ちなみにネゲヴはまだ当たらない
暗い夜道、人気のない廃墟へ続く森の道。
そこを音もなく進むのは一つの人影。
黒い外套で身を包みその背に笑う棺桶の刻印を施した身の丈ほどの棺桶を背負う髑髏の仮面を付けた一人の傭兵。
『
こと人外の世界所謂裏の世界においてそう呼ばれる傭兵集団の頭目。
そんな男が極東のさらにその地方都市のこのような所を歩いているのは何故か、そんなものは疑問に思うまでもなく簡単な話だろう。
外套から覗く手に握られているのは銀色のハンドガン。
《……、はぐれ悪魔》
銀のFive-seveNを手に、一歩一歩廃墟へと向かっていく傭兵。夜の森で活動する小動物らは一様に傭兵から微かに漏れる敵意にそそくさと巣へと逃げていく。
膝下まで伸びた草を踏みしめ、道を進んでいけばふと、道は開け月明かりがほのかに強く傭兵を照らす。
外套のフードから覗く赤い眼光は開けた空間のやや奥にある三割程が崩れ壁面は蔦が生い茂りコンクリートが露出している位置を見つけるのは些か難しいと言えるような正しく廃墟。
如何にも陽の光が浴びれぬような輩か潜んでいそうな廃墟を前にしてハンドガンを持っていない手で軽く外套の中、腰にあるものを確認し数歩廃墟へと進む。そうすればつい数瞬前から自身を舐め回す様に向けられた視線がより強くねっとりしたものへと変わったのを傭兵はすぐさま察知する。
『にちゃぁ……不思議なにぉいが……するぅなァ……』
まるで粘度の高いものがたてるかのような音が静かな廃墟に響き、その後からダミ声のような美しい歌声の様な奇怪極まりない声が続き、何度かの最初と同じ音がたてば崩れて中が見えそうしかし暗闇でまったく中の様子が伺えない廃墟の中からそれは姿を現した。
『ぬぅぇへへ……美味しいのかな?まずぅいのかなぁ?』
《frog》
それは二、三メートルはあろうかという藤色の蛙のようななにかであった。イボイボとした肌、四足歩行の指先には水掻きと鋭い爪が供えられ、蛙らしい大口……しかしそんな化け物をより一層化け物たらしめているものがあった。
それは顔である。上顎から上にあるのは蛙の顔ではなくまるで処女雪の如くに白い肌ときっと何人もの女性が羨むであろう人間であれば腰ほどまではあるだろう長い濡羽色の髪、その瞳はぱっちりと開きほっそりとした鼻、正しく大和撫子が如き美しい相貌であるがしかし、問題なのはそれがあくまで上顎から上だけであること。
巨大な蛙の姿にそのような顔などアンバランスを通り越して醜悪極まりないものであり、仮にこれが魔女の呪いでこのような姿に変えられてしまったお姫様でキスをする事で呪いが解けると言われようとも十割の男はそのあまりの醜悪さに呪いを解こう等とは考えないだろう。
さて、さらにこの醜悪な蛙の化け物の詳細を伝えるとするならオタマジャクシの名残かなんなのかうねうねと蠢く尻尾とその根元に生えている申し訳程度の蝙蝠のような羽根がある事だろう。
A級はぐれ悪魔エル=カロッグ。
『笑う棺桶』にとって、今回の仕事の対象。既に何人もの悪魔や人間を食らっているはぐれ悪魔であるそれを前にしてすぐ様に男は動き出す。
はぐれ悪魔と正面に立たないように横へ回り込もうと走りながら、ハンドガンを向けて撃ち込む。
『ぬぅへぇ……』
放たれた銀弾は確実にはぐれ悪魔の脚に着弾するもののやはりその身体の大きさもあるのか対して効いておらずその眼を動かし男を視界に入れる。
瞬間、はぐれ悪魔の僅かに開いた口から男へ向けて何かが飛び出す。はぐれ悪魔の見た目からしてその飛び出したものが何なのかは明らかだろう。
つまるところ、舌である。
《クソが……!》
常人では気づけば既にはぐれ悪魔の胃の中であろう速度で放たれた舌は真っ直ぐに動いている男の左腕へと着弾した。これほどの大型であるならば筋肉量も相当なものでそんなはぐれ悪魔の舌が高速で迫り当たれば間違いなく骨の一本や二本は折れるだろう、がしかしだ。それは常人であるのなら。
