いつまでも、どこまでも(惣主)   作:ミカヅキ&千早

10 / 10
最終話「ジョーカー」(ミカヅキ)

 真田、荒垣、天田、コロマル、そして惣治郎が四軒茶屋の駅前まで来ると、四人と一匹は時空の歪みへと飲み込まれた。

「な……、何だ!?」

「ちょっと待て! 何かがおかしいぞ!?」

「こ、これは……、空間が歪んでいるのか!?」

「ウーーーー、ワン!!」

「……よく分かんねぇが、またとんでもねぇことが起こってんだな?」

 

 ぼやけていた視界が再び戻ると、そこは見渡す限り真っ青な世界だった。

 と、どこからともなく重く低い声が聞こえてきた。

 

「招かれざる客よ、何用だ?」

 

  * * * *

 

「私が探してるのは、絵に閉じ込められてしまった魂」

 飄々とした表情でマリーが呟く。

「それが祐介だと言うのか?」

 蓮の問いかけに、マリーがコクリと頷く。

「多分そう。その人、山で会った」

「山?」

「うん。私の役目は人間を観察し続けること。時には時間や空間も超えて」

「じゃあ君は、この時代の人間じゃないのか? ……いや、そもそも」

「そう。私は人間じゃない」

「やっぱりか……」

「驚かないね。まあいいや。で、私がこの時代に飛んできた時、山に彼がいて、アレを見つけちゃったんだ」

「アレ?」

 

  * * * *

 

 真田たちの目の前に現れたのは、かつて蓮たち怪盗団が倒したはずのヤルダバオトだった。

「な、何なんだアイツは……?」

 と、その胸の辺りに赤ん坊のようなシルエットが!

「あ、あれは……あの絵の!」

 そう言って、惣治郎がヤルダバオトに向かって走る。

「おい、危ないぞ!」

 荒垣が止めようとするも、惣治郎はヤルダバオトの細長い腕に掴まれてしまう。

 

「この男からも、大衆の邪気を感じる……」

 そう言うや、ヤルダバオトは惣治郎をも自らの胸に閉じ込めてしまった。

「マ、マスター!! くっそ、ペルソナ!」

 天田が召喚器をこめかみに当てて引き金を引く。

 そして、真田と荒垣、そしてコロマルもペルソナを召喚!

 それぞれのペルソナがヤルダバオトに攻撃するも、全てすり抜けてしまう。

「こ、攻撃が効かない!?」

 

  * * * *

 

 青い小路を歩いていた蓮とマリーがひと際広い場所に出ると、そこには超大型のテレビがあった。

 そして、その画面に映し出されていたのは、かつて蓮たち怪盗団が倒したヤルダバオトだった!

「……あ、あれは!?」

「あー、遅かったか」

 テレビの中では、真田、荒垣、天田、そしてコロマルがヤルダバオトに立ち向かっている。

「どういうことだ!?」

「アレが育っちゃたんだ」

「君がさっき言ってた『聖杯の欠片』ってやつか?」

「そう。どこかの世界から飛んできた欠片が、色んな時間や空間に落ちてる。それを彼が拾ったんだ」

「祐介が……」

「あの欠片には『大衆の願い』が詰まってるんだって。私はそれを回収して廻ってるんだけど、たまに彼のようにパルスが共鳴してしまうことがある」

「そうするとどうなる?」

「大切な人に会えたり、大切な場所に行けたりする。よく知らないけど」

「大切……。祐介にとってはやはり母親……。そうか、だからエプロンが」

 蓮にとっては、幼少期に見た母親のエプロン姿が『母の象徴』であり、祐介と魂がシンクロした結果感じたアイテムだったのだ。

 

 と、テレビに映っているヤルダバオトの胸に何かを見つける蓮。

「あ、あれは……!」

 それは惣治郎の顔であった。

 そして、その隣には赤ん坊のようなシルエットが見える。

「あ、彼がいた」

「え? 祐介? あれが祐介だって?」

「多分間違いない。あのおじさんも取り込まれちゃってる。アレを止められるのは、この世の切り札である存在だけ。つまり、君」

「何だって?」

「よく分かんないけど、そういうことになってるって長っ鼻が言ってた」

「しかし、テレビの中だなんてどうやって行くんだ……」

「あれ? テレビの中って入れるんじゃないの?」

「何を言ってるんだ。入れるわけないじゃないか」

「入れるって、ホラ」

 そう言って、マリーは蓮の背中をトンと押す。

 と、テレビのモニターに手をつこうとした蓮は、そのままテレビモニターに吸い込まれていった!

