いつまでも、どこまでも(惣主)   作:ミカヅキ&千早

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第9話「掴めそうで掴めない、背中」(千早)

 

「荒垣先輩に、真田先輩!?」

驚いた声を上げたのは天田だった。

二人の視線の先には長いコートを引っ掻けた男と、反対に半袖の男が立っている。

長髪に短髪。

快活そうな笑顔に、媚びなどしない偏屈な表情。

どこまでも真反対なように見えて、どこか二つで一つのピースのようにしっくりと感じさせる、そんな二人だ。

「知り合いなのか?」

「学校の先輩なんです」

それだけじゃないんですけど、と言われ惣治郎はなんとはなしに察しがついた。

きっと蓮たちのように特別な何かを過ごして結束したのであろう人間関係が三人の視線から感じられたからだ。

「どうしたんですか?」

「……青い帽子を被った女と、クセ毛の青年がこの近くで不意に姿を消したんだ」

「それを見かけた俺たちはすぐに追いかけてみたんだが、現場からは何も見つからなかった。そう、ただの行き止まりだったんだよ」

不思議な話ですね、と天田が眉間を寄せる。

だがそれが何を指しているのか惣治郎は理解した。

「おい、その片方のクセ毛、……あー、なんだ、特徴がねぇな、アイツ……そうだ、コーヒーの匂いとかしたか?」

「あっ!もしかして、蓮さんですか!?え、消えた!?」

「待ってくれ、順番に話を追わせてくれ」

筋肉馬鹿に見える短髪の男、真田が慌てる二人を制する。

そこで少し落ち着いた惣治郎が、蓮を探していること、天田が二人を見かけたのでここに来たことを説明した。

それをふんふんと聞いている真田の横で、帽子を目深に被った荒垣が双眸を眇める。

「しかしアイツらから殺気なんかは感じられなかったぞ。考えられるとしたら二人でどこかに消えたってことだ」

「は!?ま、まさか駆け落ち……」

「天田、黙ってろ」

ぺし、と荒垣に頭を抑えられて、頬を赤くした天田は礼儀正しく背を伸ばし口にチャックをした。

それだけで彼らの関係性が見えた気がする。

「……蓮は、あー……友人なんだが、祐介って男を探しているはずだ。その関係かもしれない」

「祐介、ですか?」

「ああ、ほそっこい長身の男なんだが、体調が悪いってのに行方をくらましてな。それだけじゃない、彼が描かれた絵から、彼の姿が消えたんだ」

「姿が、消えた!?」

若者三人の目が合った。

何かを考えるように黙り込んでしまったが、互いに視線は外さない。

そんな状況に惣治郎はつい後頭部を掻いてしまった。

惣治郎に出来るとしたらあくまでも近辺の捜索だけだ。

何か特別な力が必要だとしたら彼らに頼るべきかもしれない。

今までの経験がそう告げていた。

「……祐介くん、って、僕が助けた彼ですよね」

天田の問いに惣治郎が頷いた。

「もしかしたら彼はいま、この世界から消されそうになっているのかもしれない」

「この世界から?」

「たとえば邪神を封じるための人柱に。たとえば世界を操ろうとするものの邪魔になったから。……理由はいろいろと考えられますが、彼の存在自体がなかったものにされそうになっているのかもしれない」

「それを蓮は止めようとしてるってのか?」

「分かりません。まずその青い帽子の少女の正体が掴めないので……」

それもそうだな、と惣治郎はうつむいた。

ただ蓮が祐介を救おうと何かしら動いていることだけは分かった。

アイツはいつもそうだと。

自分よりも他人を優先して、自分は傷ついても構わないからと。

そんなことはない、お前も大事な人間だと誰かがきちんと告げなければ、蓮はあやうくて仕方がなかった。

「僕たちは何か世界に異変が起きていないか調べてみます」

「そこから二人が消えた、いや、移動した先が分かるかもしれないので」

じゃあ、と四茶の駅に向かおうとする三人を、待ってくれ、と惣治郎が引き留める。

「……俺も連れてっちゃくれねぇか?」

「マスターを?」

「マスター?」

「あ、この先にある喫茶店の店長なんです」

言いながら彼らは探るような視線を惣治郎へ向けた。

それはまるで信じられる大人であるか、見定めるような蓮の視線とも似ていた。

「役に立てるなんて思っちゃいねぇが、黙って待ってるのはもうこりごりでな……無理は言わないが……」

「や、事情を知っている人間がいたほうがこちらとしても助かります。お願いします」

差し出された真田の手に、一瞬間を置いて惣治郎の手が重なる。

それを他の二人も温かに見守っていた。

 

 

(つづく)

 


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