舌が左腕へと触れた瞬間、男は自らの左腕を弾かせるように動かし左腕の代わりに別のものをはぐれ悪魔の舌先に当てた。
さて、カエルの舌からとある粘液が分泌されているのは知っているだろうか。それは普段はサラリとした粘液であるのだが舌が口から放たれ標的へと着弾するとそのサラリとした粘液は途端に非常に粘度の高い粘液へと変化し獲物が舌から取れないように口の中へ運ぶ事が出来る。なお、口の中に戻れば粘度は最初のようなサラリとしたものへ戻るそうだ。
オツムの弱いこのはぐれ悪魔はそのまま舌を口の中へと戻す。舌先に着いたものが何なのかを知らずに。それを見て男はマスクの下で嘲笑し、いつの間にかにハンドガンを握っていた筈の右手にはハンドガンではなく黒いトリガーの様なものが握られている。
《Composition―――》
首を掻っ切るように、トリガーを持つ手を動かしトリガーを二度引く。
そうすればソレは起動して……
『ぐぅえ?』
《C-4》
『ぅぅぅええぇ!!??』
瞬間、はぐれ悪魔の身体が十数倍に膨張する。
CompositionC-4。アメリカ軍をはじめとする世界的に使われている軍用プラスチック爆弾であるそれの主成分にRDXというものがあるがこれには毒性が存在しており、これは人間を含む哺乳類に対して脱力感や目眩、頭痛に吐き気、更には痙攣、意識喪失などの症状を引き出す。水には溶けない為、動物には効きにくいがしかし加熱する事で気化したエアゾルを吸い込めば急性中毒を引き起こしてしまう。
ちなみにだが、最近の爆発物には爆発物マーカーとしてエチレングリコールジニトレートという探知剤を添付する事が義務付けられており、これは毒性の強い第一種指定科学物質に指定されており、その毒性は体内に吸収されやすく、暴露されると初期症状として頭痛や嘔吐感に目眩が起き、暴露が続くと全身の衰弱や疲労感に四肢の疼痛が引き起こされ、死亡する場合がある。
見る限りにはぐれ悪魔はC-4の爆発でその身体が四散したわけでは無いようだがその体内でC-4の毒性が残留しているのだろう。
カエルの見た目である為RDXの毒性が効くかは分からないところだが、間違いなくエチレングリコールジニトレートの毒性は体内に残留して影響を及ぼすだろう。
ならば、と男がトリガーを投げ捨て腰の後ろから取り出したるは一丁の銃。
銃身長は460mm、口径5.56mm、使用弾薬5.56×45mmNATO弾。
ハンドガンでは些か効果は薄い。故に使うのは
男はすぐ様ネゲヴを構え、体内で爆破したC-4のダメージ硬直から抜け出せないはぐれ悪魔に対して引き金を引く。射撃の際の衝撃を一切度外視しての射撃、装弾数150発のベルト式弾倉────無論、改造が施されているのだろうか弾倉はそのまま男の背負う棺桶へと繋がっており一切弾倉が途切れる様子は無い。
やはりと言うべきだろうか、ネゲヴで放っている弾丸一発一発が悪魔や堕天使等の人外にも影響を与える汞である。そんなものが直接何十発も体内に入れば…………
『ぅぇ、ぅぇ、ぅぇ、ぅぇ……』
先の毒性もあり、尚且つその身体が蜂の巣と化したはぐれ悪魔はもはや虫の息でしかなく。そのカエルの身体に反した女の顔も見るに堪えないものと化した。
そんなはぐれ悪魔にネゲヴをしまった男は近づいていく。その手に握られているのは銀色のFive-seveN。
《good-bye》
真夜中の廃墟に乾いた銃声が響いた。
────────────────────────
深夜二時前。
明日は特に祝日とか休日とかでもないにも関わらず俺は一人ぶらぶらと街を歩いていた。
特に意味は無い。
単純に思春期……いや、人間誰しも一人になりたい時があるだろ?要するにそういう事だ……決して二亜に無茶ぶりされたくないから外にいる訳じゃあない。ホントだよ?
