ふいに動きを止めた蓮を見て、惣治郎が怪訝に感じる。
「……どうしたんだ?」
「エプロン……。そう。エプロンが問題なんです」
「何だって?」
と、そこで入口のドアが開き、武見妙が入ってきた。
「お待たせしました」
「え?」
少し驚いて妙の方を見遣る蓮。
すると、惣治郎が妙の方へと向き直る。
「あー、先生。ありがとうございます。どうぞ上へ」
どうやら、祐介を診てもらうために惣治郎が呼んだようだ。
妙は、惣治郎の後について歩を進め、蓮とすれ違いざまにひと言囁く。
「久しぶりね」
「あ……、はい」
何故か少し動揺している蓮。
一方、妙は素知らぬ表情で屋根裏部屋へと上がっていく。
*
蓮が屋根裏部屋へ上がると、妙はもう祐介の診察を終えていた。
「……だいぶ衰弱してるけど大丈夫。全く、何でこんなことになるの?」
「おい、お前何か知らねぇのか?」
惣治郎の問いに、蓮は知りうることのみを答える。
「山へ修行に行ったとしか……」
「何それ。……ホントに変なコたちね。確か、一年か二年前にも引き籠もりの女の子を診てあげたような気がするけど、自分の命は大切になさい」
「はい」
「じゃあ、私はこれで」
「あー先生、ありがとうございました」
惣治郎は妙に深く頭を下げる。
その絶妙なタイミングで蓮の前を横切る妙。
「……また、来てくれるのかな」
妙の囁きに答えることも目を合わせることもしない蓮。
その表情は、微妙に強張ってた。
「……おい」
惣治郎の何度目かの呼びかけでようやく気がつく蓮。
「あ、はい」
「何だ? ボーッとして。そういや、さっき何か言いかけてたな」
「そ、そうだ! エプロ……」
と、階下で何やら大きな物音が!
「何だ!?」
階段を駆け下りる惣治郎と蓮。
すると一階は白煙に支配されていた。
「うわっ! 何なんだ!?」
惣治郎が手探りで換気扇のスイッチを入れる。
徐々に白煙が止んでいき、視界が戻ってくる。
と、そこには見たことのない少女が立っていた。
「君は……誰だ?」
蓮の問いかけに、青い帽子を被った少女は答える。
「私は……、わたし」
「……何だ? 知り合いか?」
惣治郎も煙を手で仰ぎ避けながら、青いショルダーバッグを提げた少女を見遣る。
「ここは……どこ?」
今度は逆に、黒赤のアームカバーと白黒のニーハイを身につけた少女が周囲を見回しながら問う。
そして、入口近くの壁にかかった油絵を見つけ、それに見入る。
「その絵が、どうかしたか?」
「この赤ん坊……」
「ん?」
「……うっ!」
突如の頭痛に頭を抱える白シャツの少女。
と、そのまま店を出て走り去っていく。
「おい! ちょっと……!!」
扉から外を見渡す蓮。
しかし、少女の姿はない。
「……全く、どうなってやがんだ」
そう言いながら蓮を店の中へと促し、扉を閉める惣治郎。
「今日はもう店仕舞いだな。……おっと、お前何か言いかけてたよな?」
「あ、そうだ! エプ……」
と、今度は屋根裏部屋で何やら物音が!
「……何だ!?」
*
屋根裏部屋の窓が大きく開き、ベッドの上には誰の姿もなかった。
「祐介……」
(つづく)