 

  *

 

「……うわっと!」

 真田たちがヤルダバオトに苦戦する空間に、ジョーカーの姿となった蓮が突如降ってきた。

 クルクルと転がって着地するジョーカー。

 と、目の前にモルガナが立っていた。

「モ、モルガナ!?」

「やっと来たか、ジョーカー。お前の出番だ」

「え?」

「アイツはお前しか倒せない。早くゴシュジンとユースケを助けるんだ!」

「わ……、分かった!」

 完全には理解できないまま、ひとまず分かったと返事をしたジョーカーは、ペルソナ・サタナエルを召喚!

 そして、あの時と同じように銃を構える!

 

「失せろ!!」

 

 サタナエルが放った光球がヤルダバオトに命中し、そのまま四散!

 あっけなく戦いは終わった。

 

 と、周囲の青い霧が晴れ、そこは元の四軒茶屋駅前へと戻った。

 

  *

 

 ルブランに壁に掲げられたサユリ。

 そこに光の矢が飛んできて、黒く塗り潰されたようになっていた部分に突き刺さる。

 と、元のように赤ん坊の絵が復活した。

 

  *

 

 四軒茶屋駅前には、蓮と猫姿のモルガナ、真田、天田、コロマル、そして惣治郎がいた。

 軽く頭を振る惣治郎に、蓮が駆け寄る。

「大丈夫ですか!?」

「……ああ、平気だ」

「良かった。……ん? 確かあと一人、男の人がいたはずだけど?」

 不思議に思う蓮に、モルガナが答える。

「時間軸が元に戻ったので消えたんだろう。事情はよく分からんが、ここはあの人がいない世界なんだろうな」

「そうか……」

 真田と天田、そしてコロマルは、何故自分たちがここにいるのか分からないような素振りで、四軒茶屋を後にした。

 蓮とモルガナ、そして惣治郎にだけ事件の記憶がある事実は、恐らくオリジナルのヤルダバオトを認知しているからなのだろう……。

 

  * * * *

 

 ルブランに戻った惣治郎と蓮。

 二人は、まずサユリに目を向けた。

 そして、無事に赤ん坊が戻ったサユリは、まるで二人に微笑みかけているようであった。

 

「すみません。また迷惑をかけてしまって……」

 そう言って、惣治郎に頭を下げる蓮。

 と、その頭をガッシと掴んで惣次郎が答える。

「いいんだよ、迷惑かけたって。俺たちゃ家族なんだからな」

「あ……」

「それにな、俺はお前が助きっと助けに来てくれると信じてた」

「え?」

「俺にはお前たちのような不思議な力はねぇ。だから、俺たちにできるのは人を信じるってことだけだ。だが、それはとても強い力だ」

 そう言って、惣治郎は少し威張るような仕草を見せる。

「……はい!!」

 

 と、そこへモルガナが勢い良く入ってくる。

「おい、蓮! またアイツが出た! 倒しに行くぞ!!」

「え?」

 素っ頓狂な顔をした蓮の頭の中に、マリーの声が響いた。

 

「あの欠片、まだ色んな時代の空間に飛び散ってるんだよね。まあ君の責任でもあるし、手伝ってよ」

 

 呆然とする蓮に、モルガナが溜め息交じりに付け足す。

「お前はジョーカー。いつまでも、この世の切り札ってことだ」

「……なるほど」

 さすがは切り替えが早い蓮。

 ニコリと笑い、惣治郎の方へと向き直る。

「じゃ、ちょっと行ってきます!」

「え? お、おい……!」

 たじろぐ惣治郎をよそに、蓮はモルガナとともに飛び出していく。

 一人残された惣治郎は、小さな溜め息をつきながら苦笑い。

 

「……やれやれ。相変わらず慌ただしい奴だ。ま、アイツなら大丈夫かな」

 そう言いながら、惣治郎はサユリに向かってウィンク。

 

 そして屋根裏部屋のベッドでは、祐介が安らかな表情で眠っていた……。

 

 

(了)


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(必須:50文字~500文字)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。