……暇だ、後お腹空いた。
こうして一人でいると色々と考える事がある。仕事の時ではあまり考えないことだ……どうして俺なんかがこの世界に転生してきたのだろうか、
いや、よくある神のミスとかそういうのでなったわけじゃない以上、そんな考えはどうして左利きなんだろうと考えるようなもんだ…………なんか違う気がするけども気のせいだろう焼き鳥食べたい。
今でこそ硝煙香る主夫高校生的な日常系主人公をやってるが昔は酷かった酷かった……二亜に会うまでがなぁ……そうだ焼き鳥食べよう。
もも、かわ、つくね、むね……そういや、二亜本当に胸ないな……悲しみ溢れるわ、いや、あるっちゃあるか……ただこの世界の奴らに比べたら無いだけで……あ、涙が……。大丈夫、大丈夫だ、二亜。俺、胸派じゃなくて太ももとうなじ派だから。
「ウミネコ?」
「……?……おうふ」
そんなアホみたいな……アホみたいってのもあれか。ともかくそんなふうに考え事をしていた俺の向かいから偶然知り合いがやって来て、わざわざ俺に声をかけてきた。
オレンジ色の腰まで伸ばした穹のように蒼い瞳の少女。まだ梅雨前の夜故に寒い人は寒く感じる為、コートを羽織っている俺と同年代と思われる彼女。二亜とはまた別に俺が世話をしている少女なんだが…………。
「おたく十八でしょ?なんで一人でこんな時間に外にいるんですかねぇ……お兄ちゃん困っちゃう」
「……?プリンが食べたくてロー〇ンの」
「魔性かロー〇ン」
なるほど、ロー〇ンのプリンが食べたくて外に出た……理解できる。だけども、そんな歳頃の美少女がフラフラとこんな時間に外に出ちゃあかんでしょうよ、タダでさえ美少女なんだから。後二亜には悪いがなかなか良いものをお持ちなんだから……お兄ちゃん心配。
「ウミネコは心配性だと思う」
「おま、自分が美少女だっての自覚してくんない?何時か変な男にホイホイ付いていきそうでお兄ちゃん心配なんだけど……」
「変な人?大丈夫、そこまで私抜けてないから」
「なんとも言えんわアルテミシア」
彼女の名前はアルテミシア。アルテミシア・ベル・アシュクロフト……まあ、わかる人はわかる美少女だ。先程も説明したが彼女も二亜同様俺が世話をしている少女……だがまあ、二亜の様な要介護者では無いので現在俺が仕事で稼いだ金で手に入れたマンション────勿論、防犯セキュリティは万全だ────の一室で一人暮らしをしている。
歳は十八歳になったばかり、俺と同じく駒王学園に通っていて現在は三年生……だが、なんというか天然なのだろうか、こう見えてガチで武闘家男性以上の身体能力があるから不埒な輩に襲われても逆に捻り潰せるのは分かるんだが、無防備に外へフラフラ出るのはなんとかして欲しいものだ。
美少女なんだし、美少女なんだから……もうちょっとね?
ちなみにだが、何か不埒な輩が不埒な考えをしてそれをやろうとしたら俺が狙撃する。……そうだ、護衛でも付けとこう。
「やっぱりウミネコは心配性だよ」
「心配性で何が悪い……まあ、束縛されてると思ってるんなら、仕方ないか……お前の人生だしなあまり口出すのも悪いか」
「そこで引き下がる辺り、ウミネコって甲斐性無しだよね」
「誰が甲斐性無しだよ……別にいじけないわけないから。なんなら、甲斐性だろ俺」
経済的に頼れるやん。二亜もそうだが、俺だって結構稼いでるやん。
何なら、アルテミシアさん。お前の家賃諸々俺が払ってんだよ?まあ、その辺はアルテミシアを分かってるから言わんけど。
「むぅ……それじゃ、帰ろ?」
「おう、待て、俺の手を掴んでマンションへ向かうな。俺もお前も明日学校」
「一日ぐらい休んでも問題無いと思うな」
「なんで、そこでその選択なんですかねぇ……いや、もう、マンションまで送ってくわ。流石に女の子一人で夜道帰らせるのもアレだし」
なんだろうか。二亜ならある程度ツッコミと称して力押しが効くがどうにも彼女、アルテミシアにはそういうのが出来ない。
やっぱり立ち位置の問題なのだろうか……正統ヒロインなアルテミシアと幼馴染系もとい腐れ縁ヒロインの二亜ではやっぱり扱いが無意識的に変わってしまうものなのだろうか。胸か、胸の差か。あ、ロー〇ンで焼き鳥買いたい。
「今夜は、寝かせないよ?」
「帰らせろ」
この後、何かあった訳もなく、ロビーでさっさと別れた俺は帰りのロー〇ンで焼き鳥のかわを十本ほど買ったのだが帰る頃には全部食べ終わっていたのであった。
最初の悩み的なのはいったい何処へ消えたのやら……やっぱ悩みより食い気だよね
今回はそこそこ長文な気がする……
アルテミシア・ベル・アシュクロフト
デアラのウィザード。可愛い。鴎がとある仕事で拾ってきた鴎の一つ歳上な美少女。身体能力がかなり高い。後、鴎の事をウミネコと呼んでる。それはそれとして鴎と老後をゆったりと過ごす予定。ヒロイン力は二亜よりも上。
後悔はしていない。
後焼き鳥食べたい