漫画家と主夫高校生のD×D   作:カチカチチーズ

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 旅行明け初投稿。

 


四十五頁

 

 

 レーティングゲーム開始の宣言が盤上に響き渡る中、要塞内のヴァサーゴ陣営はよほどの自信があるのだろうか、本陣である要塞の謁見の間にてテーブルを持ち込み軽くお茶を楽しんでいた。

 無論、ただ楽しんでいるわけではない。

 テーブルの上にはこのフィールドの全体図であろう地図が引かれ、そこにはEXE側の本陣の場所など詳しく記されていた。このフィールドに転移してそんなに時間が経過していないことを考慮するにこの地図に記されている情報等はこっちに来てから手に入れた情報ではなく、ほぼほぼ間違いなくゲーム開始前から持っていた情報であるのだろう。

 さて、そんな地図を見下ろしながら紅茶を口にするヴァサーゴの『王』ドミウス・ヴァサーゴは実の父親の仇である死銃がこのゲームにいないためか先ほどまでの殺意や怒気は鳴りを潜め、冷静に思考を回していた。

 ドミウスは決して愚かな男ではなかった。

 少なくとも今回のレーティングゲームにおいて抱いていた死銃への復讐心とも言えるそれが生まれた原因である数年前の事件においては死銃側に非はほとんどなかったという事を理解している。非があったのはあくまで契約を破った挙句にあちら側にふざけた欲望を押し付けようとした自身の父親であることをしっかりとドミウスは理解していた。

 無論、死銃もやりすぎな気もするが。ドミウスは好色な父親があまり好きではなかった。成人してからはあまり関わらなかったほどに……しかし、好きではなくともドミウスにとってあの男は父親なのだ。故に死銃に殺されたという事実に対して死銃に復讐心を抱きもする。

 

 しかし、目的だった死銃がこのゲームにいない以上、やる気自体は最底辺にあるとは言わないが、少なくとも死銃を相手にすると考えていた時のそれに比べてダダ下がりである。あまり好きではない、どちらかと言えば嫌悪感すら感じる父親の祖父のような男の頼みということもあいまってだ。

 故にドミウスはこうして、開始早々はこうして眷属たちとどのようなゲームを行うかを話し合っていた。あちらには情報がほとんどないためにすぐには攻勢に出ないだろうと考えてのことだ。

 そこに油断も慢心はない。

 

 

 

 

 

 

 あるとしたら、過小評価をした。ということだろう──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「情報がないから時間を空ける──────」

 

 

 

「いささか、嘗めていますわね」

 

 

 

 開始の放送と共にいくつもの影が森を疾駆する。

 前衛を務める二体の猟兵、中衛には案山子(スケアクロウ)とジェリコ、そして後方に猟兵二体。

 あちらがどのように駒を配置しているのか、わからないにも拘わらず何故に要塞へと向けて走っているのだろうか。その答えは単純なものだ。

 

 

「流石は指揮官殿」

 

「ええ、これであちらの不意が打てます」

 

 

 このフィールドへと転移する前────既に扉付近に情報用のナノマシンをばら撒いていたがゆえに、気づかれずにヴァサゴの悪魔らに仕込められ、アンジェリカには彼らの居場所とどのような会話をしているのかが手に取るように理解できた。

 故にこうして開幕早々に六体の人形が駆けていく。

 しかし、残念ながら猟兵もジェリコも案山子(スケアクロウ)も最適化工程は凡そ八割弱。上級悪魔ごときならば容易く仕留められるだろうが最上級に手をかけているというドミウス・ヴァサーゴにはいささか数が足りないだろう。

 その為、彼女らが主力にはならない。

 

 

 

錬金術師(アルケミスト)とM4A1に任せればそれで片付く話ですが……」

 

「私たちは私たちの仕事をこなしましょうか」

 

 

 要塞側面の外壁を視認した瞬間、案山子と前衛の猟兵一体が立ち位置を入れ替え、ビットを飛行させて────

 

 

 

保有能力(スキル)起動(アクティブ):スカーレット・イクリプス」

 

 

