その夜、蓮は懐かしい夢を見た。
子供の頃によく遊んだ公園、友達、そして家族……。
その中心にいたのは、やはり蓮が最も甘えた人だった。
「……おかあ……さん」
ひと筋の涙とともに、蓮は目覚める。
寝不足の目には、朝陽がとても眩しい。
ゆっくりと起き上がると、モルガナがいないことに気付く蓮。
「もう、下りたのかな」
着替えを済ませ、顔を洗って一階のカウンター席へと座る蓮。
「おはようございます」
「おお、おはよう。……眠れたか?」
「一応……」
「そうか」
そう言う惣治郎の目も心なしか赤い。
やはり、あまり寝ていないようだ。
蓮は、そんな惣治郎の顔を見るや申し訳なさでいっぱいになり、泣きそうになるのを堪えて立ち上がる。
「俺、コーヒー淹れますよ!」
「ん? 大丈夫なのか?」
「多分……」
勢いよく言ったものの幾分自信なさげな蓮の頭を、惣治郎が優しく撫でる。
「いいだろ。やってみろ」
「……はい!」
二人が入れ替わり、惣治郎はカウンターの椅子に腰掛ける。
そして、蓮はコーヒー豆の選別に入る。
朝陽が、ルブラン一階扉の隙間からも、差し込んできた……。
*
「……ここは」
祐介が目を開けると、眼前には大柄の男が立ちはだかっていた。
しかし、薄暗い部屋でその顔はよく見えない。
「だ、誰だ? ここは……どこなんだ?」
まだ衰弱した身体が思うように動かない祐介。
その祐介を男はジッと見つめる。
まるで、その全身を品定めするかのように……。
*
朝食を終え、蓮が四軒茶屋の駅へと歩く。
細い路地の両脇には、懐かしい店が立ち並ぶ。
と言っても、僅か一年のブランクだ。
そうそう変わっているはずもない。
しかし、何故か蓮の目には何年も前に見た景色のように映る。
そして、角を曲がったところでふと立ち止まる。
「……ん? こんな場所、あったかな」
目の前に広がった風景は、ぼんやりとしているが暖かい、実に心地良い青だった。
ゆっくりと歩を進める蓮。
と、その隣に一人の少女が現れた。
「君は……」
そう。
昨夜ルブランに現れた青い帽子の少女・マリーだった。
「私はマリー……だったと思う。多分」
「何それ。自分の名前だろ?」
「私が付けたワケじゃないし、誰かが勝手に呼んでただけかもしれないし……」
「なるほど」
マリーの支離滅裂な言葉を、何故かあっさり受け入れる蓮。
そして、二人は淡いブルーの小路を抜け、広々とした空間に出た。
そこは、昔蓮がよく見ていた、近所の公園の景色だった……。
*
ガシャン!
「おっと、しまった!」
惣治郎が手を滑らせ、コーヒーカップを落として割ってしまう。
「あ~あ。コレ、あいつの愛用だったのになあ」
無念の表情の惣治郎。
と、入口近くでガタッ!と物音が。
「ん?」
惣治郎が近付くと、サユリの絵が額ごとズレて落ちそうになっていた。
「何だ? 地震でもあったか?」
訝しげにサユリの額を直す惣治郎。
と、額の中のサユリが、惣治郎に何かを語りかけてきた。
「な……、何だ……!?」
(つづく)