最近つけ麺を食べてない。食べたい。
二十五頁
「少年!豚骨ラーメン食べたい!」
「……………………」
コイツは何を言ってるのだろうか。
コカビエルの一件から数日、件の授業参観まで残り一週間を切った頃合い。
そんな日の夕方、俺はスーパーで安かった鶏肉をそこそこ買って今日の夕飯の為に下味を付けていたわけだが…………。
「二亜。視力でもイカれたか?俺今何してる?ン?」
「胸を揉んでる」
「そうだな。鶏の胸肉に下味を付けてるな」
言い方を考えろ。
そんなんだと俺が変態にきこえかねない。俺は兵藤一誠とは違ってノーマルなんだよ。変態じゃねぇよ……。
普通唐揚げと言えば、鶏ももだが今日買ってきたのは鶏ムネだ。
俺はひとまず二亜の戯言を右から左へ受け流しながら、作業を続ける。大きめの袋に丁度いい大きさに切り分けた鶏肉を放り込む。些か買いすぎたか、袋が二つ必要になるとは。
だが、これも良い誤算と考えよう。二つ目の袋に入れる下味のつけダレにはいつも通りの醤油・酒・生姜の混ぜダレにニンニクを追加する。
「唐揚げもいいけどさぁ……やっぱり油がねぇ」
「豚骨食べたいって言ってる奴がなんかほざいてるな」
ニンニクつけダレを袋に流し込み、出てこないように袋の口元を掴み、片手で肉を揉みこんでいく。
唐揚げの下味を付ける際、一晩とか長時間漬けておかないと下味がきちんとつかないと思っている人もいるかもしれないが実際はこういう風にしっかりと下味の調味料を手で揉み込むことでだいたい五分から十分ほど置いておけばきちんと下味がついてくれる。
「少年、考えてみ?たくさん食べるだろう唐揚げと一杯で終わる豚骨ラーメン。実質豚骨ラーメンの方が油少ないのでは?」
「結局唐揚げ食べるのなら、豚骨ラーメン減らした方が油減るだろ」
「えぇー」
まあ、流石に二袋は多すぎる気もしなくもない。仮にも育ち盛りの範疇であるが俺と二亜だけで全部を食べるというのは少しどうかと思う。
もし仮にアルテミシアを呼んだとしても流石に年頃の女子を呼んで出すのが唐揚げてんこ盛りってのは……それってどうなんですかねぇ。
そりゃあ、俺とて男子。仲のいい女子に対して配慮もする。
「というか、いま俺が現在進行形で唐揚げの下味を付けているのを見てるのに、なぜ故にそんな要求が出来るのか」
「仕事終わったから」
「だから、豚骨ラーメン啜りながらビール飲みてぇ、と?」
「イエスオフコース」
滅べ。
しかし、仕事終わったんか。
コカビエルの一件じゃあ状況が状況だから、この街の外にしばらくいてもらってたからな……仕事もあまり捗らなかったらしいし…………ううむ。
いや、だが、だからといってここで退くのはどうかと思うが………………。
「…………………………はぁ」
「お」
「あからさまに反応するのやめぃ。まあ、仕事が詰まった理由は俺にあるから仕方ない」
今回は俺に非がある以上妥協しよう。
「とりあえず、これ揉みこんどいてくれ」
「はいはーい」
先に作っていた袋の方を二亜に手渡し揉み込ませる。
夕飯を変更するんだこれぐらいの労働は許容してもらわねばならんな。
さて、豚骨か……この辺だとああ、この前M16と行ったラーメン屋も確か豚骨……人形だからといって他の女子と行った場所に行くのは少し脳無しだな。
なら、この前、アケボシの翁が教えてくれたラーメン屋に行くか。
「鴎、大変」
「ン?どうした二亜」
「これ、普通に胸を揉んでる感触がする」
「本気で泣かすぞ、おい」
これだからエロ親父インストールは……。
頭抱えたくなったが我慢し、俺はそのまま肉を揉み込み続けた。
くそ……馬鹿のせいでちょっと意識するじゃんか。
「よっす」
「…………おぅふ」
二亜を引き連れ訪れたラーメン屋。
扉を開けたら、そこにはカウンターでラーメン啜ってる翁が一人ありけり。
なんで、この日に限ってこの人もラーメン食いに来てるんですかねぇ。
ああ、ちなみに唐揚げはそのまま空気抜いて袋の口を締めて、冷凍庫に入れといた。
明日の朝に幾つか揚げて弁当に入れるか。
いや、それよりもだ。
「リゼさんおひさー」
「二亜ちゃんもおひさー」
お前ら平常運転か!?
