漫画家と主夫高校生のD×D   作:カチカチチーズ

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予定より一日遅れの投稿。

 そういえば、本作は9月10日で一周年を迎えます。




四十三頁

 

 

「私はシーグヴァイラ・アガレス。大公、アガレス家の次期当主です」

 

 

 そう、眼鏡をかけた悪魔の女性がグレモリー眷属に軽い挨拶をする。

 先ほどまでこの大広間にて行われていたアガレスとグラシャラボラスの次期当主による諍いは現状に呆れたサイラオーグ・バアルの手により──文字通りその手によって──ゼファードルの撃沈で幕を降ろされた。

 その後化粧直ししている間に呼ばれたスタッフらの手により大広間はほぼほぼ元の姿へと修復された。そうして、彼ら若手──撃沈したゼファードルとその眷属らを除いた四家の次期当主らはテーブルを囲んでいる。ちなみにだがソーナ・シトリーのシトリー眷属はゼファードルが撃沈して運ばれていくのと入れ違いにやってきた。

 

 

「ごきげんよう。私はリアス・グレモリー。グレモリー家の次期当主です」

 

「私はソーナ・シトリー。シトリー家の次期当主です」

 

 

 リアスとソーナが挨拶をしてから二人は席に着く。眷属らは各々の主の後方で待機するというなんとも貴族社会らしい扱いである。

 

 

「俺はサイラオーグ・バアル。大王、バアル家の次期当主だ」

 

 

 見た目に相応しく堂々と自己紹介する若手ナンバー1の悪魔。彼を最後にこの場の自己紹介は幕を降ろすわけだが、根本の原因は十割あちらにあるにも拘わらずサイラオーグはこの場にいないゼファードルの紹介を始める。

 

 

「この場にいないがゼファードル・グラシャラボラス。先日のグラシャラボラス家の御家騒動で本来の次期当主が不慮の事故死をとげたことで、新たな次期当主候補になった男だ」

 

 

 事故死と説明され、言葉通りに受け取る者がこの場にいるだろうか。いや、一部の者は信じそうであるが。

 無論この件に関しては関係ないという事で真相を闇に葬ってもなんら問題のない話だ。何せ、この件に何も興味がわかないのだから。

 さて、本来ならばここには6人の若手悪魔が揃うはずだった。サイラオーグにより撃沈されたゼファードルはいないのは仕方がないことであるが、ではもう一人の不在者。それはディオドラ・アスタロトという名の現ベルゼブブの身内である男だ。

 表向きには彼は眷属諸共テロリストによって殺されたことになっている。

 

 

「アスタロト家は……現状次期当主になれる者がいないため、ここには不参加らしい」

 

「……残念なことです」

 

 

 目をつむり無念であると感じる若手悪魔ら。

 そんな彼らを彼らより離れた壁際で冷たい瞳で見るのはディオドラ・アスタロトの死の真実を知る、否、殺した側の人形。旧約聖書に記されている都市の名を冠する彼女は今頃どこかの海底で転がっているであろうコンクリートを脳裏に過らせながらもすぐにその思考を抹消して警備に意識を戻す。

 時折、自分たちの方へと視線を向ける腑抜けている一部の眷属悪魔の視線をうっとおしく思いつつもその感情を一切表情に出さない。自分の仕事はあくまでこの場の警備なのだから。

 

 

「ところで、先ほどから気になっていたのですが」

 

 

 ディオドラ・アスタロトを惜しむ空気を裂くようにシーグヴァイラが口を開く。それはこの大広間に入るときと入ってから抱いていた疑問。

 

 

「あちらの方々はどなたで?悪魔ではないようですが」

 

 

 そう言って視線を人形らの方へと向ける。

 それはサイラオーグも感じていた疑問であり、サイラオーグはそのシーグヴァイラの疑問に首を縦に振り視線を向ける。この場において彼らを知るのは既に冥界へと戻る際に見たグレモリー・シトリーの両眷属らだけである。

 ゆえにその疑問にソーナが口を開いた。

 

 

「『笑う棺桶(ラフィン・コフィン)』のメンバーですね。あちらの女性の方は初めてですが、少なくとも部屋前で待機している方々とあちらの二人と同じ格好をしている人達を見たことがあります」

 

「『笑う棺桶(ラフィン・コフィン)』……」

 

「あれが例のリゼヴィム殿の……」

 

 

 この場の全員の様々な感情の入り混じった視線を受けて人形は軽く会釈しすぐに表情を戻す。

 それにこれ以上は何もないと判断したのか全員、視線を戻して呼ばれるまでの談笑を始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 使用人の迎えにより大広間を後にし、魔王らと重臣らとの謁見を行った若手悪魔ら。

 重臣らから語られる小難しい偉ぶった言葉の数々や魔王らによる今後の説明などを行われ、サーゼクスの聞いた若手悪魔らの今後の目標。

 魔王になる、と言い張ったサイラオーグ・バアル。

 レーティングゲームの頂点に立つ、と語るリアス・グレモリー。

 他様々な目標が語られていき、最後にソーナ・シトリーが夢を語った。

 

「冥界にレーティングゲームの学校を建てるという夢」

 

