真田、荒垣、天田、コロマル、そして惣治郎が四軒茶屋の駅前まで来ると、四人と一匹は時空の歪みへと飲み込まれた。
「な……、何だ!?」
「ちょっと待て! 何かがおかしいぞ!?」
「こ、これは……、空間が歪んでいるのか!?」
「ウーーーー、ワン!!」
「……よく分かんねぇが、またとんでもねぇことが起こってんだな?」
ぼやけていた視界が再び戻ると、そこは見渡す限り真っ青な世界だった。
と、どこからともなく重く低い声が聞こえてきた。
「招かれざる客よ、何用だ?」
* * * *
「私が探してるのは、絵に閉じ込められてしまった魂」
飄々とした表情でマリーが呟く。
「それが祐介だと言うのか?」
蓮の問いかけに、マリーがコクリと頷く。
「多分そう。その人、山で会った」
「山?」
「うん。私の役目は人間を観察し続けること。時には時間や空間も超えて」
「じゃあ君は、この時代の人間じゃないのか? ……いや、そもそも」
「そう。私は人間じゃない」
「やっぱりか……」
「驚かないね。まあいいや。で、私がこの時代に飛んできた時、山に彼がいて、アレを見つけちゃったんだ」
「アレ?」
* * * *
真田たちの目の前に現れたのは、かつて蓮たち怪盗団が倒したはずのヤルダバオトだった。
「な、何なんだアイツは……?」
と、その胸の辺りに赤ん坊のようなシルエットが!
「あ、あれは……あの絵の!」
そう言って、惣治郎がヤルダバオトに向かって走る。
「おい、危ないぞ!」
荒垣が止めようとするも、惣治郎はヤルダバオトの細長い腕に掴まれてしまう。
「この男からも、大衆の邪気を感じる……」
そう言うや、ヤルダバオトは惣治郎をも自らの胸に閉じ込めてしまった。
「マ、マスター!! くっそ、ペルソナ!」
天田が召喚器をこめかみに当てて引き金を引く。
そして、真田と荒垣、そしてコロマルもペルソナを召喚!
それぞれのペルソナがヤルダバオトに攻撃するも、全てすり抜けてしまう。
「こ、攻撃が効かない!?」
* * * *
青い小路を歩いていた蓮とマリーがひと際広い場所に出ると、そこには超大型のテレビがあった。
そして、その画面に映し出されていたのは、かつて蓮たち怪盗団が倒したヤルダバオトだった!
「……あ、あれは!?」
「あー、遅かったか」
テレビの中では、真田、荒垣、天田、そしてコロマルがヤルダバオトに立ち向かっている。
「どういうことだ!?」
「アレが育っちゃたんだ」
「君がさっき言ってた『聖杯の欠片』ってやつか?」
「そう。どこかの世界から飛んできた欠片が、色んな時間や空間に落ちてる。それを彼が拾ったんだ」
「祐介が……」
「あの欠片には『大衆の願い』が詰まってるんだって。私はそれを回収して廻ってるんだけど、たまに彼のようにパルスが共鳴してしまうことがある」
「そうするとどうなる?」
「大切な人に会えたり、大切な場所に行けたりする。よく知らないけど」
「大切……。祐介にとってはやはり母親……。そうか、だからエプロンが」
蓮にとっては、幼少期に見た母親のエプロン姿が『母の象徴』であり、祐介と魂がシンクロした結果感じたアイテムだったのだ。
と、テレビに映っているヤルダバオトの胸に何かを見つける蓮。
「あ、あれは……!」
それは惣治郎の顔であった。
そして、その隣には赤ん坊のようなシルエットが見える。
「あ、彼がいた」
「え? 祐介? あれが祐介だって?」
「多分間違いない。あのおじさんも取り込まれちゃってる。アレを止められるのは、この世の切り札である存在だけ。つまり、君」
「何だって?」
「よく分かんないけど、そういうことになってるって長っ鼻が言ってた」
「しかし、テレビの中だなんてどうやって行くんだ……」
「あれ? テレビの中って入れるんじゃないの?」
「何を言ってるんだ。入れるわけないじゃないか」
「入れるって、ホラ」
そう言って、マリーは蓮の背中をトンと押す。
と、テレビのモニターに手をつこうとした蓮は、そのままテレビモニターに吸い込まれていった!