 中衛のジェリコの緋色の瞳が淡く輝き、ジェリコの隣で走る猟兵以外が一瞬淡くジェリコの瞳同様輝く。

 それを確認した案山子がビットの砲口にチャージして、何度かその砲口から光を放ち外壁にいくつかの穴を空けて大穴を作り出す。

 瞬時に猟兵らが距離を詰め、壁内の確認を行ってジェリコらにハンドサインを送ればそのまま彼らは突入する。この際、一切無音でありあちら側が索敵やそういった情報系のものを仕込んでいるまたは使用していないことは把握済みであり彼らの侵入は察知されていない。

 

 

「小隊長」

 

「ええ、ここからは各員、既定のアタッチメントを装備し暗殺を」

 

「手足の一、二本は問題ないでしょうが明らかに回復の難しいことや殺しは無しでお願いしますわ。貴方がたに酷でしょうがやりすぎないように」

 

「「「「了解」」」」

 

 

 

 ジェリコの指示に頷き、案山子からの釘刺しに応えて猟兵らは懐から何やら手のひらサイズの厚みのある円盤のようなものを取り出し円盤の上下を回してから自身の胸に押し付けた。

 すると、とたんに猟兵らの姿が消えていくではないか。それを確認してジェリコらも円盤を使用してその場から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、いまごろジェリコらが要塞内に侵入したころだろう。

 要塞正面に二部隊を用意しながら俺は少し離れたところで要塞内の見取り図を映した端末を見ながらこの語のことを考える。後々のことを考えればあちらの眷属と王を殺すなんてことは駄目だ。

 正直に言えば、M4と錬金術師(アルケミスト)はその辺容赦がないから不安だ。いや、流石にちゃんと指示は聞いてくれるから問題はないと思う。多分

 

 

「なんだ指揮官。あたしが命令を聞かない人形に見えるのかい?」

 

「まさか。単純にやりすぎるきらいがあるだろう?」

 

「ハハッ、否定はしないよ」

 

 

 現状部隊は錬金術師とM4、それに猟兵が一体の第一部隊。そして残りの三体の猟兵と俺の第二部隊。

 何故に部隊を分けたのかというと純粋に主力であるM4と錬金術師らと俺は分かれて動いた方がいいと判断したからだ。

 先んじて侵入したジェリコらによる暗殺による数減らしと主力であるM4と錬金術師による敵主力の蹂躙、そして俺は王を取りに行く。正直手抜き感が否めないが……現状の戦力だとこんなものだろう。もしここに建築家(アーキテクト)がいればジュピターやらManticoreあたりを大量に並べてとても実戦的な攻城戦をしたところなんだが………ないものねだっても仕方がない。

 

 

「M4。準備」

 

「わかってます指揮官」

 

 

 M4に声をかければ返ってくるのは相変わらずのつんけんしたもの。だが、そんなことに対してわざわざ言うことはとくにはない。

 彼女は背負っていた長いケースのようなものを抱え、その先端を要塞正門へと向ける。

 それを見ながら俺はAN-94を取り出し、片手にいつものエストックを取り出して腰に吊り下げる。視界の端では錬金術師も主武装である両刃のブレードを両手に装備しているし、猟兵たちもその手に普段通り手斧やらサブマシンガンやらを携えて戦闘準備を整えている。

 それを確認してから俺は次の指示を出す。

 

 

「既に要塞内のマップ及び敵性反応のポイントの適応を送信した。殺すな出来る限り気絶に押しとどめろ。相手はテロリストではない────無論敵ではあるが」

 

 

 

 そこで一度言葉を区切り、視線をM4に動かす。俺の視線を察したか、M4はこちらを見ずに頷いた。

 準備は良いらしい。

 

 

「やれ」

 

保有能力(スキル)起動(アクティブ):────────刻印付与」

 

 

 冷たい彼女の声と共に砲身と化したケースよりそれは放たれた。

 

 

 

「さあ、仕事の時間だ」

 

 

 

 轟音を立てて正門は爆砕した。

 開始の号砲だと言わんばかりに部隊が粉砕して穴をあけた要塞へと殺到した。

 

 

 

 

 

 

 





 次回からヴァサゴとのレーティングゲーム本格開始ですね。
 いやぁ、マンティコアとジュピター、諸々による殲滅戦とか何時か書きたいですね

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