 それも現在存在している上級悪魔や一部の特権階級の悪魔のよしみで通えるようなソレではなく、下級悪魔や転生悪魔の通えるという分け隔てない学校。

 そんな真摯な夢。

 しかし、いつだってそんな真摯な夢は心無い老害が踏み躙るものだ。

 

 

「それは無理だ!」

 

「これは傑作だ!」

 

「なるほど!夢見る乙女というわけですな!」

 

 

 嘲笑。嘲笑。嘲笑。

 夢を。ソーナ・シトリーの語った夢と、彼女に降り注ぐのは老害たちによる嘲笑ただそれだけ。

 

 

「私は本気です」

 

 

 それでも、彼女はその胸に抱いた夢を手放さない。

 

 

「ソーナ・シトリー殿。下級悪魔、転生悪魔は上級悪魔たる主に仕え、才能を見出されるのが常。そのような養成施設をつくっては伝統と誇りを重んじる旧家の顔を潰すこととなりますぞ?いくら悪魔の世界が変革の時期に入っているといっても変えていいものと悪いものがあります。まったく関係のない、たかが下級悪魔に教えるなど……」

 

 

 そんな冷酷な言葉に耐えきれない者がいた。彼、匙元士郎は立ち─────

 

 

 

「いいじゃないか。面白そうだ」

 

 

 

 そんな言葉に立ち上がろうとした匙元士郎はその場で驚き固まり、ソーナ・シトリーは目を見開き、老害も魔王もその声の主へと視線を向けた。

 そこは魔王らより一段低い席群の一番端の席に腰かけている老公。それはソーナ・シトリーも見たことがある悪魔。

 暗い銀髪の老悪魔。すなわちリゼヴィム・リヴァン・ルシファー、『リリン』である。

 

 

「前代未聞の下級悪魔転生悪魔の為の学校ねぇ。貴族らしいなんとも傲慢な夢だ。だが、まあだからこそ面白い」

 

 

 悪辣な銀悪魔は面白そうだから、この場を掻き回す。

 最もここで少女の心を丁寧に叩き折るというのも面白い。だがしかし、それよりも面白そうな考えがその邪智の脳裏に沸々と海底から湧き出る酸素のように現れていく。

 その考えを壁越しに察知した外の彼はため息をつく。

 

 ああ、なんて悪魔。

 

 

 

「なるほど、伝統。なるほど、誇り。ああ、正直二代目故、他の者らよりはたいして前者は気にしてはいないが……それらは大事だ。それを無視しての夢ではいけない」

 

「いいかな?ソーナ・シトリー殿。キミの語る夢はそういった現状を踏み躙りかねない考えだ。そんなつもりがなくてもそういうものなのだ」

 

「だが、安心するといい。キミはここで失敗してしまった。大丈夫、失敗など誰だってするものだ────だから、この失敗を糧にどうすればいいのかを考えるんだ。躍起になってはいけない」

 

「頭ごなしに否定されたからと言って意固地になって初志貫徹をしようとしてはいけない。何事も現状に対応した考えをしなくてはいけない」

 

 

 

 その言葉はあまりに甘いものだった。

 まだ二十年も生きていない少女にはその言葉はまるで導きの言葉であった。いや、まるで、などではない間違いなく導きそのものだ。

 なにより悪魔らしい邪悪な囁きは同族にすら絡みつく。

 

 

 

「「「「私は君の夢を否定しない。応援しよう、何時かきっとキミがその夢をかなえられるのを応援しよう。ソーナ・シトリー殿」」」」

 

 

 

 空気が違う。

 それを壁越しに感じ取った彼は再びため息をついた。

 

 

 ああ、また一人。

 

 

 

 

 

 

 さて、話はいつの間にかに流れていき若手悪魔たちによるレーティングゲームを行うことが決まり、日程等は後日通達する旨を魔王によって告げられこれにより、この会合は終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レーティングゲーム、といえば魔王様方」

 

 

 

 

 

 いや、終わらない。

 口を開いたのはリゼヴィム────ではなく、また別の悪魔。

 その男の顔をリゼヴィムは覚えていた。自分、いや正確に言えば彼らに対して否定的な悪魔だったはずだ。姓は確か────

 

 

 

 

「なにかね」

 

「リゼヴィム殿の配下である彼ら。なんでしたかな?そうそうテロ対策部隊でしたかな?」

 

 

 その表情はまるで面倒ごとを抱いているかのような顔で

 

 

「あんな人間どもの傭兵風情がテロ対策と言って我々の近くを歩き回るなど……その実力が確かなものなど到底信じきれませぬ。人間如きに何が出来るというのでしょうか」

 

 

「ゆえに我々にその実力を示してほしいのです。無論、人間如きの実力などたかが知れていますがね」

 

 

「つまり、悪魔と彼らでレーティングゲームを行うと?」

 

 

 

 サーゼクスの返答に威を得たように醜悪な顔をゆがめて老害は笑う。それを見てリゼヴィムは思い出す。

 ああ、そうだ。こいつが出どころだったな、と。

 

 

 

「今日、今から、我が一族の者と」

 

 

 

 ヴァサゴの悪魔は嗤った。

 

 

 

 

 

 






ソーナさん、大丈夫?
 はえー、次回どうなるんだろ。


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