いや、この場合俺か。俺がアレなのか……。
とりあえず二亜はさっさと翁の隣に座ったから、俺は二亜の隣に座る。
メニューを開けば豚骨系が多いな。
「いやぁ、まさかリゼさんも来てたとは」
「んー、諸事情でネ。しばらくこの街に滞在するのよ」
「へぇー、そうなんですか」
なんか、聞き捨てならないことが聞こえたが気にしてはいけない。気にしたら胃が痛くなりそう。
「濃厚魚介つけ麺900細ちぢれバラチャーシュー、トッピングに煮卵二つとチャーシュー……これもバラで、あとはチャーハン大盛り」
「豚骨チャーシューメン、チャーシューはバラで脂多めシナチク少なめ……にしても食べるねぇ少年」
「おじさんびっくりだよ、カモたろくん」
「誰がカモたろだ誰が」
それだと鴎じゃなくて鴨だろ。同じ水鳥でもだいぶ違うぞ、おい。
……今度、鴨肉買って鴨丼とか鴨出汁うどん食べたいな。
「んで、そういえばカモメん、君今度授業参観あるらしいじゃん」
「んぐ……」
水が気管に入りかけた。
アレだろ、絶対にヴェーナ辺りに聞いたろう。アンはそういった事はあまり口外しないがヴェーナは違う。
俺が困る顔でも見ようとしたのか…………はぁ。
「それがどうした」
「ん、いやぁ。まあ、間違いなく来るよなぁと思って」
「誰が」
「えぇ?知ってるでしょカモメん。シスコン魔王だよ」
ぁ?
「うわぁ、割り箸折れた……」
「嫌いだもんなぁ」
公私も分けれん魔王共なんだから仕方ないのでは?声がイケボだろうが敵なら敵でしかない。
アレらは為政者としては半端な存在、そう俺は判断している。
だから、嫌いだ。
まあ、一番嫌いなのはあの腐れの同族だがな。あれは病原菌の発生源、ヘドロとスモッグを垂れ流す工場、悲劇の印刷者。
奴だけは間違いなく殺さねばならない。他の三匹はともかくアレだけは…………
「少年、煮卵貰うよ」
「カモメん、俺も貰うわ」
「…………いや、待てよ!?」
こ、こいつら……人が思考を回してるタイミングで人の煮卵を…………外道畜生の類かな?
まあ、俺の暗い感情を紛らわせようとしたのは理解できるし、その辺は頭を下げる他ない。だが、それはそれこれはこれ。
「奢れ」
「えぇー、おいちゃんに払わせるのかよ」
「あのシスコンとAR-15に聞いたぞ。この前ベガスで一山当てたって」
「なずぇに従者と護衛から報告されてるんですかねぇ」
AR-15に関しては単純に任務だからその辺、俺に報告するから仕方なく無い?俺としてはAR-15がそういう報告してきた事に驚いてる。
というか、そうだよAR-15だよ。
「なあ、AR-15からアンタがここに来てる事何も聞いてないんだが」
「ン?そりゃ、ラーメン食べたくて先にこっち来たからネ。ユーグリットくんもスターちゃんもそろそろこっちに来る頃合いじゃない?」
「えぇー、リゼさん。15ちゃんのことスターちゃんって呼んでるの?あたし許されてないんだけども」
「当たり前なんだよなぁ。二亜、お前セクハラするじゃん。M4や416、ROからも苦情きてるぞ」
全然悪びれていない二亜に軽くため息をつきつつ俺はつけ麺を啜る。
しかし、なんでこんなタイミングでコイツはこっちに来るのか……というか護衛を置いて行くな。
まったく。
「たくっ、しょうがないなぁ。おいちゃんが奢ってあげよう」
「さっすが!」
「すんません、餃子一人前と杏仁豆腐お願いします」
「遠慮って言葉知ってる?鴎」
遠慮?知らんなぁ。
結局、この後追加で馬刺しも食べた。そして、俺らの出費はゼロだった。
やはりスポンサー様々だな。