*
「……うわっと!」
真田たちがヤルダバオトに苦戦する空間に、ジョーカーの姿となった蓮が突如降ってきた。
クルクルと転がって着地するジョーカー。
と、目の前にモルガナが立っていた。
「モ、モルガナ!?」
「やっと来たか、ジョーカー。お前の出番だ」
「え?」
「アイツはお前しか倒せない。早くゴシュジンとユースケを助けるんだ!」
「わ……、分かった!」
完全には理解できないまま、ひとまず分かったと返事をしたジョーカーは、ペルソナ・サタナエルを召喚!
そして、あの時と同じように銃を構える!
「失せろ!!」
サタナエルが放った光球がヤルダバオトに命中し、そのまま四散!
あっけなく戦いは終わった。
と、周囲の青い霧が晴れ、そこは元の四軒茶屋駅前へと戻った。
*
ルブランに壁に掲げられたサユリ。
そこに光の矢が飛んできて、黒く塗り潰されたようになっていた部分に突き刺さる。
と、元のように赤ん坊の絵が復活した。
*
四軒茶屋駅前には、蓮と猫姿のモルガナ、真田、天田、コロマル、そして惣治郎がいた。
軽く頭を振る惣治郎に、蓮が駆け寄る。
「大丈夫ですか!?」
「……ああ、平気だ」
「良かった。……ん? 確かあと一人、男の人がいたはずだけど?」
不思議に思う蓮に、モルガナが答える。
「時間軸が元に戻ったので消えたんだろう。事情はよく分からんが、ここはあの人がいない世界なんだろうな」
「そうか……」
真田と天田、そしてコロマルは、何故自分たちがここにいるのか分からないような素振りで、四軒茶屋を後にした。
蓮とモルガナ、そして惣治郎にだけ事件の記憶がある事実は、恐らくオリジナルのヤルダバオトを認知しているからなのだろう……。
* * * *
ルブランに戻った惣治郎と蓮。
二人は、まずサユリに目を向けた。
そして、無事に赤ん坊が戻ったサユリは、まるで二人に微笑みかけているようであった。
「すみません。また迷惑をかけてしまって……」
そう言って、惣治郎に頭を下げる蓮。
と、その頭をガッシと掴んで惣次郎が答える。
「いいんだよ、迷惑かけたって。俺たちゃ家族なんだからな」
「あ……」
「それにな、俺はお前が助きっと助けに来てくれると信じてた」
「え?」
「俺にはお前たちのような不思議な力はねぇ。だから、俺たちにできるのは人を信じるってことだけだ。だが、それはとても強い力だ」
そう言って、惣治郎は少し威張るような仕草を見せる。
「……はい!!」
と、そこへモルガナが勢い良く入ってくる。
「おい、蓮! またアイツが出た! 倒しに行くぞ!!」
「え?」
素っ頓狂な顔をした蓮の頭の中に、マリーの声が響いた。
「あの欠片、まだ色んな時代の空間に飛び散ってるんだよね。まあ君の責任でもあるし、手伝ってよ」
呆然とする蓮に、モルガナが溜め息交じりに付け足す。
「お前はジョーカー。いつまでも、この世の切り札ってことだ」
「……なるほど」
さすがは切り替えが早い蓮。
ニコリと笑い、惣治郎の方へと向き直る。
「じゃ、ちょっと行ってきます!」
「え? お、おい……!」
たじろぐ惣治郎をよそに、蓮はモルガナとともに飛び出していく。
一人残された惣治郎は、小さな溜め息をつきながら苦笑い。
「……やれやれ。相変わらず慌ただしい奴だ。ま、アイツなら大丈夫かな」
そう言いながら、惣治郎はサユリに向かってウィンク。
そして屋根裏部屋のベッドでは、祐介が安らかな表情で眠っていた……。
(了)