は照明を弾いてキラキラと輝いている。

それを一口飲むと蓮は目を輝かせた。

思わず惣治郎の口角が吊り上がる。

「美味いだろ?」

「はい、すごく……まろやかなのに重厚に味が広がっていって……」

「phantom thief of the heart」

双葉と二人、蕩けるような笑顔で舌鼓を打つ蓮が目を瞬かせた。

その名はもう聞くことがないと思っていたものだからだ。

「心の、怪盗?」

「そうだ。お前たちをイメージして俺がブレンドした。双葉にも今日初めて飲ませる」

ふっと笑みを濃くすると嬉しいのか僅かに頬を紅潮させて蓮がもう一口とカップに唇を寄せる。

色味も若さを表現するのに煎りすぎないようにした。

その琥珀の液体が蓮の唇に吸い込まれ、味わうように舌先で転がされると、再び蕩けるような笑みを浮かべて美味しいと呟かれる。

惣治郎もまた同じ珈琲を口に含みながら鼻孔を抜ける香りに満足げな表情を浮かべた。

 

 

(つづく)

 

 

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