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「ああ、カモメんちょっと待ってくんね?」
「ン」
夕食を食べ終え、店を出た二亜、鴎、リゼと呼ばれている老人。
さあ、帰ろうという所で鴎はリゼに引き止められ、二亜を少し離れた所で待たせリゼのもとに鴎は残る。
「最近、なかなか笑える奴らが出てきたの知ってる?」
「……ブリゲードだったか?テロ屋だな」
リゼの言葉に目を細め、周囲に聞こえない声で返答をする鴎。その返答に気分を良くしたか、リゼもまた目を細めるがしかし鴎と違いその表情には笑みが浮かんでいる。
そんなリゼに鴎はため息をつきたくなるが、飲み込み続きを促す。
「元々は堕天使の幹部の一人が発端でネ、それとオーフィスが合流したのがいまの組織なわけだが…………まあ、名前が同じなだけで中身はまったく別物だネ」
「コカビエルから聞いてはいた。サタナエルだったな」
「そ。まあ、今はそこは関係無いから置いといて。あの何時までも古臭い家柄やなんやらにしがみついてカビ始めてる彼らはぶっちゃけどうでもいいけども、主力的なのは自称英雄な
英雄派と呼ばれる
神器持ちがメインであるということはすなわちは人間の集団であり、鴎にとって悪魔や堕天使ら人外を相手にするより面倒だと考える一方でその耐久力等を見れば楽に始末できる存在であると判断していた。
そんなグループの話が出てきたのと同時に何か面倒そうな雰囲気を感じとったか、その顔を顰める。
「洗脳だろうがなんだろうが、関係無い。結局の所どんな御題目を掲げようがテロ屋に変わりないんだ…………分かるだろ?」
「そりゃ、俺とてテロ屋相手に遠慮なんてこれっぽっちもする気は無いが……容赦ないな」
「反社会的勢力に容赦する必要ある?それに悪魔だから仕方ないネ」
どちらかと言えば俺らはブリゲード側なんだがな。そう呆れたように呟く鴎に玩具を弄ぶような笑みを浮かべながら彼は囁く。
「何事も合法だよ。非合法なら、つけ込まれるが合法なら堂々と出来て尚且つどうにも出来ずに歯噛みする他派閥を見ながらワインが飲める」
「愉悦め。まあいい、テロ屋相手なら多少グレーゾーンなことしても問題ないか」
「そそ。あ、そういえば、ルーマニアの吸血鬼の片方がなんか、きな臭くてさ」
不意に出た吸血鬼というワードに鴎は片目を瞑りながら、訝しげにリゼを見る。それは彼の腹の中を探る様で。
「神器に関する情報を集めてる……とりわけ、神滅具や生命や魂系の神器の情報……きな臭いねぇ……もし仮に何らかの切り札を使ってもう片方の派閥を攻め滅ぼしたら?どうなるかなぁ」
「前置きはいい。欲しいんだろ?スポンサー」
「そういうこと。ま、どう合法にするかはおいちゃんに任せときな。だから、情報の裏取りは任せたよ」
了解。
そんなぶっきらぼうに了承した鴎は話は終わりと言わんばかりにリゼに背を向け、そのまま二亜の方へと歩いていく。
そんな彼の背中を見ながらリゼは嗤う。
「にしても聖剣ねぇ。アレかな、いざとなった時に俺を殺す為かな?信用ないねぇ……まあ、信頼はされてるようだけども……」
「しっかし、辛い話だ。俺ほど誠実な悪魔はいないだろうに。ま、鴎、君の末路を見届けるまでは裏切る気なんかはさらさらない」
「人間ほど面白いものはない、楽しませてくれよこれからも。宗像鴎」
リゼ。銀髪の悪魔は子供の成長を見るように、物語を読むように、カラカラと嗤った。
アケボシの翁
・鴎もとい死銃のスポンサー。
・悪魔で欲望に忠実、故に鴎という人間に興味を抱きその末路がどのようなものなのかが見たい。原作主人公からすれば敵になりうる存在。
まあ、原作キャラだよね。